水素オフガス処理装置及びそれを用いた燃料電池システム、並びに水素オフガスの処理方法
【課題】水素オフガスを安全かつ迅速に処理することができ、処理コストが低廉で、車両搭載用として好適に用いることができる水素オフガス処理装置、燃料電池システム及び水素オフガスの処理方法を提供する。
【解決手段】電極12、13間に、二重壁構造によってガス流路11aが形成された反応管11が設けられており、電極12、13は電圧を付与する高圧電源20に接続されている。ガス流路11a内に水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスを供給するガス供給手段が設けられている。
【解決手段】電極12、13間に、二重壁構造によってガス流路11aが形成された反応管11が設けられており、電極12、13は電圧を付与する高圧電源20に接続されている。ガス流路11a内に水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスを供給するガス供給手段が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素オフガス処理装置及びそれを用いた燃料電池システム、並びに水素オフガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不要となった水素を含むガスである水素オフガスは、例えば、水素を燃料とする燃料電池、金属の熱処理水素焼鈍、水素雰囲気炉、水素製造プラント等、様々な産業分野において発生しており、その水素オフガスを処理する技術が求められている。特に、燃料電池を車両に搭載する場合には、水素オフガスの処理が緊急の課題とされている。
【0003】
燃料電池は、高分子固体電解質膜や無機固体電解質膜を挟んで水素極と酸素極を配置した単位セルを有し、水素極に水素を含む燃料ガスを、酸素極に空気や酸素を供給して発電を行う。この時、両極では、次の(1)、(2)式で表される電気化学反応が生じる。これによって、外部に電流を取り出される。
水素極: H2 →2H+ +2e- ・・・(1)
酸素極:(1/2)O2 +2H+ +2e- →H2 O・・・(2)
【0004】
水素極側を流れる水素は、通常、循環式とされており、これにより燃料電池における水素の利用効率を高めている。しかし、燃料電池の酸素極側に流れる酸素や窒素が、固体電解質膜を通過して水素極側に混入することや、酸素極側で発生した水が水素極側に移動したりするため、循環している水素ガスの濃度は徐々に低下し、発電能力を低下させることとなる。このため、不純物が混入した水素ガスをオフガスとしてパージする必要がある。水素オフガスは高濃度水素であり、可燃性であるため、安全に処理する装置の開発が望まれている。
【0005】
現在開発されている水素オフガス処理法としては、(1)高濃度水素を爆発限界以下の安全な濃度(0.8%以下)まで空気で希釈した後、大気に排出する空気希釈法(例えば、特許文献1、2)、(2)水素オフガスをプラチナなどの触媒存在下で燃焼させる触媒燃焼法(例えば、特許文献3、4、5)、(3)水素オフガスをバーナーで燃焼させる、バーナー燃焼法(例えば、特許文献6)等が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−108805号公報
【特許文献2】特開2005−116255号公報
【特許文献3】特開2003−142131号公報
【特許文献4】特開2005−174702号公報
【特許文献5】特開平5−144460号公報
【特許文献6】特開平10−162849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記(1)の空気希釈法による水素オフガス処理方法では、希釈装置内で局所的に爆発限界を超える可能性がある。また、水素の排気される量は同じであり、地下駐車場等、閉鎖された空間で、大量に水素オフガスが排気された場合には、水素と空気の拡散速度の違いから、局所的に爆発範囲内の混合気を形成する可能性があるため、換気を充分に行うことが必要となる。この点、上記(2)の触媒燃焼法によれば、そのような問題は生じないが、プラチナ等の高価な触媒を用いるため、処理コストが高騰化するという問題を生ずる。また、触媒温度が400°C以上に達することもあり、触媒周辺部を熱から保護するための断熱材等が必要となり、小型化が困難で、車両等の掲載用としてはそぐわない。さらに、上記(3)のバーナー燃焼法においても、火炎を用いることから、燃料電池を車両等に搭載することは、事故時等における安全対策を充分に検討する必要がある。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、水素オフガスを安全かつ迅速に処理することができ、閉鎖された空間で使用しても換気の必要がなく、処理コストが低廉で、消火設備や放熱システムを特に設けなくても安全に駆動することができ、車両搭載用として好適に用いることができる水素オフガス処理装置、燃料電池システム及び水素オフガスの処理方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、既にNOxやSOxを含んだ排ガスの処理方法の研究において、低温プラズマでアンモニアラジカルを生成させており、そのアンモニアラジカルを排ガスに吹き込むことにより、高効率で脱硫反応及び脱硝反応が起こることを見出している。これらの知見に基づき、水素の酸化反応も低温プラズマを用いたラジカル反応により円滑に進行するのではないかと考えた。すなわち、プラズマ中で水素や酸素は解離し、反応性に極めて富むラジカルを発生させ、さらには、そのラジカルが分子状の水素や酸素と反応して新たなラジカルを発生させる。こうして発生した多種類のラジカルの連鎖反応によって、水素が無触媒的に酸化されると考えられる。そして、鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の水素オフガス処理装置は、水素オフガスを酸化処理する水素オフガス処理装置において、前記水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスをラジカル状態にするためのプラズマ処理手段を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の水素オフガス処理装置では、プラズマ処理手段に水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスが導入され、低温プラズマ状態とされる。低温プラズマとは、電子温度がガスの温度よりも高い状態のプラズマのことをいい、大気圧下でプラズマを生成する場合には、大気圧プラズマとも呼ばれている。低温プラズマでは、電子温度が2000K以上にも達するため、水素と酸素は解離してラジカルとなり、次式に示す反応ステップで水素が酸化されると推測される。こうして、水素オフガスを迅速に酸化処理して、安全な水として大気中に排気することができる。このため、閉鎖された空間で使用しても換気の必要がない。
【化1】
【0012】
しかも、低温プラズマ状態は電子温度は高温であっても、ガスの温度はそれよりはるかに低いため、断熱のための特別な工夫は不要であり、断熱材等は特に不要となるため、小型化が可能である。また、消火設備や放熱システムを特に設けなくても安全に駆動することができ、車両などに搭載しても安全である。さらには、加熱のために多量のエネルギーを消費することもない。さらには、触媒を用いないので、処理コストが低廉とすることができる。
【0013】
水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスを低温プラズマの状態にするためのプラズマ処理手段としては、少なくとも2つの電極と該電極間において外部から遮断されたガス流路とが設けられたプラズマ反応部と、該ガス流路内に水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスを通過させるためのガス供給手段と、該電極間に電圧を付与する高圧電源とを備えたものとすることができる。
こうであれば、電極間に高電圧を付与しながら混合ガスを通し、電子を混合ガスの分子に衝突させることによって、安定した低温プラズマを確実に発生させることができる。
【0014】
プラズマ処理手段は誘電体バリア放電によってガス流路内に低温プラズマを発生可能されていることが好ましい。誘電体バリア放電(別称「無声放電」)とは、放電空間が誘電体に囲まれていて、電極がプラズマに直接さらされることのない放電方法をいう。この誘電体バリア放電によって低温プラズマを発生させれば、放電電流が誘電体の蓄積電荷によって制限されるため、アーク放電への移行を防ぐことができ、低温プラズマの制御をさらに容易に行うことができる。なお、誘電体バリア放電は別称として、「大気圧バリア放電」とか、「無声放電」と言われることもあるが、同義である。
【0015】
本発明の水素オフガス処理装置は、燃料電池から排気される水素オフガスの処理に好適に用いることができる。
【0016】
また、本発明の水素オフガス処理装置を用いて、水素オフガス処理を行うことができる。すなわち、本発明の水素オフガス処理方法は、水素オフガスを酸素と反応させてから排気する水素オフガス処理方法において、電圧を付与した電極間に前記水素オフガスと酸素ガスとを含有する混合ガスを通過させて低温プラズマによりラジカル化し、さらにラジカル酸化反応により処理することを特徴とする。
【0017】
本発明の水素オフガス処理方法は、供給電圧、周波数、混合ガスの温度、混合ガスの滞留時間、混合ガスの組成比の少なくとも1つを制御パラメータとすることが好ましい。混合ガス中の水素の酸化反応速度は、供給電圧、周波数、混合ガスの温度、混合ガスの滞留時間及び混合ガスの組成比に大きく影響されるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の水素オフガス処理装置及び水素オフガス処理方法において対象となる水素オフガスの種類について特に限定はなく、例えば、燃料電池、金属の熱処理水素焼鈍、水素雰囲気炉等の水素オフガスの処理に用いることができる。以下、本発明の水素オフガス処理装置を具体化した実施例について、詳述する。
【0019】
(実施例1)
実施例1の水素オフガス処理装置は、図1に示すように、プラズマ反応部10と高周波電源20とから構成されている。
【0020】
プラズマ反応部10には、図2及び図3に示すように、石英ガラスからなる円筒容器形状の反応管11が設けられており、二重壁構造によって内部にガス流路11a(流路幅3mm)が形成されている。反応管11の外径は66mm、内径は51mmとされている。また、反応管11の一端側側壁にはガス流路11aと連通する流入管11bが接続されており、反応管11の他端の底部中央にはガス流路11aと連通する流出管11cが接続されている。
【0021】
反応管11の内側には、ステンレス製の円柱材からなる電極12(直径50mm、長さ280mm)が反応管11の内面と僅かな隙間で対面して設けられている。また、反応管11の外周中央部には、ステンレス製の円筒管からなる電極13(厚さ1mm、長さ200mm)が反応管11の内面と僅かな隙間で対面して設けられている。
【0022】
電極12及び電極13は、図1に示すように、高周波電源20に接続されている。高周波電源20は正弦波2波からなるOCS(One-Cycle
Sinusoidal)電源である(ハイデン研究所製 PHF-2K)。
【0023】
流入管11bはガス混合器15及び流量調節器16a、16b、16c(KOFLOC製MODEL 3660)を介して水素ボンベ17a、酸素ボンベ17b、及び窒素ボンベ17cに接続されており、これらのボンベには100%の標準ガスが充填されている。また、流出管11cはシリカゲルが充填された乾燥管18を介して外気に連通されている。流出管11c内部には熱電対19aが挿入されており、乾燥管11cから外気に出る途中には、TCD−GC19b(熱伝導率検出器を備えたガスクロマトグラフィー装置)が接続されている。
【0024】
<水素オフガス処理試験>
以上のように構成された実施例1の水素オフガス処理装置を用いて、模擬水素オフガスの処理試験を行った。水素オフガスの模擬ガスには、水素、酸素、窒素の標準ガス(いずれも濃度100%)を流量調節器16a、16b、16cにより流量を制御してガス混合器15で混合した混合ガスを用いた。
【0025】
そして、高周波電源20から電極12、13間に、図4に示す正弦波のパルス電圧(1周期T0)を繰り返し印加した。波形の計測は高電圧プローブ(SONY Tektronix社製 P6015A)を用いてデジタルオシロスコープ(SONY Tektronix社製 TDS3034B)にて行なった。
【0026】
こうして、模擬水素オフガスを反応管11に導入しながら、電極12、13間に正弦波のパルス電圧を繰り返し印加することにより、ガス流路11a内に誘電体バリア放電が起こり、低温プラズマが発生することが確認された。そして、流出管11cより排出されるガスの温度を熱電対19aによって測定した。また、プラズマ処理する前の模擬水素オフガス及び流出管11cから排出される排ガスに含まれている水素及び酸素の各濃度は、サンプラー付き高速ガスクロマトグラフ(日本タイラン製M200型、検出器TCD)により90秒間隔でサンプリングして分析した。高速ガスクロマトグラフで用いたキャピラリーカラムはモレキュウラーシーブ5A(外径0.32mm、長さ10m、膜厚25μm)であり、カラム温度を100°Cとした。水素転換率Xhは、初期水素濃度[H2]inと出口水素濃度[H2]outを用いて次式(1)より求めた。
【数1】
【0027】
表1に、実施例1の水素オフガス処理装置による水素燃焼の基本的な特性を調べるために行った試験条件を示す。表1の最上段の条件では、プラズマ生成のための印加電圧Vppは12kV又は15kVで一定とし、周波数RRを7〜15kHzと変化させた。それ以外の試験条件では、供給電力Pを一定とし、周波数RRを2.1〜49.6kHzと広範囲に変化させた。
【表1】
【0028】
水素/酸素/窒素の混合ガスは、ガス混合器15及び流量調節器16a、16b、16cによって調整した。また、水素の濃度は2.0容量%、酸素の濃度は19.5容量%とした。混合ガスの流量は4.0L/min(標準状態)とした。また、当量比φ(すなわち、H2+1/2O2=H2Oの反応において必要とされる実際のH2とO2の質量比(実燃空比)と理論燃空比の比として定義される)は,酸素過剰の場合は1より小さく,水素過剰の場合は1より大きく、理論燃空比の場合は1となるが、図5〜図7の測定は酸素大過剰の0.05で行った。
【0029】
<結 果>
Vpp15kV、RR10kHzにおけるプラズマ点灯開始から880秒までの排ガス中の水素および酸素濃度、排気ガス温度及び水素転換率Xhの変化を図5に示す。この図から、初期濃度が2.0体積%だった水素の濃度が880秒後には0.03体積%まで低下していることが分かる。また、水素転換率Xhは急激に上昇して98.6%に達し、流出管11cからの排出ガス温度の上昇も観測された。
【0030】
また、所定の印加電圧Vpp及び所定の周波数RRにおいて、排出ガス温度Tgと水素転換率Xhとの関係を図6に示す。この図から、排出ガス温度Tg、印加電圧Vpp及び周波数RRの増加に伴って、水素転換率Xhも上昇することが分かる。排出ガス温度Tgの上昇に伴う水素転換率Xhの増加の原因は、分子状の水素の燃焼を促進するためであると考えられる。また、印加電圧Vpp及び周波数RRの増加による水素の燃焼の促進は、水素ラジカルや酸素ラジカルやヒドロキシラジカルの生成が促進されることによるものと考えられる。
【0031】
また、図7は、排出ガス温度Tgが所定の温度となったときにおける、電源消費電力あるいはプラズマ入力電力P(kW)とと水素転換率Xhとの関係を示したものである。この図から,水素転換率Xhと排出ガス温度Tgまたは電源消費電力との関係は、下記式(2)(3)に示す関係にあることが分かった。
【数2】
すなわち、水素転換率Xhは、電源消費電力の二乗で指数関数的に比例する。また、排出ガス温度を高くすれば、定数kを増加させることができるため、水素転換率Xhは増加する。実際の燃料電池の水素オフガスは排出ガス温度80℃以上,水素濃度90%以上であるため、さらに低い温度において、酸化させることができる。
【0032】
以上のように、実施例1の水素オフガス処理装置では、模擬水素オフガスを室温〜100度程度のガス温度において、安全かつ迅速に酸化処理をすることができることが分かった。また、触媒を用いることもないので、処理コストも低廉なものとなる。
【0033】
滞留時間の影響
ガス流路11a内の滞留時間と水素転換率への関係について、模擬水素オフガスの水素濃度2vol%、酸素濃度19.5vol%とし、Vpp12kV、RR7〜12kHzで総流量を8〜15l/minに変化させて模擬水素オフガスの処理試験を行った。模擬水素オフガスは、水素と酸素と窒素とを混合して調整した。排ガス温度が40°Cとなった時点の結果を図8に、排ガス温度60°Cとなった時点の結果を図9に、排ガス温度100°Cとなった時点の結果を図10に示す。
総流量を8〜15L/minに変化させることで、ガス流路11a内の滞留時間を0.43〜1.61秒へと変化させた。その結果、滞留時間0.6秒程度までは排ガス温度が40°Cから60°Cに上昇すると、水素転換率は約10%増加し、60°Cから100°Cに上昇すると、約15%増加した。滞留時間は長くなるほど水素転換率は増加し、特に滞留時間1.2秒以上ではほとんどの条件で水素転換率は90%以上となった。これは、滞留時間の増加により、模擬水素オフガスが低温プラズマから受けるエネルギー量も増加し、より多くのラジカルが生成すること、及び、ラジカル同士の接触時間が増加し、反応が促進されることが原因と考えられる。これらの結果より、供給電力0.7kW以上で、排ガス温度60°C以上となれば、滞留時間が1.5秒で、水素転換率が約100%以上となり、実用上完全な水素オフガスの処理能力を有することがわかった。
以上の結果から、混合ガスの滞留時間を調整することによって、水素の酸化を迅速に行うように制御できることが分かった。
【0034】
模擬水素オフガスの水素/酸素の当量比の影響
初期水素濃度2vol%、Vpp12kV、供給電力0.7〜0.9kW、総流量8L/min、酸素濃度を0.5〜19.8vol%に変化させ、当量比を0.05〜2へ変化させた場合において、排ガス温度が80°Cとなった時の当量比と水素転換率との関係を図11に示す。この図から、供給電力のいかんに関わらず、当量比0.25以上では水素転換率はほぼ100%となり、当量比0.05では水素転換率が他の条件より5〜10%程度低下した。当量比が小さくなると水素転換率が低下するのは、酸素濃度が増加することにより、低温プラズマを形成する窒素濃度が減少するため、電子温度が低下し、ラジカルの生成量が減少することに起因するものと考えられる。また、水素が過剰な条件である当量比1以上の場合には、水素転換率は減少するが、これは水素が燃焼するに必要な酸素が不足することによるものである。これらの結果より、プラズマ中の電子温度が維持でき,かつ水素を完全に処理できる当量比0.5〜1.0とすることが最も効率が良いと考えられる。
以上の結果から、混合ガスの組成比を調製することによって、水素の酸化を迅速に行うように制御できることが分かった。
【0035】
<固体高分子燃料電池システムへの適用>
本発明の水素オフガス処理装置を燃料電池システムへ適用した実施例を図12に示す。
この燃料電池システムは、燃料電池本体30と水素オフガス処理装置40とから構成されている。
【0036】
燃料電池本体30は、燃料電池単体セルが積層された燃料電池スタック31と、燃料電池スタック31に水素を供給するための水素ボンベ32と、燃料電池スタック31に空気を供給するためのコンプレッサー33とを備えている。水素ボンベ32は、水素の供給量を調整するための電磁弁32aを介して燃料電池スタック31の図示しないアノード側ガス流路に接続されている。また、コンプレッサー33の上流側には空気を濾過するためのフィルター34が接続されており、下流側は空気を適度な湿度とするための加湿器35を介して、燃料電池スタック31の図示しないカソード側ガス流路に接続されている。また、アノード側ガス流路の入口と出口には、アノード側ガス流路に供給された水素ガスを循環させるための循環ガス流路36が接続されており、循環ガス流路36には循環ポンプ37が取付けられている。
【0037】
循環ガス流路36の途中には、水素オフガスを排除させるためのオフガス排出管41が接続されており、開閉弁42、水素オフガスを一時的に貯留可能な容積を有するチャンバ43、水素オフガスを一定流量で流出させる流量制御弁44を介して、プラズマ反応部10の流入管11bに接続されている。プラズマ反応部10の構造は実施例1の水素オフガス処理装置と同様であり、同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
また、燃料電池スタック31のカソード側ガス流路の出口には、空気排出管45が接続されおり、流量制御弁46を介してオフガス排出管41における流量制御弁44の下流側に接続されている。さらに、プラズマ反応部10の電極12、13は高周波電源47に接続されている。
【0039】
上述した電磁弁32a、コンプレッサー33、開閉弁42、流量制御弁44、46は制御部50によって制御されている。制御部50は制御用コンピュータシステムによって構成されている。
【0040】
以上のように構成された実施例の燃料電池システムでは、水素ガスが水素ボンベ31から電磁弁32aを介して燃料電池スタック31のアノード側ガス流路に流入する。さらに、コンプレッサー33を駆動させることにより、フィルター34によって浄化された空気が加湿器35によって加湿され、燃料電池スタック31のカソード側ガス流路に流入する。そして、燃料電池スタック31内で水素がアノード側で電気化学的に酸化され、酸素がカソード側で電気化学的に還元され、外部に電流が取り出される(すなわち、発電が行われる)。アノード側ガス流路を流れる水素ガスは、循環ポンプ37を駆動させることによって循環ガス流路36に流入し、循環して繰り返し使用される。そして、水素ガスが循環している間に、電気化学反応で生じた水や、カソードガス流路から図示しない高分子固体電解質膜を拡散してきた酸素、窒素等の不純物が蓄積される。こうして徐々に水素以外の不純物が蓄積された水素ガスは、制御部50によって所定時間ごとに開閉される開閉弁42から、水素オフガスとしてオフガス排出管41から排出され、チャンバ43に貯留される。さらには、流量制御弁44が制御部50によって制御されることにより、チャンバ43に貯留された水素オフガスが、一定の流量でプラズマ反応部10に送られる。
また、制御部50は、流量制御弁46も一定の流量の空気が開閉弁42から排出されるように制御するため、水素オフガスに対して所定の濃度となるように混合されて混合ガスとなり、プラズマ反応部10へ送られる。こうして、水素オフガスは所定の時間ごとに開閉弁42が開閉されてパルス的に、オフガス排出管41に排出されるにもかかわらず、プラズマ反応部10へは、たえず所定の組成、所定の流量で供給される。
【0041】
プラズマ反応部10の流入管10aに送られた混合ガスは、電極12、13間に付与されたパルス電圧によってガス流路11a内で誘電体バリア放電が起こり、低温プラズマが発生する。そして、迅速にラジカル反応が起こり、水素が水に酸化される。こうして水素が酸化されて水と成った排気ガスが外部に放出される。また、先に述べたように、プラズマ反応部10へは、たえず所定の組成、所定の流量で供給されるため、低温プラズマの状態も安定する。さらには、あらかじめ、水素オフガス中の水素の酸化にとって好適な混合ガスの組成及び流量を求めておき、そのような好適な制御を制御部50に行わせることにより、絶えず好適な条件で混合ガス中の水素を酸化させることができる。
【0042】
以上のように、実施例の燃料電池システムでは、プラズマ反応部10のガス流路10a内で低温プラズマが安定して発生し、水素と酸素は解離してラジカルとなり、水素オフガスを迅速に酸化処理して、安全な水として大気中に排気することができる。ガスの温度はそれよりはるかに低いため、断熱のための特別な工夫は不要であり、安全で、車両などに搭載することもできる。また、加熱のために多量のエネルギーを消費することも無い。さらには、触媒を用いないので、処理コストが低廉なものとなる。また、誘電体バリア放電によって低温プラズマを発生させているので、放電電流が誘電体の蓄積電荷によって制限され、アーク放電への移行を防ぐことができる。このため、実施例1の水素オフガス処理装置における実験結果からも明らかなように、供給電圧、混合ガスの温度、混合ガスの滞留時間を制御することによって、混合ガス中の水素の酸化反応を迅速に行わせることができる。
【0043】
上記実施例の燃料電池システムを、排気量が2000cc相当の燃料電池車に適用した場合、6L/min程度の水素オフガスが排出される。圧力損失は,外側反応管内径60mm、内側反応管外径57mm、長さ25cm、混合ガス流量6L/min、ガス温度80°Cの条件で計算した場合の圧力損失は以下に示す計算式から0.3kPaと算出され、実用上問題とならない程度である。
【数3】
また、水素オフガス処理に必要な消費電力は4000Wh/60=67Wminである。例えば、本田技研工業株式会社の新燃料電池車FCX−Vの出力は78kWであることから、この程度の燃料電池車に本発明の水素オフガス処理装置を搭載した場合、出力の僅か0.08%程度の消費電力を水素オフガス処理に使用するのみである。このため、この燃料電池車の燃費はガソリン相当で23.8km/Lであり、水素オフガス処理装置を取付けたとしても燃費は23.7km/Lとなり、燃費に与える影響は極僅かである。
【0044】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1の水素オフガス処理装置の模式図である。
【図2】実施例1の水素オフガス処理装置のプラズマ反応部の断面図である。
【図3】図2のII−II矢視断面図である。
【図4】高周波電源から電極12、13間に付与される電圧の波形を示す。
【図5】プラズマ点灯開始から880秒までの排ガス中の水素および酸素濃度、排気ガス温度及び水素転換率Xhの変化を示すグラフである。
【図6】排出ガス温度Tgと水素転換率Xhとの関係を示すグラフである。
【図7】放電パワー(kW)と水素転換率Xhとの関係を示すグラフである。
【図8】排出ガス温度が40°Cにおける滞留時間と水素転換率との関係を示すグラフである。
【図9】排出ガス温度が60°Cにおける滞留時間と水素転換率との関係を示すグラフである。
【図10】排出ガス温度が100°Cにおける滞留時間と水素転換率との関係を示すグラフである。
【図11】当量比と水素転換率との関係を示すグラフである。
【図12】実施例の燃料電池システムのブロック図である。
【符号の説明】
【0046】
10…プラズマ処理手段
12、13…電極
11a…ガス流路
11、12、13…プラズマ反応部(11…ガス流路、12、13…電極)
15、16a、16b、16c、17a、17b、17c…ガス供給手段(15…ガス混合器15、16a、16b、16c…流量調節器、17a…水素ボンベ、17b…酸素ボンベ、17c…窒素ボンベ)
20…高圧電源
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素オフガス処理装置及びそれを用いた燃料電池システム、並びに水素オフガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不要となった水素を含むガスである水素オフガスは、例えば、水素を燃料とする燃料電池、金属の熱処理水素焼鈍、水素雰囲気炉、水素製造プラント等、様々な産業分野において発生しており、その水素オフガスを処理する技術が求められている。特に、燃料電池を車両に搭載する場合には、水素オフガスの処理が緊急の課題とされている。
【0003】
燃料電池は、高分子固体電解質膜や無機固体電解質膜を挟んで水素極と酸素極を配置した単位セルを有し、水素極に水素を含む燃料ガスを、酸素極に空気や酸素を供給して発電を行う。この時、両極では、次の(1)、(2)式で表される電気化学反応が生じる。これによって、外部に電流を取り出される。
水素極: H2 →2H+ +2e- ・・・(1)
酸素極:(1/2)O2 +2H+ +2e- →H2 O・・・(2)
【0004】
水素極側を流れる水素は、通常、循環式とされており、これにより燃料電池における水素の利用効率を高めている。しかし、燃料電池の酸素極側に流れる酸素や窒素が、固体電解質膜を通過して水素極側に混入することや、酸素極側で発生した水が水素極側に移動したりするため、循環している水素ガスの濃度は徐々に低下し、発電能力を低下させることとなる。このため、不純物が混入した水素ガスをオフガスとしてパージする必要がある。水素オフガスは高濃度水素であり、可燃性であるため、安全に処理する装置の開発が望まれている。
【0005】
現在開発されている水素オフガス処理法としては、(1)高濃度水素を爆発限界以下の安全な濃度(0.8%以下)まで空気で希釈した後、大気に排出する空気希釈法(例えば、特許文献1、2)、(2)水素オフガスをプラチナなどの触媒存在下で燃焼させる触媒燃焼法(例えば、特許文献3、4、5)、(3)水素オフガスをバーナーで燃焼させる、バーナー燃焼法(例えば、特許文献6)等が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−108805号公報
【特許文献2】特開2005−116255号公報
【特許文献3】特開2003−142131号公報
【特許文献4】特開2005−174702号公報
【特許文献5】特開平5−144460号公報
【特許文献6】特開平10−162849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記(1)の空気希釈法による水素オフガス処理方法では、希釈装置内で局所的に爆発限界を超える可能性がある。また、水素の排気される量は同じであり、地下駐車場等、閉鎖された空間で、大量に水素オフガスが排気された場合には、水素と空気の拡散速度の違いから、局所的に爆発範囲内の混合気を形成する可能性があるため、換気を充分に行うことが必要となる。この点、上記(2)の触媒燃焼法によれば、そのような問題は生じないが、プラチナ等の高価な触媒を用いるため、処理コストが高騰化するという問題を生ずる。また、触媒温度が400°C以上に達することもあり、触媒周辺部を熱から保護するための断熱材等が必要となり、小型化が困難で、車両等の掲載用としてはそぐわない。さらに、上記(3)のバーナー燃焼法においても、火炎を用いることから、燃料電池を車両等に搭載することは、事故時等における安全対策を充分に検討する必要がある。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、水素オフガスを安全かつ迅速に処理することができ、閉鎖された空間で使用しても換気の必要がなく、処理コストが低廉で、消火設備や放熱システムを特に設けなくても安全に駆動することができ、車両搭載用として好適に用いることができる水素オフガス処理装置、燃料電池システム及び水素オフガスの処理方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、既にNOxやSOxを含んだ排ガスの処理方法の研究において、低温プラズマでアンモニアラジカルを生成させており、そのアンモニアラジカルを排ガスに吹き込むことにより、高効率で脱硫反応及び脱硝反応が起こることを見出している。これらの知見に基づき、水素の酸化反応も低温プラズマを用いたラジカル反応により円滑に進行するのではないかと考えた。すなわち、プラズマ中で水素や酸素は解離し、反応性に極めて富むラジカルを発生させ、さらには、そのラジカルが分子状の水素や酸素と反応して新たなラジカルを発生させる。こうして発生した多種類のラジカルの連鎖反応によって、水素が無触媒的に酸化されると考えられる。そして、鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の水素オフガス処理装置は、水素オフガスを酸化処理する水素オフガス処理装置において、前記水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスをラジカル状態にするためのプラズマ処理手段を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の水素オフガス処理装置では、プラズマ処理手段に水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスが導入され、低温プラズマ状態とされる。低温プラズマとは、電子温度がガスの温度よりも高い状態のプラズマのことをいい、大気圧下でプラズマを生成する場合には、大気圧プラズマとも呼ばれている。低温プラズマでは、電子温度が2000K以上にも達するため、水素と酸素は解離してラジカルとなり、次式に示す反応ステップで水素が酸化されると推測される。こうして、水素オフガスを迅速に酸化処理して、安全な水として大気中に排気することができる。このため、閉鎖された空間で使用しても換気の必要がない。
【化1】
【0012】
しかも、低温プラズマ状態は電子温度は高温であっても、ガスの温度はそれよりはるかに低いため、断熱のための特別な工夫は不要であり、断熱材等は特に不要となるため、小型化が可能である。また、消火設備や放熱システムを特に設けなくても安全に駆動することができ、車両などに搭載しても安全である。さらには、加熱のために多量のエネルギーを消費することもない。さらには、触媒を用いないので、処理コストが低廉とすることができる。
【0013】
水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスを低温プラズマの状態にするためのプラズマ処理手段としては、少なくとも2つの電極と該電極間において外部から遮断されたガス流路とが設けられたプラズマ反応部と、該ガス流路内に水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスを通過させるためのガス供給手段と、該電極間に電圧を付与する高圧電源とを備えたものとすることができる。
こうであれば、電極間に高電圧を付与しながら混合ガスを通し、電子を混合ガスの分子に衝突させることによって、安定した低温プラズマを確実に発生させることができる。
【0014】
プラズマ処理手段は誘電体バリア放電によってガス流路内に低温プラズマを発生可能されていることが好ましい。誘電体バリア放電(別称「無声放電」)とは、放電空間が誘電体に囲まれていて、電極がプラズマに直接さらされることのない放電方法をいう。この誘電体バリア放電によって低温プラズマを発生させれば、放電電流が誘電体の蓄積電荷によって制限されるため、アーク放電への移行を防ぐことができ、低温プラズマの制御をさらに容易に行うことができる。なお、誘電体バリア放電は別称として、「大気圧バリア放電」とか、「無声放電」と言われることもあるが、同義である。
【0015】
本発明の水素オフガス処理装置は、燃料電池から排気される水素オフガスの処理に好適に用いることができる。
【0016】
また、本発明の水素オフガス処理装置を用いて、水素オフガス処理を行うことができる。すなわち、本発明の水素オフガス処理方法は、水素オフガスを酸素と反応させてから排気する水素オフガス処理方法において、電圧を付与した電極間に前記水素オフガスと酸素ガスとを含有する混合ガスを通過させて低温プラズマによりラジカル化し、さらにラジカル酸化反応により処理することを特徴とする。
【0017】
本発明の水素オフガス処理方法は、供給電圧、周波数、混合ガスの温度、混合ガスの滞留時間、混合ガスの組成比の少なくとも1つを制御パラメータとすることが好ましい。混合ガス中の水素の酸化反応速度は、供給電圧、周波数、混合ガスの温度、混合ガスの滞留時間及び混合ガスの組成比に大きく影響されるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の水素オフガス処理装置及び水素オフガス処理方法において対象となる水素オフガスの種類について特に限定はなく、例えば、燃料電池、金属の熱処理水素焼鈍、水素雰囲気炉等の水素オフガスの処理に用いることができる。以下、本発明の水素オフガス処理装置を具体化した実施例について、詳述する。
【0019】
(実施例1)
実施例1の水素オフガス処理装置は、図1に示すように、プラズマ反応部10と高周波電源20とから構成されている。
【0020】
プラズマ反応部10には、図2及び図3に示すように、石英ガラスからなる円筒容器形状の反応管11が設けられており、二重壁構造によって内部にガス流路11a(流路幅3mm)が形成されている。反応管11の外径は66mm、内径は51mmとされている。また、反応管11の一端側側壁にはガス流路11aと連通する流入管11bが接続されており、反応管11の他端の底部中央にはガス流路11aと連通する流出管11cが接続されている。
【0021】
反応管11の内側には、ステンレス製の円柱材からなる電極12(直径50mm、長さ280mm)が反応管11の内面と僅かな隙間で対面して設けられている。また、反応管11の外周中央部には、ステンレス製の円筒管からなる電極13(厚さ1mm、長さ200mm)が反応管11の内面と僅かな隙間で対面して設けられている。
【0022】
電極12及び電極13は、図1に示すように、高周波電源20に接続されている。高周波電源20は正弦波2波からなるOCS(One-Cycle
Sinusoidal)電源である(ハイデン研究所製 PHF-2K)。
【0023】
流入管11bはガス混合器15及び流量調節器16a、16b、16c(KOFLOC製MODEL 3660)を介して水素ボンベ17a、酸素ボンベ17b、及び窒素ボンベ17cに接続されており、これらのボンベには100%の標準ガスが充填されている。また、流出管11cはシリカゲルが充填された乾燥管18を介して外気に連通されている。流出管11c内部には熱電対19aが挿入されており、乾燥管11cから外気に出る途中には、TCD−GC19b(熱伝導率検出器を備えたガスクロマトグラフィー装置)が接続されている。
【0024】
<水素オフガス処理試験>
以上のように構成された実施例1の水素オフガス処理装置を用いて、模擬水素オフガスの処理試験を行った。水素オフガスの模擬ガスには、水素、酸素、窒素の標準ガス(いずれも濃度100%)を流量調節器16a、16b、16cにより流量を制御してガス混合器15で混合した混合ガスを用いた。
【0025】
そして、高周波電源20から電極12、13間に、図4に示す正弦波のパルス電圧(1周期T0)を繰り返し印加した。波形の計測は高電圧プローブ(SONY Tektronix社製 P6015A)を用いてデジタルオシロスコープ(SONY Tektronix社製 TDS3034B)にて行なった。
【0026】
こうして、模擬水素オフガスを反応管11に導入しながら、電極12、13間に正弦波のパルス電圧を繰り返し印加することにより、ガス流路11a内に誘電体バリア放電が起こり、低温プラズマが発生することが確認された。そして、流出管11cより排出されるガスの温度を熱電対19aによって測定した。また、プラズマ処理する前の模擬水素オフガス及び流出管11cから排出される排ガスに含まれている水素及び酸素の各濃度は、サンプラー付き高速ガスクロマトグラフ(日本タイラン製M200型、検出器TCD)により90秒間隔でサンプリングして分析した。高速ガスクロマトグラフで用いたキャピラリーカラムはモレキュウラーシーブ5A(外径0.32mm、長さ10m、膜厚25μm)であり、カラム温度を100°Cとした。水素転換率Xhは、初期水素濃度[H2]inと出口水素濃度[H2]outを用いて次式(1)より求めた。
【数1】
【0027】
表1に、実施例1の水素オフガス処理装置による水素燃焼の基本的な特性を調べるために行った試験条件を示す。表1の最上段の条件では、プラズマ生成のための印加電圧Vppは12kV又は15kVで一定とし、周波数RRを7〜15kHzと変化させた。それ以外の試験条件では、供給電力Pを一定とし、周波数RRを2.1〜49.6kHzと広範囲に変化させた。
【表1】
【0028】
水素/酸素/窒素の混合ガスは、ガス混合器15及び流量調節器16a、16b、16cによって調整した。また、水素の濃度は2.0容量%、酸素の濃度は19.5容量%とした。混合ガスの流量は4.0L/min(標準状態)とした。また、当量比φ(すなわち、H2+1/2O2=H2Oの反応において必要とされる実際のH2とO2の質量比(実燃空比)と理論燃空比の比として定義される)は,酸素過剰の場合は1より小さく,水素過剰の場合は1より大きく、理論燃空比の場合は1となるが、図5〜図7の測定は酸素大過剰の0.05で行った。
【0029】
<結 果>
Vpp15kV、RR10kHzにおけるプラズマ点灯開始から880秒までの排ガス中の水素および酸素濃度、排気ガス温度及び水素転換率Xhの変化を図5に示す。この図から、初期濃度が2.0体積%だった水素の濃度が880秒後には0.03体積%まで低下していることが分かる。また、水素転換率Xhは急激に上昇して98.6%に達し、流出管11cからの排出ガス温度の上昇も観測された。
【0030】
また、所定の印加電圧Vpp及び所定の周波数RRにおいて、排出ガス温度Tgと水素転換率Xhとの関係を図6に示す。この図から、排出ガス温度Tg、印加電圧Vpp及び周波数RRの増加に伴って、水素転換率Xhも上昇することが分かる。排出ガス温度Tgの上昇に伴う水素転換率Xhの増加の原因は、分子状の水素の燃焼を促進するためであると考えられる。また、印加電圧Vpp及び周波数RRの増加による水素の燃焼の促進は、水素ラジカルや酸素ラジカルやヒドロキシラジカルの生成が促進されることによるものと考えられる。
【0031】
また、図7は、排出ガス温度Tgが所定の温度となったときにおける、電源消費電力あるいはプラズマ入力電力P(kW)とと水素転換率Xhとの関係を示したものである。この図から,水素転換率Xhと排出ガス温度Tgまたは電源消費電力との関係は、下記式(2)(3)に示す関係にあることが分かった。
【数2】
すなわち、水素転換率Xhは、電源消費電力の二乗で指数関数的に比例する。また、排出ガス温度を高くすれば、定数kを増加させることができるため、水素転換率Xhは増加する。実際の燃料電池の水素オフガスは排出ガス温度80℃以上,水素濃度90%以上であるため、さらに低い温度において、酸化させることができる。
【0032】
以上のように、実施例1の水素オフガス処理装置では、模擬水素オフガスを室温〜100度程度のガス温度において、安全かつ迅速に酸化処理をすることができることが分かった。また、触媒を用いることもないので、処理コストも低廉なものとなる。
【0033】
滞留時間の影響
ガス流路11a内の滞留時間と水素転換率への関係について、模擬水素オフガスの水素濃度2vol%、酸素濃度19.5vol%とし、Vpp12kV、RR7〜12kHzで総流量を8〜15l/minに変化させて模擬水素オフガスの処理試験を行った。模擬水素オフガスは、水素と酸素と窒素とを混合して調整した。排ガス温度が40°Cとなった時点の結果を図8に、排ガス温度60°Cとなった時点の結果を図9に、排ガス温度100°Cとなった時点の結果を図10に示す。
総流量を8〜15L/minに変化させることで、ガス流路11a内の滞留時間を0.43〜1.61秒へと変化させた。その結果、滞留時間0.6秒程度までは排ガス温度が40°Cから60°Cに上昇すると、水素転換率は約10%増加し、60°Cから100°Cに上昇すると、約15%増加した。滞留時間は長くなるほど水素転換率は増加し、特に滞留時間1.2秒以上ではほとんどの条件で水素転換率は90%以上となった。これは、滞留時間の増加により、模擬水素オフガスが低温プラズマから受けるエネルギー量も増加し、より多くのラジカルが生成すること、及び、ラジカル同士の接触時間が増加し、反応が促進されることが原因と考えられる。これらの結果より、供給電力0.7kW以上で、排ガス温度60°C以上となれば、滞留時間が1.5秒で、水素転換率が約100%以上となり、実用上完全な水素オフガスの処理能力を有することがわかった。
以上の結果から、混合ガスの滞留時間を調整することによって、水素の酸化を迅速に行うように制御できることが分かった。
【0034】
模擬水素オフガスの水素/酸素の当量比の影響
初期水素濃度2vol%、Vpp12kV、供給電力0.7〜0.9kW、総流量8L/min、酸素濃度を0.5〜19.8vol%に変化させ、当量比を0.05〜2へ変化させた場合において、排ガス温度が80°Cとなった時の当量比と水素転換率との関係を図11に示す。この図から、供給電力のいかんに関わらず、当量比0.25以上では水素転換率はほぼ100%となり、当量比0.05では水素転換率が他の条件より5〜10%程度低下した。当量比が小さくなると水素転換率が低下するのは、酸素濃度が増加することにより、低温プラズマを形成する窒素濃度が減少するため、電子温度が低下し、ラジカルの生成量が減少することに起因するものと考えられる。また、水素が過剰な条件である当量比1以上の場合には、水素転換率は減少するが、これは水素が燃焼するに必要な酸素が不足することによるものである。これらの結果より、プラズマ中の電子温度が維持でき,かつ水素を完全に処理できる当量比0.5〜1.0とすることが最も効率が良いと考えられる。
以上の結果から、混合ガスの組成比を調製することによって、水素の酸化を迅速に行うように制御できることが分かった。
【0035】
<固体高分子燃料電池システムへの適用>
本発明の水素オフガス処理装置を燃料電池システムへ適用した実施例を図12に示す。
この燃料電池システムは、燃料電池本体30と水素オフガス処理装置40とから構成されている。
【0036】
燃料電池本体30は、燃料電池単体セルが積層された燃料電池スタック31と、燃料電池スタック31に水素を供給するための水素ボンベ32と、燃料電池スタック31に空気を供給するためのコンプレッサー33とを備えている。水素ボンベ32は、水素の供給量を調整するための電磁弁32aを介して燃料電池スタック31の図示しないアノード側ガス流路に接続されている。また、コンプレッサー33の上流側には空気を濾過するためのフィルター34が接続されており、下流側は空気を適度な湿度とするための加湿器35を介して、燃料電池スタック31の図示しないカソード側ガス流路に接続されている。また、アノード側ガス流路の入口と出口には、アノード側ガス流路に供給された水素ガスを循環させるための循環ガス流路36が接続されており、循環ガス流路36には循環ポンプ37が取付けられている。
【0037】
循環ガス流路36の途中には、水素オフガスを排除させるためのオフガス排出管41が接続されており、開閉弁42、水素オフガスを一時的に貯留可能な容積を有するチャンバ43、水素オフガスを一定流量で流出させる流量制御弁44を介して、プラズマ反応部10の流入管11bに接続されている。プラズマ反応部10の構造は実施例1の水素オフガス処理装置と同様であり、同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
また、燃料電池スタック31のカソード側ガス流路の出口には、空気排出管45が接続されおり、流量制御弁46を介してオフガス排出管41における流量制御弁44の下流側に接続されている。さらに、プラズマ反応部10の電極12、13は高周波電源47に接続されている。
【0039】
上述した電磁弁32a、コンプレッサー33、開閉弁42、流量制御弁44、46は制御部50によって制御されている。制御部50は制御用コンピュータシステムによって構成されている。
【0040】
以上のように構成された実施例の燃料電池システムでは、水素ガスが水素ボンベ31から電磁弁32aを介して燃料電池スタック31のアノード側ガス流路に流入する。さらに、コンプレッサー33を駆動させることにより、フィルター34によって浄化された空気が加湿器35によって加湿され、燃料電池スタック31のカソード側ガス流路に流入する。そして、燃料電池スタック31内で水素がアノード側で電気化学的に酸化され、酸素がカソード側で電気化学的に還元され、外部に電流が取り出される(すなわち、発電が行われる)。アノード側ガス流路を流れる水素ガスは、循環ポンプ37を駆動させることによって循環ガス流路36に流入し、循環して繰り返し使用される。そして、水素ガスが循環している間に、電気化学反応で生じた水や、カソードガス流路から図示しない高分子固体電解質膜を拡散してきた酸素、窒素等の不純物が蓄積される。こうして徐々に水素以外の不純物が蓄積された水素ガスは、制御部50によって所定時間ごとに開閉される開閉弁42から、水素オフガスとしてオフガス排出管41から排出され、チャンバ43に貯留される。さらには、流量制御弁44が制御部50によって制御されることにより、チャンバ43に貯留された水素オフガスが、一定の流量でプラズマ反応部10に送られる。
また、制御部50は、流量制御弁46も一定の流量の空気が開閉弁42から排出されるように制御するため、水素オフガスに対して所定の濃度となるように混合されて混合ガスとなり、プラズマ反応部10へ送られる。こうして、水素オフガスは所定の時間ごとに開閉弁42が開閉されてパルス的に、オフガス排出管41に排出されるにもかかわらず、プラズマ反応部10へは、たえず所定の組成、所定の流量で供給される。
【0041】
プラズマ反応部10の流入管10aに送られた混合ガスは、電極12、13間に付与されたパルス電圧によってガス流路11a内で誘電体バリア放電が起こり、低温プラズマが発生する。そして、迅速にラジカル反応が起こり、水素が水に酸化される。こうして水素が酸化されて水と成った排気ガスが外部に放出される。また、先に述べたように、プラズマ反応部10へは、たえず所定の組成、所定の流量で供給されるため、低温プラズマの状態も安定する。さらには、あらかじめ、水素オフガス中の水素の酸化にとって好適な混合ガスの組成及び流量を求めておき、そのような好適な制御を制御部50に行わせることにより、絶えず好適な条件で混合ガス中の水素を酸化させることができる。
【0042】
以上のように、実施例の燃料電池システムでは、プラズマ反応部10のガス流路10a内で低温プラズマが安定して発生し、水素と酸素は解離してラジカルとなり、水素オフガスを迅速に酸化処理して、安全な水として大気中に排気することができる。ガスの温度はそれよりはるかに低いため、断熱のための特別な工夫は不要であり、安全で、車両などに搭載することもできる。また、加熱のために多量のエネルギーを消費することも無い。さらには、触媒を用いないので、処理コストが低廉なものとなる。また、誘電体バリア放電によって低温プラズマを発生させているので、放電電流が誘電体の蓄積電荷によって制限され、アーク放電への移行を防ぐことができる。このため、実施例1の水素オフガス処理装置における実験結果からも明らかなように、供給電圧、混合ガスの温度、混合ガスの滞留時間を制御することによって、混合ガス中の水素の酸化反応を迅速に行わせることができる。
【0043】
上記実施例の燃料電池システムを、排気量が2000cc相当の燃料電池車に適用した場合、6L/min程度の水素オフガスが排出される。圧力損失は,外側反応管内径60mm、内側反応管外径57mm、長さ25cm、混合ガス流量6L/min、ガス温度80°Cの条件で計算した場合の圧力損失は以下に示す計算式から0.3kPaと算出され、実用上問題とならない程度である。
【数3】
また、水素オフガス処理に必要な消費電力は4000Wh/60=67Wminである。例えば、本田技研工業株式会社の新燃料電池車FCX−Vの出力は78kWであることから、この程度の燃料電池車に本発明の水素オフガス処理装置を搭載した場合、出力の僅か0.08%程度の消費電力を水素オフガス処理に使用するのみである。このため、この燃料電池車の燃費はガソリン相当で23.8km/Lであり、水素オフガス処理装置を取付けたとしても燃費は23.7km/Lとなり、燃費に与える影響は極僅かである。
【0044】
この発明は、上記発明の実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1の水素オフガス処理装置の模式図である。
【図2】実施例1の水素オフガス処理装置のプラズマ反応部の断面図である。
【図3】図2のII−II矢視断面図である。
【図4】高周波電源から電極12、13間に付与される電圧の波形を示す。
【図5】プラズマ点灯開始から880秒までの排ガス中の水素および酸素濃度、排気ガス温度及び水素転換率Xhの変化を示すグラフである。
【図6】排出ガス温度Tgと水素転換率Xhとの関係を示すグラフである。
【図7】放電パワー(kW)と水素転換率Xhとの関係を示すグラフである。
【図8】排出ガス温度が40°Cにおける滞留時間と水素転換率との関係を示すグラフである。
【図9】排出ガス温度が60°Cにおける滞留時間と水素転換率との関係を示すグラフである。
【図10】排出ガス温度が100°Cにおける滞留時間と水素転換率との関係を示すグラフである。
【図11】当量比と水素転換率との関係を示すグラフである。
【図12】実施例の燃料電池システムのブロック図である。
【符号の説明】
【0046】
10…プラズマ処理手段
12、13…電極
11a…ガス流路
11、12、13…プラズマ反応部(11…ガス流路、12、13…電極)
15、16a、16b、16c、17a、17b、17c…ガス供給手段(15…ガス混合器15、16a、16b、16c…流量調節器、17a…水素ボンベ、17b…酸素ボンベ、17c…窒素ボンベ)
20…高圧電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素オフガスを酸化処理する水素オフガス処理装置において、
前記水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスをラジカル状態にするためのプラズマ処理手段を備えることを特徴とする水素オフガス処理装置。
【請求項2】
プラズマ処理手段は、少なくとも2つの電極と該電極間において外部から遮断されたガス流路とが設けられたプラズマ反応部と、該ガス流路内に水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスを通過させるためのガス供給手段と、該電極間に電圧を付与する高圧電源とを備えることを特徴とする請求項1記載の水素オフガス処理装置。
【請求項3】
プラズマ処理手段は誘電体バリア放電によってガス流路内に低温プラズマを発生可能とされていることを特徴とする請求項3記載の水素オフガス処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至4に記載の水素オフガス処理装置を備えた燃料電池システム。
【請求項5】
水素オフガスを酸素と反応させてから排気する水素オフガス処理方法において、
電圧を付与した電極間に前記水素オフガスと酸素ガスとを含有する混合ガスを通過させて低温プラズマによりラジカル化し、さらにラジカル酸化反応により処理することを特徴とする水素オフガス処理方法。
【請求項6】
供給電圧、周波数、混合ガスの温度、混合ガスの滞留時間、混合ガスの組成比の少なくとも1つを制御パラメータとすることを特徴とする請求項5記載の水素オフガス処理方法。
【請求項1】
水素オフガスを酸化処理する水素オフガス処理装置において、
前記水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスをラジカル状態にするためのプラズマ処理手段を備えることを特徴とする水素オフガス処理装置。
【請求項2】
プラズマ処理手段は、少なくとも2つの電極と該電極間において外部から遮断されたガス流路とが設けられたプラズマ反応部と、該ガス流路内に水素オフガス及び酸素ガスを含有する混合ガスを通過させるためのガス供給手段と、該電極間に電圧を付与する高圧電源とを備えることを特徴とする請求項1記載の水素オフガス処理装置。
【請求項3】
プラズマ処理手段は誘電体バリア放電によってガス流路内に低温プラズマを発生可能とされていることを特徴とする請求項3記載の水素オフガス処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至4に記載の水素オフガス処理装置を備えた燃料電池システム。
【請求項5】
水素オフガスを酸素と反応させてから排気する水素オフガス処理方法において、
電圧を付与した電極間に前記水素オフガスと酸素ガスとを含有する混合ガスを通過させて低温プラズマによりラジカル化し、さらにラジカル酸化反応により処理することを特徴とする水素オフガス処理方法。
【請求項6】
供給電圧、周波数、混合ガスの温度、混合ガスの滞留時間、混合ガスの組成比の少なくとも1つを制御パラメータとすることを特徴とする請求項5記載の水素オフガス処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−11882(P2009−11882A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173175(P2007−173175)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(000185617)小島プレス工業株式会社 (515)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]