説明

水素化物導入装置

【課題】 従来、水素化物発生装置は水素化物を発生させる反応部と、発生した水素化物を沸点以下に冷却されることで捕集し、捕集後に温度上昇させるとともに気化した水素化物を分析部で測定する構成となっている。測定対象となるヒ素やセレンなどは元素の価数により水素化物の発生効率が異なるため、従来の装置では、予め別の予備還元用の設備で予備還元を行ったサンプルを装置に導入する必要がある。このように別の設備で行っていた予備還元の操作は、分析全体として操作を煩雑にし、省力化の妨げとなるとともに、分析精度を低下させることにもつながっていた。
【解決手段】
水素化物発生用の反応槽に温調機構を設け、該反応槽を予備還元にも用いることができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的元素の水素化物を生成する水素化物発生装置に関し、更に詳しくは、生成された目的元素の水素化物を、超低温での冷却・液化により一旦捕集し、その後に該成分を気化させて分析装置へ導入する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
砒素(As)、アンチモン(Sb)、セレン(Se)等の半金属元素を分析するために、従来より、水素化物導入装置が一般に利用されている。(例えば、非特許文献1参照)。図4は、従来知られている水素化物導入システムの概略構成図である。この装置は、大別して、反応部1、除湿部2、捕集部3、及び分析部4から成る。分析部4は例えばファーネス式原子吸光光度計等の分析装置である。
【0003】
反応部1において、ポンプ14により一定量の塩酸緩衝液94を反応槽11に注入し、サンプル92をシリンジ12により反応槽11に注入する。これに、ポンプ13により水素化硼素ナトリウム等の還元剤93を添加する。すると、発生した水素により目的元素が還元されて水素化物ガスが発生する。反応槽11にはキャリアガス供給管18により略一定流量でキャリアガスとして例えばヘリウム(He)が送給され、このキャリアガスに乗って水素化物ガスが反応槽11から除湿部2を経て捕集部3へと運ばれる。水素化物が発生した発生した後、反応槽中に残留した廃液をポンプ17で排出し、洗浄液96をポンプ16により反応槽に注入し、再びポンプ17により排出するという操作を繰り返し、次のサンプルの測定に備える。ここで、消泡剤などの添加剤95が、添加剤用ポンプ95により適宜注入される。除湿部2では、冷却された不凍液21等によって管路が冷却されており、流通するガス中に含まれる水分はここで結露して除去される。捕集部3においては、石英ウール等の吸着材32が充填されたU字管31が液体窒素槽30に浸漬されることで極めて低い温度(水素化物の沸点以下であればよい)に冷却されており、U字管31に水素化物ガスが到達すると、そのガス中の水素化物は液化して吸着材32に捕集される。
【0004】
捕集部3に充分に水素化物が捕集された後に、U字管31は液体窒素槽30から大気雰囲気中に引上げられる。すると、U字管31の温度は徐々に上昇してゆき、吸着材32に捕集されていた水素化物はその沸点に達した時点で気化し、キャリアガスに乗って分析部4に導入される。導入された水素化物は加熱石英管42の内部で原子化され、光源40から発して加熱石英管42の内部を通過する光のうちその元素に特有な波長の光を吸収する。従って、分光器43によりこの波長の光を取り出して検出器44で検出し、データ処理部45においてその検出信号をデータ処理することにより、水素化物を検出することができる。
【0005】
非特許文献1に記載されるように、上記構成において、低濃度のサンプル溶液を測定する際には、シリンジ12で注入するサンプル溶液の量を増やし、それに伴って緩衝液や還元剤の量も適量にすれば、発生する水素化物の量も増加する。このとき発生した水素化物は捕集部3において捕集されたあと一気に原子化部へ導入されるため、分析部への絶対的な導入量を増やすことができ、感度向上させることができる。
【0006】
また、上記構成において、複数の成分の含まれるサンプル溶液を測定する際には、吸着材32に沸点の相違する複数の成分の水素化物が捕集されることとなり、吸着材32が昇温される過程で、その沸点の相違に応じて時間的にずれて各成分が検出される。これを利用することにより、目的元素と不所望の夾雑成分とを分離したり、或いは化学的な形態の相違する複数の成分を分離したりすることが可能である。図2は本装置で砒素の形態別分析を行った場合に得られるグラフの一例である。無機砒素(iAs)、モノメチル化砒素(MMA)、ジメチル化砒素(DMA)、トリメチル化砒素(TMA)はそれぞれ異なる沸点を有するため、図2に明らかなように、砒素の各形態は時間的に分離して現れる。
【0007】
このような水素化物発生方法において、反応部における水素化物の発生効率は測定元素の価数によって異なっている。例えばSeの場合、6価のSeからは水素化物は発生しない。したがって、反応部に導入する前にあらかじめ、試料中の6価のSeを、水素化物が生成される4価のSeに予備還元しなければ、6価のSeについては測定されないことになる。この予備還元の作業は、従来別に設けられた、ホットプレートなどの予備還元用の設備で加熱するなどして予備還元の操作を行った試料を、シリンジ12で反応部へ導入するようにしている。例えば、Seの場合は6Mの塩酸酸性下でサンプル溶液の入ったビーカーをホットプレート上で煮沸したり、Asの場合はヨウ化カリウムを添加して70℃程度に加熱したりするといった操作が行われる。通常のサンプルにおいては、それぞれの価数の存在比率が不明であるので、この予備還元を行う必要のあるサンプルがほとんどである。
【0008】
【非特許文献1】"超低温捕集を用いた水素化物発生−原子吸光法によるSb,Seの高感度分析"、島津アプリケーションニュース,No.A333、[Online]、株式会社島津製作所、[平成15年1月22日検索]、インターネット〈URL: http://www.shimadzu.co.jp/support/lib/an/200209/a333.pdf〉
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
水素化物発生法を用いた半金属元素の自動分析において、ホットプレートなど予備還元のための設備の設置スペースを別に設けることが必要であり、この予備還元の作業は自動化されておらず、作業効率を低下させる主な要因となっている。しかしながら昨今、分析の省力化や自動化が求められており、予備還元操作の自動化が必要とされている。
【0010】
本発明はかかる課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、設置スペースを削減し、予備還元から分析までの一連の操作を自動化できる水素化物発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る水素化物発生装置は、目的元素の水素化物を生成する反応部と、生成された水素化物を極低温で冷却することで捕集し、その後に昇温することで前記水素化物を気化させる捕集手段と、その気化した水素化物を分析するための分析装置を具備する水素化物発生装置であって、前記反応部は、
d) 温調機構を備えた反応槽と、
e) 反応槽に、水素化物発生のための液体を送液するポンプと、
f) サンプル溶液を反応槽へ注入する注入部
を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来水素化物を発生させるために用いられていた反応槽で、予備還元を行うこともできるようになり、別に設けていた予備還元用の設備が必要なくなり、省スペースとなる。予備還元の段階からデータの採取までの一連の作業が自動化され、作業者の負担が軽減されるとともに、全体として処理時間の短縮や測定精度の向上も期待できる。また、試料が加熱されることで、水素化物発生の反応促進も期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の一実施例である水素化物発生装置について図1及び図3を参照して説明する。図1は本実施例の水素化物発生原子吸光分析装置の概略構成図、図3は本装置の反応部1の特徴的な動作を示すフローチャートである。なお、既に説明した図4と同一の構成要素については、同一符号を付して説明を省略する。
【0014】
この水素化物発生装置では、図1に示すように、反応部1に特徴がある。本願発明の反応部1は、反応槽11、シリンジ12、還元剤用ポンプ13、反応液用ポンプ14、洗浄液用ポンプ15、添加剤用ポンプ16、廃液用ポンプ17、キャリアガス供給管18からなり、反応槽11には温調手段19が設けられている。この温調手段19は、例えば反応槽の底面にヒータブロックを設置し、温度は制御部5により制御される。
【0015】
Seを測定する場合について、図3に従って動作を説明する。反応部1において、反応液用ポンプ14により、反応槽11へ6M塩酸緩衝液を供給し、シリンジ12によりサンプル溶液92を反応槽11へ注入する(ステップ1、2)。サンプル溶液を注入後もしくは注入前から、温調手段19により、反応槽11を加熱して煮沸を行い、サンプル溶液中の6価のSeが4価のSeになるよう予備還元を行う(ステップ3)。予備還元が終われば、加熱を終了し、反応液用ポンプ14により塩酸緩衝液を添加した後(ステップ4)、還元剤用ポンプ13により、水素化ホウ素ナトリウム溶液を加える(ステップ5)と、サンプル溶液中の4価のSeが還元されて、水素化物が発生する(ステップ6)。発生した水素化物は反応槽に導入されているHeなどのキャリアガスにより次段の除湿部2に運ばれる。反応槽に残留している廃液は、ポンプ16,17を交互に数回作動させて廃液の排出と槽内の洗浄が行われ(ステップ7)、次の試料の処理に備える。添加剤用ポンプ15は泡立つ溶液の測定の際に消泡剤等の添加剤を注入するためのものであり、適宜使用される。
【0016】
ステップ5において発生した水素化物は、エチレングリコールなどの不凍液21により約-15℃に冷却された除湿部2を通過するうちに除湿され、捕集部3では液体窒素により約−190℃にまで冷却されてU字管31内に捕集される。捕集終了後にこのU字管31を液体窒素から引き上げると、U字管の温度が上昇するとともに捕集されていた水素化物が気化して、キャリアガスに乗って逐次分析部7に導入される。導入された水素化物は加熱石英管42の内部で原子化され、光源40から発して加熱石英管42の内部を通過する光のうちその元素に特有な波長の光を吸収する。従って、分光器43によりこの波長の光を取り出して検出器44で検出し、データ処理部45においてその検出信号をデータ処理することにより、水素化物を検出することができる。
【0017】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正を行えることは明らかである。また上記はSeの分析を例として説明したが、本発明は水素化物を作るヒ素、アンチモン、水銀、鉛などの分析においても温調温度や反応液等の条件(種類を変更、複数用いるなど)を適宜変更すれば、同様に自動で予備還元からの一連の作業を行うことができる。またシリンジ12の変わりにオートサンプラなどによりサンプル注入を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例による水素化物発生装置の概略構成図。
【図2】従来例の水素化物発生装置で砒素の形態別分析を行った際に得られるグラフの一例。
【図3】本実施例による水素化物発生装置の特徴的な動作を示すフローチャート。
【図4】従来の水素化物発生装置の概略構成図。
【符号の説明】
【0019】
1 ...反応部
11...反応槽
12...シリンジ
13...還元剤用ポンプ
14...反応液用ポンプ
15...添加剤用ポンプ
16...洗浄液用ポンプ
17...廃液用ポンプ
18...キャリアガス供給管
2 ...除湿部
21...不凍液
3 ...捕集部
30...液体窒素槽
31...U字管
32...吸着材
4 ...分析部
40...光源
41...原子化部
42...加熱石英管
43...分光器
44...検出器
45...データ処理部
5 ...制御部
92...サンプル
93...還元剤
94...反応液
95...添加剤
96...洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的元素の水素化物を生成する反応部と、生成された水素化物を極低温で冷却することで捕集し、その後に昇温することで前記水素化物を気化させる捕集部と、その気化した水素化物を分析するための分析部を具備する水素化物発生装置であって、前記反応部は、
a) 温調機構を備えた反応槽と、
b) 反応槽に、水素化物発生のための液体を送液するポンプと、
c) サンプル溶液を反応槽へ注入する注入部
を備えたことを特徴とする水素化物発生装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−98259(P2006−98259A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285819(P2004−285819)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】