説明

油井管用のねじ継手

【課題】従来よりも容易に製造でき、優れた耐焼付き性を有する油井管用のねじ継手を提供する。
【解決手段】インテグラル型のねじ継手は、第1油井管の端部に形成されるボックス3と、第2油井管の端部に形成され、ボックス3に挿入されるピン2とを備える。ボックス3の内面は、複数の雌ねじ31が形成される雌ねじ部と、内面メタルシール部とを含む。ピン2の外面は、複数の雄ねじ21が形成された雄ねじ部と、内面メタルシール部に対応する外面メタルシール部とを含む。ピン2の雄ねじ部及び外面メタルシール部上には、筆めっき法によりめっき層が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ継手に関し、さらに詳しくは、油井管用のねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
油井管は、油井やガス井の生産や探査に利用される。油井管は、チュービングやケーシングを含む。油井管同士の接続には、ねじ継手が用いられる。
【0003】
ねじ継手には、T&C(Threaded and Coupled)型のねじ継手と、インテグラル型のねじ継手とがある。T&C型のねじ継手は、2つの油井管の端部に形成された2つのピンと、カップリングの両端に形成された2つのボックスとを含む。各ピンは複数の雄ねじが形成された外面を有し、各ボックスは複数の雌ねじが形成された内面を有する。各ピンが各ボックスに挿入され、締め付けられる。つまり、T&C型のねじ継手では、カップリングを介して2つの油井管が接続される。
【0004】
一方、インテグラル型のねじ継手(以下、インテグラルねじ継手という)は、第1油井管の端に形成されたボックスと、第2油井管の端に形成されたピンとを含む。第1油井管のボックスに第2油井管のピンが挿入され、締め付けられると、第1及び第2油井管は互いに接続される。要するに、インテグラルねじ継手では、第1油井管が第2油井管に直接接続される。インテグラルねじ継手を利用すれば、カップリングは不要である。
【0005】
このようなねじ継手では耐焼き付き性が求められる。特に、クロム(Cr)含有量が高い高合金(たとえば、S13Cr鋼やCRA)からなるねじ継手では焼付きが発生しやすいため、優れた耐焼付き性が求められる。耐焼付き性を向上するために、上述の高合金からなるT&C型のねじ継手では、カップリングが浸漬めっき処理される。カップリングは短尺の鋼管であるため、容易にめっき処理することができる浸漬めっき処理により、ボックスの内面にめっき層が形成され、耐焼き付き性が向上する。
【0006】
一方、インテグラルねじ継手の場合、浸漬めっき処理を施しにくい。なぜなら、油井管は長尺であり、通常のサイズのめっき浴に漬けることができないためである。そのため、インテグラル継手では通常、めっき処理の代わりに、サンドブラスト処理が施される。サンドブラスト処理により、ピンの外面及びボックスの内面は所定の粗さを有し、ピン外面及びボックス内面には微小な凹凸が多数形成される。ピンをボックスに挿入するとき、ピン外面及びボックス内面にドープと呼ばれる潤滑剤が塗布される。ピン外面及びボックス内面が粗さを有していれば、ピン外面及びボックス内面に塗布された潤滑剤が各々の表面の凹凸に溜まる。そのため、耐焼き付き性が向上する。
【0007】
しかしながら、サンドブラスト処理による耐焼付き性は、めっき層の形成による耐焼付き性よりも劣る。さらに、従来の潤滑剤は、亜鉛や鉛等の重金属を含むことにより、高い潤滑性を有していたが、重金属の環境への影響を考慮して、一部の現場では、重金属を含まない潤滑剤の使用が求められるようになってきた。重金属を含まない潤滑剤は、重金属を含む潤滑剤よりも潤滑性に劣る。そのため、インテグラルねじ継手の耐焼付き性のさらなる向上が求められている。
【0008】
インテグラルねじ継手において、油井管の端部をめっき処理する技術が特開昭60−9893(特許文献1)及び実公平3−18507号公報(特許文献2)に開示されている。
【0009】
これらの文献では、筒状セルの一端に、油井管の端部が挿入される。このとき、電極が、油井管端部の外面に対向する。ピンが筒状セルに挿入された後、管状セルにめっき処理液が供給され、めっき処理が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭60−9893
【特許文献2】実公平3−18507号公報
【特許文献3】特開2006−118720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の特許文献1及び2では、油井管の端部を筒状セルに挿入したのち、筒状セルと油井管との間をパッキング等により密閉したり、めっき処理後に筒状セルを油井管から取り外したりしなければならない。このような作業は煩雑であり、作業者の負担も大きい。
【0012】
本発明の目的は、従来よりも容易に製造でき、優れた耐焼付き性を有する油井管用のねじ継手を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0013】
本発明によるねじ継手は、油井管用のねじ継手である。ねじ継手は、ボックスと、ピンとを備える。ボックスは、第1油井管の端部に形成される。ピンは、第2油井管の端部に形成され、ボックスに挿入される。ボックスは内面を有し、内面は、雌ねじ部と、内面メタルシール部とを含む。雌ねじ部は、複数の雌ねじが形成される。ピンは外面を有し、外面は、雄ねじ部と、外面メタルシール部とを含む。雄ねじ部は、複数の雄ねじが形成される。外面メタルシール部は、内面メタルシール部に対応する。ピン及びボックスの少なくとも一方は、筆めっき法により外面上又は内面上に形成されるめっき層を含む。
【0014】
筆めっき法は、めっき浴を利用する他のめっき法よりも容易にめっき層を形成できる。そのため、従来よりも容易に、優れた耐焼付き性を有するねじ継手を製造できる。
【0015】
好ましくは、雌ねじ及び雄ねじの各々は、ねじ底面と、一対のフランク面と、一対のフランク面の間に配置されるねじ山面とを含む。雌ねじは雄ねじよりも高い。めっき層は、外面上に形成される。めっき層はさらに、第1〜第3めっき部を含む。第1めっき部は、雄ねじのねじ山面上に形成される。第2めっき部は、内面メタルシール部上に形成される。第3めっき部は、雄ねじのねじ底面上に形成され、第1及び第2めっき部よりも薄い。
【0016】
この場合、焼付きやすい内面メタルシール部に形成される第2めっき部を厚く形成しても、雄ねじ及び雌ねじの過剰な干渉を抑えることができる。そのため、焼付き性を向上しつつ、締め付け時のトルクの過剰な上昇を抑えることができる。
【0017】
好ましくは、ピンの外面及びボックスの内面は切削により形成される。ボックスの内面はさらに、切削ままである。ここで、「切削まま」とは、切削後に他の表面処理を実施しないことをいう。表面処理とはたとえば、サンドブラスト処理やショットブラスト処理等である。
【0018】
この場合、ピンの外面に形成されためっき層がボックスの内面に接触したとき、めっき層が傷つきにくく、剥がれにくい。
【0019】
好ましくは、めっき層は、サンドブラスト処理された外面上に形成される。
【0020】
この場合、めっき層とピンの外面との密着性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態による油井管の一部断面図を含む側面図である。
【図2】図1に示した油井管により構成されるインテグラルねじ継手の断面図である。
【図3】図2のうち、ピンとボックスとが締結された部分の拡大図である。
【図4】図1中のボックスの先端部分の断面図である。
【図5】図4中の雌ねじ近傍の拡大図である。
【図6】図1中のピンの先端部分の断面図である。
【図7】図6中の雄ねじ近傍の拡大図である。
【図8】筆めっき装置の概略図である。
【図9】雌ねじよりも高い雄ねじを有するインテグラルねじ継手の断面図である。
【図10】図9に示すインテグラルねじ継手において、筆めっき法によりめっき層を形成した場合の模式図である。
【図11】雄ねじよりも高い雌ねじを有するインテグラルねじ継手の断面図である。
【図12】図2に示したインテグラルねじ継手において、筆めっき法によりめっき層を形成した場合の雄ねじと雌ねじ近傍の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0023】
[インテグラルねじ継手の構成]
図1は、本実施の形態による油井管の側面図である。図1を参照して、油井管1は長手方向に延びる鋼管である。油井管1は中空体であり、長手方向に延びる貫通孔5を有する。
【0024】
油井管1は、本体4と、ピン2と、ボックス3とを備える。ピン2は、油井管1の一方の端部に配置され、ボックス3は油井管1の他方の端部に配置される。ピン2とボックス3との間には本体4が配置される。本体4は、油井管1の長手方向に延びる。図1では本体4の中央部分が省略されている。
【0025】
ピン2、ボックス3及び本体4はいずれも円筒状であり、いずれの横断面も円環状である。ピン2、ボックス3及び本体4はいずれも、油井管1の中心軸C1と同軸に配置される。
【0026】
ピン2は、外面20と内面22とを有する。ピン2の先端23は、油井管1の端に相当する。ピン2の後端24は本体4の端につながる。ピン2の内径は、本体4の内径と実質的に同じである。一方、ピン2の外径は、ピン2の先端23から後端24に向かって大きくなる。要するに、ピン2の外面20はテーパ形状を有し、先端23の外径よりも大きい後端24の外径を有する。外面20には、複数の雄ねじ21が形成される。外面20は、切削加工により形成される。
【0027】
ボックス3は、外面30と内面32とを有する。ボックス3の後端33は、油井管1の端に相当する。ボックス3の先端34は、本体4の端につながる。ボックス3の外径は、本体4の外径よりも若干大きい。ボックス3の内径は、本体4の内径よりも大きく、ボックス3の後端33から先端34に向かって小さくなる。要するに、内面32はテーパ形状を有し、先端34の内径よりも大きい後端33の内径を有する。内面32には、複数の雌ねじ31が形成される。各雌ねじ31は各雄ねじ21に対応する。内面32は、切削加工により形成される。
【0028】
図2は、インテグラルねじ継手の構成を示す。油井管1A及び1Bは、油井管1と同じ構成を有する。油井管1Aのボックス3に油井管1Bのピン2が挿入され、油井管1Bが油井管1Aに接続される。インテグラルねじ継手10は、油井管1Aのボックス3と、油井管1Bのピン2とを含む。要するに、油井管1A及び1Bは、インテグラルねじ継手10により、互いに接続される。
【0029】
図3は図2に示すインテグラルねじ継手10の拡大断面図である。図3を参照して、ピン2の先端23は、ボックス3の先端34と接触し、ピン2の後端24はボックス3の後端33と接触する。ピン2の外面20の前部及び後部は、ボックス3の内面32と離れた配置され、環状の隙間27及び28が形成される。隙間27及び28には、締め付け前に外面20に塗布された潤滑剤が流入する。
【0030】
[ボックス3の構成]
図4は、図1中のボックス3の先端近傍部分の拡大図である。ボックス3の内面32は、ボックス3の後端33から先端に向かって順に、雌ねじ部310、リセス部320、内面メタルシール部330及びショルダ部340を含む。
【0031】
雌ねじ部310は、環状である。雌ねじ部310には複数の雌ねじ31が形成されている。ショルダ部340は、環状であり、ボックス3の先端に配置される。内面32と、本体4の内面42との間に段差が設けられており、ショルダ部340はその段差に相当する。ボックス3内にピン2が挿入されるとき、ショルダ部340はピン2の先端と面接触する。そのため、インテグラルねじ継手10の気密性が向上する。
【0032】
リセス(Recess)部320は雌ねじ部310と内面メタルシール部330との間に配置される。ピン2がボックス3に挿入されたとき、リセス部320はピン2の外面20と接触せず、外面20から離れて配置され、図3に示す隙間27を形成する。ピン2がボックス3に挿入されたとき、隙間27には、外面20に過剰に塗布された潤滑剤が流入する。要するに、リセス部320は、過剰な潤滑剤の逃げ場を提供する。
【0033】
内面メタルシール部330は、ショルダ部340とリセス部320との間に配置される。内面メタルシール部330は、なめらかな表面であり、ピン2の外面20に形成されるメタルシール部と面接触する。そのため、内面メタルシール部330は、インテグラルねじ継手10の気密性を向上する。
【0034】
図5は、雌ねじ部310の拡大図である。図5を参照して、雌ねじ31は、台形状のバットレスねじである。雌ねじ31は、ねじ山(Thread Crest)面31Aと、一対のフランク面31B及び31Cとを含む。一対のフランク面31B及び31Cは、スタブフランク(Stab flank)面31Bと、ロードフランク(Lord Flank)面31Cとを含む。隣り合う2つの雌ねじ31の間には、ねじ底(Thread Root)面31Dが配置される。
【0035】
図5において、ねじ山面31Aはスタブフランク面31Bの下端とロードフランク面31Cの下端との間に配置される。スタブフランク面31Bの上端及びロードフランク面31Cの上端は、それぞれ異なるねじ底面31Dに接続される。各フランク面31B及び31Cと、ねじ山面31Aとの接続部分は丸みを帯びている。また、各フランク面31B及び31Cとねじ底面31Dとの接続部分は滑らかに湾曲している。
ねじ山面31Aは、中心軸C1方向に延びる平坦部を有する。ロードフランク面31Cは、スタブフランク面31Bよりも、ボックス3の先端34側に配置される。スタブフランク面31Bと、中心軸C1と垂直に配置される仮想平面P1とがなす角度A1は−5°〜+45°である。一方、ロードフランク面31Cと、仮想平面P1とがなす角度A2は−1°〜−15°である。ピン2がボックス3に挿入されたとき、ピン2の雄ねじはロードフランク面31Cと面接触する。ねじ底面31Dは、中心軸C1方向に延び、実質的に平坦である。
【0036】
[ピン2の構成]
図6は、図1中のピン2の先端23近傍部分の拡大断面図である。図6を参照して、ピン2の外面20は、ピン2の後端24から先端23に向かって順に、雄ねじ部210、リセス部220、外面メタルシール部230及びショルダ部240を含む。雄ねじ部210は環状である。雄ねじ部210には複数の雄ねじ21が形成されている。ショルダ部240は、環状であり、先端23の端面に相当する。ショルダ部240は、締結時に、対応するショルダ部340と面接触し、気密性を向上する。ショルダ部240はほぼ平坦である。リセス部220は環状であり、締結時に、対応するリセス部320と離れて配置され、隙間27を形成する。外面メタルシール部230は環状であり、ショルダ部240とリセス部220との間に配置される。外面メタルシール部230はなめらかな表面を有する。外面メタルシール部230は、締結時、対応する内面メタルシール部330と密着し、インテグラルねじ継手10の気密性を向上する。
【0037】
図7は、図6中の雄ねじ21の拡大図である。雄ねじ21は、台形状のバットレスねじであり、雌ねじ31と対応する。雄ねじ21は、ねじ山面21Aと、一対のフランク面(スタブフランク面21B及びロードフランク面21C)とを含む。隣り合う2つの雄ねじ21の間には、ねじ底面21Dが配置される。ピン2がボックス3に挿入されるとき、図3に示すとおり、隣り合う雌ねじ31の間に、雄ねじ21が挿入される。これにより、ピン2がボックス3に締結される。
【0038】
スタブフランク面21Bの上端とロードフランク面21Cの上端との間には、ねじ山面21Aが配置される。スタブフランク面21Bの下端及びロードフランク面21Cの下端は、それぞれ異なるねじ底面21Dに接続される。各フランク面21B及び21Cと、ねじ山面との接続部分は丸みを帯びている。また、各フランク面21B及び21Cとねじ底面との接続部分は滑らかに湾曲している。
【0039】
ねじ山面21Aは中心軸C1方向に延びる。スタブフランク面21Bは、ロードフランク面21Cよりも先端23側に配置される。スタブフランク21Bと仮想平面P1とがなす角度A1は−5°〜+45°であり、ロードフランク21Cと仮想平面P1とがなす角度A2は−1°〜−15°である。締結時、ロードフランク面21Cは、対応するロードフランク面31Cと面接触し、インテグラルねじ継手10の気密性を向上する。ねじ底面21Dは、中心軸C1方向に延び、実質的に平坦である。
【0040】
[めっき層]
図6及び図7に示すとおり、ピン2はさらに、めっき層50を含む。めっき層50は金属からなり、たとえば、銅(Cu)や、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)及びこれらの元素を含有する合金等である。めっき層50は、外面20上に形成され、より具体的には、ねじ部210、リセス部220及び外面メタルシール部230上に形成される。本実施の形態では、ボックス3はめっき層50を含まない。要するに、めっき層50は外面20に形成され、内面32に形成されない。
【0041】
めっき層50は筆めっき法により形成される。そのため、従来のめっき浴を用いためっき法と比較して、ピン2の外面20上にめっき層50が容易に形成される。これにより、インテグラルねじ継手10は、サンドブラスト処理による従来の表面処理に比べて優れた耐焼付き性を有する。
【0042】
[めっき層50の形成方法]
めっき層50は、図8に示す筆めっき装置100により形成される。図8を参照して、筆めっき装置100は、筆具110と、電源装置120と、供給装置130と、複数の位置決めローラ140とを備える。
【0043】
筆具110は、電極材111と、絶縁体112と、柄113とを含む。電極材111は板状であり、カーボンからなる。絶縁体112は電極材111の下面及び側面を覆う。絶縁体112は、電解液に溶けず、浸透性を有する。絶縁体112はたとえば、脱脂綿やフェルトである。柄113は棒状であり、電極材111の上面に立てて配置される。柄113は絶縁材料で構成される。柄113はさらに、柄113の上端と下端との間を貫通する貫通孔114を有する。貫通孔114には、リード線121が挿入される。リード線121の先端は、電極材111と接続され、リード線121の後端は、電源装置120に接続される。
【0044】
電極材111はさらに、上面と下面との間を貫通する貫通孔115を有する。貫通孔115は、供給装置130から供給される電解液が供給される。めっき処理時、電極材111は、絶縁体112を介して油井管1に電解液を供給する。
【0045】
複数の位置決めローラ140は、2列に並んで配置される。各列の複数の位置決めローラは同軸上に配列される。各列は油井管1の中心軸C1と並行し、2つの列の間に油井管1が配置される。位置決めローラ140が回転すると、油井管1が中心軸C1周りを回転する。そのため、ピン2の全周にめっき処理を行うことができる。
【0046】
位置決めローラ140のうち、導電性を有する位置決めローラ140Aには、端子122が接続されている。端子122は、リード線123を介して電源装置120と接続される。めっき処理時、筆具110と、油井管1と、電源装置120とは、電解回路を形成する。
【0047】
供給装置130は、めっき浴131と、ポンプ132とを備える。めっき浴131は、電解液が貯められた槽である。めっき浴131はさらに、ピン2の下方に配置され、めっき処理時にピン2から滴る電解液を溜める。ポンプ132は、めっき浴131内に貯められた電解液を貫通孔115に供給する。電解液は、供給管133及び134を通って貫通孔115に供給され、絶縁体112を通過してピン2の外面20に供給される。
【0048】
[筆めっき処理方法]
上述の筆めっき装置100を用いた筆めっき処理について説明する。初めに、油井管1を2列に並んだ位置決めローラ140上に配置する。このとき、ピン2は、めっき浴131の上方に配置される。
【0049】
次に、外面20に付着する油脂等を除去する。具体的には、油脂等を溶剤により除去したり、電解脱脂処理により除去したりする。
【0050】
次に、筆具110を用いてめっき処理を行う。電源装置120は、筆具110を陽極に接続し、油井管1を陰極に接続する。このとき、リード線121が電源装置120の陽極に接続され、リード線123が電源装置の陰極に接続される。ポンプ132により電極材111に電解液を供給しながら、絶縁体112を外面20に接触し、筆具110をすり動かす。このとき、外面20上にめっき層50が形成される。
【0051】
このように、めっき層50を形成するために筆めっき装置100を使用すれば、めっき浴131にピン2を浸漬してめっき処理する必要はない。そのため、めっき層50が形成された油井管1を容易に製造することができる。
【0052】
[めっき層の厚さと雄ねじ及び雌ねじの高さとの関係]
筆めっき法により形成されためっき層50は、不均一な厚さを有する。図7を参照して、めっき層50のうち、ねじ山面21A上に形成されるめっき部50Aは、ねじ底面21D上に形成されるめっき部50Dよりも厚い。また、各フランク面21B及び21C上に形成されるめっき部50B及び50Cは、めっき部50Aよりも薄い。各めっき部50A〜50D内における厚さはほぼ一定である。
【0053】
さらに、図6に示すピン2の先端部の外面メタルシール部230上に形成されるめっき部50Eは、めっき部50Dよりも厚いものの、めっき部50Aより薄い。
【0054】
このように、筆めっき法により形成されためっき層50の厚さが場所によって異なる理由は定かではない。しかしながら、以下の理由が推定される。ねじ山面21Aは、上述のめっき処理時において、筆具110と接触しやすい。一方、ねじ底面21Dは、筆具110と接触しにくい。そのため、めっき部50Aがめっき部50Dよりも厚くなると推定される。さらに、外面メタルシール部230はなめらかな表面であり、凹凸が形成されていない。そのため、外面メタルシール部230は、ねじ底面21Dよりも筆具110と接触しやすい。したがって、めっき部50Eはめっき部50Dよりも厚い。
【0055】
このような、異なる厚さを有するめっき層50に対応するために、インテグラルねじ継手10では、雌ねじ31は雄ねじ21以上の高さを有する。これにより、締結時に過剰な負荷(トルク)をかけるのを抑制しつつ、耐焼き付き性を向上する。以下、この点について詳述する。
【0056】
インテグラルねじ継手の中には、たとえば、特開2006−118720号公報に記載されているように、雄ねじが雌ねじよりも高いものもある。図9に示すように、ピン200の雄ねじ201が、ボックス300の雌ねじ301よりも高い場合、雄ねじ201のねじ山面201Aが雌ねじ301のねじ底面301Dに接触する。そして、雌ねじ301のねじ山面301Aと雄ねじ201のねじ底面201Dとの間に隙間302が形成される。
【0057】
ピン200の外面に、筆めっき法によりめっき層50を形成する。このとき、図10に示すとおり、ねじ山面201Aには、めっき部50Aが形成される。そのため、ピン200とボックス300とを締結するとき、ねじ山面201Aとねじ底面201Dとは、図9と比較して、めっき部50Aの厚み分だけ離れる。ピン200とボックス300との間の距離が離れれば、それだけ締め付け時に必要なトルクが増大する。したがって、トルクの増大を抑えるためには、めっき部50Aが過剰に厚くならないようめっき処理する必要がある。
【0058】
しかしながら、めっき部50Aを薄くすれば、ピン200の外面メタルシール部上に形成されるめっき部50Eも当然に薄くなる。外面メタルシール部は、ボックス300の内面メタルシール部と面接触するため、特に焼付きが発生しやすい。そのため、めっき部50Dを薄くするのは好ましくない。
【0059】
つまり、雄ねじが雌ねじよりも高い場合、締結時に必要なトルクを過剰に増大することなく、優れた耐焼き付き性を得るのは難しい。
【0060】
そこで、本実施の形態によるインテグラル型ねじ継手10では、雌ねじ31が雄ねじ21よりも高い。換言すれば、ねじ山面31Aとねじ底面31Dとの間の距離は、ねじ山面21Aとねじ底面21Dとの間の距離よりも大きい。この場合、図9の場合と比較して、外面メタルシール部230上のめっき部50Eを厚く形成でき、かつ、締結時に必要なトルクも抑制できる。
【0061】
図11は、めっき層50が形成されていないピン2と、ボックス3とを含むインテグラルねじ継手の断面図である。図11を参照して、雌ねじ31が雄ねじ21よりも高いため、ねじ山31Aとねじ底面21Dとが接触する。一方、ねじ山面21Aとねじ底面31Dとが離れて配置され、所定の隙間350が形成される。つまり、ピン2とボックス3とは、図9の場合と異なる箇所で接触する。
【0062】
ボックス3とこのような関係を有するピン2の外面20に筆めっき法によりめっき層50を形成する。この場合、図12に示すように、めっき部50Dがねじ山31Aと接触する。さらに、めっき部50Aはねじ底面31Dと接触せず、ねじ底面31から離れて配置される。めっき部50Aとねじ底面31Dとの間に形成される隙間351は、図11に示す隙間350と比較して、めっき部50Aとめっき部50Dとの差分だけ狭い幅となる。さらに、外面メタルシール部230にはめっき部50Eが形成される。
【0063】
つまり、インテグラルねじ継手10では、締結時のピン2の外面20とボックス3の内面32との間の距離は、めっき部50Dの厚さに依存し、めっき部50Aの厚さに依存しない。インテグラルねじ継手10では、めっき部50Aは隙間350内に形成され、ボックス30の内面32と接触しにくいためである。上述のとおり、めっき部50Dはめっき部50Aよりも薄い。したがって、仮に、図9に示すピン200とボックス300との間の距離と、図11に示すピン2とボックス3との間の距離が同じとなるように、めっき層50を形成した場合、図11のピン2の外面メタルシール部230に形成されるめっき部50Eの方が、図9に示すピン200の外面メタルシール部に形成されるめっき部50Eよりも厚くなる。
したがって、インテグラルねじ継手10は、図9及び図10に示すインテグラルねじ継手と比較して、めっき部50Eを厚く形成しても締結時のトルクが増大しにくい。その結果、インテグラルねじ継手10は、締結時のトルクが増大するのを抑制しつつ、耐焼付き性を向上できる。
【0064】
[外面20及び内面32の表面処理について]
上述のとおり、従来のインテグラル継手では通常、ピンの外面及びボックスの内面は、サンドブラスト処理が実施される。サンドブラスト処理により、ピンの外面及びボックスの内面の表面粗さが大きくなり、潤滑剤が保持されやすくなるためである。
【0065】
しかしながら、インテグラルねじ継手10においては、ボックス3の内面32は、切削まま(As-Machine)であるのが好ましい。つまり、切削加工により雌ねじ31を含む内面32を形成した後、サンドブラスト処理等の他の表面処理を施さない方が好ましい。
【0066】
ピン2の外面にめっき層50を形成し、かつ、ボックス3の内面32を切削ままとすれば、インテグラルねじ継手の耐焼付き性はさらに向上する。その理由は定かではないが、以下の理由が考えられる。ボックス3の内面32がサンドブラスト処理された場合、内面32は粗く、微小な凹凸が多数形成される。そのため、ボックス3にピン2が挿入され、締め付けられると、内面32の微小な凹凸がめっき層50と接触する。このとき、内面32の微小な凹凸は、めっき層50に局所的な応力集中を与え、めっき層50の一部を削ったり、内面32から剥がしたりする。
【0067】
一方、内面32が切削ままであれば、内面32は微小な凹凸はほとんどなく、なめらかな表面である。このような内面32にめっき層50が接触した場合、めっき層50は上述のような局所的な応力集中を内面32から受けにくい。そのため、めっき層50が削られにくく、剥がれにくい。その結果、優れた耐焼付き性が得られるものと推定される。
【0068】
さらに好ましくは、めっき層50は、サンドブラスト処理された外面20上に形成される。この場合、外面20は微小な凹凸を有するため、切削ままの場合と比較して、外面20の表面積は大きい。そのため、めっき層50の外面20に対する密着性は向上する。その結果、めっき層50は剥がれにくく、優れた耐焼付き性が得られる。
【0069】
以上、本発明のインテグラルねじ継手は、上述の実施の形態に限られない。上述の実施の形態では、雌ねじ31は雄ねじ21よりも高いとしたが、雌ねじ31は雄ねじ21と同じ高さであってもよい。この場合、締結時のトルクは増大するものの、優れた耐焼付き性が得られる。
【0070】
上述の実施の形態では、ピン2の外面20は、先端部に外面メタルシール部230を有した。しかしながら、外面20は、複数の外面メタルシール部を有してもよい。たとえば、外面20の先端部と後端部とに、環状の外面メタルシール部が形成されてもよい。また、外面20の先端部、中央部、後端部のそれぞれに外面メタルシール部が形成されてもよい。この場合、各外面メタルシール部の間に、雄ねじ部210が配置される。
【0071】
上述の実施の形態では、ピン2の外面20上にめっき層50が形成された。しかしながら、ピン2の外面20の代わりに、ボックス3の内面32上にめっき層50が形成されてもよい。この場合であっても、内面32上に形成されためっき層50により、耐焼付き性が向上する。
【実施例】
【0072】
インテグラルねじ継手を有する一対の油井管を複数準備し、耐焼付き性を調査した。
【0073】
[供試材(Specimens)について]
【表1】

【0074】
表1を参照して、各試験番号の油井管はいずれも7.625インチの外径と、0.375インチの肉厚を有した。油井管の材質はいずれも、API規格で規定されるL80−13Crに相当する材質であった。
【0075】
試験番号1及び3のインテグラルねじ継手では、ピンの外面及びボックスの内面にサンドブラスト処理を実施した。試験番号2のインテグラルねじ継手では、ピンの外面は切削ままであり、ボックスの内面にサンドブラスト処理を実行した。試験番号4及び5のインテグラルねじ継手では、ピンの外面及びボックスの内面ともに、切削ままとした。
【0076】
ピン及びボックスは、図1〜図7に示す構成とした。各試験番号の雄ねじ及び雌ねじの形状は次のとおりであった。雄ねじ21の高さは1.047mmであり、雌ねじ31の高さは1.047mmであった。
また、雄ねじ21及び雌ねじ31の角度A1(図5及び図7参照)は+25度であり、角度A2は−10度であった。雄ねじ21のねじ山面21Aの幅W21Aは1.564mmであり、ねじ底面21Dの幅W21Dは2.065mmであった。雌ねじ31のねじ山面31Aの幅W31Aは1.564mmであり、ねじ底面31Dの幅31Dは2.065mmであった。
【0077】
試験番号4及び5ではさらに、筆めっき法により、ピンの外面にめっき層50を形成した。試験番号4及び5のめっき層50の厚さは、表2のとおりであった。
【表2】

【0078】
表2中のめっき部50Aは、ねじ山面21A上に形成されためっき部を示す。同じく、めっき部50Dは、ねじ底面21Dに形成されためっき部を示し、めっき部50Eは、外面メタルシール部230上に形成されためっき部を示す。
表2は以下の方法で求めた。各試験番号4及び5において、任意の10個の雄ねじ21を選択した。選択された各雄ねじ21において、めっき部50A及び50Dの厚さを周方向に90度ピッチで4箇所測定した。測定には電磁膜厚計を用いた。測定された値の平均値を、めっき部50A及び50Dの厚さと定義した。
【0079】
一方、めっき部50Eの厚さは以下の方法により求めた。外面メタルシール部230上に形成されためっき部50Eの任意の10地点を選択した。各地点を含む各横断面において、周方向に90度ピッチで4箇所の厚さを測定した。測定された厚さの平均値を、めっき部50Eの厚さと定義した。
【0080】
表2に示すとおり、めっき部50Aは、めっき部50Dよりも厚かった。また、めっき層50Eは、めっき部50Dよりも厚かった。
【0081】
[試験方法]
上述の試験番号1〜5の供試材を用いて、ISO13679に準拠したメイクブレイク試験を実施した。初めに、各供試材のピンの外面及びボックスの内面に潤滑剤(ドープ)を塗布した。潤滑剤には、重金属を含まない、いわゆるグリーンドープを使用した。具体的には、潤滑剤には、Jet Lube社製の商品名SEAL GUARD ECFを使用した。潤滑剤の使用量は、ISO13679で規定される範囲の下限値とした。
【0082】
続いて、ピンをボックスに挿入し、所定の締付けトルク及び回転数でピンを軸周りに回し、締め付けた。このとき、締付けトルク値はISO13679で規定される範囲の上限値とした。また、回転数は3rpmとした。
【0083】
上記の条件に基づいて、ピンとボックスの締付け(メイクアップ)及び締め戻し(ブレイクアウト)を繰り返した。そして、ピンの外面に焼付きが発生したときの、メイクアップ及びブレイクアウトの繰り返し回数を調査した。焼付き発生の有無は、目視により観察した。
【0084】
[調査結果]
調査結果を表1に示す。表1を参照して、試験番号1〜3のインテグラルねじ継手では、メイクアップ及びブレイクアウトを1回行った後、ピンの外面及びボックスの内面に焼付きが観察された。一方、試験番号4及び5のインテグラルねじ継手では、繰り返し回数が3回を超えた。具体的には、試験番号4のインテグラルねじ継手では、繰り返し回数が7回であった。つまり、メイクアップ及びブレイクアウトを6回繰り返しても、焼付きが発生しなかった。また、試験番号5のインテグラルねじ継手では、繰り返し回数が8回であった。試験番号4及び5のインテグラルねじ継手では、ピンの外面にめっき層が形成され、かつ、ボックスの外面が切削ままであったため、優れた耐焼付き性を示したと推定される。
【0085】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 油井管
2 ピン
3 ボックス
4 本体
10 ねじ継手
20 外面
21A,31A ねじ山面
21B,21C,31B,31C フランク面
21D ねじ底面
22 内面
30 外面
50 めっき層
100 筆めっき装置
110 筆具
111 電極材
112 絶縁体
113 柄
230 外面メタルシール部
330 内面メタルシール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油井管用のねじ継手であって、
第1油井管の端部に形成されるボックスと、
第2油井管の端部に形成され、前記ボックスに挿入されるピンとを備え、
前記ボックスは内面を有し、
前記内面は、
複数の雌ねじが形成される雌ねじ部と、
内面メタルシール部とを含み、
前記ピンは外面を有し、
前記外面は、
複数の雄ねじが形成される雄ねじ部と、
前記内面メタルシール部に対応する外面メタルシール部とを含み、
前記ピン及びボックスの少なくとも一方は、筆めっき法により前記外面上又は前記内面上に形成されるめっき層を含む、ねじ継手。
【請求項2】
請求項1に記載のねじ継手であって、
前記雌ねじ及び雄ねじの各々は、
ねじ底面と、
一対のフランク面と、
前記一対のフランク面の間に配置されるねじ山面とを含み、
前記雌ねじは前記雄ねじよりも高く、
前記めっき層は、前記外面上に形成され、かつ、
前記雄ねじのねじ山面上に形成される第1めっき部と、
前記外面メタルシール部上に形成される第2めっき部と、
前記雄ねじのねじ底面上に形成され、前記第1及び第2めっき部よりも薄い、第3めっき部とを含む、ねじ継手。
【請求項3】
請求項2に記載のねじ継手であって、
前記外面及び内面は切削により形成され、
前記内面はさらに、切削ままである、ねじ継手。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のねじ継手であって、
前記めっき層は、サンドブラスト処理された前記外面上に形成される、ねじ継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−106627(P2011−106627A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264326(P2009−264326)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】