説明

水蒸気発生体

【課題】金属粉の酸化反応を利用した水蒸気発生組成物から放出される温熱水蒸気と共に、化粧料成分や薬剤成分を持続的に皮膚あるいは粘膜に適用する。
【解決手段】水蒸気発生体10Aが、金属粉、塩類及び水からなり、金属粉の酸化に伴って水蒸気を放出する水蒸気発生組成物1aを有し、この水蒸気発生組成物1a中に化粧料成分又は薬剤成分を分散させている。水蒸気発生体の皮膚又は粘膜への適用面から放出される水蒸気量が、0.01mg/cm2・min以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚や粘膜に、温熱水蒸気と共に化粧料成分又は薬剤成分を持続的に供給し、それらが効率よく経皮的に吸収されるようにする水蒸気発生体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、皮膚に適度に加熱された水蒸気を供給し、それにより皮膚の血行を促進させ、また、皮膚を好ましい保湿状態に維持あるいは改善するため、スチーム美顔器、蒸しタオル等が利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、スチーム美顔器や蒸しタオルは任意の場所で随時利用できるとは限らない。また、スチーム美顔器は、顔以外の身体の任意の部位に利用することが困難である。さらに、蒸しタオルは、十分な蒸気を供給できる維持時間が短いという問題もある。
【0004】
これに対して、本発明者らは、WO99/51174号公報において、簡便に水蒸気を発生させる水蒸気発生体として、金属粉、塩類及び水を含有し、金属粉の酸化反応に伴って水蒸気を放出する水蒸気発生組成物を透湿性シートからなる袋に入れた水蒸気発生体を開示した。さらに、この水蒸気発生体の表面に化粧料層あるいは薬剤層を設け、水蒸気と共に化粧料成分や薬剤成分が放出されるようにすると、単に皮膚を温熱した場合に発汗によってその皮膚に供給される水分よりも、水蒸気発生部から供給される水分によって、皮膚が速やかに十分な湿潤状態におかれ、かつ、その水分による湿潤状態が長時間にわたって持続されるため、化粧料成分や薬剤成分の皮膚への浸透が促進され、これらの使用効果が高められることを開示した。
【0005】
しかしながら、化粧料層や薬剤層を水蒸気発生体の表面に設けると、化粧料や薬剤が短時間で消費されてしまうため、水蒸気発生体からの水蒸気の放出が長時間続いても化粧料成分や薬剤成分の供給は長時間は持続せず、さらに、場合によっては化粧料成分や薬剤成分が皮膚表面で高濃度になるため、皮膚障害が引き起こされるという危険があった。
【0006】
そこで、本発明は、水蒸気発生体から放出される水蒸気を用いて化粧料や薬剤を皮膚や粘膜に適用するにあたり、より安全性を高め、かつ化粧料成分や薬剤成分が持続的に皮膚や粘膜に供給されるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、水蒸気発生源として、金属粉、塩類及び水を含有し、金属粉の酸化反応に伴って水蒸気を放出する水蒸気発生組成物を使用する場合に、その水蒸気発生組成物中に化粧料成分又は薬剤成分を分散させると、水蒸気発生組成物からの水蒸気の放出に伴って化粧料成分や薬剤成分も徐々に放出されるので、化粧料成分や薬剤成分が皮膚や粘膜上で必要以上に高濃度になることを防止でき、かつ化粧料成分や薬剤成分を持続的に皮膚や粘膜に供給できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、金属粉、塩類及び水からなり、金属粉の酸化に伴って水蒸気を放出する水蒸気発生組成物を有する水蒸気発生体であって、水蒸気発生組成物中に化粧料成分又は薬剤成分を分散させた水蒸気発生体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温熱水蒸気と共に、化粧料成分や薬剤成分を徐々にかつ持続的に皮膚あるいは粘膜に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例の水蒸気発生体の平面図(同図(a))及び断面図(同図(b))である。
【図2】実施例の水蒸気発生体の平面図(同図(a))及び断面図(同図(b))である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の水蒸気発生体は、水蒸気発生源として、金属粉、塩類及び水からなり、金属粉の酸化に伴って水蒸気を放出する水蒸気発生組成物を使用し、この水蒸気組成物中に化粧料成分又は薬剤成分を分散させ、水蒸気発生組成物からの水蒸気の放出に伴って、水蒸気発生組成物中に分散させた化粧料成分や薬剤成分が徐々に放出され、水蒸気と共に皮膚や粘膜に供給されるようにしたものである。
【0013】
ここで、水蒸気とは、水が気化して気体になったもの及びその気体が凝縮して微細な水滴になったものの双方を含む。
【0014】
また、本発明において、水蒸気発生体を皮膚又は粘膜に適用するとは、水蒸気発生体を皮膚や粘膜の適用部位に直接的に貼付することにより、その適用部位へ水蒸気が供給されるようにすること、あるいは水蒸気が吸引等により間接的に適用部位へ供給されるようにすることをいう。
【0015】
水蒸気発生組成物としては、金属粉(鉄、アルミニウム、亜鉛、銅等)、塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等)及び水を含有し、金属粉の酸化反応に伴って水蒸気を放出するものを使用する。この水蒸気発生組成物には、必要に応じて保水剤(バーミキュライト、ケイ酸カルシウム、シリカゲル、シリカ系多孔質物質、アルミナ、パルプ、木粉、吸水性ポリマー等)や、反応促進剤(活性炭、カーボンブラック、黒鉛等)等の種々の成分を含有させることができる。
【0016】
この酸化反応では、例えば、金属粉として鉄粉を用いた場合、次式
【0017】
【化1】


のように、鉄粉が発熱反応をおこし、系内の水が水蒸気として放出される。
【0018】
このような金属粉の発熱反応は、一般に化学カイロと称されている発熱体で利用されているものである。しかしながら、従来の化学カイロは基本的に温熱具として構成されているので、適度な通気性を有し、かつ、反応に必要な水が発熱体から逃げないように留意されている。そのため、化学カイロの発熱体を収容する袋は、通気性は有するが、積極的に透湿性素材で構成することはなされていない。これに対し、本発明では、水蒸気発生組成物を水蒸気発生源として積極的に利用するため、後述するように、皮膚又は粘膜に適用される面を透湿性シートから構成するので、従来の化学カイロにおける同様の組成物の利用方法とは大きく異なる。
【0019】
化粧料や薬剤の種類としては特に制限はないが、加熱により、あるいは水蒸気の供給により、化粧料成分や薬剤成分が徐々に持続的に放出されるものが好ましい。具体例としては、アンジェリカ種子油、ペパーミント油、イランイラン油、コリアンダー油、サンダルウッド油、ユーカリ油、シダーウッド油、ジャスミン油、ジンジャー油、ティートリー油、パイン油、ニクズク油、パチュリー油、ベルガモット油、ベチバー油、パルマローザ油、マージョラム油、テレビン油、ローズウッド油、ローズマリー油、ラベンダー油、杉胚油等の精油類;カンフル、ゲラニオール、メントール、シトラール、シトロネロール、シネオール、α−セドレン、セドロール、テルピネオール、テルピネン、ネロール、ネロリドール、パチュリーアルコール、ピネン、フェニルエチルアルコール、ベチベロール、ベンジルアセテート、ベンジルアルコール、ボルネオール、リナリルアセテート、リナロール、リモネン、ヒノキチオール等の香り成分;アロエエキス、海藻エキス、カモミラエキス、センブリエキス、トウキエキス、マロニエエキス、メリッサエキス、ハマメリスエキス、ユーカリエキス、ローズマリーエキス、アザミエキス等の植物エキス類;デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等のシリコン類、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールアルキルエーテル等のポリオール類;ニコチン酸トコフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸アミド等の血行促進成分;L−アスコルビン酸、アルブチン、コウジ酸、プラセンタエキス、カミツレエキス、茶エキス、カッコンエキス、カンゾウエキス等の美白剤成分;エストラジオール、スルホ石炭酸亜鉛、酸化亜鉛、ローヤルゼリー、10−ヒドロキシウンデカン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等の皮脂分泌抑制剤成分;天然保湿成分(NMT)、SAアミノ酸、ピロリドンカルボン酸等の保湿剤成分;セラミド類、リン脂質、高級脂肪酸類等の脂質成分;インドメタシン、サリチル酸メチル等の抗炎症剤;パパイン等のプロテアーゼ等からなるピーリング剤;チオグリコール酸カルシウム等の除毛剤;をあげることができる。
【0020】
化粧料成分や薬剤成分を水蒸気発生組成物中に分散させる方法としては、例えば、当該化粧料成分又は薬剤成分が水溶性の場合には水に溶解させ、水不溶性の場合には水に分散させて水蒸気発生組成物中に添加する。後者の場合、非イオン界面活性剤等の分散剤を用いると水中での分散が容易になるので好ましい。
【0021】
本発明においては、皮膚や粘膜への水蒸気供給効果の点から、水蒸気発生体の皮膚又は粘膜への適用面から放出される水蒸気量を0.01mg/cm2・min以上、特に、0.5mg/cm2・min以上とすることが好ましい。なお、この水蒸気放出量は、室温環境(20℃、65%RH)下で水蒸気発生体を外気遮断容器から取り出し、直ちに1mgの単位まで測定可能な上皿天秤に載せ、その後15分間重量測定を行った場合において、測定開始時の重量をWt0(g)とし、15分後の重量をWt15(g)とし、水蒸気発生体表面の皮膚又は粘膜に適用する部分の表面積をS(cm2)としたときに、以下の式(1)により算出されるものである。
【0022】
【数1】

【0023】
水蒸気発生組成物は、任意形状の袋体等に収容されて用いられるが、水蒸気発生体の皮膚又は粘膜への適用面からの水蒸気放出量を0.01mg/cm2・min以上、特に、0.5mg/cm2・min以上とするためには、水蒸気発生組成物を収容する袋体等の構成素材を透湿性シートとする。この透湿性シートとしては、ASTM法による透湿量が4000g/m2・24h以上のものが好ましく、8000g/m2・24h以上のものがより好ましい。透湿性シートの具体例としては、種々の人工繊維又は天然繊維からなる織布、不織布、紙、合成紙等をあげることができる。また、非通気性フィルム又はシートに多数の微孔を設けたものも使用できる。
【0024】
また、本発明の水蒸気発生体においては、温熱水蒸気の持続的供給による皮膚や粘膜の傷害を防止するため、水蒸気発生体表面から放出される水蒸気の温度を50℃以下に制御することが好ましい。このための方法としては、例えば、水蒸気発生組成物の収容部と水蒸気発生体表面との間に、織布、不織布、紙、多孔性フィルム、穿孔した発泡プラスチック等からなる温度調節材を設け、水蒸気発生組成物から放出された水蒸気が温度調節材を透過することにより温度が下がるようにする方法、水蒸気発生体表面と皮膚又は粘膜の貼付部位との間に空隙を設ける方法、水蒸気発生組成物で使用する金属粉や塩類の量や粒径を適宜変えることにより反応速度を調整し、これにより水蒸気発生体表面から放出される水蒸気温度を制御する方法等をあげることができる。
【0025】
なお、本発明において、水蒸気発生体から放出される水蒸気温度を50℃以下に制御するにあたり、その温度測定はJIS S4100使い捨てカイロの温度測定法に準じる。
【0026】
本発明の水蒸気発生体は、水蒸気発生組成物中に化粧料成分又は薬剤成分が分散されて含有されている限り、種々の形態をとることができる。例えば、水蒸気発生組成物を収容する袋体は、その全体を透湿性シートから構成してもよいが、皮膚又は粘膜への適用側面を透湿性シートから構成し、他面を非透湿性又は低透湿性シートから構成してもよい。これにより、水蒸気発生組成物から放出される水蒸気を皮膚又は粘膜の方向へ効率よく向けることができる。
【0027】
また、本発明の水蒸気発生体の保管時には、外気と遮断できる任意の容器や袋に密封すればよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0029】
実施例1
表1に示す成分を用いて、ラベンダー油を含有する水蒸気発生組成物を次のように調製した。まず、吸水性ポリマー、活性炭及びバーミキュライトの混合粉末を得、一方、ラベンダー油を非イオン界面活性剤で分散して15%食塩水と混合し、これを先の混合粉末と混合し、続いて鉄粉と混合した。
【0030】
図1に示すように、得られた水蒸気発生組成物1aの20gを、透湿性不織布(三井化学社製、商品名:シンテックスMB、坪量15g/m2)からなる内袋2に収容し、これを、ポケット部3を有するガーゼマスク4の当該ポケット部3に、温度調節材5として2層の不織布(本州キノクロス社製、商品名:キノクロスKS−40と、日本バイリーン社製、商品名:バイフォームエアーバックKNP−350とを積層したもの)と共に入れ、マスク型の水蒸気発生体10Aとした。
【0031】
このマスク型の水蒸気発生体10Aをかけると、沈静効果のあるラベンダー油の香りを、38〜45℃の暖かい水蒸気と共に15分間吸入することができた。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例2
表2に示す成分を用いて、ユーカリエキスを含有する水蒸気発生組成物を次のように調製した。まず、吸水性ポリマー、活性炭及びバーミキュライトの混合粉末を得、一方、ユーカリエキスを15%食塩水と混合し、これを先の混合粉末と混合し、続いて鉄粉と混合した。
【0034】
図2に示すように、得られた水蒸気発生組成物1bの10gを、裏面2bが通気性を有するシート(日東電工社製 商品名:ブレスロン)からなり、表面2aが透湿性不織布(三井化学社製 商品名:シンテックスMB 坪量15g/m2)からなる内袋2に収容し、これに温度調節材5として2層の不織布(本州キノクロス社製、商品名:キノクロスKS−40と、日本バイリーン社製、商品名:バイフォームエアーバックKNP−350とを積層したもの)を重ね、全体を透湿性不織布(三井化学社製 商品名:シンテックスMB 坪量15g/m2)からなる外袋6に収容し、その表面の周縁部に粘着剤層7を設けた貼付タイプの水蒸気発生体10Bを作製した。
【0035】
この貼付タイプの水蒸気発生体10Bを前腕の皮膚に貼付したところ、約2時間連続して、肌の過敏症を抑制するユーカリエキスが38〜45℃の水蒸気の作用で皮膚に浸透し、高いスキンケア効果が得られた。
【0036】
【表2】

【符号の説明】
【0037】
1a、1b 水蒸気発生組成物
2 内袋
3 ポケット部
4 マスク
5 温度調節材
6 外袋
7 粘着剤層
10A、10B 水蒸気発生体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉、塩類及び水からなり、金属粉の酸化に伴って水蒸気を放出する水蒸気発生組成物を有する水蒸気発生体であって、水蒸気発生組成物中に化粧料成分又は薬剤成分が分散しており、水蒸気発生体の皮膚又は粘膜への適用面から放出される水蒸気量が、0.01mg/cm2・min以上である水蒸気発生体。
【請求項2】
水蒸気発生体の表面から放出される水蒸気の温度が50℃以下に制御されている請求項1記載の水蒸気発生体。
【請求項3】
皮膚又は粘膜に適用される面が少なくとも透湿性シートから構成されている請求項1又は2に記載の水蒸気発生体。
【請求項4】
水蒸気発生組成物の収容部と水蒸気発生体表面との間に温度調節材を設けている請求項1ないし3の何れか一項に記載の水蒸気発生体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−213922(P2009−213922A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154592(P2009−154592)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【分割の表示】特願平11−375217の分割
【原出願日】平成11年12月28日(1999.12.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】