説明

水素化分解触媒組成物およびその製造方法

【課題】 重質炭化水素油の水素化分解に使用して高い分解活性を示し、灯油、軽油などの中間留分得率が高い。
【解決手段】 (a)単位格子定数(UD)が24.25〜24.52Å、(b)結晶化度が95%以上、(c)比表面積が500m2/g以上、であって、(d)〜(f)特定の細孔直径範囲にある細孔群を有しており、(g)ゼオライト中の全アルミニウム原子に対する4配位アルミニウム原子の割合が60原子%以上である、アルミニウム再挿入Y型ゼオライトと、多孔性無機酸化物とからなる担体に、水素化金属成分を担持させてなる水素化分解触媒組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素油、特に重質炭化水素油の水素化分解触媒組成物およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、特定の性状を有するアルミニウム再挿入Y型ゼオライトと多孔性無機酸化物とからなる担体に水素化金属成分を担持させてなる水素化分解触媒組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Y型ゼオライト(以下、フォージャサイト型ゼオライトと言うことがある)は酸性質を有する固体酸であるので、炭化水素油の接触分解触媒や水素化分解触媒などの固体酸触媒として使用されている。特に、重質炭化水素油の水素化分解では、重質炭化水素の固体酸点への拡散を良くするために脱アルミニウム処理した超安定性Y型ゼオライトが好適に使用されている。脱アルミニウム処理した超安定性Y型ゼオライトは合成Y型ゼオライトより単位格子定数が小さく、ケイバン比(SiO2/Al23モル比)が高いので耐水熱安定性が高く、その細孔分布は合成Y型ゼオライトよりも細孔直径20〜600Å範囲の細孔容積(メソポア容積)も大きいという特徴を有する。
【0003】
また、Y型ゼオライトの酸性質はケイバン比によって変わり、脱アルミニウム処理した超安定性Y型ゼオライトは合成Y型ゼオライトよりケイバン比が高いので固体酸の酸強度は強いが酸量が少ない。炭化水素油の水素化分解に使用されるY型ゼオライトとしては、メソポア容積が大きく、固体酸量の多いものが望まれている。
【0004】
特開平9−108572号公報(特許文献1)には、フォージャサイト型ゼオライトと多孔性無機酸化物とからなる担体に活性金属成分を担持した水素化分解触媒において、フォージャサイト型ゼオライトのNa2O含有量が0.5重量%以下の範囲で、かつ、該ゼオライト骨格を形成する4配位のアルミニウム原子の割合が特定の値より大きい水素化分解触媒は、分解活性が高く、中間留分得率が高いことが記載されている。
【0005】
特開2002−255537号公報(特許文献2)には、優れた固体酸触媒を与えるメソポア含量の大きい新規ゼオライトが開示されている。該新規ゼオライトは、アルミニウムとケイ素との原子比[Al]/[Si]が0.01〜0.2の範囲にあり、細孔直径が50〜1000Åのメソポアの容積割合が30〜50%の範囲にあり、かつ該メソポアの容積が0.14cc/g以上であり、さらに、全アルミニウム原子に対する4配位アルミニウム原子の割合が25原子%以上であることを特徴とするメソポア含量の大きいゼオライトである。そして、該新規ゼオライトの製造方法として、原料としてメソポア含有量の大きいUSYゼオライト(超安定性Y型ゼオライト)をアルミン酸ナトリウム水溶液中に浸漬して反応させ、ゼオライトの骨格中にアルミニウム原子を挿入する方法、およびその反応条件として、水溶液中のアルミニウム濃度は0.03〜0.1モル/L、その水溶液のpHは11〜12であり、反応温度は10〜40℃で、反応時間は1〜200時間であることが記載されている。
【0006】
しかし、この方法では原料USYをpH11〜12のアルカリ性水溶液で処理するため結晶構造が破壊され、得られるゼオライトは結晶化度が低いという問題があった。そのため、該ゼオライトを炭化水素油の水素化分解に使用した場合には、触媒活性点であるゼオライトの固体酸の量が少なく、高い分解活性が得られないという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平9−108572号公報
【特許文献2】特開2002−255537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前述の問題点を解決し、炭化水素油、特に脱アスファルテン油(Deasphalted Oil:以下、DAO と略記することもある。)などの重質炭化水素油の水素化分解に使用して、高い分解活性を示し、灯油、軽油などの中間留分得率が高いなどの優れた効果を示す、特定の性状を有するアルミニウム再挿入Y型ゼオライトを用いた炭化水素油の水素化分解触媒組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、酸性質と細孔構造が改善された特定の性状を有するアルミニウム再挿入Y型ゼオライトを用いた水素化分解触媒組成物は、DAOなどの炭化水素油の水素化分解に優れた効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第1は、下記(a)〜(i)の性状を有するアルミニウム再挿入Y型ゼオライトと多孔性無機酸化物とからなる担体に、水素化金属成分を担持させてなる水素化分解触媒組成物に関する。
(a)単位格子定数(UD)が24.25〜24.52Å
(b)結晶化度が95%以上
(c)比表面積が500m2/g以上
(d)細孔直径600Å以下である細孔を持つ細孔群の全細孔容積(PVt)が0.45〜0.70ml/g
(e)細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)が0.10〜0.40ml/g
(f)細孔直径35〜50Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVs)が0.03〜0.15ml/g
(g)ゼオライト中の全アルミニウム原子に対する4配位アルミニウム原子の割合が60原子%以上
【0011】
本発明の第2は、前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトが、
(h)細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)と細孔直径600Å以下である細孔を持つ細孔群の全細孔容積(PVt)の比(PVm/PVt)が0.30以上、
(i)細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)と細孔直径35〜50Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVs)の比(PVm/PVs)が2.5以上、
の性状を有することを特徴とする水素化分解触媒組成物に関する。
【0012】
本発明の第3は、前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトが、
(j)フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)で測定されるスペクトルが3630cm-1の位置と3550cm-1の位置にピークを有することを特徴とする水素化分解触媒組成物に関する。
【0013】
本発明の第4は、下記(k)〜(n)の工程を含むことを特徴とする前記水素化分解触媒組成物の製造方法に関する。
(k)Y型ゼオライトをアンモニウムイオン交換した後、水蒸気雰囲気中で加熱処理して単位格子定数(UD)が24.24〜24.52Å範囲の超安定性Y型ゼオライト(USY)を調製する工程、
(l)前記超安定性Y型ゼオライト(USY)をpH0.1〜3.0の範囲で酸処理して骨格構造中のアルミニウムを脱アルミニウムした後、濾過、洗浄して脱アルミニウム処理Y型ゼオライトを調製する工程、
(m)前記脱アルミニウム処理Y型ゼオライトをアンモニウム塩水溶液に懸濁し、懸濁液のpHを4〜7の範囲に調整し、次いで、pH調整した懸濁液を100〜200℃の温度で10〜60時間加熱処理した後、濾過、洗浄、乾燥してアルミニウム再挿入Y型ゼオライトを得る工程、
(n)前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトと多孔性無機酸化物の前駆物質とを混合して、所望の形状に成型し、乾燥、焼成した担体に、水素化金属成分を担持する工程、
【0014】
本発明の第5は、前記(m)工程において、アンモニウム塩水溶液が酢酸アンモニウム塩水溶液であることを特徴とする製造方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
(1)本発明の水素化処理用触媒組成物は、特定の性状を有するアルミニウム再挿入Y型ゼオライトを使用する。該アルミニウム再挿入Y型ゼオライトは、脱アルミニウム処理Y型ゼオライトの骨格構造へアルミニウムが再挿入された結晶化度の高いY型ゼオライトである。骨格構造へ再挿入されるアルミニウムは、主としてY型ゼオライトの外表面骨格構造に再挿入されていると推定される。そのため、該アルミニウム再挿入Y型ゼオライトでは、内部骨格構造よりも外表面骨格構造の方にアルミニウムが多く存在しているので、Y型ゼオライトの外部表面での固体酸点の量が脱アルミニウム処理Y型ゼオライトよりも多くなる。
(2)該アルミニウム再挿入Y型ゼオライトは、全細孔容積(PVt)、細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)などが大きいため、重質炭化水素油などの反応原料の固体酸点への拡散が良い。
【0016】
(3)該アルミニウム再挿入Y型ゼオライトは、再挿入されたアルミニウムが細孔外表面に均一に分散しているため、コーク生成につながる水素移行反応(2分子反応)、LPG,ナフサ生成につながる過分解反応が起こり難い。
(4)本発明の水素化処理用触媒組成物は、DAOなどの炭化水素油の水素化分解に使用して、高い分解活性を示し、灯油、軽油などの中間留分得率が高い。また、コーク生成能が低く、触媒寿命が長いなどの優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
水素化分解触媒組成物
本発明において、アルミニウム再挿入Y型ゼオライトとは、脱アルミニウム処理したY型ゼオライトの骨格構造にアルミニウムが再挿入されたY型ゼオライトを意味する。以下に、本発明のアルミニウム再挿入Y型ゼオライトの性状を述べる。
【0018】
(a)単位格子定数(UD)
該アルミニウム再挿入Y型ゼオライトの単位格子定数(UD)は24.25〜24.52Åの範囲にある。単位格子定数(UD)が24.25Åより小さい該Y型ゼオライトは、骨格構造中のSiO2/Al23モル比が高く、炭化水素油の分解活性点である固体酸点の量が少ないため、該ゼオライトを使用した水素化分解触媒組成物は分解活性が低下する傾向にある。また、単位格子定数(UD)が24.52Åよりも大きい該Y型ゼオライトは、耐水熱安定性が悪いので、該ゼオライトを使用した水素化分解触媒組成物は、水素化分解反応中にゼオライトの結晶構造が壊れ、分解活性が低下する。
本発明でのアルミニウム再挿入Y型ゼオライトの単位格子定数(UD)は、好ましくは24.28〜24.40Å、更に好ましくは24.30〜24.38Åの範囲にあることが望ましい。
【0019】
(b)結晶化度
前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトの結晶化度は95%以上であることを要する。結晶化度が95%より低い場合には、該ゼオライトを使用した水素化分解触媒組成物は所望の効果が得られない。該ゼオライトの結晶化度は、好ましくは100〜150%の範囲にあることが望ましい。なお、結晶化度は、X線回折の(331)、(511)、(440)、(533)、(642)面の総ピーク高さ(H)を求め、基準に市販のY型ゼオライト(ユニオンカーバイト製SK−40)の結晶化度を100として同じ面の総ピーク高さ(Ho)を求め、次式により求めた。
結晶化度=H/Ho×100 (%)
【0020】
(c)比表面積
前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトの比表面積(窒素吸着によるBET法での測定)は、500m2/g以上であることを要する。該ゼオライト比表面積が500m2/gより小さい場合には、水素化分解反応に有効な固体酸点が少ないため該ゼオライトを使用した水素化分解触媒組成物は所望の効果が得られない。該ゼオライトの比表面積は550〜800m2/gの範囲にあることが望ましい。
【0021】
(d)細孔直径600Å以下である細孔を持つ細孔群の全細孔容積(PVt)
前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトは、細孔直径600Å以下である細孔を持つ細孔群の全細孔容積(PVt)が、0.45〜0.70ml/gの範囲にある。該全細孔容積(PVt)が0.45ml/gより小さい場合には、該ゼオライトを使用した水素化分解触媒組成物は所望の効果が得られず、また、該全細孔容積(PVt)が0.70ml/gより大きくなるとゼオライトの結晶化度が低下することがある。全細孔容積(PVt)は、好ましくは0.50〜0.65ml/gの範囲にあることが望ましい。
本発明の細孔直径の範囲にある細孔群における細孔容積は、窒素の吸着等温線からB.J.H法により計算した細孔分布から求めた。
【0022】
(e)細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)
前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトは、細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)が0.10〜0.40ml/gの範囲にある。該細孔容積(PVm)が0.10ml/gより小さい場合には、重質炭化水素油の拡散効果が十分でないために該ゼオライトを使用した水素化分解触媒組成物は重質炭化水素油の分解が十分に行われず所望の効果が得られない。また、該細孔容積(PVm)が0.40ml/gより大きくなるとゼオライトの結晶化度が低下することがあり、該ゼオライトを使用した水素化分解触媒組成物は所望の効果が得られないことがある。該細孔容積(PVm)は、好ましくは0.15〜0.35ml/gの範囲にあることが望ましい。
【0023】
(f)細孔直径35〜50Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVs)
前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトは、細孔直径35〜50Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVs)が0.03〜0.15ml/gの範囲にある。該細孔容積(PVs)が0.03ml/gより小さい場合には、重質炭化水素油の灯軽油留分への分解が低下する傾向にあり、該細孔容積(PVs)が0.15ml/gより大きい場合には、逐次分解反応が進行しガス、コークの生成が多くなる傾向にある。該細孔の細孔容積(PVs)は、好ましくは0.05〜0.10ml/gの範囲にあることが好ましい。
【0024】
(g)ゼオライト中の全アルミニウム原子に対する4配位アルミニウム原子の割合
Y型ゼオライトの骨格構造を構成するアルミニウム原子は4配位であり、ゼオライトの骨格構造外のアルミニウム原子は6配位で存在する。
前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトにおける全アルミニウム原子(4配位アルミニウム原子+6配位アルミニウム原子)に対する4配位アルミニウム原子の割合は、60原子%以上であることを要する。4配位アルミニウム原子の割合が60原子%より小さい場合には、Y型ゼオライトの骨格構造へ再挿入されるアルミニウムが少なく、該ゼオライトを使用した水素化分解触媒組成物は重質炭化水素油分解能の点で所望の効果が得られない。骨格構造へ再挿入されるアルミニウムは、ゼオライトの外表面骨格構造に再挿入されていると推定されるので、ゼオライトの外部表面での固体酸点の量が多くなっており、該固体酸点が重質炭化水素油分解能に寄与することが期待される。
【0025】
前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトのゼオライト中の全アルミニウム原子に対する4配位アルミニウム原子の割合は、好ましくは70〜100原子%の範囲にあることが望ましい。なお、ゼオライト中の4配位アルミニウム原子の割合は、VARIAN社の核磁気共鳴装置(NMR)VXR−400で測定した、27Al MAS NMRスペクトルから求めた。即ち、4配位アルミニウム原子の割合は、固体Al−NMRスペクトルで化学シフト−30〜18ppmに存在するピーク面積(A)と化学シフト20〜100ppmに存在するピーク面積(B)の比から次式で求めた。
4配位アルミニウム原子の割合=(B)/(A+B)×100 (%)
【0026】
本発明のアルミニウム再挿入Y型ゼオライトは、上記性状に加えて下記(h)、(i)の性状を有することが望ましい。
(h)(PVm/PVt)比
本発明のアルミニウム再挿入Y型ゼオライトは、前述の細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)と細孔直径600Å以下である細孔を持つ細孔群の全細孔容積(PVt)との比(PVm/PVt)が0.30以上であることが好ましい。該(PVm/PVt)比が0.30より小さい場合には、重質炭化水素油の拡散が悪くなり、該ゼオライトを使用した水素化分解触媒組成物は重質炭化水素油分解能が低下することがある。該(PVm/PVt)比は、さらに好ましくは0.30〜0.50の範囲が好ましい。
【0027】
(i)(PVm/PVs)比
本発明のアルミニウム再挿入Y型ゼオライトは、前述の細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)と細孔直径35〜50Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVs)の比(PVm/PVs)が2.5以上であることが好ましい。該(PVm/PVs)比が2.5より小さい場合には、重質炭化水素油分解能が低下することがある。該(PVm/PVs)比は、さらに好ましくは2.5〜4.50の範囲が好ましい。
なお、これ以外の細孔直径0〜35Åおよび50〜100Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の占める細孔容積の存在割合は非常に少ないので、これらの細孔群の分解活性に及ぼす影響は小さい。
【0028】
本発明のアルミニウム再挿入Y型ゼオライトは、更に好ましくは、下記(j)の性状を有することが望ましい。
(j)フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)で測定されるスペクトルのピーク値
Y型ゼオライトの骨格構造を構成するアルミニウム原子の存在位置には、16面体のαケージと8面体のβケージとがあり、FT-IRスペクトルにおいて前者は3630cm-1、後者は3550cm-1に吸収ピークを示す。
本発明のアルミニウム挿入Y型ゼオライトを分解活性成分とする重質炭化水素油の水素化分解触媒においては、αケージとβケージの両ケージにアルミニウムが再挿入されることが好ましい。両ケージ中に存在するアルミニウム原子の量がバランス良く存在することが好ましく、優れた分解活性を得るには3630cm-1の位置のピーク(α)と3550cm-1の位置のピーク(β)のピーク面積の比(α/β)が5/1〜1/5、好ましくは2/1〜1/2の範囲にあることが望ましい。
【0029】
なお、αケージ中とβケージ中のアルミニウムの存在比は、透過型フーリエ変換赤外分光装置(日本電子製JIR−7000)を用いて測定したFT-IRスペクトルから求めた。面積比(α/β)はFT−IRで測定されるスペクトルが3600〜3700cm-1のピーク(α)面積と3500〜3600cm-1の位置のピーク(β)面積の比から求めた。
【0030】
本発明の水素化分解触媒組成物を構成する触媒担体は、従来の水素化分解触媒組成物と同様に、ゼオライトとそれ以外の多孔性無機酸化物とからなる。従って、多孔性無機酸化物としては、水素化分解触媒組成物に通常用いられるものが使用可能である。例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカ−アルミナ、アルミナ−チタニア、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−ボリア、リン−アルミナ、シリカ−アルミナ−ボリア、リン−アルミナ−ボリア、リン−アルミナ−シリカ、シリカ−アルミナ−チタニア、シリカ−アルミナ−ジルコニアなどが例示される。特に、アルミナを主成分とする多孔性無機酸化物は好適である。
【0031】
また、本発明の水素化分解触媒組成物を構成する水素化金属成分(活性金属成分ということもある。)としては、従来この種の水素化分解に用いられる公知の金属成分が使用可能であり、例えば、周期律表第8族および/または6A族の金属成分が挙げられる。好ましい金属成分としては、6A族のモリブデン、タングステンと8族のコバルト、ニッケルとの組み合わせたものや、白金属の金属成分が例示される。
【0032】
本発明の水素化分解触媒組成物は、前述のアルミニウム再挿入Y型ゼオライトの含有量を所望に応じて変えることができるが、通常、担体基準で5〜80wt%(多孔性無機酸化物が95〜20wt%)、好ましくは20〜70wt%(多孔性無機酸化物が80〜30wt%)の範囲が望ましい。
また、水素化分解触媒組成物中の水素化金属成分の量は、通常の水素化分解触媒組成物に使用される範囲の量で良く、好ましくはモリブデン、タングステン、コバルト、ニッケルなどの酸化物として5〜30wt%の範囲にあり、白金属の金属成分では金属として0.01〜2wt%の範囲である。
【0033】
水素化分解触媒組成物の製造方法
次に、本発明の水素化分解触媒組成物の製造方法について述べる。
本発明の水素化分解触媒組成物は、次の(k)〜(n)工程により製造される。
(k)Y型ゼオライトをアンモニウムイオン交換した後、水蒸気雰囲気中で加熱処理して単位格子定数(UD)が24.24〜24.52Å範囲の超安定性Y型ゼオライト(USY)を調製する工程
周知の方法で合成されたY型ゼオライト(Na−Y)を、通常の方法でナトリウムイオンをアンモニウムイオンで交換して、アンモニウム交換Y型ゼオライト(NH4−Y)とする。アンモニウムイオン交換率は80%以上であることが好ましい。該アンモニウム交換Y型ゼオライトを、周知の方法で水蒸気雰囲気中加熱処理して、骨格構造を構成しているアルミニウムの一部を遊離させて骨格外アルミニウムとし、単位格子定数(UD)が24.24〜24.52Å範囲の超安定性Y型ゼオライト(USY)を調製する。
【0034】
(l)前記超安定性Y型ゼオライトをpH0.1〜3.0の範囲で酸処理して骨格構造中のアルミニウムを脱アルミニウムした後、濾過、洗浄して脱アルミニウム処理Y型ゼオライトを調製する工程
脱アルミニウム処理は、例えば、前記超安定性Y型ゼオライト(USY)を純水に懸濁し、所望により懸濁液を加熱撹拌して、これに硝酸、硫酸、塩酸などの酸水溶液を添加して懸濁液pHを0.1〜3.0の範囲に調整して酸処理することにより、骨格構造から遊離した前記骨格外のアルミニウムを脱アルミニウムすることにより行う。次いで、通常の方法で濾過、洗浄し、所望により乾燥して脱アルミニウム処理Y型ゼオライトを調製する。
【0035】
該ゼオライト懸濁液のpH値が0.1より低い場合にはゼオライトの結晶構造が壊れることがある。また、該ゼオライト懸濁液のpH値が3.0より高い場合には骨格構造からの脱アルミニウムが起きないことがある。該ゼオライト懸濁液の好ましいpH値は0.5〜2.0の範囲である。この様な脱アルミニウム処理Y型ゼオライトには、なお骨格外の6配位アルミニウムが存在している。
【0036】
(m)前記脱アルミニウム処理Y型ゼオライトをアンモニウム塩水溶液に懸濁し、該懸濁液のpHを4〜7の範囲に調整し、次いで、pH調整した懸濁液を100〜200℃の温度で10〜60時間加熱処理した後、濾過、洗浄してアルミニウム再挿入Y型ゼオライトを得る工程
前記脱アルミニウム処理Y型ゼオライトをアンモニウム塩水溶液に懸濁した懸濁液のpH値が、pH4より小さい場合には骨格構造中へのアルミニウムの再挿入が起きず、また、pH7より高い場合にはゼオライトの結晶化度が低下する傾向にある。好ましい該懸濁液のpHは4.5〜6.5の範囲にある。
前記アンモニウム塩としては、無機酸アンモニウム塩および有機酸アンモニウム塩が使用可能であり、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩酸アンモニウム、酢酸アンモニウムなどが例示される。
【0037】
次いで、pH調整した懸濁液をオートクレーブ中で100〜200℃の温度で10〜60時間加熱処理する。処理温度が100℃より低い場合には骨格構造中へのアルミニウムの再挿入が起きないことがあり、また、処理温度を200℃より高くても骨格構造中へのアルミニウムの再挿入量は200℃の場合と変わらないので経済的でない。好ましい処理温度は、130〜170℃の範囲である。
前記加熱処理時間が10時間より短い場合には骨格構造中へのアルミニウムの再挿入が起きないことがあり、また、加熱処理時間が60時間を超えても骨格構造中へのアルミニウムの再挿入量は60時間の場合と変わらないので経済的でない。好ましい加熱処理時間は20〜50時間である。
【0038】
脱アルミニウム処理Y型ゼオライトには、6配位の骨格外アルミニウムが存在しているので、該加熱処理によりこの骨格外アルミニウムが再挿入される。前記加熱処理の後、濾過、洗浄、乾燥してアルミニウム再挿入Y型ゼオライトを得る。
該製造方法では、脱アルミニウム処理Y型ゼオライトをpH4〜7範囲のアンモニウム塩水溶液中に懸濁するのでUSYの結晶化度の低下が無く、また、100〜200℃の温度で10〜60時間加熱処理するために、ゼオライト骨格外のアルミニウムが容易に再挿入され、前述の細孔構造を有するY型ゼオライトが得られる。
【0039】
本(m)工程では、アンモニウム塩水溶液として酢酸アンモニウム塩水溶液を使用して骨格構造中へのアルミニウムの再挿入処理を行うと、Y型ゼオライトの骨格構造を構成する16面体のαケージと8面体のβケージの両ケージにアルミニウムが再挿入され、両ケージ中に存在するアルミニウム原子の量がバランス良く存在するようになるので特に好ましい。
【0040】
(n)前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトと多孔性無機酸化物の前駆物質とを混合して、所望の形状に成型し、乾燥、焼成した担体に、水素化金属成分を担持する工程
本発明の水素化分解触媒組成物は、例えば、前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトと多孔性無機酸化物の前駆物質とを混合して、通常の方法で所望の形状に成型し、乾燥、焼成して得られた担体に水素化金属成分の溶液を通常の含浸法により担持し、乾燥、焼成することにより製造することができる。また、前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトと多孔性無機酸化物の前駆物質に水素化金属成分を混合し、所望の形状に成型し、乾燥、焼成する方法などにより製造される。
【0041】
なお、ここで多孔性無機酸化物の前駆物質とは、他の触媒組成物成分と混合されて水素化分解触媒を構成する多孔性無機酸化物となる前の段階の一連の物質を指すが、他の触媒組成物成分と混合して所望の形状に成型できるものであれば、多孔性無機酸化物自体も使用することができる。
担体および水素化分解触媒組成物の焼成には、従来のこの種の触媒組成物の焼成条件が適用され、好ましくは400〜650℃の範囲が望ましい。
【0042】
本発明の水素化処理用触媒組成物は、通常の炭化水素油の水素化分解に使用される処理条件が適用可能であり、一般には反応温度300〜500℃、水素圧力4〜30MPa、液空間速度0.1〜10hr-1範囲の処理条件が採用される。
【0043】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【参考例1(USY−5の調製)】
【0044】
表1に示す性状と図1に示す27Al MAS NMRスペクトルを有するNaY型ゼオライト(Na−Y)20kgを60℃の温水200リットルに懸濁した。ゼオライトに対して1モル倍の硫安5.7kgを加え、70℃で1時間攪拌してイオン交換した。その後、濾過・洗浄し、再度、硫安5.7kgを60℃の温水40リットルに溶解した溶液でイオン交換した後、濾過し、60℃の純水200リットルで洗浄した。その後、130℃で20時間乾燥し、粉砕を行ない、65%イオン交換されたNH4−Y型ゼオライト(NH465Y)を得た。
【0045】
次いで、このY型ゼオライト(NH465Y)を回転スチーミング装置で660℃−1時間飽和水蒸気雰囲気中にて焼成し、H−Y型ゼオライト(HY−5)得た。このHY−5を60℃の温水200リットルに懸濁した。次いで、ゼオライトに対して3モル倍の硫安17kg加え、90℃で1時間攪拌してイオン交換した後、濾過し、60℃の純水200リットルで洗浄した。その後、130℃で20時間乾燥し、粉砕を行ない、85%イオン交換されたY型ゼオライト(NH485Y)を得た。このNH485Yを回転スチーミング装置で700℃−1時間飽和水蒸気雰囲気中にて焼成し、超安定Y型ゼオライト(USY−5)を約17kg得た。
【参考例2(USY−15の調製)】
【0046】
参考例1のUSY−5を5.0kg秤取り、60℃の純水50リットルに懸濁し、懸濁液に25%硫酸8.5kgを徐々に添加した後、70℃で1時間攪拌して骨格外アルミニウムの大部分を溶解した。このときの懸濁液のpHは0.29であった。その後、これを濾過し、60℃の純水50リットルで洗浄し、130℃で20時間乾燥を行ない、超安定Y型ゼオライト(USY−15)を約4.2kg得た。該ゼオライトの性状を表1に示す。
【参考例3(USY−15ACの調製)】
【0047】
参考例2のUSY−15を0.50kgと硫酸アンモニウム0.35kg秤取り、純水3.65kgに懸濁した。この懸濁液のpHは5.1であった。この懸濁液を5リットルオートクレーブにセットして150℃で48時間攪拌処理した。その後、濾過し、60℃の純水10リットルで洗浄し、130℃で20時間乾燥を行ない、アルミニウム再挿入Y型ゼオライトを約0.45kg調製した。同じ操作を3回行ない、約1.3kgのアルミニウム再挿入Y型ゼオライト(USY−15AC)を調製した。該ゼオライトの性状を表1に示す。この操作において、ゼオライトの骨格構造から遊離してゼオライト中に残存している6配位アルミニウム(骨格外アルミニウム)が骨格構造に再挿入され、アルミニウム再挿入Y型ゼオライトが得られる。
【参考例4(USY−30の調製)】
【0048】
参考例1のUSY−5を12kg秤取り、60℃の純水120リットルに懸濁し、懸濁液に25%硫酸29.3kgを徐々に添加した後、70℃で1時間攪拌して骨格外アルミニウムを溶解した。このときの懸濁液のpHは0.23であった。その後、これを濾過し、60℃の純水120リットルで洗浄し、130℃で20時間乾燥を行ない、超安定Y型ゼオライト(USY−30)を約9kg調製した。該ゼオライトの性状を表1に、また27AlMAS NMR スペクトルを図2に示す。
図2のUSY−30の27AlMAS NMR スペクトルでは、6配位のAl(0ppm)のピークがあることから、骨格外のアルミニウムが存在することが分かる。
【参考例5(USY−30ACの調製)】
【0049】
参考例4のUSY−30を0.50kgと硫酸アンモニウム0.35kg秤取り、純水3.65kgに懸濁した。この懸濁液のpHは5.1であった。この懸濁液を5リットルオートクレーブにセットして150℃で48時間攪拌処理した。その後、濾過し、60℃の純水10リットルで洗浄し、130℃で20時間乾燥を行ない、アルミニウム再挿入Y型ゼオライトを約0.45kg調製した。同じ操作を3回行ない、約1.3kgのアルミニウム再挿入Y型ゼオライト(USY−30AC)を調製した。
【0050】
該ゼオライトの性状を表1に、また、27AlMAS NMR スペクトルを図2に示す。
図2から明らかなように、USY−30ACはUSY−30に比べ、骨格外のアルミニウムの存在を示す6配位Al(0ppm)のピークが減少し、骨格構造アルミニウムを示す4配位Al(60ppm)のピークが増加している。このことは、USY−30ACでは骨格外のアルミニウムがY型ゼオライトの骨格内へ再挿入されたことを示している。
【参考例6(Al.USY−30ACの調製)】
【0051】
参考例4の(USY−30)を0.50kgと酢酸アンモニウム0.26kg秤取り、純水3.50kgに懸濁した。この懸濁液のpHは6.1であった。この懸濁液を5リットルオートクレーブにセットして150℃で48時間攪拌処理した。その後、濾過し、60℃の純水10リットルで洗浄し、130℃で20時間乾燥を行ない、アルミニウム再挿入Y型ゼオライトを約0.45kg調製した。同じ操作を3回行ない、約1.3kgのアルミニウム再挿入Y型ゼオライト(Al.USY-30AC)を調製した。
【0052】
該ゼオライトの性状を表1に、また、図3に透過型フーリエ変換赤外分光装置(日本電子製JIR−7000)のFT−IRスペクトルを示す。
図3から明らかなように、酢酸アンモニウムで処理したゼオライトでは、3630cm-1のαケージと3550cm-1のβケージの架橋型水酸基に由来するピークが明確に観察された。
NH485Yでの3630cm-1のαケージと3550cm-1のβケージのピーク面積比(α/β)は3.67/1であり、Al.USY−30ACのピーク面積比(α/β)は1.15/1であった。このことは、酢酸アンモニウムを用いることでUSYゼオライトの骨格構造内にAl原子が4配位の状態で再挿入されたことを示している。
【参考例7(USY−30−AlNaO2の調製)】
【0053】
参考例4のUSY−30を0.50kgと22%−Al23アルミン酸ナトリウム0.41kg秤取り、純水3.65kgに懸濁した。この懸濁液のpHは11.2であった。該懸濁液を温度15℃で90時間攪拌した。その後、濾過し、硫安0.87kgを溶解した60℃の純水10リットルでイオン交換し、再度60℃の純水10リットルで洗浄し、130℃で20時間乾燥を行ない、アルミン酸ナトリウム処理Y型ゼオライトを約0.45kg調製した。同じ操作を3回行ない、約1.3kgのアルミン酸ナトリウム処理Y型ゼオライト(USY−30−AlNaO2)を調製した。該ゼオライトの性状を表1に示す。
【0054】
各ゼオライトの性状を示す表1において、「SiO2/Al23モル比」は化学分析値を、「Y−cont.」は結晶化度を、「UD」は単位格子定数を、「SA」は比表面積を、それぞれ表す。
【比較例1(触媒Aの調製)】
【0055】
スチームジャケット付100LタンクにAl23濃度換算で22wt%のアルミン酸ナトリウム水溶液12.88kgを入れ、イオン交換水で希釈し40kgとする。この溶液中に26wt%グルコン酸ナトリウム0.22kgを加え攪拌しながら60℃に加温する。50L容器にAl23濃度換算で7wt%の硫酸アルミニウム水溶液13.86kgを入れ、60℃の温水で希釈し40kgとした。
次いで、ロータリーポンプを用いて前記アルミン酸ナトリウム溶液中に前記硫酸アルミニウム溶液を一定速度で添加し、10分後pH=7.1とした。得られたアルミナ調合スラリーを攪拌しながら60℃で1時間熟成した。
【0056】
熟成後の該調合スラリーを平板フィルターで脱水し、0.3wt%アンモニア水溶液150Lで洗浄した。洗浄したケーキ状スラリーをイオン交換水で希釈し、Al23濃度で10wt%にした後、15wt%アンモニア水を用いてスラリーのpHを10.5に調整した。
pH調整したスラリーを環流器付熟成タンクに移し、攪拌しながら95℃で10時間熟成した。冷却後、平板フィルターで脱水し、スチームジャケットを備えた双腕式ニーダーにて所定の水分量まで濃縮した後、降温してアルミナ捏和物(X)を調製した。
【0057】
この無機酸化物マトリックス前駆体に相当するアルミナ捏和物(X)からAl23として1.0kgを秤取り、スチームジャケットを備えた双腕式ニーダーにて参考例2で調製した超安定Y型ゼオライト(USY−15)1.0kgと混合し、加温捏和して所定の水分量まで濃縮した後、降温して10分捏和した。
得られた捏和物を押し出し成形機にて直径1.8mmの円柱状に成形し110℃−16時間乾燥した後、乾燥したペレットを電気炉で温度550℃−3時間焼成し、担体とした。
【0058】
一方、1L容器に三酸化モリブデン201.3g、及び炭酸ニッケル90.4gを入れイオン交換水700mlを加え攪拌し懸濁した。この懸濁液を95℃で5時間溶液量が減少しないよう適当な環流措置を施し熟成した。その後、この懸濁溶液にクエン酸141gを加え、懸濁物を溶解し均一な含浸溶液を調製した。
前記含浸溶液を前記担体に含浸した。含浸方法は真空脱気可能な回転式ブレンダーに前記担体1000gを入れ、真空ポンプにて脱気した後、前記含浸溶液を担体の吸水率に見合うよう液量を調節し、ブレンダーを回転させながら添加した。
【0059】
溶液添加後、真空ポンプを停止し、常圧下とし20分間回転させ、担体中に含浸液が十分浸透するようにした。次いで、含浸されたサンプルを昇温プログラム付回転乾燥機にて40℃から250℃まで1時間で昇温乾燥させた。
乾燥品は、電気炉に入れ550℃で1時間焼成して、水素化分解触媒(触媒A)を調製した。触媒Aの性状を表2に示す。
【実施例1】
【0060】
(触媒Bの調製)
比較例1で調製したアルミナ捏和物(X)をAl23として1.0kgを秤取り、スチームジャケットを備えた双腕式ニーダーにて参考例3で調製したアルミニウム再挿入Y型ゼオライト(USY−15AC)1.0kgと混合し、加温捏和して所定の水分量まで濃縮した後、降温して10分捏和した。以降、比較例1と同様に操作して、水素化分解触媒組成物(触媒B)を調製した。触媒Bの性状を表2に示す。
【比較例2(触媒Cの調製)】
【0061】
比較例1において、参考例4で調製した超安定Y型ゼオライト(USY−30)1.0kgを使用した以外は、比較例1と同様にして水素化分解触媒組成物(触媒C)を調製した。触媒Cの性状を表2に示す。
【実施例2】
【0062】
(触媒Dの調製)
比較例1において、参考例5で調製したアルミニウム再挿入Y型ゼオライト(USY−30AC)1.0kgを使用した以外は、比較例1と同様にして水素化分解触媒組成物(触媒D)を調製した。触媒Dの性状を表2に示す。
【実施例3】
【0063】
(触媒Eの調製)
比較例1において、参考例6で調製したアルミニウム再挿入Y型ゼオライト(Al.USY−30AC)1.0kgを使用した以外は、比較例1と同様にして水素化分解触媒組成物(触媒E)を調製した。触媒Eの性状を表2に示す。
【比較例3(触媒Fの調製)】
【0064】
比較例1において、参考例7で調製した超安定Y型ゼオライト(USY-30―AlNaO2)1.0kgを使用した以外は、比較例1と同様にして水素化分解触媒組成物(触媒F)を調製した。触媒Fの性状を表2に示す。
【0065】
触媒A〜Fの性状を示す表2において、「SA」は比表面積、「Cr.Str.」は耐圧強度、「ABD」は見かけ嵩比重、「CBD」は密充填嵩比重、「PV(H2O)」は全細孔容積を、それぞれ表す。
【実施例4】
【0066】
(活性評価)
比較例1、2、3および実施例1、2、3の触媒A〜Fを用い、固定床流通式反応装置で、DAOを原料として水素化分解反応を行った。分解率及び灯油・軽油の中間留分得率を測定して、触媒の活性評価を行った。
反応条件と原料DAOの性状は、次の通りである。
【0067】
反応条件
液空間速度(hr-1) 0.26
水素/油比(Nm3/kl) 1250
水素分圧(MPa) 13
反応温度(℃) 370
【0068】
DAOの性状
比重(g/ml) 0.9807
硫黄分(wt%) 3.8
窒素分(wppm) 2240
【0069】
表3に活性評価の結果を示した。なお、分解率及び中間留分得率(灯油・軽油)は、生成油を蒸留装置にかけ、C1〜C4、C5〜145℃、145〜260℃、260〜375℃、375〜560℃、560℃+の含有量を測定して評価した。
即ち、分解率(560℃+)=[(原料油中の560℃+留分−生成油中の560℃+留分)/原料油中の560℃+留分]×100(%)である。
また、中間留分得率=(生成油中の145〜375℃留分/生成油中のC1〜375℃留分)×100(%)である。
【0070】
本発明の触媒B(実施例1)、触媒D(実施例2)、触媒E(実施例3)は、それぞれの基準触媒の触媒A(比較例1)、触媒C(比較例2)に対して、高い分解活性を示し、灯油、軽油等の中間留分得率が高いことが分かる。
また、特許文献2を追試した触媒F(比較例3)は、ゼオライトの結晶化度(Y−cont.)が低いので、分解活性が低い。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】参考例1で使用したNa−Y型ゼオライトの27Al MAS NMRスペクトル図である。
【図2】参考例4で調製した超安定Y型ゼオライト(USY−30)および参考例5で調製したアルミニウム再挿入Y型ゼオライト(USY−30AC)の27Al MAS NMRスペクトル図である。
【図3】参考例6で調製したアルミニウム再挿入ゼオライト(Al.USY−30AC)とNH485YのFT-IRスペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(g)の性状を有するアルミニウム再挿入Y型ゼオライトと多孔性無機酸化物とからなる担体に、水素化金属成分を担持させてなる水素化分解触媒組成物。
(a)単位格子定数(UD)が24.25〜24.52Å
(b)結晶化度が95%以上
(c)比表面積が500m2/g以上
(d)細孔直径600Å以下である細孔を持つ細孔群の全細孔容積(PVt)が0.45〜0.70ml/g
(e)細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)が0.10〜0.40ml/g
(f)細孔直径35〜50Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVs)が0.03〜0.15ml/g
(g)ゼオライト中の全アルミニウム原子に対する4配位アルミニウム原子の割合が60原子%以上
【請求項2】
前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトが、
(h)細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)と細孔直径600Å以下である細孔を持つ細孔群の全細孔容積(PVt)の比(PVm/PVt)が0.30以上、
(i)細孔直径100〜600Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVm)と細孔直径35〜50Åの範囲にある細孔を持つ細孔群の細孔容積(PVs)の比(PVm/PVs)が2.5以上、
の性状を有することを特徴とする請求項1記載の水素化分解触媒組成物。
【請求項3】
前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトが、
(j)フーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)で測定されるスペクトルが3630cm-1の位置と3550cm-1の位置にピークを有することを特徴とする請求項1または2記載の水素化分解触媒組成物。
【請求項4】
下記(k)〜(n)の工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の水素化分解触媒組成物の製造方法。
(k)Y型ゼオライトをアンモニウムイオン交換した後、水蒸気雰囲気中で加熱処理して単位格子定数(UD)が24.24〜24.52Å範囲の超安定性Y型ゼオライト(USY)を調製する工程、
(l)前記超安定性Y型ゼオライトをpH0.1〜3.0の範囲で酸処理して骨格構造中のアルミニウムを脱アルミニウムした後、濾過、洗浄して脱アルミニウム処理Y型ゼオライトを調製する工程、
(m)前記脱アルミニウム処理Y型ゼオライトをアンモニウム塩水溶液に懸濁し、懸濁液のpHを4〜7の範囲に調整し、次いで、pH調整した懸濁液を100〜200℃の温度で10〜60時間加熱処理した後、濾過、洗浄、乾燥してアルミニウム再挿入Y型ゼオライトを得る工程、
(n)前記アルミニウム再挿入Y型ゼオライトと多孔性無機酸化物の前駆物質とを混合して、所望の形状に成型し、乾燥、焼成した担体に、水素化金属成分を担持する工程、
【請求項5】
前記(m)工程において、アンモニウム塩水溶液が酢酸アンモニウム塩水溶液であることを特徴とする請求項4記載の水素化分解触媒組成物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−313409(P2007−313409A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144647(P2006−144647)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【出願人】(000190024)触媒化成工業株式会社 (458)
【Fターム(参考)】