説明

油中水型乳化物

【課題】
本発明は、菓子・パン類などの製造工程中における風味の損失を抑制し良好な風味の焼き残りを可能にする油中水型乳化物およびこれを使用した焼き残り風味良好な菓子・パン類を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の1は、オクテニルコハク酸でん粉を水相に含有する油中水型乳化物。本発明の2は、オクテニルコハク酸でん粉の含量が水相中0.02〜50重量%である1記載の油中水型乳化物。本発明の3は、2記載の油中水型乳化物を使用した菓子又はパン類である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として菓子・パン類の製造に使用される油中水型乳化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マーガリンに代表される油中水型乳化物は、風味の付与を目的として乳製品、香料、呈味素材などが配合されている。しかし、これを菓子・パン類の生地に使用すると、焼成工程による加熱などにより、素材の風味が失われてしまうことが多々あった。また、かかる風味の消失を想定して必要以上の量の素材を使用すると非常に高価なものとなるばかりか、油中水型乳化物の物性に悪影響を及ぼす場合もある。
特許文献1(特開平10−28527)は多重乳化型の内相に水溶性香料または水溶性呈味素材を含有する多重乳化組成物を使用することにより焼き残り風味の良好な製品が得られることを開示する。
一方、本発明に用いるオクテニルコハク酸でん粉は、特許文献2(特開2007−129961)や特許文献3(特開2005−304327)に開示されているように水中油型乳化物に使用され離水防止や老化防止など主に物性、食感についての改良効果が認められている。
しかし、何れも、油中水型乳化組成物に使用するものではなく、オクテニルコハク酸でん粉が風味消失の抑制効果を有することの開示も示唆もない。
【特許文献1】特開平10−28527号公報
【特許文献2】特開2007−129961号公報
【特許文献3】特開2005−304327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、菓子・パン類などの製造工程中における風味の損失を抑制し良好な風味の焼き残りを可能にする油中水型乳化物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究の結果、オクテニルコハク酸でん粉を使用することにより、上記の課題を解決し得るとの知見を得て本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の1は、オクテニルコハク酸でん粉を水相に含有する油中水型乳化物。本発明の2は、オクテニルコハク酸でん粉の含量が水相中0.02〜50重量%である1記載の油中水型乳化物。本発明の3は、2記載の油中水型乳化物を使用した菓子又はパン類。を骨子とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明のオクテニルコハク酸でん粉を水相に含有する油中水型乳化物は、焼成による風味の消失が抑制されたものであり、これを使用することで焼き残り風味の良好なスポンジ、パン、デニッシュなどの菓子・パン類を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の油中水型乳化物は、オクテニルコハク酸でん粉を水相中に含有するものである。
本発明の油中水型乳化物は、一般的な油中水型乳化物の製造方法により製造することができる。
【0007】
本発明の油中水型乳化物に使用する油脂は食用油脂であれば特に制限はなく、例えば、菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米ぬか油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、椰子油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂が例示でき、上記油脂類の単独または混合油あるいはそれらの極度硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂を使用することができる。
【0008】
本発明の油中水型乳化組成物の油相の割合も一般的な油中水型乳化組成物の油相の割合と同様であり、30〜99重量%好ましくは50〜98重量%、さらに好ましくは70〜95重量%の割合で配合すると良い。30重量%未満であると、安定な油中水型乳化組成物を得ることが困難となる。但し、99重量%を超えると効果を得るためのオクテニルコハク酸でん粉の溶解が難しくなるので注意すべきである。
【0009】
水相中の水分の量は、オクテニルコハク酸でん粉を溶解可能な程度以上の水分であれば一般的な油中水型乳化組成物の水相と大きく異なることはない。水相には、油中水型乳化組成物を製造する場合に通常用いられるもの、例えば、脱脂粉乳、食塩、呈味剤、乳化剤などを用いることができる。
【0010】
水相には、オクテニルコハク酸でん粉を含有させるが、好ましくは水相中に0.02〜50重量%、より好ましくは0.05〜30重量%含有させる。さらに好ましくは、0.1〜10重量%含有させる。0.02重量%未満では、焼成による風味消失を抑制する効果に乏しく、50重量%を超えると油中水型乳化物の組織に影響を及ぼす。オクテニルコハク酸でん粉は、でんぷんに無水オクテニルコハク酸を作用して得られるコハク酸でん粉である。オクテニルコハク酸でん粉には、反応形態や処理方法によって、熱水可溶タイプと冷水可溶タイプが存在する。
【0011】
本発明には熱水可溶タイプ、或いは冷水可溶タイプの何れを用いてもほぼ同じ効果を発揮させることができる。
【0012】
油中水型乳化物は、公知の方法によって製造することができる。例えば、オクテニルコハク酸でん粉を水に溶解し、乳成分、呈味材、香料など、その他の水相原料と共に混合して水相を調製し、これと油相をプロペラ或いはホモミキサー等にて攪拌混合し乳化物を調製した後ボテーター或いはコンビネーター等の従来公知の混捏機を使用して冷却することによって得ることができる。
オクテニルコハク酸でん粉は、水相に均一に含有させることができれば必ずしも油中水型乳化物の製造工程上、水相調製時に水相へ添加しなくてもよく、油相調製時に油相へ添加し混合・分散しておいても良い。
【0013】
本発明の油中水型乳化物を製造するに際しては、従来より使用されてきた蔗(ショ)糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよび酢酸モノグリセリド、酒石酸モノグリセリド、酢酸酒石酸混合モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、リンゴ酸モノグリセリド等各種有機酸モノグリセリドのような合成乳化剤を使用しても、使用しなくてもどちらでも良い。これらの合成乳化剤を使用した場合は、油中水型乳化物を容易に得ることができる。
【0014】
呈味材としては、バター、クリーム、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、などの乳製品、チョコレート、ココア、ココアパウダーなどが列挙でき、香料としてはバター風味、ミルク風味、チョコレート風味、バニラ風味などが列挙できる。
以上のようにして得られた本発明の油中水型乳化物は、焼成による風味の消失が抑制されたものであり、これを生地に使用することで焼き残り風味の良好なスポンジ、パン、デニッシュなどの菓子・パン類を製造することができる。
【実施例】
【0015】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。特に、添加剤の添加順序或いは油相を水相へ又は水相を油相へ加えるなどの乳化順序が以下の例示によって限定されるものでないことは言うまでもない。なお、例中、部、%は、いずれも重量基準を意味する。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
【表3】

【0019】
(実施例1)
表1の実施例1に示す配合に従って、水、エマルスター30#A(松谷化学工業株式会社製 オクテニルコハク酸でん粉 商品名)、脱脂粉乳、香料、食塩を添加混合して調製した水相と、大豆油にレシチン、エマルジーMSを添加混合し50℃に加熱して調製した油相とを混合攪拌した後、コンビネーターで急冷混捏してシート状に押し出して成形し、厚さ10mmのロールイン用油中水型乳化組成物を得た。この油中水型乳化組成物を使用し、以下に示す配合、製法によりクロワッサンを製造した。尚、オクテニルコハク酸でん粉は、水相中1.4%であった。
クロワッサン生地原料(小麦粉100部、砂糖6部、食塩2部、脱脂粉乳4部、ショートニング5部、イースト5部、イーストフード54部)を練り上げて生地を調製し(低速5分、中速5分のミキシング。捏ね上げ温度27℃)、28℃、湿度75%の庫内にて60分発酵させた後、−18℃のフリーザーで60分間リタードをとった。これに、上記の油中水型乳化物(50部)を折り込み、リバースシーターで3つ折りを1回行った後、−7℃のフリーザーで45分間リタードをとった。そして、リバースシーターで生地厚4mmまで延ばし、55gを成型し、35℃、湿度75%の庫内で60分間発酵させた後、庫内温度210℃のオーブンで17分間焼成しクロワッサンを得た。これを5人のパネラーで官能評価を行った結果、焼き残り風味が強いと答えた人数は5人で良好であった。
【0020】
(実施例2)
実施例1のエマルスター30A 0.1部を1部に変え(水相中6.6部%)実施例1と同様な方法にて油中水型乳化組成物を得た。この油中水型乳化組成物を使用し実施例1と同様な方法にてクロワッサンを得た。これを5人のパネラーで官能評価を行った結果、焼き残り風味が強いと答えた人数は5人で良好であった。
【0021】
(実施例3)
実施例1のエマルスター30A 0.1部を0.01部に変え(水相中0.07%)実施例1と同様な方法にて油中水型乳化組成物を得た。この油中水型乳化組成物を使用し実施例1と同様な方法にてクロワッサンを得た。これを5人のパネラーで官能評価を行った結果、焼き残り風味が強いと答えた人数は4人で良好であった。
【0022】
(実施例4)
実施例1の脱脂粉乳5部をバター5部に変え実施例1と同様な方法にて油中水型乳化組成物を得た。この油中水型乳化物を使用し実施例1と同様な方法にてクロワッサンを得た。これを5人のパネラーで官能評価を行った結果、焼き残り風味が強いと答えた人数は5人で良好であった。
【0023】
(実施例5)
実施例1の脱脂粉乳5部をチョコレート5部に変え実施例1と同様な方法にて油中水型乳化組成物を得た。この油中水型乳化物を使用し実施例1と同様な方法にてクロワッサンを得た。これを5人のパネラーで官能評価を行った結果、焼き残り風味が強いと答えた人数は5人で良好であった。
【0024】
(実施例6)
実施例1の香料(油溶性)0.2部を香料(水溶性)0.2部に変え実施例1と同様な方法にて油中水型乳化組成物を得た。この油中水型乳化物を使用し実施例1と同様な方法にてクロワッサンを得た。これを5人のパネラーで官能評価を行った結果、焼き残り風味が強いと答えた人数は5人で良好であった。
【0025】
(実施例7)
実施例1の香料(油溶性)0.2部を香料(乳化タイプ)0.2部に変え実施例1と同様な方法にて油中水型乳化組成物を得た。この油中水型乳化物を使用し実施例1と同様な方法にてクロワッサンを得た。これを5人のパネラーで官能評価を行った結果、焼き残り風味が強いと答えた人数は5人で良好であった。
【0026】
(比較例1)
実施例1のエマルスター30#A 0.1部を0部に変え実施例1と同様な方法にて油中水型乳化物を得た。この油中水型乳化物を使用し実施例1と同様な方法にてクロワッサンを得た。これを5人のパネラーで官能評価を行った結果、焼き残り風味が強いと答えた人数はおらず、焼成による風味の消失が大きかった。
【0027】
(比較例2)
実施例1のエマルスター30#A 0.1部を18部に変え(水相中57.3%)実施例1と同様な方法にて油中水型乳化物を得たが、組織が悪く安定な油中水型乳化組成物ができなかった。従って、これを用いたクロワッサンの評価はできなかった。
【0028】
(比較例3)
実施例1のエマルスター30#A 0.1部を0.001部に変え(水相中0.01%)実施例1と同様な方法にて油中水型乳化物を得た。この油中水型乳化物を使用し実施例1と同様な方法にてクロワッサンを得た。これを5人のパネラーで官能評価を行った結果、焼き残り風味が強いと答えた人数はおらず、焼成による風味の消失が大きかった。
【0029】
(比較例4)
実施例1のエマルスター30#A 0.2をコーンスターチ0.2部に変え、香料を0.2部に変え油中水型乳化物を得た。この油中水型乳化物を使用し実施例1と同様な方法にてクロワッサンを得た。これを5人のパネラーで官能評価を行った結果、焼き残り風味が強いと答えた人数はおらず、焼成による風味の消失が大きかった。
【0030】
実施例1〜7、比較例1、3、4の油中水型乳化物はすべてシート状に成型したものを使用した。比較例2はシート状に成型できたが組織が悪く使用できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、オクテニルコハク酸でん粉を使用した油中水型乳化物を使用した風味良好な菓子・パン類の製造方法に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクテニルコハク酸でん粉を水相に含有する油中水型乳化物。
【請求項2】
オクテニルコハク酸でん粉の含量が水相中0.02〜50重量%である請求項1記載の油中水型乳化物。
【請求項3】
請求項2記載の油中水型乳化物を使用した菓子又はパン類。

【公開番号】特開2009−124970(P2009−124970A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301769(P2007−301769)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】