説明

汚泥加熱処理方法及び汚泥加熱処理装置

【課題】汚泥処理物の臭気強度を一定値以下に抑えると共に、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率を一定値以上にする汚泥加熱処理方法及び汚泥加熱処理装置を提供する。
【解決手段】本発明は、汚泥を加熱炉2で過熱する加熱工程を備え、該加熱工程では加熱炉2内の酸素濃度を所定の値に維持しつつ、所定の時間で加熱するという方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥を加熱処理により脱臭すると共に、燃料として利用できる汚泥処理物を製造する汚泥加熱処理方法及び上記加熱処理を行う汚泥加熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下水設備等の増加に伴い、汚水処理により発生する汚泥の量は年々増加している。汚泥は埋立処分や建材・緑農地等への再利用によって処分されているが、埋立処分地の確保は次第に困難になってきており、また、再利用においても汚泥引取価格の上昇や需要の頭打ち等のリスクが存在することから、他の処分方法の確立が求められている。また、近年の石炭を始めとする資源価格の高騰や、CO排出量の削減に効果のあるカーボンニュートラルなエネルギー源として利用できる可能性があることから、汚泥を燃料として利用することに注目が集まっている。
そこで、汚水処理により発生する汚泥を乾燥又は炭化させ、燃料として利用できる汚泥処理物を製造する方法が開発されつつある。
例えば、非特許文献1には、乾燥により汚泥処理物(乾燥物)を製造する方法が開示され、非特許文献2には、炭化により汚泥処理物(炭化物)を製造する方法が開示されている。
【0003】
非特許文献1及び2に示される方法によって製造される汚泥処理物は、いずれも火力発電所等において燃料として利用される。そのため、汚泥処理物には、酸素と結合することにより熱を発生する有機化合物(炭素や水素等からなる化合物)が一定量以上含まれていることが必要となる。また、汚泥は多量の臭気物質を含んでいることから臭気強度が高く、火力発電所等で利用するためには上記汚泥処理物の臭気強度を一定の値以下に低減させることが必要となる。
【0004】
非特許文献1に示される方法では、燃焼炉から供給される熱風を汚泥に直接接触させることで汚泥を乾燥させている。非特許文献2に示される方法では、熱風炉から供給される熱風を汚泥に直接接触させ乾燥させた後、汚泥を空気に触れない炭化炉内でさらに加熱し炭化させている。
汚泥に含まれる臭気物質は、乾燥工程又は炭化工程において加えられる熱により熱分解され、無臭化される。
また、非特許文献1及び2に示される方法では、熱風は空気を熱して作られており、熱風には酸素が含まれている。臭気物質は酸素の酸化作用によって分解(酸化分解)されるため、汚泥に上記熱風を直接接触させることによっても、汚泥を酸化分解し無臭化することができる。
【非特許文献1】柴田良樹、外1名、「造粒乾燥システムによる下水汚泥の燃料化」、資源環境対策、株式会社環境コミュニケーションズ、2006年4月、Vol.42、No.5、p.48−51
【非特許文献2】富山一夫、外4名、「資源循環型汚泥炭化処理装置の開発」、三井造船技報、2007年4月、第190号、p.39−44
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、高温環境下では酸素は汚泥に含まれる有機化合物を、二酸化炭素(CO)や水蒸気(HO)等に分解し揮発させてしまう。したがって、乾燥・炭化処理後に得られる汚泥処理物に含まれる有機化合物が減少してしまい、汚泥処理物が燃料として利用できなくなる虞があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、汚泥処理物の臭気強度を一定値以下に抑えると共に、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率を一定値以上にする汚泥加熱処理方法及び汚泥加熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、汚泥を加熱炉で過熱する加熱工程を備え、該加熱工程では加熱炉内の酸素濃度を所定の値に維持しつつ、所定の時間で加熱するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、汚泥の臭気物質を熱分解又は酸化分解することにより汚泥が脱臭される。また、本発明では、加熱炉内の酸素濃度を所定の値に維持し、汚泥を所定の時間で加熱するため、汚泥中の有機化合物に対する酸化分解作用が制限され、有機化合物の揮発が限定される。
【0008】
また、本発明は、加熱工程では加熱炉内の温度を所定の値に維持するという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、加熱炉内の温度を所定の値に維持するため、汚泥中の有機化合物に対する酸化分解作用が制限され、有機化合物の揮発が限定される。
【0009】
また、本発明では、汚泥に乾燥汚泥を用いるという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、汚泥に含まれる水分が少ないことから、該水分を蒸発させるために必要な熱量が減少し、加熱炉内の熱は汚泥中の臭気物質を熱分解するために重点的に使用される。
【0010】
また、本発明では、加熱工程において酸素濃度が0%、加熱炉内の温度が400℃のときに、汚泥の加熱時間を10分から30分までとするという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、汚泥を加熱処理することによって製造される汚泥処理物の臭気強度が3以下に低減し、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率が20%以上となる。
【0011】
また、本発明では、加熱工程において酸素濃度が2%、加熱炉内の温度が300℃ないし400℃のときに、汚泥を加熱する時間をM分、前記温度をT℃とすると、
−0.15T+65≦M≦30
を満たすという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、汚泥処理物の臭気強度が3以下に低減し、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率が20%以上となる。
【0012】
また、本発明では、加熱工程において酸素濃度が2%、加熱炉内の温度が400℃ないし500℃のときに、汚泥の加熱時間を5分から30分までとするという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、汚泥処理物の臭気強度が3以下に低減し、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率が20%以上となる。
【0013】
また、本発明では、加熱工程において酸素濃度が5%、加熱炉内の温度が300℃ないし450℃のときに、汚泥の加熱時間を5分から30分までとするという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、汚泥処理物の臭気強度が3以下に低減し、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率が20%以上となる。
【0014】
また、本発明では、加熱工程において酸素濃度が5%、加熱炉内の温度が450℃ないし500℃のときに、汚泥を加熱する時間をM分、前記温度をT℃とすると、
5≦M≦−0.4T+210
を満たすという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、汚泥処理物の臭気強度が3以下に低減し、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率が20%以上となる。
【0015】
また、本発明では、加熱工程において酸素濃度が10%、加熱炉内の温度が300℃のときに、汚泥の加熱時間を5分から30分までとするという方法を採用する。
このような方法を採用する本発明では、汚泥処理物の臭気強度が3以下に低減し、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率が20%以上となる。
【0016】
また、本発明の汚泥加熱処理装置は、汚泥を所定の時間で加熱する加熱炉と、加熱炉内に酸素を供給する酸素供給部と、加熱炉内の酸素濃度を測定する酸素濃度計と、酸素濃度計の測定結果に基づいて酸素供給部が供給する酸素量を決定する酸素供給制御部と、を有するという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、加熱炉内の酸素濃度を所定の値に維持しつつ、汚泥を所定の時間で加熱する。そのため、本発明では、汚泥の臭気物質を熱分解又は酸化分解することにより汚泥が脱臭される。また、本発明では、汚泥中の有機化合物に対する酸化分解作用が制限され、有機化合物の揮発が限定される。
【0017】
また、本発明の汚泥加熱処理装置は、汚泥を乾燥する乾燥機を有し、該乾燥機は加熱炉の上流側に設けられるという構成を採用する。
このような構成を採用する本発明では、乾燥機によって汚泥に含まれる水分が少なくなることから、該水分を蒸発させるために必要な熱量が減少し、加熱炉内の熱は汚泥中の臭気物質を熱分解するために重点的に使用される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。
本発明によれば、汚泥を加熱処理することによって製造される汚泥処理物の臭気強度を一定値以下に抑えることができ、かつ、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率を一定値以上にすることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
まず、本発明の一実施形態に係る汚泥加熱処理装置1の構成を、図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る汚泥加熱処理装置1の全体構成を示す概略図である。
本実施形態に係る汚泥加熱処理装置1は、汚泥を加熱処理により脱臭すると共に、火力発電所等における燃料として利用できる汚泥処理物を製造するための装置である。
【0020】
図1に示すように、汚泥加熱処理装置1は、汚泥を加熱する加熱炉2と、汚泥を加熱炉2に搬入する汚泥搬入部3と、加熱炉2から搬出される汚泥処理物を汚泥加熱処理装置1の外部に搬出する汚泥搬出部4と、加熱炉2内部の温度を計測する温度計5と、熱風を加熱炉2に供給する熱風炉6と、加熱炉2内部の酸素濃度を計測する酸素濃度計7と、加熱炉2に供給される酸素量を制御する酸素供給制御部8と、酸素を加熱炉2に供給する酸素供給部9とを有している。
【0021】
加熱炉2は、外熱式の加熱炉であり、略円筒状を呈し汚泥を外気に触れない状態で加熱しながら軸方向で搬送するキルン21と、キルン21を囲んで設けられるジャケット22とを有している。
キルン21は、その中心軸が水平方向に対して数%傾いており、下流側が上流側よりも低くなっている。また、キルン21は、中心軸周りに回転自在に設けられている。
ジャケット22とキルン21の外周面との間には、後述する熱風炉6からの熱風が導入される密閉空間Sが形成されている。
【0022】
汚泥搬入部3は、加熱炉2の上流側に設けられ、汚泥を一時的に貯留しつつ下流側に供給する搬入ホッパ31と、搬入ホッパ31から供給される汚泥を加熱炉2へ搬送する搬入コンベア32とを有している。
汚泥搬出部4は、加熱炉2の下流側に設けられ、加熱炉2から搬出される汚泥処理物を下流側に搬送する搬出コンベア41と、搬出コンベア41によって搬送される汚泥を一時的に貯留しつつ汚泥加熱処理装置1の外部に供給する搬出ホッパ42とを有している。
【0023】
温度計5は、キルン21の内部に設置されており、キルン21内部における温度の計測値を後述する熱風炉6に出力する計測器である。
熱風炉6は、例えば重油等の燃料を燃焼させることで空気を加熱して熱風とし、該熱風を加熱炉2の空間S内に供給する燃焼炉である。また、熱風炉6は、キルン21の内部を所定の温度に維持するために、温度計5から出力される温度計測値に基づいて、供給する熱風の温度を調節する機能を有している。
【0024】
酸素濃度計7は、キルン21の内部に設置されており、キルン21内部における酸素濃度の計測値を後述する酸素供給制御部8に出力する計測器である。
酸素供給制御部8は、キルン21の内部を所定の酸素濃度に維持するために、酸素濃度計7から出力される酸素濃度計測値に基づいて、後述する酸素供給部9に酸素供給信号を出力する機能を有している。
酸素供給部9は、酸素供給制御部8から出力される酸素供給信号に基づいて、酸素をキルン21内に送り出す供給部である。
【0025】
続いて、汚泥の加熱処理に関する動作・作用について説明する。
まず、キルン21内部における温度の調整を行う。
温度計5が現在のキルン21内部の温度を計測し、計測値を熱風炉6に出力する。
熱風炉6には、予めキルン21内部において維持すべき温度設定値が与えられており、この設定値は加熱処理後に得られる汚泥処理物の臭気強度及び有機化合物の含有率の目標値に応じて決定される。熱風炉6は、現在のキルン21内部の温度と上記温度設定値に基づいて、燃焼を調整する。熱風炉6によって空気は加熱され熱風となり、加熱炉2の空間S内に供給される。
空間S内に供給された熱風はキルン21を外部から加熱し、これに伴いキルン21内部の温度が上昇する。
再び、温度計5が、現在のキルン21内部の温度を計測し、計測値を熱風炉6に出力する。上記動作を繰り返すことにより、キルン21内部の温度は上記温度設定値に収束し維持される。
以上で、キルン21内部における温度の調整は終了する。
【0026】
次に、キルン21内部における酸素濃度の調整を行う。
酸素濃度計7が現在のキルン21内部の酸素濃度を計測し、計測値を酸素供給制御部8に出力する。
酸素供給制御部8には、予めキルン21内部において維持すべき酸素濃度設定値が与えられており、この設定値は加熱処理後に得られる汚泥処理物の臭気強度及び有機化合物の含有率の目標値に応じて決定される。酸素供給制御部8は、現在のキルン21内部の酸素濃度と上記酸素濃度設定値に基づいて、酸素供給部9が供給する酸素量を決定する。次に、酸素供給制御部8は、上記酸素量の情報を含んだ酸素供給信号を酸素供給部9に出力する。
酸素供給部9は、酸素供給制御部8から出力された酸素供給信号に基づいて、酸素をキルン21内部に供給する。
再び、酸素濃度計7が、現在のキルン21内部の酸素濃度を計測し、計測値を酸素供給制御部8に出力する。上記動作を繰り返すことにより、キルン21内部の酸素濃度は上記酸素濃度設定値に収束し維持される。
以上で、キルン21内部における酸素濃度の調整は終了する。
【0027】
次に、汚泥が汚泥加熱処理装置1に供給され、加熱処理される。
汚泥が、汚泥搬入部3の搬入ホッパ31に供給される。搬入ホッパ31は汚泥を搬入コンベア32に供給し、搬入コンベア32は汚泥を搬送し、加熱炉2のキルン21内に汚泥を供給する。
キルン21は、その中心軸が水平方向に対して数%傾き、中心軸周りに回転しているため、キルン21内部に供給された汚泥は、キルン21の回転と共に下流側へ徐々に搬送される。なお、汚泥がキルン21内部に滞留する時間は、キルン21の回転速度及び水平方向に対する傾きに依存するため、回転速度及び傾きを変更することで汚泥の滞留時間すなわち加熱処理時間を調整することができる。なお、汚泥の加熱処理時間は加熱処理後に得られる汚泥処理物の臭気強度及び有機化合物の含有率の目標値に応じて決定される。
【0028】
汚泥がキルン21内部に滞留している間、キルン21内部の温度は所定の温度に維持されているため、汚泥は加熱処理される。すなわち、汚泥は加熱されることで、汚泥中の臭気物質が熱分解され無臭化される。また、キルン21内部の酸素濃度も所定の濃度に維持されているため、上記臭気物質は酸素の酸化作用によって酸化分解され、無臭化される。
汚泥の臭気強度は、低すぎることによる弊害はないため、高温、高酸素濃度及び長時間による加熱処理が望ましいことになる。
【0029】
一方、汚泥中には有機化合物が含まれており、該有機化合物も熱によって熱分解され、酸素によって酸化分解される。
汚泥を加熱処理した後に得られる汚泥処理物は、火力発電所等における燃料として利用されるため、汚泥処理物中に一定量以上の有機化合物が含まれていなければならない。よって、有機化合物の存在を考慮すると、キルン21内部の温度及び酸素濃度はできる限り低いことが好ましく、加熱処理時間も短いことが好ましい。
したがって、汚泥処理物の臭気強度及び有機化合物の含有率の目標値に応じて、適切なキルン21内部の温度及び酸素濃度並びに加熱処理時間を設定する必要がある。
【0030】
キルン21の下流側からは、加熱処理が終了した汚泥処理物が搬出される。汚泥処理物の臭気強度は一定値以下に抑えられ、含まれる有機化合物の含有率は一定値以上を確保しているため、汚泥処理物は火力発電所等で燃料として利用できる。
キルン21から搬出された汚泥処理物は、汚泥搬出部4の搬出コンベア41及び搬出ホッパ42によって汚泥加熱処理装置1の外部に搬出される。
以上で、汚泥の加熱処理が終了する。
【0031】
続いて、汚泥処理物に求められる基準を満たすための、加熱処理条件について説明する。
加熱処理条件は、汚泥周囲の酸素濃度、温度及び汚泥の加熱時間の3項目とし、異なる条件の下で汚泥の加熱処理を行った。また、加熱処理後に得られる汚泥処理物の臭気強度及び含まれる有機化合物の含有率を測定した。
なお、加熱処理後の汚泥処理物に求められる基準は、臭気強度が3以下、含まれる有機化合物の含有率が20%以上とする。
【0032】
本実験で用いた汚泥は乾燥汚泥であり、その含水率は凡そ40%である。
汚泥は酸素(O)及び窒素(N)の混合気体の雰囲気内で加熱され、上記混合気体の酸素濃度は、0%、2%、5%及び10%の4種とした。また、汚泥は加熱温度を任意に設定できる加熱装置内に設置され、加熱温度は、300℃、400℃、450℃及び500℃の4種とした。加熱時間は、5分、10分、20分及び30分とし、各々の加熱が終了した時点で汚泥の臭気強度及び含まれる有機化合物の含有率を測定した。
【0033】
まず、加熱処理条件のうち、酸素濃度を0%、加熱温度を400℃としたときの、汚泥処理物の臭気強度及び有機化合物の含有率を[表1]に示す。
【表1】

[表1]に示すように、5分間の加熱処理を行った場合は、汚泥処理物の臭気強度は3以下となっていない。加熱時間が長いほど臭気強度は低下しているので、これらの条件では加熱時間が不足していることが判る。なお、有機化合物の含有率は、いずれの条件でも20%以上を確保している。
よって、上記加熱処理条件においては、汚泥の加熱時間を10分から30分までとすることで、汚泥処理物に求められる基準を満たすことができる。
【0034】
次に、加熱処理条件のうち、酸素濃度を2%、加熱温度を300℃、400℃、450℃及び500℃としたときの、汚泥処理物の臭気強度及び有機化合物の含有率を[表2]に示す。
【表2】

[表2]に示すように、加熱温度を300℃とし、5分間又は10分間の加熱処理を行った場合は、汚泥処理物の臭気強度は3以下となっていない。加熱時間が長いほど臭気強度は低下しているので、これらの条件では加熱時間が不足していることが判る。なお、有機化合物の含有率は、いずれの条件でも20%以上を確保している。
【0035】
ここで、酸素濃度を2%としたときの、汚泥処理物の基準を満たした加熱処理条件を図2に示した。図2の紙面下側のグラフは、各々の加熱温度において上記基準を満たした最短の加熱時間を結んだものであり、紙面上側のグラフは、各々の加熱温度において上記基準を満たした最長の加熱時間を結んだものである。すなわち、上記2つのグラフに挟まれた範囲の条件では、汚泥処理物に求められる基準を満たすことができる。なお、隣り合う加熱温度の間を補完するにあたり、直線による補完を採用した。
したがって、酸素濃度を2%、加熱温度を300℃ないし400℃としたときには、汚泥の加熱時間M分及び加熱温度T℃を、
−0.15T+65≦M≦30
の式を満たす範囲の値とし、酸素濃度を2%、加熱温度を400℃ないし500℃としたときには、汚泥の加熱時間を5分から30分までとすることで、汚泥処理物に求められる基準を満たすことができる。
【0036】
次に、加熱処理条件のうち、酸素濃度を5%、加熱温度を300℃、450℃及び500℃としたときの、汚泥処理物の臭気強度及び有機化合物の含有率を[表3]に示す。
【表3】

[表3]に示すように、加熱温度を500℃とし、20分間又は30分間の加熱処理を行った場合は、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率は20%以下となっている。加熱時間が長いほど含有率は低下しているので、これらの条件では加熱時間が長すぎることが判る。なお、臭気強度は、いずれの条件でも3以下となっている。
【0037】
ここで、酸素濃度を5%としたときの、汚泥処理物の基準を満たした加熱処理条件を図3に示した。図3は、図2と同様のグラフである。
よって、酸素濃度を5%、加熱温度を300℃ないし450℃としたときには、汚泥の加熱時間を5分から30分までとし、酸素濃度を5%、加熱温度を450℃ないし500℃としたときには、汚泥の加熱時間M分及び加熱温度T℃を、
5≦M≦−0.4T+210
の式を満たす範囲の値とすることで、汚泥処理物に求められる基準を満たすことができる。
【0038】
最後に、加熱処理条件のうち、酸素濃度を10%、加熱温度を300℃としたときの、汚泥処理物の臭気強度及び有機化合物の含有率を[表4]に示す。
【表4】

[表4]に示すように、汚泥処理物の臭気強度は、いずれの条件でも3以下となっており、有機化合物の含有率は、いずれの条件でも20%以上を確保している。
よって、上記加熱処理条件においては、汚泥の加熱時間を5分から30分までとすることで、汚泥処理物に求められる基準を満たすことができる。
【0039】
したがって、本実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、適切な加熱処理条件を用いることで、汚泥処理物の臭気強度を3以下に抑えることができ、かつ、汚泥処理物に含まれる有機化合物の含有率を20%以上とすることができるという効果がある。
【0040】
なお、前述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲においてプロセス条件や設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、加熱炉2は外熱式の加熱炉であるが、本発明は上記構成に限定されるものではなく、汚泥に熱風を直接接触させて加熱処理を行う加熱炉であってもよい。この場合に、熱風は、汚泥の搬送方向と同じ向きに流れてもよいし(並流)、汚泥の搬送方向と逆の向きに流れてもよい(向流)。なお、加熱炉内部の酸素濃度を例えば2%等の通常の空気における酸素濃度よりも低い値とする場合には、熱風炉が熱する気体は空気と窒素との混合気体とするか、又は、窒素とする必要がある。
【0042】
また、上記実施形態では、キルン21内部の酸素濃度は予め定められた設定値を維持するように制御されているが、時間と共に上記設定値を変化させるようにしてもよい。例えば、キルン21内部の温度制御を簡単な制御によって行うか、又は、全く行わない場合等に、現在のキルン21内部の温度に基づいて、酸素濃度の設定値を変化させてもよい。温度が高くなると酸化分解の速度が上がるため、酸素濃度を低下させることにより分解速度の上昇を防ぐことができる。
【0043】
また、上記実施形態において使用される汚泥は、予め乾燥された乾燥汚泥であってもよい。乾燥汚泥を使用する場合には汚泥に含まれる水分が少ないことから、該水分を蒸発させるために必要な熱量が減少し、加熱炉2内の熱は汚泥中の臭気物質を熱分解するために重点的に使用される。したがって、加熱処理時間が短縮され、加熱のために必要とするエネルギー量が低減するという効果がある。なお、上記乾燥においては、汚泥中の有機化合物の分解をできるだけ抑えるために、130℃程度の温度で乾燥させることが好ましい。
また、上記実施形態における加熱炉2の上流側に、汚泥を乾燥させるための乾燥機を設けてもよい。すなわち、乾燥機で汚泥を乾燥させた後に、加熱炉2において汚泥の加熱処理を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態に係る汚泥加熱処理装置1の全体構成を示す概略図である。
【図2】酸素濃度を2%としたときの、汚泥処理物の基準を満たす加熱処理条件を示す概略図である。
【図3】酸素濃度を5%としたときの、汚泥処理物の基準を満たす加熱処理条件を示す概略図である。
【符号の説明】
【0045】
1…汚泥加熱処理装置、2…加熱炉、7…酸素濃度計、8…酸素供給制御部、9…酸素供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥を加熱炉で過熱する加熱工程を備え、
前記加熱工程では、前記加熱炉内の酸素濃度を所定の値に維持しつつ、所定の時間で加熱することを特徴とする汚泥加熱処理方法。
【請求項2】
前記加熱工程では、前記加熱炉内の温度を所定の値に維持することを特徴とする請求項1に記載の汚泥加熱処理方法。
【請求項3】
前記汚泥に乾燥汚泥を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の汚泥加熱処理方法。
【請求項4】
前記加熱工程において前記酸素濃度が0%、前記加熱炉内の温度が400℃のときに、前記汚泥の加熱時間を10分から30分までとすることを特徴とする請求項3に記載の汚泥加熱処理方法。
【請求項5】
前記加熱工程において前記酸素濃度が2%、前記加熱炉内の温度が300℃ないし400℃のときに、前記汚泥を加熱する時間をM分、前記温度をT℃とすると、
−0.15T+65≦M≦30
を満たすことを特徴とする請求項3に記載の汚泥加熱処理方法。
【請求項6】
前記加熱工程において前記酸素濃度が2%、前記加熱炉内の温度が400℃ないし500℃のときに、前記汚泥の加熱時間を5分から30分までとすることを特徴とする請求項3に記載の汚泥加熱処理方法。
【請求項7】
前記加熱工程において前記酸素濃度が5%、前記加熱炉内の温度が300℃ないし450℃のときに、前記汚泥の加熱時間を5分から30分までとすることを特徴とする請求項3に記載の汚泥加熱処理方法。
【請求項8】
前記加熱工程において前記酸素濃度が5%、前記加熱炉内の温度が450℃ないし500℃のときに、前記汚泥を加熱する時間をM分、前記温度をT℃とすると、
5≦M≦−0.4T+210
を満たすことを特徴とする請求項3に記載の汚泥加熱処理方法。
【請求項9】
前記加熱工程において前記酸素濃度が10%、前記加熱炉内の温度が300℃のときに、前記汚泥の加熱時間を5分から30分までとすることを特徴とする請求項3に記載の汚泥加熱処理方法。
【請求項10】
汚泥を所定の時間で加熱する加熱炉と、
前記加熱炉内に酸素を供給する酸素供給部と、
該加熱炉内の酸素濃度を測定する酸素濃度計と、
前記酸素濃度計の測定結果に基づいて前記酸素供給部が供給する酸素量を決定する酸素供給制御部と、を有することを特徴とする汚泥加熱処理装置。
【請求項11】
前記汚泥を乾燥する乾燥機を有し、
該乾燥機は、前記加熱炉の上流側に設けられることを特徴とする請求項10に記載の汚泥加熱処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−125392(P2010−125392A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303021(P2008−303021)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(597092244)株式会社IHI環境エンジニアリング (3)
【Fターム(参考)】