説明

水電解用の貴金属酸化物触媒

本発明は、PEM水電解におけるアノード触媒としての使用のための酸化イリジウムベースの触媒に関する。特許の保護が請求された複合触媒材料は、酸化イリジウム(IrO)及び場合により酸化ルテニウム(RuO)を高表面積の無機酸化物(例えばTiO、Al、ZrO;及びそれらの混合物)との組合せで含んでいる。無機酸化物は、50〜400m/gの範囲内のBET表面積、0.15g/lより低い水への溶解度を有し、かつ触媒の全質量に対して20質量%未満の量で存在する。特許の保護が請求された触媒材料は、水電解における低い酸素過電圧及び長い寿命により特徴付けられる。前記触媒は、PEM電解槽のための電極、触媒−コート膜及び膜−電極−アセンブリにおいて並びに再生形燃料電池(RFC)、センサ、及び他の電気化学的デバイスにおいて使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属酸化物触媒、特に水電解用の酸化イリジウムをベースとする触媒、再生形燃料電池(RFC)又は多様な電解用途における酸素発生電極に関する。さらに、水電解槽用の電極、触媒−コート膜(CCMs)及び膜−電極−アセンブリ(MEAs)におけるこれらの触媒材料の使用が開示される。
【0002】
発明の背景
水素は、再生可能な資源に基づく未来のエネルギー体制における主要なエネルギーキャリヤーになるであろう。水の電解は、再生可能な資源を用いて水素を製造するための最も現実的な方法である。電解槽の投資及び製造コストは、系の全経済性を定義し、かつこれが水素製造のための実現可能な方法になりうるかどうかを決定するであろう。水電解による水素の製造コストは、大部分、水素の全製造コストの約70%でありうる電力消費の影響を受けている。
【0003】
異なる2つのタイプの水電解槽が技術水準において通常使用される:アルカリ電解槽及びPEM水電解槽。貴金属触媒に加えて高分子電解質膜(“PEM”)を用いる水電解槽は、従来のアルカリ電解槽に比較してかなりより高い電流密度で及びより低い比エネルギー消費で操作することができ、その際に装置のより高い利用及び減少された製造コストの利点を与える。最良のPEM電解槽において3A/cmで1.67Vのセル電圧が得られている。このセル電圧は、典型的には0.2A/cmで操作している最新のアルカリ電解槽のセル電圧に匹敵しうる。このことは、アルカリ電解槽がPEM電解槽系と比較して同じ電力消費で同じ量の水素を製造するために15倍のより大きな活性面積を必要とすることを意味する。
【0004】
故に本発明はPEM水電解槽用の触媒の改善に関する。
【0005】
原則的にはPEM水電解槽はPEM燃料電池に類似して構成されるが、しかしながらそれらは異なる方法で動作している。PEM燃料電池操作の間に、酸素還元はカソードで行われ、かつ水素酸化は燃料電池のアノードで起こる。要するに、水及び電流が製造される。PEM水電解槽において電流の流れ及び該電極は逆転され、かつ水分解が行われる。酸素発生はアノードで起こり(“OER”と略す=酸素発生反応)、かつ高分子電解質膜を通して移動するプロトン(H)の還元はカソードで行われる(“HER”と略す=水素発生反応)。結果として水は、電流を用いて水素及び酸素へ分解される。前記反応は次の反応式においてまとめられることができる:
2HO → O+4H+4e (OER)
4H+4e → 2H (HER)。
【0006】
PEM水電解槽は一般的に、一対の電極層と前記電極層の両側にそれぞれ取り付けられた一対の多孔質の集電装置(又はガス拡散層)との間にサンドウィッチされている高分子電解質膜(例えばDuPontによるNafion(登録商標))を含んでいる。
【0007】
PEM燃料電池電極において、炭素触媒上の白金は、アノード電極触媒(水素酸化用)及びカソード電極触媒(酸素還元用)の双方に使用される。PEM電解槽において、炭素ベースの材料、例えばPt/炭素触媒及び炭素繊維ベースのガス拡散層(GDLs)は、水電解の間に発生される酸素による炭素の腐食のためにアノード側で使用されることはできない。
【0008】
PEM電解槽用の膜−電極−アセンブリの製造のためには、触媒粉末、溶剤及び場合により高分子電解質(すなわち“イオノマー”)材料を含んでいる触媒インキが製造され、膜又はガス拡散層のいずれかに直接塗布され、ついで膜と接触される。このアセンブリの製造は、PEM燃料電池用の膜−電極−アセンブリ(MEAs)の製造に類似しており、これは文献に幅広く記載されている(例えばUS 5,861,222、US 6,309,772及びUS 6,500,217参照)。
【0009】
全ての貴金属の中で、白金は、カソードでの水素発生反応(HER)のための最も活性な触媒であり、かつ中程度の負荷で施与されることができる。イリジウム及び酸化イリジウムは、塩素及び酸素発生方法に関してその独特な電極触媒特性のために十分公知である(DEGUSSA-Edelmetalltaschenbuch, Chapter 8.3.3, Huethig-Verlag, Heidelberg/ドイツ連邦共和国, 1995参照)。故に、イリジウムは、純金属の形で又は酸化物として、アノード側での酸素発生反応(OER)のための好ましい材料である。しかしながら、特定の目的のためには、他の貴金属酸化物(好ましくはルテニウム又は白金の酸化物)が添加されることができる。
【0010】
PEM水電解槽において、アノード上及びカソード上の貴金属触媒負荷は依然として相対的に高く、3〜5mg p.m./cm又はそれ以上である。故に、電解槽の触媒負荷を減少させることを可能にする、より低い酸素過電圧及びより長い耐用寿命を有する改善された触媒の開発のための需要が存在する。
【0011】
関連技術の説明
GB 1 195 871には、活性化されたチタン電極における熱処理されたRuO及びIrO化合物及びそれらの混合物の使用が記載されている(いわゆる"DSA"(登録商標)=寸法安定性アノード)。前記製品はクロロ−アルカリ電解における塩素製造のために広く使用される。前記の酸化ルテニウム及びイリジウムは、液状前駆物質の熱分解法により電気伝導性のチタン金属基体上へ堆積される。
【0012】
熱処理による堆積法は、高分子電解質膜の低い熱安定性のために膜ベースのPEM電解槽に適していていない。さらに、前記の液状前駆物質は、膜に浸透し、かつ前記イオノマー材料を汚染する。さらに、TiO及び多様な他の無機酸化物の添加は“その場で”、すなわち貴金属酸化物層の形成の前に行われ、粉末形の特異的な触媒は開示されていない。
【0013】
IrO/Pt電極触媒はT. Ioroi他により報告されている[J. of Appl. Electrochemistry 31, 1179-1183 (2001)及びJ. of Electrochem. Soc. 147(6), 2018-2022 (2000)]。これらの触媒はアルカリ沈殿及びその後の熱処理により粉末形で製造されていた。それらは任意の付加的な無機酸化物を含有しない。
【0014】
US 2003/0057088 A1は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の群から選択される少なくとも1つの金属酸化物を含んでいるIr−Ru酸化物アノード触媒を用いるPEM水電解槽セルに向けられている。これらの触媒は、低い酸化過電圧を提供することである。
【0015】
JP 10-273791には、水酸化物の共沈による水電解用のIrO、RuO及び混合IrO/RuO触媒の製造が記載されている。熱処理は500℃で2時間実施される。この方法は本発明者により再現され、かつこの方法により得られる触媒が極めて粗大でかつ凝集された粒子を含んでいることが見出された。結果として、これらの触媒のBET表面積は極めて低く、かつそれらの電気化学的な活性は不十分である。さらに、触媒インキへのこれらの材料の加工並びに任意のその後のコーティング及びそのようなインキでの印刷工程は極めて困難である。
【0016】
PEM水電解のためのIrOアノード触媒の熱処理の効果はE. Rasten他によりProceedings Electrochemical Soc., 2001-23巻, 151-164頁に記載されている。そこに記載されている酸化イリジウム触媒はADAMS融解法により製造される[R. Adams及びR.L. Shriner, J. Am. Chem. Soc. 45, 2171 (1923)参照]。この方法は、硝酸ナトリウムの溶融塩メルト中で塩化物前駆物質(すなわちIrCl又はHIrCl)を加熱することからなる。塩メルト法は、たくさんの有毒な酸化窒素ガスが生じ、かつ低い収率を伴うバッチ法において実施されなければならない。さらに、ADAMS法によるE. Rasten他により製造された触媒粒子は極めて粗大であり、かつ凝集されていた。アニールされたIrO触媒については30〜100nmの粒度が報告されている。
【0017】
DE 102 11 701 A1には、水溶性のナノサイズの金属酸化物コロイドのその場での固定化法が報告されている。とりわけ、元素の周期表(PSE)の副族IIIb、IVb、Vb、VIb、VIIb、VIII、Ib又はIIbからの第二の金属を含んでいる二種金属の(bimetallic)酸化イリジウム粒子の特許の保護が請求されている。これらの触媒は、無機酸化物担体、例えばアルミナ、シリカ、マグネシア又はチタニア上に固定化されることができる。このどちらかといえば一般的な開示において、無機担持材料のタイプ及び性質について並びに該触媒中に存在する無機酸化物の量についての詳細は与えられていない。前記触媒の水電解のための使用は記載されていない。
【0018】
発明の要約
本発明の対象は、PEM水電解における使用に適している、低い酸素過電圧を示し、極めて低い貴金属負荷を可能にし、かつ環境的に安全な方法において製造されることができる、改善された貴金属酸化物、特に酸化イリジウム、をベースとする触媒を提供することであった。さらに、前記触媒は、長い寿命を示さなければならず、かつPEM電解槽ユニットの高い耐久性を可能にすべきである。
【0019】
上記の対象を達成するために、本発明の特許請求の範囲に定義されているような、改善された酸化イリジウムベースの触媒が提供される。
【0020】
特許の保護が請求された触媒は、複合触媒材料であり、かつ酸化イリジウム(IrO及び/又はIr)及び場合により酸化ルテニウム(RuO、及び/又はRu)を、高表面積の無機酸化物(例えばTiO、Al、ZrO及びそれらの混合物)と組み合わせて含んでいる。本発明の酸化イリジウムは主に酸化イリジウム(IV)(IrO)からなっているが、しかしながら多様な量の酸化イリジウム(III)(Ir)が存在しうる。“複合触媒”という用語は、触媒が、無機酸化物材料上に微細に堆積されたか又は無機酸化物材料の周囲に分散された酸化イリジウム粒子を含有することを意味する。
【0021】
特許の保護が請求された材料は、PEM電解槽においてアノード触媒として使用され、かつ水電解において極めて低い酸素過電圧(すなわち酸素発生のための低い開始電位)を示し、かつ製造される水素の体積当たり、より低い比エネルギー消費をもたらす。故にそれらは与えられたセル電圧でより高い水素製造速度を提供する。要するに、それらは、高表面積の無機酸化物を含有しない従来の酸化イリジウムベースの触媒よりも低い電圧で水を電解することができる。特許の保護が請求された貴金属酸化物触媒を使用して製造されたPEM水電解槽用の触媒−コート膜(“CCMs”)及び膜−電極−アセンブリ(“MEAs”)は、技術水準の材料に対して改善された性能を示す。
【0022】
結果として、より小さくかつより安い電解槽系が、広範囲な材料、例えばイオノマー膜、貴金属及び双極プレートのより少ない消費を伴って設計されることができる。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、酸化イリジウム及び場合により酸化ルテニウム及び高表面積の無機酸化物を含んでいる貴金属酸化物触媒に関する。RuOが存在する場合には、Ru/Irの原子比は4/1〜1/4の範囲内、好ましくは約1/1である。
【0024】
本発明の酸化イリジウムは主に酸化イリジウム(IV)(IrO)からなるが、しかしながら、製造方法に依存して、多様な量の酸化イリジウム(III)(Ir)が存在しうる。前記の酸化ルテニウムは、酸化ルテニウム(IV)として存在していてよいが、しかし酸化ルテニウム(III)が少量で存在していてもよい。
【0025】
一般的にIrO及びRuOは電気伝導性の酸化物材料である。最適な触媒性能を得るために、前記無機酸化物の濃度が、触媒の全質量に対して20質量%の最大値に制限されなければならないことが見出された。無機酸化物の量が20質量%よりも高い場合には、触媒及び電極の電気伝導率は損なわれる。故に前記無機酸化物は触媒の全質量に対して、20質量%未満、好ましくは10質量%未満及び最も好ましくは7.5質量%未満の量で添加される。
【0026】
本発明の触媒中の高表面積の無機酸化物の存在は、水の電解におけるそれらの性能及び寿命を改善する。最良の結果を達成するために、前記無機酸化物のBET表面積が50〜400m/gの範囲内、好ましくは100〜300m/gの範囲内であるべきである(DIN 66132により測定されたBET表面積)ことが見出された。
【0027】
前記無機酸化物は不活性であるべきであり、かつ水中及び酸性環境中への極めて低い溶解度を有するべきである。このことは、PEM電解槽ユニットの長い寿命及び高い耐久性にとって重要である。典型的には、無機担持材料の水への溶解度は、0.15g/l未満(<150mg/l)、好ましくは0.05g/l未満(<50mg/l)であるべきである。水への溶解度はEN ISO 787、第8部により20℃の温度で決定される。より高い溶解度値は、操作の間に触媒からの該無機酸化物の徐々の溶出をまねく。触媒粒子はついで凝集する傾向にある。このことは活性表面積の損失をまねきうるものであり、かつ触媒活性の低下の結果となりうる。
【0028】
適している無機酸化物は、Degussa AG、Duesseldorfにより製造される、熱分解法による(“ヒュームド”)酸化物、例えばTiO、SiO又はAlである。好ましいTiO材料は鋭錐石変態であり、かつ製品名“Hombifine N”でSachtleben Chemie GmbH (Duisburg)により製造される。好ましいAl材料は、Sasol Germany GmbH (Brunsbuettel)により製造されるPuraloxである。適している酸化物担体の他の例は、Nb、SnO、ドープされた酸化スズ(SnO/F)、ZrO、CeO/ZrO及びそれらの混合物及び組合せである。
【0029】
典型的な製造方法において、高表面積の無機酸化物は、水溶液中に完全に分散される。ついでイリジウム前駆物質化合物(ヘキサクロロイリジウム(IV)酸、塩化Ir(III)又は硝酸Ir等)は添加される。懸濁液はついで70〜100℃に加熱され、かつIrOは引き続いて6〜10の範囲内のpHに調節するためにアルカリの制御された添加により沈殿される。ろ過及び洗浄後に触媒は乾燥され、かつか焼される。生じる触媒は極めて活性であり、高い表面積、極めて低い程度のアグロメレーションを有し、かつその後のコーティング法のための触媒インキ中に容易に分散されることができる。
【0030】
混合Ir/Ru酸化物触媒の製造のためには、前記の方法は改変され、かつ適しているIr及びRu前駆物質化合物は水中の無機酸化物の懸濁液に一緒に添加される。適しているRu−化合物は、RuCl−水和物、硝酸ニトロシルRu(III)、酢酸Ru(III)等である。
【0031】
触媒材料の熱処理は、適しているバッチ又はバンド炉中で空気、還元雰囲気又は不活性雰囲気下に実施される。典型的なか焼温度は、300〜800℃の範囲内、好ましくは300〜500℃の範囲内である。典型的なか焼時間は30〜120分である。
【0032】
前記の製造方法において、酸化イリジウム粒子は、極めて微細なナノサイズの形で(すなわち高度に分散されて)、無機酸化物の表面上に又は表面で沈殿される。無機酸化物の表面積が十分に高い場合には、貴金属酸化物粒子の分散液は、その後の熱処理法の間に安定なままであり、かつ前記粒子の焼結は禁止される。このことは、最終的な触媒の高いBET表面積となり、これはそしてまた高い活性及び安定性をもたらす。最適な電気化学的性能の結果は、最終的な酸化イリジウム触媒のBET表面積が40〜100m/gの範囲内である場合に得られた。
【0033】
前記の無機酸化物が省かれる場合には、低い表面積を有する粗大で凝集された粒子が得られ、その際に乏しい電気化学的活性となる(比較例参照)。
【0034】
電極、触媒−コート膜(CCMs)及び膜−電極−アセンブリ(MEAs)を製造するために、酸化イリジウム触媒は、適している溶剤及び場合によりイオノマー材料を添加することによりインキ又はペーストへ加工される。触媒インキは、噴霧、印刷、ドクター−ブレード又は他の堆積法により、ガス拡散層(GDLs)、集電装置、イオノマー膜、ブランクPTFEシート、剥離紙又はセパレータプレート等上へ堆積されることができる。通常、乾燥法は、触媒インキの溶剤を除去するために引き続いて適用される。PEM水電解槽用の触媒−コート膜及びMEAsにおいて、特許の保護が請求された触媒材料はMEAのアノード側に施与される。典型的な負荷は0.5〜2.5mg p.m./cmの範囲内である。カソード側上で標準Pt触媒(例えばPt/C又はPt−黒)が使用される。カソード負荷は0.2〜1mgPt/cmの範囲内である。
【0035】
触媒材料の電気化学的性質は、酸素発生のための開始電位(単位:V)の測定及びNHE(単位:mA/mg)に対する1.5Vでの電流密度(単位:mA/cm)により決定される。これらの試験において触媒試料はNafion(登録商標)(Aldrich)の5質量%アルコール性溶液中に分散され、かつガラス質の炭素電極上に固定される。サイクリックボルタモグラムは室温で硫酸(c=0.5mol/l)中で調べられる。対向電極はPtであり、照合電極はHg/HgSO(Metrohm)であり、走査速さは10mV/sである。ボルタモグラムの五番目の走査は準定常条件を生成させるために採用される。
【0036】
電気化学的活性は、2つのパラメーター(i)酸素発生の開始及び(ii)1.5Vの定電圧での電流対NHEにより決定される。酸素発生の開始は、電位(V対NHE、y−軸)対電流(mA/mg、x−軸)の対数プロットからの線形の外挿により決定される。
【0037】
本発明は次の例及び比較例により説明されるが、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0038】
例1:
IrO/TiO(5質量%)の製造
二酸化チタン378.8ミリグラム(Hombifine N、Sachtleben Chemie GmbH);BET>300m/g、20℃での水への溶解度<0.01g/l)を、激しく撹拌しながら脱イオン水112.5mlを含んでいる1リットルビーカーに添加する。次に、ヘキサクロロイリジウム酸溶液29.7グラム(HIrCl、Ir 24.3質量%;Umicore、Hanau/ドイツ連邦共和国)を、撹拌しながら懸濁液に添加し、脱イオン水50mlで希釈する。懸濁液をついで70℃に加熱する。前記温度に達した後、0.1M NaOH−溶液50mlを添加し、さらに脱イオン水500mlで希釈する。
【0039】
7.0の最終的なpHを、10質量%NaOHを用いて調節する。温度及びpHを同じレベルで約4時間保持する。最終的に生成物をろ過により単離し、かつ脱イオン水2リットルで洗浄する。触媒を真空炉中で一晩乾燥させる。生成物をついで400℃で箱形炉中で空気中でか焼する。BET表面積は66m/gで極めて高いままであり、故にその際に材料の卓越した触媒活性を示す。第1表は前記触媒の特性データをまとめる。
【0040】
例2:
IrO/Al(5質量%)の製造
アルミナ378.8ミリグラム(Puralox SCFa-140、Sasol Germany GmbH、Brunsbuettel; BET=141m/g)を、激しく撹拌しながら脱イオン水112.5mlを含んでいる1リットルビーカーに添加する。次に、ヘキサクロロイリジウム酸溶液29.7グラム(HIrCl、Ir 24.27質量%;Umicore、Hanau/ドイツ連邦共和国)を懸濁液に撹拌しながら添加し、脱イオン水50mlで希釈する。懸濁液をついで70℃に加熱する。前記温度に達した後に、0.1M NaOH溶液50mlを添加し、さらに脱イオン水500mlで希釈する。
【0041】
7.5の最終的なpHを、10質量%NaOHを用いて調節する。温度及びpHを同じレベルで約4時間保持する。最終的に生成物をろ過により単離し、脱イオン水1.5リットルで洗浄する。触媒を真空炉中で一晩乾燥させる。生成物をついで400℃で箱形炉中で空気中で1時間か焼する。BET表面積は59m/gで極めて高いままであり、故にその際に材料の卓越した触媒活性を示す。
【0042】
比較例
IrOの製造(無機酸化物なし)
脱イオン水150mlを2リットルビーカー中へ注ぐ。ヘキサクロロイリジウム酸−水和物24.86グラム(Ir 38.65質量%;Umicore Hanau/ドイツ連邦共和国)を脱イオン水50ml中に溶解させる。前記溶液を、激しく撹拌しながらビーカーに添加し、脱イオン水50mlで2回希釈する。前記溶液を70℃に加熱する。前記温度に達した後に、NaOH 4グラムを脱イオン水50ml中に溶解させ、撹拌しながら前記溶液に添加する。
【0043】
反応溶液を脱イオン水500mlで希釈し、7.0のpHを、10質量%NaOHを用いることにより調節する。温度及びpHを同じレベルで4時間保持する。最終的に生成物をろ過により単離し、脱イオン水1 lで洗浄する。触媒を真空炉中で100℃で一晩乾燥させる。前記材料を400℃で熱処理する。BET表面積は無機酸化物の不在のために低下する。特性データは第1表に与えられている。
【0044】
【表1】

【0045】
例1(本発明を表す)と比較した場合に、比較例は、酸素発生のための極めて高い開始電位を示す(例1の1.47Vに対して1.65V)。
【0046】
このことは、1.5Vの与えられたセル電圧での電流密度が極めて低い(例1の1.48mA/mgに対して0.23mA/mg)という事実となる。前記データは明らかに、本発明の触媒の優れた特性を証明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化イリジウム及び無機酸化物を含んでいる水電解用の触媒であって、無機酸化物が50〜400m/gの範囲内のBET表面積を有し、かつ無機酸化物が触媒の全質量に対して20質量%未満の量で存在する、酸化イリジウム及び無機酸化物を含んでいる水電解用の触媒。
【請求項2】
4/1〜1/4の範囲内のIr/Ru−原子比で生じる量の酸化ルテニウムをさらに含んでいる、請求項1記載の触媒。
【請求項3】
無機酸化物が、チタニア(TiO)、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、二酸化スズ(SnO)、セリア、五酸化ニオブ(Nb)、五酸化タンタル(Ta)及び/又はそれらの組合せの群から選択されている、請求項1又は2記載の触媒。
【請求項4】
無機酸化物の水への溶解度(EN ISO 787、第8部により測定されたような)が20℃で0.15g/l未満、好ましくは0.05g/l未満である、請求項1から3までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項5】
酸化イリジウムが酸化イリジウム(IV)、酸化イリジウム(III)及び/又はそれらの混合物を含んでいる、請求項1から4までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項6】
次の工程:
a)イリジウム及び場合によりルテニウム前駆物質化合物を無機酸化物の存在で水溶液中に溶解させる工程及び
b)6〜10の範囲内で混合物のpHを調節することにより酸化イリジウム(場合により酸化ルテニウムとの組合せで)を沈殿させる工程、
c)触媒を分離し、かつ乾燥させる工程、
d)触媒を300〜800℃の範囲内の温度で熱処理する工程
を含んでいる、請求項1から4までのいずれか1項記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
PEM水電解槽のための電極、触媒−コート膜(CCMs)及び膜−電極−アセンブリ(MEAs)におけるアノード触媒としての請求項1から4までのいずれか1項記載の触媒の使用。
【請求項8】
再生形燃料電池(RFC)、センサ、電解槽及び他の電気化学的デバイスにおける、請求項1から4までのいずれか1項記載の触媒の使用。

【公表番号】特表2007−514520(P2007−514520A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537217(P2006−537217)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012290
【国際公開番号】WO2005/049199
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4、D−63457 Hanau、Germany
【Fターム(参考)】