説明

水溶性フラーレン/多糖複合体

【課題】 安全な物質を用いて簡便且つ効果的にフラーレンを水に可溶化する方法およびそれによって得られるフラーレンの溶液を提供する。
【解決手段】 フラーレンと多糖とを高速振動粉砕法によって強力に混合した後、水を加えて攪拌することにより、水中に安定に分散させたフラーレン水溶液が得られる。多糖として、β-1,3-グルカン(シゾフィランなど)が好適に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラーレンの可溶化方法およびそれによって得られる水溶性フラーレン/多糖複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
C60に代表されるフラーレンは、炭素のみからなる化合物であり、その半導体としての性質や高い電子受容能を持つことから注目されているナノ物質の一つである。しかし、フラーレンは水に難溶であるため、材料として用いるにはその水溶化が課題であった。その水溶化を解決する方法としては、フラーレンに水溶性置換基を直接導入する方法が挙げられる(特許文献1〜3)。しかし、この方法は、置換基の導入によりフラーレンのもつπ系が破壊され、フラーレンの本来もつ性質が失われるため、好ましい方法とは言えない。
【特許文献1】特開2000−290278
【特許文献2】特開2005−263795
【特許文献3】特開2005−270804
【0003】
また、別の水溶化法として、水溶性分子にフラーレンを包接させるという方法がある(非特許文献1)。例えば、水溶性分子にγ−シクロデキストリン(γ−CD)を用い、混合の手段として高速振動粉砕法を採用することにより、未修飾のC60を簡便に、しかも高濃度で水溶化できることが知られている(非特許文献1)。しかしながら、このフラーレンを包接するγ−CDには官能基を選択的に付加することが難しく、また、その修飾によりフラーレンへの錯化能が落ちることから、水溶化フラーレンの機能化という点では問題が残る。
【非特許文献1】KoichiKomatsu, Koichi Fujiwara, Yasujiro Murata and Tibor Braun;J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1999, 2963-2966
【0004】
本発明者らは、フラーレンと類似の物質であるカーボンナノチューブ(CNT)を水溶化する方法として、多糖の一種;β-1,3-グルカンとCNTとを複合体化させることによる水溶化法を見出している(非特許文献2)。その方法では、一旦、β-1,3-グルカンを溶媒中ランダムコイル状に解離させてCNTと超音波混合した後、中性の水を加えることにより、CNTの外側にβ-1,3-グルカンを螺旋状にラッピングさせることで水溶性複合体が形成されるものである。
【非特許文献2】MunenoriNumata, Masayoshi Asai, Kenji Kaneko, Teruaki Hasegawa, Kazuo Sakurai, SeijiShinkai;J. Am. Chem. Soc..2005, 127(16), 5875-5884
【0005】
また、β-1,3-グルカンとは異なる種類の多糖;スターチやアミロースなどを用いても、水溶化が可能との報告がなされている(非特許文献3および4)
【非特許文献3】AlexanderStar, David W. Steuerman, James R. Heath and J. Fraser Stoddart; Angew. Chem.Int. Ed., 2002, 41, No.14, 2508-2512
【非特許文献4】Oh-Kil Kim,Jongtae Je, Jeffrey W. Baldwin, Steven Kooi, Pehr E.Pehrsson, and Leonard J.Buckley;J.Am.Chem.Soc., 2003,125, 4426-4427
【0006】
そこで、上記のCNTに有効であった方法をフラーレンに適用し、多糖によって水溶性複合体を形成させるということが考えられるが、単純に同じ操作をフラーレンに行っても、水溶化は困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、安全な物質を用いて、簡便且つ効果的にフラーレンを水溶性複合体へ変換し、フラーレンの水溶液を得る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、フラーレンを多糖と固相のまま強力に混合した後、水を加えて攪拌・混合することによって、フラーレンを含む水溶性複合体が形成することを見出したものである。
かくして、本発明に従えば、フラーレンと多糖とを固相状態で予備混合する工程、および、前記予備混合工程の後に、水を加えて攪拌・混合する工程を含むことを特徴とする水溶性フラーレン/多糖複合体の製造方法が提供される。
さらに、本発明は、別の視点から、上記の方法で得られる水溶性フラーレン/多糖複合体、またはフラーレン含有水溶液を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従えば、生体に安全な多糖を使ってフラーレンを水に可溶化できるため、広範な用途、特に医療およびバイオテクノジーの分野で、フラーレンを使った新規な技術の開発が期待される。
【0010】
また、本発明により得られる複合体化されたフラーレンは、多糖の形成する疎水性空間内に一次元状に配列していると考えられ(図1参照)、単一のフラーレン粒子には認められない新たな機能の付与が期待される。即ち、一次元状に配列したC60は、単体のC60に比べて長寿命電荷分離状態を形成できると考えられ、電子プールとしての利用が期待される。これは、緑色植物における光合成アンテナ捕集体B850(LH2)で見られる、クロロフィルの配列と同様、C60配列間を電子が移動可能なため逆電子移動が抑制されることによる。この一次元配列したC60を基板上に集積できれば、C60の高密度集積化と高効率な光電変換素子の開発が可能になると考えられる。
【0011】
また、水溶化されたC60は光励起されることにより高い一重項酸素発生効率を有するため、光線力学治療法への応用が期待される。超音波照射法により準備したC60は大きな会合体を形成しており、その表面積が小さく、十分に一重項酸素を発生できないものと考えられる。一方、今回の一次元配列を形成したC60では、表面積が大きく、より効率的に酸素分子との間でエネルギー移動や電子移動を行なえるものと期待される。また、今回用いた可溶化剤は天然多糖であるため、その安全性は高く、生体への応用に関して有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明においては、単独ではほとんど水に溶解することがないフラーレンを、多くの水素結合サイトを有する多糖が内部に形成する疎水性空間に、一次元配列的に取り込むことによって、水溶性の複合体が形成するものと考えられる(図1参照)。
【0013】
本発明において用いられるのに特に好適な多糖はβ-1,3-グルカンである。β-1,3-グルカンは、天然の状態では3重螺旋構造をとっているが、強アルカリ性の溶液中やジメチルスルホキシド(DMSO)などの非プロトン性極性溶媒中では、1本鎖に解かれており、それを中性の水中に移すと、3重螺旋状態に戻ることが知られている。また、その際、1本鎖のDNAやRNAを共存させると、多糖2本と核酸1本が水素結合および疎水性相互作用の働きによって3重螺状の複合体となることが本発明者らによって見出されている。多糖単独で3重螺旋状に戻るか、または核酸やカーボンナノチューブ、フラーレンのような他の物質と複合体化するかの選択は、接触・混合の方法やDMSO水溶液の組成などの要因によっても影響を受ける。
【非特許文献5】櫻井、新海; J. Am.Chem. Soc., 2000, 122, 4520
【非特許文献6】木村、甲元、櫻井、新海;Chem. Lett., 2000, 1242
【特許文献4】PCT/JP00/07875
【特許文献5】PCT/JP02/02228
【0014】
本発明においては、フラーレンと多糖とを固相状態のままで予め混合する。したがって、通常3重螺旋状態にあるβ-1,3-グルカンを、上記のように複合体化する前にランダムコイル状に解離させる必要がないため、本発明は工程的に有利である。
本発明に従いフラーレンと多糖とを予め固相状態で混合するための適用される手法(装置)は、当初は黒色のフラーレンと当初は白色の多糖とが混合されて全体として均一な褐色を呈するようにフラーレンと多糖とが充分に混合、粉砕されれば、特に制限なく、従来から知られた各種の混合・粉砕法(装置)を用いることができる。例えば、遊星式や遠心回転式のボールミルなども使用できるが、特に、好ましいのは高速振動粉砕装置を用いて行われる高速振動粉砕(法)である。すなわち、固相のまま、フラーレンおよび可溶化剤としての多糖を硬球と共に容器内に入れ、該容器を高速で振動させる。
【0015】
容器は、容器内のフラーレン、多糖および硬球を外界雰囲気から遮断して密閉するものであることが好ましい。さらに容器は、好ましくは、ステンレス等の硬い材料から主として形成され、振動により生じる衝撃、例えば、容器本体中空部で往復運動する硬球が容器内壁と衝突することで生じる衝撃に耐え得るものであれば、いずれの種類の材料から形成してもよい。なお一般的に、容器は、振動に付される間で密閉状態を維持するものが好ましい。従って、適当な密閉が供されるように、容器本体と蓋とを外部からホルダーで固定してもよい。
【0016】
容器中空部は、例えば円筒形状を有し、振動に付される間、当該円筒形中空部の一方の端部から他方の端部へと硬球が中空部の長手方向に往復運動できる形状およびサイズを有している。しかしながら、振動に付される間、硬球が中空部の長手方向に往復運動できるものであれば、容器中空部はいずれの形状およびサイズであってもよい。
【0017】
高速振動粉砕における特に重要な操作条件は振動数である。すなわち、容器中空部で硬球が往復運動し、その結果、フラーレンと可溶化剤とが混ざるような振動数および/または往復運動する硬球と中空部壁部との間でフラーレンが粉砕されるような振動数で容器を振動させる。具体的には、振動数10〜120s−1(10〜120Hz)、好ましくは振動数10〜60s−1(10〜61Hz)より好ましくは振動数20〜50s−1(20〜50Hz)で容器を振動させる。
【0018】
なお、容器を振動させる方向は、一般的に容器中空部の長手方向であり、容器中空部の長手方向が水平方向となるように容器を振動機に設置する場合には、その水平方向にて容器を左右に往復するように振動させることが好ましい。ただし、硬球が中空部で往復運動するのであれば、容器自体の振動方向に制限はなく、容器および/もしくはその中空部の形態または容器の振動機への設置の仕方等に応じて振動させる方向を適宜変更してよい。
【0019】
振動時間は、5〜60分、より好ましくは10〜30分程度である。振動時間が長すぎると分散液中のフラーレン濃度が低下する結果となる。ただし、振動時間は、振動数や振幅等によって変動するものである。このような振動数、振動方向および振動時間に加えて更に、容器中空部で硬球が往復運動し、その結果、好ましくは乾燥したフラーレンと可溶化剤とが粉砕、混合されるような振幅および/または往復運動する硬球と中空部壁部との間でフラーレンが粉砕されるような振幅でもって容器を振動させる。従って、具体的には、例えば底面直径20mm、長手方向長さ65mmの容器(中空部の底面直径12mm、中空部の長手方向長さ50mm)を用いる場合、振幅5〜100mm、好ましくは振幅10〜80mm、より好ましくは振幅20〜50mmでもって中空部長手方向に容器を振動させる。なお、ここでいう「振幅」とは、振動に付される容器が振動の中心点を基準にして最大に変位した場合において、中心点から最大変位点までの長さをいう。
【0020】
振動工程にて容器内に供される硬球は好ましくは球形を有するものの、容器が振動に付される間、中空部にて往復運動するのに適した形状であればいずれの形状であってもよい。
また、例えば底面直径12mm、長手方向長さ50mmの中空部サイズを容器が有する場
合、硬球は、直径2〜10mm、好ましくは直径4〜6mm、より好ましくは直径5mm
のサイズを有する球体である。また、容器が振動に付される間、当該中空部にて硬球が往
復運動し、その結果、好ましくは当該硬球と中空部壁部との間でフラーレンが
粉砕されるような硬さを硬球が有することが好ましい。従って、例えば、硬球はメノウ、
スレンレス、アルミナ、ジルコニア、タングステンカーバイド、クロム鋼およびテフロン
(登録商標)からなる群から選択される材料から形成される。容器に供される硬球の数は
、1〜6個、好ましくは1〜4個、より好ましくは2個であるものの、容器が振動に付さ
れる間、中空部にて硬球が往復運動し、その結果、好ましくは乾燥したフラーレンと可溶化剤とが混ざるのに適した個数および/または往復運動する硬球と中空部壁部との間でフラーレンが粉砕されるのに適した個数であれば、いずれの個数を用いてもかまわない。なお、2個以上の硬球が容器に供される場合は、往復運動する硬球間でもフラーレンが粉砕されることになる。
【0021】
本発明に従えば、以上のようにして予め混合したフラーレン/多糖混合物に、次に、水を加えて攪拌・混合する。この攪拌・混合工程は、室温下に少なくとも2日間、例えば、4〜7日間行うことが好ましい。
【0022】
本発明で使用する多糖には、各種のβ-1,3-グルカン、およびアミロース、プルランなどのα-1,4-グルカン、ならびにα-1,4-グルカンとα-1,3-グルカンの混合系であるデキストランなどがある。そのなかでより好ましいのはβ-1,3-グルカンである。この多糖は、主鎖がβ1→3グルコシド結合により結合された多糖であり、側鎖に糖残基(グルコース残基)の存在する割合(側鎖の糖残基置換率)の異なる各種のものが知られている。側鎖がないカードランおよび側鎖の糖残基による置換率が数百分の1程度と小さいパーキマンとラミナランなど側鎖置換率が低いβ-1,3-グルカンは、水溶性に乏しく、使いづらいところがあるが、致命的なものではない。一方、シゾフィラン、スクレログルカンおよびレンチナンは側鎖の糖置換率が33−40%と比較的高く、水溶性で、一般に利用し易い。本発明において、フラーレンの可溶化剤として使用する場合も、側鎖の糖置換率が約30%以上の後者のものが好適である。なお、平均分子量は広範囲のものが使用可能であるが、1本鎖の状態で、約25000程度以上のものが好適である。側鎖に官能基が導入されたβ-1,3-グルカンなども使用できる。
【0023】
また、天然のβ-1,3-グルカンの一つであるシゾフィラン(SPG)は筋肉内注射製剤の臨床薬として実際に使用されており、婦人科癌に対する免疫増強法の筋肉内注射薬として20年以上の使用実績がある。さらに、免疫系の抗原提示細胞への親和性が知られており、生体内での安全性が確認されている。それらの特性は、フラーレンを水溶化して、例えば、バイオテクノロジーにおけるデバイスとしての応用などを考慮する場合には重要な特性であると考えられる。そして、溶液で所定の部位にフラーレンを送達した後に、使用した多糖を除く必要がある場合は、分解酵素処理などの方法で目的を達成することも可能である。
【非特許文献7】McIntire, T.M., Brant, D. A.; J. Am. Chem. Soc., 1998, 120, 6909
【非特許文献8】清水、陳、荷見、増淵;Biotherapy, 1990, 4, 1390
【非特許文献9】長谷川; Oncologyand Chemotherapy, 1992, 8, 225
【0024】
本発明が適用されるフラーレンは現在期待されている実用性からは主としてC60であるが、本発明はC60に限らず、他のいずれのフラーレン(例えば、C70、C76など)にも同様に適用できる。
以下、高速振動粉砕法を採用し、SPGでC60を可溶化する方法および生成したC60/SPG水溶液の特性に沿って本発明の特徴を実施例で詳細に示が、本発明は、この実施例によって制限されるものではない。
【実施例1】
【0025】
高速振動粉砕法によるシゾフィランを用いたC60の可溶化C60 1.0mg、シゾフィラン(SPG)3.0mg
(一本鎖当りのMw=150,000、n=231、三井製糖株式会社提供)を高速振動粉砕容器に入れ、高速振動粉砕を20分、30Hzで行った。なお、用いた振動粉砕装置は、レッチェ(Retsch)製MM200であり、C60およびシゾフィランとともに、2個のメノウボール(球直径5mm)を20mmの底面直径、65mmの長手方向長さを有する円筒形状の密閉容器(当該容器に形成される円筒形中空部:底面直径12mm、長手方向長さ50mm)に入れて高速振動粉砕した。その後、D2Oを加え、室温で6日間攪拌した。遠心分離(14000rpm、5min)にて不溶成分を取り除き、褐色の上澄み液(C60/SPG溶液)を採取した。
【実施例2】
【0026】
紫外-可視吸収スペクトル測定 実施例1で得られたC60/SPG溶液の紫外-可視吸収スペクトルを1mmセルを用いて測定した。SPGの代わりにγ-CDを用いて可溶化したC60/γ-CD溶液(0.16mM)および自己会合体のスペクトルを比較例として合わせて図2に示した。その結果、いずれにもC60由来のスペクトルが観測された。SPGで可溶化されたC60の濃度は、C60/γ-CD溶液のスペクトルとの比較より、約0.16mMであることがわかった。またC60/γ-CD溶液の紫外-可視吸収スペクトルと比べて、230 nm、260nm付近の吸光度の減少および330 nm付近のレッドシフト、および450nm付近の吸光度の増加が見られた。しかし、単分散C60と会合体C60のスペクトルの中間的なスペクトルを示した。C60同士が接触することでこのスペクトルの変化は生じるので、可溶化されているC60は、会合体ではなく、単分散C60が接触しあっている状態にあると考えられる。
【実施例3】
【0027】
円偏光二色性スペクトル測定 SPGは、不斉炭素を有している。よって、C60がSPGと相互作用しているならば、誘起CDが確認できるのではないかと考え、円偏光二色性スペクトル測定を行った。実施例1で得られた溶液の10倍希釈溶液の円偏光二色性(CD)スペクトル測定を行った。測定条件は、1cmセル、積算回数200回とした。CDスペクトル測定の結果を図3に示した。また、C60/γ-CD溶液(0.16mM)のスペクトルも合わせて示した。同濃度のC60/γ-CD溶液のCDスペクトルと比較すると、同スケールのCD値であることより、C60がγ-CDに包接された状態と同程度の相互作用を受けているものと考えられる。
【実施例4】
【0028】
H-NMRスペクトル測定 実施例1で得られたC60/SPG溶液および比較例としてのSPG溶液(三重螺旋構造)の1H-NMRスペクトル測定を行った。積算回数は256回である。測定結果を図4に示した。SPGのスペクトルでは、3.0〜4.5ppm付近に大きくブロード化したスペクトルが見られた。ブロード化の原因として、SPGが三重螺旋構造をとっていることが考えられる。一方、C60/SPG溶液では、若干ブロード化しているものの、比較的シャープなスペクトルが見られ、C60/SPG溶液中のSPGは三重螺旋構造でない、別の構造をとっていることが考えられる。
【実施例5】
【0029】
透過型電子顕微鏡(TEM)観察 C60/SPG溶液5μlを炭素膜付、および膜なしマイクログリッド上に載せ、1分放置した。溶液をろ紙で吸い取り、1日常温常圧で乾燥させた。TEMにより得られた像を図5に示す。図5a)、b)は炭素膜ありグリッド、c)、d)は炭素膜なしグリッドの像である。炭素膜ありグリッドからは、ワイヤー状の数μm程度のC60/SPGが観察された。また、拡大していくと、Y字状に分岐した像が見られた。スケールバーより、像の直径は約10nmであった。SPGの三重螺旋構造は、直径が2.6nmであるので、バンドル化して存在していることが示された。また、炭素膜なしグリッドからは、C60/SPGが非常に大きくバンドル化した像が見られた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、フラーレンを水に可溶化することにより、フラーレンの各種用途、特に医療およびバイオテクノロジー分野における新規な用途開発に資するものと期待される。また、フラーレンは水中で一次元に配列していると考えられ、高効率な光電変換素子等への応用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】高速振動粉砕法による、シゾフィラン(SPG)を用いたC60/の可溶化のイメージを示す。
【図2】本発明のC60/SPG溶液と比較例のC60/γ-CD溶液およびC60自己会合体の紫外-可視吸収スペクトル(実施例2)を示す。
【図3】本発明のC60/SPG溶液および比較例のC60/γ-CD溶液の円偏光二色性スペクトル(実施例3)を示す。
【図4】本発明のC60/SPG溶液およびSPG溶液の1H-NMRスペクトル(実施例4)を示す。
【図5】本発明のC60/SPGのTEM像(実施例5)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレンと多糖とを固相状態で予備混合する工程、および、前記予備混合工程の後に、水を加えて攪拌・混合する工程を含むことを特徴とする水溶性フラーレン/多糖複合体の製造方法。
【請求項2】
多糖としてβ-1,3-グルカンを用いることを特徴とする請求項1の水溶性フラーレン/多糖複合体の製造方法。
【請求項3】
β-1,3-グルカンが、シゾフィラン、スクレログルカンおよびレンチナンから選ばれたものであることを特徴とする請求項2の水溶性フラーレン/多糖複合体の製造方法。
【請求項4】
フラーレンと多糖とを振動数10〜120s−1で高速振動粉砕することにより予備混合を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかの水溶性フラーレン/多糖複合体の製造方法。
【請求項5】
フラーレンとしてC60を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの水溶性フラーレン/多糖複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの方法で得られる水溶性フラーレン/多糖複合体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの方法で得られるフラーレン含有水溶液。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−238847(P2007−238847A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65543(P2006−65543)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(501190941)三井製糖株式会社 (52)
【Fターム(参考)】