説明

汚水の膜分離活性汚泥処理方法及び装置

【課題】膜分離活性汚泥法及び装置において、膜分離槽内に設置した浸漬膜ユニットの洗浄に要する空気量を削減し、コスト低減と省エネルギー化を図る。
【解決手段】生物反応槽1と浸漬膜ユニット3を浸漬した膜分離槽2とを別置きにして設け、生物反応槽1の上部空間17に気相を形成した状態で密閉し、上部空間17と膜分離槽2内に浸漬した浸漬膜ユニット3の下方に設置した浸漬膜ユニット洗浄用の散気管4とを配管16で連結し、生物反応槽1に吹き込まれた空気のオフガスを浸漬膜ユニットの洗浄に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物反応槽とは別置きに設置するようにした、膜分離槽内に浸漬された状態で設置されている浸漬膜ユニットの洗浄のための空気量を低減し、コスト低減及び省エネルギーを図ることを可能とする汚水の膜分離活性汚泥処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃水、生活排水、下水などの汚水を浄化して、高品質の処理水を得るとともに、装置のコンパクト化が図れる汚水の処理方法として、「膜分離活性汚泥法」(以下、「MBR」という。)及びその装置が近年注目されている。
【0003】
一方、従来の活性汚泥処理方法及び装置は、汚水と活性汚泥とを、空気を吹き込みながら混合接触させ、生物化学的反応により、有機物などの汚濁物質を酸化分解し浄化するための曝気槽(以下、「生物反応槽」という。)と、この生物反応槽から流出する活性汚泥と処理水との混合液を自然沈降による固液分離手段によって処理水と沈殿汚泥とに分離するための沈殿槽とから構成されている。
ところで、従来の活性汚泥処理方法においては、沈殿による固液分離能力に限界があることから、生物反応槽内に保持できる活性汚泥濃度(以下、「MLSS濃度」という。)にも自ずから限界があり、一般的にMLSS濃度は、概ね2,000〜3,000mg/Lの範囲で運転されている。
【0004】
これに対して、MBRでは、生物反応槽内に浸漬された状態で設置されている浸漬膜ユニットを介してポンプにより吸引ろ過を行うことにより、従来の沈殿による固液分離に比して、生物反応槽内のMLSS濃度を8,000〜12,000mg/L程度に保持できるので、生物反応槽内の活性汚泥量に対して取り得る有機物負荷を一定とすれば、生物反応槽内のMLSS濃度を高く保持できる分、生物反応槽を含む装置全体を著しくコンパクトなものとすることが可能である。
【0005】
このMBRでは、活性汚泥混合液の分離のために、表面の孔径が概ね0.1〜0.4μmの範囲にある中空糸状、あるいは平膜状の精密ろ過膜(MF膜)を用いることが公知となっている。これらの膜を集積して面積を大きくしユニット化した浸漬膜ユニットを生物反応槽若しくは膜分離槽内に浸漬した状態で設置し、ポンプ吸引により連続的に膜ろ過を行って処理水を得る方式が公知である。このような方式を「槽浸漬型MBR」と呼んでいる。
【0006】
活性汚泥混合液を連続的に膜ろ過すると、微細化された活性汚泥の粒子や活性汚泥の代謝生産物である高分子状物質が膜の表面に蓄積することにより、ゲル層と呼ばれるろ過抵抗層が形成されることにより、ろ過圧力が急激に上昇する。
このゲル層の形成を防止するために、特許文献1及び特許文献2に開示されているように、浸漬膜ユニットの下部より連続的にブロワからの空気を浸漬膜ユニットの下方に設置した散気装置を介して吹き込むことにより防止する方法が公知の方法として用いられている。このような操作はエアバブリングあるいはエアスクラビングと呼ばれており、膜の物理的な洗浄方法の一種である。
この操作の効果としては、比較的粗大な気泡が膜面に沿って上昇することにより、形成される気泡同伴上昇流の剪断効果によって膜面に形成されたゲル層を連続的に剥離することによるものと、同伴上昇流によって膜が揺籃することによるものが主なものとされている。
【0007】
ゲル層の形成を良好に防止しながら、膜ろ過を安定的に継続するためには、一定量以上の空気量が必要とされており、非特許文献1には、中空糸状のMF浸漬膜ユニットの場合の必要空気量の例として、0.2m3/m2膜面積/時以上が必要であることが示されている。
上記の必要空気量は生物反応槽内の活性汚泥による有機物の分解やアンモニア性窒素の硝酸化に必要な空気量と同量若しくはそれ以上の量であり、生物反応槽用とは別途にブロワが必要なことやブロワ運転に必要なエネルギー消費量が増加するので、このことがMBR装置の設置コスト及び運転コストを押し上げる結果、MBRの普及を阻害する要因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−131783号公報
【特許文献2】特開平11−104670号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】石山、2009造水技術シンポジウム資料、平成21年2月、p.9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、浸漬膜ユニットの洗浄に必要な空気量を削減するとともに、必要なブロワの台数を減らし、MBR装置コスト及び運転コストを低減することによって、MBR及びその装置の汚水処理分野における普及を今後さらに促進することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明においては、生物反応槽と浸漬膜ユニットを浸漬した状態で設置した膜分離槽を分離して設置し(以下、「膜分離槽別置型MBR」という。)、生物反応槽の上部空間に気相部を形成するようにして密閉し、該生物反応槽の上部空間と膜分離槽内の浸漬膜ユニットの下方に設置した散気装置とを配管により連結し、生物反応槽に吹き込まれた空気のオフガスを浸漬膜ユニットの空気洗浄に利用するようにした。
【0012】
より具体的には、本発明の汚水の膜分離活性汚泥処理方法は、有機物等の汚濁物を含む汚水を活性汚泥と接触させて溶存酸素が存在する好気条件のもとで反応させる生物反応槽と、活性汚泥と処理水を分離する膜分離槽とを別置きで設置するようにした汚水の膜分離活性汚泥処理方法であって、生物反応槽の上部空間に気相部分を形成した状態で密閉し、該気相部分と膜分離槽内に浸漬された状態で設置されている浸漬膜ユニットの下方に設置した散気管とを配管で連結し、生物反応槽に吹き込まれた空気のオフガスを前記配管を介して散気管に供給して浸漬膜ユニットの空気洗浄に利用するようにしたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の汚水の膜分離活性汚泥処理装置は、有機物等の汚濁物を含む汚水を活性汚泥と接触させて溶存酸素が存在する好気条件のもとで反応させる生物反応槽と、活性汚泥と処理水を分離する膜分離槽とを別置きで設置するようにした汚水の膜分離活性汚泥処理装置であって、生物反応槽の上部空間に気相部分を形成した状態で密閉し、該気相部分と膜分離槽内に浸漬された状態で設置されている浸漬膜ユニットの下方に設置した散気管とを配管で連結し、生物反応槽に吹き込まれた空気のオフガスを前記配管を介して散気管に供給するようにしたことを特徴とする。
【0014】
この場合において、生物反応槽気相部分と膜分離槽内に浸漬した浸漬膜ユニットの下方に設置した散気管とを連結する配管に、曝気ブロワから生物反応槽への空気管が分岐されて接続されており、該分岐した空気分岐管には圧力調整手段が設けられており、生物反応槽の上部空間と膜分離槽に浸漬した浸漬膜ユニットの下方に設置した散気管とを連結する配管には逆止弁が設けてあり、曝気ブロワから生物反応槽の散気管への空気配管には、生物反応槽の液相部に設置したセンサ及びその信号による調節器によって制御される空気流量調整手段を設けることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、膜分離槽別置型MBRにおいて、必要なブロワの台数を減少させることができ、装置コストを低減することが可能となる。
さらに、ブロワ運転に要するエネルギーを削減できるので、運転コストの低減化と省エネルギー化も可能となる。
【0016】
また、曝気ブロワから生物反応槽への空気管を分岐して、曝気ブロワからの空気を散気管に供給することにより、浸漬膜ユニットのゲル層の形成を良好に防止しながら、膜ろ過を安定的に継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来の膜分離槽別置型MBR装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施例を示す図である。
【図3】本発明の第2の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の内容を図面に基づいて、より詳しく説明する。
【0019】
図1は従来の膜分離槽別置型MBR装置の構成を示す図である。
この装置は、生物反応槽1と膜分離槽2とから構成されており、生物反応槽1内には空気を吹き込み生物反応に必要な酸素を溶解/供給するための散気装置5が設置されている。
散気装置5は、生物反応槽曝気用のブロワ6と配管により連結されている。
膜分離槽2には、浸漬膜ユニット3が浸漬されており、生物反応槽1より移送される生物反応槽混合液を膜ろ過ポンプ9により吸引膜ろ過を行い、膜ろ過処理水を得るように構成されている。
膜分離槽2において濃縮された活性汚泥混合液は、返送汚泥ポンプ8により生物反応槽1へ返送される。
浸漬膜ユニット3の下方には浸漬膜ユニット洗浄用の散気装置としての散気管4が設置されており、浸漬膜ユニット洗浄用のブロワ7と配管により連結されている。
なお、図1には示していないが、有機物等を分解することに伴って増加する余剰の活性汚泥を装置外へ排出する手段が別途設けられている。
【0020】
図2は本発明の第1の実施例を示す図である。
本実施例においては、生物反応槽1の上部空間17に気相部を形成するように密閉し、上部空間17と膜分離槽2内に設置した浸漬膜ユニット洗浄用の散気装置としての散気管4とを配管16により連結し、生物反応槽1内に吹き込まれた空気のオフガスにより、浸漬膜ユニット3を空気洗浄するようにしている。
【0021】
本実施例においては、図1に示した従来の膜分離槽別置型MBR装置に必須の浸漬膜ユニット洗浄用のブロワ7は不要となる。
【0022】
本実施例において、生物反応槽1内へ吹き込まれた空気中の酸素は、約20%程度しか消費されないので、生物反応槽1の上部空間17の気相部に滞留するオフガス中には酸素が依然として十分な濃度で残留しており、このオフガスを膜分離槽2内へ浸漬膜ユニット3の洗浄のために導入したとしても、膜分離槽2内の液相部において酸素不足の状態になることはない。
また、主として窒素、酸素から構成されている空気の溶解度は低いので、生物反応槽1で減少する空気量は極めて僅かなものである。したがって、生物反応槽1で発生するオフガス量は生物反応槽1に吹き込んだ空気量とほぼ同量と考えてよい。
【0023】
ここで、本実施例におけるブロワ6の吐出空気量は、以下のように決定する。
生物反応に必要な空気量が浸漬膜ユニット3の洗浄に必要な空気量よりも大きい場合には、生物反応に必要な空気量に基づいて決定する。
逆に、浸漬膜ユニット3の洗浄に必要な空気量が生物反応に必要な空気量よりも大きい場合には、浸漬膜ユニット3の洗浄に必要な空気量に基づいて、それぞれの量を上回るように決定する。
【0024】
本実施例におけるブロワ6の吐出圧力は、生物反応槽用の散気装置5の水位、膜分離槽2における浸漬膜ユニット洗浄用の散気装置としての散気管4の水位、各散気装置における圧力損失及び空気配管での圧力損失の合計よりも大きいものとする。ブロワ6の吐出圧力としては、好ましくは70kPa以上である。
【0025】
なお、本実施例においては、生物反応槽1から膜分離槽2への配管の途中に、生物反応槽混合液の移流量を、ほぼ一定に制御するための生物反応槽混合液移流量調整機構18を設けている。
【0026】
図3は本発明の第2の実施例を示す図である。
本実施例においては、生物反応槽曝気用のブロワ6と生物反応槽用の散気装置5の間の空気配管の途中に空気流量調節弁12を設けている。
この空気流量調節弁12は、生物反応槽1内に設置したセンサ10の信号により調節計11を介して開閉するようになっている。センサ10は溶存酸素濃度(DO)センサあるいは酸化還元電位(ORP)センサであり、これらの値が一定となるように、原水の有機物等の濃度に応じて空気流量調節弁12を介して生物反応槽1への空気流量を制御するようにしたものである。
【0027】
余剰の空気は、生物反応槽曝気用のブロワ6と生物反応槽用の散気装置5の間の空気配管から分岐され、生物反応槽1の上部空間17と浸漬膜ユニット洗浄用の散気装置としての散気管4とを接続する配管16に接続された空気分岐管15を介して、浸漬膜ユニット洗浄用の空気として利用され、浸漬膜ユニット3のゲル層の形成を良好に防止しながら、膜ろ過を安定的に継続することができる。
【0028】
生物反応槽曝気用のブロワ6と生物反応槽用の散気装置5の間の空気配管から分岐された空気分岐管15の途中には圧力調整弁13が、生物反応槽1の上部空間17と浸漬膜ユニット洗浄用の散気装置としての散気管4とを接続する配管16の途中には逆止弁14が設けられており、圧力の不均衡による空気分岐管15から配管16への空気の逆流を防止するようにしている。
【0029】
なお、本実施例において、生物反応槽1から膜分離槽2への配管の途中に、生物反応槽混合液の移流量を、ほぼ一定に制御するための生物反応槽混合液移流量調整機構18を設けている点は、実施例1と同様である。
【0030】
図2及び図3に示す実施例は本発明の実施態様の一部を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、本発明の実施態様は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の膜分離活性汚泥法及び装置は、簡易な機構によって、膜分離槽内に設置した浸漬膜ユニットの洗浄に要する空気量を削減し、コスト低減と省エネルギー化を図ることができることから、新設の膜分離槽別置型MBR装置のほか、既設の膜分離槽別置型MBR装置にも広く適用できるものである。
【符号の説明】
【0032】
1 生物反応槽
2 膜分離槽
3 浸漬膜ユニット
4 散気管(浸漬膜ユニット洗浄用の散気装置)
5 生物反応槽用の散気装置
6 生物反応槽曝気用のブロワ
7 浸漬膜ユニット洗浄用ブロワ
8 返送汚泥ポンプ
9 膜ろ過ポンプ
10 生物反応槽内に設置したセンサ
11 調節計
12 空気流量調節弁
13 圧力調節弁
14 逆止弁
15 生物反応槽曝気用のブロワからの空気分岐管
16 生物反応槽の上部空間と浸漬膜ユニット洗浄用散気装置を接続する配管
17 生物反応槽の上部空間
18 生物反応槽混合液移流量調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物等の汚濁物を含む汚水を活性汚泥と接触させて溶存酸素が存在する好気条件のもとで反応させる生物反応槽と、活性汚泥と処理水を分離する膜分離槽とを別置きで設置するようにした汚水の膜分離活性汚泥処理方法であって、生物反応槽の上部空間に気相部分を形成した状態で密閉し、該気相部分と膜分離槽内に浸漬された状態で設置されている浸漬膜ユニットの下方に設置した散気管とを配管で連結し、生物反応槽に吹き込まれた空気のオフガスを前記配管を介して散気管に供給して浸漬膜ユニットの空気洗浄に利用するようにしたことを特徴とする汚水の膜分離活性汚泥処理方法。
【請求項2】
有機物等の汚濁物を含む汚水を活性汚泥と接触させて溶存酸素が存在する好気条件のもとで反応させる生物反応槽と、活性汚泥と処理水を分離する膜分離槽とを別置きで設置するようにした汚水の膜分離活性汚泥処理装置であって、生物反応槽の上部空間に気相部分を形成した状態で密閉し、該気相部分と膜分離槽内に浸漬された状態で設置されている浸漬膜ユニットの下方に設置した散気管とを配管で連結し、生物反応槽に吹き込まれた空気のオフガスを前記配管を介して散気管に供給するようにしたことを特徴とする汚水の膜分離活性汚泥処理装置。
【請求項3】
生物反応槽気相部分と膜分離槽内に浸漬した浸漬膜ユニットの下方に設置した散気管とを連結する配管に、曝気ブロワから生物反応槽への空気管が分岐されて接続されており、該分岐した空気分岐管には圧力調整手段が設けられており、生物反応槽の上部空間と膜分離槽に浸漬した浸漬膜ユニットの下方に設置した散気管とを連結する配管には逆止弁が設けてあり、曝気ブロワから生物反応槽の散気管への空気配管には、生物反応槽の液相部に設置したセンサ及びその信号による調節器によって制御される空気流量調整手段が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の汚水の膜分離活性汚泥処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−194305(P2011−194305A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62689(P2010−62689)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000238186)扶桑建設工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】