説明

水転写紙用原紙

【課題】地合いを改善しながら、水分の迅速な通過をも改善し、顔料塗工層の厚みムラを抑え、更に厚みムラによるアンダーコート層の吸収ムラを無くし、平坦なアンダーコート層を設け高精彩な印刷絵柄が得られる水転写紙用原紙とする。
【解決手段】基紙1と、この一方の面に設けられた顔料及び接着剤を主成分とする顔料塗工層2とを有し、この上にアンダーコート層3、トップコート層4、印刷層5及びオーバーコート層6がこの順に設けられる水転写紙用原紙8であって、基紙1は坪量が80〜170g/m2で、かつヤンキードライヤーで乾燥されており、基紙1を構成する原料パルプとして、広葉樹クラフトパルプ(LKP)を主原料とし、かつ重量平均繊維長が0.5mm〜1.0mmで、繊維長1.5mm以下の繊維を90%以上含有するパルプが用いられて、地合指数が50〜80とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陶器などの絵付けに用いる水転写紙用原紙に関するものであり、特にアンダーコート層及びトップコート層の微細な凹凸を改善し、高精彩な絵柄印刷を行うことのできる水転写用紙原紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、陶器、ガラス、あるいはホーローなどの無機材料に対する絵付けのために、水転写紙(絵付け転写紙)を用い、これを水に浸漬してスライド転写することが行われている。このような絵付け転写紙としては、図1に示すように、ノーサイズ基紙(基紙)1の一方の面に、その凹凸の目詰め、及び、より安定した絵柄を得るために顔料及び接着剤を主成分とする顔料塗工層2を設け、この顔料塗工層2上に、凹凸調整(平滑性の維持)及び吸水した水分を保持するための親水性澱粉(水中への溶出は殆どない)を含むアンダーコート層3、デキストリン、メチルセルロース(MC)などの再湿潤糊(水中に容易に溶出する)を含有するトップコート層4、スクリーン印刷又はオフセット印刷して形成された印刷層5、及び、アクリル樹脂からなるオーバーコート層6がこの順に設けられた構成を取るのが一般的である。
【0003】
なお、基紙1の他方の面には、カール防止等の目的でバックコート層7が設けられる。また、本明細書においては、基紙1に顔料塗工層2が設けられたものを水転写紙用原紙8といい、この水転写紙原紙8上に、アンダーコート層3、トップコート層4、印刷層5及びオーバーコート層6が設けられたものを水転写紙10といい、印刷層5及びオーバーコート層6からなる層を転写層9という。
【0004】
上記の如き構成になる水転写紙10の具体的な使用方法としては、先ず、その水転写紙10に水を与え、再湿潤糊を含むトップコート層4を溶解させて、水転写紙10を転写対象物の表面に当てがい、印刷層5部分を手指でスライドさせて、対象物の所定の箇所へ移して定着させた後、800〜1000℃で焼付けを行って絵付けをするものである。
【0005】
この場合、顔料塗工層2は、基紙1を通過してきた水分をアンダーコート層3に均等に且つ迅速に供給する作用効果を呈し、アンダーコート層3の親水性澱粉に均等に且つ迅速に水分を付与することにより、トップコート層4中のデキストリン等の再湿潤糊をすみやかに溶出せしめ、トップコート層4上に設けられた印刷層(絵柄層)5が、水分を保持し平滑な親水性澱粉を含むアンダーコート層3から手指によってスムーズに移動、分離できるように作用する。したがって、水転写紙10の吸水性は極めて重要な品質特性となるものである。
【0006】
水転写紙10の実際の使用については、前記したように水転写紙10を水に浸漬し、トップコート層4を水に溶出させた後、手指を用いてアンダーコート層(界面)3から印刷層5を陶器等の被転写対象物に貼付けることによって、その目的を達成するものである。
【0007】
従来、窯業製品等の耐熱性固体表面に絵柄を形成する方法としては、古くは無機顔料および釉薬成分からなる絵の具を用いて、筆などにより耐熱性固体表面上に絵柄を直接手書きし、それを窯業製品に転写し、通常750℃〜1300℃で焼き付ける方法があった。この方法によれば、焼き付けにより、絵の具中の灰化する成分が灰化し、絵の具中の釉薬成分が溶解し、ついで室温まで冷却される際に無機顔料が釉薬成分により耐熱性固体表面上に固定化され、耐熱性固体表面上に手書きされた絵柄が形成される。この方法による場合は、同一の絵柄を有する複数の窯業製品を得るために、簡単な絵柄においても、熟練した作業員が必要になる。
【0008】
そこで、同一の絵柄を有する多数の窯業製品を作製する場合には、スクリーン印刷法により転写紙上に絵柄を形成した後、転写紙から絵柄を剥離して窯業製品表面に貼り付け、それを焼き付ける方法が一般に行われている。この方法は、例えば、特許文献1に開示されているように、基紙(台紙)上に水溶性の糊層を有する水転写紙用原紙上にスクリーン印刷法により無機顔料等を含有するインクで画像を形成し、ついで、このインク画像上にビニル系またはセルロース系の非水溶性樹脂皮膜を形成した後、この水転写紙用原紙を水に浸すことにより転写紙の糊層を溶解させてインク画像を保持した樹脂皮膜を水転写紙用原紙から剥離し、インク画像を保持した樹脂皮膜を窯業製品の表面、例えば皿等の表面に貼り付け、それを焼き付ける方法である。この方法によると、同一絵柄のインク画像を有する多数の水転写紙を作成し、そのインク画像を多数の窯業製品表面に転写し、それを焼き付けることにより、同一絵柄を有する多数の窯業製品を得ることができる。
【0009】
しかしながら、近年では、従来の印刷法において、フルカラー且つ高精細な絵柄を求められ、水転写紙においても更なる高精細な絵柄に対応可能なものが求められている。高精細な印刷に対応する水転写紙用原紙を製造する技術としては、特許文献2に示すものがある。この特許文献2における水転写紙用原紙は、L−BKP100%などで抄造したノーサイズのヤンキー基紙を用い、当該ノーサイズ基紙に顔料塗工層を設けることで平滑性が向上し、印刷適性が改善するとされている。また、特許文献3においては、特に転写用紙に仕上げたときに、図柄の欠損(ハジキ現象)がなく、かつ得られる画像の再現性に優れる転写用紙用原紙を提供するために、基紙上に顔料および接着剤を主成分とする顔料塗工層を設けてなる支持体上に、澱粉を含むアンダーコート層、再湿潤糊を含むトップコート層、および支持体の裏面にバックコート層を設けてなる転写用紙用原紙であって、アンダーコート層中に共重合体ラテックスおよび耐水化剤が含まれている転写用紙用原紙が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3ともに基紙に顔料塗工層を設けることで、フルカラー且つ高精細な絵柄の印刷を可能にする水転写紙用原紙を得る方策ながら、顔料塗工層の形成においては、塗工層を形成する塗工液の流動性が基紙に影響を受け、言い換えると、基紙の地合いにより塗工層の平坦性が損なわれ、ノーサイズの基紙を用いる場合はその影響が顕著であり、高精細なフルカラー画像が求められるなかで、改善が求められている。
【0011】
当業者において、基紙の地合い改善が提案されるものの、地合い指数が80を超える、良好な地合いの基紙は、均質な原料パルプによる緻密な紙層を形成するため、水分の通過速度が低下し、フルカラー且つ高精細な絵柄を欠損無く剥離し、転写させるには充分な水分の浸透が必要なところ、生産効率の低下を来たす問題を発現する。
【特許文献1】特開昭49−35407号公報
【特許文献2】特開平06−239680号公報
【特許文献3】特開平11−060353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする主たる課題は、地合いを改善しながら、水分の迅速な通過をも改善し、顔料塗工層の厚みムラを抑え、更に厚みムラによるアンダーコート層の吸収ムラを無くし、平坦なアンダーコート層を設け高精彩な印刷絵柄が得られる水転写紙用原紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らの検討において、フルカラー且つ高精細な絵柄を、再湿糊を含むトップコート層上に再現するには、基紙の地合ムラ改善が、水転写紙としての作業性(水分透過性)を低下させること無くフルカラー且つ高精細な絵柄を得るに最も適した方策との知見を得、これを基に、本発明を見出したものである。すなわち、前記課題を解決した本発明は、次のとおりである。
【0014】
〔請求項1記載の発明〕
基紙と、この基紙の一方の面に設けられた顔料及び接着剤を主成分とする顔料塗工層とを有し、
この顔料塗工層上に、親水性澱粉を含むアンダーコート層、再湿糊を含むトップコート層、印刷層及びオーバーコート層がこの順に設けられる水転写紙用原紙であって、
前記基紙は、坪量が80〜170g/m2で、かつヤンキードライヤーで乾燥されており、
前記基紙を構成する原料パルプとして、前記水転写紙用原紙を、JIS P 8220に準拠して離解した離解パルプの重量平均繊維長が0.5mm〜1.0mmで、繊維長1.5mm以下の繊維を90%以上含有するパルプが用いられて、当該基紙の地合指数が50〜80とされている、
ことを特徴とする水転写紙用原紙。
【0015】
(主な作用効果)
○ 基紙の坪量が80g/m2未満であると、基紙の一方の面(片面)に顔料塗工層、アンダーコート層、トップコート層、印刷層及びオーバーコート層を順に設けるため、これらの層と基紙との間で伸縮差が生じ、カールが発生する場合があり、水転写に悪影響を及ぼすおそれがある。他方、基紙の坪量が170g/m2を超えると、基紙が厚くなり吸水に時間がかかる問題や、基紙の平滑性が低下して顔料塗工層を設けた際の厚みムラが大きくなってしまう問題が生じる。
【0016】
○ 基紙(抄紙された紙)が、ヤンキードライヤーに圧着させて乾燥させるヤンキードライヤーで乾燥されていると、基紙の表面平滑性が優れ、より平滑な顔料塗工層を設けることができる。また、ヤンキードライヤーによる乾燥は、緊張乾燥のため、寸法安定性に優れ、しかもカールが抑えられ、加えて、乾燥時の収縮が少ないため、印刷時の見当ズレも発生しにくくなる。
【0017】
○ 地合を良好にするために、基紙を構成する原料パルプとして、繊維長1.5mm以下の繊維を90%以上含有するパルプが用いられていると、紙層が均一となり、また、表面平滑性が優れる。
【0018】
○ 基紙を構成する原料パルプとして、重量平均繊維長が1.0mmを超えるパルプが用いられていると、パルプ繊維の結束が生じ、地合が悪くなる。他方、重量平均繊維長が0.5mm未満のパルプが用いられていると、地合は良好となるが、緊度が上がりすぎ、吸水性が低下してしまう。
【0019】
○ 本発明の水転写紙用原紙は、当該基紙の地合指数が50以上80以下、好ましくは60以上75以下である。地合指数が50を下回ると地合むらから、水転写紙用原紙への各種印刷方式における画像転写むらが発生しやすくなるおそれがある。他方、地合指数が80を超えると、その均質性を確保するため用紙叩解を強くする必要があり均質な原料パルプによる緻密な紙層を形成するため、水分の通過速度が低下してしまい、フルカラー且つ高精細な絵柄を欠損無く剥離し、転写させるには充分な水分の浸透が必要なところ、生産効率の低下を来たす問題を発現する。更には、カールが大きくなってしまい、画像剥離時の作業性を低下させるおそれがある。
【0020】
ここで、地合い指数とは、M/KSystems,Inc.(MKS社)製の3Dシートアナライザー(M/K950)を使い、そのアナライザーの絞りを直径1.5mmとし、マイクロフォーメーションテスター(MFT)を用いて測定したものである。
すなわち、3Dシートアナライザーにおける回転するドラム上にサンプル(用紙)を取り付け、ドラム軸に取り付けられた光源と、ドラムの外側に光源と対応して取り付けられたフォトディテクターとによって、サンプルの局部的な坪量差を光量差として測定する。この時の測定対象範囲は、フォトディテクターの入光部に取り付けられる絞りの径で設定される。次に、その光量差(偏差)を増幅し、A/D変換し、64の光測定的な坪量階級に分級し、1回のスキャンで1000000個のデータを取り、そのデータ分のヒストグラム度数を得る。そして、そのヒストグラムの最高度数(ピーク値)を64の微小坪量に相当する階級に分級されたもののうち100以上の度数を持つ階級の数で割り、それを1/100にした値が地合い指数として算出される。この地合い指数は、その値が大きいほど地合いがよいことを示す。
【0021】
〔請求項2記載の発明〕
前記基紙に濡れ向上剤が内添され、
前記顔料塗工層とは反対側のJIS P 8140に規定する接触時間30秒のコッブサイズ度が200g/m2以上とされている、
請求項1記載の水転写紙用原紙。
【0022】
(主な作用効果)
○ 濡れ向上剤はパルプ表面の親水性を増すため、基紙に濡れ向上剤が内添されていると、基紙の吸水性が向上するとともに、水中での繊維の分散性が良好となり、均一な地合形成につながる。
【0023】
○ 顔料塗工層とは反対側のJIS P 8140に規定する接触時間30秒のコッブサイズ度が200g/m2未満であると、顔料塗工層への水の供給が少なくなり、結果として顔料塗工層からアンダーコート層やトップコート層への水の供給も少なくなり、トップコート層での溶解ムラが生じる。
【0024】
〔請求項3記載の発明〕
前記基紙は、湿潤紙力剤が内添され、かつ湿潤引張り強度が0.3kN/m以上とされている、
請求項1又は請求項2記載の水転写紙用原紙。
【0025】
(主な作用効果)
○ 湿潤引張り強度が0.3kN/m未満であると、水中に浸漬させて転写作業を行う際に、水転写紙が破れてしまうおそれがある。
【0026】
〔請求項4記載の発明〕
前記濡れ向上剤が、ポリオキシポリアルキレン脂肪酸エステルで、
前記湿潤紙力剤が、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂である、
請求項3記載の水転写紙用原紙。
【0027】
(主な作用効果)
○ 濡れ向上剤としては、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルのほか、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等を例示することができる。しかしながら、その中でも特に、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルは、パルプ繊維への定着が良好であるため、繊維の親水性向上の効果が高くなり、好ましい。
【0028】
○ 湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂のほか、例えば、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等を例示することができる。しかしながら、その中でも特に、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂は、湿潤強度を得やすいため好ましい。
【0029】
○ 湿潤紙力剤は高分子であり凝集作用によるフロックを形成しやすく、地合を悪化させる要因となるが、濡れ向上剤との併用することでパルプの親水性が向上し、水中での分散性が向上するためフロック形成を防ぐことが出来る。ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルとポリアミドエピクロルヒドリン樹脂は互いに作用することがないため、この効果が得られやすい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、地合いを改善しながら、水分の迅速な通過をも改善し、顔料塗工層の厚みムラを抑え、更に厚みムラによるアンダーコート層の吸収ムラを無くし、平坦なアンダーコート層を設け高精彩な印刷絵柄が得られる水転写紙用原紙となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態について詳説する。なお、本形態の水転写紙用原紙及びその一方の表面に各種層が設けられてなる水転写紙は、層構成が従来と同様であり、したがって、以下では、図1に基づいて説明する。
【0032】
本形態の水転写紙用原紙8は、特に基紙1の地合ムラを改善し、もって一方の表面に設けられるアンダーコート層3及びトップコート層4の微細な凹凸を無くし、高精彩な絵柄を印刷できるものである。
【0033】
本形態の基紙1は、ノーサイズ紙またはサイズの低い紙であり、当該基紙1の一方の面に、アンダーコート層を目止めすることなどを目的とした顔料及び接着剤(バインダー)を主成分とする顔料塗工層2を設けて水転写紙用原紙8とする。また、この水転写紙用原紙8の顔料塗工層2上に、親水性澱粉を含むアンダーコート層3を設け、このアンダーコート層3上に、デキストリンやメチルセルロース(MC)、CMC等の再湿糊を含む水溶性液を塗布、乾燥せしめてトップコート層4を設け、更にスクリーン印刷等による印刷層(絵柄層)5、及び、アクリル樹脂等からなるオーバーコート層6を設け、他方、適宜基紙1の他方の面にカール防止等を目的とするバックコート層7を設けて、水転写紙10とする。
【0034】
本形態の水転写紙用原紙8は、基紙1が、坪量が80〜170g/m2で、かつヤンキードライヤーで乾燥されており、基紙1を構成する原料パルプとして、広葉樹クラフトパルプ(LKP)を主原料とし、かつ重量平均繊維長が0.5mm〜1.0mmで、繊維長1.5mm以下の繊維を90%以上含有するパルプが用いられて、地合指数が50〜80とされている。
【0035】
また、基紙1には、濡れ向上剤が内添され、顔料塗工層とは反対側のJIS P 8140に規定する接触時間30秒のコッブサイズ度が200g/m2以上とされている。
【0036】
さらに、基紙1には、湿潤紙力剤が内添され、かつ湿潤引張り強度が0.3kN/m以上、好ましくは0.5kN/m以上とされていると、好適である。
【0037】
湿潤引張り強度は、本形態の水転写紙用原紙8から製造される水転写紙10を用いる窯業製品の製造工程等において、水に浸漬した際に基材としての強度維持に必要であり、湿潤引張り強度が0.3kN/m未満であると、水に浸漬する作業時に不用意に破断や紙層の膨潤が生じ、作業効率の低下や使用する水の汚染を招く恐れがある。また、過度の湿潤強度を持たせることは、使用後の水転写紙用原紙8の再利用を妨げる原因となり、省資源や過剰な湿潤紙力増強剤含有による薬品コストアップに繋がるため、湿潤引張り強度は高くとも1.5kN/m以下に調整する事が好ましい。
【0038】
そして、濡れ向上剤がポリオキシポリアルキレン脂肪酸エステルで、湿潤紙力剤がポリアミドエピクロルヒドリン樹脂であると、特に好適である。
ポリオキシポリアルキレン脂肪酸エステルは、優れた特性を有するエステル型の非イオン界面活性剤として知られており、各種工業分野で乳化剤、分散剤、油相成分調整剤、浸透剤、洗浄剤組成物、古紙再生脱墨剤などとして多方面で利用され、広いpH領域で使用可能で、かつ泡切れが良好であるという特徴を有するので、本発明の使用態様で特徴のある水に浸漬した場合においても不要な泡の発生を防止することができ、また、吸水した水分を保持するための親水性澱粉、デキストリン、メチルセルロース(MC)などの再湿潤糊、印刷層などに由来するpHの変動が生じても安定した濡れ性を発揮する。
【0039】
ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂は、抄紙後の加熱乾燥工程での硬化反応による湿潤紙力増強効果を醸し出す性質を有し、特に本形態で用いるヤンキードライヤーでの加熱乾燥において、本形態の特徴である重量平均繊維長が0.5mm〜1.0mmで、繊維長1.5mm以下の繊維を90%以上含有するパルプからなる紙層のヤンキードライヤー接触面を、あたかもスプレー糊を噴霧してアイロン掛けするがごとく、透気性を阻害することなく平坦化処理すると共に堅固な湿潤紙力増強層を設けるが如く処理可能であり、地合いを改善しながら、水分の迅速な通過をも改善し、顔料塗工層の厚みムラを抑え、更に厚みムラによるアンダーコート層の吸収ムラを無くし、平坦なアンダーコート層を設け高精彩な印刷絵柄が得るにおいて、有用な効果を醸し出す。
【0040】
以下、順に説明する。
【0041】
〔基紙〕
(坪量)
基紙1の坪量は、80〜170g/m2であるのが好ましく、100〜160g/m2であるのがより好ましい。基紙1の坪量が80g/m2未満であると、基紙1の一方の面(片面)に顔料塗工層2、アンダーコート層3、トップコート層4、印刷層5及びオーバーコート層6を順に設けるため、これらの層2…と基紙1との間で伸縮差が生じ、カールが発生する場合があり、水転写に悪影響を及ぼすおそれがある。他方、基紙1の坪量が170g/m2を超えると、基紙1が厚くなり吸水に時間がかかる問題や、基紙1の平滑性が低下して顔料塗工層2を設けた際の厚みムラが大きくなってしまう問題が生じる。
【0042】
(原料パルプ)
原料パルプは、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)や、サーモメカニカルパルプ(TMP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)等の機械パルプ、デインキングパルプ(DIP)、ウェストパルプ(WP)等の化学パルプや機械パルプ由来の古紙パルプ等を含むことができる。好適には、広葉樹クラフトパルプを用いる事が地合いを改善しながら、水分の迅速な通過をも改善する効果が大きく好ましい。更には、広葉樹クラフトパルプを殆ど叩解処理(毛羽立たせ処理)せずに用いることで、針葉樹クラフトパルプで比べ、繊維長が短く、地合いが良好となる点で好ましい。
【0043】
ただし、良好な地合を形成するため、繊維長1.5mm以下の繊維を90%以上、好ましくは93〜98%含有すると好適である。当該条件を満たせば、基紙層が均一となり、また、表面平滑性が優れる。加えて、重量平均繊維長が0.5mm〜1.0mm、好ましくは0.6〜0.9mmであると好適である。重量平均繊維長が1.0mmを超えると、パルプ繊維の結束が生じ、地合が悪くなる。他方、重量平均繊維長が0.5mm未満であると、地合は良好となるが、緊度が上がりすぎ、吸水性が低下してしまう。
【0044】
本形態における良好な地合を形成するための、繊維長1.5mm以下の繊維を90%以上、好ましくは93〜98%、重量平均繊維長が0.5mm〜1.0mm、好ましくは0.6〜0.9mmのパルプ繊維の含有は、本形態に基づき得られた水転写紙用原紙8を、JIS P 8220に準拠して離解した離解パルプの測定値であり、抄紙前の原料パルプでの測定値と異なり、微細繊維や内添填料等が少なからずと抄紙段階で紙層から除去された値である。当該離解パルプは、原料調整段階での叩解や原料パルプの配合、物理的分級処理により調整可能である。
【0045】
また分級処理は通常紙、パルプ工場で行われている洗浄工程を使用すれば良く、大量の水で希釈した後、公知のSPフィルター、ウオッシャー、シックナー、エキストラクター、フィルタープレス等で脱水濃縮する。叩解や分級処理により、微細繊維と細片化された填料、顔料が相当量除去され、この原料パルプを基に水転写紙用原紙8を抄紙することで強度が向上する。
【0046】
(乾燥方式)
基紙1の乾燥方式は、ヤンキードライヤーに圧着して乾燥させるヤンキー式抄紙が好ましい。ヤンキードライヤーで乾燥された基紙1は、表面平滑性に優れるため、より平滑な顔料塗工層2を設けることが出来る。また、湿紙がヤンキードライヤーに貼り付いた状態で乾燥処理されるため寸法安定性に優れており、カールを抑えることができ、乾燥時の収縮が少ないため印刷時の見当ズレも発生しにくくなる。
【0047】
(薬品)
本形態において、基紙1には、濡れ向上剤を内添(含有)させることが好ましい。濡れ向上剤はパルプ繊維に定着して親水性を向上させるため、基紙1に濡れ向上剤が内添されていると、パルプ繊維の水中での分散性が向上し、良好な地合形成を行なうことが出来る。また、吸水性が改善されるため、水転写紙用途としてより好ましい。
【0048】
この際、基紙1の顔料塗工層2とは反対側(バックコート層7が設けられている場合は、バックコート層7表面)の吸水度は、JIS P 8140に規定する接触時間30秒のコッブサイズ度が200g/m2以上、好ましくは210〜250g/m2であると、好適である。顔料塗工層2とは反対側のJIS P 8140に規定する接触時間30秒のコッブサイズ度が200g/m2未満であると、顔料塗工層2への水の供給が少なくなり、結果として顔料塗工層2からアンダーコート層3やトップコート層4への水の供給も少なくなり、トップコート層4での溶解ムラが生じる。
【0049】
以上、重量平均繊維長が0.5mm〜1.0mmで、繊維長1.5mm以下の繊維を90%以上含有するパルプからなる紙層を形成すること、ヤンキードライヤーにて片面が艶面になるように乾燥処理することで、前記コッブサイズ度の調整が容易になる。
【0050】
濡れ向上剤としては、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルのほか、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等を例示することができる。しかしながら、その中でも特に、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステルは、パルプ繊維への定着が良好であるため、繊維の親水性向上の効果が高くなり、好ましい。また、濡れ向上剤としてポリオキシアルキレン脂肪酸エステルとポリアミドエピクロルヒドリン樹脂の組み合わせは、不要な反応や、沈殿物を生じることなく、お互いの効果を十分に発揮できるため、この組み合わせがより好適であり、ひいては本発明の課題である高精彩な絵柄印刷を行うための地合ムラ改善に好適である。
【0051】
また、ポリオキシポリアルキレン脂肪酸エステルは、優れた特性を有するエステル型の非イオン界面活性剤として知られており、各種工業分野で乳化剤、分散剤、油相成分調整剤、浸透剤、洗浄剤組成物、古紙再生脱墨剤などとして多方面で利用され、広いpH領域で使用可能で、かつ泡切れが良好であるという特徴を有するので、本形態の使用態様で特徴のある水に浸漬した場合においても不要な泡の発生や、吸水した水分を保持するための親水性澱粉、デキストリン、メチルセルロース(MC)などの再湿潤糊、印刷層などに由来するpHの変動が生じても安定した濡れ性を発揮する。
【0052】
一方、湿潤紙力剤としては、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂のほか、例えば、メラミンホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等を例示することができる。しかしながら、その中でも特に、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂は、湿潤強度を得やすいため好ましい。更に、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂は、抄紙後の加熱乾燥工程での硬化反応による湿潤紙力増強効果を醸し出す性質を有し、特に本形態で用いるヤンキードライヤーでの加熱乾燥において、重量平均繊維長が0.5mm〜1.0mmで、繊維長1.5mm以下の繊維を90%以上含有するパルプからなる紙層のヤンキードライヤー接触面を、あたかもスプレー糊を噴霧してアイロン掛けするがごとく、透気性を阻害することなく平坦化処理すると共に堅固な湿潤紙力増強層を設けるが如く処理可能であり、地合いを改善しながら、水分の迅速な通過をも改善し、顔料塗工層の厚みムラを抑え、更に厚みムラによるアンダーコート層3の吸収ムラを無くし、平坦なアンダーコート層3を設け高精彩な印刷絵柄が得るにおいて、有用な効果を醸し出す。
【0053】
本形態の基紙1には、上記のコッブ吸水度(サイズ度)、地合指数に影響を与えない範囲内で、必要に応じて乾燥紙力剤、ピッチ除去剤、歩留まり向上剤、染料、顔料等を併用することが出来る。
【0054】
(地合指数)
本形態の基紙1は、地合指数が50〜80、好ましくは60〜75とされている。地合指数が50未満であると、地合いムラに起因する顔料塗工層2の厚みムラが大きくなり、アンダー塗工層3の吸収ムラが発生しアンダーコート層3に微細な凹凸が発生してしまう。他方、地合指数が80を超えると顔料塗工層2の厚みムラは無くなるが、水分の通過が阻害され、印刷層5及びオーバーコート層6からなる転写層9の剥離速度が低下し、転写作業が遅くなり作業効率の低下を招く。また、水転写における上記繊維長の範囲での達成は困難であり、より短いパルプ繊維長のパルプを使用する必要がある。その場合、水に浸漬した際の吸水性が低下してしまい、トップコート層4の溶解に時間を必要とすると共に、溶解のムラを生じ印刷像の毀損や転写ムラを生じる原因になる。
【0055】
本形態において、基紙1の地合指数を調節する方法は特に限定されず、例えば、パルプフリーネス、繊維配向性などを調節することによって、調節することができる。
【0056】
〔顔料塗工層〕
基紙1の一方の面に形成される顔料塗工層2は、顔料及びバインダーを主成分とする塗料を塗工して形成することができる。顔料塗工層2は、基紙1の表面に露出しているパルプによる凹凸を被覆し、表面を平滑にし、その上に設けられるアンダーコート層3及びトップコート層4の平滑性を向上させ、印刷層5の印刷適性等の特性を向上させる。
【0057】
この顔料塗工層2を形成する塗料中の顔料としては、クレー、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、シリカ、二酸化チタン、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、マイカ等の無機顔料等を挙げることができる。なお、顔料は、これらに限定されるものではない。
【0058】
ただし、顔料としては、クレー及び軽質炭酸カルシウムを用いるのが好ましい。特に、全顔料中のクレーを30重量%〜70重量%とするのが好ましく、40重量%〜60重量%とするのがより好ましい。クレーは、平板状の結晶構造を有しているため、顔料中のクレーの含有量が30重量%未満では、平板状の結晶構造による特性を得られ難く、優れた平滑性やアンダーコート層3の目止め性が得られず、他方、70重量%を超えると平滑性が向上する一方、空隙が減少し密になり過ぎて、水に浸漬した際に吸水性が大きく低下してしまい、トップコート層4の溶解に時間を必要とすると共に、溶解のムラを生じ印刷像5の毀損や転写ムラを生じる原因になる。
【0059】
クレーと同様な平板結晶構造を有するタルクも用いることもできるが、タルクは親油性が高く、塗料中での分散性が劣るため、分散剤の選定など新たな助剤選定が必要になるなど操業性を落とす原因となり易い問題を有する。
【0060】
塗料に含有されるバインダーとしては、スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体の各種ラテックスを挙げることができる。特にSBRラテックスのうち、スチレン含有量が50重量%〜80重量%のスチレンリッチであるものは、柔らかいブタジエンによる紙面のブロッキング効果がなく、平滑性を向上させる効果があるため好ましい。
【0061】
バインダーの含有量は、顔料100重量部に対して有効成分で10重量部〜40重量部が好ましく、15重量部〜30重量部がより好ましい。バインダーの含有量が10重量部未満では、表面強度が低下し、他方、40重量部を超えると、ラテックスが塗工層の表面に移動するバインダーマイグレーションが生じ表面に皮膜を作るため、吸水性が低下してしまうおそれがある。バインダーの含有量を顔料100重量部に対して10重量部〜40重量部とすることによって、高い表面強度が得られる。
【0062】
また、塗料中には、澱粉を内添してもよい。澱粉は、ラテックスと同じように顔料塗工層2の強度を高めるとともに、塗料の保水性を向上させる効果があり、基紙1に対して塗料の供給性、塗工性を向上させることができる。澱粉としては、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エステル化澱粉等を挙げることができる。これらの中でも、塗料の保水性を向上させるという点でエステル化澱粉が好ましい。塗料中に澱粉を含有させる場合には、澱粉の含有量を顔料100重量部に対して、0.5重量部〜20重量部とするのが好ましく、1〜15重量部とするのがより好ましい。澱粉の含有量が0.5重量部未満では、塗料の保水性が得られず、20重量部を超えると、顔料塗工層2の空隙率が減少し、吸水性が低下してしまう。塗料中に澱粉を含有させる場合には、澱粉の含有量を顔料100重量部に対して、0.5重量部〜20重量部とすることによって、高い保水性が得られる。
【0063】
また、塗料中には浸透剤を使用してもよい。塗料に含有される浸透剤は、吸水性向上だけでなく、塗料の流動性を高め、基紙1の表面に塗料をブレード塗工する場合などにおいてストリークの発生を抑える効果もある。その中でも、水転写紙10を水に浸漬した際に極めて均質な水の浸透を得ることが可能になり、転写層9の転写性及び作業性も向上するため、濡れ向上性(吸水性向上)と消泡機能を持ち合わせたアセチレングリコールを主成分とした浸透剤を用いることが好ましい。アセチレングリコールを主成分とした浸透剤は、分子量が小さく、表面張力を下げる効果が高いため、顔料塗工層2の塗料中の泡だけでなく、顔料塗工層2上にアンダーコート層3が形成される際、顔料塗工層2との界面にあるデンプン等塗料の泡も消失させ、均一なアンダーコート層3を形成させる効果もある。また、通常塗料に用いられる、グリセリンと脂肪酸からなるエステル等の油脂系消泡剤は塗料自身の濡れを低下させ吸水性を悪化させるが、アセチレングリコールを主成分とした浸透剤を使用すれば、塗料の濡れを低下させることなく消泡することが可能となる。
【0064】
本形態に係る水転写紙用原紙1では、塗料に前記浸透剤を用いる場合、保水剤を適宜併用することが好ましい。保水剤は、塗料の保水性を向上させることができる。これにより、前記浸透剤を配合した顔料塗工層2では、保水性の向上により、塗工から乾燥工程までの間、バインダー及び浸透剤の基紙1への浸透が抑えられるため、浸透剤による吸水性向上効果と均一な塗工面を同時に得ることが可能となる。保水剤としては、例えば、アクリル酸アクリルアミド共重合物、アクリル系変性ポリマー等を挙げることができる。特にアクリル酸アクリルアミド共重合物は、吸水時の膨潤性が著しく高いため、バインダーおよび浸透剤の基紙1への浸透を抑える効果が高く、均一な塗工面を形成することができることから特に好ましい。
【0065】
保水剤の含有量としては、顔料100重量部に対して、0.01重量部〜0.2重量部とすることが好ましく、より好ましくは0.015〜0.15重量部、更に好ましくは0.02〜0.075重量部である。保水剤は、塗料の保水性を向上させることができる。これにより、浸透剤を配合した塗工層では、保水性の向上により、塗工から乾燥工程までの間、バインダーおよび浸透剤の基紙への浸透が抑えられるとともに、塗工層中の水の湿潤を均質化できるため、浸透剤による吸水性向上効果と均一な塗工面を同時に得ることが可能となり、印刷画像の転写性、転写効率を向上させることができる。保水剤の含有量が0.01重量部未満では、保水性が向上せず、バインダーが基紙1へ浸透してしまい、表面強度が低下する。保水剤の含有量が0.2重量部を超えてしまうと、塗料の流動性が低下し、バインダーの分散性が悪くなり、ストリークが発生したり、均一な塗工層が形成されなくなったりする。したがって、塗料中に保水剤を含有させる場合には、保水剤の含有量を0.01重量部〜0.2重量部とすることによって、均一な塗工面が得られる。
【0066】
さらに、浸透剤と保水剤の含有比率としては、保水剤の重量を1とした場合に、浸透剤の重量比率が0.3〜4の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.4〜2.7、更に好ましくは0.5〜2.0の範囲である。保水剤の含有量に対する浸透剤の重量比率が0.3未満であると、基紙1側へのバインダーと浸透剤の移動は抑えられるが、膨潤した保水剤が浸透剤を取り込んで浸透剤の機能が働かない場合があるため、塗工層の吸水性が向上せず、吸水ムラが発生しやすい。また、保水剤の含有量に対する浸透剤の重量比率が4超えると、塗料中の浸透剤の一部が保水剤と反応せずに存在するようになり、バインダーや浸透剤の一部が基紙側へ移動してしまい、塗工層の表面強度が大きく低下するとともに、浸透剤の含有量に見合った吸水性向上効果が得られない。
【0067】
このような構成からなる水転写紙用原紙8は、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーター等の塗工方式で塗料を塗工することができる。塗工量は5g/m2〜25g/m2とするのが好ましく、8g/m2〜20g/m2とするのがより好ましく、これにより基紙1に均一に塗工することができる。乾燥後、塗工面がより平滑となるようにソフトカレンダー、スーパーカレンダー等により適宜カレンダー処理をしてもよい。
【0068】
以上のような構成の水転写紙用原紙8は、基紙1の地合ムラを改善するなどで、顔料塗工層2の厚みムラによるアンダーコート層3の吸収ムラを無くし、平坦なアンダーコート層3を設け高精彩な印刷絵柄が得ることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明に係る実施例を、比較例を参照しつつ詳説する。
表1に示す条件で製造された水転写紙用原紙について、印刷適性及びスライド性に関する試験を行った。結果を、表1に記載した。なお、条件及び評価方法の詳細は、次に示すとおりである。
【0070】
〔フリーネス〕
得られた水転写用原紙を、JIS P 8220に準拠して離解し、得られた離解パルプを基にJIS P8121に準拠して測定した。
【0071】
〔重量平均繊維長〕
得られた水転写用原紙を、JIS P 8220に準拠して離解し、得られた離解パルプを基にカヤニ繊維長測定機(FS−100)を用いて測定した。
【0072】
〔繊維長分布〕
得られた水転写用原紙を、JIS P 8220に準拠して離解し、得られた離解パルプを基にカヤニ繊維長測定機(FS−100)を用いて測定した。
【0073】
〔米坪(坪量)〕
JIS P 8124に準拠して測定した。
【0074】
〔湿潤紙力増強剤〕
表中「A」は、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂を意味する。
表中「B」は、メラミンホルムアルデヒド樹脂を意味する。
【0075】
〔濡れ向上剤〕
表中「C」は、ポリオキシポリアルキレン脂肪酸エステルを意味する。
表中「D」は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを意味する。
【0076】
〔地合い指数〕
M/KSystems,Inc.(MKS社)製の3Dシートアナライザー(M/K950)を使い測定した。
地合指数とは、M/K Systems,Inc.(MKS社)製の3Dシートアナライザ(M/K950)を使い、そのアナライザーの絞りを直径1.5mmとし、マイクロフォーメーションテスタ(MFT)を用いて測定したものである。
すなわち、3Dシートアナライザーにおける回転するドラム上にサンプルを取り付け、ドラム軸に取り付けられた光源と、ドラムの外側に光源と対応して取り付けられたフォトディテクターによって、サンプルにおける局部的な坪量差を光量差として測定する。この時の測定対象範囲は、フォトディテクターの入光部に取り付けられる絞りの径で設定される。次にその光量差(偏差)を増幅し、A/D変換し、64の光測定的な坪量階級に分級し、1回のスキャンで1000000個のデータを取り、そのデータ分のヒストグラム度数を得る。そしてそのヒストグラムの最高度数(ピーク値)を64の微小坪量に相当する階級に分級されたもののうち100以上の度数を持つ階級の数で割り、それを1/100にした値が地合い指数として算出される。この地合い指数はその値が大きいほど地合いがよいことを示す。
【0077】
〔吸水度〕
JIS P 8140に準拠して測定した。
【0078】
〔湿潤引張強度〕
JIS P 8135に準拠して縦(抄紙の流れ方向)方向を測定した。
【0079】
〔浸透剤〕
表中「E」は、アセチレングリコールを意味する。
表中「F」は、ポリエーテルを意味する。
【0080】
〔保水剤〕
表中「G」は、アクリル酸アクリルアミドを意味する。
表中「H」は、ポリアクリルアミドを意味する。
【0081】
〔塗工層側の密度〕
塗工層密度は下記式により算出した。
塗工層密度(g/cm3)=a/b
但し、a=塗工紙の米坪(g/m2)−原紙の米坪(g/m2)、b=塗工紙の紙厚(μm)−原紙の紙厚(μm)
【0082】
〔塗工層側の平坦性〕
顔料塗工層表面側のプリントサーフラフネスをISO−8791/4(1992年)に従って測定した。測定機は、Messmer社製のPARKER PRINT−SURF Roughness Tester MODEL No.Me−90を用い、ソフトバッキング、クランプ圧1.96MPaの条件で測定した。
【0083】
〔印刷適性〕
水転写紙用原紙の顔料塗工層上にデンプンからなるアンダーコート層、CMCからなるトップコート層を設けた後、フレキソ印刷による印刷を施し、インキの載り具合を目視で観察し、下記基準で評価した。
【0084】
(評価基準)
5:白抜けがない。
4:白抜けが少ない。
3:白抜けがやや目立つ。
2:白抜けが多く目立つ。
1:白抜けがかなり多く目立つ。
評価3〜5であれば、水転写紙用原紙として合格レベルとする。
【0085】
〔スライド性〕
水転写紙用原紙の顔料塗工層上にデンプンからなるアンダーコート層、CMCからなるトップコート層、フレキソ印刷による印刷層及びアクリル樹脂からなるオーバーコート層を所定の厚みで順次設け、水に浸漬させてから所定時間までの、印刷層及びオーバーコート層が一体となった転写層のスライド性を目視で観察し、下記基準で評価した。
【0086】
(評価基準)
5:トップコート層が完全に溶解・スライドする。
4:トップコート層が完全に溶解するが、スライドに時間がかかる。
3:印刷層にトップコート層の一部が付着してスライドする。
2:印刷層にトップコート層の多くが付着してスライドする。
1:トップコート層の溶解が進まずスライドしない。
評価3〜5であれば、水転写紙用原紙として合格レベルとする。
【0087】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、陶器などの絵付けに用いる水転写紙用原紙として適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】水転写紙の断面模式図である。
【符号の説明】
【0090】
1…基紙、2…顔料塗工層、3…アンダーコート層、4…トップコート層、5…印刷(絵柄)層、6…オーバーコート層、7…バックコート層、8…水転写紙用原紙、9…転写層、10…水転写紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙と、この基紙の一方の面に設けられた顔料及び接着剤を主成分とする顔料塗工層とを有し、
この顔料塗工層上に、親水性澱粉を含むアンダーコート層、再湿糊を含むトップコート層、印刷層及びオーバーコート層がこの順に設けられる水転写紙用原紙であって、
前記基紙は、坪量が80〜170g/m2で、かつヤンキードライヤーで乾燥されており、
前記基紙を構成する原料パルプとして、前記水転写紙用原紙を、JIS P 8220に準拠して離解した離解パルプの重量平均繊維長が0.5mm〜1.0mmで、繊維長1.5mm以下の繊維を90%以上含有するパルプが用いられて、当該基紙の地合指数が50〜80とされている、
ことを特徴とする水転写紙用原紙。
【請求項2】
前記基紙に濡れ向上剤が内添され、
前記顔料塗工層とは反対側のJIS P 8140に規定する接触時間30秒のコッブサイズ度が200g/m2以上とされている、
請求項1記載の水転写紙用原紙。
【請求項3】
前記基紙は、湿潤紙力剤が内添され、かつ湿潤引張り強度が0.3kN/m以上とされている、
請求項1又は請求項2記載の水転写紙用原紙。
【請求項4】
前記濡れ向上剤が、ポリオキシポリアルキレン脂肪酸エステルで、
前記湿潤紙力剤が、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂である、
請求項3記載の水転写紙用原紙。

【図1】
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【公開番号】特開2010−635(P2010−635A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159663(P2008−159663)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】