説明

水素製造触媒の前処理方法および燃料電池用水素の製造方法

【課題】炭化水素を改質して水素含有ガスを製造する触媒の活性を向上させる方法、および、効率よく燃料電池用水素を製造する方法を提供する。
【解決手段】Ni、MgおよびAlを含むと共にPt、Pd、Ir、RhおよびRuの中から選ばれる少なくとも1種の貴金属元素を含む、炭化水素を改質して水素含有ガスを製造する触媒に、活性化前処理として還元−酸化の繰り返し処理を施す水素製造触媒の前処理方法、および炭化水素を改質して水素含有ガスを製造するに際し、使用する触媒に上記の前処理方法を施す燃料電池用水素の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造触媒の前処理方法および燃料電池用水素の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、炭化水素を改質して水素含有ガスを製造する触媒の活性を向上させるために、同触媒に活性化前処理として、還元−酸化の繰り返し処理を施す方法、および炭化水素を改質して水素含有ガスを製造するに際し、使用する触媒に前記活性化前処理を施し、効率よく燃料電池用水素を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から新エネルギー技術が脚光を浴びており、この新エネルギー技術の一つとして燃料電池が注目を集めている。この燃料電池は、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換させるものであって、エネルギーの利用効率が高いという特徴を有しており、民生用、産業用または自動車用等として、実用化研究が積極的になされている。
この燃料電池には、使用する電解質の種類に応じて、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型および固体高分子型等のタイプが知られている。一方、水素源としては、メタノールおよびメタンを主体とする液化天然ガス、この天然ガスを主成分とする都市ガス、天然ガスを原料とする合成液体燃料、さらには、石油系のLPG、ナフサおよび灯油等の石油系炭化水素の使用の研究がなされている。
これらの石油系炭化水素を用いて水素を製造する場合、一般に、同炭化水素に対して、触媒の存在下に水蒸気改質処理、自己熱改質処理、部分酸化改質処理などがなされている。
【0003】
このような炭化水素の改質触媒として、従来ルテニウム系触媒やニッケル系触媒が知られており、そして、ハイドロタルサイト(多孔性複合水酸化物の水和物)を経由して調製された触媒は、活性が高いことも知られている。
ハイドロタルサイト経由で調製された炭化水素改質触媒としては、例えば(1)ハイドロタルサイトを前駆体として、その構成元素(Mg、Al)の一部を活性金属である貴金属(RhまたはRu)または遷移金属元素で置換、焼成し、活性金属種を内部から表面に染み出させて高分散化した金属微粒子担持炭化水素改質用触媒(例えば、特許文献1参照)、(2)マグネシウムとアルミニウムとニッケルを含む、ハイドロタルサイト経由で調製した改質触媒(例えば、特許文献2および3参照)、(3)ハイドロタルサイトの層間にRuをイオン交換により導入し、それを焼成したのち、還元により活性化してなる改質触媒(例えば、特許文献4参照)、(4)マグネシウムとアルミニウムとニッケル、鉄を含む、ハイドロタルサイト経由で調製したアンモニアの副生を抑えた自己熱改質触媒(例えば、特許文献5参照)、(5)ハイドロタルサイト状層状化合物を焼成することにより調製された、Ru、Pt、Pd、RhおよびIrの中から選ばれる少なくとも1種の金属を含むメタン含有ガス改質触媒(例えば、特許文献6参照)、(6)ハイドロタルサイト経由で調製したマグネシウム、アルミニウム、ニッケルおよびルテニウムを構成元素とする炭化水素分解用触媒(例えば、特許文献7参照)、および
(7)ハイドロタルサイト経由で調製したマグネシウム、アルミニウム、ニッケルを構成元素とし、かつアルカリ金属(Naを除く)、アルカリ土類金属(Mgを除く)、Zn、Co、Ce、Cr、FeおよびLaの中から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する触媒(例えば、特許文献8参照)が開示されている。
【0004】
しかしながら、前記(1)の改質触媒においては、前駆体であるハイドロタルサイトの構成元素を貴金属元素で置換する記載はあるが、還元−酸化の繰り返しについての記載はない。(2)の改質触媒においては、貴金属元素の含有については記載がない。(3)の改質触媒においては、焼成温度および還元温度について、それぞれ300〜1300℃、好ましくは500〜1100℃および400〜1300℃、好ましくは500〜1000℃と記載されているが、還元−酸化の繰り返しについての記載はない。(4)の自己熱改質触媒においては、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、レニウム、銅、マンガン、クロム、バナジウム、チタンの担持、400〜1500℃での焼成および650〜1100℃での還元についての記載はあるが、還元−酸化の繰り返しについての記載はない。
前記(5)の改質触媒においては、焼成処理を,400〜1200℃で5〜10時間、好ましくは500〜1000℃で5〜10時間行うことが記載されているが、還元についての記載がない。また、Ru、Pt、Pd、RhおよびIrは、炭素析出が生じにくい金属であることが記載されているが、還元−酸化の繰り返しについての記載はない。(6)の炭化水素分解用触媒においては、焼成温度(400〜1600℃)、および還元温度(700〜1100℃)が記載されてあり、また、微粒子NiとRuの存在により、低温高活性で耐コーキング性にも優れると記載されているが、還元−酸化の繰り返しについての記載はない。(7)の触媒においては、Ruを含有した触媒についての記載および耐酸化性、低温活性、耐コーキング性に優れるとの記載があり、また、焼成温度(400〜1600℃)および還元温度(700〜1100℃)についての記載があるが、還元−酸化の繰り返しについての記載はない。
さらに、このような従来の炭化水素改質触媒は、その活性については、必ずしも十分に満足し得るとは言えなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−276893号公報
【特許文献2】特開2003−135967号公報
【特許文献3】特開2004−255245号公報
【特許文献4】特開2003−290657号公報
【特許文献5】特開2005−224722号公報
【特許文献6】特開2005−288259号公報
【特許文献7】特開2006−061759号公報
【特許文献8】特開2006−061760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、炭化水素を改質して水素含有ガスを製造する触媒の活性を向上させる方法、および炭化水素を改質して水素含有ガスを製造するに際し、使用する触媒に、前記の活性を向上させる方法を施し、効率よく燃料電池用水素を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の金属元素を含む炭化水素改質触媒、特にハイドロタルサイト状層状化合物を経由して得られる触媒に、活性化前処理として、還元−酸化の繰り返し処理を施すことにより、また、炭化水素を改質して水素含有ガスを製造するに際し、使用する触媒に、前記の活性化前処理を施すことにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)Ni、MgおよびAlを含むと共にPt、Pd、Ir、RhおよびRuの中から選ばれる少なくとも一種の貴金属元素を含む、炭化水素を改質して水素含有ガスを製造する触媒に活性化前処理として、還元−酸化の繰り返し処理を施すことを特徴とする水素製造触媒の前処理方法、
(2)前記還元−酸化の繰り返し処理において、還元処理が、水素含有ガス雰囲気下、600〜1100℃の範囲の温度で行われる上記(1)に記載の水素製造触媒の前処理方法、
(3)前記還元−酸化の繰り返し処理において、酸化処理が、酸素含有ガス雰囲気下、400〜1200℃の範囲の温度で行われる上記(1)または(2)に記載の水素製造触媒の前処理方法、
(4)前記触媒がハイドロタルサイト状層状化合物を経由して得られたものである上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水素製造触媒の前処理方法、
(5)前記触媒がハイドロタルサイト状層状化合物の焼成後に貴金属成分を担持させることにより得られたものである上記(4)に記載の水素製造触媒の前処理方法、
(6)前記貴金属元素が、Rhおよび/またはRuである上記(1)〜(5)のいずれかに記載の水素製造触媒の前処理方法、
(7)焼成した前記触媒を還元処理後、「酸化−還元」の繰り返し処理を1〜20回施す上記(1)〜(6)のいずれかに記載の水素製造触媒の前処理方法、
(8)前記炭化水素の改質が、水蒸気改質、自己熱改質または部分酸化改質である上記(1)〜(7)のいずれかに記載の水素製造触媒の前処理方法および
(9)炭化水素を改質して水素含有ガスを製造するに際し、使用する触媒に、上記(1)〜(8)のいずれかに記載の前処理方法を施すことを特徴とする燃料電池用水素の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の金属元素を含む炭化水素改質触媒、特にハイドロタルサイト状層状化合物を経由して得られる触媒に、活性化前処理として、還元−酸化の繰り返し処理を施すことにより、同触媒の活性向上を図ることができる。また、炭化水素を改質して水素含有ガスを製造するに際し、使用する触媒に、前記の活性化前処理を施すことにより、効率よく燃料電池用水素を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の水素製造触媒の前処理方法は、Ni、MgおよびAlを含むと共に、Pt、Pd、Ir、RhおよびRuの中から選ばれる少なくとも1種の貴金属元素を含む、炭化水素を改質して水素含有ガスを製造する触媒(以下、炭化水素改質触媒と称することがある)に、活性化前処理として、還元−酸化の繰り返し処理を施すことを特徴とする。
本発明の前処理方法が適用される炭化水素改質触媒は、Ni元素とMg元素とAl元素を含む担体に、貴金属成分が担持された触媒であり、同貴金属成分としては、Pt、Pd、Ir、RhおよびRuの中から選ばれる少なくとも1種の元素を含有するものが用いられる。また、前記担体中のNiは活性成分としての役割も有している。
この炭化水素改質触媒は、特にハイドロタルサイト状層状化合物を経由して得られたものであることが、触媒活性の面から好ましい。
【0011】
ハイドロタルサイトは、元来下記式(1)表される粘土鉱物である。
Mg6Al2(OH)16CO3・4H2O・・・・・(1)
近年になり、2価の金属陽イオン[M(II)2+] 、3価の金属陽イオン[M(III)3+]およびn価の層間陰イオン(An-)を含む下記式(2)で表される物質が、ハイドロタルサイト状物質、ハイドロタルサイト様化合物、ハイドロタルサイト構造体、あるいは単にハイドロタルサイトと呼称されるようになった。
[(M(II)2+1-X(M(III)3+x(OH-2X+(An-x/n)・mH2O
・・・・・式(2)
式(1)で表されるハイドロタルサイトは、「OH-(0.75Mg2+、0.25AI3+)OH-」がブルサイト層として面状の骨格をなし、その層間に負の電荷をもつ0.125CO32-と0.5H2Oとが挟まれた構造を有している。ブルサイト層内のMg2+とAl3+との比率は広い範囲で変えることができ、それにより、ブルサイト層内の正電荷の密度を制御することが可能である。
【0012】
上記触媒における貴金属成分の含有量は、酸化に対する耐性、触媒活性および経済性のバランスなどの観点から、金属元素として好ましくは0.05〜3質量%、より好ましくは0.1〜2.0質量%、さらに好ましくは0.2〜1.0質量%である。なお、貴金属元素としては、触媒活性の観点から、特にRhおよび/またはRuであることが好ましい。
Ni成分の含有量は、触媒活性および経済性のバランスなどの観点から、金属元素として、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは8〜20質量%、さらに好ましくは10〜20質量%である。
また、Mg元素およびAl元素の含有量については、Mg元素とAl元素との合計モル数を1とした場合、Mg元素は0.5〜0.85であることが好ましく、0.6〜0.8であることがより好ましい。Mg元素のモル数が0.5以上であれば多孔質担体としての特性が発揮され、また0.85以下であれば十分な強度が得られる。
【0013】
上記触媒を構成する各元素源としては、以下に示す化合物を挙げることができる。
貴金属元素(Ru)源であるルテニウム化合物としては、例えばRuCl3・nH2O、Ru(NO33、Ru2(OH)2Cl4・7NH3・3H2O、K2(RuCl5(H2O))、(NH42(RuCl5(H2O))、K(RuCl5(NO))、RuBr3・nH2O、Na2RuO4、Ru(NO)(NO33、(Ru3O(OAc)6(H2O)3)OAc・nH2O、K4(Ru(CN)6)・nH2O、K2(Ru(NO24(OH)(NO))、(Ru(NH36)Cl3、(Ru(NH36)Br3、(Ru(NH36)Cl2、(Ru(NH36)Br2、(Ru32(NH314)Cl6・H2O、(Ru(NO)(NH35)Cl3、(Ru(OH)(NO)(NH34)(NO32、RuCl2(PPh33、RuCl2(PPh34、RuClH(PPh33・C78、RuH2(PPh34、RuClH(CO)(PPh33、RuH2(CO)(PPh33、(RuCl2(cod))n、Ru(CO)12、Ru(acac)3、(Ru(HCOO)(CO)2n、Ru24(p−cymene)2、[Ru(NO)(edta)]-等のルテニウム塩を挙げることができる[(edta)はエチレンジアミン四酢酸]。
これらの成分を1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
好ましくは、取扱い上の観点からRuCl3・nH2O、Ru(NO33、Ru2(OH)2Cl4・7NH3・3H2Oが用いられる。
【0014】
貴金属元素(Rh)源であるロジウム化合物としては、例えば、Na3RhCl6、(NH42RhCl6、Rh(NH35Cl3、Rh(NO33、RhCl3等を挙げることができる。
貴金属元素(Pt)源である白金化合物としては、例えば、PtCl4、H2PtCl6、Pt(NH34Cl2、(MH42PtCl2、H2PtBr6、NH4[Pt(C24)Cl3]、Pt(NH34(OH)2、Pt(NH32(NO22等を挙げることができる。
貴金属元素(Pd)源であるパラジウム化合物としては、例えば、(NH42PdCl6、(NH42PdCl4、Pd(NH34Cl2、PdCl2、Pd(NO32等を挙げることができる。
貴金属元素(Ir)源であるイリジウム化合物としては、例えば、(NH42IrCl6、IrCl3、H2IrCl6等を挙げることができる。
【0015】
Ni元素源であるニッケル化合物としては、例えばNi(NO32・6H2O、NiO、NiOH)2、NiSO4・6H2O、NiCO3、NiCO3・2Ni(OH)2・nH2O、NiCl2・6H2O、(HCOO)2Ni・2H2O、(CH3COO)2Ni・4H2Oなどを挙げることができる。
Mg元素源であるマグネシウム化合物としては、例えばMg(NO32・6H2O、MgO、Mg(OH)2、MgC24・2H2O、MgSO4・7H2O、MgSO4・6H2O、MgCl2・6H2O、Mg3(C6572・nH2O、3MgCO3・Mg(OH)2、Mg(C65COO)2・4H2Oなど挙げることができる。
Al元素源であるアルミニウム化合物としては、例えばAl(NO33・9H2O、Al23、Al(OH)3、AlCl3・6H2O、AlO(COOCH3)・nH2O、Al2(C243・nH2Oなどを挙げることができる。
【0016】
上記触媒はハイドロタルサイト状層状化合物の焼成後に、貴金属成分を担持させることにより得られたものであることが好ましい。
このような触媒は、例えば以下に示す方法により、調製することができる。
硝酸ニッケルなどのNi源、硝酸マグネシウムなどのMg源、硝酸アルミニウムなどのAl源を水に溶かした水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液を、炭酸ナトリウム水溶液中に同時にゆっくり滴下し、滴下中常にpHが一定となるように調整する。pHは9〜13程度がよい。次いで、生成した沈殿物を40〜100℃程度で30分ないし80時間程度、好ましくは1〜24時間程度熟成したのち、ろ過し、さらに80〜150℃程度で乾燥処理する。
次に、このようにして得られたハイドロタルサイト状層状化合物を、400〜1500℃程度の温度で焼成処理することにより、NiMgAlの複合酸化物を得ることができる。次いで、この複合酸化物に、Ru源であるRu(NO33のような貴金属化合物を含む水溶液を含浸させ、所定量の貴金属元素を担持させる。この際、貴金属元素がアニオン錯体の中に存在する場合には、イオン交換により貴金属元素を担持することも可能である。イオン交換を行う場合、NiMgAlの複合酸化物を水溶液中に入れると、メモリー効果により、ハイドロタルサイト構造に戻り、層間にアニオンサイトができるためである。貴金属元素を担持後、さらに400〜1500℃程度の温度で焼成処理する。
また、貴金属元素は、最初の沈殿生成反応中に、例えばニッケル源、マグネシウム源およびアルミニウム源と共に、貴金属源となる貴金属化合物を水溶液として導入することも可能である。
上記のように、ハイドロタルサイト状層状化合物を経由して調製された触媒の比表面積は通常5〜250m2/g、好ましくは7〜200m2/gである。比表面積が5m2/g未満の場合には、個々の粒子の板面径及び厚みが共に大きいため、触媒は、成形が困難である。250m2/gを越える場合には、個々の粒子があまりに微細であるため、水洗工程、濾別工程上の問題がある。
【0017】
本発明の特徴は、このようにして調製した炭化水素改質触媒(焼成後)に、還元−酸化を繰り返す前処理を施すことにより、活性を向上させることにある。
還元−酸化の繰り返し処理において、還元処理は、通常、水素含有ガス雰囲気下、600〜1100℃程度、好ましくは700〜1000℃の範囲の温度で行われる。この温度が600℃以上であれば、Ni成分の還元が十分に行われ、活性の高い触媒を得ることができ、また1100℃以下であれば、Ni成分や、Ru成分などの貴金属成分のシンタリングによる活性低下を抑制することができる。
還元処理時間は、処理温度にもよるが、Ni成分の十分な還元および経済性のバランスなどの観点から、30分ないし10時間程度が好ましく、1〜5時間がより好ましい。
【0018】
一方、還元−酸化の繰り返し処理において、酸化処理は、通常、酸素含有ガス雰囲気下、400〜1200℃程度、好ましくは500〜1000℃の範囲の温度で行われる。前記酸素含有ガスとしては、通常空気が用いられるが、空気を、窒素やアルゴンなどの不活性ガスで希釈したガス、あるいは水蒸気などを用いることもできる。
酸化処理温度が400℃以上であれば、Ni元素や、Ruなどの貴金属元素の酸化が十分に進行し、本発明の効果が良好に発揮され、また1200℃以下であればRuなどの貴金属成分の揮発や表面積の低下が生じにくい。
酸化処理時間は、処理温度にもよるが、Ni元素や、Ruなどの貴金属元素の十分な酸化および経済性のバランスなどの観点から、30分ないし10時間程度が好ましく、1〜5時間がより好ましい。
【0019】
通常、焼成された触媒を還元処理後に反応を行うが、本発明では反応に入る前にさらに酸素含有ガスや水蒸気などで触媒を酸化する。特に酸素含有ガスが好ましく、通常は空気が用いられる。その後還元を行って反応に入ってもよいし、還元を行わずに反応に入ることも可能である。
なお、触媒調製時に触媒は焼成される。この焼成は、Ni、Mg、Alの各元素を含むハイドロタルサイトを焼成し、さらに貴金属成分を担持後に焼成する場合もあるし、Ni、Mg、Alと同時に、貴金属元素をハイドロタルサイト構造に導入する場合は、1回の焼成で済む場合もある。これらは、いずれも触媒調製時の焼成である。これらも酸化の1種であるが、この焼成(酸化)はここでいう繰り返し酸化の数には数えない。
本発明においては、焼成した触媒を還元処理し、その後、「酸化−還元」を1回繰り返すことを1回繰り返し、「酸化−還元−酸化−還元」とした場合を2回繰り返しとする。
ただし、前述のように、焼成した触媒を還元処理し、その後「酸化」した後反応に入る、0.5回繰り返しや、「酸化−還元−酸化」後に反応にはいる1.5回繰り返しも、本発明の範囲に含まれる。
本発明においては、触媒活性の向上の観点から、焼成した触媒を還元処理後、「酸化−還元」の繰り返し処理を1〜20回施すことが好ましく、1〜10回施すことがより好ましく、1〜3回施すことがさらに好ましい。
このように、炭化水素改質触媒に、活性化前処理として、還元−酸化の繰り返し処理を施すことにより、同炭化水素改質触媒の活性や耐久性が向上する理由としては、次のことが考えられる。
活性金属元素であるNiとRuやRhなどの貴金属元素との相互作用により、活性金属元素が高分散化する還元−酸化の繰り返し処理により、相互作用がより強くなって、高活性化および高耐久化をもたらすことが考えられる。しかし、ある一定以上の回数を繰り返すと、活性金属元素の凝集が生じるようになり、活性が低下するものと思われる。
【0020】
前記のようにして、活性化前処理として、還元−酸化の繰り返し処理が施された炭化水素改質触媒を用いて行う炭化水素の改質としては、水蒸気改質、自己熱改質および部分酸化改質を好ましく挙げることができる。
この改質反応に用いられる原料炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の炭素数が1〜16程度の直鎖状または分岐状の飽和脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式飽和炭化水素、単環および多環芳香族炭化水素、都市ガス、LPG、ナフサ、灯油等の各種の炭化水素を挙げることができる。
また、一般に、これらの原料炭化水素中に硫黄分が存在する場合には、脱硫工程を通して、通常、硫黄分が0.1質量ppm以下になるまで脱硫を行うことが好ましい。原料炭化水素中の硫黄分が0.1質量ppm程度より多くなると、炭化水素改質触媒が失活する原因になることがある。脱硫方法は特に限定されないが、水添脱硫、吸着脱硫等を適宜採用することができる。
【0021】
次に、炭化水素の各改質反応について説明する。
[水蒸気改質反応]
反応条件としては、通常、スチーム/カーボン比(モル比)が1.5〜10、好ましくは1.5〜5、より好ましくは2〜4となるように炭化水素量と水蒸気量を決定すればよい。このようにスチーム/カーボン比(モル比)を調整することにより、水素含有量の多い生成ガスを効率よく得ることができる。
反応温度は、通常、200〜900℃、好ましくは250〜900℃、さらに好ましくは300〜800℃である。反応圧力は、通常0〜3MPa・G、好ましくは0〜1MPa・Gである。
灯油またはそれ以上の沸点を有する炭化水素を原料とする場合、炭化水素改質触媒層の入口温度を630℃以下、好ましくは600℃以下に保って水蒸気改質を行うのがよい。入口温度が630℃を超えると、炭化水素の熱分解が促進され、生成したラジカルを経由して触媒または反応管壁に炭素が析出して、運転が困難になる場合がある。
触媒層出口温度は特に制限はないが、650〜800℃の範囲が好ましい。出口温度が650℃以上であれば、水素の生成量が充分であり、また800℃以下であれば、反応装置は耐熱材料を用いなくてもよく、経済的に好ましい。
なお、水蒸気改質反応に使用する水蒸気としては特に制限はない。
【0022】
[自己熱改質反応]
自己熱改質反応は炭化水素の酸化反応と炭化水素と水蒸気の反応が同一リアクター内または連続したリアクター内で起こり、通常、反応温度は200〜1,300℃、好ましくは400〜1,200℃、より好ましくは500〜900℃である。
スチーム/カーボン比(モル比)は、通常、0.1〜10、好ましくは0.4〜4である。酸素/カーボン比(モル比)は、通常、0.1〜1、好ましくは0.2〜0.8である。
反応圧力は、通常、0〜10MPa・G、好ましくは0〜5MPa・G、より好ましくは0〜3MPa・Gである。
炭化水素としては、水蒸気改質反応と同様なものが使用される。
[部分酸化改質反応]
部分酸化改質反応は炭化水素の部分酸化反応が起こり、通常、反応温度は350〜1,200℃、好ましくは450〜900℃である。酸素/カーボン比(モル比)は、通常、0.4〜0.8、好ましくは0.45〜0.65である。
反応圧力は、通常、0〜30MPa・G、好ましくは0〜5MPa・G、より好ましくは0〜3MPa・Gである。
炭化水素としては、水蒸気改質反応と同様なものが使用される。
【0023】
以上の改質反応の反応方式としては、連続流通式、回分式のいずれの方式であってもよいが、連続流通式が好ましい。
連続流通式を採用する場合、炭化水素の液時空間速度(LHSV)は、通常、0.1〜10h-1、好ましくは、0.25〜5h-1である。
また、炭化水素としてメタン等のガスを用いる場合は、ガス時空間速度(GHSV)は、通常、200〜100,000h-1である。
反応形式としては、特に制限はなく、固定床式、移動床式、流動床式いずれも採用できるが、固定床式が好ましい。
反応器の形式としても特に制限はなく、例えば、管型反応器等を用いることができる。
上記のような条件で、還元−酸化の繰り返し処理が施された炭化水素改質触媒を用いて、炭化水素の水蒸気改質反応、自己熱改質反応、部分酸化改質反応を行わせることにより水素を含む混合物を得ることができ、燃料電池の水素製造プロセスに好適に使用される。
本発明はまた、炭化水素を改質して水素含有ガスを製造するに際し、使用する触媒に、活性化前処理として、前述の還元−酸化の繰り返し処理を施すことを特徴とする燃料電池用水素の製造方法をも提供する。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
比較調製例1
Ni(NO32・6H2Oの16.414g、Mg(NO32・6H2Oの70.813gおよびAl(NO33・9H2Oの41.492gを、水150mリットルに溶解してA液を調製し、Na2CO3・10H2Oの15.816gを水100ミリリットルに溶解してB液を調製した。
次いで、前記B液中にA液を滴下する。この際、液のpHが10になるように、1モル/リットル濃度のNaOH水溶液を適宜滴下する。A液の滴下が終了したのち、90℃で40分間攪拌し、その後90℃にて20時間静置後、放冷し、吸引ろ過により沈殿物を取り出した。
次に、沈殿物を2リットルの水で洗浄後、105℃にて9時間乾燥処理したのち、0.83℃/分の速度で850℃まで昇温し、その温度で5時間焼成処理することにより、貴金属元素を含まない触媒X−1(spc−Ni/Mg−Al)を得た。
触媒X−1中のNi含有量は14質量%、Mg含有量は28質量%、Al含有量は16質量%であった。
なお、spcはsolid phase crystallization(固相晶析法)の略である。
【0025】
調製例1
50g/リットル濃度のRu(NO33水溶液0.5ミリリットルを、水200ミリリットルで希釈して、C液を調製した。このC液に、比較調製例1で得た触媒X−1の5.0gを投入し、室温で12時間攪拌したのち、攪拌しながら90℃に加熱して沈殿物を蒸発乾固した。
次いで、乾固物を0.83℃/分の速度で850℃まで昇温したのち、その温度で5時間焼成処理することにより、貴金属元素を含む触媒Y−1(spc−Ru−Ni/Mg−Al)を得た。
触媒Y−1中のRu含有量は0.5質量%であった。
調製例2
調製例1における50g/リットル濃度のRu(NO33水溶液0.5ミリリットルの替りに、4.5質量%濃度のRh(NO33水溶液0.55ミリリットルを用いた以外は、調製例1と同様な操作を行い、貴金属元素を含む触媒Y−2(spc−Rh−Ni/Mg−Al)を得た。
触媒Y−2中のRh含有量は0.5質量%であった。
【0026】
比較調製例2
(1)担体の調製
Mn(CH3COO)2・4H2Oの5.45gを水11.5ミリリットルに溶解し、含浸液Aを調製した。次に、予め十分に乾燥させたγ−アルミナ担体30gに前記含浸液Aをポアフィリング法にて含浸させたのち、120℃で3時間乾燥処理し、次いで800℃で3時間焼成処理することにより、Mn担持担体を得た。
(2)触媒の調製
RuCl3の0.39gを水1.8ミリリットルに溶解し、含浸液Bを調製した。予め十分に乾燥させた前記(1)のMn担持担体5.0gに、上記含浸液Bをポアフィリング法にて含浸させたのち、5モル/リットル濃度のNaOH水溶液100ミリリットルで1時間アルカリ分解した。次いで、一昼夜かけて水洗後、120℃にて5時間乾燥処理することにより、貴金属元素を含む触媒X−2(Ru/Mn/Al23)を得た。
触媒X−2中のRu含有量は3.0質量%、Mn含有量は3.7質量%であった。
【0027】
比較調製例3
50g/リットル濃度のRu(NO33水溶液0.60gと、Ni(NO32・6H2Oの4.12gを極少量の水に溶解して含浸液Cを調製した。予め十分に乾燥させた比較調製例2の(1)で得たMn担持担体5.0gに上記含浸液Cをポアフィリング法にて含浸させたのち、5モル/リットル濃度のNaOH水溶液100ミリリットルで1時間アルカリ分解した。次いで一昼夜かけて水洗後、120℃にて5時間乾燥処理することにより、貴金属元素を含む触媒X−3(Ru−Ni/Mn/Al23)を得た。
触媒X−3中のRu含有量は0.5質量%、Ni含有量は14質量%、Mn含有量は2.8質量%であった。
【0028】
比較調製例4
4.5質量%濃度のRh(NO33水溶液0.65gと、Ni(NO32・6H2Oの4.12gを、極少量の水に溶解して含浸液Dを調製した。予め十分に乾燥させた比較調製例2の(1)で得たMn担持担体5.0gに、上記含浸液Dをポアフィリング法にて含浸させたのち、5モル/リットル濃度のNaOH水溶液100ミリリットルで1時間アルカリ分解した。次いで一昼夜かけて水洗後、120℃にて5時間乾燥処理することにより、貴金属元素を含む触媒X−4(Rh−Ni/Mn/Al23)を得た。
触媒X−4中のRh含有量は0.5質量%、Ni含有量は14質量%、Mn含有量は2.7質量%であった。
【0029】
実施例1、2および比較例1〜4
調製例1および2で得た触媒Y−1およびY−2、並びに比較調製例1〜4で得た触媒X−1〜X−4を用い、以下に示す(1)〜(3)の操作を順次行い、水蒸気改質反応における触媒の酸化−還元処理繰り返しによる、高活性化と高耐久化を検討した。
(1)初期還元処理
各触媒を16〜32メッシュの大きさに成型し、それぞれ200mgを反応管に充填し、水素気流下で850℃にて1時間還元前処理を行う。
(2)酸化/還元処理
(i)700℃で空気導入を3時間継続、(ii)空気導入停止および(iii)850℃での還元処理を1サイクルとし、第2表に示すサイクル数の処理を繰り返す。
(3)水蒸気改質前後の反応評価
反応温度を500℃に保持しながら、触媒層へ脱硫灯油(S:0.02質量ppm未満)と水を、同脱硫灯油の液時空間速度(LHSV)が16.5h-1、スチーム/カーボン(モル比)が3.0になるように供給して水蒸気改質反応を開始し、反応開始1時間後、得られたガスをサンプリングして灯油のC1転化率を求め、反応評価を行う。
この反応評価を、水蒸気改質前、水蒸気改質1回後および水蒸気改質2回後の各触媒(初期還元処理触媒、酸化−還元処理1〜20回繰り返し触媒)について、それぞれ行う。
なお、灯油のC1転化率は、下記式より求める。
C1転化率(%)=(A/B)×100
[上記式において、A=COモル流量+CO2モル流量+CH4モル流量(いずれも反応器出口における流量)、B=反応器入口側の灯油の炭素モル流量である]
これらの結果を第1表および第2表に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
第2表から、実施例1および2においては、酸化−還元繰り返し処理により、以下に示すことが分かる。
(1)前処理後の活性が向上し、水蒸気改質前の活性は、酸化−還元を3回繰り返した時点が最も高い。
(2)水蒸気改質の耐久性が向上し、水蒸気改質後の活性は、4回〜6回繰り返した時点が最も高い。20回繰り返しても、初期還元後(つまり、酸化−還元処理を行わないケース)よりも、高い活性を維持できる。
(3)活性金属元素であるNiとRu、あるいはNiとRhの相互作用により、金属元素が高分散化する酸化−還元の繰り返し処理により、相互作用がより強くなり、高活性化および高耐久化をもたらす。一方、ある一定以上の回数を繰り返すと、活性金属元素の凝集が起こり、活性が低下する。
一方、比較例では、酸化−還元の繰り返し処理によっても、高活性化をもたらさない。また、アルミナ担体では、前記のような効果は期待できない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の水素製造触媒の前処理方法は、特定の金属元素を含む炭化水素改質触媒、特にハイドロタルサイト状層状化合物を経由して得られる触媒に、活性化前処理として、還元−酸化の繰り返し処理を施すことにより、同触媒の活性を向上させる方法であって、燃料電池用水素の製造に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni、MgおよびAlを含むと共にPt、Pd、Ir、RhおよびRuの中から選ばれる少なくとも1種の貴金属元素を含む、炭化水素を改質して水素含有ガスを製造する触媒に活性化前処理として還元−酸化の繰り返し処理を施すことを特徴とする水素製造触媒の前処理方法。
【請求項2】
前記還元−酸化の繰り返し処理において、還元処理が水素含有ガス雰囲気下、600〜1100℃の範囲の温度で行われる請求項1に記載の水素製造触媒の前処理方法。
【請求項3】
前記還元−酸化の繰り返し処理において、酸化処理が酸素含有ガス雰囲気下、400〜1200℃の範囲の温度で行われる請求項1または2に記載の水素製造触媒の前処理方法。
【請求項4】
前記触媒がハイドロタルサイト状層状化合物を経由して得られたものである請求項1〜3のいずれかに記載の水素製造触媒の前処理方法。
【請求項5】
前記触媒がハイドロタルサイト状層状化合物の焼成後に、貴金属成分を担持させることにより得られたものである請求項4に記載の水素製造触媒の前処理方法。
【請求項6】
前記貴金属元素が、Rhおよび/またはRuである請求項1〜5のいずれかに記載の水素製造触媒の前処理方法。
【請求項7】
焼成した触媒を還元処理後、「酸化−還元」の繰り返し処理を1〜20回施す請求項1〜6のいずれかに記載の水素製造触媒の前処理方法。
【請求項8】
炭化水素の改質が、水蒸気改質、自己熱改質または部分酸化改質である請求項1〜7のいずれかに記載の水素製造触媒の前処理方法。
【請求項9】
炭化水素を改質して水素含有ガスを製造するに際し、使用する触媒に請求項1〜8のいずれかに記載の前処理方法を施すことを特徴とする燃料電池用水素の製造方法。

【公開番号】特開2008−80246(P2008−80246A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−263263(P2006−263263)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】