説明

油タンク

【課題】特別に気泡を取り除く気泡除去装置などを設けずに、時間をかけることなく外部へ流出する油に気泡が混入するのを確実に防ぐことができる油タンクを提供する。
【解決手段】流入口16から流入した気泡40を含んだ油25を、分離部10によってタンク本体26に予め収容されている油25と分離して収容し、やがて分離部10の上端から越流した油25を、つば部12によってタンク本体26に予め収容された油25の油面へと導くことにより、タンク本体26の底辺部に設けられた流出口31から常に気泡40を含まない油を流出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧回路における油タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、建設機械は、作業機の一部であるシリンダなどを駆動するため、コントロールバルブやポンプなどが設けられた油圧回路を有している。シリンダを駆動する際、その油圧回路を通してシリンダに油を供給しているが、特に初めて油圧回路に油を循環させた場合、油圧回路内に予め滞留していた空気が油内に気泡として混入される。その後、気泡を含んだ油が油タンクに回収され、再度油圧回路やシリンダなどに供給されることになる。ここで、気泡を含んだ油が再度油圧回路を循環すると、油圧回路内でキャビテーションが起こりやすくなり、ポンプなどを破損させる恐れがあった。そのため、回収した油から気泡を取り除くため、一度油圧回路内に油を循環させた後に油タンク内で気泡が消えるまで長時間放置したり、仮説のフラッシング専用ポンプやタンクを用いて、仮の油を循環させたりする必要があり、時間的にもコスト的にも不便であった。
【0003】
そこで、特許文献1には、気泡が混入した戻り油の流れを整流して油タンク内に流出させる整流手段、および油タンク内上方で緩傾斜にして配置され、油タンク内に流入する戻り油を上面に沿って緩やかに流過させ、混入している気泡を油タンク内に放出させる泡消し板を設けた戻り油泡消し装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、油タンク内に設けられたサイクロン型気泡除去装置によって、油圧回路を通って油タンクに戻ってきた油に混入された気泡を取り除く液体タンクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−24407号公報
【特許文献2】特開2004−84923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された戻り油泡消し装置は、整流手段を通って泡消し板の上面に流下する際の衝撃で、油に新たに空気が入り込んでしまう恐れがあった。また、流下された油を一旦収容する所も無いため、油の流速が速い場合、次々と流れる油によって、泡消し板上での気泡の除去が出来ずにそのまま油タンクに戻される場合があるなどの問題があった。
【0007】
また、特許文献2に開示された液体タンク内に設けられたサイクロン型気泡除去装置は、粘性の高い油を上手くサイクロン気流に乗せるためのサイクロン室、サイクロン室から油を流出させる流出口、除去した気泡をサイクロン室から排出する排出口、およびそれらを構成するその他の部材が必要となり、その分コストも掛かってくる。また、例えば油圧回路内を循環して戻ってきた油の流速が極端に遅い場合だと、上手くサイクロン気流を作れない恐れもある。
【0008】
本発明は、上記の問題を鑑みてされたものであり、特別に気泡を取り除く気泡除去装置などを設けずに、時間をかけることなく外部へ流出する油に気泡が混入するのを確実に防ぐことができる油タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の油タンクは、油を収容するタンク本体と、前記タンク本体の底辺部に設けられ、前記油を外部に流出する流出口と、前記流出口から流出した前記油が前記タンク本体に再度流入する流入口と、前記タンク本体に収容された前記油の油面から突出して設けられ、前記タンク本体に予め収容された前記油と前記流入口から流入した油とを分離する分離部と、前記分離部の上端部に設けられ、前記分離部の上端から越流した前記流入口から流入した前記油を前記油面に導くつば部と、を備える。
【0010】
上記の構成によれば、外部から流入口を介して流入した油は、タンク本体に予め収容された油と分離されて収容される。これにより、外部で気泡を含んだ油がタンク本体に流入した場合でも、タンク本体に予め収容されている油全体に気泡が混入するのを防ぐことができる。また、次々と流入口から流入された油は、やがて分離部の上端から越流し、つば部によって予め収容された油の油面に戻される。ここで、油面に戻された油に気泡が混入されていた場合でも、油よりも比重が軽い気泡は常に油面近くのみに滞留するようになる。このように、タンク本体に予め収容された油の油面近くのみに気泡を留まらせることができるため、タンク本体の底辺部に設けられた流出口からは常に気泡を含まない油を流出させることができる。さらに、分離部から越流した油をつば部上で流過させることにより、油の油膜厚さを薄くさせることができるため、油に混入した気泡が油内から離脱する距離を短くすることができる。これにより、油に混入した気泡をつば部上で離脱させ易くすることができるため、タンク本体に予め収容された油の油面近くに留まる気泡を最小限に抑えることができる。このように、特別に気泡を取り除く気泡除去装置などを設けずに、時間をかけることなく外部へ流出する油に気泡が混入するのを確実に防ぐことができる。
【0011】
また、第2の発明の油タンクは、第1の発明の油タンクにおいて、前記つば部は、前記分離部の前記上端部から前記油面に向かって緩傾斜である。
【0012】
上記の構成によれば、気泡が混入した油を、より滑らかにつば部を流過させて油面に戻すことができる。これにより、水平なつば部上から油を流下させたり、急な傾斜を有するつば部によって油面に戻したりするよりも、つば部を流過した油が油面に接触する時の衝撃を小さくすることができる。そのため、より油面近くに気泡を滞留させることができる。
【0013】
また、第3の発明の油タンクは、第1または第2の発明の油タンクにおいて、前記つば部の表面には、金網が設けられている。
【0014】
上記の構成によれば、油に混入された気泡を金網に接触させることによって、細かく潰すことができる。これにより、より細かい気泡を油面に滞留させることができる。
【0015】
また、第4の発明の油タンクは、第1ないし第3の何れか一つの発明の油タンクにおいて、前記つば部によって導かれた前記油を前記油面近くで受けるクッション部が設けられている。
【0016】
上記の構成によれば、気泡を含んだ油が油面に勢い良く戻った場合でも、クッション部によってその勢いを吸収することができる。これにより、油面との接触による衝撃でさらに気泡が混入することがなく、また、つば部上を流過した時の勢いで油中深くに気泡が潜ってしまうことがないため、より確実に気泡を油面近くに滞留させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の油タンクによると、特別に気泡を取り除く気泡除去装置などを設けずに、時間をかけることなく外部へ流出する油に気泡が混入するのを確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る油圧回路全体を示す説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る分離部の構成を示す説明図である。
【図3】(a)本発明の実施形態に係る油タンクに油が貯油される様子を示す説明図である。(b)本発明の実施形態に係る油タンクに貯油された油が外部に流出する様子を示す説明図である。
【図4】(a)本発明の実施形態に係る油タンクに油が再度流入する様子を示す説明図である。(b)本発明の実施形態に係る分離部から油が越流する様子を示す説明図である。
【図5】(a)本発明の別の実施形態に係る油タンクを示す説明図である。(b)本発明の別の実施形態に係る油タンクを示す説明図である。
【図6】(a)本発明の別の実施形態に係る油タンクに設けられた自動弁が、開放された状態を示す説明図である。(b)本発明の別の実施形態に係る油タンクに設けられた自動弁が、閉塞された状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
(油タンク)
図1に示すように、本実施形態に係る油タンク20は、油25を収容するタンク本体26と、タンク本体26の底辺部に設けられ、油25を外部に流出する流出口31と、流出口31から流出した油25がタンク本体26に再度流入する流入口16と、タンク本体26に収容された油25の油面から突出して設けられ、タンク本体26に予め収容された油25と流入口16から流入した油25とを分離する分離部10と、分離部10の上端部に設けられ、分離部10の上端から越流した流入口16から流入した油25を油面に導くつば部12と、を備えている。
【0021】
また、本実施形態に係る油タンク20におけるつば部12は、分離部10の上端部から油面に向かって緩傾斜である。
【0022】
さらに、本実施形態に係る油タンク20におけるつば部12の表面には、金網13が設けられている。
【0023】
ここで、本実施形態における油25とは、例えば産業機械に用いられるシリンダなどの作業機を駆動する油圧作動油のことである。なお、本発明において、油25は油圧作動油に限定される必要はなく、他種類のものであってもよい。
【0024】
油タンク20の主体となるタンク本体26は、直方体状の筐体を有し、シリンダ50を駆動する油25を収容する。なお、タンク本体26の形状は直方体に限定される必要はなく、例えば円筒状であってもよい。
【0025】
流出口31は、タンク本体26の底辺部に位置しており、流出管36の先端部に設けられている。また、流出口31は、流出管36の途中経路に設けられたポンプ34と接続されている。ここで、タンク本体26の底辺部とは、タンク本体26に収容される油25の油面よりも下部に位置し、油面近くに滞留する気泡40が流出口31から流出しない位置である。このような構成により、ポンプ34を駆動することによって、タンク本体26に収容された油25が流出口31から流出され、流出管36を通ってシリンダ50に供給されるようになっている。また、流出口31には、図示しないフィルタが貼り付けられており、油25内に浮遊するゴミや埃などが油圧回路1内に入り込むことを防いでいる。
【0026】
流入口16は、円部S1に示すように、流入管35の先端部に設けられている。流入口16からは、シリンダ50で使用された油25が流入管35を通って、タンク本体26に再度流入されるようになっている。ここで、流入口16は、タンク本体26に予め収容された油25と流入口16から流入した油25とを分離する分離部10とタンク本体26の側面とからなる収容部30に連絡しており、流入管35を通って回収された油25が、必ず収容部30に収容されるようになっている。
【0027】
(分離部)
分離部10は、図2に示すように、複数の側面11aと底面11bとからなり、上面に開口部15を有する凹型形状の筐体を主体としている。また、分離部10は、4つの側面のうちの1つが一部分開口されている。具体的に、4つの側面11aのうちの1つには、開口部17が形成されており、これにより上面18aと下面18bを除いて開口されている。上面18aには、ネジ穴19aが形成されており、タンク本体26の側面に、分離部10をネジ止めして固定できるようになっている。同様に、下面18bには、ネジ穴19bが形成されており、タンク本体26の側面に、分離部10をネジ止めして固定できるようになっている。また、分離部10の上端部には、つば部12が設けられている。つば部12は、分離部10の上端部から下方に向けて緩傾斜されている。なお、分離部10の形状は、直方体に限定される必要はなく、例えば円筒状であってもよく、その上縁に沿ってつば部12が設けられていてもよい。また、つば部12が設けられている場所は、分離部10の上端部に限定される必要はなく、例えば、分離部10の側面11aに設けられていてもよい。つば部12は、タンク本体26に予め収容されている油25の油面よりも上方に位置する場所であれば、分離部10の側面11aにおける如何なる位置に設けられていてもよい。
【0028】
図1の円部S1に示すように、分離部10は、開口部17がタンク本体26の側面に向くようにして、タンク本体26の側面にネジ止めされて取り付けられる。この時、分離部10とタンク本体26の側面との間にできる空間によって収容部30が形成されるようになっている。そして、分離部10が取り付けられる際、流入管35は収容部30内に挿入されるようになっている。ここで、流入管35が収容部30に挿入できるように、分離部10の横断面積は、流入管35の横断面積よりも大きくなるように設計されている。さらに、流入口16からタンク本体26に再度流入した油25が収容部30内を満たしながら上昇する流速、および分離部10の上端を越流した油25がつば部12を流過する流速は、流入管35の横断面積と収容部30の横断面積との関係で制御されている。具体的には、本実施形態の場合、収容部30の横断面積(言い替えると分離部10の横断面積)は、流入管35の横断面積の約10倍となるように設計されている。なお、本発明において、分離部10の横断面積は流入管35の横断面積の約10倍と限定される必要はなく、つば部12を流過する油25の流速が、つば部12上において気泡40が外部の空気層へ逃げやすい流速であり、かつ油25が緩やかに油面に戻れるような流速となっていればよい。また、分離部10は、タンク本体26に収容された油25の油面から突出して取り付けられ、上端部に設けられたつば部12が、タンク本体26に収容された油25の油面よりも上方に位置するようになっている。これにより、つば部12は、分離部10の上端部からタンク本体26に貯油された油25の油面に向かって緩やかな傾斜をするようになっている。さらに、つば部12の表面には金網13が設けられている。
【0029】
上記のような構成により、流入口16から流入した油25は、タンク本体26に収容された油25と混じることなく分離され、収容部30に収容されるようになっている。そして、収容部30を満たした油25は、やがて分離部10の上端を越流し、つば部12の金網13上をゆっくりと流過して、油面に戻されるようになっている。この時、油25に混入された気泡40も同様に、収容部30内をゆっくりと上昇し、やがて分離部10の上端を越流して油面に戻される。なお、つば部12を流過する油25の流速は、気泡40が外部の空気層へ逃げやすい流速であり、かつ油25が緩やかに油面に戻れるような流速となっている。ここで、図1の円部S2に示すように、つば部12をゆっくりと流過する油25は、つば部12上で広がっていくため、油膜厚さが薄くなる。そのため、油25に混入された気泡40が外部の空気層に逃げられる距離が短くなり、つば部12上を流過する間に油25から気泡40が離脱する。また、つば部12上に設けられた金網13に気泡40が接触することによって、気泡40を細かく潰すことができるようになっている。従って、油面近くに留まる気泡40は、最小限の数で、ごく小さいものに限られるようになっている。
【0030】
また、流入管35の先端近くには、孔14が設けられている。孔14は、流入管35内を流過する油25の量や流速の変化によって起こるサージ圧を緩和する役割を有している。さらに、流入管35は、タンク本体26に入る前に2つの経路に別れている。一つは、その端部が流入口16となり、収容部30内に連絡している。もう一つは、止弁33を経由して、タンク本体26内の空気層に連絡している。止弁33は、図示しないハンドルを手動で回すことによって、その前後の経路を開閉可能にしている。
【0031】
また、タンク本体26の天板上には、エアブリーザ32が設けられている。エアブリーザ32は、油タンク20から流出する油25と油タンク20内へ流入する油25との油量の差から起因するタンク内圧の増減を抑えるために、フィルターを通して給排気できるようになっている。
【0032】
上記のような構成を有する油タンク20は、ポンプ34、方向切替弁37、多機能弁60、およびシリンダ50などから構成された油圧回路1に供給する油25を貯油している。なお、本実施形態に係る油圧回路1は、特に水門を開閉するアクチュエータなどに利用される大規模なものであるが、これに限定される必要はなく、その他の用途に用いられていてもよい。
【0033】
(ポンプ)
ポンプ34は、2つの歯車が噛み合うことによって回転し、タンク本体26に収容された油25を吸入し、後の経路へ排出する。これにより、ポンプ34を駆動することによって、タンク本体26に収容された油25を流出口31から吸出し、シリンダ50へと供給できるようになっている。なお、ポンプ34は、歯車式ポンプに限らず、他種類のポンプを用いていてもよい。
【0034】
(シリンダ)
シリンダ50は、シリンダケース52と、シリンダケース52内を長手方向に進退するロッド51と、シリンダケース52内でロッド51の先端に設けられた図示しないピストンと、を備えている。上記のピストンは、シリンダケース52の内周を摺動自在になっており、このピストンの運動によってロッド51がA方向またはB方向に進退し、シリンダ50がアクチュエータとしての役割を担うことができる。
【0035】
(方向切替弁)
方向切替弁37は、油タンク20とシリンダ50との間の経路に設けられており、3つのスイッチを適宜切り替えることによって油25の流れ方向を変え、シリンダ50におけるロッド51の進退を変更させる役割を有する。具体的に、方向切替弁37は、スイッチ37aとスイッチ37bとスイッチ37cとに切り替えることができる。スイッチ37aに切り替えた場合、ロッド51はA方向に伸びるようになっている。一方、スイッチ37cに切り替えた場合、ロッド51はB方向に縮むようになっている。また、スイッチ37bに切り替えた場合、ロッド51の伸縮が止まるようになっている。
【0036】
(多機能弁)
本実施形態における多機能弁60は、水門油圧開閉装置用多機能弁である。多機能弁60は、シリンダ50の直下に接続されており、塞止弁62・63と、バイパス弁61と、を有している。塞止弁62は、流出管36と接続されており、タンク本体26とシリンダ50との通路を開閉する。一方、塞止弁63は、流入管35と接続されており、タンク本体26とシリンダ50との通路を開閉する。また、バイパス弁61は、流出管36と流入管35との通路を開閉する。このような構成を有する多機能弁60を利用して、塞止弁62・63およびバイパス弁61を開閉することによって、シリンダ50や流出管36、流入管35における不具合箇所の検知が出来るようになっている。また、多機能弁60を用いることによって、タンク本体26に収容された油25を途切れさせることなく油圧回路1内で循環させて、タンク本体26に再度戻すことができるようになっている。なお、本発明において、多機能弁60は、水門油圧開閉装置用多機能弁を必ずしも用いる必要はなく、他の多機能弁を用いていてもよい。
【0037】
(油圧回路へ油を循環させた時の油タンクの様子)
次に、図3および図4を用いて、本実施形態に係る油圧回路1へ油25を循環させた時の油タンク20の様子を説明する。
【0038】
まず、図3(a)に示すように、作業者によって、図示しない供給口からタンク本体26に油25が貯油される。この時、分離部10とタンク本体26の側面とからなる収容部30内にも、分離部10の開口部17によってできる隙間から徐々に油25が入り込むようになっている。そのため、作業者は、収容部30内にも油25が満たされるまで暫く待機する。なお、タンク本体26および収容部30内に油25が満たされた時の油面を、タンク本体26、収容部30共に、油面レベルH1の高さとする。
【0039】
次に、図3(b)に示すように、ポンプ34の駆動によって、流出口31から油25が外部へ流出される。ここで、多機能弁60における塞止弁62・63は閉められており、バイパス弁61は開けられている。さらに、方向切替弁37は、スイッチ37bに切り替えられている。つまり、シリンダ50内には油25が供給されずに、流出管36および流入管35のみに油25が供給されるようになっている。流出口31から流出した油25は、シリンダ50や流出管36、および流入管35などの油圧回路1内に予め滞留していた空気を押し出しながら循環し、やがてタンク本体26へと戻ってくる。この時、収容部30には予め油25が貯油されているため、収容部30側への経路は圧力が高くなっている。そのため、油25によって押し出された空気は、開放状態にされた止弁33側へと流れてタンク本体26の空気層へと逃げていく。また、この時のタンク本体26に収容された油25の油面は、油圧回路1に供給された油25の分だけ下がり、例えば油面レベルH2の高さとなる。
【0040】
次に、図4(a)に示すように、油圧回路1内に滞留していた空気が空気層へ逃げた後、作業者によって止弁33が手動で閉塞状態にされる。これにより、今度は油25が収容部30側へと流れ出し、流入口16から収容部30へ流入される。収容部30へ流入された油25は、収容部30をさらに満たしていき、収容部30の上端部にまで油25の油面を上げていく。なお、この時の油25は、空気層へ逃げ切れなかった空気を気泡40として含んだ状態である。油25に混入された気泡40は、収容部30を満たす間に、徐々に上昇していく。なお、油25に混入された気泡40は、分離部10の開口部17からタンク本体26に予め収容された油25内へ流出する場合も考えられるが、流出したとしても短時間で極微量であるため、問題にはならない。なお、この時の収容部30に貯油された油25の油面は、流入口16から流入された油25の分だけ上がり、油面レベルH3の高さとなる。
【0041】
次に、図4(b)に示すように、収容部30を満たしていった油25は、やがて分離部10の上端から溢れ出す。分離部10を越流した油25は、つば部12の金網13上をゆっくりと流過して、タンク本体26に収容された油25の油面近くに流れ込むようになる。この時、つば部12上を流過する油25は膜厚が薄くなるため、油25に混入された一部の気泡40は外部の空気層に離脱する。また、つば部12の表面に設けられた金網13に気泡40が接触することによって、気泡40がさらに細かく潰される。つまり、油面近くに留まる気泡40は、最小限の数で、ごく小さいものに限られる。また、この時の収容部30に貯油された油25の油面は、分離部10の上端から越流した油25の分だけ上がり、油面レベルH4の高さとなるが、つば部12は、この高さよりも高くなるように予め設定されているため、収容部30を越流した油25は、必ず油面よりも上から戻されるようになっている。このように、気泡40を含んだ油25は、タンク本体26に収容された油25の油面近くのみに滞留するため、タンク本体26の底辺部に設けられた流出口31からは、常に気泡40を含まない油25が流出されるようになる。
【0042】
以上より、油圧回路1内の流出管36および流入管35に予め滞留していた空気を抜くことができる。次に、シリンダ50内に油25を供給する場合を説明する。先ず、多機能弁における塞止弁62・63を開け、バイパス弁61を閉める。さらに、方向切替弁37をスイッチ37a若しくはスイッチ37bに交互に切り替え、シリンダ50のロッド51を進退させる。これにより、シリンダ50内に油25を供給することができる。ここで、シリンダ50内に予め滞留していた空気は、気泡40となって回収される油25と共に流出管36および流入管35を通り、収容部30に収容されるようになっている。その後、気泡40は、分離部10を越流し、つば部12を流過することによってタンク本体26に予め収容されていた油25の油面に戻される。これにより、油圧回路1内に予め滞留していた全ての空気を抜くことができる。
【0043】
なお、本実形態に係る油圧回路1は、塞止弁62・63およびバイパス弁61を1つにまとめた多機能弁60を有しているが、夫々が別個に備えられた油圧回路1であってもよい。多機能弁60を用いることによって、塞止弁62、塞止弁63およびバイパス弁61との間に存在する配管を最小限に抑えることができるため、油圧回路1内で抜かなければならない空気を最小限に抑えることができる。
【0044】
また、シリンダ50に多機能弁60を接続させていることにより、タンク本体26に収容された油25を途切れさせることなく油圧回路1内で循環させて、タンク本体26に再度戻すことができる。そして、油圧回路1内に滞留していた空気は、止弁33の開閉を利用することによってタンク本体26の空気層へと逃がしてやることができる。さらに、油25に残留した気泡40は、分離部10およびつば部12を利用することによって油面上のみに滞留させることができ、流出口31からは常に気泡40を含まない油25を再度油圧回路1へ循環させることができる。
【0045】
(本実施形態の概要)
以上のように、本実施形態に係る油タンク20は、油25を収容するタンク本体26と、タンク本体26の底辺部に設けられ、油25を外部に流出する流出口31と、流出口31から流出した油25がタンク本体26に再度流入する流入口16と、タンク本体26に収容された油25の油面から突出して設けられ、タンク本体26に予め収容された油25と流入口16から流入した油25とを分離する分離部10と、分離部10の上端部に設けられ、分離部10の上端から越流した流入口16から流入した油25を油面に導くつば部12と、を備えている。
【0046】
上記の構成によれば、外部から流入口16を介して流入した油25は、タンク本体26に予め収容された油25と分離されて収容される。これにより、外部で気泡40を含んだ油25がタンク本体26に流入した場合でも、タンク本体26に予め収容されている油25全体に気泡40が混入するのを防ぐことができる。また、次々と流入口16から流入された油25は、やがて分離部10の上端から越流し、つば部12によって予め収容された油25の油面に戻される。ここで、油面に戻された油25に気泡40が混入されていた場合でも、油25よりも比重が軽い気泡40は常に油面近くのみに滞留するようになる。このように、タンク本体26に予め収容された油25の油面近くのみに気泡40を留まらせることができるため、タンク本体26の底辺部に設けられた流出口31からは常に気泡40を含まない油25を流出させることができる。さらに、分離部10から越流した油25をつば部12上で流過させることにより、油25の油膜厚さを薄くさせることができるため、油25に混入した気泡40が油25内から離脱する距離を短くすることができる。これにより、油25に混入した気泡40をつば部12上で離脱させ易くすることができるため、タンク本体26に予め収容された油25の油面近くに留まる気泡40を最小限に抑えることができる。このように、特別に気泡40を取り除く気泡除去装置などを設けずに、時間をかけることなく外部へ流出する油25に気泡40が混入するのを確実に防ぐことができる。
【0047】
また、本実施形態に係る油タンク20において、つば部12は、分離部10の上端部から油面に向かって緩傾斜である。
【0048】
上記の構成によれば、気泡40が混入した油25を、より滑らかにつば部12を流過させて油面に戻すことができる。これにより、水平なつば部12上から油25を流下させたり、急な傾斜を有するつば部12によって油面に戻したりするよりも、つば部12を流過した油25が油面に接触する時の衝撃を小さくすることができる。そのため、より油面近くに気泡40を滞留させることができる。
【0049】
また、本実施形態に係る油タンク20において、つば部12の表面には、金網13が設けられている。
【0050】
上記の構成によれば、油25に混入された気泡40を金網13に接触させることによって、細かく潰すことができる。これにより、より細かい気泡40を油面に滞留させることができる。
【0051】
以上、本発明の一実施形態を説明した。なお、本発明は上記の実施形態に限定される必要はない。
【0052】
(別の実施形態)
例えば、図5(a)に示すように、別の実施形態に係る油タンク120は、つば部12によって導かれた油25を油面近くで受けるふるい80が設けられていてもよい。ふるい80は、表裏面がメッシュ状態に形成されており、そのメッシュ部分は、つば部12を流過してきた油25を一旦受けて落下の衝撃を吸収するとともに、目詰まりを起こすことなく油面下へ油25を落とす役割を有している。これにより、気泡40を含んだ油25が油面に勢い良く戻った場合でも、ふるい80によってその勢いを吸収することができる。これにより、油面との接触による衝撃でさらに気泡40が混入することがなく、また、勢いで油中深くに気泡40が潜ってしまうことがないため、より確実に気泡40を油面近くに滞留させることができる。
【0053】
また、図5(b)に示すように、別の実施形態に係る油タンク220は、つば部12によって導かれた油25を油面近くで受けるフロート部90が設けられていてもよい。フロート部90は、タンク本体26に収容された油25の油面に浮かんでおり、油面が上昇または下降するのに伴って上下移動するようになっている。そのため、つば部12を流過した油25は、油面に戻る前に、油面と水平となったフロート部90上をゆっくりと流過し、静かに油面上へ戻されるようになっている。このように、気泡40を含んだ油25が油面に勢い良く戻った場合でも、フロート部90によってその勢いを吸収することができる。これにより、油面との接触による衝撃でさらに気泡40が混入することがなく、また、勢いで油中深くに気泡40が潜ってしまうことがないため、より確実に気泡40を油面近くに滞留させることができる。
【0054】
また、本実施形態においては、流入口16から流入された気泡40を含んだ油25が、分離部10とタンク本体26の側面との間にできる収容部30に収容されるようになっているが、本発明においてはこれに限定される必要はない。例えば、図5(a)、(b)に示すように、分離部10の代わりに、側面と底面とから構成され、タンク本体26に収容された油25の油面から突出して開口された凹型形状の筐体を有し、タンク本体26に予め収容された油25から分離して流入口16から流入した油25を収容する収容部100が設けられていてもよい。つまり、収容部100は、上部が開口している以外は完全に閉鎖されているため、流入口16から流入された油25は、タンク本体26に予め収容された油25から分離されて収容部100内へ収容される。そして、収容部100を貯油していった油25は、やがて収容部100の上端から越流し、つば部12を流過して油面に戻されるようになっている。
【0055】
また、本実施形態においては、油圧回路1内に油25を循環させる際に止弁33を手動で開閉していたが、別の実施形態に係る油タンク320は、自動的に開閉する止弁70が設けられていてもよい。具体的には、図6(a)に示すように、止弁70は、主体となるケース71と、球状の弁体72と、弁座74と、弁体72が弁座74から離れる方向に付勢するスプリング73と、から構成される。これにより、弁体72にスプリング73の付勢力に勝る押圧力が働くと、弁体72が弁座74に近づいたり遠ざかったりと、自由に遊動するようになっている。このような構成を有する止弁70は、油25によって押し出された空気を通過させ、タンク本体26の空気層へと逃がす。この時、弁体72は、空気の流過抵抗では弁座74まで押圧されないように予め設定されている。次に、図6(b)に示すように、タンク本体26の空気層に逃げた空気から油25に切り替わると、油25の流過抵抗によって弁体72が弁座74まで押圧される。このように、空気が通る間は止弁70が開放状態となり、油25が通る間は止弁70が閉塞状態に自動的に切り替わるようにようになっている。これにより、わざわざ手動で止弁70を開閉する必要がなく、より効率良く油25から空気を抜くことができる。
【0056】
(別の実施形態の概要)
以上のように、別の実施形態に係る油タンク120は、つば部12によって導かれた油25を油面近くで受けるふるい80が設けられている。
【0057】
上記の構成によれば、気泡40を含んだ油25が油面に勢い良く戻った場合でも、ふるい80によってその勢いを吸収することができる。これにより、油面との接触による衝撃でさらに気泡40が混入することがなく、また、勢いで油中深くに気泡40が潜ってしまうことがないため、より確実に気泡40を油面近くに滞留させることができる。
【0058】
また、別の実施形態に係る油タンク220は、つば部12によって導かれた油25を油面近くで受けるフロート部90が設けられている。
【0059】
上記の構成によれば、気泡40を含んだ油25が油面に勢い良く戻った場合でも、フロート部90によってその勢いを吸収することができる。これにより、油面との接触による衝撃でさらに気泡40が混入することがなく、また、勢いで油中深くに気泡40が潜ってしまうことがないため、より確実に気泡40を油面近くに滞留させることができる。
【0060】
また、別の実施形態に係る油タンク120は、側面と底面とから構成され、タンク本体26に収容された油25の油面から突出して開口された凹型形状の筐体を有し、タンク本体26に予め収容された油25から分離して流入口16から流入した油25を収容する収容部100が設けられている。
【0061】
上記の構成によれば、流入口16から流入された油25が、凹型形状の収容部100内へ収容されるため、タンク本体26に予め収容されている油25全体に気泡40が混入するのを防ぐことができる。
【0062】
また、別の実施形態に係る油タンク320は、自動的に開閉する止弁70が設けられている。
【0063】
上記の構成によれば、空気が通る間は止弁70が開放状態となり、油25が通る間は止弁70が閉塞状態に自動的に切り替わるため、わざわざ手動で止弁70を開閉する必要がなく、より効率良く油圧回路内の空気を抜くことができる。
【0064】
以上、本発明の実施例を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施形態に記載された、作用および効果は、本発明から生じる最も好適な作用および効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用および効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、油回路における油タンクについて利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 油圧回路
10 分離部
12 つば部
13 金網
14 孔
15 開口部
16 流入口
20 油タンク
25 油
26 タンク本体
31 流出口
30 収容部
32 エアブリーザ
33 止弁
34 ポンプ
35 流入管
36 流出管
37 方向切替弁
37a スイッチ
37b スイッチ
37c スイッチ
40 気泡
50 シリンダ
51 ロッド
52 シリンダケース
60 多機能弁
61 バイパス弁
62 塞止弁
63 塞止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油を収容するタンク本体と、
前記タンク本体の底辺部に設けられ、前記油を外部に流出する流出口と、
前記流出口から流出した前記油が前記タンク本体に再度流入する流入口と、
前記タンク本体に収容された前記油の油面から突出して設けられ、前記タンク本体に予め収容された前記油と前記流入口から流入した油とを分離する分離部と、
前記分離部の上端部に設けられ、前記分離部の上端から越流した前記流入口から流入した前記油を前記油面に導くつば部と、
を備えたことを特徴とする油タンク。
【請求項2】
前記つば部は、前記分離部の前記上端部から前記油面に向かって緩傾斜であることを特徴とする請求項1に記載の油タンク。
【請求項3】
前記つば部の表面には、金網が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の油タンク。
【請求項4】
前記つば部によって導かれた前記油を前記油面近くで受けるクッション部が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3の何れか1項に記載の油タンク。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−158029(P2011−158029A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20085(P2010−20085)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(500408854)株式会社ユーテック (12)
【Fターム(参考)】