説明

水素分離方法及び水素分離装置

【課題】長期に亘って連続的に水素を製造することが可能であり、しかも、操作が単純でプロセスを簡素化することのできる水素分離方法と、この方法を実施するのに好適な水素分離装置とを提供する。
【解決手段】炭化水素ガスを、炭素を溶解し拡散する炭素分離膜1の一方の面2に接触させ、炭素分離膜1の他方の面3側に炭素を選択的に透過させることにより、炭素分離膜1の一方の面側に水素を分離する水素分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素分離方法及び水素分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、アンモニアやメタノールの原料等として化学工業で広く使われており、今後は、燃料電池等のクリーンなエネルギー源としても大量に使われる方向にある。
従来、天然ガスや石炭ガス化ガスなどの炭化水素から水素を製造するには、部分酸化法や、炭素シフト反応と水性シフト反応とを組み合わせた方法などが採用されている。これらの方法では、炭化水素からCOとHとを製造した後、COを除去することで水素(H)を製造しており、多くの単位操作が必要となる。また、各単位操作での操作温度も、1000℃以上の高温から150℃程度の比較的低い温度まで幅広い温度域が必要であり、各単位操作毎に、その温度環境を異ならせる必要があった。
【0003】
このような背景のもとに近年では、触媒を用いて炭化水素を分解し、水素を製造する方法が提案されており、用いる触媒として、鉄系触媒が知られている(特許文献1参照)。
この鉄系触媒は、アルミナ系担体に、鉄含有物質と、周期律表第IIa族金属、第VIIa族金属及び希土類金属から選ばれた少なくとも一種の金属を含む物質と、を担持させたものである。
【特許文献1】特開2003−93878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記特許文献1の鉄系触媒では、鉄中に炭素が取り込まれるため長期の使用によってこの触媒が劣化し、その機能が低下することが推測される。しかしながら、この特許文献1には、鉄系触媒を再生する手法が具体的に示されておらず、したがってこの鉄系触媒を用いた水素の製造方法では、長期に亘って連続的に水素を製造するのが困難であると推測される。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、長期に亘って連続的に水素を製造することが可能であり、しかも、操作が単純でプロセスを簡素化することのできる水素分離方法と、この方法を実施するのに好適な水素分離装置とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため本発明の水素分離方法は、炭化水素ガスを、炭素を溶解し拡散する炭素分離膜の一方の面に接触させ、該炭素分離膜の他方の面側に炭素を選択的に透過させることにより、該炭素分離膜の一方の面側に水素を分離することを特徴としている。
この水素分離方法によれば、炭化水素ガス中の炭素を炭素分離膜の一方の面側から膜中に溶解させることで膜内に取り込んだ後、他方の面側に透過させるので、炭素分離膜自体の劣化がほとんどない。
また、炭化水素ガスを炭素分離膜に接触させることで炭化水素ガスから水素を分離することができ、したがって分離した水素を回収するだけで水素の製造が可能になる。
【0007】
また、前記水素分離方法においては、前記炭素分離膜を700℃以上の温度雰囲気に配して、該温度雰囲気にて前記炭化水素ガスを前記炭素分離膜に接触させるのが好ましい。
700℃以上で例えば1000℃以下程度の温度雰囲気に炭素分離膜を配し、このような温度雰囲気にて炭化水素ガスを炭素分離膜に接触させることにより、炭素分離膜によって炭化水素ガスから炭素を効率良く取り込むことができ、その分水素の製造を効率的に行うことが可能になる。
【0008】
また、前記水素分離方法においては、前記炭素分離膜の他方の面側に酸素を含む酸化ガスを供給し、前記酸素を、前記炭素分離膜の他方の面側に透過してきた前記炭素と反応させることにより、該炭素を酸化するのが好ましい。
このようにすれば、炭素分離膜の他方の面側に透過してきた炭素を消費することで、炭素分離膜中に炭素が蓄積されてしまうことが防止され、したがって炭素分離膜の劣化が抑えられる。また、炭素を酸化(燃焼)することにより、この酸化(燃焼)によって得られる反応熱で炭素分離膜が配される雰囲気の温度を例えば700℃以上にすることができ、したがってエネルギーコストが低く抑えられる。
【0009】
また、前記水素分離方法においては、前記酸化ガスが空気であるのが好ましい。
このようにすれば、プロセスをより簡素化してコスト低減を図ることができる。
【0010】
本発明の水素分離装置は、炭素を溶解し拡散する炭素分離膜と、前記炭素分離膜の一方の面側に炭化水素ガスを供給し、該一方の面に炭化水素ガスを接触させる炭化水素ガス供給手段と、前記炭素分離膜の他方の面側に炭素が選択的に透過することで該炭素分離膜の一方の面側に分離した水素を回収する水素回収手段と、を備えたことを特徴としている。
この水素分離装置によれば、炭素分離膜の一方の面に炭化水素ガスを接触させ、炭化水素ガス中の炭素を膜中に溶解させることで膜内に取り込ませることにより、炭素を他方の面側に選択的に透過させることができるので、炭素分離膜自体の劣化を抑えることができる。
また、炭化水素ガスを炭素分離膜に接触させることで炭化水素ガスから水素を分離するので、水素回収手段によって分離した水素を回収することにより、水素の製造が容易になる。
【0011】
また、前記水素分離装置においては、前記炭素分離膜が反応室内に設けられ、該反応室内には、該反応室内を700℃以上の温度雰囲気に加熱する加熱手段が備えられているのが好ましい。
加熱手段によって反応室内を700℃以上で例えば1000℃以下程度の温度雰囲気にし、このような温度雰囲気にて炭化水素ガスを炭素分離膜に接触させることにより、炭素分離膜によって炭化水素ガスから炭素を効率良く取り込むことができ、その分水素の製造を効率的に行うことが可能になる。
【0012】
また、前記水素分離装置においては、記炭素分離膜の他方の面側に酸素を含む酸化ガスを供給し、該酸素を、前記炭素分離膜の他方の面側に透過してきた前記炭素と反応させることにより、該炭素を酸化する酸化ガス供給手段を備えているのが好ましい。
このようにすれば、酸化ガス供給手段によって酸化ガスを供給することで、炭素分離膜の他方の面側に透過してきた炭素を消費し、炭素分離膜中に炭素が蓄積されてしまうことを防止することができ、したがって炭素分離膜の劣化を抑えることができる。また、炭素を酸化(燃焼)することにより、この酸化(燃焼)によって得られる反応熱で炭素分離膜が配される雰囲気の温度を例えば700℃以上にすることができ、したがってエネルギーコストを低く抑えることができる。
【0013】
また、前記水素分離装置においては、前記酸化ガス供給手段は、前記酸化ガスとして空気を供給するのが好ましい。
このようにすれば、装置構成をより簡素化し、水素の製造コスト低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水素分離方法及び水素分離装置によれば、炭化水素ガス中の炭素を炭素分離膜の一方の面側から膜中に溶解させることで膜内に取り込んだ後、他方の面側に透過させるので、炭素分離膜自体の劣化がほとんどなく、したがって、長期に亘って連続的に水素を製造することができる。
また、炭化水素ガスを炭素分離膜に接触させることによって炭化水素ガスから水素を分離するので、分離した水素を回収するだけで水素の製造が可能になり、したがって、操作が単純でプロセスが簡素化し、この方法を実施する装置についても装置構成を簡易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
図1は、本発明の水素分離方法を模式的に示した説明図であり、図1において符号1は炭素分離膜である。
炭素分離膜1は、炭素を溶解し拡散するもので、金属やセラミックスの薄膜からなるものである。特に、700℃以上1000℃以下程度の温度範囲において、炭素を溶解し拡散する金属が好適に用いられ、このような金属として具体的には、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、イットリウム(Y)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、Pd(パラジウム)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)等が挙げられる。
【0016】
これら金属は、図2の、各種金属における温度と炭素の溶解量との関係を示すグラフより、700℃〜1000℃程度の温度範囲において比較的炭素の溶解量が多く、したがって炭化水素ガスから炭素を選択的に分離することにより、水素を比較的容易に製造することができるものとなっている。なお、図2は、G.Hoerz,J.Less-Comm.Metals,100,249(1984)に基づいている。
また、前記の金属の中では、特に鉄及びニッケルが、他の金属に比べて比較的安価であり、700℃〜1000℃程度の温度範囲における炭素の溶解量も比較的多いことなどから、好ましい。ここで、鉄(Fe)が炭化水素ガスとしてのメタンガス(CH)と反応し、炭化鉄となるとともに水素を発生する過程は、以下の式によって示される。
3Fe+CH → 2H+Fe
【0017】
このような金属からなる炭素分離膜1は、例えば基板上にスパッタ法やメッキ法等によって成膜され、必要に応じて基板がエッチング等によって除去されることで形成される。基板としては、例えば多孔質のセラミックス板や石英等が用いられる。基板として多孔質のものが用いられ、あるいはエッチング等によって一部あるいは全部が除去されることにより、前記の金属からなる炭素分離膜1は、その表裏両面のいずれもが、それぞれの少なくとも一部を露出したものとなっている。
【0018】
炭素分離膜1の厚さとしては、特に限定されることはないものの、膜として欠陥が無い状態、すなわち、後述する炭化水素ガスがそのまま通過してしまうような孔が形成されない状態で成膜される厚さとされ、かつ、長期的な使用にも耐え得るような厚さとするのが好ましく、具体的には、5nm〜1μm程度とされる。5nm未満では、孔等の欠陥のない良好な膜に形成するのが難しく、また、1μmを超えると、一方の面側から膜中に溶解した炭素を、他方の面側に透過させるのに時間がかかり、透過させた炭素を酸化させてその反応熱を利用することが難しくなるからである。
【0019】
このような炭素分離膜1に対して、本発明の水素分離方法では、図1に示すようにその一方の面2側に炭化水素ガス(図1ではCHとして記す)を供給し、この炭化水素ガスを一方の面2に接触させる。炭化水素ガスとしては、メタンやエタン、アセチレン等の低炭素数で、沸点が低い炭化水素のガス(蒸気)が用いられる。また、このような水素分離生成用の原料となる炭化水素ガスについては、必要に応じてアルゴンや窒素、ヘリウム等の不活性ガスで希釈し、用いることもできる。なお、このような低炭素数の炭化水素は、天然ガス、石炭ガス化ガス、ナフサ、バイオマスのガス化ガスなどから分離され、あるいは改質されることなどによって得ることができる。また、メタンについては、メタン発酵槽などから製造したものを用いることもできる。
【0020】
炭化水素ガスを炭素分離膜1の一方の面2側に供給するにあたっては、その環境温度、すなわち炭素分離膜1が配される温度雰囲気を、図示しない公知の加熱手段を用いて700℃以上1000℃以下程度にしておく。
すると、このような温度雰囲気で炭化水素ガスを炭素分離膜1の面2に接触させることにより、炭素分離膜1は炭化水素ガスから炭素を選択的に溶解し、膜中に効率良く取り込むようになる。そして、取り込んだ炭素を膜中で拡散させ、他方の面3側に透過させるようになる。
【0021】
そこで、炭素分離膜1の他方の面3側に、予め酸素を含む酸化ガスを供給しておく。酸化ガスとしては、酸素のみでもよいが、空気を用いるのが、プロセスをより簡素化してコスト低減を図ることができ、好ましい。
このように酸化ガスを炭素分離膜1の他方の面3側に供給すると、この他方の面3側には一旦炭素分離膜1中に取り込まれた炭素が透過してくることから、この炭素と酸化ガス中の酸素とが反応し、二酸化炭素(CO)となる。炭素の酸化反応は、炭素分離膜1が配される温度雰囲気が700℃〜1000℃と高温になっていることから、容易に起こる。
【0022】
そして、このような酸化反応、すなわち炭素の燃焼によって反応熱が生じることから、炭素分離膜1の環境の温度雰囲気は、前記の加熱手段による加熱を制限しても、700℃〜1000℃の範囲に保持することができるようになる。
一方、炭素分離膜1の一方の面2側では、炭化水素ガスから炭素が選択的に除去されることで、水素(H)が分離生成される。したがって、この水素を回収することで、炭化水素ガスから水素を製造することができる。
【0023】
このような水素分離方法によれば、炭化水素ガス中の炭素を炭素分離膜1の一方の面2側から膜中に溶解させることで膜内に取り込んだ後、他方の面3側に透過させるので、炭素分離膜1自体の劣化がほとんどなく、したがって、長期に亘って連続的に水素を製造することができる。
また、炭化水素ガスを炭素分離膜1に接触させることによって炭化水素ガスから水素を分離するので、分離した水素を回収するだけで水素の製造が可能になり、したがって、操作が単純でプロセスが簡素化し、この方法を実施する装置についても装置構成を簡易にすることができる。
【0024】
また、炭素分離膜1の他方の面3側に酸化ガスを供給し、他方の面3側に透過してきた炭素を酸化してこれを消費するので、炭素分離膜1中に炭素が蓄積されてしまうことを防止し、これによって炭素分離膜1の劣化を抑えることができる。
また、炭素を酸化(燃焼)することにより、特に初期において加熱手段で所望温度に加熱した後には、炭素の酸化熱(燃焼熱)で環境の温度を所望温度に保持することができ、したがってエネルギーコストを低く抑えることができる。
【0025】
次に、前記の水素分離方法を実施する装置として、本発明の水素分離装置の一実施形態を説明する。図3は、本発明の水素分離装置の一実施形態の概略構成を示す図であり、図3中符号10は水素分離装置である。この水素分離装置10は、反応室11と、この反応室11内に設けられた炭素分離膜12と、反応室11内に炭化水素ガスを供給するための炭化水素ガス供給手段13と、反応室11内に酸化ガスを供給するための酸化ガス供給手段14と、反応室11内から水素を回収するための水素回収手段15と、を備えて構成されたものである。
【0026】
反応室11は、恒温槽等からなる反応槽16の内部に形成されたもので、反応槽16に設けられたヒータ等の加熱手段(図示せず)により、所望の温度、すなわち700℃以上で1000℃以下程度に加熱保持されるように構成されている。
【0027】
炭素分離膜12は、前記の炭素分離膜1と同じ材質からなるもので、反応室11内を上側と下側とに区画した状態に、反応槽16内に配設されたものである。この炭素分離膜12は、本実施形態では、図3に示したように炭化水素ガスとの接触面積を大きくするべく、有蓋筒状に成形された筒状部17を直列に配した状態で、多数有したものである。ここで、本実施形態ではこの筒状部17の内側を形成する面が、一方の面12aになっており、筒状部17の外側を形成する面が、他方の面12bになっている。なお、このような筒状部17については、例えば、予め対応した形状の基板をセラミックス等によって成形した後、これの表面に鉄等の金属を成膜することなどで、形成することができる。また、有蓋筒状の形状については、有蓋円筒状であっても、有蓋四角筒状等の有蓋角筒状であってもよい。
【0028】
炭化水素ガス供給手段13は、メタン(CH)ガス等の炭化水素ガスの供給源18と、この供給源18に接続し、反応槽16の反応室11内に通じる配管群19とからなっている。配管群19は、前記供給源18に接続する主配管19aと、この主配管19aから分岐した複数の分岐管19bとからなるもので、分岐管19bの先端が炭化水素ガスの供給口20となっている。また、これら分岐管19bは、前記反応室11内に挿通され、炭素分離膜12の筒状部17の内部に挿入されている。このような構成によって分岐管19bは、その供給口20が筒状部17の蓋部17aに対向させられ、したがって炭素分離膜12の一方の面12a側に供給口20を向けた状態になっている。
【0029】
酸化ガス供給手段14は、本実施形態では送風機等の空気を供給する空気供給源21と、この空気供給源21に接続し、反応槽16の反応室11内に通じる配管22とからなっている。配管22は、反応室11内の、炭素分離膜12の筒状部17の外側、すなわち、炭素分離膜12の他方の面12b側に通じるように反応槽16に接続されており、これによって空気供給源21から供給された空気は、炭素分離膜12の他方の面12b側に供給されるようになっている。また、本実施形態では、反応槽16への配管22の接続部、すなわち反応室11への空気の供給口22aは、前記炭化水素ガス供給手段13における配管群19の主配管19aの上流側、つまり供給源18側に配置されている。
【0030】
水素回収手段15は、前記炭素分離膜12の一方の面12a側に通じる回収配管23と、この回収配管23に接続する水素回収部(図示せず)とからなっている。回収配管23は、前記炭化水素ガス供給手段13における配管群19の主配管19aの下流側、すなわちこの主配管19の最下流側に配置された分岐管19bのさらに下流側に配置されている。水素回収部は、例えば水素貯蔵槽などによって形成されている。
【0031】
また、反応槽16には、前記空気供給源21の配管22の供給口22aと反対の側に、排気管24が接続されている。この排気管24は、反応槽16に排気口24aを介して接続されたもので、反応室11内の排気ガスを図示しない排気槽等に案内するためのものである。
【0032】
なお、図3では、炭素分離膜12の筒状部17を三つ記載し、これらに対応して配管群19の分岐管19bも三つ記載しているが、本発明はこれに限定されることなく、分岐管19bとこれに対応する炭素分離膜12の筒状部17とを、数十から数百程度配列しておくのが好ましい。このように多数配列しておくことにより、供給する炭化水素ガスと炭素分離膜12との接触面積を大きくし、また接触時間を長くすることも可能になるため、炭化水素ガスからの炭素の分離、すなわち水素の分離をより良好に行うことができるからである。
【0033】
また、図3では、主配管19aとこれから分岐する分岐管19bとを一系統しか示していないが、これら主配管19aと分岐管19bとからなる配管群19を、複数並列させた状態で反応槽16に取り付けるようにしてもよい。その場合、当然ながら炭素分離膜12についても、各分岐管19bに対応させた状態で筒状部17を形成しておく。
【0034】
このような構成の水素分離装置10によって炭化水素ガスから水素を分離製造するには、まず、反応槽16内を図示しない加熱手段(図示せず)によって加熱し、反応室11を700℃以上1000℃以下程度の温度雰囲気にしておく。
次に、炭化水素ガス供給手段13によって炭化水素ガス(本実施形態ではメタンガス)を反応室11内に供給するとともに、酸化ガス供給手段14によって空気を反応室11内に供給する。なお、炭化水素ガスの供給量、及び空気の供給量については、予め実験やシミュレーション等によって適正な量を求めておき、求めた量でそれぞれを供給する。
【0035】
すると、分岐管19bの供給口20から吹き出されたメタンガス(炭化水素ガス)は、炭素分離膜12の筒状部17の蓋部17aに吹き付けられ、その後筒状部17の内側面に沿って下降し、回収配管23側に向かって流れる。その際、メタンガスが前記の温度雰囲気で炭素分離膜12の一方の面12aに接触することにより、炭素分離膜12はメタンガスから炭素を選択的に溶解し、膜中に取り込むようになる。そして、取り込んだ炭素を膜中で拡散させ、他方の面12b側に透過するようになる。
【0036】
また、炭素が炭素分離膜12中に選択的に取り込まれたメタンガスは、水素(H)を分離生成する。生成した水素は、炭素分離膜12中に取り込まれることなく、下流側に流れる。このように、メタンガスは多数配置された筒状部17内を流れて炭素分離膜12と接触し、水素濃度が十分に高められた後、最終的には純度の高い水素となって水素回収手段15の回収配管23に流出し、水素貯蔵槽等の水素回収部に回収される。
【0037】
一方、反応室11内における、炭素分離膜12の他方の面12b側では、空気が供給されていることにより、この空気が炭素分離膜12の他方の面12bに透過してきた炭素と接触し反応する。すなわち、空気中の酸素が、一旦炭素分離膜12中に取り込まれた後膜中を拡散し透過してきた炭素と反応し、二酸化炭素(CO)となる。このような炭素と酸素の反応(炭素の酸化反応)は、炭素分離膜12が配される反応室11内の温度雰囲気が700℃〜1000℃と高温になっていることから、容易に起こる。なお、空気中の窒素は、炭素と反応することなく、そのまま窒素として下流側に流れる。そして、このような窒素と前記の二酸化炭素とは、排気ガスとなって排気管24から排出され、排気槽等に案内されてここで回収される。
【0038】
反応室11内では、前記の酸化反応、すなわち炭素の燃焼によって反応熱が生じることから、その温度雰囲気は、前記の加熱手段による加熱を制限しても、700℃〜1000℃の範囲に保持されるようになる。よって、特に初期において加熱手段で所望温度に加熱した後には、炭素の酸化熱(反応熱)で反応室11内の温度を所望温度に保持することができ、したがって水素の製造に係わるエネルギーコストを低く抑えることができる。
【0039】
このような水素分離装置10にあっては、炭素分離膜12の一方の面12aにメタンガス(炭化水素ガス)を接触させ、炭化水素ガス中の炭素を膜中に溶解させることで膜内に取り込ませることにより、炭素を他方の面12b側に選択的に透過させることができるので、炭素分離膜自体の劣化を抑えることができ、したがって長期に亘って連続的に水素を製造することができる。
【0040】
また、メタンガスを炭素分離膜12に接触させることでメタンガスから水素を分離するので、水素回収手段15によって分離した水素を回収することで水素を製造することができ、したがって操作を単純化してプロセスを簡素化し、装置構成そのものも簡易にすることができる。
また、炭素分離膜12の他方の面12b側に空気(酸化ガス)を供給し、他方の面12b側に透過してきた炭素を酸化してこれを消費するので、炭素分離膜12中に炭素が蓄積されてしまうことを防止し、これによって炭素分離膜12の劣化を抑えることができる。
【0041】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、前記実施形態では炭素分離膜12に筒状部17を形成することで、炭化水素ガスと炭素分離膜12との接触面積を大きくし、また接触時間を長くするようにしたが、このように接触面積や接触時間を高めることができる構造であれば、前記の筒状部に限定されることなく、例えば炭素分離膜12を波形に湾曲させたり折曲したりするようにしてもよい。
また、酸化ガスについても、空気に代えて酸素を直接用いるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の水素分離方法を模式的に示す説明図である。
【図2】各種金属における温度と炭素の溶解量との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の水素分離装置の一実施形態の概略構成図である。
【符号の説明】
【0043】
1…炭素分離膜、2…一方の面、3…他方の面、10…水素分離装置、11…反応室、12…炭素分離膜、12a…一方の面、12b…他方の面、13…炭化水素ガス供給手段、14…酸化ガス供給手段、15…水素回収手段、16…反応槽、17…筒状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素ガスを、炭素を溶解し拡散する炭素分離膜の一方の面に接触させ、該炭素分離膜の他方の面側に炭素を選択的に透過させることにより、該炭素分離膜の一方の面側に水素を分離することを特徴とする水素分離方法。
【請求項2】
前記炭素分離膜を700℃以上の温度雰囲気に配して、該温度雰囲気にて前記炭化水素ガスを前記炭素分離膜に接触させることを特徴とする請求項1記載の水素分離方法。
【請求項3】
前記炭素分離膜の他方の面側に酸素を含む酸化ガスを供給し、前記酸素を、前記炭素分離膜の他方の面側に透過してきた前記炭素と反応させることにより、該炭素を酸化することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素分離方法。
【請求項4】
前記酸化ガスが空気であることを特徴とする請求項3記載の水素分離方法。
【請求項5】
炭素を溶解し拡散する炭素分離膜と、
前記炭素分離膜の一方の面側に炭化水素ガスを供給し、該一方の面に炭化水素ガスを接触させる炭化水素ガス供給手段と、
前記炭素分離膜の他方の面側に炭素が選択的に透過することで該炭素分離膜の一方の面側に分離した水素を回収する水素回収手段と、を備えたことを特徴とする水素分離装置。
【請求項6】
前記炭素分離膜が反応室内に設けられ、該反応室内には、該反応室内を700℃以上の温度雰囲気に加熱する加熱手段が備えられていることを特徴とする請求項1記載の水素分離装置。
【請求項7】
前記炭素分離膜の他方の面側に酸素を含む酸化ガスを供給し、前記酸素を、前記炭素分離膜の他方の面側に透過してきた前記炭素と反応させることにより、該炭素を酸化する酸化ガス供給手段を備えることを特徴とする請求項5又は6に記載の水素分離装置。
【請求項8】
前記酸化ガス供給手段は、前記酸化ガスとして空気を供給することを特徴とする請求項7記載の水素分離装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−298631(P2009−298631A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153847(P2008−153847)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】