説明

水素吸蔵材料、水素吸蔵材料の使用方法及び燃料電池

【課題】優れた水素吸蔵能を有する水素吸蔵材料、水素吸蔵材料の使用方法及び燃料電池の提供を目的とする。
【解決手段】水素吸蔵材料1は、水素原子3を吸着する金属原子22が配位結合した高分子錯体2を有し、さらに、高分子錯体2が、金属原子22が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵材料、水素吸蔵材料の使用方法及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、通常、アノードおよびカソードと、これらの間に設けられた電解質とから構成されている。この燃料電池は、アノードに燃料が供給され、カソードに酸化剤が供給されると、電気化学反応により発電する。アノードに供給される燃料として、水素やメタノールなどが用いられている。
【0003】
水素を燃料として用いた燃料電池は、メタノールを用いた燃料電池より、大きな出力が得られることが知られている。これは、アノードにおける反応過電圧の大きさの違いが、影響しているからである。
さらに、メタノールを用いた場合、液体燃料の漏洩や、液体燃料循環ラインの腐食などさまざまな問題を抱えており、一般的に、水素を燃料として用いる方が、有利であると考えられる。
【0004】
燃料として水素を用いた場合、アノードでの反応は以下の式(1)のようになる。
→ 2H + 2e 式(1)
また、カソードでの反応は以下の式(2)のようになる。
3/2O + 6H + 6e → 3HO 式(2)
【0005】
ただし、水素を燃料として用いた場合、その貯蔵が問題となる。すなわち、水素は、常温常圧において気体なので、液体燃料と比較して貯蔵容器が大きくなってしまう。
このため、効率良く水素を貯蔵する様々な材料が、研究開発されている。
【0006】
水素吸蔵体として、一般的に、V系やMg系などの合金が用いられている。これらの水素吸蔵合金においては、合金の周期構造内に水素が入り込み、水素を含んだ新たな周期構造をとることが知られている。
【0007】
また、上記水素吸蔵合金の他にも、様々な材料が、研究開発されている。
たとえば、特許文献1には、2本以上の繊維状炭素が絡まってバンドル構造を形成している水素貯蔵用炭素材料の技術が開示されている。
【0008】
さらに、非特許文献1には、エチレンに配位したチタン原子に、水素を最大5分子まで吸着させる技術が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、配位高分子金属錯体RdtoaM(ここで、Mは金属)からなる燃料電池用アノード電極の技術が開示されている。この材料は、水分及び水素を吸蔵することができる。
【0010】
さらに、特許文献3には、R−(COOH)で表される第一の有機配位子と、金属原子と、金属原子に配位可能な原子を有する二座配位可能な第二の有機配位子とが三次元的に結合してなる、三次元高分子錯体の技術が開示されている。この材料は、水素を低温で貯蔵・放出することができる。
【特許文献1】特開2004−035322号公報
【特許文献2】特開2004−031174号公報
【特許文献3】特開2005−093181号公報
【非特許文献1】Transition−Metal−Ethylene Complexes as High−Capacity Hydrogen−Strage Media. Phys. Rev. 97, 226102 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記水素吸蔵合金は、4重量%程度の水素しか吸蔵できず、十分な水素吸蔵能が得られないといった問題があった。この理由としては、合金に密度の高い金属が用いられていることが挙げられる。
また、特許文献1の水素貯蔵用炭素材料は、密度の低いカーボンナノチューブを用いている。この材料は、密度は低いものの水素吸蔵能自体が低く、4重量%程度の水素吸蔵能しか達成できていないといった問題があった。
さらに、非特許文献1で用いられているエチレンは気体なので、実際に水素吸蔵材料として用いるには、液体燃料と比較して貯蔵容器が大きくなってしまうなどの問題があった。
また、特許文献2、3の技術は、水素を吸着する金属が配位結合した高分子錯体を用いた技術であり、水素を吸着できるものの、十分な水素吸蔵能が得られないといった問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決すべく、優れた水素吸蔵能を有する水素吸蔵材料、水素吸蔵材料の使用方法及び燃料電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の水素吸蔵材料は、水素を吸着する金属が配位結合した高分子錯体を有する水素吸蔵材料であり、さらに、金属が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を、高分子錯体が有している。
【0014】
また、本発明は、水素吸蔵材料の使用方法としても有効である。本発明の水素吸蔵材料の使用方法は、水素を吸着する金属が配位結合した高分子錯体を有し、さらに、金属が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を、高分子錯体が有する水素吸蔵材料の使用方法であり、水素吸蔵材料が、水素を除くガスから遮蔽された状態で使用される方法としてある。
【0015】
また、本発明は、燃料電池としても有効である。本発明の燃料電池は、水素吸蔵材料を収納した燃料カートリッジを使用する燃料電池であり、水素吸蔵材料が、水素を吸着する金属が配位結合した高分子錯体を有し、さらに、高分子錯体が、金属が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた水素吸蔵能を有する水素吸蔵材料、水素吸蔵材料の使用方法及び燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[水素吸蔵材料の一実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる水素吸蔵材料の、分子構造及び水素が吸着した状態を説明するための概略図を示している。
図1において、本実施形態の水素吸蔵材料1は、水素原子3を吸着する金属原子22が配位結合した高分子錯体2からなっている。この高分子錯体2は、金属原子22が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を有している。
【0018】
高分子錯体2は、配位子が有する基と金属原子22とが配位結合することによって、形成される。本実施形態では、上記配位子として、ピロール21が重合したポリピロールを用いている。このポリピロールは、金属原子22を単原子分散させる基体となる。
また、本実施形態の高分子錯体2は、図1に示すように、金属原子22が約3.7Åの間隔で配列された構造を有している。このように、隣り合った金属原子22どうしの中心間隔を3.6Å以上4.5Å以下とすることにより、高密度に水素を吸蔵することができる。
【0019】
次に、配位子として、ポリピロールを選定した理由について、説明する。
配位子となる高分子を選定する際、窒素や硫黄などの配位原子の配列間隔が重要である。この配位原子(本実施形態では、N(窒素))は、配位結合により、金属原子22と結合する。したがって、図1に示すように、配位原子の配列間隔は、金属原子22の金属中心間距離とほぼ等しくなる。この金属中心間距離が決まると、水素吸蔵材料1における金属密度が決まる。水素原子3は金属原子22に吸着されるので、金属密度は、水素吸蔵材料1の水素吸蔵量に直接的に関係する。
すなわち、金属密度が高いほど水素吸蔵量は増えるが、金属密度が高すぎると、金属原子22の間隔が狭くなりすぎて、水素原子3の侵入ができなくなり、水素吸蔵量が低下する。したがって、水素吸蔵材料1は、所定の金属密度で水素吸蔵量のピークを迎えることになる。
【0020】
ここで、高分子に配列され、水素原子3を吸着できる金属原子22の平均的な原子半径は約1.5Åであり、水素原子3の半径が約0.3Åであることを考えると、金属原子22の金属中心間隔は、約3.6(=2×1.5+2×0.3)Å以上であることが必要となる。このようにすると、金属原子22の間隔が狭くなりすぎて、水素原子3がスムースに侵入できなくなるといった不具合を回避することができる。
一方、金属中心間隔が広がれば、金属密度が低くなる。金属密度が低くなりすぎると、水素吸蔵材料1における水素吸蔵量が減少してしまう。また、隣り合う金属原子22の間には、最大で2個の水素原子3が入る間隔があれば十分なので、金属中心間隔は、約4.5(=2×1.5+2×0.3+2×0.3+0.3(隙間))Åあれば十分である。
したがって、金属原子22の金属中心間隔を3.6Å以上4.5Å以下とすることにより、高密度に水素を吸蔵することができる。
【0021】
なお、本実施形態では、配位子として、ポリピロールを用いているが、これに限定されるものではない。すなわち、金属原子22を単原子分散させる基体として、上記の条件(高分子錯体2が、金属原子22が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を有すること。)を満たし、N(窒素)、O(酸素)、S(硫黄)及びSe(セレン)のうち少なくとも一つを含む、複素5員環、複素5員環の誘導体、複素6員環、又は、複素6員環の誘導体からなる配位子を、主鎖あるいは主鎖の一部とする有機高分子化合物を用いることができる。
【0022】
金属原子22は、水素原子3を吸着する金属であり、たとえば、Sc(スカンジウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Zn(亜鉛)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、及び、Au(金)から選ばれる少なくとも一つである。
【0023】
以上説明したように、本実施形態の水素吸蔵材料1は、隣り合った金属原子22どうしの中心間隔を3.6Å以上4.5Å以下とすることにより、高密度に水素を吸蔵することができる。
【0024】
[水素吸蔵材料の使用方法の一実施形態]
また、本発明は、水素吸蔵材料の使用方法の発明としても有効である。
この水素吸蔵材料の使用方法は、上記実施形態の水素吸蔵材料1を使用する使用方法である。
この水素吸蔵材料1は、上述したように、水素原子3を吸着する金属原子22が配位結合した高分子錯体2を有し、さらに、高分子錯体2が、金属原子22が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を有している。
そして、水素吸蔵材料1の使用方法は、水素を除くガスから遮蔽された状態で使用される方法としてある。
このようにすると、空気中の酸素による酸化の影響を避けることができ、後述するように、水素吸蔵材料1の水素吸蔵量が減少するといった不具合を防止することができる。
【0025】
[燃料電池の一実施形態]
また、本発明は、水素吸蔵材料を収納した燃料カートリッジを使用する燃料電池の発明としても有効である。
この燃料電池は、図示してないが、上記実施形態の水素吸蔵材料1を収納した燃料カートリッジを使用する燃料電池である。
この水素吸蔵材料1は、上述したように、水素原子3を吸着する金属原子22が配位結合した高分子錯体2を有し、さらに、高分子錯体2が、金属原子22が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を有している。
【0026】
上述したように、水素吸蔵材料1は、隣り合った金属原子22どうしの中心間隔を3.6Å以上4.5Å以下とすることにより、高密度に水素を吸蔵することができる。
これにより、水素吸蔵材料1を収納した燃料カートリッジを使用する燃料電池は、エネルギー保有量を増大できるので、付加価値を向上させることができる。
また、本発明の燃料電池は、使用目的などが特に限定されるものではなく、たとえば、携帯機器用燃料電池、自動車用燃料電池、定置式燃料電池などである。
次に、本発明の水素吸蔵材料の各実施例及び比較例について、説明する。
【実施例1】
【0027】
実施例1の水素吸蔵材料は、金属を配位させる高分子としてポリピロールを用いた。なお、ポリピロールは、5員環に含まれる窒素が3.7Åの間隔で配列する構造を有しており、本発明の条件を満たしている。
まず、ポリピロールは、メタノール溶液中で化学重合により、生成した。この際、ピロールの酸化剤として塩化鉄(III)を用いた。すなわち、メタノール溶液中にピロールと塩化鉄を投入し、十分にかき混ぜることでポリピロールを得た。生成したポリピロール中には、鉄の混入が考えられるので、塩酸に浸して鉄の除去を行った。
【0028】
続いて、生成したポリピロールに金属の配位を行った。この際、金属塩として、酢酸コバルトを用いた。すなわち、メタノール中に生成したポリピロールと酢酸コバルトを入れ、還流を加えた。還流後のサンプルをろ過し、乾燥させることにより、コバルトを配位したポリピロール(実施例1の水素吸蔵材料)を得た。
【0029】
この水素吸蔵材料に対して、ポリピロールにコバルトが単原子で配位していることを確認するために、2Kで0〜7Tまでの磁化測定を行った。
図2は、実施例1に対する磁化測定の結果(Data)とパウリ常磁性とスピンが2のキュリー常磁性を仮定した関数曲線(Fitting Curve)のグラフを示している。
図2に示すように、本実施例の水素吸蔵材料からは、導電性高分子であるポリピロール由来のパウリ常磁性の成分と、コバルトイオン由来と考えられるスピンが2のキュリー常磁性の成分とが検出された。このことから、コバルト原子は、互いに相互作用を及ぼさない距離に分散していることが分かり、目的通りにポリピロールに単原子配位していることが確認できた。
【0030】
さらに、以上のようにして得られた水素吸蔵材料に、水素を吸蔵させてその吸蔵量を測定した。
すなわち、まず、耐圧容器の中に水素吸蔵材料を隙間なく詰め、内部を真空引きし、水素を吸蔵していないときの総重量(=W1)を測定した。続いて、0.5MPaの圧力で水素を吸蔵させ、水素吸蔵後の総重量(=W2)を測定した。そして、これらの総重量の変化分から水素吸蔵量(=W2−W1)を求めた。また、水素吸蔵材料を耐圧容器から取り出し、水素吸蔵後の水素吸蔵材料の重量(=W)を測定した。
図3は、実施例1〜3の水素吸蔵量の測定結果を説明するための表1を示している。
図3の表1に示すように、実施例1の水素吸蔵材料は、吸蔵量が、7.5((W2−W1)/W)wt%であり、優れた水素吸蔵能を有していた。
【実施例2】
【0031】
実施例2の水素吸蔵材料は、金属を配位させる高分子としてポリピロールを用いた。なお、ポリピロールは、5員環に含まれる窒素が3.7Åの間隔で配列する構造を有しており、本発明の条件を満たしている。
まず、ポリピロールは、メタノール溶液中で化学重合により、生成した。この際、ピロールの酸化剤としてサルファニリック酸鉄(III)を用いた。すなわち、メタノール溶液中にピロールとサルファニリック酸鉄(III)を投入し、十分にかき混ぜることでポリピロールを得た。生成したポリピロール中には、鉄の混入が考えられるので、塩酸に浸して鉄の除去を行った。
【0032】
続いて、実施例1と同様に、生成したポリピロールに金属の配位を行った。すなわち、金属塩として、酢酸コバルトを用い、コバルトを配位したポリピロール(実施例2の水素吸蔵材料)を得た。
また、実施例2の水素吸蔵材料における、コバルトの配位の状態を調べるために、実施例1と同様に磁化測定を行った。その結果、本実施例の水素吸蔵材料からも、導電性高分子であるポリピロール由来のパウリ常磁性の成分と、コバルトイオン由来と考えられるスピンが2のキュリー常磁性の成分とが検出された。このことから、コバルト原子は、互いに相互作用を及ぼさない距離に分散していることが分かり、目的通りにポリピロールに単原子配位していることが確認できた。
【0033】
さらに、以上のようにして得られた水素吸蔵材料に、実施例1と同様にして、水素を吸蔵させてその吸蔵量を測定した。
図3の表1に示すように、実施例2の水素吸蔵材料は、吸蔵量が、8.4((W2−W1)/W)wt%であり、優れた水素吸蔵能を有していた。
ここで、実施例2は、実施例1と比べると、実施例1より吸蔵量が増えていた。この理由としては、サルファニリック酸はニトロ基を有しており、このニトロ基の窒素にもコバルトが配位することによって、コバルトが増加する。そして、水素を吸着するコバルトが増加することにより、水素の吸着量が増加したものと考えられる。
【実施例3】
【0034】
実施例3の水素吸蔵材料は、金属を配位させる高分子としてポリピロールを用いた。なお、ポリピロールは、5員環に含まれる窒素が3.7Åの間隔で配列する構造を有しており、本発明の条件を満たしている。
まず、ポリピロールは、メタノール溶液中で化学重合により、生成した。この際、実施例1と同様に、ピロールの酸化剤として塩化鉄(III)を用いた。すなわち、メタノール溶液中にピロールと塩化鉄(III)を投入し、十分にかき混ぜることでポリピロールを得た。生成したポリピロール中には、鉄の混入が考えられるので、塩酸に浸して鉄の除去を行った。
【0035】
続いて、生成したポリピロールに金属の配位を行った。この際、金属塩として、酢酸ニッケルを用いた。すなわち、メタノール中に生成したポリピロールと酢酸ニッケルを入れ、還流を加えた。還流後のサンプルをろ過し、乾燥させることにより、ニッケルを配位したポリピロール(実施例3の水素吸蔵材料)を得た。
【0036】
また、実施例3の水素吸蔵材料における、ニッケルの配位の状態を調べるために、実施例1と同様に磁化測定を行った。その結果、本実施例の水素吸蔵材料からも、導電性高分子であるポリピロール由来のパウリ常磁性の成分と、ニッケルイオン由来と考えられるスピンが1のキュリー常磁性の成分とが検出された。このことから、ニッケル原子は、互いに相互作用を及ぼさない距離に分散していることが分かり、目的通りにポリピロールに単原子配位していることが確認できた。
【0037】
さらに、以上のようにして得られた水素吸蔵材料に、実施例1と同様にして、水素を吸蔵させてその吸蔵量を測定した。
図3の表1に示すように、実施例3の水素吸蔵材料は、吸蔵量が、7.3((W2−W1)/W)wt%であり、優れた水素吸蔵能を有していた。
ここで、実施例3は、実施例1と比べると、実施例1とほぼ同じ吸蔵量を有していた。このことから、コバルトの代わりにニッケルを用いても、ほぼ同様に水素を吸着できることが分かった。
【実施例4】
【0038】
本実施例及び比較例1では、異なる保存条件における水素吸蔵能の経時変化について、実験した。
図4は、実施例4及び比較例1の水素吸蔵量の測定結果を説明するための表2を示している。
まず、実施例4の水素吸蔵材料は、実施例1と同様にして製造した。この水素吸蔵材料は、実施例1の水素吸蔵材料と同じであり、製造直後に、実施例1と同様にして、水素を吸蔵させてその吸蔵量を測定した。図4の表2に示すように、実施例4の水素吸蔵材料は、吸蔵量が、7.5((W2−W1)/W)wt%であり、優れた水素吸蔵能を有していた。この測定の直後に、本実施例の水素吸蔵材料を、真空引きした状態で耐圧容器内に保存した。
【0039】
続いて、真空引きした状態で耐圧容器内に保存した水素吸蔵材料に対して、二週間経過するごとに、実施例1と同様にして、水素を吸蔵させてその吸蔵量を測定し、測定の直後に、再び、真空引きした状態で耐圧容器内に保存した。
この測定結果は、真空保存時の吸蔵量(wt%)が、上述したように、7.5wt%であり、その後の吸蔵量(wt%)は、図4の表2に示すように、7.5wt%、7.4wt%、7.3wt%であった。
すなわち、本実施例の水素吸蔵材料は、製造から6週間経過しても、真空状態で保存すると、吸蔵量がほとんど低下しないことが分かった。
【0040】
[比較例1]
次に、比較例1では、異なる保存条件における水素吸蔵能の経時変化について、実験した。
まず、比較例1の水素吸蔵材料は、実施例1と同様にして製造した。この水素吸蔵材料は、実施例1の水素吸蔵材料と同じであり、製造直後に、実施例1と同様にして、水素を吸蔵させてその吸蔵量を測定した。図4の表2に示してないが、製造直後における比較例1の水素吸蔵材料は、吸蔵量が、7.5((W2−W1)/W)wt%であり、優れた水素吸蔵能を有していた。
この測定の直後に、比較例1の水素吸蔵材料を、大気中に1週間放置し、再び、実施例1と同様にして、水素を吸蔵させてその吸蔵量を測定した。図4の表2に示すように、比較例1の水素吸蔵材料は、吸蔵量が、5.4wt%に低下しており、大気中で放置することにより、吸蔵能が大きく低下することが分かった。これは、高分子が酸素の影響でこわれてコバルト原子が凝集してしまい、有効に利用できるコバルト表面が減少してしまったためと考えられる。
【0041】
続いて、吸蔵能が低下した水素吸蔵材料を、真空引きした状態で耐圧容器内に保存し、二週間経過するごとに、実施例1と同様にして、水素を吸蔵させてその吸蔵量を測定し、測定の直後に、再び、真空引きした状態で耐圧容器内に保存した。
この測定結果は、真空保存時の吸蔵量(wt%)が、上述したように、5.4wt%であり、その後の吸蔵量(wt%)は、図4の表2に示すように、5.3wt%、5.3wt%、5.2wt%であった。
すなわち、本比較例の水素吸蔵材料は、大気中で1週間放置することにより、吸蔵能が大きく低下した。また、吸蔵能が大きく低下した本比較例の水素吸蔵材料は、その後、真空状態で保存すると、製造から6週間経過してもその吸蔵量がほとんど低下しないことが分かった。
【0042】
以上、本発明の水素吸蔵材料、水素吸蔵材料の使用方法及び燃料電池について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係る水素吸蔵材料、水素吸蔵材料の使用方法及び燃料電池は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
たとえば、上述した水素吸蔵材料1は、一つのピロール21に一つの金属原子22が配位結合した構造としてあるが、これに限定されるものではない。たとえば、実施例2の水素吸蔵材料は、サルファニリック酸のニトロ基によって、水素を吸着するコバルトが増加し、水素の吸着量が増加したものと考えられる。
すなわち、図示してないが、高分子錯体に、水素を吸着する金属を含む、官能基、側鎖及び添加物の少なくとも一つを加えた構造としてもよい。このようにすると、水素を吸着する金属の配位量を増やすことができ、水素の吸蔵量を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる水素吸蔵材料の、分子構造及び水素が吸着した状態を説明するための概略図を示している。
【図2】図2は、実施例1に対する磁化測定の結果とパウリ常磁性とスピンが2のキュリー常磁性を仮定した関数曲線のグラフを示している。
【図3】図3は、実施例1〜3の水素吸蔵量の測定結果を説明するための表1を示している。
【図4】図4は、実施例4及び比較例1の水素吸蔵量の測定結果を説明するための表2を示している。
【符号の説明】
【0044】
1 水素吸蔵材料
2 高分子錯体
3 水素原子
21 ピロール
22 金属原子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を吸着する金属が配位結合した高分子錯体を有する水素吸蔵材料であって、
前記金属が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を、前記高分子錯体が有することを特徴とした水素吸蔵材料。
【請求項2】
前記高分子錯体の配位子が、ポリピロールであることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
前記金属が、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Zn、Ir、Pt、及び、Auから選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
前記高分子錯体に、水素を吸着する金属を含む、官能基、側鎖及び添加物の少なくとも一つを加えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水素吸蔵材料。
【請求項5】
水素を吸着する金属が配位結合した高分子錯体を有し、さらに、前記金属が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を、前記高分子錯体が有する水素吸蔵材料の使用方法であって、
前記水素吸蔵材料が、水素を除くガスから遮蔽された状態で使用されることを特徴とする水素吸蔵材料の使用方法。
【請求項6】
前記高分子錯体の配位子が、ポリピロールであることを特徴とする請求項5に記載の水素吸蔵材料の使用方法。
【請求項7】
水素吸蔵材料を収納した燃料カートリッジを使用する燃料電池において、
前記水素吸蔵材料が、水素を吸着する金属が配位結合した高分子錯体を有し、さらに、前記高分子錯体が、前記金属が3.6Å以上4.5Å以下の間隔で配列された構造を有することを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
前記高分子錯体の配位子が、ポリピロールであることを特徴とする請求項7に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−227760(P2009−227760A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73117(P2008−73117)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】