説明

水質浄化用焼結体及びその製造方法

【課題】 本発明の課題は、浚渫汚泥と蠣殻・貝殻を同時に処理して、水系に存在する環境汚染物質を吸着・分解できる物質を提供する。
【解決手段】 汚泥と、蠣殻・貝殻を粉砕した物と、水ガラスとを混合焼成し、焼結体を得る。ここで、水ガラスの混合重量比は10%から50%の範囲とし、蠣殻・貝殻の粉砕物の混合重量比は1%から10%の範囲とすることにより、水質の浄化により有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結体及びその製造方法に関し、又それを用いた水系有害物質の除去に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、閉鎖性海域の水質悪化に伴い、水系の底部に堆積した汚泥を除去するために、公共事業の一環として浚渫事業が行われている。しかしながら、浚渫汚泥の処分場の確保、費用等の問題から、今後も継続して浚渫事業が行われない懸念が生じている。
【0003】
三重県など海に隣接している県では、沿岸漁業が古くから行われており、蠣養殖や真珠貝養殖などの海洋産業が振興し、今日を迎えている。しかしながら、蠣や貝の生産・出荷に伴って廃棄物として排出される蠣や貝殻は、一部に肥料、地盤改良材等に利用されているが、大半は野積みのまま放置されており大きな問題となっている。一方、蠣殻や貝殻の主成分は炭酸カルシウムであり、pH調整、吸着剤としての機能があることから、従前から水質浄化剤としての再資源化が検討されている。
【0004】
近年、湖沼、海洋からくみ上げた底泥に水ガラスを添加して焼結体を作り、底泥を減少させる方法は下記特許文献に示すようにこれまで幾つか報告されている。例えば、含水量の多い汚泥又は汚土を、強度が大きく再利用の容易な処理土とするために、水ガラス並びにリン酸及び/又はリン酸塩を添加する汚泥又は汚土の処理方法などが提案されているが、汚泥に蠣殻・貝殻を加え、さらに水ガラスを加えて固化した固化材を、水質浄化に応用した例はない。
【0005】
【特許文献1】特開平11−61128
【特許文献2】特開平11−235600
【特許文献3】特開平2005−7335(P2005−7335A)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の焼結体は、従来の問題点を解決しようとするためになされたものである。すなわち、蠣養殖や真珠貝養殖の生産に伴って廃棄物として排出される蠣や貝殻を有効利用して、より吸着能に秀でた水質浄化用焼結体を得ることを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の焼結体は、水質系の底部から浚渫した底泥と、貝殻や養殖により生産された蠣殻の粉砕物と、水ガラスとを加え、200℃から1800℃の温度範囲で固化焼結することを特徴とする。又水ガラスの混合重量比は10%から50%の範囲であり、貝殻・蠣殻の粉砕物の混合重量比は1%から10%の範囲であることを特徴とする。次に、貝殻や養殖により生産された蠣殻の粉砕物の粒径(概直径)は、0.01mmから1mmの範囲にあることを特徴とする。また、硝酸、塩酸、リン酸、硫酸などの酸性溶液水に浸漬させることにより表面の比表面積を0.1m/gから10m/gの範囲とすることを特徴とする。さらに、焼結体にイースト酵母菌を担持したことを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明では、カドミウム、鉛、クロム、ヒ素、水銀、セレン、アンチモン、バナジウム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛などの重金属元素、リン酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、アンモニウムイオン、塩化物イオンなどイオン化合物の吸着除去、及び水質悪化物質の分解に、上記した種々の焼結体を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、浚渫汚泥と蠣や貝殻の廃棄物を用いて、焼結体を得ることができるので、廃棄物を有価物に転換できる。さらに、本発明の焼結体を用いると、工場排水などの産業排水や生活排水を浄化できることが見出され、河川や海洋などの水質を改善することができる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明による、貝殻・蠣殻の粉砕物の混合重量比が10%、水ガラスの混合重量比が10%の場合における焼結体は、以下のようにして作製する。水系の底部から浚渫した底泥80gに、粒径(概直径)0.01mmから1mmの範囲貝殻・蠣殻の粉砕物(10g)と、水ガラスを測り取り(10g)、ボール状容器に入れ、攪拌機によって十分に混合する。他の重量混合比の場合の手順も、本手順と同様である。
【0011】
焼成方法は、底泥、貝殻・蠣殻の粉砕物、水ガラスを混合した物を、空気雰囲気下において昇温速度4℃毎分で温度を上げ、200℃から1800℃の目的温度に到達した後、3時間固化焼成を行う。生成した水質浄化用焼結体の外観図を図1に示し、さらに焼結体の表面形態を走査型電子顕微鏡で観測した結果を図2に示す。表面に凹凸が観察され、水質浄化用として有用であることが予想された。
【0012】
次に、得られた焼結体(大きさ:直径3〜5cmの塊状物、重さ:10〜30g)を硝酸、塩酸、リン酸、硫酸などの酸性溶液水(濃度:0.1Mから濃酸濃度、温度:室温から50℃程度、時間:1日以下)に浸漬させることにより、比表面積を増加させることができ、表面積が約10倍になった。得られた水質浄化用焼結体の比表面積の一例を、図3と図4に示す。
【0013】
又、イースト酵母菌を繁殖させた水溶液中(酵母菌濃度: 10〜10個/mL)に、生成した焼結体を最長24時間浸漬させ、イースト酵母菌担持体を得る。

【実施例1】
【0014】
本発明で得られた焼結体を、実際の排水を用いて、吸着の実験をした。図5、図6に示すように、排水中カドミウムや鉛元素及びリン酸イオンを高効率で吸着除去することができた。図7に示すように、排水中ヒ素の除去に関しても、十分な除去効果が認められた。これ以外の重金属元素やイオン化合物についても、図5から図7に示すのと同様に、実排水に十分応用可能な程度の除去効果が認められた。重金属元素濃度の測定は、誘導結合プラズマ発光分光分析法によった。イオン化合物濃度の測定は、可視紫外吸光光度法によった。詳細な測定条件は、JIS公定法に従った。本発明で得られた焼結体による吸着除去能力は、一般的に環境負荷が大きいと考えられている重金属元素やイオン化合物の吸着除去に応用できる吸着特性が十分に得られていると結論づけられる。また、イースト酵母菌を担持させた焼結体(5g)を用いることにより、200mL容量で、1mM程度以下の硝酸イオンが亜硝酸イオン、窒素ガスへと脱窒反応が焼結体上で進行していることが確認された。

【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明によれば、従来廃棄物として多大な処理コストを要していた、水系の底部に堆積した汚泥と、貝殻や蠣殻とを同時に処理することができる。さらに、その処理によって得られた焼結体は、水中の有害な無機物イオン等を吸着することがわかり、水の浄化に役立つものであった。従って、本発明は水系の改質に極めて有効であり、環境の保全に資すること大である。

【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明により生成した水質浄化用焼結体の外観図である。
【図2】本発明により生成した水質浄化用焼結体表面の走査電子顕微鏡写真図である。焼結温度は、(a)600℃、 (b) 700℃、(c)800℃、(d) 900℃である。
【図3】本発明により生成した水質浄化用焼結体の比表面積への、蠣殻添加量の影響の一例を示す図である。
【図4】本発明により生成した水質浄化用焼結体の比表面積への、焼成温度の影響の一例を示す図である。
【図5】本発明により生成した水質浄化用焼結体による排水中リン酸イオンの除去効果の一例を示す図である。リン酸イオン濃度5ppm、20mLの排水試料を、バッチ法により吸着除去。
【図6】本発明により生成した水質浄化用焼結体による排水中カドミウムと鉛の除去効果の一例を示す図である。カドミウムと鉛濃度それぞれ1ppm、20mLの排水試料を、バッチ法により吸着除去。
【図7】本発明により生成した水質浄化用焼結体による排水中ヒ素の除去効果の一例を示す図である。ヒ素濃度1ppm、20mLの排水試料を、バッチ法により吸着除去。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水系の底部から浚渫した底泥と、貝殻及び/又は蠣殻の粉砕物と、水ガラスとから成ることを特徴とする水質浄化用焼結体。
【請求項2】
前記水ガラスの混合重量比は10%から50%の範囲であり、貝殻や蠣殻の粉砕物の混合重量比は1%から10%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の水質浄化用焼結体。
【請求項3】
前記焼結体の比表面積が0.1m/gから10m/gの範囲内にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水質浄化用焼結体。
【請求項4】
前記焼結体を200℃から1800℃の温度範囲で固化焼結することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の水質浄化用焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記貝殻及び/又は蠣殻の粉砕物の粒径が、0.01mmから1mmの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の水質浄化用焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記焼結体がカドミウム、鉛、クロム、ヒ素、水銀、セレン、アンチモン、及び/又は該金属イオンの吸着除去を目的として用いられることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の水質浄化用焼結体。
【請求項7】
リン酸イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、アンモニウムイオン、塩化物イオンなどイオン化合物の吸着除去をするために、前記焼結体にイースト酵母菌を担持したことを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載の水質浄化用焼結体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−239583(P2006−239583A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59268(P2005−59268)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】