説明

水素タンクおよびその製造方法

【課題】 軽量かつ剛性が高く、水素の透過量が少ない水素タンクを提供する。
【手段】 外部を繊維強化樹脂によって補強された高圧水素が充填される樹脂製の容器おいて、水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲にある材料が積層されている水素タンクとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を高圧で貯蔵することができる水素タンクおよびその製造方法、さらにそのような水素タンクに好適に用いることのできる水素タンク用水素遮断性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素を高圧にて貯蔵する場合、気密性と機械的強度を兼ね備えた金属製のタンクが用いられてきた。しかしながら、近年、石油燃料の枯渇や、有害ガス排出量の抑制するために、水素と空気中の酸素を電気化学的に反応させて発電する燃料電池を自動車に搭載し、燃料電池が発電した電気をモータに供給して駆動力とする、燃料電池電気自動車が注目されてきており、そこに搭載する水素タンクとしては軽量化が求められており、このような場合、上記した金属製のタンクでは軽量化に難点があった。そこで、軽量化のために、例えば図2に示すようなタンクが検討されている。図2において、水素タンク11は、樽状の外形をした高圧水素貯蔵容器であり、樹脂製の容器本体であるライナー12および炭素繊維やガラス繊維を含んだ繊維強化樹脂からなる外装13を備えている。また、ライナー12および外装13上端に貫通孔を設け、水素の充填口及び放出口を兼ねた水素流出入弁14が装着されている。ライナー12は成型時の簡便性から、上面板、底面板、胴筒を別に設け、熱融着にてライナー12と成型される構成を有することもある。
【0003】
しかし、上記のような樹脂製の水素タンク11では、分子量の小さい水素は容器本体や外装の厚みを大きくしなければ透過してしまうため(通常の繊維強化樹脂では、10,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)を下回ることは無い)、従来はライナー12等を厚くすることにより対処するほか無く、大幅な軽量化が図れないという問題があった。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1にあるように、ライナー部材よりも水素透過率の低い材料を用いて水素を遮蔽しようと試みられているが、これら材料はそもそも強度が不足しているためタンク圧によっては破壊されるおそれがあり、またこの方法ではタンク最内側で無ければ効果が得られず(最内側でない場合タンク内の圧力が低下した時に、水素遮蔽性材料により遮蔽された水素が膨脹し、それより内側の成型物(ライナー)が変形するおそれがある)、また、工程も複雑なものとなっていた。
【特許文献1】特開2002−188794号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来の問題を解決し、軽量かつ剛性が高く、水素の透過量が少ない水素タンクおよびその製造方法、水素タンクに用いる水素遮断性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、容器本体と容器外壁とを備えた水素タンクであって、容器本体または容器外壁が繊維強化樹脂と水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)である水素遮断性材料とが積層された構成を有している水素タンクを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、外部を繊維強化樹脂によって補強された、高圧水素が充填される樹脂製の容器おいて、水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲にある材料を積層することにより、軽量かつ剛性が高く、水素の透過量が少ない水素タンクを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図1を例にとり詳細に説明する。
【0009】
図1において、水素タンク1は、樽状の外形をした高圧水素貯蔵容器であり、樹脂製の容器本体であるライナー2および炭素繊維やガラス繊維を含んだ繊維強化樹脂からなる外装3を備え、外面に水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲にある材料で形成した水素遮断層5が積層され、外装3と水素遮断層5とで容器外壁を構成している。また、ライナー2、外装3および水素遮断層5の上端に設けられた貫通孔には水素流出入弁4が装着されている。この水素流出入弁4は、水素の充填口および放出口としての機能を有している。
【0010】
図1では水素タンク1の最外面に水素遮断層5が形成されているが、ライナー2の内面(水素と接する面)やライナー2と外装3の間であっても構わないし、外装3の層中に繊維強化樹脂と積層されていても構わない。また、水素遮断層が複数層存在していても構わない。
【0011】
上記水素遮断層5に用いられる材料としては、ポリイミド、ポリエチレン、ナイロン、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、芳香族ポリアミド、ポリプロピレンなどが好適に用いられる。
【0012】
ライナー2は一体成型としてもよいが、成型時の簡便性から、上面板、底面板、胴筒を別に設け、熱融着にて成型しても構わない。
【0013】
ライナー2は、射出成形の可能な樹脂であれば用いることができるが、高密度ポリエチレンを用いることが好ましい。高密度ポリエチレンは、軽量かつ機械的強度が大きいため、軽量でありながら、タンクとしての形状を充分に保持することができる材質であり、鋼製のタンクより大幅に軽量化を図ることができる。
【0014】
本発明の水素タンクにおいては、繊維強化樹脂に水素遮断性材料が積層されていることが好ましいが、この水素遮断性材料は、水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲、好ましくは0〜2,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲、より好ましくは0〜500cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲であると、より薄い積層厚みで水素を遮蔽しうるので好ましい。また前記範囲の中にある材料であれば、いかなるものでも適用することができるが、芳香族ポリアミドは水素透過率が特に低いため、薄い積層厚みであっても優れた水素バリア性を発現し、剛性が高く、耐熱性に優れ、水素タンクを軽量なものとすることが可能であり好ましい。
【0015】
本発明に使用される芳香族ポリアミドとしては、例えば次の式(1)及び/又は式(2)で表される繰り返し単位を有するものを用いることができる。
式(1):
【0016】
【化1】

【0017】
式(2):
【0018】
【化2】

【0019】
ここで、Ar1、Ar2、Ar3の基としては、例えば、
【0020】
【化3】

【0021】
等が挙げられ、X、Yの基は、−O−、−CH2−、−CO−、−CO2−、−S−、−SO2−、−C(CH32−、等から選ばれる。
【0022】
更に、これらの芳香環上の水素原子の一部が、フッ素や臭素、塩素等のハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、メチルやエチル、プロピル等のアルキル基(特にメチル基)、メトキシやエトキシ、プロポキシ等のアルコキシ基等の置換基で置換されているものが、水素透過率を低下させるため好ましい。また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されていてもよい。本発明に用いられる芳香族ポリアミドは、上記の芳香環がパラ配向性を有しているものが、全芳香環の80モル%以上、より好ましくは90モル%以上を占めていることが好ましい。ここでいうパラ配向性とは、例えば芳香核上主鎖を構成する2価の結合手が互いに同軸または平行にある状態をいう。このパラ配向性が80モル%未満の場合、フィルムの剛性および耐熱性が不十分となる場合がある。更に、芳香族ポリアミドが式(3)で表される繰り返し単位を60モル%以上含有する場合、折り曲げ耐性及びフィルム物性が特に優れることから好ましい。
式(3):
【0023】
【化4】

【0024】
次に上記した芳香族ポリアミドの製造方法を説明する。
【0025】
芳香族ポリアミドを得る方法は芳香族ポリアミドに用いられる種々の方法が利用可能であり、例えば、低温溶液重合法、界面重合法、溶融重合法、固相重合法などを用いることができる。低温溶液重合法つまり酸ジクロライドとジアミン類から得る場合には、非プロトン性有機極性溶媒中で合成される。また、イソシアネートとカルボン酸との反応は、非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で行なわれる。
【0026】
2種類以上のジアミンを用いて重合を行う場合、ジアミンは1種類づつ添加し、該ジアミンに対し10〜99モル%の酸ジクロライドを添加して反応させ、この後に他のジアミンを添加して、さらに酸ジクロライドを添加して反応させる段階的な反応方法、およびすべてのジアミン類を混合して添加し、この後に酸ジクロライドを添加して反応させる方法などが利用可能である。また、2種類以上の酸ジクロライドを利用する場合も同様に段階的な方法、同時に添加する方法などが利用できる。いずれの場合においても全ジアミンと全酸ジクロライドのモル比は95〜105:105〜95が好ましく、この値を外れた場合、成形に適したポリマー溶液を得ることが困難となることがある。
【0027】
本発明の芳香族高分子の製造において、使用する非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−、m−またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用も可能である。さらにはポリマーの溶解を促進する目的で溶媒にはポリマーに対し50重量%以下のアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の塩を添加することができる。
【0028】
また、ポリマーの固有粘度(ポリマー0.5gを硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5以上であることが好ましい。
【0029】
成形体を得るためのポリマー溶液には溶解助剤として無機塩例えば塩化カルシウム、塩化マグネシム、塩化リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウムなどを添加することも可能である。無機塩としては1族(アルカリ金属)、2族(アルカリ土類金属)のハロゲン塩が好ましい。
【0030】
ポリマー溶液中のオリゴマ(低分子量物)、は得られる成形体の機械的、熱的特性、あるいは使用時の製品品位を低下させることがある。このため分子量1,000以下のオリゴマは1重量%以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.5重量%以下である。
【0031】
単量体として芳香族ジ酸クロリドと芳香族ジアミンを用いると塩化水素が副生するが、これを中和する場合には周期律表I族かII族のカチオンと水酸化物イオン、炭酸イオンなどのアニオンとからなる塩に代表される無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤が使用される。また、基材フィルムの湿度特性を改善する目的で、塩化ベンゾイル、無水フタル酸、酢酸クロリド、アニリン等を重合の完了した系に添加し、ポリマーの末端を封鎖してもよい。
【0032】
これらのポリマー溶液は、そのままコーティング用溶液、製膜原液として使用してもよく、あるいはポリマを一度単離してから上記の有機溶媒や、硫酸等の無機溶剤に再溶解してコーティング用溶液、製膜原液として調製してもよい。
【0033】
次に上記ポリマー溶液を製膜原液としフィルムとする方法を記載する。後述するように、このフィルムは繊維強化樹脂に積層して水素タンク用水素遮断性フィルム(水素遮断層)とすることができる。
【0034】
まず、原液中のポリマー濃度であるが、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは5〜35重量%、更に好ましくは10〜25重量%である。かかる範囲を下回れば吐出を大きく取る必要があり経済的に不利であり、超えれば吐出量あるいは溶液粘度の関係で細い繊維状成形体あるいは薄いフィルム状成形体を得ることが困難になる場合がある。
【0035】
上記のように調製された製膜原液は、乾式法、乾湿式法、湿式法、半乾半湿式法等によりフィルム化が行われるが、密度と機械物性を制御しやすい点で、乾湿式法が好ましく、以下乾湿式法を例にとって説明する。
【0036】
上記の原液を口金からドラム、エンドレスベルト等の支持体上に押し出して薄膜とし、次いでかかる薄膜層から溶媒を飛散させ、薄膜を乾燥する。乾燥温度は100℃以上210℃以下が好ましく、120℃以上190℃以下がより好ましい。乾燥時間は、0.5分以上12分以下が好ましく、1分以上10分以下がより好ましい。
【0037】
次いで、乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて、湿式工程に導入され、脱塩、脱溶媒などが行われる。フィルムを支持体から剥離するときのポリマー濃度は30重量%以上60重量%以下であることが好ましく、40重量%以上50重量%以下であることがより好ましい。ポリマー濃度が30重量%未満の場合は、フィルムの自己支持性が不十分で破れやすくなることがあり、60重量%を超えると、延伸が充分に行えない場合がある。この乾式工程を終えた溶媒を含んだ状態のフィルム(以下Aフィルムと記す)を採取し、積層に用いることができる。
【0038】
上記フィルムは、支持体から剥離されて湿式工程に導入される間に、ゲルフィルムの状態でフィルムの長手方向に延伸されることが好ましい。延伸倍率は1.05倍以上4倍以下が好ましく、更に1.05倍以上2倍以下が好ましい。長手方向の延伸倍率が1.05倍未満では長手方向のヤング率が不十分なことがあり、4倍を超えると伸度の低いもろいフィルムとなることがある。また、湿式工程を通さずにそのまま剥離したゲルフィルムに延伸および熱処理を行うと、表面が大きくあれたり、カールが発生することがある。この湿式工程を終えた水を含んだ状態のフィルム(以下Bフィルムと記す)を採取し、積層に用いることができる。
【0039】
湿式工程を経たフィルムは水分を乾燥後、フィルムの幅方向に延伸が行われる。延伸温度は150℃以上400℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以上350℃以下、更に好ましくは220℃以上280℃以下である。延伸温度がこの範囲より低いと延伸時にフィルムが破れやすく、かつカールが大きくなることがある。また高すぎると分子が配向しにくくなりヤング率が不十分なことがある。
【0040】
幅方向の延伸倍率は1.05倍以上4倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.05倍以上2倍以下である。幅方向の延伸倍率が1.05倍未満では幅方向のヤング率が不十分なことがあり、4倍を超えると伸度の低いもろいフィルムとなったり、長手方向のヤング率が大きく低下することがある。
【0041】
延伸倍率は面倍率で1.2倍以上8倍以下(面倍率とは延伸後のフィルム面積を延伸前のフィルムの面積で除した値で定義する。1以下はリラックスを意味する。)の範囲内、より好ましくは1.2倍以上6倍以下の範囲とすることが優れた機械物性のフィルムを安定して製膜できる点で好ましい。
【0042】
フィルムの延伸中あるいは延伸後に熱処理が行われるが、熱処理温度は150℃以上400℃以下の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、180℃以上320℃以下であり、更に好ましくは200℃以上300℃以下である。熱処理温度が150℃未満の場合、フィルムのヤング率が低下することがある。一方、400℃を超えるとフィルムの結晶化が進みすぎて堅くてもろいフィルムとなったりすることがある。
【0043】
また、延伸あるいは熱処理後のフィルムを徐冷することが有効であり、50℃/秒以下の速度で冷却することが有効である。このようにして得られたフィルム(以下Cフィルムと記す)を採取し、積層に用いることができる。
【0044】
上記フィルムは単層フィルムであっても良好な表面特性を実現することができるが、積層フィルムであっても構わない。積層フィルムとする場合には、例えば2層の場合には、重合した芳香族ポリアミド溶液を二分し、少なくとも一方に異種重合体を添加した後、積層する。更に3層以上の場合も同様である。これら積層の方法としては、例えば、口金内での積層、複合管での積層や、一旦1層を形成しておいてその上に他の層を形成する方法などを用いればよい。
【0045】
上記の芳香族ポリアミドには、表面形成、加工性改善などを目的として10重量%以下の無機質または有機質の添加物を含有させてもよい。表面形成を目的とした添加剤としては例えば、無機粒子ではSiO2、TiO2、Al23、CaSO4、BaSO4、CaCO3、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、ゼオライト、その他の金属微粉末等が挙げられる。また、好ましい有機粒子としては、例えば、架橋ポリビニルベンゼン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル粒子、ポリイミド粒子、ポリアミド粒子、フッ素樹脂粒子等の有機高分子からなる粒子、あるいは、表面に上記有機高分子で被覆等の処理を施した無機粒子が挙げられる。
【0046】
上記のフィルムあるいはシート状成形体は、20℃、相対湿度60%における少なくとも一方向の引張りヤング率が、5GPaであることが好ましい。より好ましくは7GPa以上、更に好ましくは10GPa以上である。一般にヤング率は分子構造と製膜時の延伸性により支配され、芳香族ポリアミドは高ヤング率の材料として好ましく採用される。通常上限は35GPa程度であり、これ以上の値のフィルムはもろかったりあるいは裂けやすいものとなって、工業的価値は低い。
【0047】
また、上記のフィルムは、製膜が容易である単層フィルムとしても好ましく採用されるが、積層フィルムであっても構わない。
【0048】
以上、芳香族ポリアミドを得る方法を説明したが、本発明の芳香族ポリアミドを得る方法は、上記方法に限定されるものではない。
【0049】
本発明の水素タンクに積層される水素遮断性材料は、少なくとも水素タンクの最外面に積層されていることが、水素透過量を低く抑え、剛性を高くし得るため好ましい。
【0050】
次に本発明の水素タンクの製造方法を説明する。
【0051】
まず、本発明の水素タンクに水素遮断性材料を積層する方法としてコーティングを用いた製造方法について説明する。まず、図1に示すように、ライナー2を射出成形等により形成する。ライナー2の内側、または外側に水素遮断層5を設ける場合は、水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲である材料をコーティングする。次に同図に示すように、ライナー2外側に炭素繊維やガラス繊維を含んだ繊維強化樹脂で構成された外装3を形成する。外装3を形成する方法としては、エポキシ樹脂に含浸した炭素繊維やガラス繊維をライナー2の全体に巻き付け、エポキシ樹脂を硬化させる方法がある。最外面に水素遮断層5を設ける場合は、エポキシ樹脂に含浸した炭素繊維やガラス繊維をライナー2の全体に巻き付けた後、最外面に水素遮断性材料をコーティングする。コーティングの方法としては、上記芳香族ポリアミドを含むコーティング用溶液をそのまま吹き付けたり、水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲である材料を然るべき溶媒に溶解させ溶液とし吹き付ける。または、溶液槽へ浸し不要分を除去した後乾燥させる方法や、溶融が可能である材料であれば、熱により溶融させ同様に吹き付け、溶融槽へ浸し不要分を除去した後冷却する方法など、あらゆる方法を適用することができる。外装3が形成された後、水素流出入弁4が装着され、水素タンク1が形成される。
【0052】
続いて、本発明の水素タンクに水素遮断性材料を積層する方法としてフィルムを積層する製造方法について説明する。本製造方法でも、前記コーティングでの製造方法と同様に、まず、ライナー2を射出成形等により形成する。ライナー2の内側、または外側に水素遮断層5を設ける場合は、水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲である材料からなるフィルムを積層する。次に図1に示すように、ライナー2外側に炭素繊維やガラス繊維を含んだ繊維強化樹脂で構成された外装3を形成する。外装3を形成する方法としては、エポキシ樹脂に含浸した炭素繊維やガラス繊維をライナー2の全体に巻き付け、エポキシ樹脂を硬化させる方法がある。外装3の層中に水素遮断層5を設ける場合は、ライナー2にエポキシ樹脂に含浸した炭素繊維やガラス繊維と共にフィルムを巻き付ける方法や、ライナー2全体にエポキシ樹脂に含浸した炭素繊維やガラス繊維を巻き付けた後、フィルムを全体に積層し、再度エポキシ樹脂に含浸した炭素繊維やガラス繊維を巻き付ける方法がある。最外面に水素遮断層5を設ける場合は、エポキシ樹脂に含浸した炭素繊維やガラス繊維をライナー2の全体に巻き付けた後、フィルムを積層する方法がある。外装3が形成された後、水素流出入弁4が装着され、水素タンク1が形成される。
【0053】
フィルムを積層する方法としては、接着剤を用いて貼り合わせる方法、フィルムの熱収縮を用いて固定する方法、熱融着させる方法など、あらゆる方法を適用することができる。
【0054】
用いることができるフィルムとしては、上記芳香族ポリアミドのAフィルム、Bフィルム、Cフィルム、水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲である材料をフィルム化したものを用いることができ、水素透過率の低さや、剛性の高さから、芳香族ポリアミドのCフィルム、特に2軸に延伸を施された高剛性のものが好適に用いられる。積層の形態としては、テープ状にスリットしたフィルムを接着剤を用いてランダムや螺旋に巻き付ける方法、数cm〜数十cm角に切り出したフィルムを接着剤を用いて何枚も重ねる方法等、いかなる方法でも構わない。ここで用いられる接着剤としては、一般的に知られる、合成樹脂系接着剤(エポキシ樹脂系、シアノアクリレート系、ポリウレタン系)、エマルジョン型接着剤(酢酸ビニル系、アクリル樹脂系)、ホットメルト型接着剤(EVA系、ポリアミド系)など限定なく用いることができる。
【0055】
フィルムの熱収縮を用いて積層(固定)する場合も、用いるフィルムとしては、上記芳香族ポリアミドのAフィルム、Bフィルム、Cフィルム、水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲である材料をフィルム化したものを用いることができ、水素透過率の低さや、剛性の高さから、芳香族ポリアミドのBフィルム、特に1軸に延伸を施されたものが高い熱収縮を発現するため好適に用いられる。積層の形態としては、筒状や袋状に加工した後、層を設ける部分全体を被い、加熱することにより収縮させ固定する方法、テープ状にスリットしたもので全体を被い、端部を接着剤により固定し、加熱し収縮させ固定する方法等、いかなる方法でも構わない。
【0056】
熱融着させる場合は、上記芳香族ポリアミドのAフィルム、Bフィルム、および、水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の範囲である材料のうち熱可塑性のあるものをフィルム化し用いることができ、水素透過率の低さや、剛性の高さ、外装に用いられる材料との親和性から、芳香族ポリアミドのAフィルムが好適に用いられる。積層の形態としては、テープ状にスリットしたフィルムを、ランダムや螺旋に巻き付けた後、加熱することにより熱融着させる方法、数cm〜数十cm角に切り出したフィルムを1枚ずつ熱融着させ何枚も重ねる方法等、いかなる方法でも構わない。
【0057】
以上、本発明の好適な水素タンクの製造方法を説明したが、本発明の水素タンクの製造方法は、上記方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0059】
(1)材料の水素透過率
差圧式ガス透過率測定システム((株)東洋精機製)により、下記条件で、積層に用いる材料の水素透過率を測定した。
【0060】
試料の前処理:室温にて減圧乾燥処理を48時間実施した。
測定条件
水素ガス圧力:1atm
吸引側 :減圧(1.0mmHg〜80mmHg:
サンプルを透過する水素ガスによる程度の圧力)
試験温度 :23℃
湿度 :0%
ガス透過面積:38.46cm2
(2)タンクの水素遮蔽性評価
各種材料を積層した、ライナーに高密度ポリエチレン、外装に炭素繊維にて補強された樹脂を用いた水素タンクを作製し、20MPaにて水素を充填し48時間後の圧力を測定した。
【0061】
まったく同様にライナーに高密度ポリエチレン、外装に炭素繊維にて補強された樹脂を用い、その他の積層を用いずに作製された水素タンクの圧力低下量を1としたとき、先の各種材料を積層した水素タンクの圧力低下量が、
0.99を超える :×
0.99以下〜0.95を超える :△
0.95以下〜0.8を超える :○
0.8以下 :◎
であるとき、△○◎を実用範囲とした。
【0062】
(3)タンクの耐圧性評価
水素タンク内部にグリース(協同油脂(株)製ユニルーブ)を充填し、水素流出入弁をギアポンプと接続し、前記グリースを送り込み加圧した。外装に亀裂が生じた圧力を測定しそれを耐久圧力とした。ライナーに高密度ポリエチレン、外装に炭素繊維にて補強された樹脂を用い、その他の積層を用いずに作製された水素タンクの耐久圧力を1としたとき、各種材料を積層した水素タンクの耐久圧力が、
1以下 :×
1を超えて1.05以下 :△
1.05を超えて1.2以下 :○
1.2を超える :◎
であるとき、△○◎を実用範囲とした。
【0063】
(実施例1)
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に芳香族ジアミン成分として80モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと、20モル%に相当する4、4’−ジアミノジフェニルエ−テルとを溶解させ、これに100モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加し、2時間撹拌して重合を完了した。次いで水中で洗浄を行い芳香族ポリアミドポリマーを分離、乾燥を行った後、NMP対しポリマー濃度20重量部となるよう溶かし、製膜原液とした。
【0064】
この製膜原液を5μmカットのフィルターで濾過した後、口金からベルト上に流延し、150℃の熱風で自己支持性を持つまで乾燥後、ベルトから連続的に剥離した。ベルトから剥離されたフィルムは、次に40℃の水を満たした水浴中に導入し10分間、残存溶媒の抽出を行なった。この間にロール間でフィルムを長手方向に1.2倍延伸した。次にテンターで300℃で幅方向に1.3倍延伸した後、290℃で幅方向に0.99倍のリラックスを行いながら、1分間の乾燥と熱処理を行った後、徐冷して厚さ5μmの芳香族ポリアミドフィルムを得た。
【0065】
この芳香族ポリアミドフィルムの水素透過率は20cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)であった。
【0066】
高密度ポリエチレンを用いて、平均厚み10mm(最薄部9mm、最厚部14mm)のライナーを作製し、このライナーの周囲にエポキシ樹脂を含浸させた炭素繊維を巻き付けエポキシ樹脂を硬化させ、平均厚み7mm(最薄部6mm、最厚部10mm)の外装を施した水素タンクの外装外側に、上記芳香族ポリアミドフィルムを幅2.5cmにスリットしたものを、以下の組成を有するエポキシ系接着剤(溶剤:エチルセロソルブ)を用いて螺旋状に20層(芳香族ポリアミドフィルム合計厚み100μm)巻き付け、80℃の乾燥炉で40分乾燥を行い樹脂層を設けた。
【0067】
(接着剤組成)
・エポキシ樹脂
東都化成(株)製:YDB−700 90重量部
・クレゾールノボラック樹脂
昭和高分子(株)製:CRG−950 10重量部
この水素タンクの圧力低下量は0.2であり水素遮蔽性は◎、耐久圧力は1.3であり耐圧性は◎であった。
【0068】
(実施例2)
実施例1と同様のライナーを作製し、このライナーの周囲にエポキシ樹脂を含浸させた炭素繊維と共に実施例1と同様にして得られた厚み5μm、幅2.5cm、水素透過率20cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の芳香族ポリアミドフィルムを螺旋状に20層(芳香族ポリアミドフィルム合計厚み100μm)巻き付けに巻き付けたのち、エポキシ樹脂を硬化させ、外装中に樹脂層を設けた。
【0069】
この水素タンクの圧力低下量は0.3であり水素遮蔽性は◎、耐久圧力は1.4であり耐圧性は◎であった。
【0070】
(実施例3)
実施例1と同様のライナーを作製し、このライナーの周囲に実施例1と同様にして得られた厚み5μm、幅2.5cm、水素透過率20cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の芳香族ポリアミドフィルムを、実施例1に用いた接着剤で同様に螺旋状に20層(芳香族ポリアミドフィルム合計厚み100μm)巻き付け、80℃の乾燥炉で40分乾燥を行い樹脂層を設けた。この樹脂層の周囲に実施例1と同様の外装を施した。
【0071】
この水素タンクの圧力低下量は0.2であり水素遮蔽性は◎、耐久圧力は1.2であり耐圧性は◎であった。
【0072】
(実施例4)
実施例1と同様にして得られた製膜原液を5μmカットのフィルターで濾過した後、口金からベルト上に流延し、150℃の熱風で自己支持性を持つまで乾燥後、ベルトから連続的に剥離した。ベルトから剥離されたフィルムは、次に40℃の水を満たした水浴中に導入し10分間、残存溶媒の抽出を行なった。この間にロール間でフィルムを長手方向に1.4倍延伸し、含水率50重量部、厚み20μmのBフィルムを得た。このフィルムを実施例1の接着剤を用いて袋状にし、実施例1と同様にライナーを作製し、外装を施した水素タンクの外装の外側を被い、80℃の乾燥炉で3分、220℃の乾燥炉で20秒の乾燥を行い、熱収縮により密着させた。これを10回繰り返し、10層100μmの樹脂層を設けた。
【0073】
この水素タンクの圧力低下量は0.5であり水素遮蔽性は◎、耐久圧力は1.1であり耐圧性は○であった。
【0074】
測定後、樹脂層を剥離し水素透過率を測定したところ、32cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)であった。
【0075】
(実施例5)
実施例1と同様にして得られた製膜原液をコーティング用溶液とし、実施例1と同様のライナーを作製し、同様に外装を施した外装の外側にコーティングし、120℃の乾燥炉で3分、220℃の乾燥炉で20秒の乾燥を行い、樹脂層の厚みが100μmになるまでこれを繰り返した。
【0076】
この水素タンクの圧力低下量は0.6であり水素遮蔽性は◎、耐久圧力は1.07であり耐圧性は○であった。
【0077】
測定後、樹脂層を剥離し水素透過率を測定したところ、40cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)であった。
【0078】
(実施例6)
実施例1と同様にライナーを作製し、外装を施した水素タンクの外装の外側を厚み20μm、幅2.5cm、水素透過率210cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)のナイロン6フィルムを、実施例1に用いた接着剤で同様に螺旋状に5層(ナイロン6フィルム合計厚み100μm)巻き付け、80℃の乾燥炉で40分乾燥を行い樹脂層を設けた。
【0079】
この水素タンクの圧力低下量は0.92であり水素遮蔽性は○、耐久圧力は1.06であり耐圧性は○であった。
【0080】
(実施例7)
実施例1と同様にライナーを作製し、外装を施した水素タンクの外装の外側を厚み20μm、幅2.5cm、水素透過率1,800cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の高密度ポリエチレンフィルムを、実施例1に用いた接着剤で同様に螺旋状に5層(ポリエチレンフィルム合計厚み100μm)巻き付け、80℃の乾燥炉で40分乾燥を行い樹脂層を設けた。
【0081】
この水素タンクの圧力低下量は0.95であり水素遮蔽性は○、耐久圧力は1.01であり耐圧性は△であった。
【0082】
(実施例8)
実施例1と同様にライナーを作製し、外装を施した水素タンクの外装の外側を厚み20μm、水素透過率210cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)のナイロン6フィルムを熱融着にて袋状にしたもので被い、200℃の加熱炉で20秒間加熱し収縮させ密着させた。これを5回繰り返し、5層100μmの樹脂層を設けた。
【0083】
この水素タンクの圧力低下量は0.94であり水素遮蔽性は○、耐久圧力は1.04であり耐圧性は△であった。
【0084】
(実施例9)
実施例1と同様にライナーを作製し、外装を施した水素タンクの外装の外側を厚み20μm、水素透過率1,800cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の高密度ポリエチレンフィルムを熱融着にて袋状にしたもので被い、200℃の加熱炉で20秒間加熱し収縮させ密着させた。これを5回繰り返し、5層100μmの樹脂層を設けた。
【0085】
この水素タンクの圧力低下量は0.98であり水素遮蔽性は△、耐久圧力は1.01であり耐圧性は△であった。
【0086】
(比較例1)
高密度ポリエチレンを用いて、平均厚み10mm(最薄部9mm、最厚部14mm)のライナーを作製し、このライナーの周囲にエポキシ樹脂を含浸させた炭素繊維を巻き付けエポキシ樹脂を硬化させ、平均厚み7mm(最薄部6mm、最厚部10mm)の外装を施した水素タンクを作成した。圧力低下量、耐久圧力はそれぞれ0.04MPa、41MPaであった。(なお、本例の水素タンクを上記各実施例における水素耐久性、耐圧性の比較基準とした。)
(比較例2)
比較例1と同様にライナーを作製し、外装を施した水素タンクの外装の外側を厚み20μm、幅2.5cm、水素透過率6,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)の低密度ポリエチレンフィルムを、実施例1に用いた接着剤で同様に螺旋状に5層(ポリエチレンフィルム合計厚み100μm)巻き付け、80℃の乾燥炉で40分乾燥を行い樹脂層を設けた。
【0087】
この水素タンクの圧力低下量は1であり水素遮蔽性は×、耐久圧力は1.01であり耐圧性は△であった。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の一実施態様に係る水素タンクの破断正面図である。
【図2】従来の水素タンクの破断正面図である。
【符号の説明】
【0089】
1:水素タンク
2:ライナー
3:外装(繊維強化樹脂)
4:水素流出入弁
5:水素遮断層
11:水素タンク
12:ライナー
13:外装(繊維強化樹脂)
14:水素流出入弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体と容器外壁とを備えた水素タンクであって、容器本体または容器外壁が繊維強化樹脂と水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)である水素遮断性材料とが積層された構成を有している水素タンク。
【請求項2】
水素遮断性材料が芳香族ポリアミドを含んでいる、請求項1に記載の水素タンク。
【請求項3】
水素遮断性材料が少なくとも最外面に積層されている、請求項1または2に記載の水素タンク。
【請求項4】
繊維強化樹脂に水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)である水素遮断性材料をコーティングにより積層して容器本体または容器外壁を形成する水素タンクの製造方法。
【請求項5】
繊維強化樹脂に水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)である水素遮断性フィルムを積層して容器本体または容器外壁を形成する水素タンクの製造方法。
【請求項6】
繊維強化樹脂と積層されて容器本体または容器外壁を形成する、水素透過率が0〜5,000cc・0.1mm/(m2・24hrs・atm)である水素タンク用水素遮断性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−162830(P2007−162830A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−360030(P2005−360030)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】