説明

水添加型の界面活性剤系組成物

【課題】合成界面活性剤成分を含まず、人体や生物および環境への負荷が少ない界面活性剤系の組成物、特に石鹸カスの少ない洗浄剤や消火性能が高い消火剤に適用しうる界面活性剤系組成物を提供する。
【解決手段】脂肪酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩を主成分とする石鹸系界面活性剤を用いた水添加型の界面活性剤系組成物において、オレイン酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩が石鹸系界面活性剤全量に対し55〜65質量%含まれていることを特徴とする水添加型の界面活性剤系組成物、またラウリン酸カリウム塩および/またはナトリウム塩が石鹸系界面活性剤全量に対し38〜42質量%含まれている上記界面活性剤系組成物、さらにパルミチン酸カリウム塩および/またはナトリウム塩が石鹸系界面活性剤全量に対し0.5〜0.7質量%含まれている上記界面活性剤系組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水添加型の界面活性剤系組成物、詳しくは安全性の高い洗浄剤や水添加型消火剤として使用できる石鹸系界面活性剤組成物に関する。洗浄剤は食器洗い等に利用し、水添加型消火剤は火災に対して、放水する水に適量添加して混合することにより消火性能を向上させ、少ない放水量で効果的に消火を行なうための消火薬剤である。
【背景技術】
【0002】
石鹸の本来の目的である洗浄するという用途、例えば、食器洗い用、洗顔用、洗濯用等では、天然素材で製造した石鹸は固形であった。近年では、液体洗浄剤が普及し、LAS(線状アルキルベンゼンスルフォン酸塩)やAOS(α−オレフィンスルフォン酸塩)等に代表される成分を含有したものが代表的である。
これら合成界面活性剤の環境負荷に関しては、過去様々な見地から指摘・議論されており、最近では生分解性に優れた合成界面活性剤も開発されている。人体・生物等に対して市販されている合成シャンプー等、安全性を持ったものが実用化されているが、必ずしも環境への影響がゼロとは言えない。
【0003】
一方、日本国内の住居は木造家屋が多く、また耐火建築物等においても建物内での主な構造物は紙・木材・樹脂・繊維等の可燃性物質が多い。また、タイヤ火災や林野火災等の大規模火災も多発しているという現状がある。これらの火災(通常はA火災または普通火災と称す)に対して、早く、より少ない放水量、少ない薬剤量で確実に消火できる水添加型の消火剤組成物の必要性が高まっている。
従来、広く使われている水系の消火薬剤としては、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム水溶液などの強化液系、リン酸アンモニウムなどのリン酸塩無機化合物系などがある。
一方、水系消火剤において、界面活性剤を添加することにより、表面張力を低下させ、木材等への浸透性を増大させたり、泡状に発泡させて付着性を増大させる等して、消火効果、再燃防止効果、延焼抑制効果を向上させることは以前から行なわれていた。
ガソリン火災や石油火災等の危険物火災に広く使用されている泡消火剤としては、蛋白質泡消火剤、合成界面活性剤泡消火剤、水成膜泡消火剤、またはこれらにフッ素系界面活性剤を組み合わせたものなどが知られているが、普通火災用として日本国内で最も普及しているのは、合成洗剤の成分を含有した界面活性剤系の消火剤(以下、合成界面活性剤系消火剤という)である。
【0004】
これらはいずれも有効な消火剤であり、水単独での消火に比べてはるかに迅速に、かつ少ない水量での消火を実現するものである。
しかし、森林火災等広く自然環境に散布される状況を想定した場合、水自身は自然界に存在するものであり、分解して有毒なものを発生することもなく、残留物として周囲の環境に悪影響を与えることはないが、化学合成物質を含有した消火剤は、先の洗浄剤と同様、含有成分によっては分解して有毒な成分を発生したり、または残留物が長く分解されずに滞留し、河川や海中の生物に悪い影響を与える可能性が無いとは言えない。
また、消火剤としての実用性を上げるため、寒冷地における凝固対策のためエチレングリコールなどの不凍液成分が含有される場合(例えば、特許文献1参照)もあるが、これらは一般に合成界面活性剤以上に環境への流出を考慮しなければならない物質である。
【0005】
しかし、言うまでもなく、火災が長時間に渡って続いた状況による自然環境への悪影響、すなわち多量の有毒な燃焼ガスの発生や汚染水の流出、森林火災等においては焼失による直接的な生物への影響を考えれば、これらの消火剤を添加しても、より短時間での消火が実現できることの効果の方が高い場合が多く、したがって、今後も消火剤を用いた消火方法が必要であることは変わらない。
【0006】
【特許文献1】特開平11−188117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に記載したように、今後はより環境に対して負荷の少ない成分で構成されている洗浄剤や消火剤等に適用する組成物、例えば界面活性剤系組成物においては、石鹸等100%生分解する成分を選択することが、人体に対しても自然環境にも問題を残す可能性が少なく、その必要性が高まっている。
したがって、本発明は、合成界面活性剤成分を含まず、人体や生物および環境への負荷が少ない界面活性剤系の組成物、特に石鹸カスの少ない洗浄剤や消火性能が高い消火剤に適用しうる界面活性剤系組成物を提供することを目的とするものである。
また、水への少ない添加量で消費量が少なくてすむ洗浄剤や高い消火効果及び再燃防止効果を有し、鎮火後に白い石鹸カスの残りが少なく、かつ自然環境面に優れた水添加型消火剤に適用しうる界面活性剤系組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究した結果、組成物を植物性脂肪酸や生分解性成分で構成する下記の手段により、上記の目的を達成することができた。
すなわち、本発明は、
(1)脂肪酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩(以下、「脂肪酸塩」という。)を主成分とする石鹸系界面活性剤を用いた水添加型の界面活性剤系組成物において、オレイン酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩(以下、「オレイン酸塩」という。)が石鹸系界面活性剤全量に対し55〜65質量%含まれていることを特徴とする水添加型の界面活性剤系組成物。
(2)ラウリン酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩(以下、「ラウリン酸塩」という。)が石鹸系界面活性剤全量に対し38〜42質量%含まれていることを特徴とする(1)に記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
(3)パルミチン酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩(以下、「パルミチン酸塩」という。)が石鹸系界面活性剤全量に対し0.5〜0.7質量%含まれていることを特徴とする(2)に記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
(4)組成物全量に対し、前記石鹸系界面活性剤が10〜20質量%、キレート成分であるL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム又はカリウムが30〜40質量%であり、残部が水とアルコール類との混合溶媒であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
(5)混合溶媒は、組成物全量に対し、10〜40質量%のプロピレングリコールを含んでいることを特徴とする(4)に記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
(6)混合溶媒は、組成物全量に対し、5〜10質量%のヘキシレングリコール、ブチルグルコシド、ノルマルブタノール、イソプロピルアルコール、ブチルカルビトール、n−プロピルアミン、ピリジン、トリエチルアミン、n−ブチルアミン、メタノール、t−ブタノール、モルホリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、n−オクタノール、プロピレングリコールt−ブチルエーテル、ラウリルアルコール、ジプロピレングリコール、モノメチルエーテル、ブチルジグリコール、エチルセロソルブ、ポリプロピレングリコールのうちのいずれか1種または2種類以上を含んでいることを特徴とする(5)に記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
(7)pH調整成分としてフィチン酸、乳酸、リンゴ酸のうちのいずれか1種類または2種類を含有し、その含有量が組成物全量に対し0.1〜1質量%であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
(8)無機塩の金属腐食防止剤を含有し、その含有量が組成物全量に対し0.1〜1質量%であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
(9)水添加型の洗浄剤であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
(10)水添加型の消火剤であることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物が含有するオレイン酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩(ナトリウム塩、カリウム塩)、パルミチン酸塩等の植物性脂肪酸塩は、洗浄剤や消火剤として利用する低濃度(放水量1〜1.5体積%)では、自然環境下で容易に分解し自然に還る、地球に優しい成分である。
また、キレート剤であるL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム(GLDA・4Na)もしくは四カリウム塩は生分解性を有するうえ、これを加えることにより水中の金属成分と結合し、石鹸カスの発生を抑制することができる。
さらに、水にプロピレングリコール(PG)、ヘキシレングリコール(HG)、ブチルグルコシド、イソプロピルアルコール(IPA)等の溶媒を加えることにより、流動点が低く寒冷地でも使用可能な消火剤となる。
また、pH調整成分としてフィチン酸、リンゴ酸、乳酸等を加えれば、取り扱いが容易なものが得られる。
以上のことから、環境への負荷が少なく、水単独よりも消火性能が遥かに高い消火剤や洗浄力の優れた洗浄剤が得られる。その他の効果としては、泡切れが良く、洗浄後の水洗いや消火作業終了後の泡の後始末をする必要がなくなり、火災現場での出火原因の調査等を容易に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の水添加型の界面活性剤系組成物は、界面活性剤等が水に添加・配合されたもので、この組成物を洗浄剤として使用するときには通常は水又はぬるま湯で0.1〜1.0体積%の濃度に希釈して使用するのが好ましい。
消火剤としての使用時の混合濃度は、放水量の1〜1.5体積%程度とすれば消火性能はきわめて良好であり、使用時、使用後の安全性は高い。
本発明の界面活性剤系は、界面活性成分として、合成界面活性剤ではなく石鹸系の界面活性剤である脂肪酸塩を使用するものである。その脂肪酸塩としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の植物性脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩である。
【0011】
これらの脂肪酸塩は同じように使用することができるが、主なものについて、以下に、詳細に説明する。
(イ)オレイン酸塩(以下、ナトリウム塩を例に説明する。):
〔CH3(CH27CH=CH(CH27COONa〕
脂肪酸比率が同率のナトリウム石鹸とカリウム石鹸の比較実験でナトリウム石鹸の方が浸透力は強いことがわかったが、通常のナトリウム石鹸では液体石鹸にならずにゲル化もしくは固形になってしまうおそれがある。
しかし、オレイン酸等の不飽和脂肪酸のナトリウム石鹸は液体になることが判明し、その中でもオレイン酸ナトリウムは安定性が良いし、ラウリン酸塩に次いで表面張力が低いこともあってオレイン酸ナトリウムを使用するのが好ましい。表面張力が低いことにより、汚染物への水の浸透性が大きいため、本来の洗浄力を発揮し、また火災時の可燃物への水分の浸透性が増し、早期消火、再燃防止に有効である。
【0012】
(ロ)ラウリン酸塩(以下、カリウム塩を例に説明する。):〔CH3(CH210COOK〕
起泡力に富み良好な少し荒い泡を大量に生成する。泡は火災時に可燃物の表面にまとわりつき、酸素の供給を防ぐ窒息効果が得られるため、早期消火が可能となる。アルキル基が短いために湿潤性が大きい。ラウリン酸ナトリウムは固形になりやすいため、カリウム塩の方が好ましい。
(ハ)ミリスチン酸塩(以下、カリウム塩を例に説明する。):〔CH3(CH212COOK〕
ラウリン酸カリウムだけだと泡の目が粗いために持続性が悪く泡に安定性を与えるためにミリスチン酸カリウムを加えるのが好ましい。泡の持続性が良いと、泡切れは悪くなり、洗浄後の水洗いや火災鎮火後の火災原因の調査が容易でなくなる欠点はある。また、pH9〜10の水溶液は細かく安定した泡が立つので好ましいものである。
(ニ)パルミチン酸塩(以下、カリウム塩を例に説明する。):〔CH3(CH214COOK〕
ミリスチン酸カリウムよりも起泡力は劣るが細かく安定した泡が立つので好ましい。
【0013】
これらの脂肪酸塩は、1種類でもよいが、2種類以上を併用することが好ましい。オレイン酸ナトリウムの含有量は石鹸系界面活性剤全量に対し55〜65質量%が好ましく、特に58〜62質量%が好ましい。ラウリン酸カリウムの含有量は石鹸系界面活性剤全量に対し38〜42質量%が好ましく、特に39〜41質量%が好ましい。パルミチン酸カリウムの含有量は石鹸系界面活性剤全量に対し0.5〜0.7質量%が好ましく、特に0.55〜0.65質量%が好ましい。これらの脂肪酸塩の含有量は組成物全量に対し10〜20質量%が好ましい。これらを併用することにより、単体で使用するよりも付着物や可燃物への水分の浸透性が良く、かつ泡立ちの良いものとなる。
【0014】
しかしながら、本発明の天然系の脂肪酸塩を界面活性剤として含有する組成物は、水中の金属成分と脂肪酸塩である石鹸成分とが結合し、石鹸カスが発生する場合が往々にしてある。この石鹸カスは乾燥すると表面にこびりつき、お湯や水で流しながらブラシ等で擦らないと除去することができず、また消火剤として実際の建物火災で使用し、放水した場合に、例えば燃焼中の建物の隣の住居の壁等に放水した際には火災の延焼は防げても、火災鎮火後には白くなった石鹸カスが残ってしまい、特に高層マンション等の場合には清掃するのが非常に困難となる。したがって、石鹸カスの発生を抑制することが必要な場合が多い。
【0015】
前記したように石鹸カスの発生を抑制するためには、本発明の界面活性剤系組成物ではキレート剤を加える。キレート成分として生分解性を有するものが好ましく、L−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム(GLDA・4Na)もしくは四カリウム(以下、四ナトリウムを例に説明する。)が好ましい。
キレート成分は、水中の硬度分である金属成分を捕捉して石鹸カス生成による石鹸分の損失を防ぎ、また、石鹸カスによる起泡の生成妨害を防止する作用を持つものである。キレート成分として、前記L−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム(GLDA・4Na)は生分解性が非常に良く、各種の洗浄剤成分や消火剤成分との相性も良い。
キレート剤を添加した場合には、石鹸カスの発生は抑制されるが、これは水中の金属成分とキレート成分が結合するために、石鹸カスが発生しなくなるのである。
組成物中のキレート成分の含有量は、組成物全体の30〜40質量%が好ましく、特に35〜40質量%が好ましい。含有量が少なすぎると石鹸カスの生成はもとより、洗浄力や消火性能が低下し、上限より多すぎてもその効果は格別増大しない。
消火性能に関しては、水100リットルに対し、石鹸成分を体積比で0.5%、キレート剤であるL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム(GLDA・4Na)を体積比で0.5%を混合し、その混合液で消火すると、水に比べて遥かに高い消火性能を得ることができる。
【0016】
しかしながら、石鹸成分とキレート剤であるL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム(GLDA・4Na)を混合すると常温でもゲル化してしまい、使用することができなくなるという欠点がある。
使用時に水の中に別々に石鹸成分とキレート剤であるL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム(GLDA・4Na)を入れれば問題ないが、実際の洗濯、洗顔や火災現場では石鹸成分とキレート剤であるL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム(GLDA・4Na)を別々に混合することは手数を要し、面倒なことであり、特に火災の緊急事態に対応し難い場合がある。そこで、石鹸成分とキレート剤であるL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム(GLDA・4Na)を組成物として混合する際にゲル化しないように添加物を入れることが好ましい。
【0017】
上記したように、問題となっているゲル化の現象を解決するには、溶媒である水にプロピレングリコール(以下、PGという)、ヘキシレングリコール(以下、HGという)、ノルマルブタノール、ブチルグルコシド、イソプロピルアルコール(以下、IPAという)等のアルコール類やエステル類の溶媒を添加するのが好ましいことが分かった。溶媒が水のみでは液体石鹸は石鹸分20〜30質量%くらいでゲル化するが、PG等の溶媒を加えることによってゲル化を抑制し、高濃度の液体石鹸を作ることができる。
PGと同様に添加できる溶媒は、HGやノルマルブタノール、ブチルグルコシド、IPA、ブチルカルビトール、n−プロピルアミン、ピリジン、トリエチルアミン、n−ブチルアミン、メタノール、t−ブタノール、モルホリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、n−オクタノール、プロピレングリコールt−ブチルエーテル、ラウリルアルコール、ジプロピレングリコール、モノメチルエーテル、ブチルジグリコール、エチルセロソルブ、ポリプロピレングリコール等であり、これらを1種類または2種類以上添加するのが好ましい。
【0018】
この配合割合は、石鹸とキレート剤との混合割合にもよるが、PGを全組成物中の10〜40質量%、好ましくは10〜20質量%添加するのが良い。PGに加え、さらにHG等の溶媒を5〜10質量%添加するのが好ましい。これらアルコール類等の添加量が多すぎると、引火点が低くなり、少なすぎると添加の効果が認められない。
しかし、これら有機溶媒を加えると組成物の引火点が低くなる場合があり、危険物扱いとなり備蓄する数量が定められ(消防法による)、大量備蓄ができないという問題が生じるが、HG、ノルマルブタノール、ブチルグルコシドはゲル化の抑制だけでなく、引火点を上げることができるので好ましい。
【0019】
なお、PGは不凍液としての役割も果たし、これを添加することにより、流動点がかなり低下し、消火剤の寒冷地での使用を可能とするものである。また、HGは低温流動性を改善する作用をもち、キレート剤添加時のゲル化を防ぐ。PGと同様にこれを添加することにより、流動点がかなり低下し、消火剤のさらに寒冷地での使用も可能となる。
例えば、石鹸:キレート剤:溶媒を1:1:0.5で混合することにより、流動点が‐35.0℃でもゲル化しなくなる。すなわち、日本の全天候を考慮しても、どんな天候でも各地で十分に対応できる。PGやHGは流動性を高める最適な溶媒である。
【0020】
本発明の界面活性剤系組成物はpHが高く、約13.0のpH値となる場合がある。これでは使用者によっては扱い難い薬剤となってしまう。
この組成物にフィチン酸、リンゴ酸、乳酸等のpH調整剤(pH調整成分)をいずれか1種類または2種類以上を組成物全量に対し0.1〜1質量%添加することにより、pH値を約10.0までに抑えることができる。こうすれば洗浄剤や消火剤として使用するに際し、取り扱いの容易な製品となる。
さらに、この界面活性剤系組成物では金属に対する腐食性が大きすぎて、資機材や消防車輌等の劣化を招くことがある場合には、無機塩の金属腐食防止剤を添加し、安心して使用できるものとすることができる。金属腐食防止剤の添加量は組成物全量に対し0.1〜1質量%とするのがよい。
【0021】
本発明の水添加型の界面活性剤系組成物は、食器洗い用、洗顔用、洗濯用のみならず、各種機器の洗浄剤として幅広い用途があり、天然素材の液体石鹸として石鹸カスの発生も抑制する実用面で非常に使い勝手の良いものである。
また、この水添加型の界面活性剤系組成物は、消火剤として放水用の水に対し、1〜1.5質量%混合することにより、普通火災(家屋、木材、紙等)、山林火災、カーテン火災(繊維等)、タイヤ火災、自動車火災、ゴム・プラスチック火災、産業廃棄物処理場火災等に対し、高い消火能力を発揮することができる。
【実施例】
【0022】
つぎに、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。
以下に、本発明の水添加型の界面活性剤系組成物を消火剤として使用する場合の具体的な調製例を記載し、その成分、組成及びその特徴を後記の表1〜表5及び図1〜図8に示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、表1〜表5及び図1〜図8において、「L」はラウリン酸カリウムを、「Os」はオレイン酸ナトリウムを、「M」はミリスチン酸カリウムを、「P」はパルミチン酸カリウムを、それぞれ意味する。
【0023】
使用した界面活性剤成分は、次のようにして生成したものである。
<ラウリン酸カリウム等の生成(A槽)>
プロピレングリコール(PG)と固体である各脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸)を反応槽中でヒーターにて30〜40℃に加熱し、溶解させる。溶解後、攪拌しながら、水酸化カリウム水溶液(KOH48質量%)をゆっくり反応層へ投入し、反応させる。反応後、イオン交換樹脂で処理し、硬度5.0ppm以下とした精製水を反応槽へ添加する。こうして各脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸)カリウムを生成した。
<オレイン酸ナトリウムの生成(B槽)>
プロピレングリコール(PG)を反応槽に投入し、そこへ水酸化ナトリウム水溶液(NaOH48質量%)をゆっくり投入し攪拌する。次に、イオン交換樹脂で処理して、硬度5.0ppm以下とした精製水を反応槽へ徐々に添加した。この三者、PG、NaOH、精製水が均一に混合されていることを確認した後、オレイン酸(液体)を添加していき、オレイン酸ナトリウムを得た。
【0024】
表示の性能等は、下記のようにして測定・評価したものである。
「消火性能」は、木材(30×35×450mm、含水率10〜15%)を櫓状に82本(5本+5本+4本+4本+5本+5本・・・・・・・・・・・+4本+4本+5本+5本)を架台の上に積み上げ、架台に設置しているオイルパンに助燃剤としてノルマルヘプタンを300cc入れる。助燃剤に着火後2分間燃焼させた後に、放水液体の温度は20±2℃とし、10秒放水(2.45リットル/10秒)、50秒停止の断続放水を繰り返すことにより測定した。「◎」は放水開始後3回以内の放水で炎が消滅したもの、「○」は櫓が倒壊せずに最終的に炎が消滅したもの、「×」は炎が消滅することなく激しい焼損により、木材の櫓が倒壊してしまったものであることを表す。
「流動点」は、消火剤の原液をJIS K 2269『原油及び石油製品の流動点試験方法』に準拠して測定したものである。
「発泡性能」は、8リットル型の機械泡消火器を用い、混合液を消火器内に充填し、更に窒素ガスを圧力が0.85MPa程度になるように加圧し、泡収集器内に発泡させ測定したものである。
「耐長期低温性」は、恒温槽−5℃に保ち、ゲル化する時間を調べる方法で測定し、「○」は100時間以上ゲル化しないもの、「×」は100時間未満でゲル化したことを表す。
「金属腐食性」は、寸法が約76mm×約12mm×約1.0mmで表面積が約20cm2 の鋼、黄銅、アルミニウムを温度38℃の消火剤原液の中に21日間放置した場合における、それぞれの金属の1日あたりの重量損失が3mg以下の場合を「○」、3mgを超えた場合を「×」としたものである。
【0025】
実施例1
ミリスチン酸カリウムとパルミチン酸カリウムの配合量を0とし、オレイン酸ナトリウムとラウリン酸カリウムの配合量を変えて、表1に示す配合組成により、消火剤1〜5を調製し、その性能を評価した。また、この各消火剤1〜5について、オレイン酸ナトリウムの配合量(石鹸系界面活性剤全量中の配合比率)と流動点との関係を図1に、発泡性能との関係を図2に示した。
これらの表1及び図1,2からわかるように、オレイン酸ナトリウムの配合量が石鹸系界面活性剤(脂肪酸塩)全量に対し約60%のとき流動点が低く、発泡倍率が高い。
【0026】
実施例2
オレイン酸ナトリウムとラウリン酸カリウムの配合量を固定し、ミリスチン酸カリウムとパルミチン酸カリウムの配合量を変えて、表2に示す配合組成により、消火剤6〜10を調製し、その性能を評価した。また、この各消火剤6〜10について、ミリスチン酸カリウムの配合比率(ミリスチン酸カリウムとパルミチン酸カリウムとの合計量中の配合比率)と流動点との関係を図3に、発泡性能との関係を図4に示した。
これらの表2及び図3,4からわかるように、ミリスチン酸カリウムが多ければ多い程、流動点が低く、発泡倍率が高い。
【0027】
実施例3
オレイン酸ナトリウムとラウリン酸カリウムの配合量を固定し、ミリスチン酸カリウムとパルミチン酸カリウムの配合量をさらに変えて、表3に示す配合組成により、消火剤11〜13を調製し、その性能を評価した。また、この各消火剤11〜13を含めた消火剤6〜13について、ミリスチン酸カリウムの配合比率(ミリスチン酸カリウムとパルミチン酸カリウムとの合計量中の配合比率)と流動点との関係を図5に、発泡性能との関係を図6に示した。
これらの表3及び図5,6からわかるように、ミリスチン酸カリウムが多ければ多い程、流動点が低く、発泡倍率が高いが、パルミチン酸カリウムが若干量入ったときが最も良い。
【0028】
実施例4
オレイン酸ナトリウムの配合量を固定し、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウムの配合量を変えて、表4に示す配合組成により、消火剤14〜19を調製し、その性能を評価した。また、この各消火剤14〜19について、ラウリン酸カリウムの配合比率(ラウリン酸カリウムとミリスチン酸カリウムとの合計量中の配合比率)の流動点との関係を図7に、発泡性能との関係を図8に示した。
これらの表4及び図7,8からわかるように、ラウリン酸カリウムが多ければ多い程、流動点が低く、発泡倍率が高い。このとき、ミリスチン酸カリウムが少量入ると、流動点も発泡倍率も悪くなる。
【0029】
実施例5
溶媒としてPG(プロピレングリコール)のほかに、HG(ヘキシレングリコール)を用い、混合溶媒の比率を変えたり、キレート剤(L‐グルタミン酸二酢酸四ナトリウム)や、その他pH調整剤(フィチン酸、乳酸、リンゴ酸)又は金属腐食防止剤(無機塩)を適宜配合する等の変更を加えて、表5に示す配合組成により、消火剤20〜35を調製し、その性能を評価した。
この表5から、消火剤20、21はpH調整剤が配合されていないため、pHが13.0以上と高いが、消火剤22〜35はpH調整剤が配合されているため、pHが約10となっている。
また、消火剤20〜23は、溶媒である水やHGの配合割合が少ないため、長期低温性が悪く、判定が「×」であるが、消火剤24〜35は溶媒である水やHGの配合割合が多いため、長期低温性が「○」となっている。
さらに、消火剤20、22は金属腐食防止剤が配合されていないため、アルミニウムに対する金属腐食が3mg以上となっているが、消火剤24〜35は金属腐食防止剤が配合されているため、アルミニウムに対する金属腐食が3mg未満となっている。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1で調製した消火剤についてオレイン酸ナトリウム(Os)の配合量と流動点との関係を示す特性図である。
【図2】実施例1で調製した消火剤についてオレイン酸ナトリウム(Os)の配合量と発泡性能との関係を示す特性図である。
【図3】実施例2で調製した消火剤についてミリスチン酸カリウム(M)の配合比率と流動点との関係を示す特性図である。
【図4】実施例2で調製した消火剤についてミリスチン酸カリウム(M)の配合比率と発泡性能との関係を示す特性図である。
【図5】実施例2,3で調製した消火剤についてミリスチン酸カリウム(M)の配合比率と流動点との関係を示す特性図である。
【図6】実施例2,3で調製した消火剤についてミリスチン酸カリウム(M)の配合比率と発泡性能との関係を示す特性図である。
【図7】実施例4で調製した消火剤についてラウリン酸カリウム(L)の配合比率と流動点との関係を示す特性図である。
【図8】実施例4で調製した消火剤についてラウリン酸カリウム(L)の配合比率と発泡性能との関係を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩を主成分とする石鹸系界面活性剤を用いた水添加型の界面活性剤系組成物において、オレイン酸ナトリウム塩および/またはカリウム塩が石鹸系界面活性剤全量に対し55〜65質量%含まれていることを特徴とする水添加型の界面活性剤系組成物。
【請求項2】
ラウリン酸カリウム塩および/またはナトリウム塩が石鹸系界面活性剤全量に対し38〜42質量%含まれていることを特徴とする請求項1に記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
【請求項3】
パルミチン酸カリウム塩および/またはナトリウム塩が石鹸系界面活性剤全量に対し0.5〜0.7質量%含まれていることを特徴とする請求項2に記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
【請求項4】
組成物全量に対し、前記石鹸系界面活性剤が10〜20質量%、キレート成分であるL−グルタミン酸二酢酸四ナトリウム又はカリウムが30〜40質量%であり、残部が水とアルコール類との混合溶媒であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
【請求項5】
混合溶媒は、組成物全量に対し、10〜40質量%のプロピレングリコールを含んでいることを特徴とする請求項4に記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
【請求項6】
混合溶媒は、組成物全量に対し、5〜10質量%のヘキシレングリコール、ブチルグルコシド、ノルマルブタノール、イソプロピルアルコール、ブチルカルビトール、n−プロピルアミン、ピリジン、トリエチルアミン、n−ブチルアミン、メタノール、t−ブタノール、モルホリン、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、n−オクタノール、プロピレングリコールt−ブチルエーテル、ラウリルアルコール、ジプロピレングリコール、モノメチルエーテル、ブチルジグリコール、エチルセロソルブ、ポリプロピレングリコールのうちのいずれか1種または2種類以上を含んでいることを特徴とする請求項5に記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
【請求項7】
pH調整成分としてフィチン酸、乳酸、リンゴ酸のうちのいずれか1種類または2種類を含有し、その含有量が組成物全量に対し0.1〜1質量%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
【請求項8】
無機塩の金属腐食防止剤を含有し、その含有量が組成物全量に対し0.1〜1質量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
【請求項9】
水添加型の洗浄剤であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の水添加型の界面活性剤系組成物。
【請求項10】
水添加型の消火剤であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の水添加型の界面活性剤系組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−238651(P2007−238651A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58756(P2006−58756)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000165996)株式会社古河テクノマテリアル (23)
【出願人】(501172235)シャボン玉石けん株式会社 (3)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】