説明

汚れ抑制方法

【課題】汚染環境、より詳細には海洋の又は他の水中の環境における基体の汚れを抑制する方法を提供する。
【解決手段】基体を汚れ環境へさらす前に、ケイ素含有官能基を有するフィルム形成性ポリマー(A)を含むコーティングを基体上へ形成し、その後、硬化性ポリマー状汚れ抑制物質(B)、より特別には硬化性ポリシロキサン又は硬化性フッ素含有ポリマーを含む層の施与、及び施与された層を、これらの未反応官能基を取り込む縮合硬化反応により上記コーティングへ結合することを含む方法。最初のコーティングは磨耗し損傷を受けた抗汚れコーティングの領域を覆って施与されうる。層の順次的な施与層は、外側のシロキサン豊富な領域を作るためにデザインされた複雑な系により与えられるものより単純であり、より柔軟性があり、そしてより制御可能な方法であることである。比較的長い潜在期間が達成可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染環境、より詳細には海洋の又は他の水中の環境における基体の汚れを抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人口構造物、例えば水中に浸漬される船体、ブイ、掘削用プラットフォーム、油生産用掘削装置及びパイプは、水生有機体、例えば緑藻及び褐藻、フジツボ類、イガイ類等により汚れる傾向にある。海洋構造物は一般に金属からなるが、他の構造材料、例えばコンクリートをも含み得る。比較的小さいボートでは、船体は替わりに、例えば木又は繊維強化樹脂を含みうる。この汚れは船体上の妨害物となり得、これは水を進む動きに対する摩擦抵抗を増加させるゆえであり、結果として減少された速度と増加された燃料コストを伴う。この汚れは静止構造物、例えば掘削用プラットフォームの足及び油生産用掘削装置の妨害物となり、これは第一に、汚れの密集した層の、波と流れに対する抵抗が、予想不可能なそして潜在的に構造物に危険な応力を生じさせるゆえであり、第二に汚れは欠陥、例えば応力亀裂及び腐食について構造物を検査することを困難にするゆえである。この汚れは、パイプ、例えば冷却水の取り込み口及び排出口の妨害となり、これは、有効な断面積が汚れにより減少され、結果として減少された流速を伴うゆえである。
【0003】
商業的に最も成功した、汚れを抑制する方法は、水生生命に対する毒性物質、例えばトリブチルスズクロライド、酸化第一銅を含有する抗汚れコーティングの使用を含んでいた。しかしこのようなコーティングは、このような毒素が水生環境へ放出された場合に有しうる損害の影響ゆえに不評が増していると見られている。従って、明らかな毒性物質を含有しない無汚れコーティングの必要性がある。
【0004】
例えばGB1 307 001及びUS3 702 778において開示されたように、シリコーンラバーコーティングは水生有機体による汚れに抵抗することが長年の間知られていた。このようなコーティングは表面を有機体が簡単に付着できないようにすると信じられ、従ってこれらは抗汚れコーティングよりも無汚れコーティングと呼ばれ得る。シリコーンラバーコーティングは非常に低い毒性を有する。しかしシリコーンラバーコーティングは少ない商業的支持しか得られていない。これらを保護されるべき基体表面へ良好に接着させることは困難であり、さらにこれらは機械的にむしろ低強度であり、損傷を受けやすい。
【0005】
EP0 032 597は、有機ポリマー状セグメントがグラフトされたシリコーンポリマーが加硫されて、無汚れコーティングを形成しうることを開示する。この加硫方法は架橋剤、例えばテトラエチルオルトシリケート、及び触媒、例えばスズ塩を利用し得る。
【0006】
GB2 188 938はポリマー状シリコーン側鎖を含むビニル系ポリマーが熱可塑性無汚れコーティングを形成するために使用されうることを開示する。
【0007】
GB特許出願2 192 400は:
(a) 1〜50重量%の重合可能な不飽和ポリシロキサン化合物
(b) 0〜30重量%の重合可能な不飽和アルコキシシラン化合物
(c) (a)又は(b)以外の、20〜99重量%の重合可能な不飽和ビニルモノマー
の共重合により得られるビニル性コポリマーを含有する抗汚れ塗料組成物を開示する。開示された抗汚れ塗料組成物は、ビニル系コポリマー100重量部あたり1〜50重量部の範囲でヒドロキシアルキル末端のポリ(ジオルガノシロキサン)を含んでも良い。このビニル系コポリマー及びポリ(ジオルガノシロキサン)は互いに硬化性でなく、GB-A-2 192 400において開示されたコーティングは熱可塑性であって加硫されない。
【0008】
化学的に不活性な油又はグリース(しばしばスリッピング剤と呼ばれる)を含有するコーティングが汚れに対する改良された抵抗性を与え得ると報告された。GB1 470 465は、加硫されたシリコーンラバー配合物におけるシリコーンオイルのスリッピング剤としての使用を開示する。GB1 581 727は、加硫されたシリコーンラバー配合物における、シリコーンの無い有機化合物、例えば分子量が約5000までのポリオレフィンのスリッピング剤としての使用を開示する。
【0009】
WO93/13179は、(A)少ない比率のシロキサン繰り返し単位しか有さない、官能基含有ポリマー、及び(B)ポリマー(A)により硬化可能なポリシロキサンを含む汚れ抑制のための組成物を開示する。組成物の基体への施与及び硬化後、得られたコーティングの最深部の領域は一般的にシロキサン物質の少ない比率しか含まず、一方このコーティングは外部環境にシロキサンの豊富な表面層を提示する。結果として、このコーティングは汚れ抑制特性を与え、同時に以前に提案されたシリコーンラバーコーティングの機械的低強度の問題を緩和又は回避する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は汚れ環境における基体の汚れを抑制する方法であって、上記環境へさらす前に、潜在的な反応性を与える未反応のケイ素含有官能基を有するフィルム形成性ポリマー(A) を含むコーティングを基体上に形成すること、及びその後、硬化性のポリマー状汚れ抑制物質(B)を含む層を施与すること、そして施与された層を、これらの未反応官能基を伴う縮合硬化反応により上記コーティングへ結合することを含む。
【0011】
本発明はさらに本方法により施与されたコーティングをゆうする基体、すなわち硬化された成分(B)を含む外側層を有する基体を与える。
【0012】
本発明の特に重要な側面は、水中の、特に海洋環境の構造物、特に全てのサイズのボート及び船の船体の汚れの抑制を含む。
【0013】
硬化性ポリマー状汚れ抑制物質(B)は、フィルム形成性ポリマー(A)を含む最初のコーティング上の未反応ケイ素含有官能基と縮合硬化をする能力のある官能基を有する。この物質(B)は有利には、硬化性ポリシロキサンを含むが、他の硬化性ポリマー状物質、特にフッ素含有ポリマー、例えばフルオロアクリレートポリマーも使用されうる。
【0014】
本発明はここで及びこれ以降、物質(B)が硬化性ポリシロキサンを含む好ましい場合に特に関して述べられるが、その他の物質の場合においても同様の考えが適合することが理解されるだろう。従って、幅広い概念において、本発明は、施与後に続いて起こる硬化性ポリマー状汚れ抑制物質(B)との硬化のための潜在的反応性を与える未反応ケイ素含有官能基を有する最初のコーティングの用意を含む。
【0015】
最初のコーティング上のケイ素含有官能基と硬化性ポリシロキサンとの縮合硬化反応、例えば以下のように進行し得る。

〔ここでRR2CNOHは縮合の条件下で、アルデヒド又はケトン、RR2CO及びヒドロキシルアミン、NH2OHへ加水分解しうる。〕
【0016】
フィルム形成性ポリマー(A)は、懸垂した及び/又は末端の硬化性官能基を含み得る。例えばポリマーが1以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導される場合には懸垂した硬化性の官能基が好ましく、例えばポリマー(A)がポリウレタン、エポキシ又はポリエステルを基礎とする場合には末端硬化性の官能基が好ましい。
【0017】
ケイ素含有硬化性基は、モノ-、ジ-又はトリ-官能性であり得る。ジ-又はトリ-官能基の場合、一般的にポリシロキサン(B)との硬化反応のために別の架橋剤を与えることは必要ない。
【0018】
有利には、硬化性ケイ素含有基は脂肪族、芳香族及び芳香脂肪族エーテル(例えばメトキシ)及びオキシム基から選ばれた1以上の硬化性官能基により硬化性である。ケイ素含有官能基は原則としてエステル基により硬化性であるが、比較的短い炭化水素残基(例えばC3又はC4までの)を含むエステルの場合には望まれる潜在期間を得ることは困難であろう。エポキシ基以外の基により硬化性のケイ素含有官能基もまた言及されうる。
【0019】
好ましくは硬化性ケイ素含有官能基は式-Si(R1)(R2)(R3)
〔ここで、R1,R2及びR3で表される基は、同一でも異なってもよく、夫々はエーテル又はエステル基を含んでもよく、好ましくは1〜4の炭素原子を含む直鎖又は分岐状のアルキル残基を含む基であり、ここにおいてR1〜R3の1つ又は2つが水素又は炭化水素基、好ましくは1〜4の炭素原子を有する直鎖又は分岐状のアルキル基であることができる。〕
の基である。
【0020】
好ましいケイ素含有官能基の例はトリメトキシシリル及びメチルジメトキシシリルである。
【0021】
他の好ましいケイ素含有官能基の例は式

〔ここで、R4及びR5は同一でも異なってもよく、夫々は直鎖又は分岐状、飽和又は不飽の和脂肪族炭化水素残基を表し、好ましくは7個までの炭素原子、より特別には4個までの炭素原子を有し、特にはメチル又はエチル基;芳香族基、例えばフェニル基;又は芳香脂肪族基、例えばベンジル基を表し;又はR4及びR5は一緒になってアルキレン基を表し;又はR4とR5の一つが水素を表す。〕
の1以上のオキシム基を含む。好ましくはR4及びR5の各々は芳香族基以外である。R4及び/又はR5基は置換されていても非置換でもよい。
【0022】
好ましくはケイ素含有官能基はいずれのアミン官能性をも含まず、好ましくはシラノール官能性をも含まない。これらの官能性の各々は望まれる潜在的反応性を減じる傾向がある。
【0023】
好ましくはフィルム形成性ポリマーは、望まれる潜在的反応性を与えるもの他には、いずれの官能基をも含まない。他の官能基が存在する場合、このような追加の基が望まれる潜在的反応性を減じないことを確実にするための注意が払われなければならない。このように妨害しうる官能基の例は酸官能性及びアミン(イミンを含む)及び他の塩基官能性である。このような妨害をする基は、フィルム形成性ポリマー及びポリマーを施与するために使用されるコーティング配合物の両者中において避けられるべきである。
【0024】
好ましくは(A)中の懸垂した硬化性ケイ素含有官能基は、自然水、海水、例えばpH8.0〜8.3を有する水中での水性加水分解に対して耐性のある化学結合によりポリマーと結合される。上記のような縮合硬化を受ける能力のあるケイ素含有結合、例えばシリルエーテル及びシリルエステルは、従って一般的にケイ素含有基をポリマー主鎖へ結合させる目的には好適でない。上記化学結合が炭素に直接結合されたケイ素を含むべきことが好まれる。例えばこの化学結合はアルキレン基CnH2n(ここでnはゼロではない整数であって、好ましくは1〜5の値を有する)、アルキリデン基又はアリーレン基、例えばフェニレンを含むことができ、又はポリマー主鎖中の炭素原子と直接化学結合することができる。
【0025】
フィルム形成性ポリマーは、1以上のエチレン性不飽和モノマー、より特別には、不飽和脂肪族炭化水素、例えばエチレン、プロピレン及びブチレン;不飽和ハロゲン化炭化水素、例えばビニルクロライド、ビニルフルオライド、ビニリデンクロライド、ビニリデンフルオライド;ビニル芳香族化合物、例えばビニルピリジン、ビニルナフタレン及びスチレン(環置換スチレンを含む);不飽和エステル、アミド及びニトリル;およびN-ビニル化合物、例えばN-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール及びN-ビニルカプロラクタムから選ばれる1以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導されうる。ポリビニルアセテート及びポリビニルアルコールにも言及されるべきである。
【0026】
更なる可能性として、フィルム形成性ポリマーはウレタン、ユリア、ウレタン-ユリア、アミド、イミド、アミド-イミド、エポキシ化合物、及びエステルから誘導される繰り返し単位を含みうる。アルキル樹脂及びポリエーテルにも言及されるべきである。
【0027】
オレフィン系モノマーの特別な例として、アクリル及びメタクリルエステル、アミド及びニトリル誘導体、スチレン及びビニルクロライドなどの化合物が言及されうる。アクリレート及びメタクリレートエステル、特に4〜16の炭素原子を含む飽和アルコールから誘導されたもの、例えばブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル及びヘキサデシルエステルは好ましいモノマーである。イソボルニルアクリレート及びイソボルニルメタクリレートにも言及されるべきである。
【0028】
有利には、(A)のポリマーは、硬化性ケイ素含有基を含む1以上のモノマー(A1)及びこのような基を含まない1以上のモノマー(A2)から誘導される。懸垂した硬化性ケイ素含有官能基を有するモノマー(A1)の場合において、モノマー(A1)のモノマー(A2)に対するモル比は5%〜25%の範囲にあることができ、典型的に少なくとも8%又は12%であり通常は20%を超えない。好ましい範囲は主として潜在的官能基の性質、望まれる潜在期間、及びポリマー主鎖の性質に依存する。
【0029】
硬化性ケイ素含有基を有するポリマー(A)はこのような基を含む1以上のモノマーの重合により、有利にはこのような基を含まない1以上のコモノマーとの重合により都合よく製造されうる。例えばこのようなケイ素含有モノマーはアクリル酸、メタクリル酸、スチレン又はエチレン等の化合物の誘導体でありうる。アクリル酸及びメタクリル酸の誘導体の例は、エステル化する基が上記ケイ素含有基を含むところのエステルである。このような誘導体の特別な例として、3-(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート及びメタクリレート(I)及び3-(ジメチル(トリメトキシシリルオキシ)シリル)プロピルアクリレート及びメタクリレート(II)が言及される。(Meはメチルを表す)
CH2=CRCO2(CH2)3Si(OMe)3 (I) RはH又はCH3を表す。
CH2=CRCO2(CH2)3SiMe2OSi(OMe)3 (II) RはH又はCH3を表す。
化合物I(RがCH3を表す)が特に好ましい(「TMSPM」)。
【0030】
モノマー(A1)としてのスチレンの誘導体の例は、ベンゼン環がビニル又は2-プロピル基、及びケイ素含有基の両者により置換されたものである。スチレン誘導体の特別な例として、異性体トリメトキシシリルスチレン及び異性体2-(トリメトキシシリルエチル)スチレンが言及されうる。モノマー(A1)としてのエチレンの誘導体の例として、トリメトキシビニルシラン及びトリエトキシビニルシランが言及されうる。
【0031】
硬化性ケイ素含有基をすでに含んでいるモノマー(A1)の使用の替わりに、例えばトリメトキシシリル基等の基を、硬化性ケイ素含有基が結合されうるところの好適な反応性サイトを有する、前もって形成されたポリマー上へグラフトすることが(あまり好ましくないが)可能である。
【0032】
従って例えばトリメトキシシリル及びメチルジメトキシシリル官能基は対応するメルカプトプロピルシランとエポキシ基との反応により取り込まれうる。
【0033】
硬化性ケイ素基を含まない2以上の異なるコモノマー、例えばC1〜4とのアルキルアクリレート又はメタクリレートエステルをC6〜16のアクリル又はメタクリル酸エステルと共に利用することもまた有利でありうる。従って例えば他の好ましい実施態様において、ポリマー(A)は以下のモノマーから以下のモル比で誘導される。
TMSPM 10%
ラウリル又はブチルアクリレート 20%)
) 90%
メチルメタクリレート 70%)
【0034】
以下の一般的考慮が、潜在的反応性を与える未反応官能基を有するフィルム形成性ポリマーの好適な組成の決定において意義がある:
i)官能基の含有量の増加は一般的にポリマー物質のコストを増加させ、かつ貯蔵安定性を低下させる傾向にあるが、ポリマー物質が基体に施与された場合に、潜在期間を増加させる傾向にあるだろう。
ii)ポリマーのTgは室温より高くあるべきであり、一般的に増加したTgは、コーティングの改良されたバリア性能及び延長された潜在期間を導くだろう。しかしTgが高すぎる場合、続いて起こるポリシロキサン又は他の硬化性物質(B)との硬化反応の障害となるが、この効果は原則としてケイ素含有官能基の含有量の増加により減少されうることに言及されうる。ポリマーのTgはモノマー及びモノマー比率の好適な選択により変化されうることが理解されうる。
iii) 最初のコーティング配合物中におけるポリマー(A)中のケイ素含有官能基の好ましい最低含有量は、なかんずく考慮される基の反応性に依存するだろう。従って例えばトリメトキシシリル基はメチルジメトキシシリル基よりも反応性である傾向にあり、各々は対応するプロポキシ基(通常はイソプロポキシ基)よりも反応性である傾向にあるだろう。
【0035】
フィルム形成性ポリマーはシロキサン繰り返し単位の部分を含みうるが、有利には繰り返し単位の少なくとも過半数、及び好ましくはこの単位の少なくとも55%はシロキサン単位以外のものだろう。シロキサン繰り返し単位の部分は有利には25%より多くなく、好ましくは10%より多くなくより特別には5%より多くない。組成物の好ましい形において、成分(A)のポリマーが実質的にシロキサン繰り返し単位を含まない。
【0036】
フィルム形成性ポリマーは、1000〜50000、好ましくは15000まで、より特別には3000〜10000の範囲の数平均分子量を有しうる。
【0037】
妥当であれば、フィルム形成性ポリマー(A)の生成において、連鎖移動剤が使用されうる。連鎖移動剤の例として、1-ドデカンチオール及びメルカプト-プロピルトリメトキシシランに言及されうる。このポリマーの分子量は重合開始剤の含有量を変化させることによっても制御されうる。好ましいフリーラジカル開始剤の例は、有機パーオキサイド、例えばtert-ブチルパーオキサイド-2-エチルヘキサノエート(Trigonox215の商品名で入手可能)及びTrigonox27及びTrigonox41-C75の商品名で入手可能な物質を含む。
【0038】
最初のコーティングが潜在的反応性を与える未反応官能基を有するための要求から、最初のコーティング配合物がいずれの架橋剤又は硬化触媒を含まなく、また望まれる潜在性を過度に減じるその他の物質をまったく含まないことが妥当であろう(例えば酸、塩基、有機金属塩、水又はその他のプロティック溶剤)。最初のコーティングは、潜在期間中は最小の自己硬化が起こることのみを伴う、熱可塑性物質として一般的に作用するために配合されるべきである。最初のフィルム形成は、硬化反応よりも溶媒の蒸発により起こる。
【0039】
実用的な最少潜在期間はその結果、最初のコーティングの施与と次の硬化性ポリシロキサンの施与との間の望まれる又は必要な最少間隔に依存する。一般的に、一般的条件下で2時間の最少潜在期間が必要とされる考えられるが、環境が12、24又は48時間、1週間、1ヶ月又はさらに長い最少期間を必要とすることがあるだろう。潜在期間に影響する要因は上記に略述された。
【0040】
任意の与えられたコーティングの潜在期間は、温度及び湿度の特定の条件下における標準上塗りテストを用いて決定され得る。硬化性ポリシロキサン物質のテスト部分は、異なる時間間隔のシリーズで、最初にコートされた基体の異なるテスト領域へ施与され、最初のコーティング上に硬化される。潜在期間は(最初の層の施与後)コーティング(B)の十分な密着がなお達成される最大時間間隔として決定される。
【0041】
実際の操作において、コーティング(B)は、使用された最初のコーティングの潜在期間の期限前のいつでも施与されうる。
【0042】
本発明に従い、物質(B)として、潜在的反応性を有する最初のコーティングへ施与された硬化性ポリシロキサン(の夫々)は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン又はポリジオルガノシロキサンであってよい。このポリシロキサンは、例えばジオルガノシロキサン単位のオルガノハイドロジェンシロキサン単位及び/又は他のジオルガノシロキサン単位とのコポリマー、又はオルガノハイドロジェンシロキサン単位又はジオルガノシロキサン単位のホモポリマーを含み得る。
【0043】
シロキサン繰り返し単位に加えて、1以上の他のコモノマーを含むポリシロキサンにも言及され得る。このようなポリシロキサンはシロキサン単位と1以上のエチレン性不飽和モノマー、より特別には、不飽和脂肪族炭化水素、例えばエチレン、プロピレン及びブチレン;不飽和ハロゲン化炭化水素、例えばビニルクロライド、ビニルフルオライド、ビニリデンクロライド、ビニリデンフルオライド;ビニル芳香族化合物、例えばビニルピリジン及びビニルナフタレン;不飽和エステル、アミド及びニトリル;及びN-ビニル化合物、例えばN-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール及びN-ビニルカプロラクタムから選ばれた1以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導され得る。ポリビニルアセテート及びポリビニルアルコールにも言及されるべきである。
【0044】
更なる可能性として、ポリシロキサンコポリマーはウレタン、ユリア、ウレタン-ユリア、アミド、イミド、アミド-イミド、エポキシ化合物及びエステルから誘導される繰り返し単位を含むことができる。アルキル樹脂及びポリエーテルにも言及されるべきである。
【0045】
オレフィン系コモノマーの特別な例として、アクリル及びメタクリルエステル、アミド及びニトリル誘導体、及びビニルクロライド等の化合物が述べられうる。アクリレート及びメタクリレートエステルは、例えば4〜16の炭素原子、を含む飽和アルコールから誘導され、例えばブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル及びヘキサデシルエステルであることができる。イソボルニルアクリレート及びイソボルニルメタクリレートにも言及されるべきである。
【0046】
有利には、ポリシロキサンコポリマー中の、少なくとも55%の繰り返し単位がシロキサン繰り返し単位である。シロキサン繰り返し単位の比率は好ましくは少なくとも75%、特別には少なくとも90%、及びより特別には少なくとも95%である。
【0047】
1以上の有機ポリマー状物質との混合物中の又は結合したポリシロキサンから誘導されるコーティング(B)にも言及され得る。このような混合物又は化合物のポリシロキサン含有量は、有利には少なくとも75重量%、好ましくは少なくとも90重量%及び特別には少なくとも95重量%である。
【0048】
このような混合物又は化合物において使用される他の物質は、これら自身が最初のコーティング上で未反応ケイ素含有官能基による硬化が可能な官能基を有することができ、又はこのような基を有さなくてもよい。他の物質が硬化性官能基を有する場合、これらの基はポリシロキサンのものと同様であることができ(これはこれ自身が2以上のポリシロキサン物質の混合物又は化合物を含むことができ、これらの少なくとも1つが最初のコーティングと共に硬化可能である)又は異なる官能基が使用されることができる。
【0049】
ポリシロキサンとの混合物又は結合物において使用されるその他の物質は、これ自身が汚れ抑制特性を有しうるが、コーティング(B)全体がこのような特性を有するのであれば必要ではない。この関係で、1以上のフッ素含有ポリマーとの混合物又は化合物中のポリシロキサンから誘導されるコーティング(B)が言及され得る。
【0050】
その他のポリマー状汚れ抑制物質、特にフッ素含有ポリマーも、コポリマー又はポリマー混合物又はこの組合せを含むことができ、ポリシロキサンの系に関する上記解説が必要な変更を加えて適用できる。
【0051】
最初のコーティングの未反応ケイ素含有官能基との硬化可能性を前提として、硬化性ポリシロキサン又は他の物質(B)は、最初のコーティングに関連して、縮合硬化を受入れるものとして上述された官能基(懸垂及び/又は末端でもよい)のいずれかを原則として含んでもよい。潜在性への妨害はもはや重要ではないが、従って例えばシラノール基の存在から生じる不利益と同じ不利益は無く、そしてポリシロキサン又は他の物質(B)はこのような基により有利に硬化可能となる。さらに又はあるいは、ポリシロキサン又は他の物質(B)は、脂肪族、芳香族及び芳香脂肪族エーテル、エステル及びオキシム基(これらは置換又は非置換でもよい)又は同様にトリアルコキシシリル又はヒドロシリル基から選ばれた硬化性官能基の効果により硬化可能である。硬化性エーテル基は、例えばアルコキシ基、例えばメトキシ又はエトキシ等であり得る。硬化性エステル基の例はアセトキシである。
【0052】
従って、好ましい実施例により硬化性ポリシロキサンは式

〔ここで、R4及びR5は同一でも異なってもよく、夫々は直鎖又は分岐状、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素残基を表し、好ましくは7個までの炭素原子、より特別には4個までの炭素原子を有し、特別にはメチル又はエチル基;芳香族基、例えばフェニル基;又は芳香脂肪族基、例えばベンジル基を表し;又はR4及びR5は共にアルキレン基を表し;又はR4とR5の一つが水素を表す。〕
のオキシム基によって硬化可能である。 好ましくはR4及びR5の各々は芳香族基以外である。R4及び/又はR5基は置換又は非置換でありうる。
【0053】
オキシム官能性ポリシロキサンは、対応するヒドロキシ官能性シロキサンのケチミノキシシラン、例えばメチルトリス(メチルエチルケチミノキシ)シラン又は以下のケチミノキシシランの1以上との反応により調製されることができる。

【0054】
好ましいポリシロキサンは線状ポリマーであり、R3O(SiR1R2O)n R3の構造〔ここでR1及びR2は、ポリマー中のケイ素原子の夫々において及び異なるケイ素原子において同一でも異なってもよく、夫々はアルキル基、例えばメチル、エチル、又はプロピル等;アルケニル基、例えばビニル又はアリル等;シクロアルキル又はシクロアルケニル基;アリール基、例えばフェニル等;又はハロゲン化又はシアノ置換炭化水素基を表し、但しR1及びR2の1つが、いくつかの又は全てのケイ素原子上における水素を表してもよく、R1及びR2が夫々いくつかのケイ素原子上における水素を表してもよく
OR3は、R3が一価の残基、例えば水素、アルキル、アリール又はR4R5CN(ここでR4 とR5は以前に定義される)を表すところの硬化性官能基を表し、そしてnは重合度を表す〕
を有利に有する。好ましくはR1及びR2は夫々メチルであるが、フェニルによるR2の部分的又は全ての置換は有利となりうる。
【0055】
ポリシロキサン物質(B)中の少なくともいくつかの及び好ましくは全ての硬化性官能基がケイ素に直接結合されることが一般的に有利である。
【0056】
ポリシロキサン又は他の物質(B)は500,1000又は1500〜310000の範囲、一般的に1800〜80000又は85000の範囲の数平均分子量を有しうる。好ましくは数平均分子量は少なくとも5000、有利には少なくとも10000、及びより特別には少なくとも15000である。分子量の上限は通常60000又は70000であろう。
【0057】
ポリシロキサン又は他の物質(B)は好ましくは、25℃で7.5〜200ポイズの範囲の粘度を有する。実例として、範囲の上限に近い粘度を有するヒドロキシ官能性ポリシロキサンの利用が一般的に望ましいだろう。一方、オキシム官能性ポリシロキサンには範囲の下限に近い粘度を有する物質の利用が一般的に望ましいだろう。
【0058】
有利には、硬化触媒が、任意的に助触媒と共に、最初のコーティング上での硬化性ポリシロキサン又は他の物質(B)と未反応官能基との反応を促進するために使用される。使用されてもよい触媒の例は種々の金属、例えばスズ、亜鉛、鉄、鉛、バリウム及びジルコニウムのカルボン酸塩を含む。この塩は好ましくは長鎖カルボン酸の塩、例えばジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクタエート、ステアリン酸鉄、スズ(II)オクタエート及びオクタエン酸鉛である。好適な触媒の更なる例は、オルガノビスマス及びオルガノチタニウム化合物及びオルガノホスフェート、例えばビス(2-エチルヘキシル)ハイドロジェンホスフェートを含む。
【0059】
他の可能な触媒はキレート、例えばジブチルスズアセトアセトネート等を含む。
【0060】
更なる可能性として、触媒は、酸基に対してα位にある炭素原子上に少なくとも1つのハロゲン置換基及び/又は酸基に対してβ位にある炭素原子上に少なくとも1つのハロゲン置換基を有するハロゲン化有機酸、又は縮合反応の条件下でこのような酸に加水分解可能な誘導体を含んでもよい。
【0061】
以下の記述において妥当なところで、酸触媒への言及は加水分解可能なこれらの誘導体への言及を含む。
【0062】
酸触媒は、モノ‐、ジ‐又はポリ塩基性酸でありうるが、好ましくは、モノ塩基性酸である。
酸触媒はプロトン酸であり、1以上のカルボン酸及び/又はスルフォン酸基を含んでもよく、好ましくは1以上のカルボン酸基を含んでよい。
【0063】
この又は夫々のハロゲン置換基はフッ素、塩素、臭素であってよいが、好ましくは塩素である。
【0064】
有利には、酸触媒のα-及び/又はβ-炭素原子上には、1つ又は2つのフッ素置換基、1つ〜3つの塩素置換基又は3つの臭素置換基がある。従って、例えば酸触媒はジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸又はトリブロモ酢酸を含んでもよい。
【0065】
酸は有利には脂肪族酸であるが、好ましくはα-炭素原子に結合した又は酸基に直接結合された芳香族基が好ましくはないという条件で、1以上の芳香族基、例えばフェニル又は置換フェニルを含んでもよい。芳香族基はヘテロ環状基、例えばピリジル又はピローリルであってよい。脂肪族酸は環状の又は好ましくは非環状の酸であってよい。
【0066】
有利には触媒は5つまでの炭素原子を有するハロゲン化アルカン酸又はこのような酸のヒドロキシ置換誘導体である。
【0067】
縮合反応の条件下で酸を形成する加水分解可能な酸誘導体の例として無水物、例えばトリクロロ酢酸無水物、及びエステル(これはヒドロカルビルエステルでありうる)、特にメチルエステル、又はアルキルシリルエステル、有利にはC1〜4のアルキルシリルエステル、特にメチルシリルエステルが述べられる。従って、例えば触媒はトリメチルシリルトリクロロアセテートを含んでもよい。
【0068】
触媒が1より多くの酸基を含む場合、α-及び/又はβ-炭素原子の夫々において又はこれらの炭素原子のただいくつかのハロゲン置換があり得る。
【0069】
酸触媒は、特定のハロゲン置換基に加えて1以上の他の置換基を有してもよい
【0070】
酸触媒は、以前に提案された種類の金属塩触媒がない場合には、単独又は1以上の他の触媒と共に使用されてもよい。特に本発明の酸触媒は、スズベースの触媒例えばジブチルスズジラウレートを不用にする可能性を与える。
【0071】
触媒の比率は、ポリマー(B)の量に基づいて0.01〜5重量%の範囲にあってよく、好ましくは少なくとも0.05重量%、有利には2重量%を超えない。
【0072】
硬化反応のために架橋剤の使用が必要であってよく又は望まれうる。
【0073】
有利には、架橋剤は官能性シラン、より特には以下の式

〔ここで、R1〜R4で表される基は同一でも異なってもよく、少なくとも2官能性があることを条件として、夫々は直鎖又は分岐状、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素残基を表し、好ましくは7個までの炭素原子、より特別には4個までの炭素原子を有し、又は芳香族又は芳香脂肪族炭化水素残基、例えばフェニル又はベンジル、又は脂肪族又は芳香族の他の基、例えばアルコキシ、フェノキシ又はベンジルオキシ基、又はエステル基を含んでもよい。〕
の官能性シランを含む。脂肪族基R1〜R4は好ましくはアルキル基、有利にはC1〜C4のアルキル基好ましくはメチル又はエチル基、およびアルコキシ基R1〜R4は有利にはC1〜C4のアルコキシ、好ましくはメトキシ又はエトキシである。式(I)のアルコキシシランの好ましい例はテトラアルキルオルトシリケート、例えばテトラメチル、-エチル、-プロピル又は-ブチルオルトシリケート、ジメトキシジメチルシラン及びジエトキシジエチルシランを含む。架橋剤として貢献するためには、式(I)の化合物が少なくとも2官能性でなければならず、好ましくは少なくとも3官能性でなければならないことが理解されるであろう。式(I)におけるR1〜R4の任意の基は置換されてなくてもよく、又は例えばハロゲン(特に塩素又はフッ素)、アミノ基又はアルキル基(これらはそれ自身置換または非置換であり得る)から選ばれた1以上の置換基で置換されてもよい。
【0074】
あるいは、官能性シラン架橋剤は式

〔ここで、R4及びR5は同一でも異なってもよく、夫々は直鎖又は分岐状、飽和又は不飽和脂肪族炭化水素残基を表し、好ましくは7個までの炭素原子、より特別には4個までの炭素原子を有し、特別にはメチル又はエチル基;芳香族基、例えばフェニル基;又は芳香脂肪族基、例えばベンジル基を表し;又はR4及びR5は共にアルキレン基を表し;又はR4とR5の一つが水素を表す。〕
の1以上のオキシムの効果により反応性であり得る。R4及び/又はR5基は置換又は非置換でありうる。
【0075】
従って、官能性シランはケチミノキシシラン、例えばメチルトリス(メチルエチルケチミノキシ)シラン又は1以上の以下のケチミノキシシランであることができる。

【0076】
他の可能な架橋剤または硬化剤はオキシム、例えばビニルトリス(メチルエチルケトキシム)又はメチルトリス(メチルエチルケトキシム)を含む。
【0077】
更なる可能性として、より特別にはオルガノ金属触媒、特にスズベースの触媒が使用される場合、架橋又は硬化剤は以下の式

〔ここで、nは3〜10の整数であり、Rは水素又はメチルを表す。〕
の環状化合物を含んでもよい。しかしこのような物質は、硬化における水素の発生から生じる発泡の可能性ゆえに好ましくはない。
【0078】
シラン架橋剤は原則としてモノマーの形で、又は自己縮合生成物の形(これは例えばダイマー、トリマー、ヘプタマー又は低分子量ポリマーであり得る)で取り込まれる。
【0079】
架橋剤の比率は、ポリマー(B)の量を基礎として0.05〜10重量%の範囲、一般的には2〜5重量%であることができる。
【0080】
最初のコーティングを形成する方法及び硬化性ポリシロキサン又は他の物質(B)の次の層を施与する方法は、対応する物質の無反応揮発性溶媒中の溶液を使用して最も都合よく行われる。好適な溶剤は芳香族炭化水素、例えばトルエン、キシレン及びトリメチルベンゼン;アルコール、例えばブタノール;ケトン、例えば4-メチルペンタン-2-オン(メチルイソブチルケトン)、5-メチルヘキサン-2-オン(メチルイソアミルケトン)及びシクロヘキサノン;エステル、例えばブチルアセテート及び2-エトキシエチルアセテート、及び上記の互いの混合物又は脂肪族炭化水素、例えば揮発油(ホワイトスピリット)と上記との混合物を含む。このような溶液は、公知の方法、例えばブラッシ塗装、ローラー塗装、スプレー塗装及びアエロゾル配合物を用いて、コートされるべき表面へ施与されることができる。コスト及び環境の両者の見地から溶剤の使用を最少化するために、使用されるコーティング技術と適合できる、できるだけ高濃度の溶液で使用することが有利である。成分(A)又は(B)を含むコーティング組成物の溶液は事情に応じて、少なくとも35重量%の固形分、一般的には少なくとも50重量%の固形分を含む。ポリマー成分(A)が低分子量である場合は、より高濃度の、例えば少なくとも70重量%の固形分を含む溶液が使用されうる。原則として、最大固形分含有量は90重量%の濃度又はさらに高濃度でさえあり得るが、一般的に最大の実際の固形分含有量は75〜85重量%の範囲、典型的には80重量%であろう。
【0081】
本発明の方法における完全な硬化に到達するために水の存在が一般的に要求されるが、ポリシロキサンの施与中にも又は施与後にも特定の水の添加は通常は要求されない。一般的に大気中の水分は硬化を誘起するのに十分であることが見出され、施与されたポリシロキサンを硬化の目的のために加熱することは通常は必要ないか又は適当でないだろう。
【0082】
最初のコーティング配合物の全ての原料及びポリシロキサン配合物の水分含有量を最少にする工程をとることは好ましく、水又は水性物質を添加すべきでないことが理解されるだろう。従って、例えば商業的に入手可能な溶剤はたびたび少量の水(約1〜2体積%)を含み、使用前にこのような物質の水分含有量を減少させることが好ましい。原則として、このような水分含有量の減少は乾燥剤、例えばナトリウム、ナトリウムハイドライド又はカルシウムハイドライド又は無水硫酸カルシウム等と共に蒸留することにより達成されうるが、有利には反応性水捕集剤、例えば無機塩、例えば硫酸マグネシウム(次にろ過される)又はモノ-又はジ-官能性シラン、例えばエトキシトリメチルシランが使用される。
【0083】
ポリマー(B)を含むコーティング組成物は1以上の反応性のないオイル、例えばシリコーンオイル、特にメチルフェニルシリコーンオイル、例えばRhone-Poulencから「Rhodorsil Huile 550」の商標で販売されるもの又は石油又はポリオレフィン油又はポリ芳香油を含んでもよい。好ましい例は鉱油である。
【0084】
反応性のないオイルの比率は、成分(B)の量に基づいて5〜25重量%、好ましくは10重量%までの範囲であり得る。
【0085】
最初のコーティングは、透明、透光性物質であってもよく、又は使用される顔料又は染料が要求される潜在性を過度に減じない限り(例えば高水分含有量又は表面酸度又は塩基度の結果として)、顔料又は染料による着色がされてもよい。コーティング配合物中の顔料の体積濃度は典型的に0.5〜25%の範囲にある。例えば金属フレーク材料(例えばアルミニウムフレーク)又は他のいわゆる遮へい顔料;さらに耐腐食顔料の使用の特別な言及がされうる。
【0086】
硬化性ポリシロキサン又は他の物質(B)は同様に透明、顔料又は染料による着色がされ、どちらか又は両者の層は他の付形剤及び/又は充填剤、例えば硫酸バリウム又は他の無機充填剤、火成シリカ、ベントナイト又はその他のクレイを含んでもよい。
【0087】
反応性に依存して、硬化性ポリシロキサンを含むコーティング配合物は原則として1-、2-又は3-パック系にまとめられうる。最初のコーティング配合物は1パック系として単純にそして簡単に施与されることができる。
【0088】
乾燥時の最初のコーティング層の厚さは50〜100ミクロンの範囲にあり得、硬化されたポリシロキサンを含む層の厚さは同様の範囲であり得る。望まれる場合、夫々の層の1より多くが施与されうる。
【0089】
基体は、汚れ環境、特に水生環境中で使用されるいずれの物質でもよい。従って、例えば基体は金属、例えばスチール又はアルミニウム;木;コンクリート;繊維強化樹脂、例えばポリエステル樹脂など;又は他のプラスチック材料であってよい。公知の耐腐食性コーティング(例えばエポキシ、ビニル又はアルキドコーティング等)が最初のコーティング配合物の施与前に基体に施与され得る。
【0090】
本発明に従って施与される最初の層は、タイコートとシーラーの組み合わされたものとして配合され得る。
【0091】
本発明の特別な有利な点は、特に好適な遮へい性又は耐腐食顔料が使用される場合に、最初のコーティングが磨耗され又は損傷を受けた抗汚れコーティングの領域を覆ってうまく施与されうることであり、そのために時間の浪費及び(毒性抗汚れ物質の場合)潜在的に危険な作業が避けられる。一般に、本発明に従う最初のコーティングの施与前に必要とされる唯一の表面調製は、高圧の真水(fresh water)の洗浄である。
【0092】
本発明に従う最初のコーティングが施与されうるところへの抗汚れコーティングの例は、自己研磨性スズコポリマー、ロジンラロフレックス及びロジンアクリルを含む。低表面エネルギー系、例えばシリコーン及びフッ素ポリマーは、本発明に従う最初のコーティングを施与するための丈夫な基礎を与えない。
【0093】
さらに重要な有利な点は、本発明の方法に従う、層の順次的な施与が、外側のシロキサン豊富な領域を作るためにデザインされた複雑な系(例えばWO93/13179)により与えられるものより単純であり、より柔軟性があり、そしてより制御可能な方法であることである。
【0094】
ここで述べた種々のパラメーター、特に潜在的反応性を与える官能基の性質と含有量の適切な選択により、本発明の方法における最初の層の組成物は別々の層の施与の間の比較的長い時間間隔を許容するように設計され得る。
次の実施例は本発明の方法を説明する。
【実施例1】
【0095】
老化した防汚物質(自己‐研磨スズコポリマー、ロジン Laroflex又はロジンアクリル)の被覆を有しているガラス強化プラスチック(GRP)基体が、高圧洗浄によりきれいにされ、そして乾燥された。
第一の被覆配合物が、ブラッシング及びローラーコーティングにより洗浄された基材に施与され、そして乾燥されて、該被覆配合物から誘導された未反応の官能基の効力により潜在的な反応性を有する平均厚み75ミクロンの初期層を与える。
未反応の官能基により与えられる潜在期間の消耗の前に、硬化性のオルガノポリシロキサン又は硬化性のフッ化アクリルポリマーを含むところの第二の被覆配合物が、初期層に施与されて、そして硬化されて平均厚み75ミクロンの付着した防汚層を与える。
第一の被覆配合物の組成は下記の通りである。
【0096】

【0097】
この組成から形成された初期層により与えられる潜在期間は、予備実験において決定される。その試験において、硬化性のオルガノポリシロキサン組成物の一部が、初期層の異なる試験領域に一連の異なる時間の間隔で施与される。潜在期間は、ポリシロキサンコーティングの十分な接着が一層達成されるところの(初期層の施与後の)温度及び湿度の一般的な条件における最大の時間の間隔であることが採用される。
【0098】
[実施例2〜8]
実施例1の方法が、下記に述べられる異なった初期の被覆組成を使用して繰り返される。同一のGRP基材が、指摘されたことを除いて使用される。
【実施例2】
【0099】

【実施例3】
【0100】

【実施例4】
【0101】

【実施例5】
【0102】

【実施例6】
【0103】

【実施例7】
【0104】

【実施例8】
【0105】

実施例において使用されたアクリルポリマーAは、次のモノマーから誘導される。
【0106】

【0107】
アクリルポリマーAは次のようにして製造される。
トリメチルベンゼン(540.0グラム)が、機械式攪拌機、温度プローブ、水コンデンサー及び供給口を取付けられた、3リットルの頂部フランジ付きの反応容器に加えられる。モノマー及びラジカル開始剤アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN、23.4グラム)から作られたモノマーフィードが調製された。反応容器は、窒素のゆっくりとした流れの下に100℃に加熱され、そしてフィードが3時間に亘って加えられた。該添加の間に、温度は、温度コントロールユニットを使用して100℃に維持される。モノマーフィードの終了後、溶液は、30分間100℃に保持され、その時間の後、トリメチルベンゼン(30グラム)中のAIBN(7.8グラム)の追加分が一回の注入で加えられる。45分間100℃で該溶液を攪拌した後、第二の同一の追加分が加えられ、そして該溶液は、放冷される前に更に1時間攪拌された。
【0108】
固体%(理論値)=70%
Tg(理論値) =39.1℃
分子量(Mn) 3000
【0109】
実施例において使用されたアクリルポリマーBは下記のモノマーから誘導される。
【0110】

アクリルポリマーBは、アクリルポリマーAと同様に製造され、そしてTg(理論値)=36.7℃及び分子量(Mn) 10000を有している。
実施例において使用されたエポキシアダクトIは、966.2重量部のEpikote 1001(ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合物)と33.8重量部のメルカプトプロピルトリメトキシシランから得られる。アダクトは次の手法により製造される−即ち、エタノール(1000.0グラム)及びEpikote 1001が、機械式攪拌機、温度プローブ及び水コンデンサーを取付けられた、3リットルの頂部フランジ付きの反応容器に広首漏斗を経て加えられる。白色のエマルジョンが攪拌において形成され、そして還流(約78℃)まで加熱された。メルカプトプロピルトリメトキシシランが次いで、4時間に亘ってぜん動ポンプにより滴下添加される。シランの添加後、反応は、更に1時間、あるいは13C NMRにより測定されて反応が完結するまで還流下に進めることを許された。
該溶液は、約50℃に放冷され、そしてCB30(428.0グラム)が加えられる。フラスコが蒸留器ヘッド及び蒸留除去装置を取付けられ、そして全ての低沸点溶媒(エタノール:メタノール 約85.15)が、減圧(約600mmHg)下に低温(蒸留器ヘッド 約40℃)で除去された。
【0111】
固体%(理論値)=70%
Tg(理論値) =38.9℃
別のエポキシ付加物IIが900.0重量部のEpikote1004(ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの縮合生成物)及び100.0重量部のメルカプトプロピルジメトキシメチルシランから類似的に得られうる。
%固形分(理論値)=60%
Tg(理論値) =61.9℃
アクリルポリマーA及びエポキシ付加物Iにより与えられる潜在期間は最大で7日であり;アクリルポリマーB及びエポキシ付加物IIにより与えられる潜在期間は最大で2週間である。
実施例における第2のコーティングを形成するためのコーティング配合物は以下のようである。
【0112】

フッ素化アクリルポリマーCは以下のモノマーから誘導される。
【0113】

フッ素化アクリルポリマーCは、連鎖移動剤がなく、トリメチルベンゼンの量が90.00重量部、ラジカル開始剤AIBNの量が主モノマーのフィード中で5.10重量部であって各ブースト中の量が1.70重量部であることを除いて、アクリルポリマーAと同様に調製される。
%固形分(理論値)=70%
分子量(Mn) =8000


【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚れ環境における基体の汚れを抑制する方法であって、上記環境へさらす前に、潜在的な反応性を与える未反応の、硬化性の、ケイ素含有官能基を有するフィルム形成性ポリマー(A) を含むコーティングを基体上に形成すること、及びその後、硬化性のポリマー状汚れ抑制物質(B)を含む層を施与すること、そして施与された層を、該未反応官能基が関与する縮合硬化反応により上記コーティングへ結合することを含む方法。
【請求項2】
(A)の硬化性ケイ素含有官能基が懸垂した官能基であるところの請求項1記載の方法。
【請求項3】
ケイ素含有官能基が脂肪族、芳香族及び芳香脂肪族エーテル及びオキシム基(これらは置換されていても非置換でもよい)から選ばれた1以上の硬化性官能基により硬化性であるところの請求項1〜2のいずれか1つに従う方法。
【請求項4】
硬化性ケイ素含有官能基が式
-Si(R1)(R2)(R3)
〔ここで、R1,R2及びR3で表される基は、同一でも異なってもよく、夫々はエーテル又はエステル基を含んでもよく、好ましくは1〜4の炭素原子を含む直鎖又は分岐状のアルキル残基を含む基であり、ここにおいてR1〜R3の1つ又は2つが水素又は炭化水素基、好ましくは1〜4の炭素原子を有する直鎖又は分岐状のアルキル基であることができる。〕
の基であるところの請求項1〜2のいずれか1つに従う方法。
【請求項5】
ケイ素含有官能基が式

〔ここで、R4及びR5は同一でも異なってもよく、夫々は直鎖又は分岐状、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素残基を表し、好ましくは7個までの炭素原子、より特別には4個までの炭素原子を有し、特にはメチル又はエチル基;芳香族基、例えばフェニル基;又は芳香脂肪族基、例えばベンジル基を表し;又はR4とR5が一緒になってアルキレン基を表し;又はR4とR5の一つが水素を表す。〕
の1以上のオキシム基により硬化性であるところの請求項1〜2のいずれか1つに従う方法。
【請求項6】
硬化性ケイ素含有官能基がトリメトキシシリル又はメチルジメトキシシリル基であるところの請求項1〜2のいずれか1つに従う方法。
【請求項7】
ポリマー(A)がシラノール官能性もアミン官能性もを有さないところの請求項1〜6のいずれか1つに従う方法。
【請求項8】
ポリマー(A)が、潜在的反応性を与える硬化性ケイ素含有官能基以外の官能基を有さないところの請求項1〜7のいずれか1つに従う方法。
【請求項9】
フィルム形成性ポリマー(A)の繰り返し単位の少なくとも過半数がシロキサン繰り返し単位以外であるところの請求項1〜8のいずれか1つに従う方法。
【請求項10】
フィルム形成性ポリマー(A)のシロキサン繰り返し単位の比率が25%より多くなく、好ましくは10%より多くなく、より特別には5%より多くないところの請求項9に従う方法。
【請求項11】
ポリマー(A)が実質的にシロキサン繰り返し単位を含まないところの請求項1〜10のいずれか1つに従う方法。
【請求項12】
ポリマー(A)が、硬化性ケイ素含有官能基を有する1以上のモノマー(A1)及びこのようなケイ素含有官能基を有さない1以上のモノマー(A2)から誘導されるところの請求項1〜11のいずれか1つに従う方法。
【請求項13】
ポリマー(A)が1以上のエチレン性不飽和モノマーから誘導されるところの請求項1〜12のいずれか1つに従う方法。
【請求項14】
ポリマー(A)のTgが環境温度より高いところの請求項1〜13のいずれか1つに従う方法。
【請求項15】
ポリマー(A)が3000〜10000の範囲の数平均分子量を有するところの請求項1〜14のいずれか1つに従う方法。
【請求項16】
未反応の硬化性ケイ素含有官能基が48時間以上の潜在的反応性の期間を備えるところの請求項1〜15のいずれか1つに従う方法。
【請求項17】
汚れ抑制物質(B)がシラノール又はケイ素-アルコキシ基により硬化性であるところの請求項1〜16のいずれか1つに従う方法。
【請求項18】
汚れ抑制物質(B)が脂肪族、芳香族及び芳香脂肪族エーテル、エステル及びオキシム基、トリアルコキシシリル又はヒドロシリル基から選ばれた硬化性官能基により硬化性であるところの請求項1〜16のいずれか1つに従う方法。
【請求項19】
汚れ抑制物質(B)が線状ポリマーであるところの請求項1〜18のいずれか1つに従う方法。
【請求項20】
汚れ抑制物質が硬化性ポリシロキサンを含むところの請求項1〜19のいずれか1つに従う方法。
【請求項21】
ポリシロキサン(B)がR3O(SiR1R2O)n R3
〔ここでR1及びR2は、ポリマー中のケイ素原子の夫々において及び異なるケイ素原子において同一でも異なってもよく、夫々はアルキル基;アルケニル基;シクロアルキル又はシクロアルケニル基;アリール基;又はハロゲン化又はシアノ置換炭化水素基を表し、但しいくつかの又は全てのケイ素原子上においてR1及びR2の1つが水素を表してもよく、いくつかのケイ素原子上ではR1及びR2の夫々が水素を表してもよく、
OR3は、R3が一価の残基を表すところの硬化性官能基を表し、そしてnは重合度を表す〕
の構造を有するところの請求項20に記載された方法。
【請求項22】
汚れ抑制物質が硬化性フッ素含有ポリマーを含むところの請求項1〜19のいずれか1つに従う方法。
【請求項23】
フッ素含有ポリマーがフルオロアクリレートポリマーを含むところの請求項22に従う方法。
【請求項24】
汚れ抑制物質(B)が5000〜85000の範囲の数平均分子量を有するところの請求項1〜23のいずれか1つに従う方法。
【請求項25】
汚れ抑制物質(B)が、縮合硬化反応のための触媒と混合して又は連続して施与されるところの請求項1〜24のいずれか1つに従う方法。
【請求項26】
汚れ抑制物質(B)が、縮合硬化反応のための架橋剤と混合して又は連続して施与されるところの請求項1〜25のいずれか1つに従う方法。
【請求項27】
基体が、その上に磨耗した又は損傷を受けた汚れ防止コーティングを有するところの請求項1〜26のいずれか1つに従う方法。
【請求項28】
汚れ環境が水中の環境であるところの請求項1〜27のいずれか1つに従う方法。
【請求項29】
汚れ環境が海洋環境であるところの請求項28に従う方法。
【請求項30】
汚れ環境中の基体であって、その上にコーティング及び、請求項1〜29のいずれか1つに従う方法により形成された汚れ抑制層、より特別には硬化されたポリシロキサン層を有する基体。

【公開番号】特開2009−235415(P2009−235415A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138791(P2009−138791)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【分割の表示】特願2000−526590(P2000−526590)の分割
【原出願日】平成10年12月23日(1998.12.23)
【出願人】(500271306)インターナショナル コーティングズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】