説明

水生生物のサンプリング装置及び水生生物のサンプリング方法

【課題】水中に含まれる微小な水生生物の生物個体にダメージを与えることなく生きたまま採取して濃縮できる水生生物のサンプリング装置及び水生生物のサンプリング方法を提供すること。
【解決手段】内部の貯留水W1が一定水量となるように調整可能な貯水容器1内に、上端開口3a及び下端開口3bを有し、貯水容器1内を外側と内側の2つの空間1A、1Bに区画する濾布3と、該濾布3の下端開口3bに水生生物を収集するための収集容器4とを設置し、予め貯水容器1内に貯留水W1を濾布3の上端開口aが露出する程度に貯留させ、濾布3の内側に上端開口3aからサンプリング対象となる水生生物を含む水W2を供給した後、貯水容器1内における濾布3の外側にある貯留水W1を排水することにより、濾布3の内側に残留する水生生物を含む水W2を収集容器4内に収集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水生生物のサンプリング装置及び水生生物のサンプリング方法に関し、詳しくは、水中に含まれる水生生物を生きたまま採取して濃縮することが可能な水生生物のサンプリング装置及び水生生物のサンプリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水中に棲息するプランクトン等の水生生物を採取する場合、ロープの先端に濾布をつけて水中を引っ張り、濾布内に付着した水生生物を採取したり、ロープの先端にバケツ等の容器をつけて所定量の水を採取し、その水を濾過することによって水生生物を濃縮したりしている。
【0003】
また、特許文献1には、ポンプによって汲み上げられた水を、担体を挿入したカラム内に流し込み、水中の微生物を担体上で濃縮して採取することが開示されている。
【特許文献1】特開2003−144134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水中に棲息する微小な水生生物を採取する場合、目的の水生生物を生きたまま採取、濃縮したいという要請がある。例えば、大学あるいは水産試験場等の研究機関における試験研究の目的で、水中から目的とするサイズ分画のプランクトン等の水生生物を採取及び濃縮する場合等である。また、栽培漁業や培養における異生物混入の探査等においても必要とされる。
【0005】
しかし、上記従来方法では、いずれの場合も採取された水生生物は濃縮のための濾過時に濾布内面や担体に強く圧接され、細胞が傷つき死滅してしまうことがある。従って、活性が高い状態で水中の生物を採取して濃縮することが極めて困難であるという問題がある。また、細胞が傷つけられて破損した場合などには、生物の細胞密度を正しく評価できない可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、水中に含まれる微小な水生生物の生物個体にダメージを与えることなく生きたまま採取して濃縮できる水生生物のサンプリング装置及び水生生物のサンプリング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0008】
(請求項1)
内部に貯留水が一定水量となるように調整可能に貯留される貯水容器と、
上端開口及び下端開口を有し、前記貯水容器内の貯留水中に前記上端開口が露出するように浸漬され、前記貯水容器内を外側と内側の2つの空間に区画する濾布と、
前記貯水容器内における前記濾布の外側にある貯留水を排水するための排水口と、
前記濾布の前記下端開口に設けられ、前記貯水容器内の貯留水が排水された際に前記濾布の内側の水生生物を含む水を貯留させて水生生物を収集する収集容器とを備えることを特徴とする水生生物のサンプリング装置。
【0009】
(請求項2)
内部の貯留水が一定水量となるように調整可能な貯水容器内に、上端開口及び下端開口を有し、前記貯水容器内を外側と内側の2つの空間に区画する濾布と、該濾布の前記下端開口に水生生物を収集するための収集容器とを設置し、予め前記貯水容器内に貯留水を前記濾布の前記上端開口が露出する程度に貯留させ、前記濾布の内側に前記上端開口からサンプリング対象となる水生生物を含む水を供給した後、前記貯水容器内における前記濾布の外側にある貯留水を排水することにより、前記濾布の内側に残留する水生生物を含む水を前記収集容器内に収集することを特徴とする水生生物のサンプリング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水中に含まれる微小な水生生物の生物個体にダメージを与えることなく生きたまま採取して濃縮できる水生生物のサンプリング装置及び水生生物のサンプリング方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0012】
図1は、本発明に係る水生生物のサンプリング装置の一例を示す概略図である。
【0013】
図中、1は貯水容器であり、例えば円筒形状に形成されており、内部に貯留水W1が貯留されている。この貯留水W1の水位はオーバーフロー管2の上端開口2aの位置によって決定される。
【0014】
貯留水W1は、貯水容器1内の水生生物の棲息環境を維持する観点から、サンプリング対象水を用いることが好ましい。貯留水W1は、貯水容器1に設けられた不図示の供給口から貯水容器1内に供給される。
【0015】
貯水容器1の内部には採取対象となる水生生物を採取するための濾布3が浸漬されている。濾布3は、上端開口3aと下端開口3bとを有し、好ましくは上端開口3aから下端開口3bに行くに従って先窄まり状となる略逆円錐形状に形成され、その上端開口3aが、貯留水W1の水位よりも上方に露出するように貯留水W1内に設けられている。これにより、貯水容器1の内部は、濾布3の外側の空間1Aと濾布3の内側の空間1Bとに区画されている。オーバーフロー管2の上端開口2aは、この濾布3の上端開口3aよりも下方で、濾布3の下端開口3bよりも上方に位置している。
【0016】
濾布3の目合いは、採取する水生生物の大きさに応じて決定される。例えば50μmを超える大きさの水生生物を採取する場合には、50μmとなるように形成される。
【0017】
濾布3の下端開口3bには収集容器4が連設されている。収集容器4は、貯水容器1内において最終的に濾布3の内側に残留する水生生物を含む水(濃縮水)を貯留させて水生生物を収集するための容器であり、合成樹脂等によって、貯水容器1よりも十分に小さい例えば漏斗状に形成されている。収集容器4の底部には、開閉弁6によって開閉される採水管5が接続されており、開閉弁6を開放することによって、収集容器4内に貯留、収集された水生生物を含む水(濃縮水)を貯水容器1の外部に採取することができるようになっている。
【0018】
貯水容器1の底部には排水口7が形成されており、開閉弁8を開放することによって、内部の貯留水W1を排水できるようになっている。
【0019】
次に、かかるサンプリング装置を用いた水生生物のサンプリング方法について、図2、図3を用いて説明する。
【0020】
最初に、図2に示すように、採取しようとする水生生物を含むサンプリング対象水W2を、貯留水W1が貯留されている貯水容器1内における濾布3の内側の空間1Bに、濾布3の上端開口3aから供給する。
【0021】
濾布3の内側にサンプリング対象水W2が供給されることにより、貯水容器1内の貯水量は増加するが、増加分はオーバーフロー管2からオーバーフローして貯水容器1の外部に排出され、貯水容器1内は常に一定水量に保たれる。このため、濾布3の内側にサンプリング対象水W2を供給すると、濾布3の内側から外側に向けて余剰水が移動し、濾布3内には該濾布3を通過し得ない採取対象となる大きさの水生生物の量が増加する。
【0022】
このとき、貯水容器1内には、最初に貯留水W1が貯留されているため、濾布3の内側に供給されるサンプリング対象水W2中に含まれる水生生物がいきなり濾過されて濾布3に圧接されることがなく、水生生物の生物個体に濾布3による傷つき等のダメージを与えることを防ぐので、水生生物が死滅することはない。
【0023】
濾布3の内側にサンプリング対象水W2を供給した後、開閉弁8を開放して排水口7から貯水容器1内の貯留水W1を排水すると、濾布3の外側の空間1A内の貯留水W1のみならず、濾布3の内側の空間1B内のサンプリング対象水W2も、濾布3の内側から外側に向けて移動して排水される。従って、濾布3内には該濾布3を通過し得ない水生生物が残留する。
【0024】
貯水容器1内の貯留水W1を排水し終えると、又は貯留水W1の水位が収集容器4よりも下位となる程度まで排水すると、図3に示すように、濾布3の内側に残留する水生生物が濃縮された濃縮水W3のみが収集容器4内に貯留される。この濃縮水W3は、濾布3によって濾し取られるような圧力を実質的にかけずに水生生物を濃縮しているため、水生生物が傷つくことなく生きたまま濃縮されている。収集容器4内の濃縮水W3は、必要により採水管5から貯水容器1外へ取り出される。
【0025】
このように、本発明に係る水生生物のサンプリング装置及びサンプリング方法によれば、サンプリング対象水中に含まれる水生生物の生物個体にダメージを与えることなく生きたまま採取して濃縮することが可能である。図4〜図7は、本発明に係る水生生物のサンプリング装置及びサンプリング方法によって得られた濃縮水中の水生生物の様子を示しているが、濃縮水は水生生物が生きた正常な状態で濃縮されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る水生生物のサンプリング装置の一例を示す概略図
【図2】本発明に係る水生生物のサンプリング方法を説明する図
【図3】本発明に係る水生生物のサンプリング方法を説明する図
【図4】本発明に係る水生生物のサンプリング装置及びサンプリング方法によって得られた濃縮水中の水生生物の様子を示す写真
【図5】本発明に係る水生生物のサンプリング装置及びサンプリング方法によって得られた濃縮水中の水生生物の様子を示す写真
【図6】本発明に係る水生生物のサンプリング装置及びサンプリング方法によって得られた濃縮水中の水生生物の様子を示す写真
【図7】本発明に係る水生生物のサンプリング装置及びサンプリング方法によって得られた濃縮水中の水生生物の様子を示す写真
【符号の説明】
【0027】
1:貯水容器
1A:濾布の外側の空間
1B:濾布の内側の空間
2:オーバーフロー管
2a:上端開口
3:濾布
3a:上端開口縁
3b:下端開口縁
4:収集容器
5:採水管
6:開閉弁
7:排水口
8:開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に貯留水が一定水量となるように調整可能に貯留される貯水容器と、
上端開口及び下端開口を有し、前記貯水容器内の貯留水中に前記上端開口が露出するように浸漬され、前記貯水容器内を外側と内側の2つの空間に区画する濾布と、
前記貯水容器内における前記濾布の外側にある貯留水を排水するための排水口と、
前記濾布の前記下端開口に設けられ、前記貯水容器内の貯留水が排水された際に前記濾布の内側の水生生物を含む水を貯留させて水生生物を収集する収集容器とを備えることを特徴とする水生生物のサンプリング装置。
【請求項2】
内部の貯留水が一定水量となるように調整可能な貯水容器内に、上端開口及び下端開口を有し、前記貯水容器内を外側と内側の2つの空間に区画する濾布と、該濾布の前記下端開口に水生生物を収集するための収集容器とを設置し、予め前記貯水容器内に貯留水を前記濾布の前記上端開口が露出する程度に貯留させ、前記濾布の内側に前記上端開口からサンプリング対象となる水生生物を含む水を供給した後、前記貯水容器内における前記濾布の外側にある貯留水を排水することにより、前記濾布の内側に残留する水生生物を含む水を前記収集容器内に収集することを特徴とする水生生物のサンプリング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−286708(P2008−286708A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133307(P2007−133307)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(399058798)株式会社アムコ (2)
【出願人】(591118041)財団法人シップ・アンド・オーシャン財団 (21)
【出願人】(505062318)株式会社水圏科学コンサルタント (7)
【Fターム(参考)】