説明

汚泥の濃縮方法

【課題】
遠心濃縮で汚泥の濃縮処理を行うに際し、無機凝集剤や有機高分子凝集剤等の汎用的な凝集剤を用いて効率よく濃縮を行うとともに、分離液の処理負荷も小さくなるような汚泥の濃縮方法を提供する。
【解決手段】
汚泥を無機凝集剤及び両性高分子凝集剤の存在下遠心濃縮し、汚泥中の固形分濃度が0.5〜10重量%の濃縮汚泥を得ることを特徴とする汚泥の濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分子凝集剤を用いた汚泥の濃縮方法に関する。より詳しくは下水処理等の際に生じる混合生汚泥又は余剰汚泥を遠心濃縮機のような高剪断力がかかる濃縮機を用いて効率よく濃縮する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市下水などの廃水処理の際に生じる汚泥から水分除去をして脱水ケーキを得る場合、直接脱水操作を行う場合と濃縮操作という前処理工程を経た上で脱水操作を行う場合とに分けられるが、上記濃縮処理及び脱水操作のいずれの場合もそれぞれの目的にあわせた凝集剤の種類や装置が選択され用いられている。
濃縮処理に関しては、重力濃縮、遠心濃縮、浮上濃縮といった方法があるが、濃縮処理の際、従来はもっぱら薬剤を用いないか(無薬注)或いはカチオン系の高分子凝集剤を添加する方法が取られてきた(非特許文献1参照)。
これらの濃縮処理方法のうち、遠心濃縮は、重力濃縮における自然沈降の場合と比較して装置が小型化でき、処理時間も短縮でき、装置の維持管理も容易という優位点があるため、今後、都市部のような大規模汚泥処理施設で効率よく処理を行うことが必要とされる場面での普及が予測される。
【0003】
一方、遠心濃縮のような高剪断力がかかる濃縮機を使用する場合、その剪断力のために汚泥が十分に濃縮される前に凝集フロックが破壊・微細化され、汚泥処理量や脱水率が不十分な結果となってしまう恐れが高いことが認識される。例えば、脱水工程に関係するものではあるが、造粒濃縮法で得た造粒汚泥の濃縮脱水に遠心脱水機を使用すると、無機凝集剤と両性高分子凝集剤により一旦造粒され、脱水性が向上し濃縮された汚泥が遠心脱水機による操作の間に破壊・微細化されその脱水性の低下が問題となることが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
これに対して、剪断力が強い脱水装置を用いた脱水処理の際に、ジアルキルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級塩という特定の構成単位を有するカチオン性高分子凝集剤と特定の組成の両性高分子凝集剤とを所定割合で組み合わせて使用することが有効であることも知られている(特許文献2参照)。
しかしながら、このような特殊な高分子凝集剤の組み合わせというのは、コストの面で実用的ではなく、より汎用的な高分子凝集剤を用いての効率の良い遠心濃縮の手法の開発が望まれていた。
特に、近年、都市下水処理に汚泥の集中処理システムを適用し、活性汚泥排水処理施設と汚泥処理施設とが異なる場所に設置されるような場合、汚泥処理施設において効率的に濃縮処理するとともに、排水処理施設に返流水として返流される分離液の組成、特に溶解リン濃度の抑制が求められている。
【非特許文献1】東京都下水道サービス発行 ポリマー凝集剤使用の手引き(平成14年3月発行)
【特許文献1】特開平6−320200号公報
【特許文献2】特開2004−121997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、遠心濃縮といった高い剪断力がかかる手法で汚泥の濃縮処理を行うに際し、汎用的な凝集剤を用いて効率よく濃縮を行うことができ、かつ、遠心濃縮の際に分離された分離液(ろ液)の処理負荷も小さくなるような濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、遠心濃縮する際に無機凝集剤と両性高分子凝集剤を用いることで濃縮効率が高く、かつ分離液の物性も好ましいものとなることを見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明の要旨は、汚泥を無機凝集剤及び両性高分子凝集剤の存在下遠心濃縮し、汚泥中の固形分濃度が0.5〜10重量%の濃縮汚泥を得ることを特徴とする汚泥の濃縮方法に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、遠心濃縮という高い剪断力がかかる手法で濃縮処理を行っても、濃縮効率が高く、かつ廃水処理負荷の小さい分離液を得ることができる。よって、本発明方法は、特に、近年の都市下水のように汚泥の集中処理システムを適用し、排水処理と汚泥処理とが異なる場所で行われるような場合には特に有用となる方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明方法に関し、さらに詳しく説明するがこれらは代表的な態様でありこれらに限定されるものではない。
本発明方法により濃縮処理される汚泥は、下水処理施設において発生する汚泥であり、例えば、活性汚泥法の生汚泥、余剰汚泥、又は混合生汚泥、嫌気好気活性汚泥法の余剰汚泥などである。また、都市部などの下水処理において排水処理施設と汚泥処理施設とが別の場所に設置され、汚泥の集中処理システムを採用している場合には、処理される汚泥は2箇所以上の排水処理施設から汚泥処理施設に搬送される汚泥であってもよい。
汚泥中に含まれる固形分濃度は汚泥の性状によって異なり特に制限されないが、通常、約0.4〜2重量%である。
【0009】
本発明方法により、上記汚泥は遠心濃縮により濃縮されるが、遠心濃縮機としては強い剪断力の作用する遠心分離機であればよく、バッチ式でも連続式でも問わないが、連続式の方が好ましい。遠心分離機としては、例えばNNCS-50型((株)西原環境テクノロジー製)等が挙げられる。
遠心濃縮の操作条件としては、加速度1500G以下、好ましくは1000G以下であり、また、通常500G以上、好ましくは600G以上である。加速度が1500Gを超えると、濃縮率は高くなるが、動力費が上がる上に分離液の固形分濃度が増加する傾向となるため好ましくなく、500G未満では濃縮を効率の良く行えない傾向がある。
遠心時間は、通常、10秒以上、好ましくは30秒以上、また、効率よい処理のために 、通常、5分以下、好ましくは4分以下である。
【0010】
濃縮処理後の汚泥は、固形分濃度が通常、0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上であり、また、濃縮率は高い方が好ましいが、一般的に10重量%以下、通常5重量%以下である。
固形分濃度が0.5重量%未満では、濃縮処理に続いて行われる脱水処理工程で、効果的に汚泥ケーキの含水率を低下させることが難しく、他方10重量%より高濃度にするためには遠心濃縮の操作条件が厳しくなり、凝集フロック等の形状が維持されなくなることがあり、いずれも好ましくない。
【0011】
また、遠心濃縮の際の濃縮分離液中の溶解性リン濃度は、10mg/L以下、好ましくは5mg/L以下、より好ましくは3mg/L以下である。溶解性リン濃度は低ければ低いほど好ましいが、一般的に0.1mg/L以上であり、通常、0.5mg/L以上である。
【0012】
さらに、濃縮分離液中の固形分濃度は、処理する汚泥の性状や固形分濃度等にもよるが、例えば、余剰汚泥の場合、具体的には、通常50mg/L以下、好ましくは30mg/L以下、より好ましくは20mg/L以下となり、混合生汚泥の場合、具体的には、通常100mg/L以下、好ましくは80mg/L以下、より好ましくは50mg/L以下となる。
濃縮分離液中の固形分濃度は汚泥の固形分濃度が高くなればなるほど相対的に小さな値となる。濃縮分離液中の固形分濃度は低ければ低いほど好ましいが、一般的に0.01mg/L以上である。
【0013】
本発明方法では、上記の如く汚泥の遠心濃縮処理を無機凝集剤と両性高分子凝集剤の存在下行うことが必要である。
本発明方法に用いられる該無機凝集剤としては、鉄系凝集剤、及びアルミニウム系凝集剤が挙げられる。具体的には、鉄系凝集剤として、例えば、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等の3価の鉄塩が挙げられる。また、アルミニウム系凝集剤としては、例えばポリ塩化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、アルミン酸ナトリウム等のアルミニウム塩が挙げられる。これらのうち、汚泥の凝集能力の観点から好ましくは塩化アルミニウム又は鉄系の無機凝集剤であり、より好ましくは鉄系の無機凝集剤であり、特に好ましくはポリ硫酸第二鉄である。ポリ硫酸第二鉄は、腐敗等で溶出したリンの固定化能が最も優れていることから特に好ましい。
これらの無機凝集剤は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0014】
無機凝集剤の添加は、遠心濃縮機に搬送される前の汚泥に添加されれば特に制限はなく、一度に添加しても分割して添加してもよい。本発明方法では無機凝集剤は、両性高分子凝集剤と共に汚泥に添加され、両凝集剤の添加順序は特に制限されないが、無機凝集剤を添加し溶解させた後、両性高分子凝集剤を添加するのが好ましい。
無機凝集剤の添加量は、通常、汚泥の量に対して10mg/L以上添加される。上限としては、通常、2000mg/L以下、好ましくは1000mg/L以下である。添加量が10mg/L未満では、汚泥の凝集が十分行われず、しかも分離液中に溶出するリン濃度を抑制することが困難であり、他方、2000mg/Lを超えて多量に添加しても溶出するリン濃度の低下をもたらさず経済的ではない。
【0015】
本発明方法において上記無機凝集剤と共に用いる両性高分子凝集剤とは、分子内にカチオン性基として第三級アミン、その中和塩、四級塩等を有し、アニオン性基としてカルボキシル基またはその塩を有する高分子化合物であり、これらのイオン性成分の他にノニオン成分が含まれていてもよい。このような高分子化合物は、通常、該高分子化合物の構成単位成分となるカチオン性基含有モノマー、アニオン性基含有モノマー、およびノニオン性基含有モノマーを共重合することによって得られるものである。該構成単位成分となるカチオン性基含有モノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、これらの中和塩や四級塩等が挙げられる。また、アニオン性基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸若しくはこれらのアルカリ金属塩等を挙げることができ、ノニオン性基含有モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
【0016】
最も一般的な両性高分子凝集剤は、該カチオン基含有構成単位として(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アニオン性基含有構成単位としてアクリル酸ソーダを有し、さらにノニオン性基含有構成単位として(メタ)アクリルアミドを有する共重合体であるが、カチオン性基、アニオン性基ともこれに限定されるものではない。
【0017】
両性高分子凝集剤としては、その構成単位であるカチオン性基含有単量体由来のユニットが通常1〜90モル%、好ましくは5〜80モル%であり、アニオン性基含有単量体由来のユニットが、通常1〜40モル%、好ましくは2〜25モル%であり、より好ましくは2〜15モル%であり、残りがノニオン性基含有単量体由来のユニットからなるものが最もよく用いられる。また両性高分子凝集剤が含有するノニオン性基、アニオン性基、及びカチオン性基はそれぞれ1種であってもよく、2種以上であってもよい。
分子量は特に制限されないが、通常100万から1600万程度のものが用いられる。
両性高分子凝集剤は、単独でも、2種以上を併用して用いてもよい。
【0018】
両性高分子凝集剤は、通常水溶液にして汚泥に添加されるが、その水溶液の濃度は、通常0.05重量%〜0.5重量%、好ましくは0.05重量%〜0.3重量%である。
両性高分子凝集剤の汚泥への添加量は、汚泥中の固形分(懸濁物質)に対して、通常0.05重量%〜1重量%、好ましくは0.05重量%〜0.5重量%程度であり、分離液の清澄性により添加量を調節する。
【0019】
本発明方法では、無機凝集剤と両性高分子凝集剤を同時に使用するが、両性高分子凝集剤の溶解性改善のため、該高分子凝集剤と共に酸物質を使用するのが好ましい。該酸物質としては、スルファミン酸等の固体酸が挙げられ、通常、酸物質を両性高分子凝集剤に混合するか、或いは溶解時に添加する。
また、さらに必要に応じてアニオン性凝集剤あるいはカチオン性凝集剤を併用しても差し支えない。
【0020】
該カチオン性凝集剤としては特に限定されず、例えば、汎用的なカチオン系凝集剤としてノニオン性基を有するアクリルアマイドとカチオン性基を有する(メタ)アクリロイルオキシエチルアンモニウム塩との共重合体が挙げられる。カチオン性基成分である(メタ)アクリロイルオキシエチルアンモニウム塩のN原子上の置換基としては、全てメチル基の場合、又は、メチル基2つと水素原子1つの場合が好ましく、特に全てメチル基であるのが好ましい。塩を形成する対アニオンとしては、Cl又は1/2SO42−が好ましい。
上記(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム塩は、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートを4級化剤、例えば塩化メチル等のハロゲン化アルキル等と反応させることにより得られる。また、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルアンモニウム塩は、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートを酸、例えば塩酸、臭素酸、硫酸、硝酸、酢酸等と反応させることにより得られ、酸の代表例は塩酸、硫酸である。
【0021】
カチオン性凝集剤において、その構成単量体単位として含まれる(メタ)アクリロイルオキシエチルアンモニウム塩由来の構成単位はカチオン系水溶性高分子化合物として必須成分である。その全構成単量体中の(メタ)アクリロイルオキシエチルアンモニウム塩の含有割合は特に限定されないが、全構成単量体量の通常3モル%以上、好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上であり、通常、99モル%以下、好ましくは90モル%以下である。
【0022】
カチオン性凝集剤としての上記共重合体は、前述の単量体以外に、少量の他の単量体、例えばアクリルアミドのアルキル誘導体などを共重合単量体として使用したものであってもよい。その場合、他の単量体は、全単量体中の10モル%以下とする。
カチオン性凝集剤の使用量は、両性高分子凝集剤の種類、汚泥の性状等により異なるが、通常、両性高分子凝集剤に対し、10:90〜90:10重量比である。
【0023】
本発明方法による遠心濃縮により濃縮された汚泥は、続いて脱水工程で処理され、更に含水率の低い汚泥ケーキとされるが、その脱水工程において凝集剤を使用することが好ましい。凝集剤としては、特に制限されないが、上記遠心濃縮の際に用いた無機凝集剤と両性高分子凝集剤の組み合わせと同じものを用いることができる。特に凝集剤として、ポリ硫酸第二鉄と両性高分子凝集剤とを組み合わせて用いた場合には汚泥の脱水性とリン固定化の点で特に好ましい。その際両性高分子凝集剤としては、遠心濃縮時と同じものであっても異なるものでもよく、また2種以上のものを混合使用してもよい。
【0024】
本発明方法によれば、汎用されている無機凝集剤と両性高分子凝集剤を用い、遠心濃縮機により効率的に汚泥の濃縮を行うことができ、その際分離される分離液の溶出リン濃度を低減させることができる。よって、今後都市部下水処理施設などの排水処理施設と汚泥処理施設が異なる場合などで有効に使用できる方法である。
【実施例】
【0025】
以下に本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明はその趣旨に反しない限り本実施例に限られるものではない。
実施例及び比較例で用いた汚泥及び高分子凝集剤、並びに固形分濃度の測定方法及びリン分濃度の測定方法を以下に示す。
【0026】
1、使用汚泥
a)余剰汚泥:M処理場余剰汚泥(固形分濃度=0.30重量%)
b)混合生汚泥:N処理場混合生汚泥(固形分濃度=0.28重量%)
【0027】
2、使用高分子凝集剤
1)両性高分子凝集剤1:合成例1で得られた両性高分子凝集剤
組成(モル%):アクリルアミド/アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド/メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド/アクリル酸=60/36/2/3
重量平均分子量:700万
2)両性高分子凝集剤2:合成例2で得られた両性高分子凝集剤
組成(モル%):アクリルアミド/アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド/メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド/アクリル酸=38/51/8/3
重量平均分子量:700万
3)両性高分子凝集剤3:合成例3で得られた両性高分子凝集剤
組成(モル%):アクリルアミド/アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド/メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド/アクリル酸=28/54/9/9
重量平均分子量:700万
4)カチオン系高分子凝集剤:ダイヤニトリックス(株)製KP204BS
組成(モル%):アクリルアミド/アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド=35/65
重量平均分子量:700万
【0028】
3、固形分濃度の測定方法
JIS K0102工業排水試験方法1411懸濁物質の測定方法に従い、試料をろ過しろ過材上に残留した物質の乾燥質量をはかり試料容量で除して求めた。
【0029】
4、リン分濃度の測定方法
水質分析計DR2000(セントラル科学(株)製)のオルトリン酸PhosVer3アスコルビン法(モリブデン青吸光光度法)により液中のリン酸濃度(PO4−の濃度)を測定し、その値からリン濃度を計算した。
リン濃度(mg/L)=リン酸濃度(mg/L)×31(リンの分子量)/95
【0030】
<両性高分子凝集剤の合成>
(合成例1:両性高分子凝集剤1)
1リットル三角フラスコにアクリル酸3モル%、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド36モル%、アクリルアミド60モル%、亜リン酸600ppm(以下、ppm表示は全液量に対する質量割合を示す)を含有した単量体水溶液(全単量体濃度60重量%)960gを調製した。
この単量体水溶液を、中性リン酸塩pH標準液(pH6.86)とフタル酸塩pH標準液(pH4.01)で調整されたpHメーターを用い、硫酸でpH2.0に調整した。
遮光下で2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン50ppmを単量体水溶液に加え、三角フラスコを10℃の恒温水槽に入れ、そのまま30分間窒素ガスで水溶液中の溶存酸素を置換した。
【0031】
厚さ1mmのステンレス板の周縁に、該ステンレス板の内底面が200mm×200mmの正方形になるように断面の一辺が24mmのゴム棒を貼り付けてある容器を用意した。この容器の内側に厚さ16μmの光透過性フィルム(厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートおよび厚さ4μmのポリ塩化ビニリデンからなる積層フィルム)を敷き、このフィルム上に重合性単量体の水溶液を供給した。水溶液の上面を、水溶液と接するように上記と同種の光透過性フィルムで覆った。単量体水溶液からなる層の厚さは22mmであった。また、ステンレス板の裏側を、単量体水溶液を供給する前から10℃の水を吹き付け冷却し、ステンレス板の温度を10℃に調節した。さらに、重合終了まで10℃の水を吹き付けることを継続した。
【0032】
単量体水溶液の供給された容器の上方に、20W型蛍光ケミカルランプを設置した。あらかじめ水溶液表面で照射強度が5W/m2 となるように調整した蛍光ケミカルランプを3分間点灯した。次に、水溶液表面で照射強度が0.5W/m2 となるように調整した蛍光ケミカルランプを30分間点灯した。さらに、水溶液表面で照射強度が45W/m2 となるように調整した蛍光ケミカルランプを15分間点灯し、重合を完結させ、ゲル状水溶性重合体シートを得た。
得られたゲル状水溶性重合体シートをはさみで10mm×5mm×1.5mmの大きさに細断した。
【0033】
(合成例2及び3:両性高分子凝集剤2及び3)
単量体モル比を上記両性高分子凝集剤2及び3に記載の如く調整した以外は合成例1と同様の操作を行い、ゲル状水溶性重合体を得た。
【0034】
(実施例1)
余剰汚泥を100mlの遠沈管に100ml分取し、ポリ硫酸鉄(=無機凝集剤)を200mg/Lの濃度で汚泥に添加した。スパーテルを用いて30秒間混合した後、両性高分子凝集剤1を添加し、翼径6.5cmかい十字翼を装着した撹拌モーターを用いて900rpmで20秒間撹拌した。両性高分子凝集剤1(濃度0.3%水溶液)は、汚泥の固形分に対し0.05重量%添加した。
その後、実機に合わせて卓上遠心分離機により800Gで5秒間濃縮し、上澄み(分離液)及び固形分の分析を行った。その結果を表1に示す。
【0035】
(比較例1)
実施例1において両性高分子凝集剤1のみを用い、ポリ硫酸鉄を用いなかった以外は実施例1と同様にして汚泥の濃縮を行った。その結果を表1に示す。
【0036】
(比較例2及び3)
実施例1において、両性高分子凝集剤1の替わりに、凝集剤として遠心濃縮で通常用いられているような上記カチオン系高分子凝集剤(ダイヤニトリックス(株)製KP204BS)を用いた以外は実施例1と同様にして汚泥の濃縮を行った(比較例2)。また、両性高分子凝集剤1の替わりに該カチオン系高分子凝集剤のみを使用した以外は比較例1と同様にして汚泥の濃縮を行った(比較例3)。比較例2及び3の結果を表2に示す。
【0037】
(実施例2)
実施例1において両性高分子凝集剤1の添加量を汚泥の固形分に対し0.1重量%に変えた以外は、実施例1と同様にして汚泥の濃縮を行った。その結果を表1に示す。
(実施例3)
実施例1においてポリ硫酸鉄(無機凝集剤)の添加濃度を400mg/Lに変えた以外は、実施例1と同様にして汚泥の濃縮を行った。その結果を表1に示す。
【0038】
(比較例4)
比較例3において、カチオン系高分子凝集剤の添加量を、汚泥の固形分に対し0.1重量%に変えた以外は、比較例3と同様にして汚泥の濃縮を行った。その結果を表1に示す。
【0039】
(実施例4及び5)
実施例1において、両性高分子凝集剤1を両性高分子凝集剤2(実施例4)及び両性高分子凝集剤3(実施例5)に変えた以外は実施例1と同様にして汚泥の濃縮を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
上記結果から、本願発明の汚泥の濃縮方法は、高分子凝集剤濃度0.05%及び0.1%のいずれの場合においても、従来より一般的に用いられているカチオン系凝集剤のみを用いた汚泥の濃縮方法よりも分離液中の懸濁固形分濃度が小さく、分離液の清澄性が高いことが明らかである。
また、カチオン系高分子凝集剤に無機凝集剤を組み合わせた場合には、カチオン系高分子凝集剤単独の場合よりも分離液中のリン分濃度は低下するものの、分離液の懸濁固形分濃度は高くなり、その汚泥凝集性能は低下するので、本願発明方法による効果が達せられないことがわかる。
【0042】
さらに、両性高分子凝集剤のみを用いた場合(比較例1)には、分離液中の溶解性リン酸濃度が高く、また、分離液中の懸濁固形分濃度がカチオン系凝集剤のみを使用した場合(比較例3)に比しても大きく、凝集がうまく行っていないことがわかる。これは、両性高分子凝集剤を単独で用いた場合は、遠心濃縮によるフロックの破壊がカチオン系凝集剤を用いた場合よりも大きいことによると推察される。
【0043】
(実施例6〜8)
実施例3において、ポリ硫酸鉄をポリ塩化アルミニウム(実施例6)、塩化アルミニウム(実施例7)、硫酸バンド(実施例8)にそれぞれ替えた以外は実施例3と同様にして汚泥の濃縮を行った。その結果を表2に示す。
この結果は、無機凝集剤と両性高分子凝集剤を用いることで分離液中のリン濃度の抑制が可能となり、無機凝集剤としてポリ硫酸鉄を用いるのが最も効果が大きいことを示す。
【0044】
【表2】

【0045】
(実施例9)
実施例3において、余剰汚泥を混合生汚泥に替えた以外は実施例3と同様にして汚泥の濃縮を行った。その結果を表3に示す。
(比較例5)
比較例1において、余剰汚泥を混合生汚泥に替えた以外は比較例1と同様にして汚泥の濃縮を行った。その結果を表3に示す。
この結果、本発明方法により無機凝集剤と両性高分子凝集剤を組み合わせることで、汚泥の種類が変わっても分離液中のリン酸濃度が低下するだけでなく、分離液の懸濁固形分濃度も低下し、汚泥の濃縮率が向上することがわかる。
【0046】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥を無機凝集剤及び両性高分子凝集剤の存在下遠心濃縮し、汚泥中の固形分濃度が0.5〜10重量%の濃縮汚泥を得ることを特徴とする汚泥の濃縮方法。
【請求項2】
汚泥が混合生汚泥又は余剰汚泥であることを特徴とする請求項1に記載の汚泥の濃縮方法。
【請求項3】
遠心濃縮を、汚泥にかかる加速度が1500G以下の条件で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の汚泥の濃縮方法。
【請求項4】
遠心濃縮の際に分離される分離液中の溶解性リン濃度が10mg/L以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の汚泥の濃縮方法。
【請求項5】
両性高分子凝集剤を構成する高分子化合物が、その化合物を構成するモノマーユニットとして、アニオン性単量体由来のユニットを1〜40モル%及びカチオン性単量体由来のユニット5〜80モル%を含むものであることを特徴とする請求項1〜4に記載の汚泥の濃縮方法。
【請求項6】
汚泥の遠心濃縮が、2箇所以上の排水処理施設から搬送される汚泥を処理する汚泥処理施設において行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の汚泥の濃縮方法。

【公開番号】特開2008−183507(P2008−183507A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18819(P2007−18819)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】