説明

油回転真空ポンプ

【課題】自己潤滑性の高い固体潤滑材を用いることなく軸受部の潤滑性を確保する。
【解決手段】油回転真空ポンプは、本体と、シリンダブロック31,32と、回転体R1,R2と、駆動部と、滑り軸受71とを有する。本体は、ポンプ油を貯留するタンク部を有する。シリンダブロック31,32は、ポンプ室P1,P2と、タンク部とポンプ室P1,P2との間でポンプ油を連通させるための潤滑ラインL1〜L4とを有する。回転体R1,R2は、ポンプ室P1,P2に回転可能に配置され、ポンプ室P1,P2の内面を摺動する摺動部を有する。駆動部は、本体に取り付けられ、回転体R1,R2を回転させる回転軸21を有する。滑り軸受71は、シリンダブロック32に設けられ、回転軸21を回転可能に支持する。滑り軸受71は、潤滑ラインL1〜L4に連通する通路70を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油回転真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
油回転真空ポンプは、ポンプ室内で回転体を回転させながら、気体を吸入し、圧縮し、排出することによって所期のポンプ機能を実現する。このとき真空ポンプ油は、ポンプ室の内面上を摺動する回転体の潤滑と、回転体を回転させる回転軸を支持する軸受部の潤滑等に用いられる。例えば下記特許文献1には、直列に接続された2つの回転体を有する2段式油回転真空ポンプが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−77184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転軸の軸受部には、典型的には、滑り軸受構造が採用される。この場合、軸受部と回転軸との隙間が非常に狭いため、軸受部を被覆する油膜が途切れることで潤滑不良を生じさせるおそれがある。一方、滑り軸受構造を構成する軸受材に、鉛等を含む固体潤滑材を用いることも可能ではあるが、鉛を多く含む材料を使用することは、環境負荷低減の観点から好ましくない。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、自己潤滑性の高い固体潤滑材を用いることなく軸受部の潤滑性を確保することができる油回転真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る油回転真空ポンプは、本体と、シリンダブロックと、回転体と、駆動部と、滑り軸受とを有する。
上記本体は、ポンプ油を貯留するタンク部を有する。
上記シリンダブロックは、ポンプ室と、上記タンク部と上記ポンプ室との間で上記ポンプ油を連通させるための第1の通路とを有する。上記シリンダブロックは、上記本体に取り付けられる。
上記回転体は、上記ポンプ室に回転可能に配置され、上記ポンプ室の内面を摺動する摺動部を有する。
上記駆動部は、上記本体に取り付けられ、上記回転体を回転させる回転軸を有する。
上記滑り軸受は、上記第1の通路に連通する第2の通路を有する。上記滑り軸受は、上記シリンダブロックに設けられ、上記回転軸を回転可能に支持する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態に係る油回転真空ポンプの構成を示す部分破断側面図である。
【図2】上記油回転真空ポンプの要部拡大図である。
【図3】図2における[A]−[A]線方向矢視図である。
【図4】上記油回転真空ポンプの軸受構造を説明する図であり、(A)は側断面図、(B)は滑り軸受の正面断面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る油回転真空ポンプの軸受構造を説明する図であり、(A)は側断面図、(B)は滑り軸受の正面断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る油回転真空ポンプの軸受構造を説明する図であり、(A)は側断面図、(B)は滑り軸受の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施形態に係る油回転真空ポンプは、本体と、シリンダブロックと、回転体と、駆動部と、滑り軸受とを有する。
上記本体は、ポンプ油を貯留するタンク部を有する。
上記シリンダブロックは、ポンプ室と、上記タンク部と上記ポンプ室との間で上記ポンプ油を連通させるための第1の通路とを有する。上記シリンダブロックは、上記本体に取り付けられる。
上記回転体は、上記ポンプ室に回転可能に配置され、上記ポンプ室の内面を摺動する摺動部を有する。
上記駆動部は、上記本体に取り付けられ、上記回転体を回転させる回転軸を有する。
上記滑り軸受は、上記第1の通路に連通する第2の通路を有する。上記滑り軸受は、上記シリンダブロックに設けられ、上記回転軸を回転可能に支持する。
【0009】
上記油回転真空ポンプにおいて、回転体は、回転軸を介して伝達される駆動部の回転駆動力を受けてポンプ室内で回転し、ポンプ室の内面上における摺動部の移動によって気体を吸入し、圧縮し、排出する。ポンプ油は、シリンダブロックに形成された第1の通路を介してタンク部からポンプ室へ導入され、ポンプ室において摺動部を潤滑する。
【0010】
また上記油回転真空ポンプにおいて、回転体を回転させる回転軸は、シリンダブロックに設けられた滑り軸受によって回転可能に支持される。上記滑り軸受には、第1の通路に連通する第2の通路を介してポンプ油が供給される。これにより滑り軸受の潤滑性が高まり、真空ポンプの安定した動作が確保される。また、鉛を多く含む固体潤滑材の使用を廃止することができる。
【0011】
上記油回転真空ポンプの型式は特に限定されず、典型的にはゲーテ型であるが、これ以外にもカム型、揺動ピストン型等の型式も適用可能である。ゲーテ型の場合、上記回転体は、ロータと複数のベーンとを含む回転翼に対応する。
【0012】
上記滑り軸受は、筒状のブッシュ部材で構成することができる。上記ブッシュ部材は、上記回転軸の周面に対向する内周面と、上記シリンダブロックに支持される外周面とを有し、上記回転軸の軸方向に沿って第1の幅で形成される。この場合、上記第2の通路は、上記内周面と上記外周面との間を貫通する貫通孔で構成される。
これにより軸受部の構成を簡素化できるとともに、回転軸の周囲に潤滑油(ポンプ油)を安定に供給することができる。
【0013】
上記第2の通路の形成位置は、例えば、上記回転軸よりも重力方向に関して上方側に形成される。これにより、重力の作用が加わることでポンプ油を軸受部へ円滑に供給することができる。
【0014】
上記滑り軸受は、上記内周面に上記第1の幅より小さい第2の幅で形成された凹部を有してもよい。上記凹部の形成により、滑り軸受と回転軸との間にポンプ油の液溜めが形成され、これにより安定した潤滑作用を得ることができる。
【0015】
上記凹部は、上記第2の通路の形成領域と対向する上記内周面上に形成されてもよい。この場合、上記凹部は回転軸よりも重力方向に関して下方側に位置するため、軸受部の安定した潤滑作用を確保することができる。
【0016】
上記ポンプ室は、上記回転軸の軸方向に沿って配列され上記回転体が各々配置される第1のポンプ室と第2のポンプ室とを有してもよい。この場合、上記滑り軸受は、上記第1のポンプ室と上記第2のポンプ室との間に設けられる。
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る油回転真空ポンプを示す部分破断側面図である。本実施形態では、2段式の油回転真空ポンプを例に挙げて説明する。
【0019】
本実施形態の油回転真空ポンプ1は、本体10と、駆動部20と、ポンプ機構30とを有する。図1においてX軸方向及びY軸方向は水平方向を示し、Z軸方向は鉛直方向(重力方向)を示す。
【0020】
本体10は、第1のケーシング101と、第2のケーシング102とを有する。第1のケーシング101は、本体10の主要部を構成し、駆動部20とポンプ機構30とが各々組み付けられる。第2のケーシング102は、第1のケーシング101の一端(図1において右端)に取り付けられ、内部にポンプ油(真空ポンプ油)を貯留するタンク部13を形成する。第2のケーシング102の所定位置には、タンク部13内のポンプ油の液面Psを確認するためのレベルゲージ103が取り付けられている。
【0021】
本体10は、吸気管接続部11と、排気管接続部12とを有する。吸気管接続部11は、第1のケーシング101に取り付けられ、図示しない吸気管を介して真空チャンバ等に接続される。第1のケーシング101には、吸気管接続部11とポンプ機構30との間を連絡する吸気通路111が形成されている。排気管接続部12は、第2のケーシング102に取り付けられ、ポンプ機構30によって吸気管接続部11を介して吸入された気体を装置外部へ排出する。排気管接続部12には、図示しない排気管等が接続される。
【0022】
駆動部20は、ポンプ機構30を駆動するモータと、当該モータを収容するモータケース等で構成されており、本体10(第1のケーシング101)に取り付けられる。駆動部20は、Y軸方向に延在する回転軸21を有し、回転軸21をその軸回りに回転させる。回転軸21は、上記モータの駆動軸に連結された軸部材であってもよい。この場合、上記軸部材は、上記駆動軸に直結されてもよいし、ベルトやギヤ等の回転伝達機構を介して駆動軸に接続されてもよい。
【0023】
ポンプ機構30は、2段(two-stage)式のゲーテ型ポンプユニットで構成される。図2は、ポンプ機構30の詳細を示す拡大図である。ポンプ機構30は、第1のシリンダブロック31と、第2のシリンダブロック32と、サイドカバー33とを有する。
【0024】
第1のシリンダブロック31は、第1のケーシング101を構成する隔壁112に固定される。第2のシリンダブロック32は、第1のシリンダブロック31に固定され、回転軸21を支持する滑り軸受71が挿通される挿通孔322を有する。挿通孔322は、第2のシリンダブロック32の基部321に形成されており、基部321は、第1のシリンダブロック31の内部に第1のポンプ室P1を形成する。
【0025】
サイドカバー33は、第2のシリンダブロック32に固定され、これにより第2のシリンダブロック32の内部に第2のポンプ室P2が形成される。第1のシリンダブロック31、第2のシリンダブロック32及びサイドカバー33は、例えばY軸方向に軸方向を有する複数本のネジ部材Bを介して隔壁112に固定される。
【0026】
図3は、図2における[A]−[A]線方向断面図である。第1のポンプ室P1は、回転軸21に対して偏芯した円筒形状に形成されている。第1のポンプ室P1の周面には、吸気通路111と連通する第1の吸気ポートT1と、第1のシリンダブロック31を径方向に貫通する第1の排気ポートE1とがそれぞれ形成されている。第1の排気ポートE1は複数形成されているが、単数でもよい。また第1のシリンダブロック31の周面には、各排気ポートE1を覆う排気弁V1がそれぞれ配置されている。排気弁V1はリード弁方式の逆止弁であり、第1の排気ポートE1内の圧力が所定値を超えたときに開弁し、気体を排出する。
【0027】
第1のポンプ室P1には、第1の回転体R1が回転可能に収容されている。第1の回転体R1は、回転軸21に連結された第1のロータ41と、第1のロータ41の周囲に径方向へ摺動可能に取り付けられた一対の第1のベーン51とを有する。第1のロータ41は、第1のポンプ室P1とほぼ同等の高さを有する円柱形状に形成されており、その軸心部には回転軸21が固定されている。第1のベーン51各々は、第1のロータ41の周囲に180度間隔で放射状に形成された一対の溝内にそれぞれ配置されており、これらベーン51の間には、第1のロータ41及び回転軸21を径方向に貫通する複数のバネ61が予め圧縮された状態で取り付けられている。
【0028】
第1のベーン51各々は、第1のロータ41の回転による遠心力及びバネ61の弾性力を受けて第1のロータ41の径外方に付勢され、各ベーン51の先端部が第1のポンプ室P1の内壁面上に押し付けられる。そして、各ベーン51の先端部は第1のポンプ室P1の内壁面を摺動する摺動部として機能し、第1の吸気ポートT1から第1の排気ポートE1へ気体を搬送する。このとき、第1のロータ41は第1のポンプ室P1に対して偏芯して配置されているため、第1のロータ41の回転位置において第1のベーン51の突出量が変化し、したがって気体の搬送空間の容積も変化する。第1の排気ポートE1は上記搬送空間の容積が最も小さい領域に形成されているため、気体は圧縮されながら第1の排気ポートE1へ導かれることになる。
【0029】
第2のポンプ室P2は、第1のポンプ室P1と同様に、回転軸21に対して偏芯した円筒形状に形成されているが、第2のポンプ室P2の容積は、第1のポンプ室P1の容積以下の大きさで形成されている。第2のポンプ室P2の周面には、第2の吸気ポートT2と第2の排気ポートE2とがそれぞれ形成されている。第2の吸気ポートT2は、第1及び第2のシリンダブロック31,32に跨って形成された連絡通路121を介して第1の排気ポートE1に連通している。第2の排気通路E2は、第2のシリンダブロック32を径方向に貫通する。第2の排気通路E2は単数でもよいし複数でもよい。また、第2のシリンダブロック32の周面には、第2の排気ポートE2を覆う排気弁V2がそれぞれ配置されている。排気弁V2はリード弁方式の逆止弁であり、第2の排気ポートE2内の圧力が所定値を超えたときに開弁し、気体を排出する。
【0030】
第2のポンプ室P2には、第2の回転体R2が回転可能に収容されている。第2の回転体R2は、回転軸21に連結された第2のロータ42と、第2のロータ42の周囲に径方向へ摺動自在に取り付けられた一対の第2のベーン52とを有する。第2のロータ42は、第2のポンプ室P2とほぼ同等の高さを有する円柱形状に形成されており、その軸心部には回転軸21が固定されている。第2のベーン52各々は、第2のロータ42の周囲に180度間隔で放射状に形成された一対の溝内にそれぞれ配置されており、これらベーン52の間には、第2のロータ42及び回転軸21を径方向に貫通するバネ62が予め圧縮された状態で取り付けられている。そして第2の回転体R2もまた、第2のロータ42を回転させることで第2のベーン52各々を第2のポンプ室P2の内壁面上を摺動する摺動部として機能し、第2の吸気ポートT2から第2の排気ポートE2へ気体を搬送する。
【0031】
ポンプ機構30は、ポンプ部13に貯留されたポンプ油によって潤滑される。ポンプ機構30には、ポンプ油を第1のポンプ室P1及び第2のポンプ室P2へそれぞれ供給するための潤滑ライン(第1の通路)が設けられている。上記潤滑ラインは、タンク部13とポンプ室P1,P2との間でポンプ油を連通させる。
【0032】
上記潤滑ラインは、第1の貫通孔L1と、第2の貫通孔L2と、第3の貫通孔L3と、第4の貫通孔L4とを有する。以下の説明では、個別に説明する場合を除き、第1〜第4の貫通孔L1〜L4を総称して潤滑ラインLとも称する。
【0033】
第1の貫通孔L1は、サイドカバー33をY軸方向に貫通するように、回転軸21の軸心から所定距離だけオフセットした位置に形成されている。また第2の貫通孔L2は、第2のロータ42をY軸方向に貫通し、第2のロータ42の任意の回転位置で第1の貫通孔L1と整列することが可能なように、回転軸21の軸心から上記所定距離だけオフセットした位置に形成される。
【0034】
第3の貫通孔L3は、第2のシリンダブロック32をY軸方向に貫通し、第2のロータ42の任意の回転位置で第2の貫通孔L2と整列することが可能なように、回転軸21の軸心から上記所定距離だけオフセットした位置に形成される。第3の貫通孔L3の形成位置は特に限定されないが、本実施形態では、回転軸21よりも重力方向に関して上方側に形成される。
【0035】
そして第4の貫通孔L4は、第1のロータ41をY軸方向に貫通し、第1のロータ41の任意の回転位置で第3の貫通孔L3と整列することが可能なように、回転軸21の軸心から上記所定距離だけオフセットした位置に形成される。
【0036】
ロータ41,42の回転により各ポンプ室P1,P2には負圧が形成され、タンク部13とポンプ室P1,P2との間に圧力差が生じる。これによりタンク部13に貯留されたポンプ油は、潤滑ラインLを介して、第1及び第2のポンプ室P1,P2へ供給されることになる。
【0037】
また、第1のポンプ室P1と駆動部20との間において、回転軸21の周囲にはオイルシールが装着されている。これにより第1のポンプ室P1から駆動部20へのポンプ油の浸入が防止される。
【0038】
一方、本実施形態の油回転真空ポンプ1は、回転軸21を回転可能に支持する滑り軸受71を有する。本実施形態では、滑り軸受71は、筒状のブッシュ部材で形成されている。滑り軸受71は、第1のポンプ室P1と第2のポンプ室P2との間に配置されており、各ポンプ室P1,P2を区画する第2のシリンダブロック32の基部321に設けられている。
【0039】
図4(A)、(B)は、滑り軸受71の詳細を説明する図であり、(A)はポンプ機構30の要部の側断面図、(B)は滑り軸受71の正面断面図である。
【0040】
滑り軸受71は、例えば真鍮等の非固体潤滑材で形成され、回転軸21の軸方向(Y軸方向)に沿って、基部321の厚みと同等の大きさの幅あるいは長さを有する。また滑り軸受71は、回転軸21の周面に対向する内周面701と、第2のシリンダブロック32の基部321に形成された挿通孔322の内周面に支持される外周面702とを有する。回転軸21の周面と滑り軸受71の内周面701との間には、例えば0.01〜0.04mmの隙間が形成され、この隙間にポンプ油が満たされることで、回転軸21の周面に油膜が形成される。
【0041】
滑り軸受71は、第3の貫通孔L3と連通する通路70(第2の通路)を有する。通路70は、滑り軸受71の内周面701と外周面702との間を貫通する貫通孔で構成され、滑り軸受71の径方向に形成される。通路70の孔径は例えば1mmφであるが、勿論これに限定されない。
【0042】
本実施形態において通路70は、第3の貫通孔L3と直交するように滑り軸受71の周面に一本だけ形成されている。本実施形態では、第3の貫通孔L3と交差するように基部321に形成された中継孔L0を介して、通路70が第3の貫通孔L3と連通する。
【0043】
以上のように構成される本実施形態の油回転真空ポンプ1において、第1のロータ41は、回転軸21を介して伝達される駆動部20の回転駆動力を受けて第1のポンプ室P1内で回転する。そして第1のポンプ室P1の内壁面上を摺動する第1のベーン51によって第1の吸気ポートT1から気体が吸入され、圧縮された後、第1の排気ポートE1へ搬送される。
【0044】
ここで、例えば運転開始時のように、第1の排気ポートE1へ搬送された気体の圧力が所定値を超える場合、気体は排気弁V1を介してタンク部13へ開放され、排気管接続部12から排出される。また定常運転時等のように、第1の排気ポートE1から排出される気体の圧力が所定値以下の場合は、排気弁V1を開放せず連絡通路121を介して第2のポンプ室P2へ導入される。
【0045】
第2のロータ42もまた、回転軸21を介して伝達される駆動部20の回転駆動力を受けて第2のポンプ室P2内で回転する。そして第2のポンプ室P2の内壁面上を摺動する第2のベーン52によって、第2の吸気ポートT2から気体が吸入され、圧縮された後、第2の排気ポートE2へ搬送され、排気弁V2を開放してタンク部13へ排出される。
【0046】
ここで、第2のポンプ室P2で吸引される気体は、第1のポンプ室P1から排出され連絡通路121を介して第2の吸気ポートT2へ到達した気体であるため、第2のポンプ室P2において当該気体はさらに圧縮されて排気される。このため本実施形態の油回転真空ポンプ1は、圧縮比が高く、低い到達圧力を得ることができる。
【0047】
上述した各ポンプ室P1,P2におけるポンプ作用によって、ポンプ室P1,P2とタンク部13との間に差圧が生じる。ポンプ油は、潤滑ラインLを介してタンク部13から各ポンプ室P1,P2へ導入され、各ポンプ室P1,P2において摺動部を潤滑する。
【0048】
同時に、潤滑ラインLと連通する通路70を介して、滑り軸受71の内周面701と回転軸21の周面との間の環状の隙間にポンプ油が供給される。これにより滑り軸受71と回転軸21との間の潤滑性が高まり、回転軸21が安定に支持される。
【0049】
以上のように本実施形態によれば、滑り軸受71の内周面701と回転軸21の周面との間にポンプ油からなる油膜を安定に形成することができ、真空ポンプの安定した動作が確保される。また、滑り軸受としての滑り軸受71に、鉛を多く含む固体潤滑材を使用せずとも、安定した潤滑性を確保することができる。
【0050】
また本実施形態によれば、滑り軸受71と回転軸21との間に形成された油膜によって、第1のポンプ室P1と第2のポンプ室P2との間の油膜で、良好な気体シール性を確保することができる。
【0051】
さらに本実施形態によれば、滑り軸受71に形成される通路70が、回転軸21の軸心よりも重力方向に関して上方側に位置しているため、重力作用が加わることでポンプ油が滑り軸受71の内周面701へ供給されやすくなる。
【0052】
<第2の実施形態>
図5(A),(B)は本発明の第2の実施形態を示している。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0053】
本実施形態では、滑り軸受としての滑り軸受72の構成が上述の第1の実施形態と異なる。図5(A)、(B)は、滑り軸受72の詳細を説明する図であり、(A)はポンプ機構30の要部の側断面図、(B)は滑り軸受72の正面断面図である。
【0054】
本実施形態の滑り軸受72は、その内周面701に凹部70Rを有する。凹部70Rは、図5(A)に示すように滑り軸受72の幅(回転軸21の軸方向に沿った長さ)よりも小さい幅(第2の幅)で形成されている。そして凹部70Rは、通路70の形成位置に設けられている。凹部70Rは、例えば超硬バーを用いて形成される。
【0055】
上記構成の滑り軸受72を有する本実施形態の油回転真空ポンプにおいては、滑り軸受72の内周面701に形成された凹部70Rが油溜めとしての機能を果たし、滑り軸受72と回転軸21との間の隙間に安定して油膜を形成する。これにより、低温下(例えば5℃)におけるポンプの起動時などのように、ポンプ油の粘度が比較的高い場合においても、回転軸の安定した潤滑作用を確保することができる。
【0056】
また、凹部70Rの幅が滑り軸受72の形成幅より小さく形成されているため、滑り軸受72の内周面701の全周にわたって回転軸21との間の最小隙間(0.01〜0.04mm)が維持される。これにより、滑り軸受72と回転軸21との間の油膜で、良好な気体シール性を確保することができる。本発明者らの実験によれば、0.7Pa以下の到達真空度を得られることが確認された。
【0057】
凹部70Rの形状、形成位置等は特に限定されない。また、凹部70Rの形成個数は単数に限らず複数でもよいが、当該凹部の総容積が大きすぎると、気体シール性の低下を招くおそれがある。また、凹部内の排気に時間を要し、排気速度の低下を招くおそれもある。
【0058】
<第3の実施形態>
図6(A),(B)は本発明の第3の実施形態を示している。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0059】
本実施形態では、滑り軸受としての滑り軸受73の構成が上述の第2の実施形態と異なる。図6(A)、(B)は、滑り軸受73の詳細を説明する図であり、(A)はポンプ機構30の要部の側断面図、(B)は滑り軸受73の正面断面図である。
【0060】
本実施形態の滑り軸受73は、その内周面701に凹部70Rを有する。凹部70Rは、図6(A)に示すように滑り軸受73の幅(回転軸21の軸方向に沿った長さ)よりも小さい幅(第2の幅)で形成されている。そして凹部70Rは、通路70の形成領域と対向する内周面701上に形成されている。凹部70Rは、例えば超硬バーを用いて形成される。
【0061】
上記構成の滑り軸受73を有する本実施形態の油回転真空ポンプにおいては、滑り軸受73の内周面701に形成された凹部70Rが油溜めとしての機能を果たし、滑り軸受73と回転軸21との間の隙間に安定して油膜を形成する。これにより、低温下(例えば5℃)におけるポンプの起動時などのように、ポンプ油の粘度が比較的高い場合においても、回転軸の安定した潤滑作用を確保することができる。
【0062】
また、凹部70Rの幅が滑り軸受73の形成幅より小さく形成されているため、滑り軸受73の内周面701の全周にわたって回転軸21との間の最小隙間(0.01〜0.04mm)が維持される。これにより、滑り軸受73と回転軸21との間の油膜で、良好な気体シール性を確保することができる。本発明者らの実験によれば、0.7Pa以下の到達真空度を得られることが確認された。
【0063】
さらに、凹部70Rは通路70と対向する位置に形成されているため、凹部70Rは回転軸21よりも重力方向に関して下方側に位置する。これにより重力の作用により凹部70Rへポンプ油が溜まりやすくなり、滑り軸受73と回転軸21との間に速やかに油膜を形成することが可能となる。これにより、滑り軸受73による安定した潤滑作用を確保することができる。本発明者らの実験によれば、大気圧状態から5秒以下の排気時間で9.3Paの真空状態を得られることが確認された。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0065】
例えば以上の実施形態では、2段式の油回転真空ポンプを例に挙げて説明したが、これに限られず、1段式の油回転真空ポンプにも適用可能である。
【0066】
また以上の実施形態では、滑り軸受を構成するブッシュ部材は真鍮等の非固体潤滑材で形成されたが、これに代えて、鉛の含有量が比較的少ない(例えば10,000ppm以下)の青銅鋳物(BC3)で形成されてもよい。
【0067】
また以上の実施形態では、ポンプ機構30は2段(two-stage)式のゲーテ型ポンプユニットで構成されたが、これ以外にも、カム型、揺動ピストン型等が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 油回転真空ポンプ
10 本体
13 タンク部
20 駆動部
21 回転軸
30 ポンプ機構
31 第1のシリンダブロック
32 第2のシリンダブロック
41 第1のロータ
42 第2のロータ
51 第1のベーン
52 第2のベーン
70 通路
70R 凹部
71,72,73 滑り軸受
L 潤滑ライン
P1 第1のポンプ室
P2 第2のポンプ室
R1 第1の回転体
R2 第2の回転体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ油を貯留するタンク部を有する本体と、
ポンプ室と、前記タンク部と前記ポンプ室との間で前記ポンプ油を連通させるための第1の通路とを有し、前記本体に取り付けられるシリンダブロックと、
前記ポンプ室に回転可能に配置され、前記ポンプ室の内面を摺動する摺動部を有する回転体と、
前記本体に取り付けられ、前記回転体を回転させる回転軸を有する駆動部と、
前記第1の通路に連通する第2の通路を有し、前記シリンダブロックに設けられ、前記回転軸を回転可能に支持する滑り軸受と
を具備する油回転真空ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の油回転真空ポンプであって、
前記滑り軸受は、前記回転軸の周面に対向する内周面と、前記シリンダブロックに支持される外周面とを有する、前記回転軸の軸方向に沿って第1の幅で形成された筒状のブッシュ部材であり、
前記第2の通路は、前記内周面と前記外周面との間を貫通する貫通孔である
油回転真空ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の油回転真空ポンプであって、
前記第2の通路は、前記回転軸よりも重力方向に関して上方側に形成される
油回転真空ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の油回転真空ポンプであって、
前記滑り軸受は、前記内周面に前記第1の幅より小さい第2の幅で形成された凹部を有する
油回転真空ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の油回転真空ポンプであって、
前記凹部は、前記第2の通路の形成領域と対向する前記内周面上に形成される
油回転真空ポンプ。
【請求項6】
請求項1に記載の油回転真空ポンプであって、
前記ポンプ室は、前記回転軸の軸方向に沿って配列され前記回転体が各々配置される第1のポンプ室と第2のポンプ室とを有し、
前記滑り軸受は、前記第1のポンプ室と前記第2のポンプ室との間に設けられる
油回転真空ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−184694(P2012−184694A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47444(P2011−47444)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(591268623)アルバック機工株式会社 (14)
【Fターム(参考)】