説明

水電解システム

【課題】簡単な構成で、水素中の水分が水吸着装置を通過することを確実に阻止し、所望のドライ水素を効率的に供給することを可能にする。
【解決手段】水電解システム10は、純水供給装置12から供給される純水を電気分解することによって高圧水素を製造する水電解装置14を備える。水電解装置14の配管34cには、気液分離器18、冷却器20及び水吸着装置22が、水素の流れ方向に沿って配置される。冷却器20と水吸着装置22との間には、第1背圧弁36が配置される一方、前記水吸着装置22の下流側には、第2背圧弁42が配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源からの通電により水を電気分解し、水素と酸素とを発生させる水電解装置と、前記水電解装置から前記水素を排出する水素排出口の下流に接続され、排出された前記水素中の水を吸着する水吸着装置とを備える水電解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、アノード側電極に燃料ガス(主に水素を含有するガス、例えば、水素ガス)が供給される一方、カソード側電極に酸化剤ガス(主に酸素を含有するガス、例えば、空気)が供給されることにより、直流の電気エネルギを得ている。
【0003】
一般的に、燃料ガスである水素ガスを製造するために、水電解装置が採用されている。この水電解装置は、水を分解して水素(及び酸素)を発生させるため、固体高分子電解質膜(イオン交換膜)を用いている。固体高分子電解質膜の両面には、電極触媒層が設けられて電解質膜・電極構造体が構成されるとともに、前記電解質膜・電極構造体の両側には、給電体を配設してユニットが構成されている。すなわち、ユニットは、実質的には、上記の燃料電池と同様に構成されている。
【0004】
そこで、複数のユニットが積層された状態で、積層方向両端に電圧が付与されるとともに、アノード側給電体に水が供給される。このため、電解質膜・電極構造体のアノード側では、水が分解されて水素イオン(プロトン)が生成され、この水素イオンが固体高分子電解質膜を透過してカソード側に移動し、電子と結合して水素が製造される。一方、アノード側では、水素と共に生成された酸素が、余剰の水を伴ってユニットから排出される。
【0005】
この種の水電解システムでは、数十MPaの高圧水素を生成するため、例えば、特許文献1に開示された高圧水素の製造方法及び製造装置が知られている。高圧水素製造装置は、図7に示すように、酸素高圧容器1、差圧調整装置2、水素高圧容器3、電解セル4、水分吸着筒5、背圧弁6及び脱酸素筒7を備えている。
【0006】
酸素高圧容器1内の純水は、循環ポンプ8を介して電解セル4の陽極側に送られるとともに、電源9から前記電解セル4に通電することによって、前記純水が電気分解されている。この電気分解により電解セル4に発生した酸素は、循環ポンプ8の循環水戻り純水とともに、酸素高圧容器1に送られている。
【0007】
電解セル4の陰極に発生した水素は、透過水とともに、水素高圧容器3内に放出されている。その際、差圧調整装置2により酸素高圧容器1内の圧力と水素高圧容器3内の圧力が等しくなっている。
【0008】
水素高圧容器3に貯留された水素は、脱酸素筒7を介して該水素中に含まれる酸素が除去された後、背圧弁6に連絡されている水分吸着筒5で水分が除去されることにより、製品水素が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−100204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記の特許文献1では、水素高圧容器3に貯留された高圧水素が、背圧弁6に連絡されている水分吸着筒5に急激に導入される場合がある。その際、水素流速が過大となって、水分吸着筒5で水素中の水分を良好に吸着することができないおそれがある。従って、水分吸着筒5では、水分の吸着機能を高めるために、多量の吸着材が必要になり、前記水分吸着筒5が相当に大型化するとともに、経済的ではないという問題がある。
【0011】
しかも、水分吸着筒5と燃料電池車両の水素タンクとの差圧が大きい場合、前記水分吸着筒5が脱圧され易い。これにより、水分吸着筒5内の水分が吸着剤から離脱され、この水分が水素タンクに導入されるおそれがある。
【0012】
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な構成で、水素中の水分が水吸着装置を通過することを確実に阻止し、所望のドライ水素を効率的に供給することが可能な水電解システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、直流電源からの通電により水を電気分解し、水素と酸素とを発生させる水電解装置と、前記水電解装置から前記水素を排出する水素排出口の下流に接続され、排出された前記水素中の水を吸着する水吸着装置とを備える水電解システムに関するものである。
【0014】
この水電解システムは、水素排出口と水吸着装置との間に配置される第1圧力調整弁と、前記水吸着装置の下流側に配置される第2圧力調整弁とを備えている。
【0015】
また、この水電解システムは、第2圧力調整弁の設定圧力値が、第1圧力調整弁の設定圧力よりも高圧に設定されることが好ましい。
【0016】
さらに、この水電解システムは、水素排出口と水吸着装置との間には、流れ方向に沿って気液分離器、冷却器及び第1圧力調整弁の順に配置されることが好ましい。
【0017】
さらにまた、この水電解システムは、第1圧力調整弁及び第2圧力調整弁が、背圧弁であることが好ましい。
【0018】
また、この水電解システムは、水電解装置が常圧よりも高圧な高圧水素を排出することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水吸着装置の下流側に第2圧力調整弁が配置されるため、前記水吸着装置に作用する圧力を、所定の圧力に維持することができる。従って、水分を含んだ水素が、水吸着装置を急速に通過することがなく、前記水分を確実に吸着することが可能になる。しかも、水吸着装置にかかる圧力が設定されるため、前記水吸着装置から水分が離脱し、この水分が該水吸着装置の下流に移動することを阻止することができる。
【0020】
また、水素排出口と水吸着装置との間には、第1圧力調整弁が配置されるため、前記水吸着装置を上流側から遮断させることが可能になる。このため、水吸着装置の洗浄作業等を容易且つ効率的に行うことができる。これにより、水素に含まれている水分が水吸着装置を通過することを、簡単な構成で、確実に阻止するとともに、所望のドライ水素を効率的に供給することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る水電解システムの概略構成説明図である。
【図2】前記水電解システムを構成する第1及び第2背圧弁の圧力状態の説明図である。
【図3】前記第1背圧弁までの昇圧状態の説明図である。
【図4】前記第2背圧弁までの昇圧状態の説明図である。
【図5】運転再開時の前記圧力状態の説明図である。
【図6】水吸着装置の脱圧処理と運転再開時の前記圧力状態の説明図である。
【図7】特許文献1に開示された高圧水素製造装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る水電解システム10は、純水供給装置12を介して市水から生成された純水が供給され、この純水を電気分解することによって高圧水素(常圧よりも高圧)を製造する水電解装置14と、前記水電解装置14から水素導出路16に導出される前記高圧水素に含まれる水分を除去する気液分離器18と、前記気液分離器18から排出される水素を冷却する冷却器20と、前記冷却器20から排出される冷却された水素に含まれる水分を吸着して除去する水吸着装置22と、前記水吸着装置22に連通するドライ水素供給路24に導出される前記水素(ドライ水素)を貯留可能な水素タンク26とを備える。なお、水素タンク26は、必要に応じて備えていればよく、この水素タンク26を削除することも可能である。
【0023】
水電解装置14は、複数の水分解セル28が積層されており、前記水分解セル28の積層方向両端には、エンドプレート30a、30bが配設される。水電解装置14には、直流電源である電解電源32が接続される。水電解装置14の陽極(アノード)は、電解電源32のプラス極に接続される一方、陰極(カソード)は、前記電解電源32のマイナス極に接続される。
【0024】
エンドプレート30aには、配管34aが接続されるとともに、エンドプレート30bには、配管34b、34cが接続される。配管34a、34bは、循環路35を介して純水供給装置12から純水の循環が行われる一方、水素排出口である配管34cは、水素導出路16から気液分離器18に接続される。
【0025】
水素導出路16には、配管34cと水吸着装置22との間に位置して、より具体的には、冷却器20と前記水吸着装置22との間に位置して、第1背圧弁(第1圧力調整弁)36が配置されるとともに、前記第1背圧弁36と前記水吸着装置22との間に位置して圧抜き経路38が配置される。この圧抜き経路38には、開閉弁、例えば、電磁弁40が配設される。
【0026】
水吸着装置22は、水素に含まれる水蒸気(水分)を物理的吸着作用で吸着するとともに、水分を外部に放出して再生される水分吸着材を充填した吸着塔(図示せず)を備える。水吸着装置22の下流側(出口側)には、第2背圧弁(第2圧力調整弁)42を介してドライ水素供給路24が接続される。第2背圧弁42の第2設定圧力は、第1背圧弁36の第1設定圧力と同圧又は前記第1設定圧力よりも高圧に設定される。なお、第1及び第2背圧弁36、42に代えて、電磁弁等の種々の弁を使用してもよい。
【0027】
ドライ水素供給路24に配設される水素タンク26には、水素供給路46が開閉弁48を介して接続される。この水素供給路46は、燃料電池車両50の燃料タンクに、直接、あるいは、図示しない貯留タンクを介して接続可能である。
【0028】
このように構成される水電解システム10の動作について、以下に説明する。
【0029】
先ず、水電解システム10の始動時には、純水供給装置12を介して市水から生成された純水が水電解装置14に供給される。この水電解装置14では、電解電源32から通電されることにより、純水が電気分解されて水素の生成が開始される。
【0030】
水電解装置14内に生成された水素は、水素導出路16を介して気液分離器18に送られる。この気液分離器18では、水素に含まれる水蒸気が、この水素から分離されるとともに、前記水蒸気が除去された前記水素は、冷却器20に送られて冷却される。従って、水素中の水分が凝縮され、凝縮水として水素から分離される。
【0031】
冷却器20の下流には、第1背圧弁36が配設されている。このため、図2に示すように、冷却器20では、第1背圧弁36の第1設定圧力に至るまで(時間T1まで)、水素を加圧することができる(図3参照)。これにより、水素中の水分をより確実に凝縮分離させることが可能になる。
【0032】
水電解装置14から冷却器20までの水素系内の水素圧力が、第1背圧弁36の第1設定圧力まで昇圧されると、前記第1背圧弁36が開放される。これにより、所定の設定圧力に昇圧された高圧水素は、水吸着装置22に送られ、水素に含まれる水蒸気が吸着されて乾燥状態の水素(ドライ水素)が得られる。
【0033】
ここで、水吸着装置22の下流には、第2背圧弁42が配置されている。従って、図2に示すように、水吸着装置22内の水素圧力が、第2設定圧力に至るまで(時間T1〜時間T2まで)、水素を前記水吸着装置22内に加圧保持することができる(図4参照)。そして、水吸着装置22内の水素圧力が、第2設定圧力に至ると、第2背圧弁42が開放されて、前記水吸着装置22からドライ水素供給路24にドライ水素が導出される。
【0034】
ドライ水素供給路24に導出されたドライ水素は、水素タンク26に貯蔵される。この水素タンク26に貯蔵されたドライ水素は、必要に応じて開閉弁48の開放作用下に、水素供給路46を介して燃料電池車両50に充填される。
【0035】
この場合、本実施形態では、水吸着装置22の下流側に第2背圧弁42が配置されている。このため、水吸着装置22に作用する圧力を所定の圧力(第2設定圧力)に維持することができる。具体的には、水吸着装置22の上流側に配置されている第1背圧弁36が開放されてから第2背圧弁42が開放されるまでの間、すなわち、図2中、時間T1〜時間T2までの間、前記水吸着装置22内の水素の流速が0になっている。
【0036】
従って、冷却器20から導入された水分を含んだ水素が、水吸着装置22を急速に通過することがなく、前記水分を吸着材(図示せず)により確実に吸着することが可能になるという効果が得られる。
【0037】
しかも、水吸着装置22にかかる圧力が設定されるため、前記水吸着装置22から水分が離脱し、この水分が該水吸着装置22の下流、すなわち、水素タンク26に移動することを阻止することができる。
【0038】
また、水電解装置14と水吸着装置22との間には、より具体的には、冷却器20と前記水吸着装置22との間には、第1背圧弁36が配置されている。これにより、水吸着装置22を上流側(冷却器20側)から遮断させることが可能になる。このため、水吸着装置22の洗浄作業等を容易且つ効率的に行うことができるという利点がある。
【0039】
従って、水電解システム10では、水素に含まれている水分が水吸着装置22を通過することを、簡単な構成で、確実に阻止するとともに、所望のドライ水素を効率的に供給することが可能になるという効果が得られる。
【0040】
さらに、水吸着装置22は、第1背圧弁36を介して水電解装置14から遮断可能である。このため、水電解システム10の運転が一旦停止された際、水吸着装置22内を所望の圧力に維持することができる。これにより、図5に示すように、水電解システム10の運転が再開される際には(時間T3)、水吸着装置22の昇圧時間が有効に削減されるという利点がある。
【0041】
さらにまた、水吸着装置22の洗浄に伴う脱圧処理では、図6に示すように、水吸着装置22の運転が停止されるとともに、電磁弁40が開放されて前記水吸着装置22の脱圧が行われる(時間T4)。次いで、運転が再開されると(時間T5)、第2背圧弁42が閉塞された状態で、水電解装置14から水吸着装置22までの圧力が上昇される(時間T6)。従って、水分が水吸着装置22を急速に通過することがなく、前記水分を吸着材(図示せず)により確実に吸着することが可能になる。
【符号の説明】
【0042】
10…水電解システム 12…純水供給装置
14…水電解装置 16…水素導出路
18…気液分離器 20…冷却器
22…水吸着装置 24…ドライ水素供給路
26…水素タンク 28…水電解セル
32…電解電源 34a〜34c…配管
36、42…背圧弁 38…圧抜き経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源からの通電により水を電気分解し、水素と酸素とを発生させる水電解装置と、
前記水電解装置から前記水素を排出する水素排出口の下流に接続され、排出された前記水素中の水を吸着する水吸着装置と、
を備える水電解システムであって、
前記水素排出口と前記水吸着装置との間に配置される第1圧力調整弁と、
前記水吸着装置の下流側に配置される第2圧力調整弁と、
を備えることを特徴とする水電解システム。
【請求項2】
請求項1記載の水電解システムにおいて、前記第2圧力調整弁の設定圧力値は、前記第1圧力調整弁の設定圧力よりも高圧に設定されることを特徴とする水電解システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の水電解システムにおいて、前記水素排出口と前記水吸着装置との間には、流れ方向に沿って気液分離器、冷却器及び前記第1圧力調整弁の順に配置されることを特徴とする水電解システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の水電解システムにおいて、前記第1圧力調整弁及び前記第2圧力調整弁は、背圧弁であることを特徴とする水電解システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水電解システムにおいて、前記水電解装置は、常圧よりも高圧な高圧水素を排出することを特徴とする水電解システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−196149(P2010−196149A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45708(P2009−45708)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】