説明

水素発生装置及び燃料電池システム及び水素発生方法

【課題】必要量の水素発生物質だけを反応用溶液に接触させて、水素の発生量を容易に制御する。
【解決手段】シート材7に所定の間隔で金属水素化物18を所定量ずつ独立して設け、シート材7の移動により保護シート15を剥離しながら反応用溶液4に金属水素化物18を順次浸漬させ、金属水素化物18に反応用溶液4を接触させて水素を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水素発生装置及び水素発生装置を備えた燃料電池システム及び水素発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、固体高分子電解質膜を挟んでアノードとカソードを有する発電部のアノード側に例えば水素ガスやメタノール等の燃料流体と、カソード側に酸化用流体例えば酸素や空気を供給し電気化学反応により電力を発生する。
【0003】
水素ガスを燃料とする場合の水素を低エネルギーで得る方法として、ケミカルハイドライドと呼ばれる金属水素化物(例えば、水素化ホウ素リチウムや水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムナトリウム)を加水分解する方法が知られている。
【0004】
金属水素化物を加水分解して水素を得る場合、常温に近い低温で反応が進むため効率よく水素を得ることができる。反面、水素発生量を制御することが難しいのが実情であった。水素発生量を制御するため、金属水素化物(水素発生物質)を帯状に配して供給材とし、供給材を長手方向に移動させて必要量の水素発生物質を反応用溶液に浸漬(接触)させる技術が従来から提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
従来から提案されている技術を用いることで、帯状に構成された供給材の水素発生物質のうち、必要量の水素発生物質を反応用溶液に浸漬して水素を発生させることができる。このため、供給材の移動速度を調整することにより水素発生量を制御することができる。
【0006】
しかし、帯状の供給材は水素発生物質が長手方向に連続して存在しているので、反応用溶液に直接浸漬している水素発生物質の部位から反応用溶液が長手方向に浸透し、未使用の水素発生物質に接触することになっていた。このため、過剰に反応が生じて水素発生量が増加することになり、供給材の移動速度を複雑に、且つ、細かく調整しないと、所望発生量に水素の発生を制御することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−162808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、必要量の水素発生物質だけを反応用溶液に接触させて、水素の発生量を容易に制御することができる水素発生装置及び水素発生方法を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、必要量の水素発生物質だけを反応用溶液に接触させて、水素の発生量を容易に制御することができる水素発生装置を備えた燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の水素発生装置は、水素発生物質に接触することで水素を発生させる反応用溶液が貯留される反応室と、所定量の前記水素発生物質が独立して長手方向に複数設けられ、前記反応室の内部に配される帯状の水素発生物質供給部材と、前記水素発生物質供給部材を前記長手方向に移動させることで前記水素発生物質を前記反応用溶液に順次浸漬させる移動手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項1に係る本発明では、移動手段により水素発生物質供給部材を長手方向に移動させることで、複数の水素発生物質を反応用溶液に順次浸漬させて水素を発生させるので、反応用溶液に浸漬している水素発生物質から反応用溶液が未使用の水素発生物質に浸透することがなく、水素発生物質が浸漬する毎に独立して水素を発生させることができる。このため、必要量の水素発生物質だけを反応用溶液に接触させて、水素の発生量を容易に制御することが可能になる。
【0012】
そして、請求項2に係る本発明の水素発生装置は、請求項1に記載の水素発生装置において、前記水素発生物質は、保護層により密閉されていることを特徴とする。また、請求項3に係る本発明の水素発生装置は、請求項2に記載の水素発生装置において、前記保護層は、複数の前記水素発生物質を個別に密閉していることを特徴とする。
【0013】
請求項2、請求項3に係る本発明では、水素発生物質を保護層で密閉しているので、未使用の水素発生物質に反応用溶液が付着したり水蒸気雰囲気が接触することがない。
【0014】
また、請求項4に係る本発明の水素発生装置は、請求項2もしくは請求項3に記載の水素発生装置において、前記水素発生物質が前記反応用溶液に浸漬する部位で、前記水素発生物質を前記保護層から露出させる露出手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る本発明では、露出手段により反応用溶液に浸漬する部位で水素発生物質を保護層から露出させるので、反応用溶液に浸漬させる時にだけ水素発生物質を露出させて未使用の水素発生物質を確実に密閉することができる。
【0016】
また、請求項5に係る本発明の水素発生装置は、請求項4に記載の水素発生装置において、前記露出手段は、前記水素発生物質供給部材の移動に連動して前記保護層を剥がす剥離手段であることを特徴とする。また、請求項6に係る本発明の水素発生装置は、請求項4に記載の水素発生装置において、前記露出手段は、前記水素発生物質供給部材の移動に連動して前記保護層に孔を形成する開孔手段であることを特徴とする。また、請求項7に係る本発明の水素発生装置は、請求項4に記載の水素発生装置において、前記露出手段は、前記水素発生物質供給部材の前記水素発生物質が備えられた部位を分断する分断手段であることを特徴とする。
【0017】
請求項5から請求項7に係る本発明では、水素発生物質供給部材の移動に連動して保護層を剥がしたり、保護層に孔を形成したり、水素発生物質の部位を分断することで、反応用溶液に対して水素発生物質を露出させることができる。
【0018】
また、請求項8に係る本発明の水素発生装置は、請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の水素発生装置において、帯状の前記水素発生物質供給部材は、繰出しロールに巻回されて繰出されて巻取りロールに巻き取られることで、巻取りの過程で前記反応用溶液に連続して浸漬されることを特徴とする。また、請求項9に係る本発明の水素発生装置は、請求項8に記載の水素発生装置において、前記移動手段は、前記巻取りロールを回転させる回転駆動手段であることを特徴とする。
【0019】
請求項8、請求項9に係る本発明では、繰出しロールから繰出されて巻取りロールに水素発生物質供給部材が巻き取られる過程で水素発生物質供給部材が露出され、水素発生物質に反応用溶液を接触させて水素を発生させることができる。
【0020】
また、請求項10に係る本発明の水素発生装置は、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の水素発生装置において、前記水素発生物質に前記反応用溶液が接触することにより発生した前記水素の発生状態を検出する水素発生状態検出手段と、前記水素発生状態検出手段で検出された前記水素の発生状況に応じて前記移動手段を制御し、前記水素発生物質供給部材の移動速度を制御する速度制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0021】
請求項10に係る本発明では、水素の発生状態により水素発生物質供給部材の反応用溶液への移動速度を制御するので、水素の発生状態に応じて水素発生量を制御することができる。
【0022】
また、請求項11に係る本発明の水素発生装置は、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の水素発生装置において、前記移動手段は、発生した前記水素の発生圧力が動作源であることを特徴とする。
【0023】
請求項11に係る本発明では、発生した水素の発生圧力が移動手段の動作源となっているので、外部の動力源を用いることなく水素発生物質供給部材を反応用溶液に対して移動させることができる。
【0024】
上記目的を達成するための請求項12に係る本発明の燃料電池システムは、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の水素発生装置の前記反応室の水素が排出される経路に燃料電池の燃料極を有する室が接続され、発生した前記水素が前記燃料極に供給されることを特徴とする。
【0025】
請求項12に係る本発明では、必要量の水素発生物質だけを反応用溶液に接触させて、水素の発生量を容易に制御することができる水素発生装置を備えた燃料電池システムとすることが可能になる。
【0026】
上記目的を達成するための請求項13に係る本発明の水素発生方法は、複数の水素発生物質が備えられた水素発生物質供給部材を移動させ、所定量毎に分断された水素発生物質を反応用溶液に接触させることで、所望量の水素を発生させることを特徴とする。
【0027】
請求項13に係る本発明では、必要量の水素発生物質だけを反応用溶液に接触させて、水素の発生量を容易に制御することが可能になる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の水素発生装置及び水素発生方法は、必要量の水素発生物質だけを反応用溶液に接触させて、水素の発生量を容易に制御することが可能になる。
【0029】
また、本発明の燃料電池システムは、必要量の水素発生物質だけを反応用溶液に接触させて、水素の発生量を容易に制御することができる水素発生装置を備えた燃料電池システムとすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施例に係る水素発生装置の全体の概略構成図である。
【図2】水素発生物質供給部材の構成図である。
【図3】水素発生物質供給部材の構成図である。
【図4】水素発生装置の要部を表す断面図である。
【図5】水素発生物質供給部材の他の例の断面図である。
【図6】水素発生物質供給部材の他の例の断面図である。
【図7】水素発生物質供給部材の他の例の断面図である。
【図8】他の実施例に係る水素発生装置の要部の断面図である。
【図9】他の実施例に係る水素発生装置の要部の断面図である。
【図10】他の実施例に係る水素発生装置の要部を表す外観図である。
【図11】他の実施例に係る水素発生装置の要部の断面図である。
【図12】他の実施例に係る水素発生装置の要部の断面図である。
【図13】他の実施例に係る水素発生装置の要部の断面図である。
【図14】シート材を搬送させる機構の概念図である。
【図15】本発明の一実施例に係る燃料電池システムの全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1から図7に基づいて水素発生装置の実施例を説明する。
【0032】
図1には本発明の一実施例に係る水素発生装置の全体の概略構成、図2、図3には水素発生物質供給部材の構成、図4には水素発生物質が供給されている状態の詳細を示してある。また、図5から図7には水素発生物質供給部材の他の例の断面を示してある。
【0033】
図1に基づいて水素発生装置1の概略を説明する。
【0034】
図1に示すように、水素発生装置1は反応室2を構成する反応容器3を備え、反応容器3の内部には水素発生物質と接触して水素を発生させる反応用溶液4が貯留されている。また、反応容器3の内部には水素発生物質(後述する金属水素化物18)を備えた帯状の水素発生物質供給材としてのシート材7が配されている。シート材7は繰出しロール5及び移動手段としての巻取りロール6に巻回され、繰出しロール5と巻取りロール6の間の反応用溶液4の中で水素発生物質が露出される。
【0035】
詳細は後述するが、シート材7には、反応用溶液4と反応して水素を生成する水素発生物質が所定量ずつ独立して長手方向に複数並設されている。シート材7が反応用溶液4に浸漬される部位の水素発生物質が個別に露出され、水素発生物質に反応用溶液が接触して水素が発生し、発生した水素は反応室2に放出されて排出路9から図示しない水素消費部に供給される。
【0036】
尚、図中の符号で10は、排出路9に設けられた気液分離膜であり、排出路9に気体(水素)だけの流通が許容されて反応用溶液4の流通が阻止される。
【0037】
巻取りロール6は駆動モータ11により回転が駆動制御され、駆動モータ11は速度制御手段12の指令により駆動制御され、所定の速度で巻取りロール6を駆動回転させる。一方、排出路9には水素発生状態検出手段としての圧力センサー13が設けられ、圧力センサー13の検出情報は速度制御手段12に送られる。速度制御手段12では、圧力センサー13で検出された排出路9の水素圧力(水素の発生状態)に応じて駆動モータ11に駆動指令が出力される。
【0038】
例えば、排出路9の水素圧力が低下した場合には、巻取りロール6の回転速度を速めてシート材7の送り速度を高くし、水素発生物質の反応用溶液4に対する接触を促進して水素の発生量を増加する。逆に、排出路9の水素圧力が高い場合には、巻取りロール6の回転速度を低下させてシート材7の送り速度を低くし、水素発生物質の反応用溶液4に対する接触を抑制して水素の発生量を低くする(停止する)。
【0039】
図2、図3に基づいて金属水素化物が備えられたシート材7を説明する。
【0040】
図2(a)には水素発生装置のシート材7の外観、図2(b)にはシート材7の平面、図3にはシート材7の断面、図4には金属水素化物が露出される状態の詳細を示してある。
【0041】
図2に示すように、帯状のシート材7(例えば、樹脂フィルム)の上面には長手方向に所定の間隔で水素発生物質としての金属水素化物18が所定量ずつ独立して(ペレット状にされて)並設されている。巻取りロール6(図1参照)でシート材7が巻き取られることにより、反応用溶液4に金属水素化物18が順次浸漬されて反応し、一つの金属水素化物18で規定された量の水素(所望量の水素)が発生して放出される。シート材7は、水や水蒸気を透過しないガスバリア性の高い樹脂フィルム(金属膜等を備えた樹脂フィルム)で構成されている。
【0042】
図2、図3に示すように、金属水素化物18を挟んでシート材7の上面には保護層としての保護シート15が設けられ、保護シート15は金属水素化物18の周囲でシート材7に接着もしくは熱溶着されている。保護シート15がシート材7に接着もしくは熱溶着されることにより、金属水素化物18が個別に密閉されている。保護シート15は、金属水素化物18がシート材7の上面に載せられて真空中または水素雰囲気中で接着もしくは熱溶着される。
【0043】
シート材7が反応用溶液4に浸漬される部位で、保護シート15がシート材7から剥がされて金属水素化物18が個別に露出される。図4に示すように、シート材7は転換ロール16により方向が変えられて巻取りロール6(図1参照)側に方向転換されて巻き取られる。保護シート15は剥離ロール17により巻取りロール6(図1参照)の反対側に方向転換されてシート材7から剥がされて補助巻取りロール8(図1参照)に巻き取られ、金属水素化物18が露出される(露出手段)。
【0044】
上述した実施例に対し、保護シート15を設けないことも可能である。即ち、シート材7の断面を表す図5(a)に示すように、シート材7に金属水素化物18を接着や嵌合等により保持させ、保護シート15(図1から図4参照)を設けない構成にすることも可能である。この場合、図5(b)に示すように、剥離ロール17(図1から図4参照)及び補助巻取りロール8(図1参照)が省略され、シート材7の移動のみにより金属水素化物18が反応用溶液4に浸漬される。また、図5(b)に示すように、転換ロール16により方向が変えられる箇所で金属水素化物18がシート材7から離されて反応用溶液4に浸漬される構造としても良い。
【0045】
金属水素化物18は所定量ずつ独立して並設されているので、上流側の金属水素化物18が個別に露出されて反応用溶液4に浸漬された際に、反応用溶液4に浸漬されていない下流側の未使用の金属水素化物18との間に隙間が存在し、上流側の金属水素化物18を伝わって下流側の未使用の金属水素化物18に反応用溶液4が浸透することがない。
【0046】
また、金属水素化物18が保護シート15により個別に密閉されているので、飛散する反応用溶液4や水蒸気が接触することがなく、未使用の金属水素化物18を安全に保持することができる。
【0047】
金属水素化物18としては、例えば、水素化ホウ素塩、水素化アルミニウム塩、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム等が挙げられ、特に、水素化ホウ素ナトリウムが好ましい。反応用溶液4は、金属水素化物18の加水分解反応を促進する促進剤の水溶液であり、促進剤としては、例えば、硫酸、リンゴ酸、クエン酸水等が挙げられ、特に、リンゴ酸が好ましい。
【0048】
金属水素化物18及び反応用溶液4は特に限定されるものではなく、金属水素化物18は加水分解型の金属水素化物であれば全て適用可能であり、反応用溶液4は水素を発生させる溶液であれば全て適用可能である。
【0049】
巻取りロール6(図1参照)でシート材7が巻き取られることにより、シート材7が反応用溶液4に浸漬され、同時に、シート材7が反応用溶液4に浸漬される部位で、保護シート15が剥離ロール17により巻取りロール6(図1参照)の反対側に方向転換されてシート材7から剥がされ、金属水素化物18が露出される。これにより、金属水素化物18に反応用溶液4が接触して水素の発生反応が生じて水素が生成され、生成された水素が反応室2に放出される。
【0050】
巻取りロール6(図1参照)によるシート材7の巻き取り速度(及び保護シート15の剥離のための巻き取り速度)、即ち、シート材7の移動速度を制御することにより、水素の発生量を制御することができる。前述したように、圧力センサー13(図1参照)の検出情報に基づいてシート材7の移動速度を制御することで、金属水素化物18の反応用溶液4への浸漬を促進して水素の発生量を増加したり、金属水素化物18の反応用溶液4への浸漬を抑制して水素の発生量を低くすることができる。これにより、反応室2(図1参照)の内部の水素の圧力を所望の圧力に維持することができる。
【0051】
上述した水素発生装置1は、シート材7に所定の間隔で金属水素化物18を所定量ずつ独立して設け、シート材7の移動により保護シート15を剥離しながら反応用溶液4に金属水素化物18を順次浸漬させることで、金属水素化物18に反応用溶液4を接触させて水素を発生させるので、所望量の水素を効率よく確実に発生させることができる。
【0052】
また、シート材7の移動速度を制御することで必要量の水素を容易に得ることができる。また、未使用の金属水素化物18に反応用溶液4が浸透することがなく、未使用の金属水素化物18は保護シート15で密閉されているので、金属水素化物18を安全に保持した状態で、水素発生量を確実に制御することができる。
【0053】
従って、上述した水素発生装置1では、必要量の水素発生物質だけを反応用溶液に接触させて、水素の発生量を容易に制御することが可能になる。
【0054】
図6、図7に基づいて他の実施例を説明する。
【0055】
図6に示すように、シート材7と保護シート15の間に隙間なく金属水素化物18が充填されている。この場合、金属水素化物18として粉体や粒体のものが想定される。
【0056】
図7に示すように、シート材7には凹部20が形成され、凹部20に金属水素化物18が嵌合されている。そして、シート材7の上面に保護シート15が面一状態で接合されている。この場合、金属水素化物18をより確実に保持・密閉することができる。
【0057】
図8、図9及び図10から図13に基づいて他の実施例を説明する。
【0058】
図8、図9には他の実施例に係る水素発生装置の要部の断面を示してある。また、図10には他の実施例に係る水素発生装置の要部を表す外観、図11には図10中の断面を示してある。また、図12、図13には他の実施例に係る水素発生装置の要部の断面を示してある。尚、図10を除く図8から図13までの状況は、図4に示した状況に相当するため、図4に示した部材と同一部材には同一符号を付してある。
【0059】
図8に示すように、露出手段として、剥離ロール17(図4参照)に代えて切刃21を備えた切刃ロール22が設けられている。シート材7が方向転換される部位で切刃ロール22がシート材7の移動に連動して回転し、切刃ロール22の切刃21により保護シート15に切込み(孔)23が形成される(開孔手段)。
【0060】
シート材7が反応用溶液4に浸漬されている最中に、切込み23から反応用溶液4が保護シート15の内側に浸入し、金属水素化物18に反応用溶液4が接触して水素が発生する。図8に示した例では、保護シート15がシート材7に接合された状態で巻取りロール6(図1参照)に巻き取られる。
【0061】
図9に示すように、保護シート15と金属水素化物18の間に浸透層部材24を設けることが可能である。浸透層部材24を設けることにより、切込み23から浸入した反応用溶液4を金属水素化物18に均等に接触させることができる。
【0062】
図10、図11に示すように、露出手段として、剥離ロール17(図4参照)に代えて抜き刃31を備えた抜き刃ロール32が設けられている。シート材7が方向転換される部位で抜き刃ロール32がシート材7の移動に連動して回転し、抜き刃ロール32の抜き刃31により金属水素化物18の部位がシート材7及び保護シート15と共に分断され(分断手段)、反応用溶液4の内部に落下する。
【0063】
シート材7及び保護シート15と共に分断された金属水素化物18が反応用溶液4の内部に浸漬することにより、金属水素化物18に反応用溶液4が接触して水素が発生する。図10、図11に示した例では、金属水素化物18が分断された後のシート材7及び保護シート15が巻取りロール6(図1参照)に巻き取られる。
【0064】
図12には分断手段としてパンチを適用した例を示してあり、図12(a)は分断される前の状態、図12(b)は分断された後の状態を示してある。
【0065】
図12(a)に示すように、露出手段として、剥離ロール17(図4参照)に代えてシート材7が方向転換される部位の上流側の反応用溶液4の中にパンチ35及びダイ34が設けられている。図12(b)に示すように、反応用溶液4の中でパンチ35がダイ34側に動作して金属水素化物18の部位がシート材7及び保護シート15と共に抜かれ(分断手段)、反応用溶液4の内部に落下する。
【0066】
シート材7及び保護シート15と共に抜かれた金属水素化物18が反応用溶液4の内部に浸漬することにより、金属水素化物18に反応用溶液4が接触して水素が発生する。図12に示した例では、金属水素化物18が分断された後のシート材7及び保護シート15が転換ロール16で方向転換されて巻取りロール6(図1参照)に巻き取られる。
【0067】
図13に示すように、金属水素化物18の両側面に浸透層部材37を取り付けることが可能である。浸透層部材37を取り付けることにより、反応用溶液4の内部に落下した金属水素化物18に対し反応用溶液4を均等に接触させることができる。
【0068】
図1に示すように、上述した水素発生装置では、巻取りロール6を駆動モータ11で駆動回転させることによりシート材7を搬送しているが、反応室2の内部の水素の圧力によりシート材7を搬送させることもできる。
【0069】
図14に基づいて水素の圧力によりシート材7を搬送させる機構を説明する。
【0070】
図14にはシート材7を搬送させる機構の概念構成を示してあり、(a)は反応室2の内部の圧力が高い状態、(b)(c)は反応室2の内部の圧力が低下した状態、(d)はシート材7を搬送している状態である。尚、シート材7及び反応室2は図1から図3に示した構成を適用して示してあり、同一部材には同一符号を付して重複する説明は省略してある。
【0071】
反応室2にはシリンダー61が設けられ、シリンダー61はシート材7の搬送方向に沿って延びて配されている。シリンダー61の一端(図中左端)は外部に開口し、シリンダー61の他端(図中右端)は反応室2の内部に開口している。シリンダー61の内部にはピストン62が摺動自在に設けられ、ピストン62は反応室2の内部と外部の圧力差によりシリンダー61を図中左右に摺動するようになっている。ピストン62には反応室2側に延びるピストンロッド63が設けられている。
【0072】
シリンダー61とシート材7の間には移動駒65がシート材7の搬送方向に沿って往復移動自在に備えられ、移動駒65は引張りばね69により図中左側に付勢保持されている。移動駒65は引張りばね69の付勢力に抗して図中右側端にある時にシート材7の下面に係合し、引張りばね69の付勢力で図中左側に移動する際にシート材7を伴って移動駒65が移動する。
【0073】
ピストンロッド63の先端(図中右端)には移動駒65に係止する爪部材66が設けられ、爪部材66はピストンロッド63が図中左端から図中右端に移動する際に移動駒65に係止し、ピストン62により図中右側に移動する際に移動駒65を伴ってピストンロッド63が移動する。
【0074】
ピストン62が図中右端に移動した際に、移動駒65が当接して移動駒65が爪部材66から外されると共にシート材7の下面に係合させる案内部材68が設けられている。つまり、ピストン62が図中右端に移動した場合、移動駒65が引張りばね69の付勢力に抗してピストンロッド63と共に図中右端に移動し、移動駒65が案内部材68に当接する。移動駒65が爪部材66から外されると同時にシート材7の下面に係合され、引張りばね69の付勢力によりシート材7を伴って移動駒65が図中左側に移動する。これにより、シート材7が図中左側に搬送される。
【0075】
図14(a)に示すように、反応室2の内部の水素の圧力が反応室の外部(大気圧)より高い場合、ピストン62が図中左端に位置してピストンロッド63の爪部材66が移動駒65に係止している。図14(b)に示すように、反応室2の水素が消費されて反応室2の内部の圧力が低下すると、大気圧によりピストン62が図中右側に移動し、移動駒65が引張りばね69の付勢力に抗してピストンロッド63と共に図中右側に移動する。
【0076】
図14(c)に示すように、移動駒65が図中右端に到達すると、案内部材68に当接して爪部材66から外されると同時にシート材7の下面に係合される。図14(d)に示すように、移動駒65がピストンロッド63の爪部材66から外されることで、引張りばね69の付勢力によりシート材7を伴って図中左側に移動する。これにより、シート材7が図中左側に搬送される。
【0077】
シート材7が搬送されることにより金属水素化物18が反応用溶液4に浸漬されて水素が発生し、反応室2の圧力が大気圧よりも高くなる。反応室2の内部の圧力が上昇すると、ピストン62が図中右側に移動し、ピストンロッド63の爪部材66が移動駒65に係止して図14(a)の状態に戻る。以降、水素の消費と発生とが繰り返され、水素の圧力の変動によりシート材7が搬送される。
【0078】
このため、電力などの駆動源や電気的な制御手段を用いることなく、水素の発生状況により必要に応じた時期に(速度で)シート材7を搬送することが可能になる。
【0079】
尚、水素の発生状況によりピストン62の往復移動を移動駒65の往復移動としてシート材7を搬送させる例を挙げて説明したが、ラックギヤ及びピニオンギヤを介してピストン62の往復移動を回転動に変換してシート材7を搬送させることも可能である。
【0080】
図15に基づいて本発明の燃料電池システムを説明する。図15には本発明の一実施例に係る燃料電池システムの全体の状況を示してある。
【0081】
図示の燃料電池システムは、図1に示した水素発生装置1を燃料電池70に接続したシステムである。即ち、燃料電池70には燃料極室72が備えられ、燃料極室72は燃料電池セル71の燃料極に接する空間を構成している。燃料極室72には水素発生装置1の排出路9が接続されている。水素発生装置1で発生した水素は排出路9から燃料極室72に送液され、燃料極での燃料電池反応で消費される。
【0082】
上述した燃料電池設システムは、必要量の水素発生物質だけを反応用溶液に接触させて、水素の発生量を容易に制御する水素発生装置1を備えた燃料電池システムとなる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、水素発生装置及び水素発生方法の産業分野で利用することができる。
【0084】
また、本発明は、水素発生装置を備えた燃料電池システムの産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 水素発生装置
2 反応室
3 反応容器
4 反応用溶液
5 繰出しロール
6 巻取りロール
7 シート材
8 補助巻取りロール
9 排出路
10 気液分離膜
11 駆動モータ
12 速度制御手段
13 圧力センサー
15 保護シート
16 転換ロール
17 剥離ロール
18 金属水素化物
20 凹部
21 切刃
22 切刃ロール
23 切込み
24、37 浸透層部材
31 抜き刃
32 抜き刃ロール
35 パンチ
61 シリンダー
62 ピストン
63 ピストンロッド
65 移動駒
66 爪部材
68 案内部材
69 引張りばね
70 燃料電池
71 電池セル
72 燃料極室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素発生物質に接触することで水素を発生させる反応用溶液が貯留される反応室と、
所定量の前記水素発生物質が独立して長手方向に複数設けられ、前記反応室の内部に配される帯状の水素発生物質供給部材と、
前記水素発生物質供給部材を前記長手方向に移動させることで前記水素発生物質を前記反応用溶液に順次浸漬させる移動手段とを備えた
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水素発生装置において、
前記水素発生物質は、保護層により密閉されている
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項3】
請求項2に記載の水素発生装置において、
前記保護層は、複数の前記水素発生物質を個別に密閉している
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項4】
請求項2もしくは請求項3に記載の水素発生装置において、
前記水素発生物質が前記反応用溶液に浸漬する部位で、前記水素発生物質を前記保護層から露出させる露出手段を備えた
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項5】
請求項4に記載の水素発生装置において、
前記露出手段は、前記水素発生物質供給部材の移動に連動して前記保護層を剥がす剥離手段である
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項6】
請求項4に記載の水素発生装置において、
前記露出手段は、前記水素発生物質供給部材の移動に連動して前記保護層に孔を形成する開孔手段である
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項7】
請求項4に記載の水素発生装置において、
前記露出手段は、前記水素発生物質供給部材の前記水素発生物質が備えられた部位を分断する分断手段である
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の水素発生装置において、
帯状の前記水素発生物質供給部材は、繰出しロールに巻回されて繰出されて巻取りロールに巻き取られることで、巻取りの過程で前記反応用溶液に連続して浸漬される
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項9】
請求項8に記載の水素発生装置において、
前記移動手段は、前記巻取りロールを回転させる回転駆動手段である
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の水素発生装置において、
前記水素発生物質に前記反応用溶液が接触することにより発生した前記水素の発生状態を検出する水素発生状態検出手段と、
前記水素発生状態検出手段で検出された前記水素の発生状況に応じて前記移動手段を制御し、前記水素発生物質供給部材の移動速度を制御する速度制御手段とを備えた
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の水素発生装置において、
前記移動手段は、発生した前記水素の発生圧力が動作源である
ことを特徴とする水素発生装置。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の水素発生装置の前記反応室の水素が排出される経路に燃料電池の燃料極を有する室が接続され、発生した前記水素が前記燃料極に供給されることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項13】
複数の水素発生物質が備えられた水素発生物質供給部材を移動させ、所定量毎に分断された水素発生物質を反応用溶液に接触させることで、所望量の水素を発生させることを特徴とする水素発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−166981(P2012−166981A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29199(P2011−29199)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】