説明

水溶液の電解方法

【課題】電力効率の高めることができ、トータルコスト低減を実現することのできる水溶液の電解方法、または従来ではいかなる電極材料を用いても困難とされていた0.1mg/L程度の低濃度の電解オゾン水を生成するための有用な電解方法を提供する。
【解決手段】陽極電極と陰極電極を少なくとも一対備えた電解装置を用いて水溶液を電解するにあたり、少なくとも前記陽極電極は導電性ダイヤモンドを含有するものを用いると共に、電極の単位面積当たりの電力を10〜18W/cm2または0.18〜0.5W/cm2に制御して、水溶液の電解を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液を電気化学的に分解(電解)して、除菌機能のある電解水やオゾン水を生成する方法に関するものであり、例えば生活家電製品や各種産業機器の分野において水溶液の処理に使われる電解方法に関するものである。尚、本発明で対象とされる水溶液は、水道水や井戸水の他、精製水等も含まれるものであるが、以下では単に「水」または「原水」と呼ぶことがある。
【背景技術】
【0002】
水を電解して改質するプロセスは、様々な分野で用いられている。例えば、生活家電製品では、洗濯機や食器洗浄器、空気清浄器、飲用整水器等が代表的なものとして挙げられる。また空調除菌においては、生活家電製品に止まらず、半導体や液晶ディスプレイパネル製造工場に代表されるクリーンルーム、各種輸送機器や医療・介護施設にも電解プロセスの適用が始まっている。先端医療分野においても、医療用精製水や生理食塩水への電解水の代替が試みられている。更には、電解水が有する除菌、脱臭、脱色等の優れた酸化力を利用する動きが広がっている。
【0003】
電解による電解水生成は、一定範囲の処理速度と処理容量の範囲において、コスト面で優れた方法であり、こうした技術に適用される機器装置の製品も多種多様である。こうした機器装置の一つとして、導電性ダイヤモンド電極を用いた電解装置は、従来から提案されている。例えば、特許文献1は、導電性ダイヤモンド電極を使って、廃水溶液中の難分解性有機物の電解処理を実現した技術が提案されている。
【0004】
近年の技術として、特許文献2には、ダイヤモンド電極を用いた電解によってフッ素含有物質を合成する技術が提案されている。また特許文献3には、水の直接電気分解によるオゾン水生成にダイヤモンド電極が適用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−299467号公報
【特許文献2】特開2009−1877号公報
【特許文献3】特開2009−7655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで提案されている技術は、いずれも導電性ダイヤモンド電極の化学的安定性と高い酸化還元電位を活かす有用な技術である。しかしながら、特に電解水生成の過程においては、電解効率が徐々に低下することが避けられず、更なる改善が望まれているのが実情である。これは、電極自体の劣化や溶出、電極に隔膜を利用する場合には隔壁の経時劣化、更にはスケール付着等、電解効率の阻害要因は通常、単一ではなく、多くの要因が重なっている。
【0007】
電極や隔膜の寿命は有限であり交換が必要であるが、費用も手間もかかることになる。こうしたことから、可能な限り長寿命な電極と安定した電解条件を選び、堆積物を低減してメンテナンスを抑制することが、トータルコスト低減において重要な要件である。
【0008】
これまでは、電極の単位面積当たりの電解電力を0.5W/cm2超、10W/cm2未満の範囲内に設定するのが一般的である。この電解電力を0.5W/cm2以下にしても希望する電解効率は発揮されないとされていた。また、電解電力を10W/cm2以上としても、過熱状態となって、水溶液が沸騰したりして良好な電解効率が達成されないものと考えられていた。
【0009】
一方、オゾン濃度が0.1mg/L程度の低濃度の電解オゾン水は、除菌、脱臭、脱色等においては効果が小さくなるが、手洗いや美容用水としては有用とされているが、これまではいかなる電極条件によっても、このような濃度の電解オゾン水を生成させることは困難とされていた。
【0010】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その第1の目的は、電力効率を高めることができ、トータルコスト低減を実現することのできる水溶液の電解方法を提供することにある。本発明の第2の目的は、従来ではいかなる電極材料を用いても困難とされていた0.1mg/L程度の低濃度の電解オゾン水を生成するための有用な電解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記第1の目的を達成し得た本発明の電解方法とは、陽極電極と陰極電極を少なくとも一対備えた電解装置を用いて水溶液を電解するにあたり、少なくとも前記陽極電極は導電性ダイヤモンドを含有するものを用いると共に、電極の単位面積当たりの電力を10〜18W/cm2に制御して、水溶液の電解を行う点に要旨を有する。尚、「含有する」とは、電極基材表面に導電性ダイヤモンドが被覆されたものや表面に埋め込まれた(含浸)もの等のいずれも含む意味である。
【0012】
上記第2の目的は、陽極電極と陰極電極を少なくとも一対備えた電解装置を用いて水溶液を電解するにあたり、少なくとも前記陽極電極は導電性ダイヤモンドを含有するものを用いると共に、電極の単位面積当たりの電力を0.18〜0.5W/cm2に制御して、水溶液の電解を行うことによって達成される。
【0013】
上記いずれの構成を採用するにしても、本発明方法におけるより具体的な構成としては、電解装置として、前記陽極電極と前記陰極電極が隔膜によって区画されたものを用いると共に、前記水溶液の導電率が10-9〜10-5S/cmであり、電解電力当たり0.4mg/(L・W)以下でオゾンを含有するオゾン水を生成する構成が挙げられる。
【0014】
本発明方法における他の具体的な構成としては、電解装置として、前記陽極と前記陰極は隔膜によって区画されていないものを用いると共に、前記水溶液の導電率が10-9〜10-5S/cmであり、電解電力当たり0.1〜1.0mg/(L・W)の範囲でオゾンを含有するオゾン水を生成する構成が挙げられる。
【0015】
本発明方法における更に他の具体的な構成としては、前記陽極と陰極は隔膜によって区画されていない電解装置を用いたときに、前記水溶液の導電率が10-4〜10-1S/cmで塩素イオンを含むものであって、電解電力当たり0.2〜2.0mg/(L・W)の範囲で遊離塩素を含有する電解水を生成する構成が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電解方法によれば、少なくとも前記陽極電極に導電性ダイヤモンドを含有するものを用いると共に、その電極の単位面積当たりの電力を高めの適切な範囲に設定することによって、水溶液の電解効率を高めることができ、トータルコスト低減を実現することのできる水溶液の電解方法が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明方法を実施するために用いる電解装置における電解セルの構造例を示す概略説明図である。
【図2】本発明方法を実施するために用いる電解装置における電解セルの他の構造例を示す概略説明図である。
【図3】実施例3において、電解電力が電解水中のオゾン濃度や電解電力当たりのオゾン生成量に与える影響を示すグラフである。
【図4】実施例4において、電解電力が電解水中のオゾン濃度や電解電力当たりのオゾン生成量に与える影響を示すグラフである。
【図5】実施例5において、電解電力が電解水中の遊離塩素濃度や電解電力当たりの遊離塩素生成量に与える影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成するために、様々な角度から検討した。その結果、導電性ダイヤモンドを含有するものを、少なくとも陽極電極に用いると共に、電解に印加する電圧を高めにする一方、電流をできるだけ低減し、電解に必要な電力を適切な範囲に制御した状態で電解を行えば、上記目的が見事に達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
本発明では、少なくとも陽極電極材料として導電性ダイヤモンドを含有したもの(以下、このような電極を「導電性ダイヤモンド電極」と呼ぶことがある)を用いることによって、低コストで効率よく電解水を生成できるものとなる。導電性ダイヤモンド電極は、水溶液電解には不活性で、導電性ダイヤモンドは実質的に溶出しない。既存の電解水生成では一般に、陽極電極として黒鉛やグラシーカーボン、白金、イリジウム等の貴金属と貴金属酸化物が使用され、陰極には、白金、銀、鉄、チタン、グラシーカーボン等が使用されている。これらの電極材料では、電解条件に応じて材料が消耗し、電解水中に溶出する。電極材料が溶出すると電解水が汚染されることになる。従って、より耐食性の高い電極が望ましいが、そのような課題に対して、導電性ダイヤモンド電極は、高い熱伝導性があり、酸化に対する耐久性に優れ、高い酸化・還元触媒能と長寿命の電解用電極である。そのため、電解装置の電極交換や保全頻度を抑えるとともに、電解セル中に析出して電解反応を阻害する堆積物を低減し、メンテナンスおよびランニングコストの抑制が実現できる。
【0020】
導電性ダイヤモンド電極の特徴は、従来の電解電極に較べて電極の単位面積当たりの電解電力(電解として消費される電力)を抑制できることである。即ち、電解に直接に寄与せずに熱エネルギーとして損失する電力の割合が低く、電解プロセスに直接作用する電力の割合を高くできる。従来の電解電極に比べて、電解に必要な電圧は高めだが、電流は低くて済み、電力(=電圧と電流の積)を抑え込んでも、効率的に電解プロセスが進行することになる。
【0021】
逆に、導電性ダイヤモンド電極に過大(18W/cm2超)な電力を供給すると、単に電解効率が損なわれ、スケールの析出等を招くだけでなく、基材からの導電性ダイヤモンド電極の剥離や、電極基材自体の破損を誘発する。その結果として、電極交換や保全頻度が高くなってしまう。こうした観点から、電極の単位面積当たりの電力を10〜18W/cm2の範囲で制御することが必要となる。好ましくは、12W/cm2以上、15W/cm2以下である。尚、高効率電解を実行するためには、電解セルへの通水量を適切に制御することも有効であり、こうした観点から電解セルの水容量に対して40〜150倍程度の水量が単位時間(毎分)当たりに通水するように通水量を制御することも好ましい要件である。より好ましい通水量は、単位時間(毎分)当たり50〜120倍程度である。
【0022】
導電性ダイヤモンド電極を用いた電解におけるもう一つの特徴は、従来の電解条件では困難とされてきた、単位面積当たりの電解電力が従来よりも遙かに小さい領域(0.18〜0.5W/cm2)においても安定して所定濃度のオゾン水を電解生成できることにある。好ましくは、0.25W/cm2以上、0.40W/cm2以下である。
【0023】
本発明によれば、電解装置(電解セル)が、隔膜で陽極電極(陽極室)と陰極電極(陰極室)が区画されたものを用いると共に、水溶液(原水)の導電率が10-9〜10-5S/cmであれば、電解電力当たり0.4mg/(L・W)以下でオゾン水を生成することができる。導電性ダイヤモンドは優れたオゾン水生成電極であるが、隔膜を用いて陽極室と陰極室を区画することにより、より高濃度のオゾン水を安定的に生成できる。
【0024】
他の具体的な構成として、電解装置(電解セル)が、隔膜で陽極電極(陽極室)と陰極電極(陰極室)が区画されていないものを用いると共に、原水の導電率が10-9〜10-5S/cmであれば、電解電力当たり0.1〜1.0mg/(L・W)でオゾン水を生成することができる。この場合は、スケール付着を最小限に抑制しながら、所定濃度範囲(低濃度も含めて)のオゾン水を得ることができる。
【0025】
例えば、原水が水道水や井戸水等であって、金属イオン濃度が高いことがある。このような場合に、電解を継続して実施すると、電極表面に水酸化物等がスケールとして析出して電解効率を阻害することがある。こうした事態を防止するためには、一定通電量毎に逆電流を通電して、析出物を脱離させることも有効である。また、電解セルに隔膜を用いて生成する電解水を交互に通水することも有効な対策である。
【0026】
電解装置(電解セル)として、前記陽極電極と前記陰極電極が隔膜によって区画されていないものを用いると共に、前記水溶液の導電率が10-4〜10-1S/cmで塩素イオンを含むものであれば、電解電力当たり0.2〜2.0mg/(L・W)の範囲で遊離塩素を含有する電解水を生成することができる。
【0027】
いずれの構成を採用する場合でも、電極の単位面積当たりの電力を10〜18W/cm2または0.18〜0.5W/cm2の範囲に制御することで、電極自身の劣化、溶出、スケール付着といった問題を回避・抑制できる。
【0028】
本発明で用いる導電性ダイヤモンド電極は、典型的には基材表面に導電性ダイヤモンド(膜)を基材表面に被覆したものや導電性ダイヤモンド(膜)を基材表面に埋め込んだ(含浸)したものであるが、こうした導電性ダイヤモンド電極は導電性の基材表面に蒸着形成したり、導電性ダイヤモンド電極を基材表面に塗布して不活性ガスや真空雰囲気中下で熱処理することによって得られる。導電性ダイヤモンド電極の基材としては、高温還元雰囲気下での耐熱性と導電性を有するチタン、ニオブ、タンタル、モリブデン、タングステン、シリコン、カーボン等が適用できる。これら材質の棒材、板材、打抜き板材、網状物、メッシュ部材、繊維体等が基材として使用できる。
【0029】
導電性ダイヤモンドの蒸着法は様々であるが、代表的なものとしてマイクロ波プラズマCVD法や熱フィラメントCVD法が挙げられる。導電性を付与するために添加されるホウ素成分を含む炭化水素ガスを水素雰囲気中で分解して、700〜900℃に保たれた基材表面を0.1〜10μm程度の厚さのダイヤモンドで被覆する。
【0030】
導電性ダイヤモンド電極を少なくとも陽極電極として電解に使用すると、電解水(酸性水)が生成する。電解条件によっては、オゾンが生成することになる。また、原水の水溶液中に例えば塩酸を1〜3%程度添加して導電率を適切な範囲に制御したものでは、次亜塩素酸が生成する。
【0031】
導電性ダイヤモンド電極は、陰極電極の素材としても用いることができるが、導電性ダイヤモンド電極を陰極電極として電解すると、陰極電極付近の液中に水酸イオンが生じて還元電解水が生成する。いずれの場合にも、除菌力を有する電解水が生成するが、有機化合物を分解して清浄水に再生できる。電解水の優れた効能は、種々の科学的検証によって裏付けられているが、例えば除菌力を例にとると、大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ状球菌などの微生物の減少やウイルスの失活から立証できる。
【0032】
陽極電極と陰極電極を仕切る隔膜としては、中性隔膜やイオン交換膜が利用でき、電解セルを陽極室と陰極室とに区画することによって、原水の電解により生成する酸性水と還元電解水とを効率よく得られることになる。イオン交換膜は、電極近傍で生成したイオンが反対の電極で消費されることを防止するだけでなく、原水の導電性が低い場合に電解プロセスを速やかに進行させる。こうした隔膜を使用することによって、陽極側の酸性水と陰極側の還元電解水とを分離して得られる。このような酸性水と還元電解水を例えば交互に通水すると、酸化性洗浄とアルカリ性洗浄が繰り返されて電解セル内外の堆積物の低減と電解効率の維持・向上を実現できる。
【0033】
本発明では、電解効率の観点から、処理対象となる水溶液(原水)の温度は5〜55℃程度であることが好ましい(より好ましくは10〜25℃程度)。また電極間距離(陽極と陰極間距離)は極力小さくして抵抗損を抑制することが望ましいが、通水抵抗の増大にもつながるため0.2〜5.0mmの範囲とすることが好ましい(より好ましくは1.0mm以上、3.0mm以下)。
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0035】
図1は本発明方法を実施するために用いる電解装置における構造例を示す概略断面図である。この装置では、箱型の無隔膜電解セルに、チタン棒を基材としてその表面に導電性ダイヤモンドを被覆した[導電性ダイヤモンド/チタン電極]が装着され(図1では、2対の陽極電極と陰極電極)、直流電源が接続される。電解セルには原水供給口と被処理水(原水)取出口が設置されており、水道水や精製水等の原水が原水供給口から供給され、電極表面で電気化学的に処理される。導電性ダイヤモンド電極は溶出することなく、原水が処理されて電解水が生成され、被処理水取出口から取り出される。
【0036】
図2は、本発明方法を実施するために用いる電解装置の他の構造例を示す概略断面図である。箱型の電解セルは、導電性ダイヤモンド膜が被覆されたメッシュ状のチタン陽極(導電性ダイヤモンド/チタンメッシュ電極:陽極電極)が収容された陽極室と、微小な銀粒子を含有するステンレス陰極(微小銀粒子含有SUS陰極:陰極電極)を有する陰極室とに隔膜(プロトン透過膜)によって区画されている。電解セルの陽極室と陰極室の各々の底面に原水供給口があり、上面に電解水取出口が夫々設けられている。このような電解セルに水道水を供給し、電極間に通電すると、陽極室と陰極室の各々で電解水が生成して、電解水取出口から取出される。
【0037】
[実施例1]
2組の導電性ダイヤモンド/チタン電極(直径:2〜3mm、長さ:30〜120mm)を用いて、電極間距離:0.8mm、電解有効面積:3〜10cm2となるように設置し、図1に示す電解セル(隔壁のないもの:容量約5〜10cm3)を構成した。この電解セルに、0.2〜1.5L/minの速度で水道水を通水しながら、電解を行った。
【0038】
このとき、電極間に8〜22Vの電圧を印加して、0.1〜1.6Aの直流電流を通電しながら(電力:1〜8W/cm2)、電解セルに60分間の間、連続して通水した。電解セル、電解装置に異常が認められなかったので(例えば、通水や電解セルの異常加熱は発生せず)同条件の範囲内で計720時間の装置運転を行った。
【0039】
装置停止後に、電解セルを分解して導電性ダイヤモンド/チタン電極を取り出し、その表面を目視観察したところ、カルシウム化合物と思われる析出物が観察された。但し、析出物の量は、同形状の白金メッキ/チタン電極の場合と比較すると、遥かに少量であり、電解条件を逸脱させるほどの電圧の上昇は見られなかった。
【0040】
[実施例2]
実施例1に示した電解において、12時間毎に直流電流の向きを反転させて720時間の運転を行った。このとき、直流電流:0.2〜1.6A、電極間の印加電圧:8〜22Vの範囲で、セル投入電力を0.18〜0.5W/cm2または10〜18W/cm2の範囲に制御した。運転停止後に、電解セルから取出した導電性ダイヤモンド/チタン電極の表面を観察したが、析出物の付着は認められなかった。
【0041】
[実施例3]
導電性ダイヤモンド/チタンメッシュ電極(厚さ:約1.5mm)を1枚と、微小な銀粒子を含有するステンレス陰極を1枚用いて、電極間距離:1.0mm、電解有効面積(電極面積)が100cm2となるように設置し、図2に示す電解セル(隔壁あり)を構成した。この電解セルに、1.5〜3.0L/minの速度で水道水(導電率:8×10-8S/cm)を通水しながら、電解装置を運転した。
【0042】
電解プロセス条件を変えて、陽極室側から取出した電解水中のオゾン濃度、電解能力(電解電力当たりのオゾン生成量)を調査した。尚、電解水中のオゾン濃度は、低圧水銀ランプを光源とした紫外線(波長254nm)吸光計(内製)によって計測した。その結果を、電解条件(電力、電極面積、単位面積当たりの電解電力、通水量)と共に、下記表1に示す。また電解電力が電解水中のオゾン濃度や電解電力当たりのオゾン生成量に与える影響を図3に示す。尚、図3において、白抜き記号(○、□、△)は電解水中のオゾン濃度を示し、塗りつぶし記号(●、■、▲)は電解電力当たりのオゾン生成量を示す。このうち、(○、●)は本発明によって初めて実現される電解結果、(□、■)は従来の電解条件で得られる電解結果である。また(△、▲)は、電極単位面積当たりの電解電力が過大または過小であり、効率的な電解が安定して進まないことを示す結果である。
【0043】
【表1】

【0044】
これらの結果から明らかなように、単位面積当たりの電解電力を0.18〜0.5W/cm2または10〜18W/cm2の範囲に設定したものでは(試験No.2、3、9、12〜15)、従来(試験No.4〜8、10、11)と同程度に、電解電力当たり0.2〜0.4mg/(L・W)の範囲でオゾンを含有するオゾン水を安定的に生成できていることが分かる。その一方で、電極の単位面積当たりの電解電力が18W/cm2を超えるような電解条件では、時間の経過と共に一定電流を維持するために必要な電圧が増大した(試験No.16〜18)。このような場合は、装置運転停止後に電極表面を観察したところ、カルシウム化合物と思われる析出物の付着が見られた。また隔膜にも変化が見られた。即ち、電極と接している部分の白濁現象が認められた。試験No.1のものは、単位面積当たりの電解電力を0.18W/cm2未満に設定したものであり、希望するオゾン生成量が達成できていないものである。
【0045】
[実施例4]
図1に示した電解装置を用い(隔壁なし)、0.2〜1.5L/minの速度で水道水(導電率:5×10-7S/cm)を通水し、電解条件を変えて、生成した電解水中のオゾン濃度、電解能力(電解電力当たりのオゾン生成量)を実施例3と同様に調査した。その結果を、電解条件(電力、電極面積、単位面積当たりの電解電力、通水量)と共に、下記表2に示す。また電解電力が電解水中のオゾン濃度や電解電力当たりのオゾン生成量に与える影響を図4に示す。尚、図4において、白抜き記号(○、□、△)は電解水中のオゾン濃度を示し、塗りつぶし記号(●、■、▲)は電解電力当たりのオゾン生成量を示す。このうち、(○、●)は本発明によって初めて実現される電解結果、(□、■)は従来の電解条件で得られる電解結果である。また(△、▲)は、電極単位面積当たりの電解電力が過大または過小であり、効率的な電解が安定して進まないことを示す結果である。
【0046】
【表2】

【0047】
これらの結果から明らかなように、単位面積当たりの電解電力を0.18〜0.5W/cm2または10〜18W/cm2の範囲に設定したものでは(試験No.22、28、29、32、36〜15)、従来(試験No.20、21、25〜27、33〜36)と同程度に、電解電力当たり0.1〜1.0mg/(L・W)の範囲でオゾンを含有するオゾン水を安定的に生成できていることが分かる。その一方で、電極の単位面積当たりの電解電力が18W/cm2を超えるような電解条件では、時間の経過と共に一定電流を維持するために必要な電圧が増大した(試験No.23、30、39)。このような場合は、装置運転停止後に電極表面を観察したところ、カルシウム化合物と思われる析出物の付着が見られた。試験No.19、24、31のものは、単位面積当たりの電解電力を0.18W/cm2未満に設定したものであり、希望するオゾン生成量が達成できていないものである。また、このような電解方法で用いた、一般菌含有水溶液の処理前後の菌数が初期値の3%以下に低減することを確認した。尚、一般菌数の測定は工業用水試験法(JIS K0101)によった。
【0048】
[実施例5]
図1に示した電解装置に、チタン板を基材としてその表面に導電性ダイヤモンド粒子を含浸した電極を装着して、原水を水道水から、精製水に塩酸を溶かした希塩酸水(導電率:0.003〜0.02S/cm)に変えて、実施例4と同様の試験を行ない、電解水中の遊離塩素濃度(遊離塩素イオン濃度)との関係を調べた。尚、電解水中の遊離塩素濃度は、回転金電極を検知部としたポーラログラフィー(島津製作所製NC140)によって計測した。その結果を、電解条件(電力、電極面積、単位面積当たりの電解電力、通水量)と共に、下記表3に示す。また電解電力が電解水中の遊離塩素濃度や電解電力当たりの遊離塩素生成量に与える影響を図5に示す。尚、図5において、白抜き記号(○、□、△)は電解水中の遊離塩素濃度を示し、塗りつぶし記号(●、■、▲)は電解電力当たりの遊離塩素生成量を示す。このうち、(○、●)は本発明によって初めて実現される電解結果、(□、■)は従来の電解条件で得られる電解結果である。また(△、▲)は、電極単位面積当たりの電解電力が過大または過小であり、効率的な電解が安定して進まないことを示す結果である。
【0049】
【表3】

【0050】
これらの結果から明らかなように、単位面積当たりの電解電力を0.18〜0.5W/cm2または10〜18W/cm2の範囲に設定したものでは(試験No.42、44、48、49、51、52、57、58)、従来(試験No.40、41、45〜47、53〜56)と同程度に、電解電力当たり2.0mg/(L・W)以下の範囲で遊離塩素を含有する電解水が安定的に生成できていることが分かる。その一方で、電極の単位面積当たりの電解電力が18W/cm2を超えるような電解条件では、時間の経過と共に一定電流を維持するために必要な電圧が増大した(試験No.43、50)。このような場合は、装置運転停止後に電極表面を観察したところ、カルシウム化合物またはシリカ化合物と思われる析出物の付着が見られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極電極と陰極電極を少なくとも一対備えた電解装置を用いて水溶液を電解するにあたり、少なくとも前記陽極電極は導電性ダイヤモンドを含有するものを用いると共に、電極の単位面積当たりの電力を10〜18W/cm2に制御して、水溶液の電解を行うことを特徴とする水溶液の電解方法。
【請求項2】
陽極電極と陰極電極を少なくとも一対備えた電解装置を用いて水溶液を電解するにあたり、少なくとも前記陽極電極は導電性ダイヤモンドを含有するものを用いると共に、電極の単位面積当たりの電力を0.18〜0.5W/cm2に制御して、水溶液の電解を行うことを特徴とする水溶液の電解方法。
【請求項3】
前記電解装置は、前記陽極電極と前記陰極電極が隔膜によって区画されたものを用いると共に、前記水溶液の導電率が10-9〜10-5S/cmであり、電解電力当たり0.4mg/(L・W)以下でオゾンを含有するオゾン水を生成するものである請求項1または2に記載の電解方法。
【請求項4】
前記電解装置は、前記陽極電極と前記陰極電極が隔膜によって区画されていないものを用いると共に、前記水溶液の導電率が10-9〜10-5S/cmであり、電解電力当たり0.1〜1.0mg/(L・W)の範囲でオゾンを含有するオゾン水を生成するものである請求項1または2に記載の電解方法。
【請求項5】
前記電解装置は、前記陽極電極と前記陰極電極が隔膜によって区画されていないものを用いると共に、前記水溶液の導電率が10-4〜10-1S/cmで塩素イオンを含むものであり、電解電力当たり0.2〜2.0mg/(L・W)の範囲で遊離塩素イオンを含有する電解水を生成するものである請求項1または2に記載の電解方法。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−101185(P2012−101185A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252324(P2010−252324)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】