説明

油中水型乳化組成物

【課題】化粧持ちがよく、肌にみずみずしい効果を与える高内水相比を有する油中水型固形乳化組成物でありながら、塗布後には高い保湿効果やはり感を与える油中水型乳化組成物を提供する。
【解決手段】
下記成分(A)(B)(C)(D)を含み、さらに下記(1)(2)及び(3)の条件を満たすことを特徴とする油中水型乳化組成物。
成分:(A)イソステアリン酸グリセリン
(B)水性成分
(C)油性成分
(D)けん化度が90mol%以上であるポリビニルアルコール
条件:(1)成分(B)の水性成分の質量を成分(B)の水性成分と成分(C)の油性成分
の質量の和で除することで得られる内水相比が70%以上である。
(2)成分(A)中に含まれるモノイソステアリン酸グリセリンの量が、(A)の総量に対して85質量%以上である。
(3)成分(A)中に含まれる不純物としてのジイソステアリン酸グリセリン及びトリイソステアリン酸グリセリンの量が(A)の総量に対して15質量%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油中水型乳化組成物に関し、特に高い保湿効果の実現、および塗布後のはり効果の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化組成物は水中油型(O/W)及び油中水型(W/O)に大別されており、さらには油中水中油型(O/W/O)、水中油中水型(W/O/W)等のマルチタイプも存在する。これらは従来、化粧品分野ではスキンケア用のクリーム、乳液、ヘアケア用クリーム等に活用され、医薬品分野では経皮用クリーム等として活用されている。
【0003】
その中でも油相を外相、水相を内相とした油中水型の乳化組成物は、油溶性の有効成分、例えばエモリエント油、油溶性の薬剤、紫外線吸収剤等を効率的に皮膚上に展開できることから、皮膚外用剤として適した剤型であり、この点において水中油型よりも優れている。
【0004】
内水相成分の量を全乳化組成物で除して得られる内水相比は、乳化物の性質、さらには乳化物を含む化粧料においては使用感に大きな影響を与える。具体的には、クリームなどに活用される油中水型乳化組成物において、内水相比を高めるとさっぱりとした良好な使用感を与えることができ、内水相比が低いとしっとりとした油っぽい感触となる。
【0005】
通常の油中水型乳化組成物は、内水相比を高めていった場合、60%付近で安定性を保持することが困難になってくる。これは、内水相の乳化粒子を構成する水分子がマイグレーションして他の乳化粒子に吸収されること(オストワルドライプニング)による乳化粒子の増大や、内水相比が高いために乳化粒子同士の衝突頻度が著しく増大することに起因する乳化粒子の合一などが起こるためである。従って、剛体球の細密充填率(74%)付近である70%を超えた内水相比で乳化物を安定化することは困難であった。また、乳化系は熱力学的に非平衡であるため、これを工業的に活用できるように安定化させるためには、乳化剤の量、内水相比、水性成分の種類及びその量、油分の種類及びその量、他の安定剤の種類及びその量などの使用に制限があった。
【0006】
すなわち、皮膚に対する保湿効果の高い油中水型乳化組成物を、使用性を高めるのに適した高内水相比のものとして、且つ安定性を良好に保ちながら提供することは困難であった。
【0007】
一方、界面活性剤としてモノオレイン酸グリセリンを主に用いることにより、内水相比の高い油中水型乳化組成物が開発されている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、上記乳化物は、さっぱりとした使用性と高い保湿効果を有するが、塗布後にはり感を与えることは困難であった。また、モノオレイン酸グリセリン、モノオレイン酸グリセリン、ポリオキシエチレングリセリルモノイソステアレートから選ばれる1種又は2種以上の界面活性剤、および固形油分を用いることにより、みずみずしい使用性と水分蒸散抑制効果を有する油中水型乳化組成物が開発されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、上記乳化物においても塗布後にはり感を与えることは困難であった。
【0008】
さらに、逆ミセルが充填したディスコンティニュアス逆ミセルキュービック液晶を外相とし、水を乳化滴として取り込んだ高内水相比の液晶中水型乳化組成物が開発されている(例えば非特許文献1参照)。しかしながらこの方法では界面活性剤や油の種類およびその量が著しく制限されており、実用性に乏しく、また保存安定性においても満足のいくものではなかった。
【0009】
また、被膜剤としてポリビニルアルコールを用いることにより、皮膚にはり感を与える水中油型乳化組成物が開発されている(例えば特許文献3参照)。しかしながら、通常用いられる「部分けん化型」のポリビニルアルコールを高内水相比の液晶中水型乳化組成物に配合させると、安定性を著しく低下させる等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−153824号公報
【特許文献2】特開2008−24630号公報
【特許文献3】特許第3664465号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】栗林さつき, オレオサイエンス Vol.1. No.3, 247-254(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記従来の方法は、内水相比を高くするために使用する界面活性剤に工夫を加えた結果、べたつき感を伴い使用性で問題があったり、高内水相比を保持しながら安定性を保つためには配合する油分の種類に制限があったり、化粧料としたときにはり感に欠ける等、品質において必ずしも満足のいくものではなかった。
本発明は前記従来技術の課題に鑑み行われたものであり、化粧持ちがよく、肌にみずみずしい効果を与える高内水相比を有する油中水型乳化組成物でありながら、塗布後には高い保湿効果やはり感を与える油中水型乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが前述の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、高いけん化度を有する特定のポリビニルアルコールを用いて混合することにより、乳化安定性が非常に良好で、化粧持ちがよく、さらに塗布後には高い保湿効果やはり感を有する仕上がりになる等の使用性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明にかかる油中水型乳化組成物は、下記成分(A)(B)(C)(D)を含み、さらに下記(1)(2)及び(3)の条件を満たすことを特徴とする。
成分:(A)イソステアリン酸グリセリン、(B)水性成分(C)油性成分、(D)けん化度が90mol%以上であるポリビニルアルコール、(1)成分(B)の水性成分の質量を成分(B)の水性成分と成分(C)の油性成分の質量の和で除することで得られる内水相比が70%以上である。(2)成分(A)中に含まれるモノイソステアリン酸グリセリンの量が、(A)の総量に対して85質量%以上である。(3)成分(A)中に含まれる不純物としてのジイソステアリン酸グリセリン及びトリイソステアリン酸グリセリンの量が(A)の総量に対して15質量%未満である。
【0015】
また、前記油中水型乳化組成物は、成分(A)および成分(B)を混合することで得られる相平衡状態がバイコンティニュアスキュービック液晶と水相、またはバイコンティニュアスキュービック液晶と他の相および水相が共存する多相状態であることが好適である。
【0016】
また、前記油中水型乳化化粧料は、さらに成分(E)テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンを含むことが好適である。
【0017】
また、前記油中水型乳化化粧料は、成分(A)の質量が組成物全量に対して0.1〜5.0質量%であることが好適である。
また、前記油中水型乳化化粧料は、成分(C)の油性成分として固形油分を含むことが好適である。
【0018】
また、前記油中水型乳化化粧料は、成分(D)ポリビニルアルコールの質量が組成物全量に対して0.03〜1質量%であることが好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる油中水型乳化組成物は、不純物の少ないモノイソステアリン酸グリセリンと、水性成分と、油性成分と、けん化度が90mol%以上であるポリビニルアルコールとを、含有することで得られる組成物であり、化粧持ちがよく、さらに高内水相比であり、塗布後には高い保湿効果やはり感を与える油中水型乳化化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明にかかる油中水型乳化組成物は(A)イソステアリン酸グリセリン(モノイソステアリン酸グリセリンを85質量%以上含む)、(B)水性成分、(C)油性成分、(D)けん化度が90mol%以上であるポリビニルアルコールから構成されている。以下、各成分について詳述する。
【0021】
成分(A)のイソステアリン酸グリセリンは、モノイソステアリン酸グリセリンの純度が高いものであり、種々の公知の合成法により提供され得るものである。通常の合成法によれば、モノイソステアリン酸グリセリン、ジイソステアリン酸グリセリン、トリイソステアリン酸グリセリンの混合物として生成される。本発明にかかる油中水型乳化組成物を構成する成分(A)は、含まれるモノイソステアリン酸グリセリンの純度が高いことが望ましい。モノイソステアリン酸グリセリンの精製法として、通常分子蒸留法が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0022】
成分(A)の不純物として含まれるグリセリン脂肪酸ジエステルおよびグリセリン脂肪酸トリエステルは、成分(A)全量に対しての15質量%未満である。モノイソステアリン酸グリセリンが界面活性剤(乳化剤)としての機能を有するのに対し、ジイソステアリン酸グリセリン及びトリイソステアリン酸グリセリンは油分としての挙動を呈する。従って、モノイソステアリン酸グリセリンの純度が低い場合には、乳化物は成分(C)の油性成分に加え、ジイソステアリン酸グリセリン及びトリイソステアリン酸グリセリンが油性成分として配合されたような挙動をとる。すなわち、モノイソステアリン酸グリセリンの純度が低く、成分(C)の油性成分として配合される油分の一種として、また成分(A)の不純物として含まれるグリセリン脂肪酸ジエステルおよび/またはグリセリン脂肪酸トリエステルが、成分(A)の全量に対して15質量%を超えてしまうと、乳化物の安定性が損なわれる。なお、モノイソステアリン酸グリセリンの純度は、ガスクロマトグラフィー(GC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの一般的な方法で測定することができる。
【0023】
なお、成分(A)の好適な配合量としては、化粧料全量に対して0.1〜5.0質量%、好ましくは0.3〜2.5質量%である。0.1質量%以下では乳化物の安定性が著しく損なわれる場合があり、5.0質量%を超えると使用性に劣る場合がある。
【0024】
成分(B)の水性成分は化粧品、医薬品などに通常使用可能なものを、乳化物の安定性を損なわない範囲で配合することができる。保湿剤としては、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、キシリトール、マルチトール、マルトース、D-マンニット等が挙げられる。水溶性高分子としては、アラビアゴム、カラギーナン、ペクチン、カンテン、クインスシード(マルメロ)、デンプン、アルゲコロイド(褐藻エキス)等の植物系高分子、デキストラン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン等の動物系高分子、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸系高分子、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOLなど)等のビニル系高分子、ポリオキシエチレン系高分子、ポリオキエチレンポリオキシプロピレン共重合体系高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド等のアクリル系高分子、ベントナイト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、ラポナイト等の無機系水溶性高分子等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、パラアミノ安息香酸等の安息香酸系紫外線吸収剤、アントラミル酸メチル等のアントラニル酸系紫外線吸収剤、サリチル酸オクチル、サリチル酸フェニル等のサリチル酸系紫外線吸収剤、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、ジパラメトキシケイ皮酸モノ−2−エチルヘキサン酸グリセリル等のケイ皮酸系紫外線吸収剤、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ウロカニン酸、2−(2'−ヒドロキシ−5'−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、4−tert−ブチル−4'−メトキシベンゾイルメタン等が挙げられる。
【0025】
金属イオン封鎖剤としては、エデト酸ナトリウム塩、メタリン酸ナトリウム、リン酸等が挙げられる。
酸化防止剤としては、アスコルビン酸、α−トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。
薬剤としては、ビタミンA油、レチノール、パルミチン酸レチノール、イノシット、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸ベンジル、ニコチン酸アミド、ニコチン酸dl−α−トコフェロール、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸2-グルコシド、ビタミンD2(エルゴカシフェロール)、dl−α−トコフェロール2−Lアスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩、dl−α−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェロール、パントテン酸、ビオチン等のビタミン類、アラントイン、アズレン等の坑炎症剤、アルブチン等の美白剤、酸化亜鉛、タンニン酸等の収斂剤、イオウ、塩化リゾチーム、塩酸ピリドキシン、γ−オリザノール等が挙げられる。
また、上記薬剤は遊離の状態で使用されるほか、造塩可能なものは酸または塩基の塩の型で、またカルボン酸基を有するものはそのエステルの形で使用することができる。
【0026】
成分(C)の油性成分としては、化粧品、医薬品に通常使用可能なものを、乳化物の安定性を損なわない範囲で使用することができる。液状油分としては、好ましくはシリコーン油であり、さらに好ましくは環状シリコーン油である。シリコーン油としては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサンなどに代表される鎖状シリコーン油、およびオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどに代表される環状シリコーン油がある。
なお、極性の油分については、乳化物の安定性を損なわない範囲で少量配合することが望ましい。極性油分としては、オクタン酸セチル、ラウリン酸ヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イロプロピル、イソパルミチン酸オクチル、イソステアリン酸イソデシル、コハク酸2−エチルヘキシル、セバシン酸ジエチルなどに代表されるエステル油がある。
非極性油としては、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、パラフィン、イソパラフィン、イソドデカン、イソヘキサデカン等に代表される炭化水素油がある。
【0027】
また、成分(C)の油性成分は固形油分を含むことが好適である。固形油分としては、カカオ脂、ヤシ油、馬油、硬化ヤシ油、パーム油、牛脂、羊脂、硬化ヒマシ油などの固体油脂、パラフィンワックス(直鎖炭化水素)、マイクロクリスタリンワックス(分岐飽和炭化水素)、セレシンワックス、モクロウ、モンタンワックス、フィッシャートロプスワックスなどの炭化水素類、ミツロウ、ラノリン、カルナバワックス、キャンデリラロウ、米ぬかロウ(ライスワックス)、ゲイロウ、ホホバ油、ヌカロウ、モンタンロウ、カポックロウ、ベイベリーロウ、セラックロウ、サトウキビロウ、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラウリル酸ヘキシル、還元ラノリン、硬質ラノリン、POEラノリンアルコールエーテル、POEラノリンアルコールアセテート、POEコレステロールエーテル、ラノリン脂肪酸ポリエチレングリコール、POE水素添加ラノリンアルコールエーテルなどのロウ類、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベへニン酸などの高級脂肪酸、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコールなどの高級アルコールなどが上げられる。なお、固形油分の配合量は化粧料全量に対して0.5〜3質量%が好ましく、より好ましくは1〜2質量%である。固形油分の配合量が0.5質量%未満では安定性に劣る場合があり、3質量%より多くなると化粧料ののびが重くなる。
【0028】
本発明にかかる油中水型乳化組成物の内水相比は70%以上であることを特徴とする。70%未満であるとさっぱりとした使用感が得られない場合がある。さらに本発明においては、80%以上の高内水相比である油中水型乳化組成物の調製も可能であり、さっぱりとした使用感をもたせることも可能である。なお、内水相比は、(1)成分(B)の水性成分の質量を成分(B)の水性成分と成分(C)の油性成分の質量の和で除することで計算される。
【0029】
キュービック液晶は4種の構造が存在することが知られている。閉鎖集合体であるミセルあるいは逆ミセルが、それぞれ油あるいは水の連続層中で立方晶型に充填したディスコンティニュアスキュービック液晶や脂質二重層が三次元的に連なった曲面を形成し立方晶型に配列した両連続構造であるバイコンティニュアスキュービック液晶がある。バイコンティニュアスキュービック液晶にも、水と油の存在位置を逆転させた逆型が存在する。本発明における乳化組成物は、成分(B)の水性成分と成分(A)を混合することで得られる相平衡状態が、バイコンティニュアスキュービック液晶と水相、またはバイコンティニュアスキュービック液晶と他の相、および水相が共存する多相状態となるような成分(A)及び成分(B)の組み合わせから構成されることが好ましい。
【0030】
バイコンティニュアスキュービック液晶は界面活性剤が無限会合した2分子膜が立方晶型に配列したものである。外観は透明で光学的には等方性であり、高粘度のゲル状を呈する。バイコンティニュアスキュービック液晶の判別方法には、外観による判定、相平衡図の作成、電気伝導度測定、NMRによる自己拡散係数の測定、小角X線散乱、フリーズフラクチャー法を用いて調製したレプリカの電子顕微鏡観察等により決定される。
本発明における液晶構造の判別方法としては、以下の様な手法が考えられる。まず、(A)成分、(B)成分の水性成分を良く混合した後、遠心分離処理により共存する複数の相を分離する。通常の遠心分離装置を用いた場合には、数時間から数日の処理時間を要する場合がある。共存する相がなく1相の状態であれば全体が均一に透明な状態となる。逆型を含むバイコンティニュアスキュービック液晶は、外観は透明で光学的には等方性であり、高粘度のゲル状を呈する。光学的に等方性であることは、偏光板2枚を90度の位相差で組み合わせた間にサンプルを保持し、光の透過がないことから判別できる。外観が透明で光学的に等方性であり、高粘度のゲル状の相については、さらに小角X線散乱によって構造を同定することができる。逆型を含むバイコンティニュアスキュービック液晶の散乱パターンは、Pn3m と呼ばれる構造の場合には√2、√3、√4、√6、√8 、√9、またはIa3dと呼ばれる構造の場合には√6、√8、√14、√16、√20のピーク比となる。
小角X線散乱に代わる簡便な方法として、H.Kunieda
et al., J.Oleo Sci. vol.52, 429-432(2003)に記載されているように、水溶性および油溶性の色素を用いて、その拡散時間から構造を推定する方法もある。
【0031】
成分(D)のポリビニルアルコールは、被膜剤として機能しうる市販品のポリビニルアルコールを用いることができ、その重合度とけん化度の違いによっていくつかのグレードに分けられたものが市販されている。重合とは通常4%濃度水溶液の20℃における粘度を測定することによって示される。本発明においては4cps程度の低粘度のものから70cps程度の高粘度のものまで使用することができる。しかしながら、重合度が高くなるほど形成しる被膜の強度が増加し、はり感が強すぎたり油中水型乳化組成物の粘度が増加するという傾向があるため、適度なはり感と化粧料として塗布しやすい粘度を考慮すると。15〜40cpsの粘度範囲を有する重合度のポリビニルアルコールを用いることが好ましい。
【0032】
一方、けん化度はポリビニルアルコールの製造時におけるポリ酢酸ビニルのアセチル基のけん化の割合の違いによるものである。本発明においては、けん化度が90mol%以上のものを使用すれば、安定な油中水型乳化組成物を製造することができる。なお、けん化度が90mol%未満のものを使用すると、安定性に劣る油中水型乳化組成物となってしまい好ましくない。
【0033】
ポリビニルアルコールの配合量は油中水型乳化組成物全量に対して、通常0.03〜1質量%、好ましくは0.1〜1.0質量%の範囲である。0.03質量%未満の配合量では、はり感等の本発明の効果が十分に発揮されず、また、1質量%を超える配合量では、粘度が高すぎるためべたついたり、安定性が低下したり、塗布しづらい場合がある。
【0034】
また、本発明にかかる油中水型乳化組成物は、従来外皮に適用されている化粧料、医薬品、および医薬部外品に広く応用することが可能である。例えば、美白用美容液、乳液、クリーム、パック、ファンデーション、口紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、洗顔料、スプレー、ムース、ヘアーリンス、シャンプー、皮膚科用軟膏等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
本発明については、以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される系に対する質量%で示す。
【0036】
調製法
成分(A)のイソステアリン酸グリセリン(モノイソステアリン酸グリセリンを85質量%以上含む)、成分(C)の油性成分およびその他の油溶性成分を混合し、約40度に加熱して溶解する。成分(B)の水性成分、成分(D)のポリビニルアルコールおよびその他の水溶性成分を混合、溶解する。油溶性成分のパーツを比較的強く攪拌しながら(又は加熱しながら)水溶性成分のパーツを徐添し乳化物を調製する。場合によっては、油溶性成分のパーツと水溶性成分のパーツをともに加熱しながら乳化物を調製する。加熱している場合は、調整した乳化物を撹拌しながら冷却する。
また、成分(A)中のモノイソステアリン酸グリセリンの純度は、ガスクロマトグラフィー(GC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの一般的な方法で測定することができる。
前記調製法で得られる油中水型乳化組成物の内水相比は、水および水溶性成分の質量を、水および水溶性成分と油および油溶性成分の合計質量で除することで計算される。
【0037】
油中水型乳化組成物の評価方法
下記表1〜表6に示す組成物について、以下の評価基準に基づいて、みずみずしさ、はり効果、べたつきのなさ、保湿効果、安定性、相平衡を評価した。
1.みずみずしさ
専門パネル10名が顔面に油中水型乳化組成物を塗布し、塗布時の使用感を評価した。
◎:パネル10名中9名以上がみずみずしいと回答。
○:パネル10名中7名以上9名未満がみずみずしいと回答。
△:パネル10名中5名以上7名未満がみずみずしいと回答。
×:パネル10名中5未満がみずみずしいと回答。
【0038】
2.はり効果
専門パネル10名が顔面に油中水型乳化組成物を塗布し、塗布時の使用感を評価した。
◎:パネル10名中9名以上がはりがあると回答。
○:パネル10名中7名以上9名未満がはりがあると回答。
△:パネル10名中5名以上7名未満がはりがあると回答。
×:パネル10名中5未満がはりがあると回答。
【0039】
3.べたつきのなさ
専門パネル10名が顔面に油中水型乳化組成物を塗布し、塗布時の使用感を評価した。
○:パネル10名中8名以上がべたつきがないと回答。
△:パネル10名中5名以上8名未満がべたつきがないと回答。
×:パネル10名中5未満がべたつきがないと回答。
【0040】
4.保湿効果
専門パネル10名が顔面に油中水型乳化組成物を塗布し、塗布時の使用感を評価した。
◎:パネル10名中9名以上が保湿効果があると回答。
○:パネル10名中7名以上9名未満が保湿効果があると回答。
△:パネル10名中5名以上7名未満が保湿効果があると回答。
×:パネル10名中5未満が保湿効果があると回答。
【0041】
5.安定性
油中水型乳化組成物を25℃と40℃で1ヶ月保存し、硬度および外観を調整直後と比較し、安定性を評価した。
◎:どの保存条件でも、硬度の低下が10%以下であり、外観の変化は認められない。
○:どの保存条件でも、外観の変化は認められないが、50℃で保存したもののみ10%以上の硬度低下が認められる。
○△:どの保存条件でも、外観の変化は認められないが、10%以上の硬度低下が認められる。
△:外観において、水または油の分離が若干認められる。
×:1ヶ月以内に、外観において水または油の分離が認められる。
【0042】
6.成分(A),(B)を混合したときの相平衡
各成分を充分に混合した後、遠心分離により各相を分離した。その後、偏光顕微鏡観察および小角X線散乱測定により相平衡を決定した。
◎:バイコンティニュアスキュービック液晶と逆ヘキサゴナル液晶および水相が共存。
○:バイコンティニュアスキュービック液晶と逆ヘキサゴナル液晶と他の相および水相が共存。
×:バイコンティニュアスキュービック液晶と逆ヘキサゴナル液晶以外の相の組み合わせにより構成。
【0043】
【表1】

(*):テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン
【0044】
本発明者らは、前記表1に示す試験例1−1〜1−4において(B)水性成分、及び(C)油性成分の配合量を調整し内水相比を適宜変化させて、ポリビニルアルコールを含有しない従来の油中水型乳化組成物における諸効果及び相平衡の評価を検討した。
試験例1−1〜1−4の結果より明らかなように、従来において困難であった70%以上での内水相比においても安定性を保持させることが可能となり、バイコンティニュアスキュービック液晶と逆ヘキサゴナルと水相が共存していることが確認できた。また、内水相比が高くなるにつれてみずみずしさやべたつきのなさは改善されているが、はり効果については全く改善できなかった。
【0045】
そこで本発明者らは、試験例1−5〜1−9に示すように組成物を高内水相に保ちつつ、ポリビニルアルコールの配合量を0.3質量%に固定し、けん化度を変えた組成に調整してそれぞれの評価を検討した。
その結果、けん化度が90mol%以上であるポリビニルアルコールを選択したところ、試験例1−8,4−9のように乳化安定性に優れた油中水型乳化組成物となることが分かった。しかし、ポリビニルアルコールであっても、90mol%未満のポリビニルアルコールを選択し、配合させると(試験例1−5〜1−7)、90mol%のポリビニルアルコールの両親媒能が高く、界面に影響を与えることが問題となり乳化安定性が低下した。
以上の結果から、本発明に用いられるポリビニルアルコールとしては、けん化度が90mol%以上であるものを使用することが、高内水相比であるにも関わらず良好な安定性を保持し、かつはり感のある油中水型乳化組成物の調製のために好ましいことが明らかとなった。
【0046】
そして、試験例1−10の結果から本発明の油中水型乳化組成物においては、さらにテトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンを配合すると安定性がさらに向上することが明らかとなった。
【0047】
また、従来の水中油型乳化組成物においては、「部分けん化型」といわれるけん化度が約80〜90mol%のポリビニルアルコールを用いても、「完全けん化型」といわれるけん化度が97〜100mol%のポリビニルアルコールを用いても、乳化能や安定性に影響の差異はないと考えられていた。
しかしながら、上述の様に本発明の油中水型乳化組成物においては、けん化度が90mol%以上のポリビニルアルコールを選択して配合させると、良好な安定性を保持し、かつはり感において非常に好ましいことが理解される。
次に本発明者らは、本発明に用いられる(A)イソステアリン酸グリセリンの好適な純度について検討を進めた。
【0048】
【表2】

(*):テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン
【0049】
前記表2に示すように、(A)イソステアリン酸グリセリンの配合量を0.7質量%とし、モノイソステアリン酸グリセリンの純度を95%、85%、70%、45%と調整して、その純度が油中水型乳化組成物の相状態と使用性評価にもたらす影響について検討した。
その結果、モノイソステアリン酸グリセリンの純度が95%、85%である場合(試験例2−1、2−2)、乳化安定性に優れた組成物であるが、その純度が70%になると(試験例2−3)、相平衡はバイコンティニュアスキュービック液晶と逆ヘキサゴナル液晶と水以外の他の相が共存する状態となり、低温における乳化安定性が若干低下した。さらに純度が45%とまで下がると(試験例2−4)、相平衡はバイコンティニュアスキュービック液晶と逆ヘキサゴナル液晶以外の相となり、乳化安定性もさらに低下する傾向にあった。
続いて、本発明者らは、モノイソステアリン酸グリセリン及びフィタントリオールの組み合わせによる乳化組成物の向上機構について検討を行った。
【0050】
【表3】

(*):テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン
【0051】
前記表3に示すように、試験例3−1〜3−5において、(A)成分の配合量を適宜変化させて、それぞれの評価を検討した。
この結果、(A)成分を0.05質量%配合させた試験例3−1においては、相平衡はバイコンティニュアスキュービック液晶と逆ヘキサゴナル液晶以外の相となり、乳化安定性も劣る傾向にあった。一方、(A)成分を0.1質量%以上配合させた場合(試験例3−2〜3−5)、優れた乳化安定性が得られることが明らかとなったが、6.0質量%配合させた場合(試験例3−5)にはみずみずしさに劣る結果となった。
以上により、(A)成分の好適な配合量は0.1〜5.0質量%であることが理解される。
引き続き本発明者らは、本発明に用いられるポリビニルアルコールの好適な配合量、及び本発明の油中水型乳化組成物に配合可能な他の油性成分の検討を進めた。
【0052】
【表4】

(*):テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン
【0053】
前記表4に示すように、界面活性剤の一種をモノイソステアリン酸グリセリン(90%)に固定し、さらにけん化度が99mol%以上のポリビニルアルコールに固定し、このポリビニルアルコールの配合量を適宜調整して、それぞれの評価を検討した(試験例4−1〜4−6)。
その結果、ポリビニルアルコールを全く配合しなかった試験例4−1は、はり効果に劣るものとなり、ポリビニルアルコールを1.5質量%配合した試験例4−6は、べたつきが生じ、乳化安定性に劣るものとなった。一方、ポリビニルアルコールの配合量を0.03〜1.0質量%配合した試験例4−2〜4−5においては、各評価とも良好なものとなり、特に安定性、はり効果に関しては非常に優れた油中水型乳化組成物となった。
以上のように、高内水相比でありながら、乳化安定性が優れる油中水型乳化組成物を得るためには、高いけん化度を有するだけでなく、適量のポリビニルアルコールを配合させることが重要であり、本発明の油中水型乳化組成物に配合させるポリビニルアルコールの配合量は、0.03〜1.0質量%であることが好ましいことが明らかとなった。
【0054】
さらに、本発明者らは、液状油分であるスクワラン、エチルヘキサン酸セチルの他に、半固形油分であるワセリン、固形油分(パラフィン/マイクロクリスタリンワックス混合物)を加え、評価を検討した。
その結果、上記固形油分(パラフィン/マイクロクリスタリンワックス混合物)を1〜2質量%配合した試験例4−7,4−8は、液状油分のみを用いた試験例4−2〜4−5に比べて保湿効果がさらに優れたものであることが理解される。しかしながら、固形油分を4質量%配合した試験例4−9は、保湿効果の優良性には変化はなかったが、みずみずしさ、べたつきの使用感、安定性に関して悪化する結果となった。
以上の結果より、本発明の油中水型乳化組成物においては、固形油分を組成物全体に対して1〜2質量%含む油性成分を配合することが保湿効果において好ましいと理解される。
【0055】
以下に本発明の実施例を示す。
実施例1 保湿クリーム
(配合成分) (質量%)
(1)精製水 残部
(2)食塩 1.0
(3)グリセリン 5.0
(4)イソステアリン酸グリセリン
(モノイソステアリン酸純分90質量%) 0.7
(5)スクワラン 7.0
(6)エチルヘキサン酸セチル 2.5
(7)ワセリン 2.0
(8)(パラフィン/マイクロクリスタリンワックス)混合物 1.0
(9)ポリビニルアルコール 0.3
(10)テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン 0.3
(11)香料 適量
(製法)
油分(4)〜(8),(10)(11)を混合し、加熱して油相の均一分散を行う。(1)〜(3),(9)を加えた水相を混合する。加熱した水相を前記油相に徐添し、ホモディスパーで均一分散後、乳化粒子を整え、攪拌しながら冷却し、油中水型乳化組成物からなる保湿クリームを製造した。得られた保湿クリームは安定性が良好ではり感に優れた使用性を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)(B)(C)(D)を含み、さらに下記(1)(2)及び(3)の条件を満たすことを特徴とする油中水型乳化組成物。
成分:(A)イソステアリン酸グリセリン
(B)水性成分
(C)油性成分
(D)けん化度が90mol%以上であるポリビニルアルコール
条件:(1)成分(B)の水性成分の質量を成分(B)の水性成分と成分(C)の油性成分
の質量の和で除することで得られる内水相比が70%以上である。
(2)成分(A)中に含まれるモノイソステアリン酸グリセリンの量が、(3)成分(A)中に含まれる不純物としてのジイソステアリン酸グリセリン及びトリイソステアリン酸グリセリンの量が(A)の総量に対して15質量%未満である。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、成分(B)と成分(A)とを混合することで得られる相平衡状態がバイコンティニュアスキュービック液晶と水相、またはバイコンティニュアスキュービック液晶と他の相および水相が共存する多相状態であることを特徴とする油中水型乳化組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物において、さらに成分(E)テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンを含むことを特徴とする油中水型乳化組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の組成物において、成分(A)の質量が組成物全量に対して0.1〜5.0質量%であることを特徴とする油中水型乳化組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の組成物において、成分(C)の油性成分として固形油分を含むことを特徴とする油中水型乳化組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の油中水型乳化組成物において、成分(D)ポリビニルアルコールの質量が組成物全量に対して0.03〜1質量%であることを特徴とする油中水型乳化組成物。

【公開番号】特開2010−229103(P2010−229103A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79893(P2009−79893)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】