説明

水素分離体の製造方法、水素分離体の製造装置及び水素分離膜付き成膜用基体

【課題】水素分離膜の取扱いを容易なものとし、生産性を向上させ得る水素分離体の製造方法、水素分離体の製造装置及び水素分離膜付き成膜用基板を提供すること。
【解決手段】水素分離体の製造方法は、多孔質支持体と該多孔質支持体表面に接合された水素分離膜とを有する水素分離体の製造方法であって、成膜用基体と該成膜用基体の表面に成膜された水素分離膜とを有する水素分離膜付き成膜用基体と、多孔質支持体とを、該水素分離膜が該多孔質支持体に対向するように密接させ、加熱及び加圧処理により、該水素分離膜を該多孔質支持体に転写する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離体の製造方法、水素分離体の製造装置及び水素分離膜付き成膜用基体に関する。更に詳細には、本発明は、所定の水素分離膜付き成膜用基体を用いた水素分離体の製造方法、その実施に使用する水素分離体の製造装置、及び水素分離膜付き成膜用基体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、形状形成基体の表面にPd若しくはPdを主体とした合金の薄膜を形成させたのち、形状形成基体を除去してPd系水素分離膜を製造する水素分離膜の製造方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−145825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の水素分離膜の製造方法にあっては、得られる水素分離膜が基体から剥離された状態の自立膜であるため、特に薄膜の場合、亀裂や皺、破損が発生し易く、取扱いが極めて難しいという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水素分離膜の取扱いを容易なものとし、生産性を向上させ得る水素分離体の製造方法、水素分離体の製造装置及び水素分離膜付き成膜用基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。そして、その結果、所定の水素分離膜付き成膜用基板を用いることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の水素分離体の製造方法は、多孔質支持体と該多孔質支持体表面に接合された水素分離膜とを有する水素分離体の製造方法であって、成膜用基体と該成膜用基体の表面に成膜された水素分離膜とを有する水素分離膜付き成膜用基体と、多孔質支持体とを、該水素分離膜が該多孔質支持体に対向するように密接させ、加熱及び加圧処理により、該水素分離膜を該多孔質支持体に転写する工程を含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の水素分離体の製造装置は、多孔質支持体と該多孔質支持体表面に接合された水素分離膜とを有する水素分離体の製造装置であって、成膜用基体と該成膜用基体の表面に成膜された水素分離膜とを有する水素分離膜付き成膜用基体と、多孔質支持体とを、該水素分離膜が該多孔質支持体に対向するように密接させる配置手段と、成膜用基体、水素分離膜及び多孔質支持体を所定の温度に加熱する加熱手段と、水素分離膜付き成膜用基体を多孔質支持体に所定の圧力で加圧する加圧手段とを有することを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の水素分離膜付き成膜用基体は、成膜用基体と該成膜用基体の表面に成膜された水素分離膜とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所定の水素分離膜付き成膜用基板を用いることなどとしたため、水素分離膜の取扱いを容易なものとし、生産性を向上させ得る水素分離体の製造方法、水素分離体の製造装置及び水素分離膜付き成膜用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の水素分離体の製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】本実施形態の水素分離膜付き成膜用基体の若干例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る水素分離体の製造方法、その実施に使用する水素分離膜付き成膜用基体及び水素分離体の製造装置について順次詳細に説明する。
【0013】
まず、本実施形態の水素分離体の製造方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の水素分離体の製造方法の一例を示す工程図である。まず、同図(a)に示すように、成膜用基体12と成膜用基体12の表面に成膜された水素分離膜14とを有する水素分離膜付き成膜用基体10と、多孔質支持体16とを用意する。なお、水素分離膜14は自由端部14aを有している。次に、同図(b)に示すように、水素分離膜14が多孔質支持体16に対向するように密接させ、加熱及び加圧処理により、水素分離膜14を多孔質支持体16に転写する。しかる後、同図(c)に示すように、成膜用基体12を取り去ることにより、多孔質支持体16と多孔質支持体16の表面に接合された水素分離膜14とを有する水素分離体20を得ることができる。
【0014】
このような工程を経ることにより、自立膜の状態の水素分離膜の取扱いを避けることができ、水素分離膜の取扱いを容易なものとし、生産性を向上させることができる。
ここで、転写する際の加熱及び加圧処理は、水素分離膜を転写することができれば特に限定されるものではなく、水素分離膜の種類、材質、膜厚、耐久性、及び目的に応じて設定することができる。
例として、金属水素分離膜の場合、転写する面積や用途に応じて、加熱温度を200〜1300℃、多孔質支持体に対する押し付け圧力0.1〜20MPaの範囲内で転写を行う。その際、転写時間は0.5〜10時間の範囲内で設定すればよい。
【0015】
また、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、成膜用基体の表面の一部が転写面及び該転写面に隣接する非転写面からなるとき、該転写面及び該非転写面に成膜された水素分離膜を有するものを用いることが望ましい。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、転写面にのみ水素分離膜が成膜されたものを用いる場合と比較して、転写される水素分離膜に亀裂や破損が発生し難く、水素分離膜の取扱いをより容易なものとし、生産性をより向上させることができる。
一方、例えば、成膜用基体の全表面に水素分離膜が成膜されたものを用いると、水素分離膜付き成膜用基体の取扱いが容易にならないことがある。
【0016】
更に、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、水素分離膜が自由端部を有するものを用いることが望ましい。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、水素分離膜の転写をより円滑に行うことができ、水素分離膜の取扱いをより容易なものとし、生産性をより向上させることができる。
【0017】
また、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、成膜用基体が無機材料を含むものを用いることが望ましい。なお、無機材料を含むものとは、有機材料との複合材や無機材料のみからなるものを含む意味である。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、水素分離膜の転写をより円滑に行うことができ、水素分離膜の取扱いをより容易なものとし、生産性をより向上させることができる。
【0018】
上述の無機材料としては、特に限定されるものではないが、例えばアルミナ、ジルコニア、シリカ、石英ガラス若しくは窒化ケイ素、又はこれらの任意の組み合わせに係るものを挙げることができる。
このような無機材料は、転写の際の高い温度及び高い押し付け圧力の条件下においてもその物性や形状を維持することができ、水素分離膜の転写をより円滑に行うことができ、水素分離膜の取扱いをより容易なものとし、生産性をより向上させることができる。また、成膜用基体を再利用することができるという利点もある。
【0019】
更に、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、成膜用基体が光透過性を有するものを用いることが望ましい。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、水素分離膜のピンホールの有無を比較的容易に検査することができ、生産性や歩留まりをより向上させることができる。
ここで「光透過性」とは、例えば水素分離膜のピンホールから成膜用基体に入射した光を水素分離膜と反対側の成膜用基体の面から確認できる程度のものをいう。なお、成膜用基体を透過した光は市販の光センサを用いて検出してもよく、目視で検出してもよい。光センサ等の検出限界を考慮すれば、成膜用基体の光透過性は高いほど好ましく、紫外ないし可視光で、例えば厚み10mmで反射損失を含めて0.1〜100%の透過率を有するものであることが望ましい。
また、ピンホール検出の精度を高めるために、ガンマ線、エックス線、低波長、及び高波長の光を用いてもよい。
【0020】
また、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、水素分離膜が金属材料を含むものを用いることが望ましい。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、水素分離膜の転写をより円滑に行うことができ、水素分離膜の取扱いをより容易なものとし、生産性をより向上させることができる。
【0021】
上述の金属材料としては、特に限定されるものではないが、例えばパラジウム、バナジウム、ニオブ若しくはタンタル、若しくはこれらの任意の組み合わせに係る合金、又はパラジウム、バナジウム、ニオブ若しくはタンタル若しくはこれらの任意の組み合わせに係るものと銀、ニッケル、銅若しくは希土類元素若しくはこれらの任意の組み合わせに係るものとを含む合金を挙げることができる。
【0022】
また、上述の金属材料のその他の例としては、ジルコニウム、ニッケル、ニオブ若しくはイットリウム又はこれらの任意の組み合わせに係るものと希土類元素との合金を挙げることもできる。
【0023】
更に、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、例えば水素分離膜が、成膜用基体を大気中で熱処理する工程と、熱処理した成膜用基体上にスパッタリング法により第1層を形成する工程と、第1層を洗浄する洗浄工程と、洗浄した第1層上にスパッタリング法により第2層を形成する工程とを含む成膜方法により成膜されたものを用いることが好適である。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、比較的浮遊粒子の多い場所でも水素分離膜のピンホールをより少なくすることができ、生産性や歩留まりをより向上させることができる。もちろん浮遊粒子の少ない製造場所では成膜を一層で行うことも可能である。つまり、水素分離膜付き成膜用基体は、水素分離膜が、成膜用基体を大気中で熱処理する工程と、熱処理した成膜用基体上にスパッタリング法により水素分離膜を形成する工程とを含む成膜方法により成膜されたものとすることも可能である。
【0024】
また、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、例えば水素分離膜が、成膜用基体を洗浄する前洗浄工程と、前洗浄した成膜用基体を大気中で熱処理する工程と、熱処理した成膜用基体上にスパッタリング法により第1層を形成する工程と、第1層を洗浄する洗浄工程と、洗浄した第1層上にスパッタリング法により第2層を形成する工程とを含む成膜方法により成膜されたものを用いることも好適である。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、水素分離膜のピンホールをより少なくすることができ、生産性や歩留まりをより向上させることができる。
【0025】
このように成膜用基体へ水素分離膜を成膜する前に熱処理することが望ましく、これにより、多孔質支持体への水素分離膜の転写の際に水素分離膜の膨れ欠陥が生じにくくなり、水素分離膜のピンホールをより少なくすることができ、生産性や歩留まりをより向上させることができる。つまり、成膜用基体を加熱処理することにより、成膜用基体内部に閉じ込められていたガス成分が膨張して噴出し、水素分離膜を持ち上げる膨れ欠陥が生じにくくなる。一方、加熱処理をしない場合には、膨れ欠陥が生じ、これが甚だしいと水素分離膜が破裂してピンホールになる可能性がある。
なお、かかる熱処理雰囲気は、大気中であることが望ましい。成膜用基体に有機物の付着などがあった場合、大気中であれば焼き飛ばすことが可能であるが、不活性雰囲気や真空雰囲気では、有機物が炭化して基体に残存してしまうことがあり、残存した炭化物が水素分離膜に付着すると膜中に炭素が拡散して水素透過性能を劣化させるおそれがあるからである。また、かかる熱処理温度は、転写における加熱温度以上、転写における加熱温度+200℃以下であることが好ましい。転写における加熱温度未満であると、ガス成分の放出が不十分で水素分離膜の膨れ欠陥が発生してしまうおそれがあり、転写における加熱温度+200℃を超えると、ガス成分の放出は十分であるが、成膜用基体により高い耐熱性を要するすることとなり、コスト高となってしまい、更に、熱処理のコストが増加してしまう。更に、かかる熱処理時間は、5分間以上6時間以下であることが好ましい。5分間未満であると、ガス放出が不十分となることがあり、6時間を超える場合には、熱処理のコストが増加してしまう。
【0026】
また、このように第1層を洗浄することが望ましく、これにより、水素分離膜のピンホールをより少なくすることができ、生産性や歩留まりをより向上させることができる。ピンホール主原因が異物であり、水素分離膜を成膜した後に、異物ごと水素分離膜が脱落してピンホールが生じており、成膜用基体の洗浄だけでは除去しきれない異物が、一旦成膜してから洗浄することにより、効率良く除去できるためである。
【0027】
上述の洗浄工程としては、特に限定されるものではないが、例えばガス噴付け、ブラッシング若しくは超音波洗浄又はこれらの任意の組み合わせに係る処理を含む工程を挙げることができる。
【0028】
更にまた、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、例えば水素分離膜の第1層の膜厚が0.05〜1μmであるものが好ましい。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、水素分離膜のピンホールをより少なくすることができ、生産性や歩留まりをより向上させることができる。
第1層には、洗浄で異物に起因するピンホールが形成されるので、第1層の厚みは、薄いほど好ましく、1μm以下であることが好ましい。一方、第1層の厚みが0.05μm未満では、第1層の強度が不十分であるため、0.05μm以上であることが好ましい。
【0029】
次に、本実施形態の水素分離膜付き成膜用基体について図面を参照しながら詳細に説明する。
図2は、本実施形態の水素分離膜付き成膜用基体の若干例を示す断面図である。同図(a)〜(c)に示すように、本実施形態の水素分離膜付き成膜用基体10(10’、10”)は、成膜用基体12と成膜用基体12の表面に成膜された水素分離膜14とを有するものである。
このような水素分離膜付き成膜用基体は、これを使用する上述した水素分離体の製造方法において、自立膜の状態の水素分離膜の取扱いを避けることができ、水素分離膜の取扱いを容易なものとし、生産性を向上させることができる。
【0030】
また、特に限定されるものではないが、例えば図2(b)に示すように、水素分離膜付き成膜用基体10’は、成膜用基体12の表面の一部が転写面(図2(b)中の上面)及び該転写面に隣接する非転写面(図2(b)中の側面)からなるとき、該転写面及び該非転写面に成膜された水素分離膜14を有するものであることが望ましい。
このような水素分離膜付き成膜用基体は、例えば図2(c)に示すように、成膜用基体12の表面の一部である転写面(図2(c)中の上面)にのみ水素分離膜14が成膜されたものと比較して、これらを使用する上述した水素分離体の製造方法において、転写される水素分離膜に亀裂や破損が発生し難く、水素分離膜の取扱いをより容易なものとし、生産性をより向上させることができる。
もちろん、図2(c)に示すような水素分離膜付き成膜用基体が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
なお、図示しないが、例えば成膜用基体の全表面に水素分離膜が成膜されたものを用いると、水素分離膜付き成膜用基体の取扱いが容易なものとはならないことがある。
【0031】
更に、特に限定されるものではないが、例えば図2(a)に示すように、水素分離膜付き成膜用基体10は、水素分離膜14が自由端部14aを有するものであることが望ましい。
このような水素分離膜付き成膜用基体は、これを使用する上述した水素分離体の製造方法において、水素分離膜の転写をより円滑に行うことができ、水素分離膜の取扱いをより容易なものとし、生産性をより向上させることができる。
【0032】
また、特に限定されるものではないが、成膜用基体が例えば無機材料を含むものであることが望ましい。なお、無機材料を含むものとは、有機材料との複合材や無機材料のみからなるものを含む意味である。
このような成膜用基体を適用した水素分離膜付き成膜用基体は、これを使用する上述した水素分離体の製造方法において、水素分離膜の転写をより円滑に行うことができ、水素分離膜の取扱いをより容易なものとし、生産性をより向上させることができる。
【0033】
上述の無機材料としては、特に限定されるものではないが、例えばアルミナ、ジルコニア、シリカ、石英ガラス若しくは窒化ケイ素、又はこれらの任意の組み合わせに係るものを挙げることができる。
このような無機材料を適用した水素分離膜付き成膜用基体の成膜用基体は、これを使用する上述した水素分離体の製造方法における転写の際の高温及び高面圧の条件下においても、その物性や形状を維持することができ、水素分離膜の転写をより円滑に行うことができ、水素分離膜の取扱いをより容易なものとし、生産性をより向上させることができる。
【0034】
更に、特に限定されるものではないが、成膜用基体が例えば光透過性を有するものであることが望ましい。
このような成膜用基体を適用した水素分離膜付き成膜用基体は、これを使用する上述した水素分離体の製造方法において、水素分離膜のピンホールの有無を比較的容易に検査することができ、生産性や歩留まりをより向上させることができる。
【0035】
また、特に限定されるものではないが、水素分離膜が例えば水素分離膜が金属材料を含むものであることが望ましい。
このような水素分離膜を適用した水素分離膜付き成膜用基体は、これを使用する上述した水素分離体の製造方法において、水素分離膜の転写をより円滑に行うことができ、水素分離膜の取扱いをより容易なものとし、生産性をより向上させることができる。
【0036】
上述の金属材料としては、特に限定されるものではないが、例えばパラジウム、バナジウム、ニオブ若しくはタンタル、若しくはこれらの任意の組み合わせに係る合金、又はパラジウム、バナジウム、ニオブ若しくはタンタル若しくはこれらの任意の組み合わせに係るものと銀、ニッケル、銅若しくは希土類元素若しくはこれらの任意の組み合わせに係るものとを含む合金を挙げることができる。
【0037】
また、金属材料としては、特に限定されるものではないが、例えばジルコニウム、ニッケル、ニオブ若しくはイットリウム又はこれらの任意の組み合わせに係るものと希土類元素との合金を挙げることもできる。
【0038】
更に、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、例えば水素分離膜が、成膜用基体を大気中で熱処理する工程と、熱処理した成膜用基体上にスパッタリング法により第1層を形成する工程と、第1層を洗浄する洗浄工程と、洗浄した第1層上にスパッタリング法により第2層を形成する工程とを含む成膜方法により成膜されたものを用いることが好適である。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、水素分離膜のピンホールをより少なくすることができ、水素分離膜の透過ガス中の水素純度を高めることができる。
【0039】
また、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、例えば水素分離膜が、成膜用基体を洗浄する前洗浄工程と、前洗浄した成膜用基体を大気中で熱処理する工程と、熱処理した成膜用基体上にスパッタリング法より第1層を形成する工程と、第1層を洗浄する洗浄工程と、洗浄した第1層上にスパッタリング法により第2層を形成する工程とを含む成膜方法により成膜されたものを用いることも好適である。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、水素分離膜のピンホールをより少なくすることができる。
【0040】
上述の洗浄工程としては、特に限定されるものではないが、例えばガス噴付け、ブラッシング若しくは超音波洗浄又はこれらの任意の組み合わせに係る処理を含む工程を挙げることができる。
【0041】
更にまた、特に限定されるものではないが、水素分離膜付き成膜用基体としては、例えば水素分離膜の第1層の膜厚が0.05〜1μmであるものが好ましい。
このような水素分離膜付き成膜用基体を用いると、水素分離膜のピンホールをより少なくすることができ、生産性や歩留まりをより向上させることができる。
第1層には、洗浄で異物に起因するピンホールが形成されるので、第1層の厚みは、薄いほど好ましく、1μm以下であることが好ましい。一方、第1層の厚みが0.05μm未満では、第1層の強度が不十分であるため、0.05μm以上であることが好ましい。
【0042】
次に、本実施形態の水素分離体の製造装置について詳細に説明する。
本実施形態の水素分離体の製造装置は、上述の水素分離膜付き成膜用基体と多孔質支持体とを、水素分離膜が多孔質支持体に対向するように密接させる配置手段と、水素分離膜付き成膜用基体及び多孔質支持体を所定の温度に加熱する加熱手段と、水素分離膜付き成膜用基体を多孔質支持体に所定の圧力で加圧する加圧手段とを有するものであって、水素分離体の製造方法の実施に好適に用いられるものである。
【0043】
このような水素分離体の製造装置とすることにより、自立膜の状態の水素分離膜の取扱いを避けることができ、水素分離膜の取扱いを容易なものとし、生産性を向上させることができる。
【0044】
配置手段としては、水素分離膜付き成膜用基体と多孔質支持体とを搬送し、所定の相対位置に配置することができるものであれば、特に限定されるものではないが、例えばロボットアームやベルトコンベアなどを挙げることができる。また、加熱手段としては、上述した温度域まで加熱することができるものであれば、種々のヒーターを適用することができる。更に、加圧手段としては、上述した圧力で加圧することができれば、特に限定されるものではなく、種々の荷重付与装置を適用することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を若干の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
<水素分離膜付き成膜用基体の準備>
まず、成膜用基体としての石英ガラス基板(直径52mm、厚み10mm)を準備し、エタノール中で5分間の超音波洗浄を行った。次いで、石英ガラス基板を大気中、800℃で30分間加熱処理した。次いで、スパッタリング装置(ULVAC社製、SBH2306RDE)の基板ホルダ(面積1600cm)に石英ガラス基板を取り付けた。次いで、スパッタリング装置内を5×10−4Pa以下に真空排気した後、アルゴンガス圧1Paにおいて基板洗浄のためにRF200Wのスパッタエッチングを行った。次いで、Pd−25at%Ag合金ターゲットにDC1.0Aの電流を流し、基板上に膜厚が0.5μmであるPd−25at%Ag膜を形成した。次いで、スパッタリング装置内を大気圧に戻して、石英ガラス基板に形成したPd−25at%Ag膜に導電性スポンジを押し当てながら膜表面をブラッシングして洗浄した。次いで、膜洗浄したPd−25at%Ag膜付き石英ガラス基板を再びスパッタリング装置の基板ホルダに取り付けた。次いで、スパッタリング装置内を5×10−4Pa以下に真空排気した後、アルゴンガス圧1Paにおいて、Pd−25at%Ag合金ターゲットにDC1.0Aの電流を流し、石英ガラス基板上に形成された膜厚が0.5μmであるPd−25at%Ag膜上に膜厚が4.5μmであるPd−25at%Ag膜を形成して、本例で用いる水素分離膜付き成膜用基体を得た。
スパッタリング装置から取り出した水素分離膜付き成膜用基体を光学顕微鏡に乗せて、石英ガラス基板側から光を透過させてPd−25at%Ag膜のピンホール検査を行ったところ、光を透過するピンホールは認められなかった。
【0047】
<水素分離体の作製>
次に、水素分離膜付き成膜用基体と、多孔質支持体としてのステンレス多孔質体を用い、水素分離膜が多孔質支持体に対向するように密接させて配置し、これらを中心700℃で、600〜800℃に加熱し、水素分離膜付き成膜用基体をステンレス多孔質体に中心3MPaで、0.5〜10MPaで0.5〜10時間押し付けて、水素分離膜を多孔質支持体に転写して、本例の水素分離体を得た。
【0048】
(実施例2)
<水素分離膜付き成膜用基体の準備>
膜洗浄を行わないで、石英ガラス基板上に膜厚が5μmであるPd−25at%Ag合金膜を1回で形成したこと以外は、実施例1における水素分離膜付き成膜用基体の準備と同様の操作を繰り返して、本例で用いる水素分離膜付き成膜用基体を得た。
本方法では水素分離膜の透過ガス中の水素純度に高純度を求められない場合は、生産性や歩留まりを実施例1より向上させることができる。
一方、製造現場の浮遊粒子を極めて少なくすることができれば、実施例1と同レベルのピンホールの少ない膜を作製することも可能である。
【0049】
<水素分離体の作製>
本例で得られた水素分離膜付き成膜用基体を用いたこと以外は、実施例1の水素分離体の作製と同様の操作を繰り返して、本例で用いる水素分離膜付き成膜用基体を得た。
【符号の説明】
【0050】
10、10’10” 水素分離膜付き成膜用基体
12 成膜用基体
14 水素分離膜
14a 自由端部
16 多孔質支持体
20 水素分離体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体と該多孔質支持体表面に接合された水素分離膜とを有する水素分離体の製造方法であって、
成膜用基体と該成膜用基体の表面に成膜された水素分離膜とを有する水素分離膜付き成膜用基体と、多孔質支持体とを、該水素分離膜が該多孔質支持体に対向するように密接させ、加熱及び加圧処理により、該水素分離膜を該多孔質支持体に転写する工程を含むことを特徴とする水素分離体の製造方法。
【請求項2】
上記水素分離膜付き成膜用基体は、上記成膜用基体の表面の一部が転写面及び該転写面に隣接する非転写面からなるとき、該転写面及び該非転写面に成膜された水素分離膜を有することを特徴とする請求項1に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項3】
上記水素分離膜付き成膜用基体は、上記水素分離膜が自由端部を有することを特徴とする請求項1に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項4】
上記水素分離膜付き成膜用基体は、上記成膜用基体が無機材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項5】
上記無機材料がアルミナ、ジルコニア、シリカ、石英ガラス及び窒化ケイ素からなる群より選ばれた少なくとも1種のものからなることを特徴とする請求項4に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項6】
上記水素分離膜付き成膜用基体は、上記成膜用基体が光透過性を有することを特徴とする請求項1に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項7】
上記水素分離膜付き成膜用基体は、上記水素分離膜が金属材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項8】
上記金属材料がパラジウム、バナジウム、ニオブ及びタンタルからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む金属単体若しくは合金、又はパラジウム、バナジウム、ニオブ及びタンタルからなる群より選ばれた少なくとも1種と銀、ニッケル、銅及び希土類元素からなる群より選ばれた少なくとも1種とを含む合金からなることを特徴とする請求項7に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項9】
上記金属材料がジルコニウム、ニッケル、ニオブ及びイットリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種と希土類元素との合金からなることを特徴とする請求項7に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項10】
上記水素分離膜付き成膜用基体は、上記水素分離膜が、上記成膜用基体を大気中で熱処理する工程と、該熱処理した成膜用基体上にスパッタリング法により水素分離膜を形成する工程とを含む成膜方法により成膜されたものであることを特徴とする請求項1に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項11】
上記水素分離膜付き成膜用基体は、上記水素分離膜が、上記成膜用基体を大気中で熱処理する工程と、該熱処理した成膜用基体上にスパッタリング法により第1層を形成する工程と、該第1層を洗浄する洗浄工程と、該洗浄した第1層上にスパッタリング法により第2層を形成する工程とを含む成膜方法により成膜されたものであることを特徴とする請求項10に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項12】
上記水素分離膜付き成膜用基体は、上記水素分離膜が、上記成膜用基体を洗浄する前洗浄工程と、該前洗浄した成膜用基体を大気中で熱処理する工程と、該熱処理した成膜用基体上にスパッタリング法により第1層を形成する工程と、該第1層を洗浄する洗浄工程と、該洗浄した第1層上にスパッタリング法により第2層を形成する工程とを含む成膜方法により成膜されたものであることを特徴とする請求項11に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項13】
上記洗浄工程が、ガス噴付け、ブラッシング、及び超音波洗浄からなる群より選ばれた少なくとも1種の処理を含むことを特徴とする請求項11又は12に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項14】
上記水素分離膜付き成膜用基体は、上記水素分離膜の第1層の膜厚が0.05〜1μmであることを特徴とする請求項11又は12に記載の水素分離体の製造方法。
【請求項15】
多孔質支持体と該多孔質支持体表面に接合された水素分離膜とを有する水素分離体の製造装置であって、
成膜用基体と該成膜用基体の表面に成膜された水素分離膜とを有する水素分離膜付き成膜用基体と、多孔質支持体とを、該水素分離膜が該多孔質支持体に対向するように密接させる配置手段と、
成膜用基体、水素分離膜及び多孔質支持体を所定の温度に加熱する加熱手段と、
水素分離膜付き成膜用基体を多孔質支持体に所定の圧力で加圧する加圧手段と、
を有することを特徴とする水素分離体の製造装置。
【請求項16】
成膜用基体と該成膜用基体の表面に成膜された水素分離膜とを有することを特徴とする水素分離膜付き成膜用基体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−264352(P2010−264352A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116137(P2009−116137)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】