説明

水系着色剤分散物、水系着色剤分散物の製造方法、及びインクジェット記録用水系インク

【課題】着色剤が微細に分散され、経時安定性に優れ、保存時に沈降が少ない水系着色剤分散物を提供する。
【解決手段】着色剤(A)と、主鎖を形成する原子と連結基を介して結合する芳香環を含み、前記芳香環の含有量がポリマー全質量に対して10質量%以上21質量%未満である疎水性構造単位(a)、及びポリマー全質量に対して12質量%以上20質量%以下の親水性構造単位(b)を有し、酸価が85mgKOH/g以上の共重合体であるポリマー(B)と、水性液媒体(I)と、を含む水系着色剤分散物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色剤の分散性、保存時の沈降安定性に優れた水系着色剤分散物、水系着色剤分散物の製造方法、及びインクジェット記録用水系インクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、顔料のような水に不溶性の固体を分散させた水分散物はインクジェット記録用インクなどとして多く利用されている。インクジェット記録用水性インクに要求される品質は、油性インクと同様、皮膜の光沢、鮮明性、着色力等に加えて、粘度や分散粒径の経時安定性や保存時の沈降安定性などが求められている。しかしながら、大部分の水性インクは、油性インクの場合に比べて顔料分散性等の適性が著しく劣り、満足な品質が得られ難い。
このような事情から、従来より各種の添加剤、例えば水性用顔料分散樹脂や界面活性剤の使用が検討されてきたが、上記のような経時安定性や保存時の沈降安定性を満足し、既存の高品質な油性インクに匹敵するような水性インクは得られていない。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、顔料に酸価が5〜70mgKOH/gのポリエーテル構造を含む樹脂を被覆した水分散物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、アリールアルキル基やアリール基をもつ水不溶性ビニルポリマーとキナクリドン骨格をもつ顔料とを含む顔料分散剤を用いたインクが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
最近では、主鎖と直接結合していないベンゼン環を有する酸価が10〜85mgKOH/gのポリマーを含む水系着色分散物が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4109713号
【特許文献2】特開2006−176623号公報
【特許文献3】特開2009−084494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、顔料を被覆するポリマーの顔料吸着性が弱いため、水系インクの諸性能、特に分散粒径が十分に満足できるものではなかった。また、特許文献2においては、分散後の粒径や粘度が変化してしまい、経時安定性が満足できるものではなかった。
さらに、特許文献1〜3のいずれの水分散物においても、保存時に沈降が生じることがあり、安定に保存することが困難である場合があった。
【0007】
本発明は、上記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。すなわち、
本発明は、着色剤が微細に分散され、経時安定性に優れ、保存時に沈降が少ない水系着色剤分散物及びその製造方法を提供することを目的とする。また、
本発明は、吐出安定性および吐出性に優れたインクジェット記録用水系インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1> 着色剤(A)と、主鎖を形成する原子と連結基を介して結合する芳香環を含み、前記芳香環の含有量がポリマー全質量に対して10質量%以上21質量%未満である疎水性構造単位(a)、及びポリマー全質量に対して12質量%以上20質量%以下の親水性構造単位(b)を有し、酸価が85mgKOH/g以上の共重合体であるポリマー(B)と、水性液媒体(I)と、を含む水系着色剤分散物。
<2> 前記疎水性構造単位(a)が、下記一般式(1)で表される構造単位を含むことを特徴とする前記<1>に記載の水系着色剤分散物。
【0009】
【化1】

【0010】
前記一般式(1)において、Rは、水素原子、メチル基、またはハロゲン原子を表し、Lは、*−COO−、*−OCO−、*−CONR−、*−O−、または置換もしくは無置換のフェニレン基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基を表す。*は、主鎖に連結する結合手を表す。Lは、単結合または、炭素数1〜30の2価の連結基を表す。
【0011】
<3> 前記疎水性構造単位(a)がフェノキシエチルアクリレートおよびフェノキシエチルメタクリレートの少なくとも一方に由来する構造単位を含むことを特徴とする前記<1>または<2>に記載の水系着色剤分散物。
<4> 前記疎水性構造単位(a)としてフェノキシエチルアクリレートまたはフェノキシエチルメタクリレートに由来する構造単位を含み、ポリマー(B)に占める前記フェノキシエチルアクリレートに由来する構造単位及びフェノキシエチルメタクリレートに由来する構造単位の合計の含率が40質量%以上53質量%以下であることを特徴とする前記<1>〜<3>のいずれか1つに記載の水系着色剤分散物。
【0012】
<5> 前記親水性構造単位(b)がアニオン性基を有し、該アニオン性基がカルボキシル基、リン酸基、及びスルホン酸基より選ばれる1種以上であることを特徴とする前記<1>〜<4>のいずれか1つに記載の水系着色剤分散物。
【0013】
<6> 前記親水性構造単位(b)として、アクリル酸およびメタクリル酸に由来する構造単位の少なくとも一方を含むことを特徴とする前記<1>〜<5>のいずれか1つに記載の水系着色剤分散物。
<7> 前記ポリマー(B)の酸価が85mgKOH/g以上125mgKOH/g以下であることを特徴とする前記<1>〜<6>のいずれか1つに記載の水系着色剤分散物。
<8> 前記ポリマー(B)は、アクリル酸またはメタクリル酸の、炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する疎水性構造単位を更に有することを特徴とする前記<1>〜<7>のいずれか1つに記載の水系着色剤分散物。
<9> 前記アルキルエステルに由来する疎水性構造単位は、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びメタクリル酸エチルより成る群から選ばれる少なくとも一つに由来する疎水性構造単位であることを特徴とする前記<8>に記載の水系着色剤分散物。
<10> 前記ポリマー(B)の重量平均分子量(M)が3万以上10万以下であることを特徴とする前記<1>〜<9>のいずれか1つに記載の水系着色剤分散物。
【0014】
<11> 前記着色剤(A)が顔料であることを特徴とする前記<1>〜<10>のいずれか1つに記載の水系着色剤分散物。
<12> 前記着色剤(A)がアゾ骨格又はキナクリドン骨格をもつ顔料である前記<11>に記載の水系着色剤分散物。
<13> 前記着色剤(A)がC.I.ピグメントレッド122およびC.I.ピグメントイエロー74の少なくとも一方である前記<12>に記載の水系着色剤分散物。
<14> 着色剤(A)、ポリマー(B)、及び有機溶媒(C)の混合物(II)に、塩基性物質を含む水を主成分とする溶液(III)を加えた後、前記有機溶媒(C)を除いて水系着色剤分散物を製造する、前記<1>〜<13>のいずれか1つに記載の水系着色剤分散物の製造方法。
<15> 前記<1>〜前記<13>のいずれか1つに記載の水系着色剤分散物を含むインクジェット記録用水系インク。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、着色剤が微細に分散され、経時安定性に優れ、保存時に沈降がない水系着色剤分散物及びその製造方法を提供することできる。また、
本発明によれば、吐出安定性および吐出性に優れたインクジェット記録用水系インクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の水系着色剤分散物は、着色剤(A)、酸価が85mgKOH/g以上であるポリマー(B)、及び水性液媒体(I)を含み、前記ポリマー(B)として、ポリマー(B)の主鎖を形成する原子と連結基を介して結合する芳香環を含み、前記芳香環の含有量(質量)がポリマー(B)の質量に対し10質量%以上21質量%未満である疎水性構造単位(a)、及びポリマー(B)の質量に対し12質量%以上20質量%以下の親水性構造単位(b)を有する共重合体を用いて構成したものである。
【0017】
本発明は、かかる構成とすることで、経時安定性に優れ、かつ、保存時に分散粒子の沈降が少ない安定な水系着色剤分散物とすることができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
(着色剤(A))
本発明における着色剤(A)について詳細に説明する。
本発明における着色剤としては、公知の染料、顔料等を特に制限なく用いることができる。中でも、インク着色性の観点から、水に殆ど不溶であるか、又は難溶である着色剤であることが好ましい。具体的には例えば、各種顔料、分散染料、油溶性染料、J会合体を形成する色素等を挙げることができ、更に、耐光性の観点から顔料であることがより好ましい。
【0019】
本発明において用いられる顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。前記アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、などが挙げられる。前記多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、などが挙げられる。前記染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート、などが挙げられる。
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
【0020】
カーボンブラックの具体例は、Raven7000,Raven5750,Raven5250,Raven5000 ULTRAII,Raven 3500,Raven2000,Raven1500,Raven1250,Raven1200,Raven1190 ULTRAII,Raven1170,Raven1255,Raven1080,Raven1060,Raven700(以上コロンビアン・カーボン社製)、Regal400R,Regal330R,Regal660R,Mogul L,Black Pearls L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch 900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400(以上キャボット社製)、Color Black FW1, Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black 18,Color Black FW200,Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex35,Printex U,Printex V,Printex140U,Printex140V,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,Special Black4(以上デグッサ社製)、No.25,No.33,No.40,No.45,No.47,No.52,No.900,No.2200B,No.2300,MCF−88,MA600,MA7,MA8,MA100(以上三菱化学社製)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明において使用可能な有機顔料として、イエローインクの顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、14C、16、17、24、34、35、37、42、53、55、65、73、74、75、81、83、93、95、97、98、100、101、104、108、109、110、114、117、120、128、129、138、150、151、153、154、155、180等が挙げられ、アゾ骨格を持つ顔料が好ましく、特に、入手性および価格の面から、C.I.ピグメントイエロー74が最も好ましい。
【0022】
また、マゼンタインクの顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、48(Ca)、48(Mn)、48:2、48:3、48:4、49、49:1、50、51、52、52:2、53:1、53、55、57(Ca)、57:1、60、60:1、63:1、63:2、64、64:1、81、83、87、88、89、90、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、163、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、209、219、269等、およびC.I.ピグメントバイオレット19が挙げられ、キナクリドン骨格をもつ顔料が好ましく、特に、C.I.ピグメントレッド122が最も好ましい。
【0023】
また、シアンインクの顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、16、17:1、22、25、56、60、C.I.バットブルー4、60、63等が挙げられ、特に、C.I.ピグメントブルー15:3が好ましい。
上記の顔料は、単独種で使用してもよく、また上記した各群内もしくは各群間より複数種選択してこれらを組み合わせて使用してもよい。
【0024】
前記水系着色物分散物中における着色剤の含有量は、インク着色性、保存安定性等の観点から、該分散物の全固形分質量に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.2〜15質量%がより好ましく、0.5〜10質量%が特に好ましい。
【0025】
[ポリマー(B)]
本発明におけるポリマー(B)について詳細に説明する。
前記ポリマー(B)は、主鎖を形成する原子と連結基を介して結合する芳香環を含み、前記芳香環の含有量がポリマー全質量に対して10質量%以上21質量%未満である疎水性構造単位(a)と、ポリマー全質量に対して12質量%以上20質量%以下の親水性構造単位(b)とを有し、酸価が85mgKOH/g以上である共重合体であり、前記着色剤(A)の分散剤として用いられる。
このポリマー(B)の構造は、疎水性構造単位と、親水性構造単位とからなる。
【0026】
<疎水性構造単位>
本発明におけるポリマー(B)は、疎水性の構造単位として、少なくとも、該ポリマーの主鎖を形成する原子と連結基を介して結合する芳香環を含み、芳香環をポリマー(B)の全質量に対して10質量%以上21質量%未満の範囲で有する疎水性構造単位(a)〔以下、単に「疎水性構造単位(a)」ともいう。〕を少なくとも含ませて構成されたものであり、必要に応じて、さらに他の疎水性構造単位を設けて構成されてもよい。
【0027】
(疎水性構造単位(a))
疎水性構造単位(a)は、芳香環を、ポリマー(B)の主鎖を形成する原子との間に連結基を介して有している。ここでいう「連結基を介して」とは、芳香環とポリマーの主鎖構造を形成する原子とが、連結基を介して結合した構造となっていることを表す。このような形態を有することで、ポリマー(B)中の親水性構造単位と疎水性の芳香環との間の適切な距離が維持されるため、ポリマー(B)と着色剤(A)とに相互作用が生じやすくなり、強固に吸着し、結果分散性が向上する。
【0028】
また、本発明におけるポリマー(B)がグラフトポリマー、櫛形ポリマー、スターポリマー等の分岐ポリマーである場合、本発明においてはグラフトポリマー、櫛形ポリマーの所謂“側鎖”または“枝ポリマー”を形成する原子をも“主鎖”を形成する原子と見做し、同様にスターポリマーの“腕ポリマー”を形成する原子をも“主鎖”を形成する原子とみなす。
【0029】
前記ポリマー(B)の主鎖を形成する原子に連結基を介して芳香環を有する疎水性構造単位(a)は、芳香環の種類によっても異なるが、前記芳香環含率の定められた範囲の中で、前記ポリマー(B)の全質量のうち25質量%以上83質量%未満であることが好ましく、30質量%以上80質量%未満であることがより好ましく、40質量%以上75質量%未満であることが特に好ましい。
【0030】
本発明においては、前記疎水性構造単位(a)における前記芳香環は、置換または無置換のベンゼン環、置換または無置換のナフタレン環であることが好ましく、好ましい置換基としてはアルキル基、アルキルオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基等が挙げられるが、着色剤(A)の分散性、入手性、汎用性の観点から無置換のベンゼン環であることが特に好ましい。
【0031】
前記ポリマー(B)の主鎖を形成する原子と連結基を介して結合する芳香環を有する疎水性構造単位(a)として、特に好ましい例に下記一般式(1)で表される構造単位を挙げることができる。
【0032】
【化2】

【0033】
前記一般式(1)中、Rは水素原子、メチル基、またはハロゲン原子を表し、Lは*−COO−、*−OCO−、*−CONR−、*−O−、または置換もしくは無置換のフェニレン基を表し、Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基を表す。「*」は主鎖に連結する結合手を表す。Lは単結合または、炭素数1〜30の2価の連結基を表し、より好ましくは炭素数1〜25の連結基であり、特に好ましくは炭素数1〜20の連結基である。該2価の連結基は、飽和でも不飽和でもよく、また、直鎖構造でも、分岐構造、環構造を有してもよく、O、N、及びSより選ばれるヘテロ原子を含有してもよい。
ここで、前記フェニレン基に含まれる置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基等、シアノ基等が挙げられるが、特に限定されない。
【0034】
前記一般式(1)の中でも、Rが水素原子またはメチル基であり、Lが*−COO−、であり、Lが炭素数1〜15の2価の連結基である構造単位の組合せが好ましく、より好ましくは、Rが水素原子またはメチル基であり、Lが*−COO−であり、Lが炭素数1〜12(より好ましくは炭素数1〜3)のアルキレン基またはオキシアルキレン基を含む2価の連結基である構造単位である。
対応するモノマーとしては、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート並びに、オリゴ(繰り返し単位数が2〜6程度)エチレングリコールモノフェニルエーテルアクリレート類及びメタクリレート類から選択される1種以上が挙げられる。これらのうち、好ましいのは、2−フェノキシエチルアクリレートまたは2−フェノキシエチルメタクリレートであり、最も好ましいのは2−フェノキシエチルメタクリレートである。
【0035】
前記一般式(1)で表される構造単位がフェノキシエチルアクリレートまたはフェノキシエチルメタクリレートに由来する構造単位である場合、着色剤(特に、顔料)の分散性向上の観点から、前記フェノキシエチルアクリレートに由来する構造単位及びフェノキシエチルメタクリレートに由来する構造単位の合計のポリマー(B)に占める含率は40質量%以上53質量%以下であることが好ましく、45質量%以上53質量%以下であることがより好ましく、48質量%以上53質量%以下であることが特に好ましい。
【0036】
また、前記疎水性構造単位(a)における芳香環の含有量は、ポリマー(B)の質量に対し、着色剤(特に顔料)分散性向上の観点から、10質量%以上21質量%未満であり、より好ましくは12質量%以上21質量%未満である。疎水性構造単位(a)における芳香環の含有量が10質量%未満であると、着色剤(特に顔料)の分散性に劣る。また、該芳香環の含有量が21質量%以上であると、経時での分散性に劣る点で好ましくない。
ここで「由来する構造単位」とは、化合物がこれに隣接する繰り返し単位と結合することで形成されるポリマー中の成分を意味する。
【0037】
本発明におけるポリマー(B)は、前記他の疎水性構造単位として、更に、疎水性構造単位(a)以外の疎水性の構造単位(以下、疎水性構造単位(c)と称することがある。)を有していることが望ましい。
前記疎水性構造単位(c)のモノマーは、重合体を形成しうる官能基と疎水性の官能基とを有していれば特に制限はなく、公知の如何なるモノマー類をも用いることができる。疎水性構造単位(c)を形成しうるモノマーとしては、入手性、取り扱い性、汎用性の観点から、ビニルモノマー類((メタ)アクレート類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン類、ビニルエステル類等)が好ましい。
【0038】
前記ポリマー(B)が前記疎水性構造単位(c)を含むことで、本発明の水系着色剤分散物は更に良好な分散性を示す。その機構は詳しくは不明だが、下記のように推測される。すなわち、
前記ポリマー(B)は主として着色剤との親和性を示す疎水性構造単位(a)と、主として水性媒体との親和性を示す親水性構造単位(b)という、いわば相反する性質の構造単位を含む。疎水性構造単位(c)は疎水性構造単位(a)と親水性構造単位(b)の中間的な親和性特性を有する。疎水性構造単位(c)、特に(メタ)アクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する疎水性構造単位を含むことで、疎水性構造単位(a)と親水性構造単位(b)は互いに干渉することなくそれぞれの機能をより有効に発揮する。その結果、水溶性着色剤分散液の分散特性はさらに向上する。
【0039】
前記疎水性構造単位(c)は、前記ポリマー(B)に好ましくはその全質量中30質量%を超える量で含まれ、30質量%を超え50質量%以下とすることがより好ましく、33質量%を超え40質量%以下とすることが更に好ましく、33質量%以上37質量%以下とすることが特に好ましい。
【0040】
前記疎水性構造単位(c)は、これに対応するモノマーを重合することにより形成することができる。また、ポリマーの重合後に、ポリマー鎖に疎水性官能基を導入してもよい。
前記ビニルモノマー類の例として、(メタ)アクリレート類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(n−又はイソ−)プロピル(メタ)アクリレート、(n−、イソ−又はターシャリー−)ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(n−又はイソ−)オクチル(メタ)アクリレート、(n−又はイソ−)デシル(メタ)アクリレート、(n−又はイソ−)ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、これらのうち、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステルが好ましく、炭素数1〜4のアルキルエステルがより好ましく、炭素数1のアルキルエステルが更に好ましい。
【0041】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−(2−メトキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ビニル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジアリル(メタ)アクリルアミド、N−アリル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類が挙げられ、中でも、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0042】
スチレン類としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、n−ブチルスチレン、tert−ブチルスチレン、メトキシスチレン、ブトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、クロロメチルスチレン、酸性物質により脱保護可能な基(例えばt−Bocなど)で保護されたヒドロキシスチレン、ビニル安息香酸メチル、およびα−メチルスチレン、ビニルナフタレン等などが挙げられ、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0043】
ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルメトキシアセテート、および安息香酸ビニルなどのビニルエステル類が挙げられ、中でも、ビニルアセテートが好ましい。
【0044】
上記の中でも、疎水性構造単位(c)は、顔料分散性の向上の観点から、アクリル酸またはメタクリル酸の、炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する構造単位であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位であることが特に好ましく、これらの中でも、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、又はメタクリル酸エチルに由来する構造単位であることがさらに好ましく、メタクリル酸メチルに由来する構造単位であることが最も好ましい。
【0045】
<親水性構造単位>
本発明におけるポリマー(B)を構成する親水性構造単位(b)について説明する。
該親水性構造単位(b)は、ポリマー(B)の全質量に対して、12質量%以上20質量%以下の範囲で含有され、13質量%以上19質量%以下がより好ましい。親水性構造単位(b)の含有量が12質量%未満であると、着色剤、特にイエロー色の着色剤(特に顔料)における沈降性に劣る。また、親水性構造単位(b)の含有量が20質量%を超えると、分散性の点で好ましくない。
前記ポリマー(B)の親水性構造単位(b)は、アニオン性基を含有する親水性構造単位(b’)〔以下、単に「親水性構造単位(b’)」ともいう。〕を含んでもよい。
【0046】
(アニオン性基を含有する親水性構造単位(b’))
アニオン性基を含有する親水性構造単位(b’)は、アニオン性基含有モノマーを重合することにより得ることができるが、アニオン性基を有さないポリマーの重合後、該ポリマー鎖にアニオン性基を導入することで形成してもよい。
アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基が挙げられ、カルボキシル基がより好ましい。
本発明に用いることができるアニオン性基含有モノマーの例を以下に挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
アニオン性基含有モノマーのうち、カルボキシル基を含むものとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸等の不飽和カルボン酸モノマー類及び、β−カルボキシエチルアクリル酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられ、スルホン酸基含有モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリル酸エステル、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。リン酸基含有モノマーとしては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0048】
これらのうちでは、インク粘度及び吐出性の観点から、不飽和カルボン酸モノマー類が好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸が特に好ましく、メタクリル酸が最も好ましい。なお、アニオン性基含有モノマーは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる

【0049】
本発明におけるポリマー(B)の酸価は85mgKOH/g以上とするが、カルボキシル基等のアニオン性基を含有する場合、保存安定性(保存時の分散粒子の沈降抑制)の観点から、ポリマー(B)の酸価は85mgKOH/g以上、140mgKOH/g以下であることが好ましく、90mgKOH/g以上、130mgKOH/g以下であることがより好ましく、90mgKOH/g以上、120mgKOH/g以下であることが最も好ましい。なお、ここでいう酸価とは、ポリマー(B)の1gを完全に中和するのに要するKOHの質量(mg)で定義され、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法で測定することができ、本発明においてはこれを採用する。
カルボン酸等のアニオン性基を含有する場合の前記ポリマー(B)の酸価が85mgKOH/g以上の場合には、解離したカルボキシル基による分散物の荷電反発、経時での沈降、および保存安定性の向上の点で好ましい性質が得られる。また、140mgKOH/g以下の場合では、ポリマーの親水性−疎水性バランス、着色剤に吸着しないポリマーの水性媒体中への溶出の抑制、分散の十分性、分散物の粒径を小さくする点で好ましい性質が得られる。
また、本発明におけるポリマー(B)は、保存安定性(保存時の分散粒子の沈降抑制)の観点から、水可溶性であることが望ましい。ここでいう水可溶性とは水酸化ナトリウムで100%中和させた後のポリマー(B)の溶解量(25℃)が、水100gに対して1g以上であること意味し、好ましく水100gに対して5g以上、さらに好ましくは水100gに対して10g以上である。
【0050】
本発明におけるポリマー(B)は、各々の種類の構造単位が不規則的に導入されたランダム共重合体であっても、規則的に導入されたブロック共重合体であってもよく、ブロック共重合体である場合の各構造単位は、如何なる導入順序で合成されたものであってもよく、同一の構成成分を2度以上用いてもよいが、ランダム共重合体であることが汎用性、製造性の点で好ましい。
【0051】
さらに、本発明で用いるポリマー(B)の分子量範囲は、立体反発効果の観点から、重量平均分子量(Mw)で、好ましくは1万〜20万であり、より好ましくは3万〜10万であり、最も好ましくは3万〜6万である。
前記分子量を上記範囲とすることにより、分散剤としての立体反発効果が良好となりやすく、また立体効果により着色剤への吸着に時間がかからないように成りやすい点で好ましい。また、前記分子量を6万以下とすることでより水性着色剤分散液の粘度を高くしすぎず、取り扱いが容易となり、3万以上にすることで、水性着色剤分散液の経時安定性がより良くなる。
また、本発明で用いるポリマー(B)の分子量分布(重量平均分子量値/数平均分子量値で表される)は、1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。
前記分子量分布を上記範囲とすることにより、顔料の分散時間の短縮、及び分散物の経時安定性の観点から好ましい。ここで数平均分子量及び、重量平均分子量は、TSKgel GMHxL、TSKgel G4000HxL、TSKgel G2000HxL(何れも東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したGPC分析装置により、THFを溶離液として示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用い換算して表したポリスチレン換算値である。
【0052】
本発明に用いられるポリマーは、種々の重合方法、例えば溶液重合、沈澱重合、懸濁重合、沈殿重合、塊状重合、乳化重合により合成することができる。重合反応は回分式、半連続式、連続式等の公知の操作で行なうことができる。
重合の開始方法はラジカル開始剤を用いる方法、光または放射線を照射する方法等がある。これらの重合方法、重合の開始方法は、例えば鶴田禎二「高分子合成方法」改定版(日刊工業新聞社刊、1971)や大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊、124〜154頁に記載されている。
上記重合方法のうち、特にラジカル開始剤を用いた溶液重合法が好ましい。溶液重合法で用いられる溶剤は、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ベンゼン、トルエン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールのような種々の有機溶剤の単独あるいは2種以上の混合物でもよいし、水との混合溶媒としてもよい。
重合温度は生成するポリマーの分子量、開始剤の種類などと関連して設定する必要があり、通常、0℃〜100℃程度であるが、50〜100℃の範囲で重合を行なうことが好ましい。
反応圧力は、適宜選定可能であるが、通常は、1〜100kg/cm、特に、1〜30kg/cm程度が好ましい。反応時間は、5〜30時間程度である。得られたポリマーは再沈殿などの精製を行なってもよい。
【0053】
本発明におけるポリマー(B)として好ましい具体例を以下に示すが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0054】
【化3】



【0055】
【化4】



【0056】
(水性液媒体(I))
本発明の水系着色剤分散物における水性液媒体としては、水を含むものであるが、水溶性有機溶媒を更に含むことができる。前記水溶性有機溶媒は乾燥防止剤、湿潤剤あるいは浸透促進剤の目的で使用される。
ノズルのインク噴射口において水系着色剤分散物を含む該インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止する目的で乾燥防止剤が用いられ、乾燥防止剤や湿潤剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒が好ましい。
また、前記インクジェット用インクを紙によりよく浸透させる目的で浸透促進剤として、水溶性有機溶媒が好適に使用される。
ここで、水溶性有機溶媒における水溶性とは、20℃の水に1質量%以上溶解することを意味する。
【0057】
水溶性有機溶媒の例として、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール類);エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルホキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
上記に、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類;糖アルコール類;ヒアルロン酸類;尿素類等のいわゆる固体湿潤剤等を添加してもよい。
【0058】
乾燥防止剤や湿潤剤の目的としては,多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0059】
浸透剤の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、ポリオール化合物としての脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
【0060】
本発明に使用される水溶性有機溶媒は、単独で使用しても2種類以上混合して使用しても構わない。水溶性有機溶媒の含有量としては、水性液媒体全体に対して、1質量%以上60質量%以下、好ましくは5質量%以上40質量%以下で使用される。
本発明に使用される水の添加量は、特に制限はないが、水性液媒体全体に対して、好ましくは10質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上80質量%以下であり、更に好ましくは50質量%以上70質量%以下である。
本発明の水系着色剤分散物中の前記水性液媒体の含有量としては、乾燥防止、被着体への浸透性、粘度等の液物性の観点から、1〜70質量%が好ましく、2〜60質量%がより好ましく、5〜50質量%が特に好ましい。
水性液媒体の含有量を上記範囲とすることにより、水系着色剤分散物の乾燥速度、被着体への浸透性、粘度等の液物性を適切な状態に調整することができる。
【0061】
(水系着色剤分散物の製造方法)
本発明の水系着色剤分散物の製造方法は、着色剤(A)、ポリマー(B)、及び前記ポリマー(B)を溶解または分散しうる有機溶媒(C)の混合物(II)に、塩基性物質を含む水を主成分とする溶液(III)を添加(混合)した後(混合・水和工程)、前記有機溶媒(C)を除く(溶媒除去工程)ことを特徴とする。
本発明の水系着色剤分散物の製造方法によれば、前記着色剤が微細に分散され、経時安定性、保存安定性に優れた水系着色剤分散物を製造することができる。
【0062】
本発明における有機溶媒(C)は、本発明におけるポリマー(B)を溶解または分散できることが必要だが、これに加えて水に対してある程度の親和性を有することが好ましい。具体的には、20℃において、水に対する溶解度が10質量%以上50質量%以下であるものが好ましい。
【0063】
本発明の水系着色剤分散物は、更に詳細には下記に示す工程(1)、(2)よりなる製造方法で製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0064】
工程(1):(i)着色剤(A)、ポリマー(B)、及び前記ポリマー(B)を溶解・分散しうる有機溶媒(C)との混合物、(ii)塩基性物質を含む水を主成分とする溶液(III)、及び(iii)水を含有する混合物を混合し、分散処理する工程
工程(2):前記有機溶媒(C)を除去する工程
【0065】
前記工程(1)では、まず前記ポリマー(B)を有機溶媒(C)に溶解または分散させ、これらの混合物を得る。その後、得られた混合物に着色剤(A)を混合し、混合物(II)を得る(混合工程)。
次に、塩基性物質を含み水を主成分とする溶液(III)、水、及び必要に応じて界面活性剤等を、前記混合物(II)に加えて混合、分散処理し、水中油型の水系着色剤分散物を得る。
中和度には、特に限定がない。通常、最終的に得られる水系着色剤分散物の液性が、例えば、pHが4.5〜10であることが好ましい。前記ポリマー(B)(例えば、水不溶性ビニルポリマー)の望まれる中和度により、目標とするpHを決めることもできる。
【0066】
前記水系着色剤分散物の製造方法で用いる着色剤(A)、ポリマー(B)、及びその他の添加剤は、前述の水系着色剤分散物の項において記載したものと同義であり、好ましい例も同様である。
【0067】
本発明に用いられる有機溶媒(C)の好ましい例としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒が挙げられる。これらのうちアルコール系溶媒としては、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、第3級ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。これらの溶媒の中では、イソプロパノール、アセトン及びメチルエチルケトンが好ましく、特に、メチルエチルケトンが好ましい。
また、これらの有機溶媒(C)は、単独で用いても複数併用してもよい。
【0068】
前記水系着色剤分散物の製造においては、二本ロール、三本ロール、ボールミル、トロンミル、ディスパー、ニーダー、コニーダー、ホモジナイザー、ブレンダー、単軸若しくは2軸の押出機などを用いて、強い剪断力を与えながら混練分散処理を行なうことができる。
なお、混練、分散についての詳細は、T.C. Patton著”Paint Flow and Pigment Dispersion”(1964年 John Wiley and Sons社刊)等に記載されている。
また、必要に応じて、縦型若しくは横型のサンドグラインダー、ピンミル、スリットミル、超音波分散機等を用いて、0.01〜1mmの粒径のガラス、ジルコニア等でできたビーズで微分散処理を行なうことにより得ることができる。
【0069】
本発明の水系着色剤分散物の製造方法において、前記有機溶媒の除去は特に限定されず、減圧蒸留等の公知に方法により除去できる。
【0070】
本発明の水系着色剤分散物の製造方法により得られた着色剤の分散粒子のd95粒径としては、100nm以上290nm未満が好ましく、120nm以上270nm未満がより好ましく、130nm以上250nm未満がさらに好ましい。このような範囲とすることにより発色性、分散安定性、ジェッティング(吐出性)の際の吐出安定性が良好となる点で好ましい。
前記着色剤の分散粒子のd95粒径は、動的光散乱法を用いて測定した値を採用する。d95粒径の測定は、ナノトラック粒度分布測定装置 UPA−EX150(日機装(株)製)を用い、得られた水系着色剤分散物のd95粒径を動的光散乱法により測定した。ここで、d95粒径とは、個数累積粒度分布において、小粒径側から累積95%となる粒径を表す。
【0071】
本発明の水系着色剤分散物は、例えば、後述のインクジェット記録用水系インク、また、水性ボールペンやマーカーペンなどの筆記用具の水系インクに使用することができる。この場合、インクジェットノズルやペン先が乾燥により目詰まりするのを防ぐために、上記の水溶性有機溶媒のうち、低揮発性又は不揮発性の溶剤を添加することもできる。また、記録媒体への浸透性を高めるためには、揮発性の溶剤を添加することもできる。
【0072】
(インクジェット記録用水系インク)
本発明のインクジェット記録用水系インク(以下、適宜「インクジェットインク」ということがある。)は、前記本発明の水系着色剤分散物を用いてなることを特徴とする。
本発明のインクジェットインクは前記本発明の水系着色剤分散物をそのまま、或いは必要に応じて、更に、前記乾燥防止剤などのその他の添加剤を添加して、前記水性液媒体(I)で希釈して調製することができる。
【0073】
前記インクジェットインクに含まれる着色剤の量は、インク着色性、保存安定性、吐出性の観点から、0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.5〜10質量%の範囲がより好ましい。
【0074】
該インクジェットインクに含まれる前記ポリマー(B)の量は、該インクジェットインクの分散性、保存安定性、吐出性の観点から、着色剤(特に顔料)に対して、1〜150質量%の範囲とすることが好ましく、5〜100質量%の範囲とすることがより好ましい。
【0075】
本発明のインクジェットインクは、印刷物の定着性、耐擦性を高める目的で樹脂粒子をさらに含有してもよい。本発明に用いることができる樹脂粒子としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等あるいはそのラテックス等を用いることができる。アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂あるいはそのラテックスを好ましい例として挙げることができる。
樹脂の重量平均分子量は、1万以上20万以下が好ましく、より好ましくは3万以上10万以下である。
樹脂粒子の平均粒径は、10nm〜1μmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、20〜100nmの範囲が更に好ましく、20〜50nmの範囲が特に好ましい。
樹脂粒子の添加量は、インクジェットインクの全質量に対して、0.5〜20質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%がさらに好ましい。
樹脂粒子のガラス転移温度Tgは、30℃以上であることが好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。
また、樹脂粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ樹脂微粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
【0076】
本発明のインクジェットインクは、前記成分のほかに、必要に応じて、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、キレート剤、表面張力調整剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0077】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0078】
褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
【0079】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ソルビン酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウムなどが挙げられる。これらは、インクジェットインク中に0.02〜1.00質量%の範囲で含有されるのが好ましい。
【0080】
pH調整剤としては、調合されるインクジェット記録用水系インクに悪影響を及ぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルコールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3プロパンジオールなど)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アンモニウム水酸化物(例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。
【0081】
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
【0082】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、りん系酸化防止剤などが挙げられる。
【0083】
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0084】
表面張力調整剤としてはノニオン系、カチオン系、アニオン系、ベタイン系の界面活性剤が挙げられる。表面張力の調整剤の添加量は、インクジェットで良好に打滴するために、本発明のインクジェット記録用水系インクの表面張力を20〜60mN/mに調整する量が好ましく、より好ましくは20〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mに調整できる量である。
前記界面活性剤としては、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。更には、上記高分子物質(高分子分散剤)を界面活性剤としても使用することもできる。
【0085】
アニオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテ硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、t−オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、t−オクチルフェノキシエチルポリエトキシエタノール、ノニルフェノキシエチルポリエトキシエタノール等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
カチオン性界面活性剤の具体例としては、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられ、具体的には、例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミン、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ステアラミドメチルピリジウムクロライド等が挙げられる。
【0086】
インクジェットインクに添加する界面活性剤の量は、特に限定されるものではないが、水系着色剤分散液の全質量に対し、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量%、更に好ましくは1〜3質量%である。
【0087】
前記インクジェットインクの粘度としては、インクジェットインクの付与をインクジェット方式で行なう場合、打滴安定性と凝集速度の観点から、1〜30mPa・sの範囲が好ましく、1〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2.5〜15mPa・sの範囲が特に好ましい。なお、ここでの粘度は、E型粘度計を用いて測定した25℃での測定値である。
【0088】
また、該インクジェットインクのpHは、7〜10の範囲が好ましい。pHをこの範囲とすることで、保存安定性を向上させることができ、しかも、インクジェットインクが適用される装置であるインクジェット記録装置の部材の腐食を抑制することもできる。
該インクジェットインクにおけるpH調整は、前記水系着色剤分散物の項において記載した塩基性物質を用いて調製することができる。
【0089】
本発明のインクジェットインクは、インクジェットノズルが乾燥により目詰まりするのを防ぐために、上記の水溶性有機溶剤のうち、低揮発性又は不揮発性の溶剤を添加するとよい。また、記録媒体への浸透性を高めるためには、揮発性の溶剤を添加するとよい。インクに適度な表面張力を持たせるために、界面活性剤を添加することも好ましい。
【実施例】
【0090】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0091】
[合成例1]:ポリマーB−1の合成
下記スキームに従って合成した。
【0092】
【化5】

【0093】
攪拌機、冷却管を備えた500mlの三口フラスコにメチルエチルケトン33gを加え窒素雰囲気下で75℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン70gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート2g、フェノキシエチルメタクリレート50g、メタクリル酸13.5g、メチルメタクリレート36.5gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート0.2gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温し4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出したポリマーを乾燥してポリマーB−1を95g得た。
得られたポリマーの組成はH−NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は40,300であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法により、このポリマー(以下、「分散剤ポリマー」ともいう。)の酸価を求めたところ、88.0mgKOH/gであった。
【0094】
[合成例2]:ポリマーB−2〜B−34及び比較化合物の合成
前記合成例1の合成方法に準じて、本実施例で使用する他のポリマーB−2〜B−34、および比較化合物(C−1)〜(C−4)についても同様に合成した。分子量の調整は、開始剤であるジメチル2,2’−アゾビスイソブチレートの添加量を、酸価の調整はモノマーの仕込み比を、それぞれ調整することで行なった。他のポリマー及び比較化合物の構造については、下記の表1に示す。
【0095】
[合成例3]:比較化合物D−3の合成
前記合成例1の合成方法に準じて、モノマーをフェノキシエチルメタクリレート50g、メタクリル酸10g、メチルメタクリレート35g、ポリエチレングリコールモノメタクリレート5gとし、比較化合物(D−3)を同様に合成した。分子量の調整は、開始剤であるジメチル2,2’−アゾビスイソブチレートの添加量を調整することで行なった。得られたポリマーのMwは40,100、酸価は、65.2mgKOH/gであった。
【0096】
【化6】

【0097】
[実施例1]
(顔料含有樹脂粒子の分散物(顔料分散物(E−4))の調製)
ピグメントブルー15:3(PB15:3、大日精化株式会社製 フタロシアニンブル−A220)10質量部と、前記ポリマーB−2を5質量部と、メチルエチルケトン42質量部とを混合し、これに1規定のNaOH水溶液6.2質量部及びイオン交換水87.2質量部をさらに混合し、ビーズミルで0.1mmφジルコニアビーズを使い、2〜6時間分散した。
得られた分散物を減圧下55℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去することにより、顔料濃度が10.2質量%の顔料含有樹脂粒子の分散物を得た。さらに、遠心分離機(05P−21、日立製作所社製)により5000rpmで30分間、遠心分離させた後、顔料濃度が15質量%になるようにイオン交換水を添加して顔料分散液を調製し、2.5μmのメンブレンフィルター(東洋濾紙株式会社製)を用いて加圧ろ過した。その後、顔料濃度が4質量%になるようにイオン交換水を添加し、本発明の水系着色剤分散物として顔料分散物(E−4)を得た。
【0098】
(顔料分散物(E−1)〜(E−3)、(E−5)〜(E−35)の調製)
前記顔料分散物(E−4)の調製において、ポリマーB−2及びピグメントブルー15:3に代えて、下記表1に記載された成分に変更したこと以外は、すべて前記顔料分散物(E−4)の調製と同様にして、本発明の水系着色剤分散物として顔料分散物(E−1)〜(E−3)及び(E−5)〜(E−35)をそれぞれ調製した。
【0099】
下記表1に記載の顔料の詳細は、下記の通りである。
・C.I.Pigment Red 122(PR122、BASFジャパン(株)製、商品名:CROMOPHTAL Jet Magenta DMQ)
・C.I.Pigment Yellow 74(PY74、BASFジャパン(株)製、商品名:Irgalite Yellow GS)
・カーボンブラック(CB、degussa社製、商品名:NIPEX180−IQ)
【0100】
(水性インクの調製)
上記で得られた顔料分散物(E−4)を用い、下記の組成より成る顔料分散物含有組成物を調製し、該組成物に遠心分離(10000〜20000rpmで30分〜2時間)を行ない、水性インク(インクジェット記録用水系インク)(F−4)を調製した。
<組成>
前記顔料分散物(E−4) ・・・40質量部
グリセリン ・・・7質量部
ジエチレングリコール ・・・9質量部
トリエタノールアミン ・・・1質量部
オルフィンE1010(日信化学工業(株)製)・・・1質量部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル ・・・9質量部
イオン交換水 ・・・34質量部
東亜DKK(株)製のpHメーターWM−50EGにて、前記水性インク(F−4)のpHを測定したところ、pHは8.6であった。
【0101】
前記水性インク(F−4)と同様にして、前記顔料分散物(E−1)〜(E−3)、(E−5)〜(E−35)を顔料分散物(E−4)に代えて用いることにより、それぞれ対応する水性インク(F−1)〜(F−3)、(F−5)〜(F−35)を調製した。
【0102】
(比較用の顔料分散物(E−36)〜(E−42)の調製)
前記顔料分散物(E−4)の調製において、ポリマーB−2を、下記表1に記載のポリマーC−1、C−2、C−3、もしくはC−4、特許第4109713号の段落番号[0043]に記載の共重合体A(以下、D−1と称する。)、又は特開2006−176623号公報の段落番号[0052]の「製造例1」に記載の共重合体(以下、D−2と称する。)、又は比較化合物D−3に変更したこと以外は、前記顔料分散物(E−4)の調製と同様にして、顔料分散物(E−36)〜(E−42)をそれぞれ調製した。
【0103】
(比較用の水性インク(F−36)〜(F−42)の調製)
前記水性インク(F−4)の調製において、顔料分散物(E−4)を用いる代わりに、前記顔料分散物(E−36)〜(E−42)を用いたこと以外は、すべて前記水性インク(F−4)の調製と同様にして、水性インク(F−36)〜(F−42)を調製した。
【0104】
(顔料分散物(水系着色剤分散物)の測定、評価)
(1)d95粒径の測定
ナノトラック粒度分布測定装置 UPA−EX150(日機装(株)製)を用い、得られた顔料分散物のd95粒径を動的光散乱法により測定した。ここで、d95粒径とは、個数累積粒度分布において、小粒径側から累積95%となる粒径を表す。測定結果を下記表2に示す。
<測定条件>
分散物10μlに対しイオン交換水10mlを加え、測定用溶液を調製し、25℃で測定した。
【0105】
(2)顔料分散物の経時安定性
得られた顔料分散物を密閉状態で60℃、28日間放置した後、顔料粒子の凝集及び増粘について、d95粒径、粘度の測定を行ない、下記の評価基準で評価した。評価結果を下記表2に示す。
<評価基準>
◎:顔料粒子のd95粒径・粘度の変化は認められなかった。
○:顔料粒子のd95粒径・粘度の変化は僅かに認められたが実用上問題はなかった。
△:顔料粒子のd95粒径・粘度の変化が多少認められたが実用上問題はなかった。
×:顔料粒子のd95粒径・粘度の変化は認められ、実用上問題となった。
<d95粒径の測定条件>
d95粒径の測定は、上記(1)と同様に行ない、また、粘度の測定は下記の手順により行なった。
<粘度の測定条件>
顔料分散物の粘度は、TV−22型粘度計(東機産業(株)社製)を用い、25℃で測定を行なった。
【0106】
(3)顔料分散物の沈降性
得られた顔料分散物13mlをビュレット中、密閉状態にて23℃、7日間放置した後、上層3ml、下層10mlそれぞれについて、5μm以上の粗大粒子数及び分光吸収の測定を行なった。
5μm以上の粗大粒子数は、フロー式粒子像分析装置FPIA3000(シスメックス(株)製)にて測定した。
また、分光吸収の測定は、上記上層及び下層の液を更に1万倍に希釈したサンプルを使用して、SHIMADZU UV−2450 紫外・可視分光光度計にて測定した。それぞれについて得られた結果は下記の評価基準で評価した。評価結果を下記表2に示す。
<評価基準>
◎:5μm以上粗大粒子がなく、上層と下層の分光吸収の差が小さく、顔料分散物の沈降がみられなかった。
○:顔料分散物の沈降は僅かに認められたが実用上問題はなかった。
×:顔料分散物の沈降は認められ、実用上問題となった
【0107】
(水性インクの評価)
600dpi、256ノズルの試作プリントヘッドを備えたインクジェット記録装置を用いて、これに水性インク(F−1)〜(F−42)を充填して印字し、下記の評価を行なった。評価結果を下記表2に示す。
【0108】
(1)吐出安定性
上記インクジェット記録装置を用いた印刷の際に、印字開始から印字終了までにインクの飛行曲がり、ミストが発生するか印刷物を目視観察して評価し、下記基準に基づき判定した。
<評価基準>
○・・・飛行曲がり及びミストは発生するが、実用上問題ない程度に頻度が低い。
△・・・頻繁ではないが、上記「○」の評価を与えたものに比して発生する頻度が高く、高品位な画質を求める場合には実用上問題となる可能性がある。
×・・・頻繁に発生し実用上問題がある。
【0109】
(2)吐出回復性
インクジェット記録装置を用いて印刷を行なった後、ヘッド部に覆い等を被せず空気中に露出した状態で、温度25℃、65%RHで、3週間放置し、その後再度吐出を行なった際の吐出状態を観察し、下記基準に基づき評価した。
<評価基準>
○・・・所定のメンテナンスを施すことで再度吐出が可能となる。
△・・・所定のメンテナンスを3回繰り返すことで再度吐出が可能となる。
×・・・所定のメンテナンスを行なった限りでは、吐出できない。
ここで、前記「所定のメンテナンス」とは、15Paの圧力を印加してインクを吐出することで、ヘッドの詰まりを解消する操作をいう。
【0110】
【表1】



【0111】
【表2】



【0112】
前記表2から明らかなように、本発明の顔料分散物(水系着色剤分散物)は、顔料の分散粒子が微細で、経時安定性に優れ、沈降性も良好であった。
また、本発明の水性インクは、吐出安定性、吐出回復性に優れていた。
一方、比較の顔料分散物(E−36〜E−42)及び水性インク(F−36〜F−42)は、いずれかの評価項目において劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤(A)と、
主鎖を形成する原子と連結基を介して結合する芳香環を含み、前記芳香環の含有量がポリマー全質量に対して10質量%以上21質量%未満である疎水性構造単位(a)、及びポリマー全質量に対して12質量%以上20質量%以下の親水性構造単位(b)を有し、酸価が85mgKOH/g以上の共重合体であるポリマー(B)と、
水性液媒体(I)と、
を含む水系着色剤分散物。
【請求項2】
前記疎水性構造単位(a)が、下記一般式(1)で表される構造単位を含むことを特徴とする請求項1に記載の水系着色剤分散物。
【化1】


(一般式(1)中、Rは、水素原子、メチル基、またはハロゲン原子を表し、Lは、*−COO−、*−OCO−、*−CONR−、*−O−、または置換もしくは無置換のフェニレン基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基を表す。*は、主鎖に連結する結合手を表す。Lは、単結合または、炭素数1〜30の2価の連結基を表す。)
【請求項3】
前記疎水性構造単位(a)がフェノキシエチルアクリレートおよびフェノキシエチルメタクリレートの少なくとも一方に由来する構造単位を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水系着色剤分散物。
【請求項4】
前記疎水性構造単位(a)として、フェノキシエチルアクリレートまたはフェノキシエチルメタクリレートに由来する構造単位を含み、ポリマー(B)に占める前記フェノキシエチルアクリレートに由来する構造単位及びフェノキシエチルメタクリレートに由来する構造単位の合計の含率が40質量%以上53質量%以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の水系着色剤分散物。
【請求項5】
前記親水性構造単位(b)がアニオン性基を有し、該アニオン性基がカルボキシル基、リン酸基、及びスルホン酸基より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の水系着色剤分散物。
【請求項6】
前記親水性構造単位(b)が、アクリル酸およびメタクリル酸に由来する構造単位の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の水系着色剤分散物。
【請求項7】
前記ポリマー(B)の酸価が85mgKOH/g以上125mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の水系着色剤分散物。
【請求項8】
前記ポリマー(B)は、アクリル酸またはメタクリル酸の、炭素数1〜6のアルキルエステルに由来する疎水性構造単位を更に有することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の水系着色剤分散物。
【請求項9】
前記アルキルエステルに由来する疎水性構造単位は、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びメタクリル酸エチルより成る群から選ばれる少なくとも一つに由来する疎水性構造単位であることを特徴とする請求項8に記載の水系着色剤分散物。
【請求項10】
前記ポリマー(B)の重量平均分子量(M)が3万以上10万以下であることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の水系着色剤分散物。
【請求項11】
前記着色剤(A)が顔料であることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の水系着色剤分散物。
【請求項12】
前記着色剤(A)がアゾ骨格又はキナクリドン骨格をもつ顔料である請求項11に記載の水系着色剤分散物。
【請求項13】
前記着色剤(A)がC.I.ピグメントレッド122およびC.I.ピグメントイエロー74の少なくとも一方である請求項12に記載の水系着色剤分散物。
【請求項14】
着色剤(A)、ポリマー(B)、及び有機溶媒(C)の混合物(II)に、塩基性物質を含む水を主成分とする溶液(III)を加えた後、前記有機溶媒(C)を除いて水系着色剤分散物を製造する、請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の水系着色剤分散物の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の水系着色剤分散物を含むインクジェット記録用水系インク。

【公開番号】特開2011−63793(P2011−63793A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181879(P2010−181879)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】