説明

河川橋梁の桁下空間拡大工法

【課題】 工期を短縮することにより、交通への影響を最小限に抑制すると共に道路切り回しのための用地を必要とせず、さらに、既設橋梁の上部工をそのまま利用することにより、騒音や粉塵の発生を抑制すると共に廃棄物の発生量を削減して、環境負荷を低減することが可能な河川橋梁の桁下空間拡大工法を提供する。
【解決手段】 橋桁10の下方の適宜位置に支柱を設置する工程と、ベント90と橋桁10との間に油圧ジャッキ110を設置する工程と、油圧ジャッキ110を駆動して橋桁10を上昇させる工程と、上昇した橋桁10を鋼製サンドル100で受け替えて既設の支承130を除去する工程と、既設の橋脚40の上部に、上昇した橋桁10の位置に合致した新たな躯体及び新たな支承140を構築する工程とにより、既設の河川橋梁の桁下空間を拡大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川橋梁の桁下空間拡大工法に関するもので、さらに詳しくは、既設の橋桁を利用して、短期間で桁下空間を拡大することが可能な工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、集中豪雨や熱帯性低気圧(台風)の上陸により、人々の生活に甚大な被害を及ぼす洪水が多発している。洪水が発生する原因の1つとして、洪水量に対して河川の流下断面が不足していることが挙げられる。河川の流下断面を確保するためには、河道の拡幅や河川堤防の整備が考えられる。しかし、既設の河川橋梁の桁下高が低い場合は、河道の拡幅や河川堤防の整備のみでは充分な効果を得ることができない。
【0003】
そこで、計画高水位に対して十分な桁下高を確保して、洪水流下のボトルネックとなることを防止するため、既設の河川橋梁を架け替えることが考えられる。従来、河川橋梁を架け替えるには、まず、既設橋梁の傍らに仮設橋梁を設置して一時的に道路を切り回す。そして、既設橋梁を撤去して新設橋梁を建設する。その後、道路を復旧して新設橋梁の供用を開始し、仮設橋梁を撤去していた。このため、工事が大がかりなものとなり、工期が長くなると共に、コストが上昇するという問題があった。さらに、道路切り回しに伴う用地が必要であり、切り回しに伴う道路線形変更の影響で慢性的な交通渋滞が発生するおそれがあった。
【0004】
このような不都合を解消するため、河川橋梁の架け替え効率を向上させるための技術が種々開示されている(特許文献1、特許文献2参照)。
特許文献1に記載されている技術は、既設橋梁を新設橋梁に架け替えるための工法において、既設橋梁の傍らに、既設橋梁を挟んで第1の台船と第2の台船とを配置する。そして、第2の台船上で新設橋梁の桁を地組みすると共に、第1の台船上に切断した既設橋梁の桁を支持させて架橋場所から移動させる。続いて、新設橋梁の桁を載置した第2の台船を架橋場所へ移動させて新設橋梁を据え付けることにより、既設橋梁を撤去して新設橋梁を設置するようになっている。
【0005】
特許文献2に記載されている技術は、既設橋梁を幅方向に対して中央部と両側部とに切断する。そして、中央部又は両側部のいずれか一方に昇降装置を設置して、他方を撤去すると共に新設橋梁を設置するようになっている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−321474号公報
【特許文献2】特開2007−321476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した特許文献1及び特許文献2に記載された技術では、既設橋梁を撤去して新設橋梁を設置するため、既設橋梁に再利用できる部材があったとしても廃棄せざるを得ず、コストが上昇するだけではなく、環境負荷も増大するという問題があった。また、既設橋脚の解体作業を行わなければならないため、騒音や粉塵の発生が危惧される。
【0008】
本発明は上述した事情に鑑み提案されたもので、工期を短縮することにより、交通への影響を最小限に抑制すると共に道路切り回しのための用地を必要とせず、さらに、既設橋梁の上部工をそのまま利用することにより、解体工事に伴う騒音や粉塵の発生を抑制すると共に廃棄物の発生量を削減して、環境負荷を低減することが可能な河川橋梁の桁下空間拡大工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を備えている。
すなわち、本発明に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法は、既設の河川橋梁の桁下空間を拡大するための工法であって、橋桁下方の適宜位置に支柱(ベント)を設置する工程と、支柱と橋桁との間にジャッキを設置する工程と、ジャッキを駆動して橋桁を上昇させる工程と、上昇した橋桁を支台(サンドル)で受け替えて既設の支承を除去する工程と、既設の橋脚の上部に、上昇した橋桁の位置に合致した新たな躯体及び支承を構築する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、支柱の設置位置は、例えば橋脚及び橋台近傍の一側あるいは両側である。支柱(ベント)の設置に先立って、仮締切工、掘削及び基礎コンクリート打設、橋桁の補強等が適宜行われる。ジャッキにより橋桁を上昇させる工程では、適宜なスパンでジャッキアップを行って、支台(サンドル)で橋桁を受け替える作業を複数回繰り返すことにより、所望の高さまで橋桁を上昇させる。新たな躯体及び支承を構築する工程では、新たな支承を固定するための鋼製枠をアンカーボルトにより固定し、鋼製枠の上部に新たな支承を設置・固定し、再びジャッキアップして橋桁荷重を支台(サンドル)から新たな支承に盛り替え、橋脚及び橋台の躯体上部工の鉄筋を組み立てて型枠を設置し、躯体コンクリートを打設する。上述した工程が終了すると、仮設備や仮締切を撤去する。この際、並行して橋桁の本舗装や標識工を行う。
【0011】
本発明に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法においては、橋脚、橋台高の増加に伴い、地震時慣性力が増加するため、新たな支承を免震支承にしたり、各工程と並行して、橋台背面を軽量盛土に置き換えたり、橋脚を補強する工程を含ませたりする等により、橋台、橋脚の耐震性能を向上させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法によれば、既設の橋桁をそのままジャッキアップして桁下空間を拡大しているので、道路の切り回しを必要とせず、最小限の交通規制で急速施工が可能となる。
また、既設橋梁の上部工をそのまま利用しているので、必要以上の工事が発生せず、騒音・振動や粉塵の発生を抑制すると共に廃棄物の発生量を削減して、環境負荷を低減することが可能となる。
さらに、道路の切り回しを必要とせず、利用可能な既存の設備を再利用することに加えて、工期が短縮されるので、河川橋梁の桁下空間拡大に要するコストの大幅な削減と共に、周辺の交通負荷の軽減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<桁下空間拡大工法の概要>
本発明に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法は、既設の橋桁をそのままジャッキアップして桁下空間を拡大するものである。本工法における桁下の拡大高さは、最新の計画河川水位に基づいて決定されるが、一般的には1.0〜2.0m程度の桁上げが行われる。また、本工法は、特に、短期間の交通遮断が可能な中小規模の道路橋を対象とし、単純若しくは連続構造の鋼桁橋が主な施工対象となる。
【0014】
<実施形態>
以下、図面を参照して、本発明に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法の実施形態を説明する。図1〜図8は、本発明の実施形態に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法を説明するための説明図である。
【0015】
<準備工/堤防背面・河床部掘削>
本発明に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法では、まず初めに、進入路や仮設ヤード等を造成する準備工が行われる。続いて、図1に示すように、橋桁10の下方における空頭確保や作業盤の敷地造成等を目的として、堤防20の背面や河床部30等を掘削する。
【0016】
また、橋桁10のジャッキアップ作業前に、必要に応じて、橋脚40の耐震補強を実施する。この橋脚40の耐震補強工事は、例えば、補強鋼材(帯鉄筋)を内包した高耐久性プレキャストパネルを用いて橋脚40を巻きたてる工法を採用することができる。橋脚40の耐震補強工事を行うことにより、桁上げによる耐震強度の低下を未然に防止して、安全な河川橋梁とすることができる。
【0017】
なお、図1〜図8中、橋梁部や河床部の工事を行う重機として、ラフタークレーン210、小型クローラークレーン220、バックホー230、トラックミキサー240、コンクリートポンプ車250、アスファルトフィニッシャー260、タイヤローラー270、ダンプトラック280が示してある。
【0018】
<ベント設置箇所確保/基礎コンクリート打設>
続いて、図2に示すように、ベント(四角形に枠組みした鋼製の支柱)90の建て込み位置が河川内の場合は、大型土嚢50等を用いて仮締め切りし、仮締切内をドライアップし、地耐力を確保するために、基礎コンクリート60を打設する。なお、堤体や河床の土質条件によっては、予め表層改良などの地盤改良を実施することが好ましい。
【0019】
<枠組足場設置/橋桁補強/ベント建込み/鋼製サンドル/油圧ジャッキ設置>
続いて、図3に示すように、橋脚40及び橋台70の近傍に枠組足場80を設置する。また、予め、ジャッキアップ箇所や仮支持箇所の橋桁10を補強する。続いて、小型クローラークレーン220等を用いて所定位置にベント90を建て込み。続いて、ベント90の上部に鋼製サンドル(井桁状に組み上げた支台)100と油圧ジャッキ110を設置する。
【0020】
<交通遮断/桁下ジャッキアップ/鋼製サンドルによる受替え/橋台背面掘削>
続いて、交通遮断を行った後、図4に示すように、橋梁部の工事として、油圧ジャッキ110を作動させ、鋼製サンドル100で盛替えながら橋桁10を徐々にジャッキアップする。この際、橋脚40側と橋台70側の油圧ジャッキ110を連動させながら1スパンずつジャッキアップを行って橋桁10の水平を保つ。そして、橋桁10が所定の高さ(例えば1.0〜2.0m程度)まで上昇したら、鋼製サンドル100で受け替える。また、アプローチ部120の工事として、バックホー230等を用いて、橋台70の背面に存在する土砂を掘削する。
【0021】
<既設支承撤去/新支承固定用鋼製枠設置/新支承設置/軽量盛土工>
続いて、図5に示すように、橋梁部の工事として、既設の支承130(図1〜図4参照)を切断して撤去し、新たな支承140を固定するための鋼製枠150を、アンカーボルト(図示せず)を用いて橋脚40の上部に固定し、鋼製枠150の上部に新たな支承140を設置して固定する。この際、新たな支承140として、公知の免震支承を用いることで、桁下空間拡大に伴う地震時慣性力の増加に対応した耐震強度を持つ河川橋梁とすることができる。
【0022】
また、アプローチ部120の工事として、橋台70の背面掘削部とアプローチ部120に、トラックミキサー240及びコンクリートポンプ車250等を用いて、軽量盛土160を施工する。この際、原料土、セメント、水及び気泡等を混合した気泡混合軽量土を用いた軽量盛土工法を用いることで、桁下空間拡大に伴う土圧の増加に対応する。
【0023】
<支承盛替え/アプローチ部仮舗装工/交通遮断解除>
続いて、図6に示すように、橋梁部の工事として、油圧ジャッキ110を作動させて橋桁10を再びジャッキアップし、橋桁10の荷重を仮設の鋼製サンドル100から新たな支承140に盛替える。また、アプローチ部120の工事として、アプローチ斜路部の仮舗装を行う。以上の作業の完了後に交通遮断を解除する。なお、橋桁10とアプローチ部120との間には、仮設桁170を設置する。
【0024】
<躯体上部工鉄筋・型枠組立/躯体コンクリート打設>
続いて、図7に示すように、橋脚40及び橋台70の躯体上部工の鉄筋180を組み立てて、型枠190を設置する。この際、鉛直鉄筋は、既設躯体内に接着系アンカー等を用いて配筋する。続いて、トラックミキサー240及びコンクリートポンプ車250等を用いて、型枠190内に躯体コンクリートを打設する。この際、既にコンクリートが内部に打設されている新たな支承140の固定枠を躯体コンクリートで巻き込む。
【0025】
<仮設備撤去/本舗装・標識工/仮締切撤去/堤防復旧工>
続いて、ベント90や足場等の仮設備を順次解体して撤去する。また、河川内を仮締め切りしていた大型土嚢50を撤去する。この際、仮締切内の基礎コンクリート60も撤去する。また、橋台70の前面の堤防20を工事前の状況に復旧する。また、交通量が少ない夜間等に片側交通規制を行い、アスファルトフィニッシャー260及びタイヤローラー270等を用いて、アプローチ部120を本舗装すると共に、標識等の施設を設置する。
【0026】
上述した各工程を実施することにより、図8に示す完成状態となる。本実施形態に係る桁下空間拡大工法を用いることにより、例えば10日間程度の交通遮断期間で、工事前と比較して橋桁10を1.0〜2.0m程度上昇させ、橋梁の桁下空間を拡大することができる。
【0027】
<好適な適用例>
上述したように、本発明に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法は、単純に桁下高が不足している河川橋梁に好適に適用され、橋長が河川幅に対して短く、横堤が流下を阻害している橋梁、橋梁の老化が著しく上部工や下部工の再利用が不可能な橋梁、河積阻害率が大きい橋梁、数日間の交通制限が不可能な橋梁等については、橋梁の架け替え工法が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法を説明するための説明図(工程1)。
【図2】本発明の実施形態に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法を説明するための説明図(工程2)。
【図3】本発明の実施形態に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法を説明するための説明図(工程3)。
【図4】本発明の実施形態に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法を説明するための説明図(工程4)。
【図5】本発明の実施形態に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法を説明するための説明図(工程5)。
【図6】本発明の実施形態に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法を説明するための説明図(工程6)。
【図7】本発明の実施形態に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法を説明するための説明図(工程7)。
【図8】本発明の実施形態に係る河川橋梁の桁下空間拡大工法を説明するための説明図(工程8)。
【符号の説明】
【0029】
10 橋桁
20 堤防
30 河床部
40 橋脚
50 大型土嚢
60 基礎コンクリート
70 橋台
80 枠組足場
90 ベント(支柱)
100 鋼製サンドル(支台)
110 油圧ジャッキ
120 アプローチ部
130 既設の支承
140 新たな支承
150 鋼製枠
160 軽量盛土
170 仮設桁
180 躯体上部工の鉄筋
190 型枠
210 ラフタークレーン
220 小型クローラークレーン
230 バックホー
240 トラックミキサー
250 コンクリートポンプ車
260 アスファルトフィニッシャー
270 タイヤローラー
280 ダンプトラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の河川橋梁の桁下空間を拡大するための工法であって、
橋桁下方の適宜位置に支柱を設置する工程と、
支柱と橋桁との間にジャッキを設置する工程と、
ジャッキを駆動して橋桁を上昇させる工程と、
上昇した橋桁を支台で受け替えて既設の支承を除去する工程と、
既設の橋脚の上部に、上昇した橋桁の位置に合致した新たな躯体及び支承を構築する工程と、
を含むことを特徴とする河川橋梁の桁下空間拡大工法。
【請求項2】
前記新たな支承は、免震支承であることを特徴とする請求項1に記載の河川橋梁の桁下空間拡大工法。
【請求項3】
前記各工程と並行して、橋脚を補強する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の河川橋梁の桁下空間拡大工法。
【請求項4】
前記各工程と並行して、橋台背面のアプローチ部を軽量盛土で嵩上げする工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の河川橋梁の桁下空間拡大工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−228300(P2009−228300A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74882(P2008−74882)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】