説明

水素生産能を有する微生物の培養方法および水素生産方法

【課 題】 水素生産に関するFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された株を用いて、効率的に水素を生産する方法を提供することによる。
【解決手段】 蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物を好気条件で培養した後、嫌気条件下で培養し、かくして得られた微生物を還元状態にある水素発生用反応溶液中、有機性基質と接触させて水素を発生させることを特徴とする水素の生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素生産能を有する微生物の培養方法および水素の生産方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステム(以下、FHLシステムと略記する。)の形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物の培養方法、および該培養で得られた微生物を用いて水素を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は化石燃料と異なり、燃焼しても炭酸ガスや硫黄酸化物など環境問題より懸念される物質を発生しない究極のクリーンエネルギー源として注目され、単位質量当たりの熱量は石油の3倍以上あり、燃料電池に供給すれば電気エネルギーおよび熱エネルギーに高い効率で変換できる。
【0003】
水素の生産は従来より化学的製法として、天然ガスやナフサの熱分解水蒸気改質法などの技術が提案されている。この方法は高温高圧の反応条件を必要とすること、そして製造される合成ガスにはCO(一酸化炭素)が含まれるため燃料電池用燃料として使用する場合には燃料電池電極触媒劣化防止のため、技術的課題解決難度の高いCO除去を行うことが必要となる。
【0004】
一方、微生物による生物的水素生産方法は常温常圧の反応条件であること、そして発生するガスにはCOが含まれないためその除去も不要である。
このような観点から、微生物による生物的水素生産は燃料電池用燃料供給方法のより好ましい方法として、注目されている。
【0005】
生物的水素生産方法には大別して光合成微生物を使用する方法と非光合成微生物(主に嫌気性微生物)を使用する方法に分けられる。前者の方法は水素発生に光エネルギーを用いるため、その低い光エネルギー利用効率により広大な集光面積を要し、水素発生装置の価格問題や維持管理の難しさ等、解決しなければならない課題が多く実用的なレベルではない。
【0006】
後者の嫌気性微生物における水素発生に関する代謝経路は色々な経路が知られている(グルコースのピルビン酸への分解経路での水素を発生する経路、ピルビン酸からアセチルCoAを経て酢酸が生成する過程での水素を発生する経路、そしてピルビン酸由来の蟻酸より直接水素を発生する経路等)。
ピルビン酸由来の蟻酸より直接水素を発生する経路は、FHLシステムとして、多くの微生物が有している。
【0007】
これまで、FHLシステムに関して、エシェリキア・コリでの報告がある。エシェリキア・コリはFHLシステム生成のための必要な酵素をコードするhycオペロンを有することが報告されている。さらに、hycオペロンの変異株を作成し、解析を行った報告がある(非特許文献1)。この文献では、hycA遺伝子が、FHLシステムの形成を抑制する因子であることが示されている。
【0008】
また、水素発生に関する報告では(非特許文献2)、FHLシステムのHYCAが機能しない株を用いて、FHLシステムのHYCAが機能する株との水素生産性の比較が示されている。
【0009】
一方で、微生物を用いた水素生産方法(特許文献1)で、水素生産能を有する微生物を得るために、微生物を好気条件で培養し、その得られた菌体を嫌気条件で培養し、水素生産能を有する微生物を得ていた。
【0010】
【特許文献1】国際公開第2004/074495号パンフレット
【非特許文献1】サウター・エム(Sauter,M.)ら、モレキュラー・ミクロバイオロジー(Mol.Microbiol.)、第6巻、p1523−1532(1992年)
【非特許文献2】ペンホールド・ディー・ダブル(Penfold,D.W.)エンザイム・アンド・ミクロバイアル・テクノロジー(Enz.Microbiol.Technol.)、第33巻、p185−189(2003年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
好気条件下では微生物濃度を高微生物濃度まで増殖させることは容易である。その微生物を用いて、嫌気条件下で水素生産能を獲得することも可能である。しかしながら、嫌気条件下での水素生産能を獲得する培養時に、微生物が短時間に効率的に水素生産能を獲得すること、および高微生物濃度での培養で水素生産能を獲得することは困難である問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は上記の技術的課題を解決することを目的として、鋭意検討を行った結果、水素生産に関するFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている株を用いることで、好気条件下で培養後、嫌気条件下で培養することにより、比較的短時間で、かつ高微生物濃度で優れた水素生産能を有する微生物を製造できることを見出すと共に、得られた微生物を用いることにより単位微生物あたりの水素発生速度を一段と向上させ得ることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、
[1] 蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物(ただし、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの転写アクティベーターの発現に関して改変されている微生物を除く)を好気条件で培養した後、嫌気条件で培養することを特徴とする水素生産能を有する微生物の培養方法、
[2] 好気条件で培養後、嫌気条件で培養する微生物が、エシェリキア・コリの形質転換体であることを特徴とする前記[1]に記載の培養方法、
[3] 好気条件で培養後、嫌気条件で培養する微生物が、エシェリキア・コリW3110株(ATCC 27325)の形質転換体である前記[1]に記載の培養方法、
[4] 好気条件で培養後、嫌気条件で培養する微生物が、エシェリキア・コリ W3110 △hycA株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM P−20508)である前記[1]に記載の培養方法、
[5] 請求項1〜4のいずれかの方法により得られた水素生産能を有する微生物を、還元状態にある水素発生用反応溶液中、有機性基質と接触させることを特徴とする水素の生産方法、および
[6] 有機性基質が蟻酸またはその塩である前記[5]に記載の生産方法、
である。
なお、本明細書および特許請求の範囲において記載した△hycAは、
【化1】

を意味するものとする。
【0014】
また、「FHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている」とは、当該遺伝子の全部または一部が欠損或いは変異などによりその機能が発現し得ない状態を意味する。
さらに、本発明で使用する微生物から除外される「蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの転写アクティベーターの発現に関して改変されている微生物」とは、本出願人が平成16年12月8日に出願した特願2004−356084の明細書に記載されているFHLシステムの転写アクティベーターが高発現されている微生物(たとえば、fhlAが高発現している微生物)を意味する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物を用いて、好気培養にて培養し、その後、嫌気条件下にて培養することで、水素生産能を短時間で獲得することができ、しかも高微生物濃度での培養でも高い水素生産能を獲得することができる。また、かかる培養により得られた微生物を用いることにより、効率よく水素を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の一つは、水素生産能を有する微生物の培養方法であって、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物を好気条件で培養した後、嫌気条件で培養することを特徴とする。
【0017】
本発明に用いられる微生物は、蟻酸脱水素酵素遺伝子(F.Zinoni,et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.83,pp4650−4654,July 1986 Biochemistry)およびヒドロゲナーゼ遺伝子(R.Boehm,et al., Molecular Microbiology(1990) 4(2),231−243)を有する微生物で主として嫌気性微生物であり、蟻酸脱水素酵素遺伝子とヒドロゲナーゼ遺伝子からなるFHLシステムを有している。
【0018】
本発明に用いられる微生物は、このFHLシステム形成を抑制する遺伝子が不活性化されており、この微生物を好気条件下で培養後、嫌気条件下で培養することにより、水素生産能の短時間での獲得、および高微生物濃度での培養でも高い水素生産能を獲得することができる。
【0019】
本発明で使用される微生物の宿主となりうるFHLシステムを有する微生物の例としては、エシェリキア(Escherichia)属微生物―例えばエシェリキア・コリ(Escherichia coli ATCC9637、ATCC11775、ATCC4157、ATCC27325等)、クレブシェラ(Klebsiella)属微生物―例えばクレブシェラ ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae ATCC13883、ATCC8044等)、エンテロバクター(Enterobacter)属微生物―例えばエンテロバクター アエロギネス(Enterobacter aerogenes ATCC13048、ATCC29007等)、そしてクロストリジウム(Clostridium)属微生物―例えばクロストリジウム ベイエリンキイ(Clostridium beijerinckii ATCC25752、ATCC17795等)等が挙げられる。
【0020】
これらの微生物は嫌気性微生物であるが、かかる嫌気性微生物の内、偏性嫌気性微生物より通性嫌気性微生物が好適に使用される。上記微生物の内ではエシェリキア・コリ(Escherichia coli)、エンテロバクター アエロギネス(Enterobacter aerogenes)等が好適に使用される。
【0021】
FHLシステムの形成を抑制する遺伝子を不活性化する方法としては、例えば、変異原を用いた突然変異による非遺伝子工学的手法や、制限酵素、リガーゼなどを用い、任意に遺伝子配列の操作を行う遺伝子工学的手法が挙げられる。FHLシステムの形成を抑制する遺伝子を確実に不活性化するためには、遺伝子工学的手法により不活性化することが好ましい。
【0022】
遺伝子工学的手法によりFHLシステムの形成を抑制する遺伝子を不活性化する方法としては、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子をあらかじめクローニングしておき、該遺伝子の特定部位に非遺伝子工学的手法もしくは遺伝子工学的手法により突然変異を起こす、あるいは遺伝子工学的手法により特定の長さの欠損部位を設ける、さらには薬剤耐性マーカーなどの外来性遺伝子を導入することにより、不活性化のためのDNAを準備し、この変異遺伝子を含むDNAを細胞へ戻し、相同組み換えを起こさせることによりFHLシステムの形成を抑制する遺伝子を不活性化する方法が好ましく用いられる。
【0023】
薬剤耐性マーカーを遺伝子内に導入し不活性化する場合、薬剤を含む培地にて目的とする株をスクリーニングすることができるが、場合により薬剤耐性マーカーなどの外来遺伝子が周辺の遺伝子に影響を及ぼすことがある。その場合には、特定の長さの欠損部位を設けた遺伝子を導入することが望ましい。この場合は、スクリーニングを行う材料がないため、不活性化を行う遺伝子と同時に致死遺伝子を細胞内に導入し、相同組み換えを行う方法が考えられる。致死遺伝子としては、例えば、エシェリキア・コリ内ではバチルス・サブチリス由来のsacB遺伝子が挙げられる。具体的には、不活性化を行う遺伝子に特定長の欠損領域のあるDNAとsacBを含むベクターを準備する。このベクターを用いて組み換えを行う宿主内に導入し、相同組み換えを行う。相同組み換えを効率よく行うためには、温度感受性のベクターを用いることがより好ましい。温度感受性ベクターとしては、温度感受性レプリコンpSC101tsを持つ、pMA2、pLOI2226、pTH18ks1、pTH18ks5などが挙げられる。一度相同組み換えを行った宿主内には、不活性化された遺伝子と元来より存在する不活性化されていない遺伝子が存在するが、次に致死遺伝子を誘発する条件下で培養することにより、致死遺伝子領域と不活性されていない遺伝子領域が二度目の相同組み換えにより欠落し、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子は不活性化され、目的とする組み換え株を得ることが可能となる。
【0024】
また、不活性化する遺伝子は、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子を、文献調査、もしくは公知の分子生物学的実験もしくはそれから派生する相同性検索等により特定した後、その配列を用いて遺伝子を選択して、上述の操作により不活性化する。より詳しくは、例えばエシェリキア・コリ W3110株は既に全ゲノムDNA配列が解読されており、W3110株内に存在するFHLシステムの生成を抑制する遺伝子であるhycAの配列は、以下URLに記載のデータベース
http://gib.genes.nig.ac.jp/
http://ecoli.aist-nara.ac.jp/GB5/search.jsp
より検索を行うことにより、見出すことができる。ここで得られるDNA配列より、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子を有した配列を増幅することが可能である。あるいは、hycAと相同性の高い配列を、以下URLに記載のデータベース
http://www.ddbj.nig.ac.jp/search/blast-j.html
より検索し、この配列を用いてFHLシステムの形成を抑制する遺伝子を探索することができる。
【0025】
かくして、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物の創製が可能となる。
上記のごとくして創製された、蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物の例として、エシェリキア・コリ W3110 △hycA株があげられ、この菌株は独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM P−20508(受託日:平成17年4月19日)として寄託されている。
なお、本発明で使用される微生物、すなわち好気条件で培養後、嫌気条件で培養される微生物は、FHLシステムの転写アクティベーターの発現に関して改変されていない微生物である。
【0026】
以下、上記の方法により得られた水素生産能を有する微生物を用いた培養方法、およびその微生物を用いた水素生産方法について示す。
本発明にかかる生物的水素製造方法は、3段階で構成されている。1段階目は、好気条件下にて前記微生物を培養する段階、この段階においては、水素生産能を有していない微生物が得られる。2段階目は、1段階目で得られた水素生産能を有していない微生物が、水素生産能を獲得する段階である。3段階目は、2段階目で得られた水素生産能を獲得した微生物を用いて、水素生産を行う段階である。
【0027】
FHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物を用いる本発明方法によれば、水素生産能を獲得する前記2段階目において、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されていない微生物よりも、短時間で水素生産能を獲得することが可能となり、また高微生物濃度での培養でも、FHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されていない微生物よりも高い水素生産能を獲得することが可能となることから、効率的に水素生産能を有する微生物を取得することができる。
【0028】
まず、1段階目の好気条件で培養する段階について説明する。この段階においては、短時間で高微生物濃度まで培養することができる。培養するための手段としては公知の方法が用いられる。培養は、好気条件で、例えば、振盪培養、ジャーファーメンター培養もしくはタンク培養などの液体培養、または固体培養が挙げられる。培養温度は、前記微生物が生育可能な範囲で適宜選択できるが、通常約15〜40℃、好ましくは約30〜40℃である。培地のpHは約6〜8の範囲が好ましい。培養時間は、培養条件によって異なるが、通常約1〜5日が好ましい。
【0029】
続く2段階目の、水素生産能を有していない微生物に水素生産能を獲得させるための嫌気条件で培養する段階について、説明する。
【0030】
嫌気条件下とは、培養液中の酸化還元電位で−100mV〜−500mV、さらに好ましくは−200mV〜−500mVである。培地の嫌気状態を調整する方法としては、加熱処理や減圧処理あるいは窒素ガス等のバブリングにより溶存ガスを除去する方法があげられる。具体的には培養液中の溶存ガス、特に溶存酸素の除去を行う方法として、約13.33×10Pa以下、好ましくは約6.67×10Pa以下、より好ましくは約4.00×10Pa以下の減圧下で約1〜60分間、好ましくは5〜60分間程度、脱気処理することにより、嫌気条件の培養液を得ることができる。また、必要に応じて還元剤を水溶液に添加して嫌気条件の水溶液を調製することができる。用いる還元剤としては、チオグリコール酸、アスコルビン酸、システィン塩酸塩、メルカプト酢酸、チオール酢酸、グルタチオン、硫化ソーダ等が挙げられる。これらの一種、あるいは数種類を組み合わせて用いることも可能である。
【0031】
嫌気条件下での培養は、撹拌培養が好ましく、攪拌培養開始時の微生物濃度は、0.01%〜80%(湿潤状態菌体質量基準)が好ましい。この際、微生物が水素生産能を獲得するためには、嫌気条件下での攪拌培養中に微生物を分裂増殖させることが好ましい。
【0032】
嫌気条件下での微生物の攪拌培養は、炭素源、窒素源、ミネラル源等を含む通常の栄養培地を用いて行うことが出来る。炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、スクロース、セルロース、廃糖蜜、グリセロール等を、窒素源としては、無機態窒素源では、例えばアンモニア、アンモニウム塩、硝酸塩等、有機態窒素源では、例えば尿素、アミノ酸類、タンパク質等をそれぞれ単独もしくは混合して用いることができる。無機態、有機態ともに同様に利用することが可能である。またミネラル源として、おもにK、P、Mg、Sなどを含む、例えばリン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。この他にも必要に応じて、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸、ビオチン、チアミン等各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することもできる。
蟻酸脱水素酵素およびヒドロゲナーゼからなるFHLシステムの発現のためには、培地中に微量の金属成分を含ませるのが好ましい。必要な微量金属成分は微生物種により異なるが、鉄、モリブデン、セレン、ニッケル等が挙げられる。なお、これらの微量金属成分は酵母エキスなどの天然栄養源には相当程度含まれている。そのため、天然栄養源を用いる場合は、必ずしも微量金属成分の添加を必要とはしない。
【0033】
嫌気条件下での攪拌培養の条件として、温度域は、20℃〜45℃、好ましくは25℃〜40℃の範囲が好ましい。pH域は、PH4.0〜10.0、好ましくは5.0〜8.0の範囲が好ましい。同時にpHを制御することが好ましく、酸、アルカリを用いてpHの調整を行うことも可能である。温度域、PH域ともに、上記の範囲内が微生物にとって最適な温度域、pH域である。通常、培養開始時の炭素源濃度は0.1〜20%(W/V)が好ましく、さらに好ましくは1〜5%(W/V)である。
【0034】
以下、3段階目の水素生産を行う段階について説明する。
【0035】
2段階目の嫌気条件下で水素生産能を獲得した微生物を分離することなくそのまま用いることも出来るし、また一度分離したのちに、還元状態にある水素発生用反応溶液に加えて用いることもできる。水素発生用反応溶液に有機性基質を供給することにより、水素が発生する。
水素を発生させる方法としては、有機性基質、例えば蟻酸類を連続的にあるいは間欠的に供給する(直接的供給方法)か、あるいは微生物内代謝経路において蟻酸類に変換される糖類の化合物を供給すること(間接的供給方法)で可能となる。直接的供給方法と間接的供給方法の併用も可能である。
【0036】
ここで蟻酸類とは、ヒドロカルボキシル基(化学構造式HCOO)を有する物質である。中でも、蟻酸、または蟻酸の塩(例えば、蟻酸ナトリウム、蟻酸カリウム、蟻酸カルシウム、蟻酸マンガン、蟻酸ニッケル、蟻酸セシウム、蟻酸バリウム、蟻酸アンモニウムなど)が挙げられる。それらの中でも、水に対する溶解度の面から蟻酸、蟻酸ナトリウム、蟻酸カリウム、蟻酸カルシウム、および蟻酸アンモニウムが好ましく、さらに、コストの面から蟻酸、蟻酸ナトリウムおよび蟻酸アンモニウムが好ましい。
【0037】
中でも、有機性基質として蟻酸類を用いた場合には、蟻酸類の添加濃度は30〜100%(w/w)であるのが好ましい。さらに好ましくは50〜100%(w/w)である。濃度が低い場合、蟻酸類の供給に伴い、水素発生用反応溶液の体積が増加するために、微生物濃度も変化していくことから、前記濃度の下限より低くすることは好ましくない。また、有機性基質の供給速度としては、水素発生用反応溶液のpHが4.0〜9.0の範囲で制御される範囲であれば、特に制限はない。
【0038】
水素の発生反応の反応温度は、用いる微生物種にもよるが、一般的な常温微生物を用いた場合、20℃〜45℃の条件が好ましく、さらに好ましくは30℃〜40℃の範囲が微生物のライフの面からも好ましい。
【0039】
水素発生用反応溶液としては、還元状態下の水素発生用反応溶液を用いる必要がある。この溶液の嫌気条件として、水素発生用反応溶液の酸化還元電位が−100mV〜−500mVであることが好ましく、−200mV〜−500mVであることがさらに好ましい。
【0040】
水素発生用反応溶液の微生物濃度は、通常0.1%(w/w)〜80%(w/w)(湿潤状態菌体質量基準)である。水素発生用反応溶液の粘性が高くなるという観点から、微生物濃度は0.1%(w/w)〜70%(w/w)(湿潤状態菌体質量基準)が好ましい。
【0041】
水素発生用反応溶液は気体の発生が激しいため、該溶液に消泡剤を加えることが好ましい。消泡剤については、公知なものが用いられる。具体的にはシリコーン系、ポリエーテル系の消泡剤が用いられる。
【0042】
以下、本発明の水素生産方法を用いた燃料電池システムについて示す。
【0043】
従来の技術において、一般的に固体高分子型燃料電池の燃料として用いる場合には、一酸化炭素を除去するシステム(CO変成器、CO除去器等)を用いて、COは10ppm以下に維持する必要がある。本発明の微生物を用いた水素生産方法では、主に水素と二酸化炭素からなるガスを生成し、基本的に一酸化炭素を生成しない。そのため、本発明の方法では、COを除去する改質器の設置が不要となり、また燃料電池の寿命の面からも好ましい。
また、従来の都市ガスを用いた水素発生装置の改質方法では、600℃以上の改質温度が必要となり、メタノールを用いた改質方法でも数百℃の改質温度が必要となるのに対して、本発明の反応容器の温度は常温で用いることが可能である。さらに、通常、従来の改質器の立ち上げ、終了時に時間がかかるものの、本発明の方法では水素の生産までの取り扱いが容易で時間を短縮でき、燃料電池システムとしても好ましい。
【0044】
これらの点からも、本発明の水素生産方法を用いた燃料電池システムは、CO発生しないため、燃料電池の劣化に対しても問題が少ないこと、水素の供給方法としても、高温の必要な改質器のシステムを必要としないこと、有機性基質の供給と同時に水素生産可能であることなど優れていることがわかる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により具体的に本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0046】
〔実施例1〕
エシェリキア・コリ株(FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株)の作成
1)ゲノムDNAの抽出
エシェリキア・コリ W3110株(ATCC27325)を、表1記載のLB培地10mlで37℃一晩振盪培養行い、GenomicPrep Cells and Tissue DNA Isolation Kit(Amersham Bioscience社製)にてゲノムDNAの抽出を行った。
【0047】
【表1】

【0048】
2)ベクターの作成
上記1)にて取得したゲノムDNAから、プライマー
CTCTGGATCCATTTTCATCTTCGGGCGTGC(配列番号1)、
CTCTGAGCTCAAAGGTCACATTTGACGGCG(配列番号2)
を用い、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(ABI社製)を使用してhycA領域を増幅した。増幅したDNAおよびプラスミドpHSG398(宝酒造(株)製)をBamH、SacIで制限酵素処理後、DNA ligation Kit ver2.1(宝酒造(株)製)によりライゲーションを行い、ベクターhycA−pHSG398を得た。さらに、得られたベクターをAvaII、XmnIで制限酵素処理後、DNA Blunting Kit(宝酒造(株)製)により平滑末端処理を行い、その後、8bpのEcoRIリンカーGGAATTCCと共にライゲーションし、△hycA−pHSG398を得た。
【0049】
また、pMV5(Vertes,A.A.et al.Isolation and characterization of IS31831,a transposable element from Corynebacterium glutamicum.Mol.Microbiol.11,739−746(1994))から、PCR法により、プライマー
CTCTGCATGCAACCCATCACATATACCTGC(配列番号3)、
CTCTGCATGCATCGATCCTCTAGAGTATCG(配列番号4)
を用いて、sacB領域を増幅したものおよびプラスミドpTH18ks1(Hashimoto−Gotoh,T et al. A set of temperature sensitive−replication/−segregation and temperature resistant plasmid vectors with different copy numbers and in an isogenic background(chloramphenicol,kanamycin, lacZ,repA,par,polA). Gene 241,185−191(2000))をBamHI、SphIで制限酵素処理後、ライゲーションにより、ベクターsacB−pTH18ks1を得た。
得られたベクターsacB−pTH18ks1のBamHI、SacIサイトに同様にBamHI、SacIで制限酵素処理を行い、△hycA−pHSG398の△hycA領域を挿入し、△hycA−sacB−pTHks1を得た。
【0050】
3)ベクターの導入およびhycA不活性化株の作製
上記の方法により得られたベクター△hycA−sacB−pTH18ks1をW3110株にエレクトロポレーション法により挿入した。表2の培地組成の培地にて43℃培養することで、相同領域での組み換えが起こり、ベクターが染色体上に挿入された組み換え株を得た。
【0051】
【表2】

さらに、上記の培地で得られた株から表3で示す培地にて30℃で培養することにより、W3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株を得た。
【0052】
【表3】

【0053】
4)hycAの不活性化株の分子生物学的確認
上記の方法により得られたW3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株はシーケンサー Prism 3100 genetic analyzer(ABI社製)により、hycA領域の削除された株であることを確認出来た。
上記の如くして、本実施例により形質転換されたエシェリキア・コリ W3110 △hycA株と命名し、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている(受託番号:FERM P−20508)。
【0054】
〔実施例2〕
実施例1により得られたエシェリキア・コリ W3110 △hycA株(W3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株)による微生物を用いた水素生産方法
1)好気条件下での培養
実施例1により得られたエシェリキア・コリ W3110 △hycA株(W3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株)株を表1で示される組成の培養液に加え、好気条件下、37℃で一晩振盪培養を行った。
【0055】
2)嫌気条件下での培養
次に好気条件下、一晩振盪培養を行った培養液を遠心分離機にかけ(5000回転、15分)、上澄み液を除去し、水素生産機能を有する微生物を得るために下表4で示される組成の培養液にて37℃で12時間の培養を行った。このとき、微生物濃度を0.2%(湿潤状態微生物質量基準)に設定して、嫌気条件下での培養を開始した。なお、pHは6.0を保つように適時5M水酸化ナトリウムの添加を行った。
【0056】
【表4】

【0057】
3)水素発生能力の検討
本微生物を遠心分離により分離後、下表5の組成で示される還元状態下の水素発生用反応溶液50ml(ミリリットル)に懸濁調製した(微生物濃度0.2%湿潤状態菌体質量基準)。
【0058】
【表5】

【0059】
上記で作成した微生物の存在している水素発生用反応溶液に、反応溶液の蟻酸ナトリウム濃度が100mMとなるように添加し、水素発生能力を測定した。
水素発生能力の測定方法としては、ギ酸ナトリウムを滴下した直後に、発生するガスを水上置換で集める方法により測定を行った。
今回、蟻酸ナトリウムの添加から30秒間に発生するガス量より、発生速度を求めた。なお、発生ガスをガスクロマトグラフィー(島津製作所製)により、発生ガス中には50%(vol%)の水素と残余のガスを含んでいた。
上記の方法により、水素発生初速度を測定することで、水素生産能力を獲得した微生物の評価を行った。
【0060】
〔実施例3〕
実施例1により得られたエシェリキア・コリ W3110 △hycA株(W3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株)による微生物を用いた水素生産方法
嫌気条件での培養時の微生物濃度を1.0%(湿潤状態微生物質量基準)に設定すること以外は、実施例2と同様の方法で行った。
【0061】
〔実施例4〕
実施例1により得られたエシェリキア・コリ W3110 △hycA株(W3110株のFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化株)による微生物を用いた水素生産方法
嫌気条件での培養時の微生物濃度を10.0%(湿潤状態微生物質量基準)に設定すること以外は、実施例2と同様の方法で行った。
【0062】
〔比較例1〕
エシェリキア・コリ(野生株W3110株 ATCC 27325)による微生物を用いた水素生産方法
野生株W3110を用いること以外は、実施例2と同様の方法で、培養時の微生物濃度を0.2%で行った。
【0063】
〔比較例2〕
1.0%エシェリキア・コリ(野生株W3110株 ATCC 27325)による微生物を用いた水素生産方法
野生株W3110を用いること以外は、実施例3と同様の方法で、培養時の微生物濃度を1.0%で行った。
【0064】
〔比較例3〕
エシェリキア・コリ(野生株W3110株 ATCC 27325)による微生物を用いた水素生産方法
野生株W3110を用いること以外は、実施例4と同様の方法で、培養時の微生物濃度を10.0%で行った。
【0065】
実施例2〜4、比較例1〜3より得られた、それぞれの株での嫌気条件下での培養開始時の微生物濃度と水素発生初速度の関係を図1に示す。
嫌気条件下での培養開始時の微生物濃度がいずれの場合でも、本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された株の水素発生初速度は、野生株W3110に比較して増加することが確認出来た。
また、嫌気条件下での培養開始時の微生物濃度が0.2%、1.0%、10%と増加するにつれて、高微生物濃度になるほど、水素発生初速度は、同濃度で培養を開始した野生株W3110に比較すると、水素発生初速度、すなわち水素生産能力の獲得は容易になることが大きく向上することが明らかである。
この結果より、本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された微生物を用いることで、嫌気条件下での水素生産能を獲得が、高微生物濃度での培養で効率的に得ることが明らかである。
【0066】
また、実施例3と比較例2の場合(それぞれ微生物濃度1%)の嫌気条件下での培養時に、嫌気培養時間を4、8、12時間での培養時間での獲得された水素生産能力の評価を行った。得られた水素初速度の嫌気条件下での培養時間の経時変化を図2に示す。
本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された株と野生株W3110とを比較した場合、本発明のFHLシステムの生成を抑制する遺伝子が不活性化された株では、野生株W3110に比較して短時間で水素生産能を有することが明らかである。
【0067】
〔比較例4〕
エシェリキア・コリ株(FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株)の作成
1)ゲノムDNAの抽出
エシェリキア・コリW3110株(ATCC 27325)を、表1記載のLB培地10mlで37℃一晩振盪培養行い、GenomicPrep Cells and Tissue DNA Isolation Kit (Amersham Bioscience社製)にてゲノムDNAの抽出を行った。
【0068】
2)ベクターの作成
上記1)にて取得したゲノムDNAから、プライマー
CGGAATTCGTCATTACTGATGCTGGACAGC(配列番号5)
CGGGATCCACGATTGGGTAGGGAGTAACCA(配列番号6)
を用い、サーマルサイクラー GeneAmp PCR System 9700(ABI社製)を使用してFHLシステムを構成するタンパク質(蟻酸脱水素酵素)の遺伝子fdhFおよびその上流のプロモータ領域を増幅した。増幅したDNAおよびプラスミドpMW118(ニッポンジーン社製)をEcoRI、BamHIにて制限酵素処理後、DNA ligation Kit ver2.1(宝酒造(株)製)によりライゲーションを行い、ベクターfdhF−pMW118を得た。
【0069】
3)ベクターの導入およびfdhF高発現株の作製
上記2)で得られたベクターfdhF−pMW118をW3110株にエレクトロポレーション法により導入し、表6の培地にて目的とするfdhF高発現株のコロニーを取得した。
【0070】
【表6】

【0071】
4)fdhF高発現株の分子生物学的確認
上記の方法により得られたW3110株のFHLシステムの転写アクティベーターfdhFの高発現株の評価はリアルタイムRT−PCR法により行った。リアルタイムRT−PCR法は以下に記す方法に従った。まず、fdhFの高発現株および野生株を表1記載の培地にグルコース20mM(さらにfdhF高発現株についてはアンピシリン50mg/L)を添加し、10時間嫌気培養した菌体から、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)にてトータルRNAを抽出した。トータルRNA、下記fdhFのプライマー、
Fwd : TGAAATCGCCACCCGTATG(配列番号7)
Rev : AGAAATCCGGGCACAGATGAC(配列番号8)
およびQuantiTect SYBR Green RT−PCR(QIAGEN社製)を用い、下表7の混合液を作成し、ABI Prism 7000 sequence detection system(ABI社製)によって、50℃30分で逆転写、95℃15分で熱変性を行った後、95℃15秒、57℃20秒、60℃1分の条件で40サイクルの熱サイクルでDNAを合成し、各サイクルでの蛍光強度を検出することにより、DNAの増幅曲線から算出されるCT値の差よりfdhFの発現差を調べた。その結果、fdhF高発現株は野生株に比べfdhFについて2倍以上の発現量があることが確かめられた。
【0072】
【表7】

【0073】
上記の如くして、ベクターfdhF−pMW118により形質転換されたW3110株はW3110/fdhF−pMW118とし、この株を用いること以外は、実施例2と同様の方法で、培養時の微生物濃度を0.2%で行った。
【0074】
〔比較例5〕
エシェリキア・コリ(FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株W3110/fdhF−pMW118株)による微生物を用いた水素生産方法
比較例4で得られたW3110/fdhF−pMW118株を用いること以外は、実施例3と同様の方法で、培養時の微生物濃度を1.0%で行った。
【0075】
〔比較例6〕
エシェリキア・コリ(FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株W3110/fdhF−pMW118株)による微生物を用いた水素生産方法
比較例4で得られたW3110/fdhF−pMW118株を用いること以外は、実施例4と同様の方法で、培養時の微生物濃度を10.0%で行った。
【0076】
実施例2〜4、比較例4〜6より得られた、それぞれの株での嫌気条件下での培養開始時の微生物濃度と水素発生初速度の関係を図3に示す。
嫌気条件下での培養開始時の微生物濃度がいずれの場合でも、本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された株の水素発生初速度は、FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株であるFHLシステムの蟻酸脱水素酵素に関するfdhFの高発現株に比較して増加することが確認出来た。
また、嫌気条件下での培養開始時の微生物濃度が0.2%、1.0%、10%と増加するにつれて、高微生物濃度になるほど、水素発生初速度は、同濃度で培養を開始したFHLシステムの蟻酸脱水素酵素に関するfdhF高発現株に比較すると、水素発生初速度、すなわち水素生産能力の獲得は容易になることが大きく向上することが明らかである。
この結果より、本発明の蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された微生物を用いることで、嫌気条件下での水素生産能を獲得が、高微生物濃度での培養で効率的に得ることが明らかである。
【0077】
また、実施例3と比較例5の場合(それぞれ微生物濃度1%)の嫌気条件下での培養時に、嫌気培養時間を4、8、12時間での培養時間での獲得された水素生産能力の評価を行った。得られた水素初速度の嫌気条件下での培養時間の経時変化を図4に示す。
本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された株とFHLシステムの蟻酸脱水素酵素に関するfdhF高発現株とを比較した場合、本発明のFHLシステムの生成を抑制する遺伝子が不活性化された株では、FHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株であるFHLシステムの蟻酸脱水素酵素に関するfdhF高発現株に比較して短時間で水素生産能を有することが明らかである。
この結果より、本発明のFHLシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化された微生物を用いて、嫌気条件下で水素生産能力を獲得する培養方法が、水素生産能力を獲得するのに効率的に可能である培養方法であることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】FHLシステム形成抑制遺伝子hycAを不活性化した株と野生株W3110株による嫌気培養12時間後の水素生産能力の比と嫌気培養時の微生物濃度の関係を示す図である。
【図2】実施例3におけるFHLシステム形成抑制遺伝子hycAを不活性化した株と比較例2における野生株W3110株による嫌気条件下での水素生産能力の獲得の経時変化を示す図である。
【図3】FHLシステム形成抑制遺伝子hycAを不活性化した株とFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株W3110/fdhF−pMW118株による嫌気培養12時間後の水素生産能力の比と嫌気培養時の微生物濃度の関係を示す図である。
【図4】実施例3におけるFHLシステム形成抑制遺伝子hycAを不活性化した株と比較例5におけるFHLシステム形成抑制遺伝子hycAの不活性化されていない株W3110/fdhF−pMW118株による嫌気条件下での水素生産能力の獲得の経時変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蟻酸脱水素酵素遺伝子およびヒドロゲナーゼ遺伝子を有し、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの形成を抑制する遺伝子が不活性化されている微生物(ただし、蟻酸ヒドロゲンリアーゼシステムの転写アクティベーターの発現に関して改変されている微生物を除く)を好気条件で培養した後、嫌気条件で培養することを特徴とする水素生産能を有する微生物の培養方法。
【請求項2】
好気条件で培養後、嫌気条件で培養する微生物が、エシェリキア・コリの形質転換体であることを特徴とする請求項1に記載の培養方法。
【請求項3】
好気条件で培養後、嫌気条件で培養する微生物が、エシェリキア・コリW3110株(ATCC 27325)の形質転換体である請求項1に記載の培養方法。
【請求項4】
好気条件で培養後、嫌気条件で培養する微生物が、エシェリキア・コリ W3110 △hycA株(独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター 受託番号FERM P−20508)である請求項1に記載の培養方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの方法により得られた水素生産能を有する微生物を、還元状態にある水素発生用反応溶液中、有機性基質と接触させて水素を発生させることを特徴とする水素の生産方法。
【請求項6】
有機性基質が蟻酸またはその塩である請求項5に記載の生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−320241(P2006−320241A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146069(P2005−146069)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】