説明

水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子及びその製造方法

【課題】分散性の向上したニッケル粒子を提供すること。
【解決手段】本発明の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子20は、外力によって除去可能な程度の結合力で結合した水酸化ニッケルで表面が被覆されてなる。一次粒子の平均粒径は5〜500nmである。この粒子20は、水酸化ニッケルの粒子10をポリオール類中に懸濁させた状態で加熱してニッケルに還元する際に、水酸化ニッケル粒子10を完全に還元させず、還元の途中で反応を終了させて、水酸化ニッケル粒子10内に多数の微小ニッケル粒子12を生成させ、次いで水酸化ニッケル粒子10を解砕して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が水酸化ニッケルで被覆されたニッケル粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル粒子の表面を水酸化ニッケルで覆うことで、ニッケル粒子の分散性を高める技術が知られている。例えば特許文献1には、ニッケル粉末を水素気流中で加熱し、ニッケル粒子表面の酸化物又は水酸化物を還元した後、ニッケル粉末を水中に浸漬し、空気をバブリングすることにより、ニッケル粉末の表面に酸化ニッケル又は水酸化ニッケルを生成させることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、Ni(OH)2及びNiOを含有するとともに、表面の成分組成が、モル%でNi:5〜20%、Ni(OH)2:25〜75%、NiO:15〜65%であるニッケル粉末が記載されている。このニッケル粉末は、液相還元法を用い、ニッケル塩水溶液を還元剤水溶液中に滴下してニッケルイオンを還元することで得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−129103号公報
【特許文献2】特開2004−330247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の各特許文献に記載のニッケル粉末は、その表面がニッケルの酸化物や水酸化物で被覆された状態で用いられるので、該ニッケル粉末から形成される電極膜は、抵抗値が高くなり、また金属ニッケル粉末の焼成温度域では焼成が起こりにくいという不都合がある。
【0006】
したがって本発明は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、外力によって除去可能な程度の結合力で結合した水酸化ニッケルで表面が被覆されてなり、一次粒子の平均粒径が5〜500nmであることを特徴とする水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子を提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の好適な製造方法として、水酸化ニッケルの粒子をポリオール類中に懸濁させた状態で加熱してニッケルに還元する際に、該水酸化ニッケル粒子を完全に還元させず、還元の途中で反応を終了させて、該水酸化ニッケル粒子内に多数の微小ニッケル粒子を生成させ、次いで、該水酸化ニッケル粒子を解砕して、表面に水酸化ニッケルの薄層を有する多数のニッケル粒子を得ることを特徴とする水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保存中においては、ニッケルの表面を被覆する水酸化ニッケルが保護剤的に作用し、凝集を防止して粒子の分散性が向上する。そして、使用の際に水酸化ニッケルを除去することで、金属ニッケルを容易に露出させることができるので、それから形成される電極膜の抵抗上昇を抑えることができる。また水酸化ニッケルを除去せずに還元焼成する場合には、水酸化ニッケルが焼結助剤的に作用し、低温焼結性が良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)は、水酸化ニッケルの粒子内にニッケルコア粒子が多数生成した状態を示す模式図であり、図1(b)は、図1(a)に示す状態の水酸化ニッケル粒子から得られた水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子を示す模式図であり、図1(c)は図1(b)に示す状態の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子から水酸化ニッケルの薄層を除去した状態を示す模式図である。
【図2】図2は、実施例1で得られた、ニッケルコア粒子が多数生成した水酸化ニッケルの粒子を示す電子顕微鏡像(図1(a)相当図)である。
【図3】図3は、図2に示す状態の水酸化ニッケル粒子を解砕して得られた水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子を示す透過型電子顕微鏡像(図1(b)相当図)である。
【図4】図4(a)は、図3に示す状態の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子から水酸化ニッケルを除去して得られたニッケル微粒子を示す電子顕微鏡像であり、図4(b)は、図4(a)における丸で囲った部分を拡大して示す電子顕微鏡像である。
【図5】図5(a)は、比較例1で得られたニッケル微粒子を示す電子顕微鏡像であり、図5(b)は、図5(a)における丸で囲った部分を拡大して示す電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子は、金属ニッケルからなるコア粒子の表面が、水酸化ニッケルの薄層で被覆されてなるものである。水酸化ニッケルの薄層は、ニッケルコア粒子の表面全域を完全に被覆していてもよく、あるいはニッケルコア粒子の表面が一部露出するように部分的に被覆していてもよい。
【0012】
水酸化ニッケルの薄層は、水酸化物、その水和物又はそれら両者から構成されている。ニッケルコア粒子の表面に、水酸化ニッケルの薄層が存在することで、この薄層が保護剤的な作用をして、粒子どうしの凝集が効果的に防止される。この有利な効果は、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の粒径を極めて小さくした場合に、例えば一次粒子の平均粒径を好ましくは5〜500nm、更に好ましくは5〜300nmとした場合に特に顕著となる。また、水酸化ニッケルの薄層は、例えば水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子を還元焼成して電極膜を形成する場合に、焼結助剤的に作用するので、低温焼結性が良好になるという利点もある。水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の一次粒子の平均粒径は、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子をTEM観察することによって測定することができる。
【0013】
水酸化ニッケルの薄層は、上述の利点が十分に発現されるのに足る厚みを有していることが好ましい。具体的には、ニッケルコア粒子の粒径にもよるが、水酸化ニッケルの薄層は、その厚みが1〜50nm、特に1〜10nmであることが好ましい。水酸化ニッケルの薄層の厚みは、例えば水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)観察によって測定することができる。
【0014】
水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子は、水酸化ニッケルの薄層が、外力によってニッケルコア粒子の表面から除去可能な程度の低い結合力でニッケルコア粒子の表面を被覆している点に特徴の一つを有している。これに対して、先に述べた特許文献1及び2に記載のニッケル粉末においては、その製造方法に起因して、水酸化ニッケルや酸化ニッケルが金属ニッケルの表面に化学的に強固に結合しているので、外力によって金属ニッケルの表面から除去することは容易でない。前記の外力とは、例えばビーズミルやボールミル等のメディアミルを用いて凝集粒子を解砕したり粉砕したりするときに加えられる機械的な力をいう。
【0015】
水酸化ニッケルの薄層が低い結合力でニッケルコア粒子の表面を被覆していることには次の利点がある。すなわち、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の保存中においては、水酸化ニッケルの薄層の作用によって、上述のとおり水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の凝集が抑制され、高分散性が維持される。したがって、高分子分散剤等を別途用いた表面改質処理を行う必要がなく経済的である。
【0016】
別の利点として次のことが挙げられる。すなわち、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子を使用する場合には、それに先立ち、ビーズミルやボールミル等のメディアミルを用いて水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子に外力を加えることで、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子を容易に除去することができ、ニッケルコア粒子の金属ニッケル表面を露出させることができる。このようにして得られるニッケルコア粒子からなるインクやペーストを用いて例えば電極膜を形成すると、高分散性に起因して膜が均一になるとともに、金属ニッケルどうしの接触が確実に確保され、電極膜の電気抵抗の増大を抑制することが可能となる。また、還元雰囲気下での焼成によって電極膜を形成する場合の焼結温度の上昇を抑制することも可能となる。尤も、先に述べたとおり、水酸化ニッケルの薄層は、それ自体が焼結助剤的に作用するので、これを除去せず水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子のままで還元焼成して電極膜を形成しても、焼結温度の上昇や、電気抵抗の増大を抑制することができる。
【0017】
水酸化ニッケルの薄層の結合力の一例として、φ0.1mmジルコニアビーズを用い、20重量%のスラリーに対し4.2重量倍のジルコニアビーズを入れ、15分間処理する条件を採用することで、水酸化ニッケルの薄層が実質的にすべて除去される場合には、水酸化ニッケルの薄層がニッケルコア粒子の表面を低い結合力で被覆していると言える。
【0018】
水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子から水酸化ニッケルの薄層が除去された後のニッケルコア粒子の粒径は、水酸化ニッケルの薄層が非常に薄いことから、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の粒径と大差はない。つまりニッケルコア粒子の粒径は、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の粒径よりも小さいことを条件として、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の粒径に関して上述した範囲とほぼ同様の範囲である。
【0019】
水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の形状も本発明において特に臨界的ではなく、その製造方法に応じて種々の形状をとり得る。水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の形状は一般に略球状である。上述のとおり、水酸化ニッケルの薄層は非常に薄いので、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の形状は、そのコアであるニッケルコア粒子の形状が反映される。したがって、ニッケルコア粒子の形状も一般に略球状である。
【0020】
水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子は、粒子どうしの凝集を防止する観点から、水に分散させたスラリーの状態で保存することが好ましい。スラリー中の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の濃度は1〜80重量%程度とすることが、取り扱い性や凝集防止の観点から好ましい。このスラリー状態の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子は、凝集が起こりづらくなっているが、必要に応じ分散剤等をスラリーに添加して凝集を一層抑制するようにしてもよい。
【0021】
次に、本発明の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、(イ)水酸化ニッケル粒子を準備する工程、及び(ロ)準備された水酸化ニッケル粒子の還元工程に大別される。以下、それぞれの工程について説明する。
【0022】
(イ)の水酸化ニッケル粒子を準備する工程においては、ニッケル源を用いて調製された水酸化ニッケル粒子を用いてもよく、あるいは市販の水酸化ニッケル粒子をそのまま用いてもよい。いずれの場合においても、水酸化ニッケル粒子の粒径は1〜30μm、特に1〜20μmであることが、均一でかつ微粒の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子を得る観点から好ましい。
【0023】
ニッケル源を用いて水酸化ニッケルを調製する場合には、例えば次の方法を採用することができる。ニッケル源としては、ニッケルの水溶性化合物、例えば酢酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、硝酸ニッケル等を用いる。これらの化合物を水に溶解して水溶液を調製する。
【0024】
水溶液中のニッケルイオンの濃度に特に制限はなく、前記の水溶性ニッケル化合物の溶解度がニッケルイオンの濃度の上限となる。この水溶液には、必要に応じて水酸化ニッケルの分散性を向上させるためにポリビニルピロリドンやポリビニルアルコール等の分散剤を添加しておいてもよい。このようにして調製された水溶液を水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の強アルカリを添加して水酸化ニッケルを生成させる。低温(例えば0℃超60℃以下)で水酸化ニッケルを生成させると、均一な水酸化ニッケルが生成する傾向にある。一方、高温(例えば60℃超100℃以下)で水酸化ニッケルを生成させると、結晶性が高い水酸化ニッケルが生成する傾向にある。
【0025】
(ロ)の水酸化ニッケル粒子の還元工程においては、このようにして生成した水酸化ニッケル又は市販の水酸化ニッケルをポリオール類に分散させてスラリーとなし、このスラリーを用い、当該技術分野においてよく知られている還元法であるポリオール法を用いて水酸化ニッケルの還元を行う。スラリー中の水酸化ニッケルの濃度は10〜200g/l、特に20〜100g/lとすることが、水酸化ニッケルの還元を首尾良く行い得る点から好ましい。
【0026】
ポリオール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール1,5−ペンタンジオール及びポリエチレングリコール等を用いることができる。これらのポリオール類は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのポリオール類のうちエチレングリコールは、沸点が低く、常温で液状であり取り扱い性に優れるので好ましい。ポリオール類は、ニッケル塩に対する還元剤として作用するとともに、溶媒としても機能するものである。
【0027】
ポリオール類の使用量は、これを還元剤という観点で考えれば、反応液中のニッケル量に応じて適宜調整されればよいので、特段の限定を設ける必要性はない。一方、溶媒として機能させようとする場合には、反応液中のポリオール類の濃度に応じて反応液の性状が変化するので、ある一定の適正な濃度範囲が存在する。この観点から反応液中のポリオール類の濃度は50〜99.8重量%の範囲に設定することが好ましい。
【0028】
水酸化ニッケルのスラリーには分散剤を含有させておくことが好ましい。分散剤としては、例えば水溶性高分子を用いることができる。水溶性高分子化合物の例としては、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)等の含窒素有機化合物及びポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの分散剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、特にポリビニルピロリドンは分散剤としての効果が顕著であり、還元で生じたニッケルコア粒子の粒度分布をシャープにできるので好ましい。これらの高分子の分子量は、その水溶性の程度や分散能に応じて適切に調整すればよい。水酸化ニッケルのスラリー中における分散剤の量は、ニッケル100重量部に対して分散剤が0.01〜30重量部となる量であることが好ましい。この範囲に設定することで、水酸化ニッケルのスラリーの粘度を過度に高くすることなく、分散効果を十分に発現させることができる。
【0029】
水酸化ニッケルのスラリーには、貴金属触媒を含有させることもできる。これによって、還元の初期段階において貴金属の微細な核粒子が生成し、その核粒子を起点としてニッケルが円滑に還元するようになる。貴金属触媒としては、例えば貴金属の水溶性塩等の貴金属化合物を用いることができる。貴金属の水溶性塩の例としては、パラジウム、銀、白金、金等の水溶性塩が挙げられる。貴金属としてパラジウムを用いる場合には、例えば塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アンモニウムパラジウム等を用いることができる。銀を用いる場合には、例えば硝酸銀、乳酸銀、酸化銀、硫酸銀、シクロヘキサン酸銀、酢酸銀等を用いることができる。白金を用いる場合には、例えば塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、塩化白金酸ナトリウム等を用いることができる。金を用いる場合には、例えば塩化金酸、塩化金酸ナトリウム等を用いることができる。これらのうち、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸銀及び酢酸銀は、安価で経済性が良いので好ましく用いられる。貴金属触媒は、前記の化合物の形態で又は該化合物を水に溶解させた水溶液の形態で添加して用いることができる。水酸化ニッケルのスラリーに含有させる貴金属触媒の量は、ニッケル100重量部に対して貴金属が0.1〜5重量部、特に0.5〜1重量部となる量であることが好ましい。
【0030】
水酸化ニッケルのスラリーには、アミノ酸類を含有させてもよい。アミノ酸を含有させることで、生成するニッケルコア粒子を一層微粒のものとすることができる。アミノ酸類としては、例えばアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、ヒスチジン、アルギニン、ロイシン、イソロイシン、リシン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、ベリン等を用いることができる。これらのアミノ酸類は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。水酸化ニッケルのスラリー中におけるアミノ酸類の量は、ニッケル100重量部に対してアミノ酸類が1〜50重量部、特に20〜40重量部となる量であることが好ましい。アミノ酸は、D体及びL体のいずれでもよい。
【0031】
水酸化ニッケルのスラリーには、アミン系有機化合物を含有させることもできる。アミン系有機化合物は還元反応制御剤として作用し、還元速度を高める効果に加えて、反応初期に生成する貴金属超微粒子の分散効果を有しており、還元析出するニッケルコア粒子の微細化と粒径の均一化に寄与する。アミン系有機化合物としては、主鎖又は側鎖にアミノ基又はイミノ基をもつ水溶性高分子が好適に用いられる。そのような水溶性高分子としては例えば、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。これらのうち、ポリエチレンイミンやポリアリルアミンが好ましい。水酸化ニッケルのスラリー中におけるアミン系有機化合物の量は20g/l以下であることが好ましい。
【0032】
以上の各成分を含むスラリーを撹拌しながら加熱して、水酸化ニッケルの還元を行う。加熱温度は、水酸化ニッケルの還元の程度に応じ適切に設定することができる。使用するポリオール類の種類にもよるが、大気圧下において一般に150〜210℃で加熱することによって、水酸化ニッケルの還元を首尾良く行うことができる。
【0033】
本製造方法は、水酸化ニッケルの還元を完全に行わず、還元の途中で反応を終了させる点に特徴の一つを有する。水酸化ニッケルは層構造を有しているので、水酸化ニッケルをその粒子の状態で還元すると、ポリオール類が水酸化ニッケルの層構造間に浸入し、粒子全体で還元が生じる。つまり、水酸化ニッケルの粒子の表面から中心に向けて還元が起こるのではなく、粒子中に多数のニッケル核が生成し、その核を起点としてニッケルコア粒子が生成する。そして、目的とする粒径を有するニッケルコア粒子が多数生成した時点で還元反応を終了させることが、本製造方法においては重要である。加熱時間は、一般的には加熱温度が先に述べた範囲内であることを条件として1〜20時間、特に3〜16時間であることが好ましい。還元反応を途中で終了させた状態を図1(a)に模式的に示す。同図に示すように、一つの水酸化ニッケル粒子10においては、未還元の水酸化ニッケルのマトリクス11中に、多数のニッケルコア粒子12が分散している。
【0034】
図1(a)に示す状態の水酸化ニッケルの粒子が得られたら、スラリーを室温まで冷却し、次いで粒子をスラリーから固液分離する。ニッケルコア粒子12は、水酸化ニッケルのマトリクス11と強固に結合していないので、洗浄操作及び固液分離の繰り返し操作を行っている間に加わる外力によって、水酸化ニッケル粒子が解砕し、図1(a)に示す水酸化ニッケルのマトリクス11からニッケルコア粒子12が分離する。その結果、図1(b)に示すように、ニッケルコア粒子21の表面が水酸化ニッケルの薄層22で被覆された水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子20が得られる。なお、図1(b)においては、ニッケルコア粒子22の全域が、水酸化ニッケルの薄層22で均一に被覆されている状態が示されているが、この状態は本発明の理解のために実際の状態を簡略化して示すものであり、実際にはニッケルコア粒子22の一部が露出している粒子も存在し、あるいはニッケルコア粒子22の全域が薄層22で被覆されているとしても、その厚みが均一でない粒子も存在する。このようにして得られた水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子20は、水酸化ニッケルの薄層21の作用によって粒子20どうしの凝集が防止され、水等の媒体中において高分散状態となっている。
【0035】
以上の製造方法は、還元の反応時間を制御するだけの簡単な操作で、微粒でかつ分散性の高い水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子20を得ることができるという利点を有するものである。しかも以上の製造方法は、従来の方法で行われていた多数の後処理工程や、雰囲気の制御による表面改質の必要もない。
【0036】
このようにして得られた水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子は、例えばインクやペーストの状態で用いられる。この場合、インクやペーストを調製するまでの保存状態においては、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子は水等の媒体中において、上述のとおり高い分散状態が維持されているので、図1(c)に示すように、インクやペーストを調製する直前に水酸化ニッケルの薄層21を除去して、ニッケル粒子30となし、このニッケル粒子を原料として用いることで、高い分散性が維持されたニッケルインクやニッケルペーストを得ることができる。上述のとおり、水酸化ニッケルの薄層21は、外力によってニッケルコア粒子22の表面から除去可能な程度の低い結合力でニッケルコア粒子22の表面を被覆しているので、水酸化ニッケルの薄層21の除去は容易である。かかるニッケルインクやニッケルペーストを用いて例えば還元焼成によって電極膜を形成すると、該電極膜は均一でかつ抵抗の低いものとなる。
【0037】
また、水酸化ニッケルの薄層を除去せずに、水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子そのものを用いてインクやペーストを調製することもできる。かかるインクやペーストを用いて例えば還元焼成によって電極膜を形成すると、水酸化ニッケルの薄層の焼成助剤的な作用によって、低温焼結性が良好になる。
【0038】
以上の方法で製造された水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子は、積層セラミックコンデンサの内部電極の形成に特に好適に用いられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0040】
〔実施例1〕
500mlのビーカーに、445gのエチレングリコール、32.3gの水酸化ニッケル粒子(平均粒径5μm)、4.3gのポリビニルピロリドン、10gのポリエチレンイミン、4gのL−アルギニン、0.69mlの硝酸パラジウム水溶液(濃度:100g/l)を加えスラリーを調製した。このスラリーを撹拌しながら加熱し、190℃で13時間還元反応を行った。その後、加熱を停止して還元を終了させ、室温まで自然放冷した。このようにして、水酸化ニッケルの粒子内に、多数のニッケル微粒子を生成させた。この状態は図2に相当する。
【0041】
次に、スラリーを濾過し、更に水を用いたデカンテーションによって粒子を固液分離することで、水酸化ニッケル粒子を解砕させ、その中に存在している水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子を分離した。この状態は図3に相当する。この粒子のTEM観察による一次粒子平均粒径は20nmであり、水酸化ニッケルの薄層の厚みは平均2nmであった。粒子の形状は略球状であった。
【0042】
このようにして得られた水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の20%スラリーをビーズミルで処理した。具体的には20%ニッケルスラリーに対し、φ0.1mmジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製、0.1mmφ)を4.2重量倍混合させた後、30分間処理を行った。この処理によって水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子における水酸化ニッケルの薄層が除去され、表面にニッケルが露出した球状のニッケル微粒子(一次粒子の平均粒径20nm)が得られた。この状態は図4(a)及び(b)に相当する。同図から明らかなように、本実施例で得られたニッケル微粒子は、粒子が均一に並んでおり、分散状態が非常に良好であることが判る。
【0043】
〔比較例1〕
実施例1において、還元反応を22時間行い水酸化ニッケルの還元を完全に行った以外は実施例1と同様の操作を行った。このようにして得られたニッケル微粒子の状態を図5(a)及び(b)に示す。同図から明らかなように、本比較例で得られたニッケル微粒子は、粒子どうしの凝集が甚だしいものであった。
【符号の説明】
【0044】
10 水酸化ニッケル粒子
11 水酸化ニッケルのマトリクス
12 ニッケルコア粒子
20 水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子
21 ニッケルコア粒子
22 水酸化ニッケルの薄層
30 ニッケル粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力によって除去可能な程度の結合力で結合した水酸化ニッケルで表面が被覆されてなり、一次粒子の平均粒径が5〜500nmであることを特徴とする水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子。
【請求項2】
水酸化ニッケルが、メディアミルによって加えられた外力によって除去可能な程度の結合力で結合している請求項1記載の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子。
【請求項3】
請求項1記載の水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の製造方法であって、
水酸化ニッケルの粒子をポリオール類中に懸濁させた状態で加熱してニッケルに還元する際に、該水酸化ニッケル粒子を完全に還元させず、還元の途中で反応を終了させて、該水酸化ニッケル粒子内に多数の微小ニッケル粒子を生成させ、
次いで、該水酸化ニッケル粒子を解砕して、表面に水酸化ニッケルの薄層を有する多数のニッケル粒子を得ることを特徴とする水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法に従い水酸化ニッケル被覆ニッケル粒子を製造し、
次いで該水酸化ニッケル被覆ニッケル微粒子に外力を加え、水酸化ニッケルの被覆を除去することを特徴とするニッケル微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−174354(P2010−174354A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20749(P2009−20749)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】