説明

汚泥を含む被処理水の処理方法

【課題】汚泥を含む被処理水を低コストでかつ簡便に処理でき、かつ硬い脱水ケーキを得ることができる方法を提供する。
【解決手段】汚泥を凝集させる際、水に塩基性化合物およびカルボキシ基を有する単量体(a)に由来する構成単位と式(1)の単量体(b1)または式(2)の単量体(b2)に由来する構成単位とを有する重合体からなる両性高分子凝集剤を溶解させた脱水剤と、特定の無機塩を用いる。


=水素原子、メチル基;R、R=水素原子、炭素数1〜4のアルキル基;R=炭素数1〜4のアルキル基、ベンジル基;Z=Cl、1/2SO2−

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥を含む被処理水を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木・建設工事で発生する無機質汚泥を含む被処理水(泥水等。)や、産業廃水、下水等の処理により発生する有機質汚泥を含む被処理水の処理方法としては、被処理水に、凝集剤を含む脱水剤を添加して汚泥を凝集させた後、脱水して汚泥の脱水ケーキとし、該脱水ケーキを、埋戻土、盛土として再利用する方法が知られている。
【0003】
しかし、シールド工法で発生する泥水には、水を含んで膨潤しやすい泥土調整剤(ベントナイト等。)が含まれているため、通常の脱水剤では脱水が困難となる場合が多い。
また、有機性の高い被処理水についても、通常の脱水剤では十分な脱水効果が得られないことが多い。
【0004】
ベントナイトを含む泥水(以下、ベントナイト泥水と記す。)の処理方法としては、下記の方法が提案されている。
(1)カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤および水溶性塩(塩化カルシウム、塩化マグネシウム等。)からなる脱水剤を用いる方法(特許文献1)。
(2)ベントナイト泥水に、水溶性金属塩(塩化マグネシウム、塩化カルシウム等。)を添加した後、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤および水溶性塩(硫酸ナトリウム等。)からなる脱水剤を添加する方法(特許文献2)。
(3)ベントナイト泥水に、カチオン性高分子凝集剤を添加した後、アニオン性高分子凝集剤を添加する方法(特許文献3)。
【0005】
一方、有機質汚泥を含む被処理水の処理方法としては、下記の方法が提案されている。
(4)アクリル酸、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド硫酸塩およびアクリルアミドを共重合した重合体からなるアミド系両性高分子凝集剤と、塩基性化合物と、水からなる脱水剤を用いる方法(特許文献4)。
【0006】
しかし、(1)、(2)の方法では、無機質汚泥を凝集させるために、脱水剤を多量に添加する必要があり、処理コストが高い。また、得られる脱水ケーキが柔らかいため、脱水ケーキを埋戻土、盛土として再利用した場合、強固な地盤となりにくい。
(3)の方法では、カチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤とを別々に添加しているため、工程が増え、手間がかかる。また、得られる脱水ケーキが柔らかいため、脱水ケーキを埋戻土、盛土として再利用した場合、強固な地盤となりにくい。
(4)の方法では、得られる脱水ケーキが柔らかいため、脱水ケーキを埋戻土、盛土として再利用した場合、強固な地盤となりにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−38404号公報
【特許文献2】特開2001−49981号公報
【特許文献3】特公昭55−16718号公報
【特許文献4】特開平2−14799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、汚泥を含む被処理水を、低コストで、かつ簡便に処理でき、かつ硬い脱水ケーキを得ることができる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の、汚泥を含む被処理水の処理方法は、汚泥を含む被処理水に無機塩および脱水剤を添加し、前記汚泥を凝集させて凝集物を含む処理水を得る工程を有する、汚泥を含む被処理水の処理方法において、前記無機塩として、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用い、前記脱水剤として、水に塩基性化合物および下記両性高分子凝集剤を溶解させたものを用いることを特徴とする。
両性高分子凝集剤:カルボキシ基を有する単量体(a)に由来する構成単位と、下記式(1)で表される単量体(b1)または下記式(2)で表される単量体(b2)に由来する構成単位とを有する重合体。
【0010】
【化1】

【0011】
式中、Rは、水素原子またはメチル基であり、Rは、水素原子または炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rは、水素原子または炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rは、炭素数が1〜4のアルキル基またはベンジル基であり、Zは、Clまたは1/2SO2−である。
【0012】
本発明の、汚泥を含む被処理水の処理方法は、さらに、前記凝集物を含む処理水を脱水する工程を有することが好ましい。
本発明の、汚泥を含む被処理水の処理方法は、さらに、前記汚泥を含む被処理水のpHを7〜11に調整する工程を有することが好ましい。
【0013】
前記両性高分子凝集剤は、前記単量体(a)に由来する構成単位の5〜20モル%と、前記単量体(b1)または前記単量体(b2)に由来する構成単位の2〜20モル%と、他の単量体(c)に由来する構成単位の60〜93モル%とを有する重合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の、汚泥を含む被処理水の処理方法によれば、汚泥を含む被処理水を、低コストで、かつ簡便に処理でき、かつ硬い脱水ケーキを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の、汚泥を含む被処理水の処理方法に用いられる処理システムの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<汚泥を含む被処理水の処理方法>
図1は、本発明の、汚泥を含む被処理水の処理方法に用いられる処理システムの一例を示す概略図である。処理システム10は、汚泥を含む被処理水を貯留する貯泥槽12と、汚泥を含む被処理水に無機塩および脱水剤を添加し、汚泥を凝集させて凝集物を含む処理水を得る凝集反応槽14と、凝集物を含む処理水を脱水する脱水機16と、貯泥槽12または凝集反応槽14に供給される無機塩を貯留する無機塩槽18と、凝集反応槽14に供給される脱水剤を調製し、貯留する脱水剤槽20とを備えるものである。
【0017】
処理システム10を用いた、汚泥を含む被処理水の処理は、下記の工程(I)〜(III)を経て行われる。
(I)必要に応じて、貯泥槽12等にて、汚泥を含む被処理水のpHを7〜11に調整する工程。
(II)凝集反応槽14にて、汚泥を含む被処理水に無機塩および脱水剤を添加し、汚泥を凝集させて凝集物を含む処理水を得る工程。
(III)脱水機16にて、凝集物を含む処理水を脱水する工程。
【0018】
(工程(I))
貯泥槽12等にて、汚泥を含む被処理水のpHをあらかじめ7〜11に調整することにより、両性高分子凝集剤と汚泥との反応が効率よく進行するため、工程(II)における脱水剤の添加量をさらに低減できる。pHは9〜11がより好ましい。
pHの調整には、酸性化合物(硫酸、塩酸等。)、塩基性化合物(水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等。)を用いてもよい。
【0019】
汚泥を含む被処理水としては、無機質汚泥を含む被処理水、有機質汚泥を含む被処理水が挙げられる。
無機質汚泥を含む被処理水としては、土木・建設工事で発生する泥水、シールド泥水、浚渫泥水等が挙げられる。
有機質汚泥を含む被処理水としては、産業廃水、下水、し尿等の処理により発生する汚泥水、生汚泥、混合生汚泥、余剰汚泥、消化汚泥等が挙げられる。
【0020】
土木・建設工事で発生する泥水とは、地中連続壁工法、泥水シールド工法、場所打ち杭工法等で発生するスラリー状物であり、該泥水としては、ベントナイト泥水、ポリマー泥水、シルト泥水等が挙げられる。
本発明の、汚泥を含む被処理水の処理方法は、無機質汚泥が凝集しにくい、泥土調整剤(ベントナイト、CMC等。)を含む泥水の処理に好適である。
【0021】
(工程(II))
凝集反応槽14にて、汚泥を含む被処理水に無機塩および脱水剤を添加し、汚泥を凝集させて凝集物を含む処理水を得る。
凝集反応槽14としては、2軸パドルミキサー、円形・矩形の槽と各種回転翼からなる混合槽、回転ドラム式、スタティックミキサー等が挙げられる。
【0022】
無機塩および脱水剤の添加方法としては、例えば、下記の添加方法(α)〜(γ)が挙げられ、凝集効果が高く、硬い脱水ケーキが得られる点から、添加方法(α)が好ましい。
(α)汚泥を含む被処理水に、無機塩を添加し、ついで脱水剤を添加する方法。
(β)汚泥を含む被処理水に、無機塩および脱水剤を同時に添加する、または無機塩を含む脱水剤を添加する方法。
(γ)汚泥を含む被処理水に、脱水剤を添加し、ついで無機塩を添加する方法。
【0023】
添加方法(α)における無機塩の添加終了から、脱水剤の添加開始までの時間は、1〜20分が好ましい。
添加方法(γ)における脱水剤の添加終了から、無機塩の添加開始までの時間は、1〜10分が好ましい。
【0024】
無機塩は、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
無機塩は、粉体として用いてもよく、水溶液として用いてもよい。
無機塩の添加量は、無機塩の添加率が被処理水中、50〜5000ppmとなる量が好ましい。
【0025】
脱水剤は、水に塩基性化合物および両性高分子凝集剤を溶解させた水溶液である。
脱水剤の添加量は、両性高分子凝集剤の添加率が被処理水中、300〜3000ppmとなる量が好ましい。
脱水剤(100質量%)中の両性高分子凝集剤の濃度は、0.01〜1.0質量%が好ましい。
【0026】
塩基性化合物は、両性高分子凝集剤を水に溶解できるよう、水のpHをアルカリ性にするために用いる。
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
両性高分子凝集剤を溶解させる前の水のpHは、9〜13が好ましい。
【0027】
両性高分子凝集剤は、カルボキシ基を有する単量体(a)に由来する構成単位と、下記式(1)で表される単量体(b1)または下記式(2)で表される単量体(b2)(以下、単量体(b1)および単量体(b2)をまとめて単量体(b)とも記す。)に由来する構成単位と、必要に応じて単量体(a)および単量体(b)を除く他の単量体(c)に由来する構成単位とを有する水溶性の重合体である。
【0028】
【化2】

【0029】
式中、Rは、水素原子またはメチル基であり、Rは、水素原子または炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rは、水素原子または炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rは、炭素数が1〜4のアルキル基またはベンジル基であり、Zは、Clまたは1/2SO2−である。
【0030】
単量体(a)としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩、クロトン酸、クロトン酸塩、イタコン酸、イタコン酸塩、マレイン酸、マレイン酸塩等が挙げられ、汎用性が高く、比較的安価である点から、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩が好ましい。単量体(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
単量体(b)としては、3級塩(N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド(N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等。)の塩酸塩等。)、4級アンモニウム塩(ハロゲン化アルキル付加物(N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの塩化メチル付加物等。)、ハロゲン化アリール付加物(N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの塩化ベンジル付加物等。)等。)等が挙げられ、pH:10.3で解離を示す3級アミンを有するN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩酸塩が好ましい。単量体(b)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
他の単量体(c)としては、水に溶解する単量体であれば特に限定されず、水溶性非イオン性単量体である(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0033】
単量体(a)に由来する構成単位の割合は、全構成単位(100モル%)中、5〜20モル%が好ましく、10〜15モル%がより好ましい。単量体(a)に由来する構成単位が5モル%以上であれば、単量体(b)に由来する構成単位のカチオン性基とのバランスが良好となり、強固な凝集物(フロック)を形成できる。単量体(a)に由来する構成単位が20モル%以下であれば、単量体(b)に由来する構成単位のカチオン性基とイオンコンプレックスを形成しにくいため、両性高分子凝集剤を水に溶解しやすい。
【0034】
単量体(b)に由来する構成単位の割合は、全構成単位(100モル%)中、2〜20モル%が好ましく、3〜15モル%がより好ましい。単量体(b)に由来する構成単位が2モル%以上であれば、比較的pHの高い泥水の脱水効果が発揮されやすい。単量体(b)に由来する構成単位が20モル%以下であれば、単量体(a)に由来する構成単位のアニオン性基とのイオンバランスが良好となり、強固な凝集物(フロック)を形成できる。
【0035】
他の単量体(c)に由来する構成単位の割合は、全構成単位(100モル%)中、60〜93ル%が好ましく、70〜90モル%がより好ましい。他の単量体(c)に由来する構成単位が該範囲内であれば、両性高分子凝集剤に導入されるアニオン性基およびカチオン性基のイオン量が適度な量となり、強固な凝集物(フロック)を形成できる。
各単量体に由来する構成単位の割合は、重合体を製造する際の各単量体の仕込み量から計算する。
【0036】
両性高分子凝集剤は、単量体(a)と単量体(b)と必要に応じて他の単量体(c)とを共重合させることにより得られる。
重合方法としては、下記の方法(i)、(ii)が挙げられ、方法(ii)が好ましい。
(i)各単量体を水に溶解させた単量体水溶液を、熱によりラジカルを発生する開始剤(レドックス開始剤、アゾ系開始剤等。)を用いて共重合させる、水溶液断熱重合方法。
(ii)各単量体を水に溶解させた単量体水溶液を均一なシート状にし、光開始剤を用いて可視光または紫外光を照射して共重合させる、水溶液光重合方法。
方法(ii)では、通常、含水ゲル状の重合体(すなわち、両性高分子凝集剤の含水物。)が得られる。
【0037】
光開始剤としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン(チバ(Ciba)社製、ダロキュア(DAROCUR)1173)等が挙げられる。
光開始剤の添加量は、単量体水溶液の100質量部に対して、0.001〜0.1質量部が好ましい。光開始剤の添加量が0.001質量部以上であれば、十分な共重合速度および共重合率を確保でき、生産性および品質を向上できる。光開始剤の添加量が0.1質量部以下であれば、共重合反応の暴走および共重合体の品質低下を防止できる。
【0038】
各単量体を共重合させる際には、必要に応じて連鎖移動剤を添加してもよい。連鎖移動剤としては、次亜リン酸、ホスホン酸等が挙げられ、連鎖移動させやすい点から、次亜リン酸が好ましい。
連鎖移動剤の添加量は、単量体水溶液の100質量部に対して、0.001〜1質量部が好ましい。連鎖移動剤の添加量が0.001質量部以上であれば、水に不溶性の架橋した共重合体の生成を抑制できる。連鎖移動剤の添加量が1質量部以下であれば、十分な分子量を確保できるため、特に高分子量を必要とする高分子凝集剤用途において十分な凝集脱水性が得られる。
なお、水に不溶性の架橋した共重合体の生成量は、両性高分子凝集剤水溶液を、直径20cm、80メッシュの篩でろ過し、篩の上に残った不溶解分を定量することにより求めることができる。
【0039】
両性高分子凝集剤を、濃度0.5質量%の水溶液(以下、両性高分子凝集剤の水溶液をポリマー水溶液と記す。)とした際の塩粘度は、通常、5〜200mPa・sであり、10〜100mPa・sが好ましい。0.5質量%ポリマー水溶液とした際の塩粘度が5mPa・s以上であれば、特に高粘度を必要とする高分子凝集剤用途において十分な凝集性が得られる。0.5質量%ポリマー水溶液とした際の塩粘度が200mPa・s以下であれば、水に不溶性の架橋した共重合体の生成を抑制できる。
【0040】
塩粘度は、両性高分子凝集剤を4質量%の塩化ナトリウム水溶液に溶解させて0.5質量%ポリマー水溶液とした際の、B型粘度計にて測定した、25℃における粘度である。
両性高分子凝集剤の塩粘度は、両性高分子凝集剤の分子量、イオン性の割合、分子量分布、製造方法、組成分布、親水性・疎水性度合い等を調整することによって制御できる。例えば、分子量を高くする程、イオン性の割合を低くする程、塩粘度の値が増加する傾向にある。一方、分子量を低くする程、イオン性の割合を高くする程、塩粘度の値が減少する傾向にある。
【0041】
(工程(III))
脱水機16にて、凝集物を含む処理水を脱水して、汚泥の脱水ケーキを得る。
脱水機としては、フィルタープレス型脱水機、スクリュープレス型脱水機、真空脱水機、ベルトプレス型脱水機、遠心脱水機等が挙げられ、比較的低い含水率の脱水ケーキが得ることができる点から、フィルタープレス型脱水機またはスクリュープレス型脱水機が好ましい。
【0042】
脱水ケーキは、埋戻土、盛土として再利用できる。
脱水機16から排出されるろ水は、酸性化合物により中和した後、廃棄される。
【0043】
以上説明した本発明の、汚泥を含む被処理水の処理方法にあっては、脱水剤として、水に塩基性化合物および特定の両性高分子凝集剤を溶解させたものを用いているため、下記の理由から、脱水剤の添加量を少なくできる。その結果、汚泥を含む被処理水を、低コストで処理できる。
また、特定の無機塩および特定の脱水剤を併用しているため、硬い脱水ケーキを得ることができる。
また、従来の(3)の方法のようにカチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤とを別々に添加する必要がないため、汚泥を含む被処理水を簡便に処理できる。
【0044】
本発明における特定の両性高分子凝集剤は、pH9以上の塩基性化合物水溶液中にて溶解することにより、単量体(b)に由来する構成単位のカチオン性基の解離が抑制されている。該脱水剤を被処理水に添加すると、特定の両性高分子凝集剤における単量体(a)に由来する構成単位のアニオン性基が、カチオン性基よりも先に汚泥と反応し、ついで徐々に解離してくるカチオン性基が汚泥と反応する。このように、特定の両性高分子凝集剤が汚泥を含む被処理水に効果的に作用するため、少量の添加であっても、強固で疎水性の高い凝集物(フロック)が形成され、良好な脱水処理が可能となり、低含水率の脱水ケーキが得られる。
【0045】
一方、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤および無機塩からなる脱水剤を用いる従来の(1)、(2)の方法では、脱水剤を被処理水に添加した際、汚泥と反応する前に、カチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤とが反応してしまい、凝集剤が有効に利用されないため、脱水剤の添加を増やす必要がある。
【0046】
なお、両性高分子凝集剤としては、式(1)で表される単量体(b1)および式(2)で表される単量体(b2)におけるアミド結合(−CONH−)を、エステル結合(−COO−)に置き換えたエステル系両性高分子凝集剤が知られている。しかし、エステル系両性高分子凝集剤は、本発明におけるアミド系両性高分子凝集剤に比べ、高pH域において加水分解されやすく、高pHの被処理水の処理には適していない。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「%」は、特に断らない限り、質量%を示す。
【0048】
(0.5%塩粘度の測定)
粉末状の高分子凝集剤の2.38gを4%塩化ナトリウム水溶液に溶解し、0.5%ポリマー水溶液の500gを調製した。B型粘度計(東機産業社製)を用い、温度:25℃、回転速度:60rpmの条件で、5分後のポリマー水溶液の塩粘度を測定した。
【0049】
(0.5%不溶解分量の測定)
前記0.5%ポリマー水溶液の全量(500g)を、直径:20cm、80メッシュの篩でろ過し、篩上の残留物(不溶解分)の水分を拭き取り、その質量を測定した。
【0050】
(脱水試験:添加方法(α))
シールド工法によるトンネル掘削現場から排出されたベントナイト泥水(pH:7.86、TS(固形分濃度):23.0%)を用意した。
500mLのビーカーに泥水の300mLを入れ、ついで、所定の添加率となるように無機塩を添加し、スパチュラにて30秒間撹拌した。ついで、所定の添加率となるように脱水剤を添加し、スパチュラにて30秒間撹拌し、凝集物(フロック)を形成させた。このときのpHが10.9になるようにするため、無機塩の添加量を調整した。形成したフロックの粒径を測定した後、フロックを加圧型脱水機で脱水し、脱水ケーキを得た。
【0051】
(脱水試験:添加方法(β))
500mLのビーカーに前記泥水の300mLを入れ、ついで、所定の添加率となるように脱水剤および無機塩を同時に添加し、スパチュラにて30秒間撹拌し、凝集物(フロック)を形成させた。このときのpHが10.9になるようにするため、無機塩の添加量を調整した。形成したフロックの粒径を測定した後、フロックを加圧型脱水機で脱水し、脱水ケーキを得た。
【0052】
(脱水試験:添加方法(γ))
500mLのビーカーに前記泥水の300mLを入れ、ついで、所定の添加率となるように脱水剤を添加し、スパチュラにて30秒間撹拌した。ついで、所定の添加率となるように無機塩を添加し、スパチュラにて30秒間撹拌し、凝集物(フロック)を形成させた。このときのpHが10.9になるようにするため、無機塩の添加量を調整した。形成したフロックの粒径を測定した後、フロックを加圧型脱水機で脱水し、脱水ケーキを得た。
【0053】
(脱水試験:添加方法(δ))
500mLのビーカーに前記泥水の300mLを入れ、ついで、所定の添加率となるように脱水剤を添加し、スパチュラにて30秒間撹拌し、凝集物(フロック)を形成させた。このときのpH調整は特に行わなかった。形成したフロックの粒径を測定した後、フロックを加圧型脱水機で脱水し、脱水ケーキを得た。
【0054】
(脱水条件)
加圧型脱水機による脱水条件は、0.05MPaで30秒、0.10MPaで30秒、0.20MPaで30秒、0.30MPaで30秒、0.40MPaで30秒、0.50MPaで30秒とした。
【0055】
(脱水ケーキの硬さ)
得られた脱水ケーキについて、フォースゲージ(エ−・アンド・ディ社製、AD−4932A−50N)を用いて、フォースゲージ値を測定した。該フォースゲージ値を用い、下記式(3)からコーン指数を算出した。フォースゲージ値およびコーン指数は、脱水ケーキの硬さの指標であり、数値が高いほど脱水ケーキが硬いことを示す。
コーン指数(KN/m)=24.4×フォースゲージ値(N)+105.8 ・・・(3)。
【0056】
(単量体)
単量体(a):
アクリル酸(以下、AAと記す。)、三菱化学社製、純度:50%。
単量体(b):
N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(以下、DMAPAAと記す。)、興人社製、純度:100%。
メタクロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(以下、MAPTACと記す。)、MRCユニテック社製、純度:98%。
他の単量体(c):
アクリルアミド(以下、AAMと記す。)、ダイヤニトリックス社製、純度:50%。
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート硫酸塩(以下、DMZと記す。)、純度:70%。
N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩(以下、DMEと記す。)、大阪有機化学工業社製、純度:80%。
【0057】
(光開始剤)
DAROCUR 1173(以下、D−1173と記す。)、Ciba社製。
(連鎖移動剤)
次亜リン酸(以下、HAと記す。)、関東化学社製。
【0058】
〔製造例1〕
DMAPAAの38.7g、AAの77.0g、AAMの616.0gを、2000mLの褐色耐熱瓶に投入し、全単量体濃度:35%、総質量:1100gになるように蒸留水を加え、単量体水溶液を調製した。さらに、D−1173およびHAを、単量体水溶液の総質量に対して、それぞれ70ppmおよび50ppmとなるように投入し、これに窒素ガスを30分間吹き込みながら水溶液の温度を10℃に調節した。その後、単量体水溶液をステンレス反応容器に移し、容器の下方から17℃の水を噴霧しながら、ケミカルランプを用いて、容器の上方から7W/mの照射強度で、表面温度計が30℃になるまで光を照射した。表面温度計が30℃に到達した後は、0.5W/mの照射強度で45分間光を照射した。さらに単量体の残存量を低減させるために、照射強度を50W/mにして10分間光を照射した。これにより、含水ゲル状の重合体を得た。
【0059】
含水ゲル状の重合体を容器から取り出し、小型ミートチョッパーを用いて解砕した。これを温度:60℃で16時間乾燥した後、粉砕して粉末状のアミド系両性高分子凝集剤(AAC−1)を得た。AAC−1における各単量体に由来する構成単位の割合を、各単量体の仕込み量から計算した。また、0.5%塩粘度、0.5%不溶解分量を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
〔製造例2〕
MAPTACの39.3g、AAの77.0g、AAMの616.0gを、2000mLの褐色耐熱瓶に投入し、全単量体濃度:35%、総質量:1100gになるように蒸留水を加え、単量体水溶液を調製した。さらに、D−1173およびHAを、単量体水溶液の総質量に対して、それぞれ70ppmおよび40ppmとなるように投入した。以下、製造例1と同様の操作を行い、アミド系両性高分子凝集剤(AAC−2)を得た。AAC−2における各単量体に由来する構成単位の割合を、各単量体の仕込み量から計算した。また、0.5%塩粘度、0.5%不溶解分量を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
〔製造例3〜6〕
各単量体の割合を変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、アミド系両性高分子凝集剤(AAC−3〜6)を得た。AAC−3〜6における各単量体に由来する構成単位の割合を、各単量体の仕込み量から計算した。また、0.5%塩粘度、0.5%不溶解分量を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
〔製造例7〕
DMZの55.0g、AAの77.0g、AAMの616.0gを、2000mLの褐色耐熱瓶に投入し、全単量体濃度:35%、総質量:1100gになるように蒸留水を加え、単量体水溶液を調製した。さらに、D−1173およびHAを、単量体水溶液の総質量に対して、それぞれ70ppmおよび45ppmとなるように投入した。以下、製造例1と同様の操作を行い、エステル系両性高分子凝集剤(EAC−1)を得た。EAC−1における各単量体に由来する構成単位の割合を、各単量体の仕込み量から計算した。また、0.5%塩粘度、0.5%不溶解分量を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
〔製造例8〕
DMEの48.1g、AAの77.0g、AAMの616.0gを、2000mLの褐色耐熱瓶に投入し、全単量体濃度:35%、総質量:1100gになるように蒸留水を加え、単量体水溶液を調製した。さらに、D−1173およびHAを、単量体水溶液の総質量に対して、それぞれ70ppmおよび50ppmとなるように投入した。以下、製造例1と同様の操作を行い、エステル系両性高分子凝集剤(EAC−2)を得た。EAC−2における各単量体に由来する構成単位の割合を、各単量体の仕込み量から計算した。また、0.5%塩粘度、0.5%不溶解分量を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
〔製造例9〕
AAの176.0g、AAMの704.0gを、2000mLの褐色耐熱瓶に投入し、全単量体濃度:40%、総質量:1100gになるように蒸留水を加え、単量体水溶液を調製した。さらに、D−1173およびHAを、単量体水溶液の総質量に対して、それぞれ70ppmおよび40ppmとなるように投入した。以下、製造例1と同様の操作を行い、アニオン性高分子凝集剤(A−1)を得た。A−1における各単量体に由来する構成単位の割合を、各単量体の仕込み量から計算した。また、0.5%塩粘度、0.5%不溶解分量を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
〔製造例10〕
DMEの110.0g、AAMの704.0gを、2000mLの褐色耐熱瓶に投入し、全単量体濃度:40%、総質量:1100gになるように蒸留水を加え、単量体水溶液を調製した。さらに、D−1173およびHAを、単量体水溶液の総質量に対して、それぞれ70ppmおよび30ppmとなるように投入した。以下、製造例1と同様の操作を行い、カチオン性高分子凝集剤(C−1)を得た。C−1における各単量体に由来する構成単位の割合を、各単量体の仕込み量から計算した。また、0.5%塩粘度、0.5%不溶解分量を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
〔実施例1〕
水の498.0mLに水酸化ナトリウムの0.5gを加え、pH:12.0のアルカリ水溶液を得た。該アルカリ水溶液に、アミド系両性高分子凝集剤(AAC−1)の1.5gを加え、十分に撹拌して溶解させ、脱水剤を得た。
無機塩である塩化カルシウムおよび脱水剤を、それぞれの添加率が表2に示す値となるように用いて脱水試験:添加方法(α)を行った。結果を表2に示す。
【0068】
〔実施例2〜6〕
アミド系両性高分子凝集剤(AAC−1)を、アミド系両性高分子凝集剤(AAC−2〜6)に変更した以外は、実施例1と同様にして脱水剤を得た。
無機塩である塩化カルシウムおよび脱水剤を、それぞれの添加率が表2に示す値となるように用いて脱水試験:添加方法(α)を行った。結果を表2に示す。
【0069】
〔比較例1、2〕
アミド系両性高分子凝集剤(AAC−1)を、エステル系両性高分子凝集剤(EAC−1)に変更した以外は、実施例1と同様にして脱水剤を得た。
無機塩である塩化カルシウムおよび脱水剤を、それぞれの添加率が表2に示す値となるように用いて脱水試験:添加方法(α)を行った。結果を表2に示す。
【0070】
〔比較例3、4〕
アミド系両性高分子凝集剤(AAC−1)を、エステル系両性高分子凝集剤(EAC−2)に変更した以外は、実施例1と同様にして脱水剤を得た。
無機塩である塩化カルシウムおよび脱水剤を、それぞれの添加率が表2に示す値となるように用いて脱水試験:添加方法(α)を行った。結果を表2に示す。
【0071】
〔比較例5〕
水の499.5mLに、アニオン性高分子凝集剤(A−1)の0.5g加え、十分に撹拌して溶解させ、脱水剤を得た。
無機塩である塩化カルシウムおよび脱水剤を、それぞれの添加率が表2に示す値となるように用いて脱水試験:添加方法(α)を行った。結果を表2に示す。
【0072】
〔比較例6〕
水の498.35mLにスルファミン酸の0.15gを加え、pH:2.0の酸水溶液を得た。該酸水溶液に、カチオン性高分子凝集剤(C−1)の1.5gを加え、十分に撹拌して溶解させ、脱水剤を得た。
無機塩である塩化カルシウムおよび脱水剤を、それぞれの添加率が表2に示す値となるように用いて脱水試験:添加方法(α)を行った。結果を表2に示す。
【0073】
〔比較例7〕
水の499.5mLに、アニオン性高分子凝集剤(A−1)の0.5gを加え、十分に撹拌して溶解させ、脱水剤(A)を得た。
これとは別に、水の498.35mLにスルファミン酸の0.15gを加え、pH:2.0の酸水溶液を得た。該酸水溶液に、カチオン性高分子凝集剤(C−1)の1.5gを加え、十分に撹拌して溶解させ、脱水剤(C)を得た。
無機塩である塩化カルシウムおよび各脱水剤を、それぞれの添加率が表2に示す値となるように、かつ脱水剤(A)、脱水剤(C)の順番に汚泥に添加して脱水試験:添加方法(α)を行った。結果を表2に示す。
【0074】
〔実施例7〜10〕
無機塩である塩化カルシウムを表2に示す無機塩に変更し、実施例1と同様にして、該無機塩および脱水剤を、それぞれの添加率が表2に示す値となるように用いて脱水試験:添加方法(α)を行った。結果を表2に示す。
【0075】
〔実施例11〕
実施例1と同じ無機塩および脱水剤を、それぞれの添加率が表2に示す値となるように用いて脱水試験:添加方法(β)を行った。結果を表2に示す。
【0076】
〔実施例12〕
実施例1と同じ無機塩および脱水剤を、それぞれの添加率が表2に示す値となるように用いて脱水試験:添加方法(γ)を行った。結果を表2に示す。
【0077】
〔比較例8〕
実施例1と同様にして脱水剤を得た。
該脱水剤のみを、凝集剤の添加率が表2に示す値となるように用いて脱水試験:添加方法(δ)を行った。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の、汚泥を含む被処理水の処理方法は、ベントナイト泥水等の無機質汚泥が凝集しにくい被処理水の脱水処理方法として有用である。
【符号の説明】
【0080】
10 処理システム
12 貯泥槽
14 凝集反応槽
16 脱水機
18 無機塩槽
20 脱水剤槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥を含む被処理水に無機塩および脱水剤を添加し、前記汚泥を凝集させて凝集物を含む処理水を得る工程を有する、汚泥を含む被処理水の処理方法において、
前記無機塩として、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、水酸化マグネシウム、硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を用い、
前記脱水剤として、水に塩基性化合物および下記両性高分子凝集剤を溶解させたものを用いることを特徴とする、汚泥を含む被処理水の処理方法。
両性高分子凝集剤:カルボキシ基を有する単量体(a)に由来する構成単位と、下記式(1)で表される単量体(b1)または下記式(2)で表される単量体(b2)に由来する構成単位とを有する重合体。
【化1】

式中、Rは、水素原子またはメチル基であり、Rは、水素原子または炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rは、水素原子または炭素数が1〜4のアルキル基であり、Rは、炭素数が1〜4のアルキル基またはベンジル基であり、Zは、Clまたは1/2SO2−である。
【請求項2】
さらに、前記凝集物を含む処理水を脱水する工程を有する、請求項1に記載の、汚泥を含む被処理水の処理方法。
【請求項3】
さらに、前記汚泥を含む被処理水のpHを7〜11に調整する工程を有する、請求項1または2に記載の、汚泥を含む被処理水の処理方法。
【請求項4】
前記両性高分子凝集剤が、前記単量体(a)に由来する構成単位の5〜20モル%と、前記単量体(b1)または前記単量体(b2)に由来する構成単位の2〜20モル%と、他の単量体(c)に由来する構成単位の60〜93モル%とを有する重合体である、請求項1〜3のいずれかに記載の、汚泥を含む被処理水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−184173(P2010−184173A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28562(P2009−28562)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】