説明

汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理方法及びシステム

【課題】水熱反応で前処理した汚泥からのメタンガス回収量を増やすことができるメタン発酵処理方法及びシステムを提供する。
【解決手段】濃縮装置4により汚泥Sを所定含水率に濃縮したのち、その濃縮汚泥Sを水熱反応器11と気液分離器12との間に所定時間循環させてメタン発酵処理による汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が最大となる熱水温度Tに加熱しながら低分子化し、その低分子化汚泥Sをメタン発酵槽20に所定時間滞留させてメタンガスGを回収する。好ましくは、熱水温度Tを160〜200℃の温度範囲においてメタン発酵処理による汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が極大となる温度とし、低分子化汚泥Sをメタン発酵槽20に3〜5日滞留させてメタンガスGを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理方法及びシステムに関し、とくに下水処理場や廃水処理場等から排出される汚泥を水熱反応により低分子化したうえでメタン発酵処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場や化学工場、食品工場等の廃水処理場では、下水・廃水中の有機物を微生物分解する活性汚泥法が広く行われており、未分解有機物や増殖した微生物等の固形分を含む大量の生汚泥及び余剰汚泥(以下、両者をまとめて単に汚泥という)が発生する。汚泥は産業廃棄物として処分する必要があり、従来多くの汚泥は脱水又は焼却後に埋立処分されているが、最近は温暖化防止等の観点から焼却処分等を避けて減容化・減量化することが求められており、その一手法として汚泥を減容・減量すると同時にエネルギー資源となるメタンガスを回収できるメタン発酵処理技術の研究開発が進められている。従来のメタン発酵処理技術で汚泥をメタンガスに分解することも可能であるが、汚泥中には微生物由来の難分解固形分が多量に含まれているため分解処理効率が低く、メタンガスに分解されるまで非常に長い時間(例えば15〜30日以上の消化日数)を要し、そのために設備の規模が大きくなってしまう等の問題点がある。
【0003】
メタン発酵処理による汚泥の分解処理効率を高めるため、アルカリ処理、オゾン処理、超音波処理等の前処理により汚泥を低分子化したうえでメタン発酵処理することが提案されている(例えば特許文献1参照)。しかし、これらの前処理は消費エネルギー等の観点から経済収支が成り立つまでには至っていない。これに対し、比較的小さな消費エネルギーで汚泥を低分子化できる前処理技術として水熱反応(高温高圧水による加水分解反応)が注目されている。水熱反応は、水の臨界点(374℃、22MPa)より温度・圧力は低いが常温水の300倍近いイオン積を有する高温高圧水(以下、熱水ということがある)を用いた加水分解反応であり、熱水の加水分解作用により固形分を含む汚泥を短時間でメタン発酵容易な低分子にまで分解することができる一方で、超臨界水反応に比して分解力が弱く有機物を無機物にまで分解される前に取り出すことができるので、汚泥の前処理に適しているといわれている(特許文献2、3参照)。
【0004】
例えば特許文献2は、図4に示すように供給タンク6に蓄えた汚泥スラリーを、供給装置(高圧ポンプ等)7により所定温度の加熱器11aを介して水熱反応装置10aに供給して低分子化したのち、その低分子化処理物から分離した水相を定量ポンプ19aによりメタン発酵槽20へ導入してメタン発酵処理するメタンガス製造方法を開示している。例えば、水熱反応後の低分子化処理物を原料タンク19に一時蓄えて遠心分離器(図示せず)により油相−水相−固形相の3層に分離し、分離した水相をメタン発酵槽20に導入する。メタン発酵槽20で発生したメタンガスは、パイプを介してガスタンク23に回収する。図示例は汚泥スラリーを連続的に低分子化処理する連続式の水熱反応装置10aを示しているが、バッチ式の水熱反応装置を用いることもできる。
【0005】
また特許文献3は、図5に示すように粉砕タンク8aと供給タンク6と循環型水熱反応装置10とを用いた汚泥の前処理方法を開示している。図示例の粉砕タンク8aに蓄えた汚泥は、粉砕ポンプ8b及び三方弁8c(粉砕タンク8a側に切り替えられている)を介して循環しながらスラリー状に粉砕されたのち、三方弁8c(供給タンク6側に切り替えられている)を介して供給タンク6に送られ、更に供給装置(モーノポンプ等)7を介して水熱反応装置10の循環ポンプ14のサクション側へ供給される。図示例の循環型水熱反応装置10は、熱交換器を含む水熱反応器11と気液分離器12と循環ポンプ14とにより構成されており、供給された汚泥スラリーを水熱反応器11と気液分離器12と循環ポンプ14とを結ぶ循環路に循環させながら低分子化する。
【0006】
図5において水熱反応装置10に供給された汚泥スラリーは、循環ポンプ14により水熱反応器11内の細管群(熱交換器)の内部を上昇しながら加熱媒体Hとの熱交換により熱水となって低分子化され、上部連通管11aを介して気液分離器12に送入される。水熱反応器11と気液分離器12との圧力差は均圧管11bにより消去されており、気液分離器12の液面は制御装置15により一定に維持されている。従って、水熱反応器11からの汚泥の送入に応じて、気液分離器12内の分解水溶液(低分子化された汚泥)の一部が自圧で液面コントロール弁15aを介して反応装置10の外部へ溢出又は抜出され、残りの分解水溶液が循環ポンプ14によって再び水熱反応器11内に戻されて循環する。循環路の内容積を汚泥スラリーの供給量xと分解水溶液の循環時間yとの積(xy)に一致させることにより、水熱反応装置10内の汚泥スラリーの循環時間yを一定に維持し、外部へ出力された分解水溶液を均一な濃度とすることができる。図中の符合16は気液分離器12の温度計、符合17は圧力逃がし弁17a付き圧力計、符合18は安全弁を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−288594号公報
【特許文献2】国際公開第2004/037731号パンフレット
【特許文献3】特開2008−296192号公報
【特許文献4】特開2000−167523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図4に示す連続式(又はバッチ式)の水熱反応装置10aは、比較的低濃度の汚泥スラリーを低分子化処理することは可能であるものの、固形分が高濃度に含まれる汚泥スラリーを低分子化処理するには適していない問題点がある。すなわち、図4のように1パス(スルー)方式の水熱反応装置10aに高濃度の汚泥スラリーを供給すると、装置内部で固液分離が発生して液分が優先的に排出されると共に固形分が装置内部に滞留してしまうので、装置から排出される汚泥(低分子化された汚泥)に濃度のバラツキが生じやすい。また、装置内部に滞留した固形分が高温の内面に接触して固着又は焦げ付くおそれがある。従って、図4の水熱反応装置10aを用いた前処理は、汚泥を多量の水分が含まれる低濃度のまま加熱しなければならないので、低分子化処理に比較的大きな加熱エネルギーを必要とする課題が残る。
【0009】
これに対し図5のような循環型の水熱反応装置10は、固形分を含む高濃度汚泥スラリー(例えば固形分率30〜70重量%の汚泥スラリー)を低分子化処理することも可能である。すなわち、図5の水熱反応装置10では、水熱反応器11と気液分離器12とを結ぶ循環路の内容積をxy(=汚泥スラリーの供給量xと分解水溶液の循環時間yとの積)とすることによりスラリーを繰り返し系内循環させても循環路でのスラリー滞留時間を一定に維持することができ、しかも循環路にスラリー中の固形分の終末沈降速度より速い流れ(例えば終末沈降速度の数倍程度の速さの流れ)を生じさせて上述した装置内部での固形分の沈降・滞留を避けることができる。図5の循環型の水熱反応装置10を前処理として図4のメタン発酵槽20と組み合わせれば、汚泥を比較的小さな消費エネルギーで低分子化し、汚泥のメタン発酵処理効率を経済的に高めることが期待できる。
【0010】
しかし、水熱反応装置10とメタン発酵槽20とを組み合わせたシステム全体のエネルギー効率を見た場合、単に汚泥を低分子化する前処理の消費エネルギーが小さいだけでは充分でなく、メタン発酵処理において充分な量のメタンガスを回収することができ、回収したメタンガスのエネルギーにより前処理の消費エネルギーを補い又は賄えることが重要である。特許文献3は前処理における汚泥の分解特性の観点から水熱反応装置10の最適条件が設定できることを示唆しているが、メタン発酵槽20と組み合わせたシステム全体の観点からは、メタン発酵効率を高めてメタンガスの回収量が大きくなるように前処理の水熱反応装置10の条件を設定する必要がある。
【0011】
そこで本発明の目的は、水熱反応で前処理した汚泥からのメタンガス回収量を増やすことができるメタン発酵処理方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前処理として水熱反応を組み合わせたメタン発酵処理の研究開発の結果、前処理の水熱反応により低分子化された汚泥(以下、低分子化汚泥ということある)は、固形分の分解率が同程度であっても、水熱反応の反応温度(以下、熱水温度ということがある)によってメタン発酵処理時に回収できる汚泥単位量当たりのメタンガス量が相違することを実験的に見出した(後述する図3のグラフ参照)。前処理における水熱反応の熱水温度をメタン発酵処理に適するように設定すれば、メタンガスの回収量を増やして前処理を含むシステム全体の効率を高めることが期待できる。本発明は、この知見に基づく更なる研究開発の結果、完成に至ったものである。
【0013】
図1の実施例を参照するに、本発明による汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理方法は、汚泥Sを所定含水率に濃縮したのち(図1の濃縮装置4参照)、その濃縮汚泥Sを水熱反応器11と気液分離器12との間に所定時間循環させてメタン発酵処理による汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が最大となる熱水温度Tに加熱しながら低分子化し(図1の水熱反応装置10参照)、その低分子化汚泥Sをメタン発酵槽20に所定時間滞留させてメタンガスGを回収してなるものである。
【0014】
また、図1のブロック図を参照するに、本発明による汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理システムは、汚泥Sを所定含水率に濃縮する濃縮装置4、その濃縮汚泥Sを水熱反応器11と気液分離器12との間に所定時間循環させてメタン発酵処理による汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が最大となる熱水温度Tに加熱しながら低分子化する循環型水熱反応装置10、及びその低分子化汚泥Sを所定時間滞留させてメタンガスGを回収するメタン発酵槽20を備えてなるものである。
【0015】
好ましくは、循環型水熱反応装置10の熱水温度Tを、160〜200℃の温度範囲においてメタン発酵処理による汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が極大となる温度Tとする。また、熱水温度Tは濃縮汚泥Sの所定循環時間(水熱反応器11と気液分離器12との間に循環させる所定時間)に応じて調整することが望ましく、低分子化汚泥Sはメタン発酵槽20に3〜5日滞留させてメタンガスGを回収することが望ましい。更に好ましくは、図示例のように、メタン発酵槽20で回収したメタンガスGを入力して水熱反応器11に加熱エネルギーを供給するボイラーその他のエネルギー変換装置25を設ける。
【発明の効果】
【0016】
本発明による汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理方法は、汚泥Sを所定含水率に濃縮したうえで循環型水熱反応装置10に循環させてメタン発酵処理による汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が最大となる熱水温度Tに加熱しながら低分子化し、その低分子化汚泥をメタン発酵槽20に所定時間滞留させてメタンガスGを回収するので、次の効果を奏する。
【0017】
(イ)汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が最大となるように水熱反応装置10の熱水温度Tを調整するので、水熱反応装置10とメタン発酵槽20とを組み合わせたシステム全体のエネルギー効率を最適化することができる。
(ロ)また、汚泥S中の固形分の種類や濃度が異なる場合でも、水熱反応装置10に循環させる所定時間を調節し、且つ、その循環時間に応じて熱水温度Tを汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が最大となるように調整することにより、その汚泥Sからのメタンガス回収量を最大化することが期待できる。
(ハ)メタン発酵槽20からのメタンガス回収量を最大化することにより、水熱反応装置10の加熱エネルギーをメタンガスのエネルギーにより賄い、エネルギー自足的に汚泥Sを減容・減量できるシステムとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態及び実施例を説明する。
【図1】は、本発明の一実施例のブロック図である。
【図2】は、低分子化汚泥に対するメタン発酵処理時間(発酵槽の汚泥滞留時間)と固形分分解率との関係を示すグラフの一例である。
【図3】は、水熱反応による低分子化処理温度(熱水温度)と、その低分子化処理後の汚泥のメタン発酵比活性(未処理汚泥の固形分分解率を1としたときの処理汚泥の固形分分解率)との関係を示すグラフの一例である。
【図4】は、従来の水熱反応を用いたメタン発酵処理方法の一例の説明図である。
【図5】は、従来の水熱反応を用いたメタン発酵処理方法の他の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、例えば下水処理場1で発生する下水汚泥Sの減容・減量化に本発明のメタン発酵処理システムを適用した実施例を示す。図示例のシステムは、汚泥Sを濃縮する濃縮装置4と循環型水熱反応装置10とメタン発酵槽20とを有する。下水処理場1で発生した生汚泥及び余剰汚泥(例えば含水率約97%)を混合汚泥槽2に一旦蓄え、濃縮装置4により水熱反応装置10に適した含水率にまで濃縮したのち、濃縮された汚泥S(以下、濃縮汚泥ということがある)を供給タンク6経由で反応装置10へ供給する。濃縮装置4において濃縮汚泥Sから分離された濾液は、水熱反応を介さず、原料タンク19経由でメタン発酵槽20へ直接導入する。好ましくは、図示例のように濃縮装置4に凝縮剤添加装置5を含めて汚泥S中の小粒径の固形分をもできるだけ凝縮して水熱反応装置10へ送り、固形分が濾液と共にメタン発酵槽20へ直接導入されることを防止する。
【0020】
濃縮装置4は、例えば真空脱水機、遠心分離機、フィルタープレス(過圧脱水機)等とすることができるが、天日乾燥による乾燥床等としてもよい。濃縮装置4による汚泥Sの濃縮の程度は、濃縮汚泥Sの含水率を低くするほど後述する水熱反応装置10における加熱エネルギーを小さく抑えることができ、システム全体のエネルギー効率の向上を図れるが、含水率を低くし過ぎると汚泥Sの粘性(及び摩擦力)が大きくなるので反応装置10の閉塞原因となりやすく、汚泥Sが高温の装置内面に固着(焦げ付く)おそれが生じる。水熱反応の熱水温度Tによっても相違するが、濃縮装置4により汚泥Sを含水率85〜95%の範囲内に濃縮して水熱反応装置10で処理することが可能であり、好ましくは濃縮汚泥Sの含水率を90〜95%として反応装置10での固着を防ぎ、更に固着を防ぐ必要がある場合は濃縮汚泥Sの含水率を93〜95%とする。
【0021】
図1に点線で示すように、水熱反応装置10に内部の汚泥Sの固着を検出する検出装置26を設け、その検出装置26で検出された固着状況に応じて濃縮装置4による汚泥Sの含水率を調整してもよい。図示例では、後述する反応装置10の循環ポンプ14の吐出側に流量計及び流量制御弁を設けて固着検出装置26とし、その流量計によって濃縮汚泥Sを固着しない所定流量で循環させつつ、流量制御弁の開度から反応装置10の循環配管の圧力損失を算出し、その圧力損失の増加量によって反応装置10の内部の汚泥固着状況を検出している。例えば、濃縮装置4により初期含水率90%程度に濃縮した汚泥Sを反応装置10に供給し、検出装置26による装置内部の固着(内部配管の圧力損失の増加)の検出時に濃縮汚泥Sが含水率93〜95%となるように濃縮装置4を制御する。
【0022】
濃縮装置4からの濃縮汚泥Sは供給タンク6に一旦蓄えたのち、モーノポンプ等の供給装置7により後述する水熱反応装置10へ一定量ずつ供給する。必要に応じて供給装置7に粉砕装置8又は撹拌装置6a(図5参照)を設け、反応装置10へ供給する前に濃縮汚泥S中の固形分を適宜粉砕し又は撹拌してもよい。また、図5を参照して上述したように粉砕タンク8a及び粉砕ポンプ8bを含め、濃縮装置4からの濃縮汚泥Sを粉砕タンク8a及び粉砕ポンプ8bで粉砕したうえで供給タンク6に蓄えてもよい。濃縮汚泥Sを粉砕して固形分の粒子径Dを小さくすることにより、以下に述べる固形分の終末沈降速度uを小さくし、反応装置10の内部での固形分の沈降・固着を生じにくくすることができる。
【0023】
図示例の循環型水熱反応装置10は、図5の場合と同様に、濃縮汚泥Sを所定圧力で熱水温度に加熱する水熱反応器11と気液分離器12と循環ポンプ14とで構成されており、供給された濃縮汚泥Sを水熱反応器11と気液分離器12との間で所定時間循環させることにより低分子化する。例えば、水熱反応装置10の内部を圧力0.72〜8.7MPa、温度160〜300℃、循環時間15〜120分の範囲に設定することで濃縮汚泥Sを効率よく低分子化することが可能であるが(特許文献3参照)、循環路内の温度・圧力を高くすると消費エネルギーも大きくなる。本発明者らは、システム全体のエネルギー効率を向上するためには、循環路内の熱水温度を比較的低い160〜200℃の範囲内に抑え、圧力も比較的低い1MPa程度に抑えることが望ましいことを実験的に見出した。この程度の範囲内の温度・圧力で濃縮汚泥Sをメタン発酵処理に適した低分子有機物とするためには、循環時間を30〜90分程度とする必要がある。
【0024】
また循環型水熱反応装置10は、図5の場合と同様に、循環管路内部(接液部)の有効内容積Vを濃縮汚泥Sの供給量xと循環時間yとの積に一致させる(V=xy)と共に、濃縮汚泥S中の固形分が管路内部で沈降・固着するのを避けるため、管路内部の濃縮汚泥Sを固形分の終末沈降速度uより大きい速度v(>u)で循環させる。一般に固形分の終末沈降速度uは、重力加速度g、熱水の密度ρ及び粘度μ、及びその中に懸濁浮遊している固形分の粒子径D及び密度ρを用いて、ストークスの式に基づく(1)式により算出することができる。本発明者らは、反応装置10の内部での固形分の沈降・固着を防ぐためには、反応装置10の循環速度vを固形分の終末沈降速度uの1.3倍以上とすることが有効であることを実験的に見出した。
u=g・D・(ρ−ρ)/18μ ………………………………(1)
【0025】
(1)式は、固形分の密度ρが高く又は粒子径Dが大きいほど終末沈降速度uが大きくなることを示している。通常の濃縮汚泥S中の固形分は密度ρ=3500〜1000(kg/m)、粒子径D=0.5〜0.1(mm)程度であると想定できるので、180℃の熱水の物性より密度ρ=886.9(kg/m)、粘度μ=1.54×10−4(kg/m・sec)として計算すると、終末沈降速度uは最低0.004〜最高2.32(m/sec)の範囲となる。従って、上述した本発明者らの実験的知見に基づき循環速度vを2.32×1.3≒3(m/sec)以上とすれば、装置内部での固形分の沈降・固着を防ぐことができる。すなわち、循環型水熱反応装置10の循環速度vを最低でも3(m/sec)以上とすれば、通常の濃縮汚泥Sは固形分を沈降・固着させることなく低分子化することができる。
【0026】
図示例の循環型水熱反応装置10の水熱反応器(熱交換器)11は、後述するメタン発酵槽20で回収されるメタンガスGを加熱媒体(例えば蒸気、熱媒油等)Hの加熱エネルギーに変換するエネルギー変換装置25(例えばボイラー等)と接続されており、その加熱媒体Hとの熱交換により濃縮汚泥Sを熱水温度に加熱している。また、反応装置10の気液分離器12には循環路内を所定圧力に維持する圧力弁17a付き圧力計17(図5参照)が設けられており、水熱反応器11と気液分離器12とからなる循環路内の循環時間yは供給装置7による濃縮汚泥Sの供給量xにより一定に維持されている。
【0027】
循環型水熱反応装置10において、濃縮汚泥Sを1MPaの圧力下で160〜200℃に加熱しながら3(m/sec)以上の流速で30〜90分程度循環させれば、気液分離器12の液面コントロール弁15a(図5参照)から装置10の外部へ抜出される分解水溶液(低分子化された汚泥)Sをメタン発酵処理に適した分解性の高い低分子有機物とすることができる。水熱反応装置10から抜出された低分子化汚泥Sは、原料タンク19を介して濃縮装置4の濾液と共にメタン発酵槽20へ導入する。
【0028】
図示例のメタン発酵槽20は、メタン発酵微生物群を高濃度に保持する微生物固定床21が設けられており、導入された低分子化汚泥Sをメタン発酵微生物群と接触させることによりメタンガスGにまで分解する。例えば発酵槽20内にガラス繊維又は炭素繊維製の微生物担体を充填して固定床21とすることができる(特許文献1、4参照)。また、メタン発酵槽20には、低分子化汚泥Sをメタン発酵微生物群の活性温度に保持する保温装置(図示せず)を設けることができ、例えば保温装置により発酵槽20内の汚泥Sをメタン発酵微生物に適する発酵温度、例えば中温(37℃程度)又は高温(55℃程度)に維持する(特許文献4参照)。ただし本発明で用いるメタン発酵槽20は図示例に限定されるものではなく、固定床に代えて浮遊床方式とすることも可能である。
【0029】
上述したように低分子化前の汚泥Sをメタン発酵処理するためには15〜30日以上発酵槽20内に滞留させることが必要であるが、水熱反応装置10により分解性を高めた低分子化汚泥Sは発酵槽20内の滞留時間(処理時間)を短くしても高い固形分分解率を示す。図2のグラフは、水熱反応装置10により圧力1MPa、温度160〜200℃の状態に約60分循環させた低分子化汚泥Sについて、固形分分解率とメタン発酵槽20内の滞留時間との関係を求めた実験結果を示しており、発酵槽20の滞留時間を3〜5日にまで短くしても低分子化汚泥Sの固形分分解率を最大値(50%)にほぼ近い45%以上に維持できることを表している。好ましくは、発酵槽20内の滞留時間を固形分の最大分解率が得られる最小滞留時間である5日とし、低分子化汚泥S中の有機物の50%以上を分解してメタンガスGを生成する。
【0030】
また本発明者らは、メタン発酵槽20の滞留時間が同じであっても、水熱反応装置10の熱水温度Tによって低分子化汚泥Sのメタン発酵時に発生するメタンガスGの回収量が相違することを実験的に見出した。図3のグラフは、水熱反応装置10の循環路内の熱水温度Tと、その温度Tに約60分循環させた低分子化汚泥Sのメタン発酵比活性(未処理汚泥の固形分分解率を1としたときの処理汚泥の固形分分解率)との関係を求めた実験結果を示す。同グラフは、熱水温度Tが180〜190℃の低分子化汚泥Sは、熱水温度Tが160〜170℃の低分子化汚泥Sよりもメタン発酵比活性が高く、また熱水温度Tが200℃の低分子化汚泥Sよりもメタン発酵比活性が高いので、メタン発酵処理時に汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が最大となる最適温度であることを示している。
【0031】
図3のグラフにおいて、熱水温度Tが180〜190℃のときに低分子化汚泥Sの単位量当たりのメタンガス回収量が最大となる原因の詳細は不明であるが、熱水温度Tが180℃未満では水熱反応による低分子化が不充分であり、逆に熱水温度Tが190℃より高いときは水熱反応による低分子化が進みすぎて汚泥Sの一部分が無機物にまで分解されてしまったものと考えられる。すなわち、メタン発酵槽20の滞留時間を3〜5日として低分子化汚泥Sをメタン発酵処理する場合にメタンガスGの回収量を最大とするためには、前処理の水熱反応装置10において180〜190℃の熱水温度Tで汚泥Sを低分子化しておくことが有効である。好ましくは、水熱反応装置10における熱水温度Tを180℃とし、メタンガス回収量を最大としつつ水熱反応のための必要な加熱エネルギー(消費エネルギー)を小さく抑える。
【0032】
なお、図3のグラフは水熱反応装置10における汚泥Sの循環時間yを60分としたときの熱水温度Tとメタン発酵比活性との関係を示しており、本発明者らは更なる実験により、循環時間が60分より短いときはメタンガスGの回収量を最大化するための最適温度Tが180〜190℃より若干高くなり、逆に循環時間が60分より長いときは最適温度Tが180〜190℃より若干低くなることを見出した。すなわち、汚泥単位量当たりのメタンガス回収量を最大化とする熱水温度Tは、反応装置10における濃縮汚泥Sの循環時間(水熱反応器11と気液分離器12との間に循環させる時間)に応じて調整することが有効である。
【0033】
メタン発酵槽20で発生したメタンガスGをガスライン経由で取り出し、必要に応じて脱硫器で脱硫したのちガスタンク23に蓄える。上述したようにガスタンク23に蓄えたメタンガスGは、エネルギー変換装置25(例えばボイラー等)により加熱媒体(例えば蒸気、熱媒油等)Hの加熱エネルギーに変換して水熱反応装置10の加熱に利用することができる。また、メタンガスGの回収後にメタン発酵槽20に残る消化汚泥は、返送タンク27を介して脱水機28へ送り、濾液は返流水Wとして下水処理場1に戻し、残った脱水汚泥Dを従来の汚泥Sと同様の方法で処分する。例えば図1の実施例により下水処理場1から排出された下水汚泥Sを本発明のシステムでメタン発酵処理することにより、脱水機28により脱水後の脱水汚泥Dを下水汚泥Sの1/3〜1/5に減容・減量することができる。
【0034】
本発明によれば、汚泥単位量当たりの最大メタンガス回収量が得られるように水熱反応装置10の熱水温度Tを調整するので、水熱反応装置10とメタン発酵槽20とを組み合わせたシステム全体のエネルギー効率を最適化することができる。また、メタン発酵槽20からのメタンガス回収量を最大化することにより、水熱反応装置10の加熱エネルギーをメタンガスのエネルギーにより賄い、エネルギー自足的に汚泥Sを減容・減量できるシステムとすることができる。
【0035】
こうして本発明の目的である「水熱反応で前処理した汚泥からのメタンガス回収量を増やすことができるメタン発酵処理方法及びシステム」の提供が達成できる。
【符号の説明】
【0036】
1…下水処理装置 2…混合汚泥槽
4…濃縮装置 5…凝縮剤添加装置
6…供給タンク 6a…撹拌装置
6b…圧力計 6c…リリーフ弁
7…供給装置 8…粉砕装置
8a…粉砕タンク 8b…粉砕ポンプ
8c…三方弁
10…水熱反応装置 11…水熱反応器(熱交換器)
11a…連通管 11b…均圧管
12…気液分離装置 14…循環ポンプ
15…液面制御装置 15a…液面コントロール弁
16…温度計 17…圧力計
17a…圧力逃がし弁 18…安全弁
19…原料タンク 19a…定量ポンプ
20…メタン発酵槽 21…微生物固定床
23…ガスタンク 25…エネルギー変換装置
25a、25b…熱水循環路 26…固着検出装置
27…返送タンク 28…脱水機
D…脱水汚泥 G…メタンガス
S…汚泥 W…返流水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥を所定含水率に濃縮したのち、その濃縮汚泥を水熱反応器と気液分離器との間に所定時間循環させてメタン発酵処理による汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が最大となる熱水温度に加熱しながら低分子化し、その低分子化汚泥をメタン発酵槽に所定時間滞留させてメタンガスを回収してなる汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理方法。
【請求項2】
請求項1の処理方法において、前記熱水温度を160〜200℃の温度範囲においてメタン発酵処理による汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が極大となる温度としてなる汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2の処理方法において、前記熱水温度を濃縮汚泥の所定循環時間に応じて調整してなる汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの処理方法において、前記低分子化汚泥をメタン発酵槽に3〜5日滞留させてメタンガスを回収してなる汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れかの処理方法において、前記メタン発酵槽で回収したメタンガスを前記水熱反応器に供給して加熱エネルギーを賄ってなる汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理方法。
【請求項6】
汚泥を所定含水率に濃縮する濃縮装置、その濃縮汚泥を水熱反応器と気液分離器との間に所定時間循環させてメタン発酵処理による汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が最大となる熱水温度に加熱しながら低分子化する循環型水熱反応装置、及びその低分子化汚泥を所定時間滞留させてメタンガスを回収するメタン発酵槽を備えてなる汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理システム。
【請求項7】
請求項6の処理システムにおいて、前記水熱反応装置の熱水温度を160〜200℃の温度範囲においてメタン発酵処理による汚泥単位量当たりのメタンガス回収量が極大となる温度としてなる汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理システム。
【請求項8】
請求項6又は7の処理システムにおいて、前記水熱反応装置の熱水温度を濃縮汚泥の所定循環時間に応じて調整してなる汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理方法。
【請求項9】
請求項6から8の何れかの処理システムにおいて、前記メタン発酵槽に低分子化汚泥を3〜5日滞留させてメタンガスを回収してなる汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理システム。
【請求項10】
請求項6から9の何れかの処理システムにおいて、前記メタン発酵槽で回収したメタンガスを入力して前記水熱反応器に加熱エネルギーを供給するエネルギー変換装置を設けてなる汚泥の水熱反応利用型メタン発酵処理システム。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−200691(P2012−200691A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69046(P2011−69046)
【出願日】平成23年3月27日(2011.3.27)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(591037373)三菱長崎機工株式会社 (12)
【Fターム(参考)】