説明

汚泥脱水剤および汚泥脱水方法

【課題】廃水処理施設より生じる汚泥の脱水処理に対し、粒径が大きく強度の高いフロックを安定して形成させることができ、SS量が少ない処理水および含水率の低い脱水ケーキが得られる汚泥脱水剤、および該汚泥脱水剤を用いた汚泥脱水方法の提供を目的とする。
【解決手段】ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのベンジルクロライド4級塩モノマーに由来する構成単位を50モル%以上有するカチオン性ポリマーと、両性ポリマーと、ノニオン性またはアニオン性ポリマーと、を含有することを特徴とする汚泥脱水剤。また、該汚泥脱水剤を用いた汚泥脱水方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥脱水剤および汚泥脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機汚泥、特に下水処理場、し尿処理場、食品工業などの廃水処理施設などでは、沈降分離、生物処理などの方法により廃水の浄化を行っている。この処理の際に発生する汚泥は一般にスクリュウデカンター、ベルトプレス、スクリュープレスなどで脱水処理した後に、焼却処分している。
汚泥の脱水処理では、処理を効率的に行う目的で、汚泥に高分子凝集剤を添加して混合し、汚泥粒子をフロック化する方法が広く用いられている。この際、高分子凝集剤は水溶液の形態で使用するため、高分子凝集剤は水溶解性が高いことが必要である。
【0003】
また、汚泥に対し良好で安定した脱水処理を行うためには、第一に大きなフロック(凝集フロック)を形成して、汚泥粒子と水が容易に分離できることが重要である。しかし、例えば下水処理場の場合、近年の水処理の高度化、汚泥の集中処理などによる腐敗、合流処理から分流式への変化により、汚泥に安定したフロックを形成させ、処理水のSS(浮遊固定物)濃度を低減させることが困難となっている。また、食品工業などの産業廃水の場合も、生産品目の変動に伴う汚泥の質の大きな変化により、汚泥に安定したフロックを形成させて処理水のSS濃度を低減することが困難となっている。
【0004】
かかる状況のなか、大きく、安定したフロックを形成させ、良好な脱水処理を実現する目的で様々な種類の高分子凝集剤が上市され、その数は数十品目以上に達している。例えば、高分子凝集剤の分子量を高くすることで、形成されるフロックを大きくするものがある。また、高分子凝集剤の組成あるいは構造を変えることにより、大きなフロックを形成させる試みがなされている。具体的には、以下に示す汚泥脱水方法が示されている。
(1)ジアルキルアミノエチルメタクリレートのベンジルクロライド4級塩を構成単位とするカチオン性ポリマーと、両性ポリマーの混合物からなる脱水剤を用いる汚泥脱水方法(特許文献1)。
(2)ノニオン性またはアニオン性高分子凝集剤と、両性高分子凝集剤の混合物からなる脱水剤を用いる汚泥脱水方法(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−121997号公報
【特許文献2】特開2004−344748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、(1)、(2)の方法では、ポリマー同士の混合比率および両性ポリマーのモノマー組成が共に限定されており、汎用性に乏しい。このような方法では、フロック粒径は小さく、フロック強度は弱く、処理水中のSS量は多く、脱水ケーキの含水率は高くなる傾向にあり、汚泥の脱水が充分に行なえないことがあった。
【0007】
本発明は、廃水処理施設より生じる汚泥の脱水処理に対し、粒径が大きく強度の高いフロックを安定して形成させることができ、SS量が少ない処理水および含水率の低い脱水ケーキが得られる汚泥脱水剤、および該汚泥脱水剤を用いた汚泥脱水方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の汚泥脱水剤は、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのベンジルクロライド4級塩モノマーに由来する構成単位を50モル%以上有するカチオン性ポリマーと、両性ポリマーと、ノニオン性またはアニオン性ポリマーと、を含有する。
また、本発明の汚泥脱水剤は、前記両性ポリマーが、カチオン性構成単位、アニオン性構成単位、ノニオン性構成単位からなり、前記カチオン性構成単位が前記アニオン構成単位の0.5モル倍以上であることが好ましい。
また、前記アニオン性ポリマー中のアニオン性構成単位が20モル%以下であることが好ましい。
また、前記カチオン性ポリマーが10〜70質量%、前記両性ポリマーが15〜50質量%、前記ノニオン性またはアニオン性ポリマーが10〜40質量%(ただし、各ポリマーの合計が100質量%である。)であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の脱水汚泥剤は、さらにアミジンポリマーを含有することが好ましい。
また、前記カチオン性ポリマーが10〜60質量%、前記両性ポリマーが15〜40質量%、前記ノニオン性またはアニオン性ポリマーが10〜30質量%、アミジンポリマーが15〜40質量%(ただし、各ポリマーの合計が100質量%である。)であることが好ましい。
【0010】
本発明の汚泥脱水方法は、前記いずれかの汚泥脱水剤を汚泥に添加混合し、脱水機を用いて脱水する方法である。
また、本発明の汚泥脱水方法は、前記脱水機が圧入式スクリュープレス型脱水機であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の汚泥脱水剤は、廃水処理施設より生じる汚泥に添加混合することで、粒径が大きく強度の高いフロックを安定して形成させることができ、SS量が少ない処理水および含水率の低い脱水ケーキが得られる。
また、本発明の汚泥脱水方法によれば、粒径が大きく強度の高いフロックを安定して形成させることができ、SS量が少ない処理水および含水率の低い脱水ケーキが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
<汚泥脱水剤>
本発明の汚泥脱水剤(以下、「本汚泥脱水剤」という。)は、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのベンジルクロライド4級塩モノマーに由来する構成単位を50モル%以上有するカチオン性ポリマー(以下、「ポリマー(C)」という。)と、両性ポリマー(以下、「ポリマー(R)」という。)と、ノニオン性またはアニオン性ポリマー(以下、「ポリマー(NA)」という。)とを含有する。
【0013】
ポリマー(C)は、カチオン性モノマーであるジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのベンジルクロライド4級塩(以下、「モノマー(c1)」という。)に由来するカチオン性構成単位(以下、「カチオン構成単位(c1)」という。)を有する。前記ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートは、特に制限はなく、各々のアルキル基の炭素数が1〜3のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
各々のアルキル基の炭素数が1〜3のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノメチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、メチルプロピルアミノメチル(メタ)アクリレート、エチルプロピルアミノメチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、エチルプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、メチルプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレート、エチルプロピルアミノプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
モノマー(c1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
ポリマー(C)中のカチオン構成単位(c1)の含有量は、50モル%以上であり、70モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。カチオン構成単位(c1)の含有量が50モル%以上であれば、粒径が大きく強度の高いフロックが得られ、SS量の少ない処理水が得られ、かつ脱水ケーキの含水率が低くなる。
【0015】
ポリマー(C)は、モノマー(c1)以外のモノマー(c2)に由来する構成単位を有していてもよい。
モノマー(c2)は、本汚泥脱水剤の効果を損なわないモノマーであれば特に制限はなく、例えば、以下のモノマーが挙げられる。
モノマー(c21):モノマー(c1)以外のカチオン性モノマー。
モノマー(c22):ノニオン性モノマー。
【0016】
モノマー(c21)としては、例えば、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのアルキルクロライド4級塩、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのジメチル硫酸4級塩が挙げられる。
モノマー(c21)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
モノマー(c22)としては、例えば、アクリルアミドが挙げられる。
モノマー(c22)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
ポリマー(R)は、両性ポリマーであり、カチオン性構成単位、アニオン性構成単位、およびノニオン性構成単位からなる。以下、ポリマー(R)のカチオン性構成単位、アニオン性構成単位、ノニオン性構成単位を便宜的にそれぞれカチオン構成単位(r1)、アニオン構成単位(r2)、ノニオン構成単位(r3)という。
ポリマー(R)におけるカチオン構成単位(r1)の含有量は、アニオン構成単位(r2)の0.5モル倍以上が好ましく、1.0モル倍以上がより好ましく、2.0モル倍以上がさらに好ましい。また、カチオン構成単位(r1)の前記含有量は、アニオン構成単位(r2)の10.0モル倍以下が好ましく、5.0モル倍以下がより好ましく、3.0モル倍以下がさらに好ましい。カチオン構成単位(r1)の含有量がアニオン構成単位(r2)の0.5モル倍以上であれば、フロックの粒径が大きく、また強度が高くなりやすい。また、カチオン構成単位(r1)の含有量がアニオン構成単位(r2)の10.0モル倍以下であれば、大きなフロック粒径、強いフロック強度を保持しやすい。
【0019】
カチオン構成単位(r1)を与えるモノマー(r1)は、カチオン性を有するモノマーであれば特に制限はなく、例えば、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのベンジルクロライド4級塩、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのアルキルクロライド4級塩、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのジメチル硫酸4級塩、ジアリルジアルキルアンモニウムクロライドが挙げられる。
モノマー(r1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
アニオン構成単位(r2)を与えるモノマー(r2)は、アニオン性を有するモノマーであれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が挙げられる。
モノマー(r2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ノニオン構成単位(r3)を与えるモノマー(r3)は、ノニオン性のモノマーであれば特に制限はなく、例えば、アクリルアミドが挙げられる。
モノマー(r3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
ポリマー(NA)は、ノニオン性ポリマー(以下、「ポリマー(N)」という。)またはアニオン性ポリマー(以下、「ポリマー(A)」という。)である。ポリマー(N)におけるノニオン性構成単位、およびポリマー(A)におけるアニオン性構成単位を便宜的にそれぞれノニオン構成単位(n1)、アニオン構成単位(a1)という。
【0023】
ノニオン構成単位(n1)を与えるモノマー(n1)は、ノニオン性のモノマーであれば特に制限はなく、例えば、アクリルアミドが挙げられる。
モノマー(n1)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
アニオン構成単位(a1)を与えるモノマー(a1)は、アニオン性を有するモノマーであれば特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が挙げられる。
モノマー(a1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ポリマー(A)は、アニオン構成単位(a1)以外にノニオン構成単位(a2)を有していてもよい。ノニオン構成単位(a2)を与えるモノマー(a2)としては、モノマー(n1)と同じものが挙げられる。
【0026】
ポリマー(A)におけるアニオン構成単位(a1)の含有量は、20モル%以下が好ましく、15モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。また、アニオン構成単位(a1)の前記含有量は、3.0モル%以上が好ましく、5.0モル%以上がより好ましく、7.0モル%以上がさらに好ましい。アニオン構成単位(a1)の含有量が20モル%以下であれば、フロックの粒径が大きくなりやすく、また強度が高くなりやすい。また、アニオン構成単位(a1)の含有量が3.0モル%以上であれば、大きなフロック粒径、強いフロック強度を保持しやすい。
【0027】
本汚泥脱水剤における各ポリマーの質量比は、粒径が大きく強度の高いフロックが得られやすく、また処理水中のSS量が少なく、脱水ケーキの含水率が低くなりやすい点から、ポリマー(C)10〜70質量%、ポリマー(R)15〜50質量%、ポリマー(NA)10〜40質量%(ただし、これら各ポリマーの合計が100質量%である。)であることが好ましい。また、各ポリマーの質量比は、ポリマー(C)30〜60質量%、ポリマー(R)20〜40質量%、ポリマー(NA)20〜30質量%であることがより好ましい。
【0028】
本発明の汚泥脱水剤は、脱水ケーキの含水率をさらに低くするため、前記ポリマー(C)、ポリマー(R)、およびポリマー(NA)に加えてアミジンポリマーを含有することが好ましい。本発明に用いるアミジンポリマーは、下記式(1)で表されるアミジン単位および/または下記式(2)で表されるアミジン単位を含有する。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】

【0031】
ただし、式(1)、(2)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であり、Xは陰イオンである。
としては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、酢酸イオン、水酸化物イオンが挙げられる。中でも塩化物イオンが好ましい。
【0032】
本汚泥脱水剤がアミジンポリマーを含有する場合、それら各ポリマーの質量比は、粒径が大きく強度の高いフロックが得られやすく、また処理水中のSS量が少なく、脱水ケーキの含水率が低くなりやすい点から、ポリマー(C)10〜60質量%、ポリマー(R)15〜40質量%、ポリマー(NA)10〜30質量%、アミジンポリマー15〜40質量%(ただし、これら4つのポリマーの合計が100質量%である。)であることが好ましい。また、前記各ポリマーの質量比は、ポリマー(C)30〜50質量%、ポリマー(R)20〜30質量%、ポリマー(NA)15〜25質量%、アミジンポリマー20〜30質量%であることがより好ましい。
【0033】
本汚泥脱水剤は、ポリマー(C)、ポリマー(R)およびポリマー(NA)、またはそれらとアミジンポリマーを含有する。これらポリマーの重合方法としては、例えば、下記の方法(i)、(ii)が挙げられる。
方法(i):各モノマーを水に溶解させたモノマー水溶液を、熱によりラジカルを発生する開始剤(レドックス開始剤、アゾ系開始剤など。)を用いて共重合させる水溶液断熱重合方法。
方法(ii):各モノマーを水に溶解させたモノマー水溶液を均一なシート状にし、光開始剤を用いて可視光または紫外光を照射して共重合させる水溶液光重合方法。
【0034】
方法(ii)では、通常、含水ゲル状のポリマー、すなわち、ポリマー(C)、ポリマー(R)、ポリマー(NA)、アミジンポリマーのそれぞれの含水物が得られる。得られたポリマー(C)、ポリマー(R)、ポリマー(NA)、アミジンポリマーの形態は、粉末が好ましい。ただし、これらポリマーの形態は粉末には限定されず、エマルジョンであってもよい。
本汚泥脱水剤は、アミジンポリマーを含有する場合とそうでない場合のいずれの場合も、各ポリマーを混合した1剤型薬剤とすることが好ましい。
【0035】
以上説明した本汚泥脱水剤は、有機汚泥、特に下水処理場あるいはし尿処理場、食品工場などの廃水処理施設より生じる汚泥の脱水処理において、長期間安定して充分な粒径と強度をもつフロックを形成させることができる。また、その後に含水率が充分に低い脱水ケーキが得られる。また、本汚泥脱水剤では、ポリマー(C)、ポリマー(R)およびポリマー(NA)に加えてさらにアミジンポリマーを含有させることで、長期間安定して充分な粒径と強度をもつフロックを形成する効果、および含水率の充分低い脱水ケーキを得る効果がさらに向上する。
【0036】
<汚泥脱水方法>
本発明の汚泥脱水方法(以下、「本汚泥脱水方法」という。)は、前述した本汚泥脱水剤を用いて汚泥処理を行う方法である。本汚泥脱水方法が対象とする汚泥としては、有機汚泥、特に下水処理場あるいはし尿処理場、食品工場などの廃水処理施設より生じる汚泥が好適である。本汚泥脱水剤を前記汚泥に加えることで、フロック粒径、フロック強度、処理速度(ろ過速度)、処理水中のSS量、脱水ケーキ含水率のバランス性などが安定したフロックを形成できる。
【0037】
本汚泥脱水剤の汚泥への添加方法およびフロックの形成方法としては、本汚泥脱水剤を用いる以外は公知の方法が適用できる。すなわち、本汚泥脱水剤を公知の方法で汚泥に添加することでフロックを形成させることができる。
本汚泥脱水剤の添加方法としては、汚泥脱水剤を水に溶解させた後、汚泥に添加する方法が好ましい。場合によっては、本汚泥脱水剤を粉末のまま汚泥に添加してもよい。また、本汚泥脱水剤は、アミジンポリマーを含有する場合とそうでない場合のいずれの場合も、ポリマー(C)、ポリマー(R)、ポリマー(NA)、および必要に応じてアミジンポリマーを混合した1剤型薬剤として添加することが好ましい。
また、本汚泥脱水剤に加えて、本汚泥脱水剤の水への溶解性を向上させるために酸性物質を添加してもよい。酸性物質としては、例えば、スルファミン酸が挙げられる。
【0038】
フロックを形成した後は、脱水装置を用いてフロックを脱水し、脱水ケーキを作製することにより汚泥処理を完了することができる。
脱水機としては、例えば、フィルタープレス型脱水機、スクリュープレス型脱水機、圧入式スクリュープレス型脱水機、真空脱水機、ベルトプレス型脱水機、遠心脱水機、多重円板型脱水機が挙げられる。本汚泥脱水方法では、安定してフロック粒径とフロック強度を保ちやすく、処理水中のSS量を少なくし、脱水ケーキの含水率を低くすることが容易である点から、圧入式スクリュープレス型脱水機が好ましい。
【0039】
本汚泥脱水剤の添加量は、汚泥の質、濃度などにより異なり一概には言えないが、大まかな目安として、汚泥の乾燥固形物100質量%に対して0.1〜3.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%がより好ましい。本汚泥脱水剤の前記添加量が0.1質量%以上であれば、充分な粒径および強度を有するフロックが形成されやすい。また、本汚泥脱水剤の前記添加量が3.0質量%以下であれば、本汚泥脱水剤が過剰となることで形成されるフロックの粒径が小さくなったり、処理速度が遅くなったり、脱水ケーキの含水率が高くなったりすることを抑制しやすい。
【0040】
また、本汚泥脱水方法においては、本汚泥脱水剤に加えて、無機凝結剤および/または有機凝結剤(以下、これらをまとめて単に「凝結剤」ということがある。)を併用してもよい。本汚泥脱水剤は、凝結剤と併用しても、汚泥に対する脱水効果を充分に発揮できる。
無機凝結剤としては、例えば、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、塩化第2鉄、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、ポリ鉄(ポリ硫酸鉄、ポリ塩化鉄など)が挙げられる。
有機凝結剤としては、例えば、ポリアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、カチオン性界面活性剤が挙げられる。
【0041】
凝結剤の添加量は、本汚泥脱水剤100質量部に対して、5〜3000質量部が好ましい。凝結剤の前記添加量が5質量部未満であると、凝結剤を併用した効果が得られにくく、汚泥によっては本汚泥脱水剤の性能が発揮されにくくなる。また、凝結剤の前記添加量が3000質量部を超えると、特に無機凝結剤では添加量の増加に伴って脱水ケーキの含水率が増加する傾向がある。
【0042】
以上説明した本汚泥脱水方法によれば、廃水処理施設より生じる汚泥などの脱水処理において、粒径が大きく強度の高いフロックを安定して形成させることができ、SS量が少ない処理水および含水率の低い脱水ケーキが得られる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。なお、本実施例における「%」は特に断りのない限り「質量%」を示す。
以下の製造例で得られた各ポリマーについては、下記に示す0.5%塩粘度、および0.5%不溶解分量の測定を行った。該測定には、粉末状の汚泥脱水剤を用いた。
[0.5%塩粘度の測定]
製造例で得られたポリマーの2.38gを4%NaCl水溶液に溶解し、0.5%ポリマー水溶液の500gを調製した。B型粘度計(東機産業社製)を用い、温度25℃、回転速度60rpmの条件で、前記0.5%ポリマー水溶液の攪拌を開始してから5分後の0.5%塩粘度を測定した。
【0044】
[0.5%不溶解分量の測定]
前記0.5%ポリマー水溶液の全量(500g)を、直径20cm、80メッシュの篩でろ過し、篩上の残留物(不溶解分)の水分を拭き取り、その質量を測定した。
【0045】
本実施例で用いた原料を以下に示す。
[モノマー]
カチオン性モノマー:
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化ベンジル4級塩(以下、「DML水溶液」という。)、三菱レイヨン社製、純度:60%。
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩(以下、「DMC水溶液」という。)、大阪有機化学工業社製、純度:80%。
N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩(以下、「DME水溶液」という。)、大阪有機化学工業社製、純度:80%。
アニオン性モノマー:
アクリル酸(以下、「AA液」という。)、三菱化学社製、純度:100%。
ノニオン性モノマー:
アクリルアミド(以下、「AAM水溶液」という。)、ダイヤニトリックス社製、純度:50%。
【0046】
[光開始剤]
DAROCUR 1173(以下、「D−1173」という。)、Ciba社製。
【0047】
[連鎖移動剤]
次亜リン酸(以下、「HPA」という。)、関東化学社製。
【0048】
[製造例1]
DML水溶液の960.0gを、2000mL褐色耐熱瓶に投入し、1mol/L硫酸により全モノマー濃度48%、pH4.5となるように調整し、総質量1200gになるように蒸留水を加え、モノマー水溶液(DML=100.0(モル%))を調製した。さらに、D−1173およびHPAを、前記モノマー水溶液の総質量に対して、それぞれ500ppmおよび15ppmとなるように投入し、これに窒素ガスを30分間吹き込みながら水溶液の温度を20℃に調節した。その後、モノマー水溶液をステンレス反応容器に移し、容器の下方から17℃の水を噴霧しながら、ケミカルランプを用いて、容器の上方から5W/mの照射強度で、表面温度計が40℃になるまで光を照射した。表面温度計が40℃に到達した後は、3W/mの照射強度で30分間光を照射した。さらにモノマーの残存量を低減させるために、照射強度を50W/mにして10分間光を照射した。これにより、含水ゲル状のポリマーを得た。
得られた含水ゲル状のポリマーを容器から取り出し、小型ミートチョッパーを用いて解砕した。これを温度60℃で16時間乾燥した後、粉砕して粉末状のカチオン性ポリマー(ポリマーC−1)を得た。
【0049】
[製造例2]
各モノマーの割合を表1に示すように変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、カチオン性ポリマー(ポリマーC−2)を得た。
【0050】
[製造例3]
各モノマーの割合を表1に示すように変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、カチオン性ポリマー(ポリマーC’−1)を得た。
【0051】
[製造例4]
モノマー水溶液をDML水溶液からDMC水溶液に変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、カチオン性ポリマー(ポリマーC’−2)を得た。
【0052】
[製造例5]
DME水溶液の463.6g、AAM水溶液の272.2g、AA液の69.0gを、2000mL褐色耐熱瓶に投入し、1mol/L硫酸により全モノマー濃度48%、pH2.6となるように調整し、総質量1200gになるように蒸留水を加え、モノマー水溶液(DME:AAM:AA=40.0:40.0:20.0(モル%))を調製した。さらに、D−1173およびHPAを、前記モノマー水溶液の総質量に対して、それぞれ60ppmおよび50ppmとなるように投入した。以下、製造例1と同様の操作を行い、両性ポリマー(ポリマーR−1)を得た。
【0053】
[製造例6]
各モノマーの割合を変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、両性ポリマー(ポリマーR−2)を得た。
【0054】
[製造例7]
DML水溶液の429.9g、DME水溶液の117.2g、AAM水溶液の224.1g、AA液の52.5gを、2000mL褐色耐熱瓶に投入し、1mol/L硫酸により全モノマー濃度48%、pH2.6となるように調整し、総質量1200gになるように蒸留水を加え、モノマー水溶液(DML:DME:AAM:AA=33.3:13.3:43.3:10.0(モル%))を調製した。さらに、D−1173およびHPAを、モノマー水溶液の総質量に対して、それぞれ60ppmおよび40ppmとなるように投入した。以下、製造例1と同様の操作を行い、両性ポリマー(ポリマーR−3)を得た。
【0055】
[製造例8]
AAM水溶液の1035.4g、AA液の58.3gを、2000mL褐色耐熱瓶に投入し、pH調整は行わずに全モノマー濃度48%、総質量1200gになるように蒸留水を加え、モノマー水溶液(AAM:AA=90.0:10.0(モル%))を調製した。さらに、D−1173およびHPAを、モノマー水溶液の総質量に対して、それぞれ60ppmおよび70ppmとなるように投入した。以下、製造例1と同様の操作を行い、アニオン性ポリマー(ポリマーA−1)を得た。
【0056】
[製造例9]
各モノマーの割合を変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、アニオン性ポリマー(ポリマーA−2)を得た。
製造例1〜9で得られた各ポリマーにおける各々のモノマーに由来する構成単位の割合を、各モノマーの仕込み量から計算した。また、0.5%塩粘度、0.5%不溶解分量を測定した。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
[アミジンポリマー]
KP−7000(アミジンポリマー)、ダイヤニトリックス社製。
【0059】
以下、実施例および比較例について説明する。
[実施例1〜6]
下水処理場でのオキシデーションディッチの余剰汚泥を用い、次のように脱水試験を実施した。
500mLビーカーに前記汚泥の300mLを採取した。次いで、表1に記載のポリマーを表2に記載の各混合比率で0.3%に溶解して汚泥脱水剤水溶液を調製し、該汚泥脱水剤水溶液を表2に記載の濃度になるよう添加した後、スパチュラで30秒間攪拌混合してフロックを形成させ、汚泥の脱水処理を行った。
【0060】
[比較例1〜7]
用いたポリマーを表2に示す通りに変更した以外は、実施例1〜6と同様にしてフロックを形成させ、汚泥の脱水処理を行った。
【0061】
[評価方法]
実施例および比較例における脱水処理の評価は、以下に示す通りに行った。
(フロック粒径、ろ過性能、ろ過水のSS量)
各例においてフロックを形成させた後に攪拌を止め、フロック粒径を目視により測定した。その後、予めろ布を敷いたヌッチェに凝集した汚泥を移し、ろ過性能(10秒間のろ過水量)を測定した。このとき、60秒間ろ過した後のろ過水のSS量を目視により以下の基準で評価した。
− :ろ過水がほとんど透き通っており、浮遊物はほぼ見られない(SS量目安:50ppm以下)。
+ :ろ過水に一部濁りが見られ、浮遊物がわずかに存在する(SS量目安:50〜100ppm)。
++ :ろ過水に部分的に濁りが見られ、浮遊物がところどころ存在する(SS量目安:100〜200ppm)。
+++ :ろ過水に多数の濁りが見られ、浮遊物が全体的に存在する(SS量目安:200〜500ppm)。
++++:ろ過水に全体的に多数の濁りが見られ、浮遊物が全体的に存在し、一部粗大な大きさで存在する(SS量目安:500〜1000ppm)。
× :ろ過水が完全に濁り、粗大な浮遊物が多数存在する(SS量目安:1000ppm以上)。
【0062】
(フロック強度、脱水ケーキの含水率)
さらに、ろ過濃縮した汚泥(フロック)をろ布上で50回転がし、フロックの強度(団粒性)を以下の基準で評価した。
◎:ろ布上で転がすことにより水が切れ、フロックが数個の団子状になる。
○:ろ布上で転がすことにより水が切れ、フロックが一塊状になる。
△:ろ布上で転がすことにより水が切れるが、フロックが崩れ塊状にならない。
×:ろ布上で転がすことにより、凝集汚泥が崩れて流れ、ドロドロになる。
その後、0.1MPaの圧力でプレス脱水し、脱水ケーキを得た。この脱水ケーキの含水率を、常法((財)日本下水道協会編、「下水道試験法上巻1997年度版」p296−297)により測定した。
実施例および比較例における各試験結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示すように、本発明の汚泥脱水剤を用いた実施例1〜6では、粗大なフロックを生成させることができた。また、特に実施例1、6では、生成フロックの強度が非常に高く、ろ過性能も非常に優れており、得られた脱水ケーキの含水率が低かった。さらに、アミジンポリマーを含有し、4種ポリマーを混合した汚泥脱水剤を用いた実施例6は、脱水性能に特に優れ、脱水ケーキの含水率が非常に低かった。
【0065】
一方、ポリマー(C)、ポリマー(R)およびポリマー(NA)のいずれか1つ以上を欠いた汚泥脱水剤を用いた比較例1〜7では、いずれも生成したフロックが小さく、生成フロックの強度が弱く、ろ過性能が低く、脱水ケーキの含水率が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の汚泥脱水剤および該汚泥脱水剤を用いた汚泥脱水方法は、長期間安定して充分な粒径と強度をもつフロックを形成させることができ、SS量が少ない処理液および含水率の低い脱水ケーキが得られるため、有機汚泥、特に下水処理場あるいはし尿処理場、食品工場などの廃水処理施設より生じる汚泥の脱水処理に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートのベンジルクロライド4級塩モノマーに由来する構成単位を50モル%以上有するカチオン性ポリマーと、両性ポリマーと、ノニオン性またはアニオン性ポリマーと、を含有することを特徴とする汚泥脱水剤。
【請求項2】
前記両性ポリマーが、カチオン性構成単位、アニオン性構成単位、ノニオン性構成単位からなり、前記カチオン性構成単位が前記アニオン構成単位の0.5モル倍以上である請求項1に記載の汚泥脱水剤。
【請求項3】
前記アニオン性ポリマー中のアニオン性構成単位が20モル%以下である請求項1または2に記載の汚泥脱水剤。
【請求項4】
前記カチオン性ポリマーが10〜70質量%、前記両性ポリマーが15〜50質量%、前記ノニオン性またはアニオン性ポリマーが10〜40質量%(ただし、各ポリマーの合計が100質量%である。)である請求項1〜3のいずれかに記載の汚泥脱水剤。
【請求項5】
さらに、アミジンポリマーを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の汚泥脱水剤。
【請求項6】
前記カチオン性ポリマーが10〜60質量%、前記両性ポリマーが15〜40質量%、前記ノニオン性またはアニオン性ポリマーが10〜30質量%、アミジンポリマーが15〜40質量%(ただし、各ポリマーの合計が100質量%である。)である請求項5に記載の汚泥脱水剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の汚泥脱水剤を汚泥に添加混合し、脱水機を用いて脱水する汚泥脱水方法。
【請求項8】
前記脱水機が圧入式スクリュープレス型脱水機である請求項7に記載の汚泥脱水方法。

【公開番号】特開2010−264363(P2010−264363A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116565(P2009−116565)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】