説明

水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物及びソフトフィール性に富む塗料組成物

【課題】水性ポリウレタン樹脂塗料組成物においてポリアミンを使用する手法を発展させて、ゲル化時間や強度及び耐水性及や耐溶剤性などの物性を向上させ、併せて柔軟性も改良し、さらに高機能性のソフトフィール性も顕現させる。
【解決手段】A)成分として、(a)ジイソシアネート化合物に(b)末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物と(c)活性水素基を有す脂肪酸及び(d)数平均分子量が3,000〜6,000であるポリアルキレングリコールエーテルジオールを反応させた樹脂であって、中和処理後のウレア反応及びマイケル付加反応によるアミン残基を含む水系ポリアミン樹脂、並びに(B)成分として(A)成分に分散可能なポリイソシアネート化合物、必要により(C)成分として無機及び/又は有機微粉体を含有する水系ポリウレタン樹脂塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系ポリウレタン樹脂被覆組成物及びソフトフィール性に富む塗料組成物に関し、詳しくは、ゲル化時間を延伸でき常温硬化でも、被覆膜において高強度で優れた耐水性や耐溶剤性などを発現して併せて柔軟性も向上された、水系ポリウレタン樹脂被覆組成物に係わり、さらに、その被覆剤組成物を利用した、ソフトフィール性に富む塗料組成物にも係わるものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂組成物は、その優れた物性や化学的性質及び経済性や成形性などにより、被覆剤として、特に塗料として車両や建材或いは家電や木工などの種々の産業分野において重用されており、最近では対環境性や作業性などからして有機溶剤を使用しない水系(水性)の組成物が重視され、有機溶剤を使用しないため経済的にも有利であるので、有機溶剤系の組成物と同等の耐水性や耐溶剤性などの各種の物性を得るための改良も続けられ、例えば、鎖延長剤などとしてのポリアミンの有効な利用も以前からなされている(特許文献1を参照)。
【0003】
そして、水系の被覆剤組成物におけるポリアミンの有効な使用のために、α,β−不飽和カルボニル化合物とのマイケル付加反応を利用して、一級アミンを二級アミンに変えてイソシアネート基との反応を制御することも知られており、例えば、α,β−不飽和カルボニル化合物として不飽和オリゴエステルを用いて、使用寿命(ポットライフ)を延長し速乾性で耐水性なども良好な被覆組成物(特許文献2を参照)、α,β−エチレン性不飽和二重結合を有するヒドロキシ基含有プレポリマーとジアミンなどを用いて、放射線速硬化性で高い皮膜強度をもたらす塗料(特許文献3を参照)などが開示されている。
いずれにしろ、水性のポリウレタン樹脂被覆剤組成物においては、有機溶剤系の組成物と同等の耐水性や耐溶剤性などの各種の優れた物性を得ることが望まれているところである。
【0004】
また、最近の産業技術全般における高機能化や高度の多様化などによる普遍的な影響のひとつとして、塗料分野においても、産業界や消費者から各種の高機能化の要望も高く、例えば、最近の社会風潮である、優しさや柔らかさなどの感性の嗜好傾向にもよって、各種の塗装製品においても、高機能化の要請のひとつとして、視覚や触感などにおけるソフト感も求められている。
ソフト感は以前から、視覚や触感における優しさや柔らかさなどの感性として、化粧品や衣料或いはインテリアや食品などにおいて重視されてきたが、人間の感性による感覚的な機能なので、理論的に把握され計数的に利用されているとはいえない。
そして、一般的に塗装製品においては、例えば自動車のステアリングやシフトレバー或いはパソコンのキーボードやマウスなどにおいて、使用者の手のひらや指先に触れて使用される場合が多いので、ソフト感は視覚より触感がより重要であり、最近の塗料の技術分野では、かかる手指の触感としての感性はソフト感触(ソフトタッチ)やソフトフィールなどと表現され注目され始めている。
【0005】
このようなソフト触感は手指の触れる各種塗装製品において、今後に重要な機能性となると予想されるが、また、ポリウレタン系樹脂自体は他の樹脂に比べて本来からソフト感触(特に発泡ポリウレタンにおける柔らかさや弾性など)を備えているといえるとしても、ポリウレタン系樹脂塗料においては、既に、ソフト感触を備えた塗装製品或いはソフト感触を発現できる塗料が研究され開示され始めている。
ソフト感や弾力性を備えた皮膚感触をもつ塗膜をもたらすとされる、ポリオールと発泡剤としての水ガラスを含む主剤及びポリイソシアネート硬化剤からなる二液型ポリウレタン樹脂組成物(特許文献4を参照)、耐溶剤性や耐磨耗性などの通常の物性に優れると共にソフトタッチに優れた高級感を有する塗膜を形成し得る、三次元架橋構造を有するポリウレタンポリ尿素架橋粒子と結合剤樹脂及び反応性シリコーンオイルからなる意匠性塗料組成物(特許文献5を参照)、紫外線に強くソフトフィール(柔らか感)性塗料としての、ヒドロキシル基などの官能基を有する水希釈性バインダー及び官能基反応性で架橋点において化学結合を形成する硬化剤からなるラッカー(特許文献6を参照)、樹脂製自動車部材にソフト感や高級感などを呈するために、下塗り塗装の上にビーズ状ポリウレタン塗料を塗布する塗装方法(特許文献7を参照)などが提示されている。
【0006】
さらにごく最近では、しっとり感とさらさら感と称される好感触を発現し得て必要な塗膜強度も確保し得る、親水性ポリウレタンポリオール主剤と親水性ポリイソシアネート硬化剤及び微小中空体を含有する下塗り用ないしは上塗り用水系二液型ポリウレタン塗料組成物(特許文献8を参照)、しっとり感とさらさら感の好感触と良好な弾性感を発現し得る、親水性ポリウレタンポリオール主剤と親水性ポリイソシアネート硬化剤及び発泡剤と整泡剤を含有する下塗り用水系二液型ポリウレタン塗料組成物(特許文献9を参照)、しっとり感とさらさら感が両立した良好なソフト触感を形成し得て、塗膜強度やポットライフなどの一般的性能をも維持する、アクリルポリオールとウレタン樹脂ビーズと艶消し剤を含有する樹脂溶液及びイソシアネート硬化剤溶液からなる二液硬化型ウレタン塗料組成物(特許文献10を参照)、自動車のステアリングにおいてソフト触感とグリップ感を摩擦感測定装置を用いて摩擦値とその標準偏差により定量化することを試みる、軟質ポリウレタン樹脂とウレタン樹脂ビーズを組み合わせポリエステル変性軟質タイプのイソシアネート硬化剤を用いた塗料(非特許文献1を参照)、などが開示されている。
【0007】
しかるに、塗料技術におけるソフト感触の発現は全体として未だ充分とはいえず、特許文献4では簡単な感覚的な結果が示されているだけであり、特許文献5〜7では、ソフト感触が謳われているが具体的な記載やデータは見られず、特許文献8〜10及び非特許文献1においても、超微小硬さ試験機や摩擦感テスターなどを用いてソフト感触の定量化は試みられているが、それらの装置の機能や定量化の理論的な説明はなく、具体的には簡単な感覚的な結果が示されているに過ぎない。また、そのような結果からして、これらの先行技術においては、ソフト感触が充分に発現されると共に、塗膜強度や耐摩耗性或いはポットライフなどの通常の塗料性能も維持ないしは向上される、技術レベルには至っていない。
なお、ソフト感触を摩擦係数やその平均偏差及び荷重針の針進入度測定などにより、理論的に計数化する試みも報告されているが、ソフト感触は感性的な感覚そのものであるし、その定量化ないしは理論式化の試みも複数のパネラーの感性的なアンケート調査に基づかざるを得ないので、結局、仮説の域を出ていない状況であるという他ない。
【0008】
以上のように、塗膜のソフト感触については、現状ではその定義や表現も未だ定かでなく、ソフト感やソフトタッチ又はソフトフィール或いはしっとりさらさら感などと称されているが、結局、″柔らかな優しさ感触″(ソフトフィール性)ともいえるものであり、換言すれば、塗装製品において「かさかさしないでしっとり感を有するものでありながら、べたつきのないさらさら感を有して、滑らかで柔らかく優しく馴染む触感」ともいえるものである。
そして現状では、他の塗料物性を維持しつつこれらの感触をすべて満足するような塗膜を形成することは未だ困難であり、いずれかの性質において劣るものとなっている。
いずれにしろ、ソフト感触は手指の触れる各種塗装製品において、今後には重要な機能性となると予想され、ソフト感触の向上及び他の塗料物性とのバランスのとれた改良などが進み、その定量化ないしは計数化も具体化されてくるものと推測される。
【0009】
【特許文献1】特開平7−268208号公報(要約)
【特許文献2】特開平10−81746号公報(要約、段落0003,0004)
【特許文献3】特開平11−315130号公報(要約、段落0014)
【特許文献4】特開平5−117357号公報(要約、段落0024,0025)
【特許文献5】特開平5−279627号公報(要約)
【特許文献6】特開2000−96001号公報(要約)
【特許文献7】特開2000−296362号公報(要約)
【特許文献8】特開2004−155883号公報(要約、特許請求の範囲の請求項5、及び段落0028,0035)
【特許文献9】特開2004−285341号公報(要約、特許請求の範囲の請求項4、及び段落0038,0039)
【特許文献10】特開2005−139273号公報(要約、段落0057)
【0010】
【非特許文献1】「Honda R&D Technical Review」Vol.15 No.2 p.195〜200〔October 2003〕 (特に、195頁左中段、196頁、198〜199頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、(i)段落0003に前記した、水系のポリウレタン樹脂被覆剤組成物におけるポリアミンの使用に際して、α,β−不飽和カルボニル化合物とのマイケル付加反応を利用して、一級アミンを二級アミンに変えてイソシアネート基との反応を制御する、ポリウレタン樹脂組成物の改良手法を発展させて開発した先願発明(段落0012に記載)である、常温硬化でもジオール化合物を用いた場合よりも、ゲル化時間が延伸され、高強度で耐水性及び耐溶剤性などの優れた物性をもたらすポリウレタン樹脂被覆剤において、さらに柔軟性を付与し、(ii)併せて、段落0004〜0008において記載したソフトフィール性を、水系ポリウレタン樹脂被覆組成物の塗料組成物としての態様において、通常の塗料物性を維持しつつ充分に発現することを、発明が解決すべき二つの課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
対環境性や作業性に優れ経済性も良好な水性のポリウレタン樹脂組成物においては、有機溶剤系の組成物と同等の耐水性や耐溶剤性などの各種の優れた物性をも得ることが望まれているので、本発明の発明者らは、水系のポリウレタン樹脂組成物において、鎖延長剤などとしてのポリアミンの有効な利用を図り、α,β−不飽和カルボニル化合物とのマイケル付加反応を利用して、一級アミンを二級アミンに変えてイソシアネート基との反応を制御する、ポリウレタン樹脂組成物の改良手法を発展させて、末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物を選択して、ポリアミンとの反応の前に当化合物を予めポリウレタンプレポリマーに組み込み、また、水分散性を高めるために活性水素基を有す脂肪酸をもプレポリマーに組み込むことが有効であると認識して、それらとジイソシアネート化合物及びポリオール化合物を反応させてウレタンプレポリマーを製造し、第三級アミンで中和処理し、その後にポリアミンを添加しウレア反応及びマイケル付加反応を行い、多官能ポリイソシアネート硬化剤により架橋反応をなすことによって、新規な発明を創出して、特願2005−93285号として先に出願したところである。
そして、本発明の発明者らは、かかる先願発明を発展させて、水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物としての態様において、被覆膜にさらに充分な柔軟性も付与することを目指して、水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物の各成分材料や組成物の成分比などについて、多角的な考察と実験的な試行を続けたが、充分な柔軟性をもたらすにはポリオール成分が最も関わり、そのセグメントとしての性質が関与し、特定の分子量を有す特定のジオール化合物が好結果をもたらすことを見い出すことができ、水系のポリウレタン樹脂組成物でありながら、ゲル化時間が延伸され、高強度で耐水性及び耐溶剤性などの優れた物性がもたらされると共に、本発明の第一の基本的な態様である、柔軟性が充分に向上された、水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物の発明をも新たに創作するに至った。
【0013】
さらに、前記した第二の発明の課題を解決することをも目指して、本発明の発明者らは、いわゆる新しい塗料機能であるソフトフィール性を発現させるために研究を続け、上記の柔軟性が充分に向上された水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物にシリカ微粉末のような無機又は有機系の粉末などを新たな成分として添加すると、その特定の水系樹脂組成物を使用するがゆえに、これらの微粉末の特異な表面積と微細な凹凸との作用により、ソフトフィール性を充分に発現できることをも認識して、本発明の第二の基本的な態様をも見い出すに至った。
かかる機能は、段落0008に記載した、″柔らかな優しさ感触″(ソフトフィール性)ともいえるものであり、換言すれば、「かさかさしないでしっとり感を有するものでありながら、べたつきのないさらさら感を有して、滑らかで柔らかく優しく馴染む触感」ともいえるものである。そして、ソフトフィール性を充分に顕現できると共に、段落0012に記述したように、水系ポリウレタン樹脂組成物でありながら、塗料の通常の性能であるところの、ゲル化時間が延伸され、高強度で耐水性及び耐溶剤性などの優れた物性がもたらされ、併せて塗膜の柔軟性も向上されている。
【0014】
具体的には、第一の基本的な発明の態様としての水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物は、数平均分子量が3,000〜6,000であるポリアルキレングリコールエーテルジオールを使用し、特に好ましくは、ポリテトラメチレングリコールエーテルジオールを採用するものである。
また、第二の基本的な発明の態様としての水系ポリウレタン樹脂塗料組成物においては、無機及び/又は有機微粉体を採用して含有せしめ、通常の塗料の物性も向上しつつソフトフィール性を呈するものである。
【0015】
その他の、好ましい態様としては、先願発明における態様と同等であって、ジイソシアネート化合物が脂肪族ジイソシアネート化合物であり、末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物が、ジイソシアネート化合物に対してモル比50%以上の末端水酸基を有す(メタ)アクリレート化合物であり、活性水素基を有す脂肪酸がジメチロール脂肪酸であり、ウレア反応及びマイケル付加反応によるアミン残基が一級及び/又は二級アミノ残基であって樹脂固形分中0.2〜3.0mmol/g含有され、[NCO]/[NH]の活性成分モル比が1.5〜6.0であると構成される、水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物である。
付加的に、水系ポリウレタン樹脂塗料組成物が水系ポリアミン樹脂及び硬化触媒としてのポリイソシアネートの二液型の二成分組み物材料であり、塗料として使用される際に二成分が混合される水系ポリウレタン樹脂塗料組成物でもある。
【0016】
さらに、本発明の水系ポリウレタン樹脂塗料組成物の製造方法としては、ジイソシアネート化合物に、それに対してモル比50%以上である、末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物と活性水素基を有す脂肪酸及び特定分子量のポリアルキレングリコールエーテルジオールを反応させて、末端イソシアネートプレポリマーとなし、三級アミンにて中和処理して、一級アミン化合物を有す水溶液に分散させ、イソシアネート残基とのウレア反応及び炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物とのマイケル付加反応を行い、一級及び/又は二級アミン残基を含む水系ポリアミン樹脂を製造し、次いで当水系ポリアミン樹脂成分に分散可能なポリイソシアネート硬化剤成分並びに無機及び/又は有機微粉体との組成物となすことによって、製造することができる。
【0017】
ところで、本発明と先行技術とを対照してみると、段落0003において記述した特許文献2においては、塗料などの被覆剤組成物の物性改良のためにポリアミンを使用する際に、α,β−不飽和カルボニル化合物として不飽和オリゴエステルを用い、ミカエル付加(マイケル付加)反応を利用して、一級アミンを二級アミンに変えてイソシアネート基との反応を制御するものであり、特許文献3においては、α,β−エチレン性不飽和二重結合を有するヒドロキシ基含有プレポリマー及びジアミンなどを用いた放射線硬化塗料であるが、段落0012に記載したように本発明においては、被覆剤組成物の物性改良のためにポリアミンを使用する際に、α,β−不飽和カルボニル化合物によるマイケル付加反応を利用して、一級アミンを二級アミンに変えてイソシアネート基との反応を制御する特定の水系ポリウレタン樹脂組成物において、数平均分分子量が3,000〜6,000であるポリアルキレングリコールエーテルジオールを使用して、特異的に柔軟性を向上させるのであるから、これらの先行技術は、本発明と相違するのは明らかである。
また、ソフトフィール性の発現の態様についても、本発明は上記の特定の水系ポリウレタン樹脂組成物において無機及び/又は有機微粉体との組成物となすことによって、特異的なジオール成分のセグメント機能と絡んでソフトフィール性を充分に顕現できると共に、水系ポリウレタン樹脂組成物でありながら、塗料の通常の性能であるところの、ゲル化時間が延伸され、高強度で耐水性及び耐溶剤性などの優れた物性がもたらされ、さらに塗膜の柔軟性も向上されているのであるから、段落0004〜0008において記述した、ソフトフィール性に関する各先行技術とは、本質的に異なるものである。
【0018】
以上においては、発明の課題を解決する手段として、本発明が創作される経緯及び本発明の基本的な構成と特徴に沿って概述したので、ここでその発明の全体を明確にするために、発明全体を俯瞰すると、本発明は、次の発明単位群から構成されるものであって、[1]及び[2]の発明を基本発明とし、それ以下の発明は、基本発明を具体化ないしは実施態様化するものである。(なお、発明群全体をまとめて「本発明」という。)
【0019】
[1](A)成分として、(a)ジイソシアネート化合物に(b)末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物と(c)活性水素基を有す脂肪酸及び(d)数平均分子量が3,000〜6,000であるポリアルキレングリコールエーテルジオールを反応させた樹脂であって、中和処理後のウレア反応及びマイケル付加反応によるアミン残基を含む水系ポリアミン樹脂、並びに(B)成分として(A)成分に分散可能なポリイソシアネート化合物を含有することを特徴とする、柔軟性に優れた水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物。
[2][1]における水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物において、さらに(C)成分として無機及び/又は有機微粉体を含有し、ソフトフィール性を呈することを特徴とする、水系ポリウレタン樹脂塗料組成物。
[3](a)ジイソシアネート化合物が脂肪族ジイソシアネート化合物であり、(b)末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物が、(a)に対してモル比50%以上の、末端水酸基を有す(メタ)アクリレート化合物であり、(c)活性水素基を有す脂肪酸がジメチロール脂肪酸であり、(d)ポリアルキレングリコールエーテルジオールがポリテトラメチレングリコールエーテルジオールであり、ウレア反応及びマイケル付加反応によるアミン残基が一級及び/又は二級アミノ残基であって樹脂固形分中0.2〜3.0mmol/g含有され、[NCO]/[NH]の活性成分モル比が1.5〜6.0であることを特徴とする、[1]又は[2]における水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物。
[4]塗料組成物が、(A)成分の水系ポリアミン樹脂及び(B)成分の硬化剤であるポリイソシアネートの二液型の二成分組み物材料であり、塗料として使用される際に二成分が混合されることを特徴とする、[2]又は[3]における水系ポリウレタン樹脂塗料組成物。
[5](A)成分として、(a)ジイソシアネート化合物に(b)(a)に対してモル比50%以上である、末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有す化合物と(c)活性水素基を有す脂肪酸及び(d)数平均分子量が3,000〜6,000であるポリアルキレングリコールエーテルジオールを反応させて、末端イソシアネートプレポリマーとなし、三級アミンにて中和処理して、一級アミン化合物を有す水溶液に分散させ、イソシアネート残基とのウレア反応及び炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物とのマイケル付加反応により、一級及び/又は二級アミン残基を含む水系ポリアミン樹脂を製造し、次いで(A)成分に分散可能な(B)成分のポリイソシアネート化合物並びに(C)成分の無機及び/又は有機微粉体との組成物となすことを特徴とする、[2]における水系ポリウレタン樹脂塗料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、水系ポリウレタン樹脂組成物におけるポリアミンの使用において、末端水酸基を有するα,β−不飽和カルボニル化合物とのマイケル付加反応を利用して、一級アミンを二級アミンに変えてイソシアネート基との反応を制御し、また、特定のポリアルキレングリコールエーテルジオールを使用することなどにより、水系ポリウレタン樹脂組成物において、常温硬化でもジオール化合物を用いた場合よりも、ゲル化時間が延伸され、外観が良好であり、高強度で耐水性及び耐溶剤性などが優れて柔軟性も向上された被覆を形成できる。
さらに、ソフトフィール性を充分に顕現して高機能性を備えることができ、自動車のステアリングやシフトレバー或いはパソコンのキーボードやマウス及び携帯電話のタッチパネルなど、使用者の手のひらや指先に触れて使用される塗装製品の樹脂塗料として有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明については、課題を解決するための手段として、本発明の基本的な構成に沿って前述したが、以下においては、前述した本発明群の発明の実施の形態を具体的に詳しく説明する。
【0022】
1.水系ポリウレタン樹脂被覆組成物の原材料
(1)ジイソシアネート化合物
本発明において使用されるジイソシアネート成分としては、有機ジイソシアネート化合物が使用され、それにはポリウレタン樹脂の原材料としての通常のものが用いられて、特に規定はされない。コーティング被膜の紫外線による黄変を避けるために、芳香族ジイソシアネートよりも脂肪族又は脂環族ジイソシアネートが好ましい。
なお、明細書の記載を簡明にするために、以下における各化合物の例示は簡潔なものとしているが、発明の本質には影響がないのは当然である。
【0023】
具体的には、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートが例示され、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネートが代表的に例示される。これらのジイソシアネートは、1種単独又は2種以上の混合で使用される。
さらには、ヘキサメチレンジイソシアネートと炭素数1〜6のモノオールから得られるアロファネート変性ポリイソシアネートなどのような、これらのアダクト変性体、カルボジイミド変性体、アロファネート変性体、ビュレット変性体、ウレトジオン変性体、ウレトイミン変性体、イソシアヌレート変性体なども使用できる。
【0024】
(2)末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物
当化合物は末端に水酸基を有すので、その水酸基によりウレタンプレポリマーの末端に結合されて、その炭素間二重結合にジアミン又はトリアミンがマイケル付加してプレポリマーの末端を形成する。
カルボニル基はカルボキシル基由来のC=O基を含む広義のものである。なお、末端水酸基はカルボキシル基における−OHを意味しない。当化合物としては、末端水酸基を有すα,β−不飽和カルボニル化合物としての、末端−ヒドロキシ(メタ)アクリレート化合物が代表的なものである。
【0025】
具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが代表的に挙げられ、アクリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートなどのグリシジル基含有化合物と、(メタ)アクリル酸との付加反応により得られる化合物も例示される。
【0026】
(3)活性水素基を有す脂肪酸
当脂肪酸は活性水素基を有し、例えば両末端の活性水素基がイソシアネート基と反応してプレポリマーの主鎖に組み込まれ、遊離のカルボキシル基が親水系なのでプレポリマーの水分散性を高める作用をなす。
活性水素基を有す脂肪酸化合物としては、末端水酸基を二個有すジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸が例示され、その他、ポリアミンと酸無水物との反応物、ジメチロールプロピオン酸やジメチロールブタン酸などを開始剤としたラクトン付加物なども挙げられる。
当脂肪酸としては、ジメチロールプロピオン酸及びジメチロールブタン酸が好ましい。
【0027】
(4)ポリオール化合物
本発明におけるポリオール化合物は被覆膜に柔軟性を付与するために特異的なものであり、段落0012に記載した理由により、数平均分子量が3,000〜6,000であるポリアルキレングリコールエーテルジオールに限定され、好ましくはポリテトラメチレングリコールエーテルジオールが使用される。
数平均分子量が3,000未満であると、被膜の接着性や耐溶剤性が低下し、6,000を超えるとエマルジョン化が困難となり、それぞれ好ましくない。
なお、通常のポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオールなどを併用しても差しつかえない。
【0028】
(5)ジアミン又はポリアミン化合物
ジアミン又はポリアミン化合物は、プレポリマーの鎖延長剤として使用され、ジオール化合物を鎖延長剤とするよりも、容易に高架橋するため、耐水性や耐溶剤性及び耐汚染性などの物性において有利である。
ジイソシアネート化合物と反応する反応主剤として、ジオールの代わりにジアミン又はトリアミン化合物を使用するとこれらのアミン化合物の高反応性のためプレポリマーを形成できないので、これらのアミン化合物はプレポリマーの鎖延長剤として使用する。
【0029】
これらのアミン化合物の具体例は、ジアミンではエチレンジアミン(EDA)、イソホロンジアミン(IPDA)などが例示され、ポリアミンでは、HN−(CNH)−CNH(n=1〜8)で表される、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどが例示される。
【0030】
(6)無機及び有機微粉体
本発明においては、ソフトフィール性の発現のために無機及び/又は有機微粉体が使用される。
無機微粉体の材料としては、シリカが好ましく使用され、ガラス、マイカ、ゼオライト、珪藻土、グラファイト、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどの塩類、金属、金属酸化物なども使用される。
有機微粉体の材料としては、ポリウレタンビーズが好ましく使用され、アクリル樹脂やポリアミドなどの各種の樹脂、シリコーンゴム、パルプ、セルロースなどが例示される。
これらの微粉体は二種以上併用してもよい。微粉体は好ましくは球状であり、粒径は10μm程度のものが好ましく使用され、それを超えるとざらざらした触感になってしまう。配合量はポリウレタン樹脂組成物において、1〜30質量%、好ましくは10〜20質量%程度が配合される。通常の実施では20質量%配合される。
本発明においては、中空ビーズの使用は特に必要なく、また、極薄い塗膜にもソフトフィール性を発現できる特徴も発揮できる。
本発明のソフトフィール性は、段落0049に後記する実施例の結果の考察からして、本発明の特異的な構成においてのみ、特に、高分子量のジオールソフトセグメントとの関わりにおいてシリカなどの微粉末がソフト感を醸し出す作用をもたらしているのではと推測される。
【0031】
(7)硬化触媒及び硬化剤
ウレタン反応の硬化触媒(重合触媒)としての樹脂化触媒(ウレタン化触媒)は、必要により使用され、ジブチルチンジラウレートやナフテン酸亜鉛のような金属系触媒あるいはトリエチレンジアミンやN−メチルモルホリンのようなアミン系触媒などの通常の硬化触媒が用いられ、反応速度を速くし反応温度を低くすることができる。
ポリウレタン樹脂を硬化させる硬化剤としては、本発明においては二液システム(二液型の組成物)の一液として使用され、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)やイソホロンジイソシアネート(IPDI)から由来する、1分子中のNCO基が3個以上のトリマー体やアダクト体が使用される。
具体的には、有機ジイソシアネート類のウレタン変性体、ウレア変性体、アロファネート変性体、ビュレット変性体、ウレトジオン変性体、イソシアヌレート変性体などが挙げられる。ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)から由来するイソシアヌレート変性体タイプの硬化剤では、硬化剤のNCO/主剤のNHのモル比が2.5〜4.5のものが好ましい。
硬化剤は二種以上併用してもよく、二種以上を用いる場合には、反応性の異なるものを組み合わせて使用することにより、硬化反応時間が調整されて安定した被覆層を形成することができる。
【0032】
(8)その他の助剤
本発明においては、段落0029に記載したジアミン又はポリアミン化合物に加えて、必要に応じて通常の、重付加反応における鎖延長剤を使用してもよい。
鎖延長剤としては、2個以上の活性水素基を有する通常の低分子化合物が使用され、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、さらに、HDIイソシアヌレート変性体、ジイソシアンートのアロファネート変性体などが用いられる。
また、より物性を高め、また、各種の他の物性を付加するために、各種の添加剤として、難燃剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、充填剤、内部離型剤、補強材、艶消し剤、導電性付与剤、帯電制御剤、帯電防止剤、滑剤、その他の加工助剤を用いることができる。
【0033】
2.水系ポリウレタン樹脂被覆組成物
(1)主剤と硬化剤
本発明における水系ポリウレタン樹脂被覆組成物は、基本的に主剤と硬化剤から構成される。
主剤は(A)成分として、(a)ジイソシアネート化合物に(b)末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物と(c)活性水素基を有す脂肪酸及び(d)ポリアルキレングリコールエーテルジオールを反応させた樹脂であって、中和処理後のウレア反応及びマイケル付加反応によるアミン残基を含む水系ポリアミン樹脂である。
硬化剤は(B)成分として(A)成分に分散可能な、前記したHDIトリマーに代表される、ポリイソシアネート化合物である。
組成比は、(B)/(A)の成分において[NCO]/[NH]の活性成分モル比が1.5〜6.0である範囲にて使用されるのが好ましい。
【0034】
(2)無機及び有機微粉体
本発明においては、塗料組成物においてソフトフィール性を顕現するために、段落0030に記載した、無機及び/又は有機微粉体を(C)成分として配合する。
【0035】
(3)組成物としての態様
本発明の水系ポリウレタン樹脂被覆組成物は、基本的には主剤としての(A)成分と(B)成分の硬化剤から構成される二液システムであり、使用の態様としては、二液型塗料組成物としての二成分組み物材料であり、塗料として使用される際に二成分が混合され、硬化剤の多官能NCO化合物により三次元的に硬化される。
なお、一般に、塗料用組成物の意味は、必ずしも一義的ではないので、本発明においては、予め全ての成分を混合した組成物ではなく、二成分組み物材料としの組成物としている。
【0036】
3.水系ポリウレタン樹脂塗料組成物の製造方法
(1)組成物の製法
本発明の水系ポリウレタン樹脂塗料組成物の製造は、ウレタンプレポリマーの主鎖を形成する(a)ジイソシアネート化合物に、(b)マイケル付加のための成分であって、(a)に対してモル比50%以上である、末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有す化合物と、水分散性付与のための成分である(c)活性水素基を有す脂肪酸及び、ウレタンプレポリマーの主鎖を形成する、(d)数平均分子量が3,000〜6,000であるポリアルキレングリコールエーテルジオールを反応させて、末端イソシアネートプレポリマーとなし、次いで三級アミンにて脂肪酸のカルボキシル基を中和処理して、鎖延長剤である、ポリアミンとしての一級アミン化合物を有す水溶液に分散させて水系となし、イソシアネート残基とのウレア反応及び炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物とのマイケル付加反応により、一級及び/又は二級アミン残基を含む水系ポリアミン樹脂を製造し、次いで当水系ポリアミン樹脂成分に分散可能なHDIトリマーのような硬化剤成分との組成物となし、適宜の段階において無機及び/又は有機微粉体を配合することにより行われる。
【0037】
(2)組成物の製法における化学反応とポリマー構造
本発明の水系ポリウレタン樹脂被覆組成物の構成及び製法をより明確にするために、組成物の製法における化学反応と重合反応及びプレポリマー構造とポリマー構造を、製法システムとしての表現により具体的に以下に記載する。
i)プレポリマーの製造
脂肪族ジイソシアネートOCN−A−NCO、ジオールHO−B−OH、ジメチロール脂肪酸HOCHR(COOH)CHOH、2−ヒドロキシエチルアクリレートを反応させプレポリマーを形成する。(なお、下記中の(U)はウレタン結合を示す。)

OCN−A−(U)−B−(U)−A−(U)−CHR(COOH)CH−(U)−A−(U)−C−COO−CH=CH

ii)中和処理
第三級アミンNRによる中和処理によって、−COOH基を中和して水分散性に変性する。

OCN−A−(U)−B−(U)−A−(U)−CHR(COONH+)CH−(U)−A−(U)−C−COO−CH=CH

iii)ポリアミンの反応
ポリアミンNH−X−NHを添加してプレポリマーの末端のOCN基とウレア反応させてポリアミン基を末端に導入し、また、ポリアミンとプレポリマーの他の末端の−COO−CH=CH基とをマイケル付加反応させてにポリアミン基を導入して、ポリアミン分散体を形成する。

〜NH−CO−NH−X−NH−CO−NH〜・・・・・(主鎖)・・・・・〜−C−COO−CHCH−NH−X−NH

iv)多官能硬化剤の添加
多官能硬化剤のY(NCO)(n≧3)を添加して、末端の一級アミン基と反応させ一級アミン反応体を形成する。

〜NH−CO−NH−X−NH−CO−NH〜・・・・・(主鎖)・・・・・〜−C−COO−CHCH−NH−X−NH−CO−NH−Y−(NCO)n−1

v)二級アミン基のウレア反応
経時すると、ポリアミン基の導入により形成された二級アミン基が硬化剤のNCOとウレア反応して二級アミン反応体を形成する。

〜NH−CO−(U)−X−(U)−CO−NH〜・・・・・(主鎖)・・・・・〜−C−COO−CHCH−(U)−X−(U)−CO−(U)−Y−(NCO)n−1

vi)硬化剤のNCOと水との反応
経時すると、硬化剤中のNCOと水分散体の水とがウレア反応して、水反応ウレア高架橋体を形成する。

〜NH−CO−(U)−X−(U)−CO−NH〜・・・・・(主鎖)・・・・・〜−C−COO−CHCH−(U)−X−(U)−CO−(U)−Y−(U)n−x
【実施例】
【0038】
以下においては、実施例によって、比較例を対照しながら、本発明をより詳細に具体的に示して、本発明の構成をより明らかにし、本発明の構成の各要件の合理性と有意性及び本発明の従来技術に対する優位性を実証する。
【0039】
[水系ポリアミン樹脂の合成]
(a)ジイソシアネート化合物に、(b)(a)に対してモル比50%以上である、末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有す化合物と、(c)末端水酸基を二個有す脂肪酸、及び(d)ポリアルキレングリコールエーテルジオールを反応させて、末端イソシアネートプレポリマーとなし、三級アミンにて中和処理して、一級アミン化合物を有す水溶液に分散させ、イソシアネート残基とのウレア反応及び炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物とのマイケル付加反応により、一級及び/又は二級アミン残基を含む水系ポリアミン樹脂を製造する。
【0040】
(ポリウレタンエマルジョンの製造例)
撹拌機、温度計、窒素シール管及び冷却器を装着した容量1,000mlの反応器に、ポリオールA(ポリテトラメチレングリコールエーテルジオール Mn=3,000 f=2)を166g、2,2−ジメチロールプロピオン酸(DMPA)を7.6g、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)を13.1g、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMDPG)を42.5g仕込み、90℃で10分間加熱溶解させた。60℃に冷却後にイソシアネートA(IPDI:NCO=37.8%)を37.4gとイソシアネートB(C−2770;コロネート2770 日本ポリウレタン工業(株)製 f=1 脂肪族アルコール変性HDIアロファネート化合物 NCO=19.1%)を37.4g、ジオクチルチンジラウレート(DOTDL)を0.03g仕込み80℃で2時間反応させて、カルボキシル基含有イソシアンート基末端プレポリマー溶液を得た。このプレポリマー溶液のイソシアネート含量は2.3%、プレポリマー中のカルボン酸導入量は0.20mmol/gであった。
次いでトリエチルアミン(TEA)を5.7g仕込んでカルボキシル基を中和した後、撹拌しながら水を470gを仕込み250rpm/60minで高速分散させた後、15%トリエチレンテトラミン(TETA)水溶液71.6g仕込み、水とアミンによる鎖延長反応を30℃で2時間行った。FT−IRによりイソシアネート基の存在が確認されなくなったところで充填して、水系ポリウレタンエマルジョンPU−1を得た。PU−1の固形分は33.0%で、pHは8.5であり、25℃の粘度は15mPa・sであった。
【0041】
[水系ポリウレタン樹脂組成物の製造]
予め水/イソシアネート硬化剤(ポリイソシアネートA;AQ−130 アクアネート130 日本ポリウレタン工業(株)製 f=2 脂肪族アルコール変性HDIアロファネート/ノニオン性親水基 NCO=16.4%)を50/50(質量%)で配合して、2,000rpmで30秒撹拌分散させたものBを用意する。その後すぐに上記の合成例にて製造した水系ポリアミン樹脂分散体A(ポリウレタンディスパージョン)100部に対して、Bを20部配合し、手動撹拌で混合して、表1〜4に記載の水系ポリアミン樹脂組成物とした。
【0042】
[混合液の評価]
(ゲル化時間)
水系ポリアミン樹脂に、脂肪族・脂環族系イソシアネート硬化剤(HDIトリマー化合物やHDIアロファネート化合物など)を分散させて、ゲル化して塗料として使用不能になる時間を測定した。表1〜4に記載した時間が長いほど塗料として優れている。
(増粘性)
硬化剤の添加時の増粘性を目視により観察した。増粘性が低いほど塗料としての使用に適しており、表1中に、「○:増粘がない △:増粘が少しあるが塗料として使用し得る ×:増粘が大である」として評価を記載した。
【0043】
[塗膜としての性能評価]
アルミ板に混合液を200μmの厚みにアプリケーターで塗布し、常温で7日間乾燥させた。
(塗膜外観)
塗装して、常温で7日間乾燥経過後の塗膜の外観を目視により観察して、塗膜の光沢性とはじきの有無によって、表1〜4中に、「○:良好 △:ほぼ良好 ×:塗膜に光沢がなく、はじきがあって、不良」として塗膜外観の評価を記載した。
(耐水性)
塗装後に、50℃・3時間水中浸漬テストを行い、テスト後に塗膜を目視及び指触により観察して、塗膜の白化とべたつきの有無によって、表1〜4中に、「○:良好 △:ほぼ良好 ×:塗膜に白化とべたつきが生じ耐水性がない」としての評価を記載した。
(エタノール及びMEKラビング試験・耐溶剤テスト)
乾燥塗膜に対して、エタノール及びMEKラビング試験を行った。エタノール又はMEK(メチルエチルケトン)に軽く浸した脱脂綿を塗膜上で往復させ、塗膜に傷や剥れなどが生じるまでの往復回数を測定した。
(基材密着性)
JIS K5600−5−6に準じて測定した。
[シリカの混合塗膜評価]
主剤20gにシリカを1gを混合した、水系ポリウレタン樹脂組成物のシリカ混合液をABS板にバーコーターNo.18で塗布し、常温で5分間乾燥し、80℃で30分間乾燥させた。
(塗膜ソフト感相対評価)
塗膜のソフトフィール性を指触により、「かさかさしないでしっとり感を有するものでありながら、べたつきのないさらさら感を有して、滑らかで柔らかく優しく馴染む触感」として感性評価して、表1〜4中に、「◎:非常に良好 ○:良好 △:ほぼ良好 ×:ソフトフィール性がなく不良」として評価を記載した。
塗膜の摩擦評価は、摩擦感テスターKES−SE(カトーテック社製)を用い摩擦力値とその標準偏差を測定した。
【0044】
水系ポリアミン樹脂塗料組成物の性能の結果を表1〜4に掲載した。なお、表中の記号は次のとおりである。
ポリオールA;ポリテトラメチレングリコール Mn=3,000 f=2
ポリオールB;ポリテトラメチレングリコール Mn=3,500 f=2
ポリオールC;ポリテトラメチレングリコール Mn=2,000 f=2
イソシアネートA;IPDI(NCO=37.8%)
イソシアネートB;C−2770(段落0040に記載)
DMPA;ジメチロールプロピオン酸
DMBA;ジメチロールブタン酸
HEA;2−ヒドロキシエチルアクリレート
EDA;エチレンジアミン
TETA;トリエチレンテトラミン
なお、PU−2〜8は、段落0040に記載した水系ポリウレタンエマルジョンPU−1の製法に準じて、表1〜4に記載した性能を有すものとして製造した水系ポリウレタンエマルジョンである。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
[実施例と比較例の結果の考察]
以上の各実施例及び各比較例を対照することにより、本発明では、水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物におけるポリアミンの使用において、末端水酸基を有するα,β−不飽和カルボニル化合物とのマイケル付加反応を利用して、一級アミンを二級アミンに変えてイソシアネート基との反応を制御することなどにより、本発明は、従来例である比較例と対照して、ゲル化時間が延伸され、硬化剤添加時の増粘がなく、塗膜外観やべとつき性及び耐水性が良好で、有機溶剤ラビングテストで示される耐溶剤性も優れ、塗膜100%モジュラスや塗膜破断時の伸びのデータなどからして、強度や柔軟性も向上されていることが窺える。柔軟性は特有のジオール成分である、数平均分子量が3,000〜6,000であるポリアルキレングリコールエーテルジオールによるものといえる。
無機微粉末のシリカを配合した、ソフトフィール性を目指す塗料においても、ゲル化時間が延伸され、塗膜外観や耐水性及び基材密着性が良好で、ソフト感の官能評価などからして、優れたソフト感(ソフトフィール性)を呈していることも示されている。シリカを配合してもソフト感を呈さない比較例が複数あることからして、本発明のソフトフィール性は、本発明の特異的な構成においてのみ、特に、高分子量のジオールソフトセグメントとの関わりにおいてシリカなどの微粉末がソフト感を醸し出す作用をもたらしているのではと推測される。ソフトフィール性は実施例3などから、架橋度合いに影響されるようでもあるが未だ明確になっていない。なお、実施例4では他の実施例に比して、耐水性や基材密着性などがやや劣っているが、α,β−不飽和カルボニル化合物の使用量が少ないことによると考えられる。なお、ソフトフィール性を摩擦力値とその標準偏差により定量化するデータを採取したが明確な定量化は困難である。一般的に摩擦力が大きく、その標準偏差が小さいほうが触感が良好であることは示唆されている。
【0050】
比較例1では、本発明の主要成分のα,β−不飽和カルボニル化合物を使用せず、また、活性水素総モル比も0なので、主剤を形成する樹脂と硬化剤である多官能イソシアネートとをウレア結合できなくなることから、塗膜自体の架橋構造が不足してしまい、耐水性や耐溶剤性及び基材密着性に非常に劣っている。
比較例2では、イソシアネートを制御する第二アミンがなく、活性水素総モル比が0なので、耐水性や耐溶剤性及び基材密着性に非常に劣っている。
比較例3では、本発明の主要成分のα,β−不飽和カルボニル化合物を使用せず、TETAも後添加なので、ゲル化時間や増粘性及び塗膜外観や柔軟性さらには耐水性や耐溶剤性及び基材密着性などにおいて悉く非常に劣っており、ソフトフィール性も呈さない。
比較例4は、ポリオール成分の分子量が本発明の規定を満たさないだけなので、柔軟性を欠く以外は塗膜性能がおしなべて良好であるのに、ソフトフィール性を呈していない。
【0051】
以上の各実施例と各比較例のデータ結果の対照及び考察からして、本発明の構成要件の合理性と有意性が実証され、本発明が従来技術に比べて顕著な優位性を有していることが明確にされているといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分として、(a)ジイソシアネート化合物に(b)末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物と(c)活性水素基を有す脂肪酸及び(d)数平均分子量が3,000〜6,000であるポリアルキレングリコールエーテルジオールを反応させた樹脂であって、中和処理後のウレア反応及びマイケル付加反応によるアミン残基を含む水系ポリアミン樹脂、並びに(B)成分として(A)成分に分散可能なポリイソシアネート化合物を含有することを特徴とする、柔軟性に優れた水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載された水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物において、さらに(C)成分として無機及び/又は有機微粉体を含有し、ソフトフィール性を呈することを特徴とする、水系ポリウレタン樹脂塗料組成物。
【請求項3】
(a)ジイソシアネート化合物が脂肪族ジイソシアネート化合物であり、(b)末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物が、(a)に対してモル比50%以上の、末端水酸基を有す(メタ)アクリレート化合物であり、(c)活性水素基を有す脂肪酸がジメチロール脂肪酸であり、(d)ポリアルキレングリコールエーテルジオールがポリテトラメチレングリコールエーテルジオールであり、ウレア反応及びマイケル付加反応によるアミン残基が一級及び/又は二級アミノ残基であって樹脂固形分中0.2〜3.0mmol/g含有され、[NCO]/[NH]の活性成分モル比が1.5〜6.0であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載された水系ポリウレタン樹脂被覆剤組成物。
【請求項4】
塗料組成物が、(A)成分の水系ポリアミン樹脂及び(B)成分の硬化剤であるポリイソシアネートの二液型の二成分組み物材料であり、(C)成分の無機及び/又は有機微粉体が適宜に配合され、塗料として使用される際に二成分が混合されることを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載された水系ポリウレタン樹脂塗料組成物。
【請求項5】
(A)成分として、(a)ジイソシアネート化合物に(b)(a)に対してモル比50%以上である、末端水酸基を有し炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有す化合物と(c)活性水素基を有す脂肪酸及び(d)数平均分子量が3,000〜6,000であるポリアルキレングリコールエーテルジオールを反応させて、末端イソシアネートプレポリマーとなし、三級アミンにて中和処理して、一級アミン化合物を有す水溶液に分散させ、イソシアネート残基とのウレア反応及び炭素間不飽和結合と隣接カルボニル基を有する化合物とのマイケル付加反応により、一級及び/又は二級アミン残基を含む水系ポリアミン樹脂を製造し、次いで(A)成分に分散可能な(B)成分のポリイソシアネート化合物並びに(C)成分の無機及び/又は有機微粉体との組成物となすことを特徴とする、請求項2に記載された水系ポリウレタン樹脂塗料組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−84730(P2007−84730A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276900(P2005−276900)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000230135)日本ポリウレタン工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】