説明

油圧クレーンのブーム吊上げ装置

【課題】 外径寸法が大きな大形ブームに対し、外径寸法が小さな小形ブームを吊上げた状態で容易に出し入れできるようにする。
【解決手段】吊上げるべき小形継ぎブーム11との重量バランスをとるウエイト22と、基端側がウエイト22に接続され先端側が小形継ぎブーム11に係合する上アーム31および下アーム32と、上アーム31に取付けられた吊具33とによりブーム吊上げ装置21を構成する。そして、上,下のアーム31,32を介して小形継ぎブーム11とウエイト22とを連結した状態で、吊具33によって小形継ぎブーム11とウエイト22とを一緒に吊上げる。このとき、吊具33は、小形継ぎブーム11とウエイト22との間で両者の重量バランスを保つので、小形継ぎブーム11を地面に対してほぼ水平な姿勢を保ったまま吊上げ、大形継ぎブーム7に対して容易に出し入れすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧クレーンの作業装置(フロントアタッチメント)を構成するブームを吊上げる作業に好適に用いられる油圧クレーンのブーム吊上げ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高層ビル等の建設現場においては、地上から高所への資材運搬を行うためにタワークレーン等の油圧クレーンが用いられ、このタワークレーンは、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体に設けられた作業装置(フロントアタッチメント)とにより構成されている。
【0003】
そして、作業装置は、通常、上部旋回体に起伏可能に取付けられた外径寸法が大きな大形ブームと、この大形ブームの先端側(上端側)に起伏可能に取付けられた外径寸法が小さな小形ブームと、この小形ブームの先端側から昇降可能に吊下げられた吊荷フックとにより大略構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−118980号公報
【0005】
ここで、従来技術によるタワークレーンの大形ブームは、基端側が上部旋回体に取付けられる大形下ブームと、該大形下ブームの先端側に取付けられる複数の大形継ぎブームとにより構成され、大形下ブームに取付けられる大形継ぎブームの数に応じて大形ブームの全長が変化する構成となっている。
【0006】
一方、小形ブームは、基端側が大形ブームの先端側に取付けられる小形下ブームと、該小形下ブームの先端側に取付けられる複数の小形継ぎブームと、該各小形継ぎブームのうち最も先端側に位置するものに取付けられる小形上ブームとにより構成され、小形継ぎブームの数に応じて小形ブームの全長が変化する構成となっている。
【0007】
そして、このタワークレーンは、大形ブームを起立させた状態で該大形ブームの先端側で小形ブームを起伏させ、小形ブームの先端側を所望の高さ位置まで持上げた状態で吊荷フックを昇降させることにより、吊荷フックに吊下げた吊荷を所望の場所に運搬するものである。
【0008】
ところで、上述のタワークレーンを作業現場に輸送する場合には、通常、上部旋回体から作業装置を取外すことにより、この作業装置を上部旋回体や下部走行体とは別個にトレーラ等の輸送車両に積載して輸送している。そして、この作業装置の輸送効率を高めるため、大形ブームを大形下ブームと大形継ぎブームとに分解すると共に、小形ブームを小形下ブーム、小形継ぎブーム、小形上ブームに分解し、大形継ぎブームの内側にこれよりも小形な小形継ぎブームを格納することにより、大形継ぎブームと小形継ぎブームとを一緒に輸送車両に積載する方法が採用されている。
【0009】
ここで、大形継ぎブーム内に小形継ぎブームを格納する場合には、大形継ぎブームを地面上に寝かせた状態で配置すると共に、この大形継ぎブームの長さ方向に沿って多数の案内ローラを地面上に配置する。そして、クレーン等を用いて吊上げた小形継ぎブームを案内ローラ上に載置した後、作業者等が小形継ぎブームを押して案内ローラ上を移動させることにより、小形継ぎブームを大形継ぎブーム内に挿入して格納することができる。
【0010】
一方、格納された小形継ぎブームを大形継ぎブームから取出す場合には、地面上に配置した各案内ローラ上にクレーン等により吊上げた小形継ぎブームを載置し、作業者等が小形継ぎブームを押して案内ローラ上を移動させることにより、小形継ぎブームを大形継ぎブーム内から取出すことができる。
【0011】
このように、大形継ぎブーム内に小形継ぎブームを格納したり、格納された小形継ぎブームを大形継ぎブームから取出す作業(ネスティング作業)を行なう場合には、小形継ぎブームと地面との間に多数の案内ローラを配置し、これら各案内ローラによって小形継ぎブームを移動可能に支持することにより、大形継ぎブームに対して小形継ぎブームを出し入れする方法が採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上述した従来技術では、小形継ぎブームを支持する多数の案内ローラが、単に地面上に配置されているだけであるため、移動する小形継ぎブームが案内ローラに衝突して案内ローラが位置ずれすると、案内ローラによって小形継ぎブームを円滑に移動させることができなくなり、ネスティング作業の作業性が低下してしまうという問題がある。
【0013】
また、ネスティング作業時には多数の案内ローラが必要となるため、これら各案内ローラを小形継ぎブームと地面との間に配置する作業が煩雑であるという問題や、多数の案内ローラを製造するためのコストが嵩んでしまうという問題がある。
【0014】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、外径寸法が大きな大形ブームに対し、外径寸法が小さな小形ブームを吊上げた状態で容易に出し入れすることができるようにした油圧クレーンのブーム吊上げ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決するため、請求項1の発明に係る油圧クレーンのブーム吊上げ装置は、吊上げるべきブームとの重量バランスをとるウエイトと、基端側がウエイトの上側部位に接続され先端側にブームの上側部位に着脱可能に係合する上側係合部を有する上アームと、基端側がウエイトの下側部位に接続され先端側にブームの下側部位に着脱可能に係合する下側係合部を有する下アームと、上アームの長さ方向の途中部位に取付けられブームとウエイトとの重量バランスを保ちつつ両者を一緒に吊上げる吊具とにより構成してなる。
【0016】
請求項2の発明は、上アームには、その長さ方向に離間して吊具を取付けるための吊具取付部を複数個設け、吊具は、ブームの重量に応じて各吊具取付部のうち一の吊具取付部に選択的に取付ける構成としたことにある。
【0017】
請求項3の発明は、ウエイトには、ウエイトを吊上げたときに下アームがウエイトとの接続部を中心として下向きに回動するのを制限するストッパを設ける構成としたことにある。
【0018】
請求項4の発明は、上アームの基端側とウエイトとの間には、上アームの上側係合部をブームの上側部位に係合させる動作が円滑に行なわれるように補償するリンク機構を設ける構成としたことにある。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、吊上げるべきブームに上アームの上側係合部と下アームの下側係合部とを係合させることにより、これら上アームと下アームとを介してブームとウエイトとを連結した状態で、上アームに取付けられた吊具によってブームとウエイトとを一緒に吊上げることができる。この場合、上アームの長さ方向の途中部位に取付けられた吊具は、ブームとウエイトとの間で両者の重量バランスを保ち、上アームは主としてブームとウエイトの重量を支え、下アームは上アームの上側係合部を中心としてブームが下向きに回動するのを阻止するので、ブームをほぼ水平な姿勢のまま吊上げることができる。従って、例えば大形ブームに対し小形ブームを出し入れする作業(ネスティング作業)を、小形ブームを水平な姿勢に吊上げた状態で容易に行なうことができ、その作業性を高めることができる。また、小形ブームを移動可能に支持するための案内ローラ等を不要にできるので、この案内ローラに係る製造コスト等を削減することができる。
【0020】
請求項2の発明によれば、上アームの長さ方向に離間して設けられた複数の吊具取付部のうち一の吊具取付部に選択的に吊具を取付けることにより、上,下のアームを介して連結されたブームとウエイトとの吊上げ位置(支点)を適宜に調整することができる。従って、吊具の取付位置を上アームの長さ方向に変化させることにより、重量が異なる複数種類のブームをウエイトとバランスさせることができ、これら複数種類のブームをそれぞれ水平な姿勢で吊上げることができる。
【0021】
請求項3の発明によれば、例えばウエイトを吊上げてブームの近傍まで搬送するときに、下アームがウエイトとの接続部を中心として下向きに回動したとしても、この下アームの回動をストッパによって制限することができる。これにより、ウエイトを吊上げた状態で、下アーム先端側の下側係合部をブームの下側部位に容易に係合させることができ、その作業性を高めることができる。
【0022】
請求項4の発明によれば、上アームの基端側とウエイトとの間にリンク機構を設け、上アームの基端側をリンク機構を介してウエイトに接続することにより、上アーム全体をウエイトに対して前,後方向に移動させることができる。このため、例えば下アームの下側係合部をブームの下側部位に係合させた後、吊具によって吊上げた上アーム全体をブームに向けて移動させることにより、上アームの上側係合部をブームの上側部位に係合させる作業を円滑に行なうことができ、その作業性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る油圧クレーンのブーム吊上げ装置の実施の形態について、図1ないし図9を参照しつつ詳細に説明する。
【0024】
図中、1は油圧クレーンとしてのタワークレーンを示し、該タワークレーン1は、クローラ式の下部走行体2と、該下部走行体2上に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、該上部旋回体3に設けられた作業装置(フロントアタッチメント)4とにより大略構成されている。
【0025】
ここで、上部旋回体3は、支持構造体をなす旋回フレーム3Aと、該旋回フレーム3Aの前部側に設けられ運転室を画成するキャブ3Bと、旋回フレーム3Aの後部側に設けられ作業装置4との重量バランスをとるカウンタウエイト3Cとにより大略構成されている。また、作業装置4は、後述の大形ブーム5、小形ブーム9、吊荷フック13等により構成されている。
【0026】
5は上部旋回体3の前部側に起伏可能に設けられた骨組み構造をなす大形ブームで、該大形ブーム5は、基端側が上部旋回体3に回動可能に取付けられた大形下ブーム6と、該大形下ブーム6の先端側に取付けられた複数の大形継ぎブーム7,7,…とにより大略構成され、大形継ぎブーム7の数に応じて大形ブーム5の全長が変化する構成となっている。そして、各大形継ぎブーム7のうち最も先端側に位置する大形継ぎブーム7には、後述の小形ブーム9を支持する支持フレーム8が取付けられている。
【0027】
ここで、大形継ぎブーム7は、例えばパイプ材を溶接することにより断面四角形状の骨組み構造をもって形成され、長さ方向に延びる4本の主材7Aと、隣合う主材7A間を連結する多数本の梁材7Bとにより大略構成されている。そして、大形継ぎブーム7の内側は中空となり、この大形継ぎブーム7内に後述の小形継ぎブーム11を格納することができる構成となっている。
【0028】
9は大形ブーム5の先端側に起伏可能に設けられた小形ブームで、該小形ブーム9は、大形ブーム5よりも小形な骨組み構造をなし、基端側が支持フレーム8に回動可能に取付けられた小形下ブーム10と、該小形下ブーム10の先端側に取付けられた複数の小形継ぎブーム11,11,…と、各小形継ぎブーム11のうち最も先端側に位置するものに取付けられた小形上ブーム12とにより大略構成され、小形継ぎブーム11の数に応じて小形ブーム9の全長が変化する構成となっている。そして、小形上ブーム12の先端側には、吊荷フック13が昇降可能に吊下げられている。
【0029】
ここで、小形継ぎブーム11は、例えばパイプ材を溶接することにより、上述の大形継ぎブーム7よりも一回り小形な断面四角形状の骨組み構造をもって形成され、長さ方向に延びる4本の主材11Aと、隣合う主材11A間を連結する多数本の梁材11Bとにより大略構成されている。
【0030】
そして、このタワークレーン1は、起立させた大形ブーム5の先端側で小形ブーム9を起伏させ、この小形ブーム9の先端側を所望の高さ位置まで持上げた状態で吊荷フック13を昇降させることにより、吊荷フック13に吊下げた荷物を所望の場所に運搬するものである。
【0031】
ところで、タワークレーン1を作業現場に輸送する場合には、通常、上部旋回体3から作業装置4を取外すことにより、この作業装置4を上部旋回体3や下部走行体2とは別個にトレーラ等の輸送車両に積載して輸送するようになっている。
【0032】
そして、作業装置4を輸送するときには、大形ブーム5を大形下ブーム6と大形継ぎブーム7とに分解すると共に、小形ブーム9を小形下ブーム10、小形継ぎブーム11、小形上ブーム12に分解し、図2に示すように、大形継ぎブーム7の内側に小形継ぎブーム11を格納した状態で、これら大形継ぎブーム7と小形継ぎブーム11とを一緒に輸送することにより、作業装置4の輸送効率を高めるようになっている。
【0033】
一方、大形継ぎブーム7内に小形継ぎブーム11を格納して作業現場まで輸送した後には、大形継ぎブーム7から小形継ぎブーム11を取出した後、大形継ぎブーム7等を用いて大形ブーム5を組立てると共に、小形継ぎブーム11等を用いて小形ブーム9を組立て、これら大形ブーム5、小形ブーム9等によって作業装置4を組立てるようになっている。
【0034】
ここで、上述した作業装置4の輸送時において、大形継ぎブーム7内に小形継ぎブーム11を格納したり、格納された小形継ぎブーム11を大形継ぎブーム7から取出す作業(ネスティング作業)は、本実施の形態によるブーム吊上げ装置を用いて行なうようになっており、以下、このブーム吊上げ装置について、図2ないし図9を参照しつつ説明する。
【0035】
図中、21はネスティング作業に用いられるブーム吊上げ装置で、該ブーム吊上げ装置21は、小形継ぎブーム11を大形継ぎブーム7に対して出し入れするために、小形継ぎブーム11を地面に対してほぼ水平に吊上げるものである。そして、ブーム吊上げ装置21は、図3等に示すように、後述のウエイト22、上アーム31、下アーム32、吊具33等により構成されている。
【0036】
22は吊上げるべき小形継ぎブーム11との重量バランスをとるウエイトで、該ウエイト22は、例えば鋳造手段等を用いて直方体の重量物として形成されたブロック体23と、ブロック体23の上端側に溶接等によって固着された左,右の上ブラケット24,24と、ブロック体23の下端側に溶接等によって固着された左,右の下ブラケット25,25と、この下ブラケット25の下端部に溶接等によって固着された左,右の底板26,26とにより構成されている。
【0037】
ここで、上ブラケット24は、鋼板等により三角形の平板状に形成され、ブロック体23の左,右の側面にそれぞれ溶接等によって固着されている。そして、ブロック体23の上面から上方に突出した上ブラケット24の上端部には、後述する上レバー28の長溝孔28Aに挿通されるピン24Aが左,右方向に突出して設けられている。
【0038】
また、下ブラケット25は、鋼板等により前,後方向に延びる長方形の平板状に形成され、ブロック体の左,右の側面にそれぞれ溶接等によって固着されている。そして、ブロック体23の前面から前方に突出した下ブラケット25の前端部には、後述の下レバー29、下アーム32に挿通されるピン25Aが左,右方向に突出して設けられている。
【0039】
さらに、底板26は、鋼板等を折曲げることにより全体として前,後方向に延びるU字状の平板状に形成され、下ブラケット25の下端側を前,後方向から挟込んだ状態で、該下ブラケット25およびブロック体23の下面に溶接等によって固着されている。そして、底板26は、図4に示す如く地面に接地することにより、ブロック体23を地面上に直立した姿勢に保持するものである。
【0040】
26Aは底板26の前端側に形成されたストッパで、該ストッパ26Aは、下ブラケット25の前縁部に沿って上方に立上がり、下ブラケット25に設けたピン25Aの近傍部位まで延びている。そして、ストッパ26Aは、図5に示すように、後述の下アーム32がピン25Aを中心として下向きに回動するときに、該下アーム32が当接することによりその回動範囲を制限するものである。
【0041】
27,27はウエイト22に設けられた左,右のリンク機構で、該リンク機構27は、後述の上レバー28と、下レバー29と、連結ピン30とにより構成され、後述する上アーム31の基端側とウエイト22の上ブラケット24との間を接続するものである。
【0042】
28は後述の下レバー29と共にリンク機構27を構成する上レバーで、該上レバー28は、ウエイト22の上ブラケット24を挟んで左,右方向で対面した2枚の帯板からなっている。そして、レバー28の長さ方向の一端側(下端側)には、長さ方向に延びる長溝孔28Aが形成され、該長溝孔28Aには上ブラケット24のピン24Aが摺動可能に挿通されている。
【0043】
29は下レバーで、該下レバー29は、上レバー28よりも長尺な1枚の帯板により形成されている。そして、下レバー29の長さ方向の一端側(下端側)は、ウエイト22を構成する下ブラケット25のピン25Aに回動可能に挿通され、下レバー29の長さ方向の他端側(上端側)は、連結ピン30を介して上レバー28の長さ方向の他端側(上端側)に回動可能に連結されている。
【0044】
そして、リンク機構27は、上レバー28の長溝孔28Aが上ブラケット25のピン25Aに対して摺動することにより、小形継ぎブーム11に対して接近する位置(図7の位置)と、小形継ぎブーム11から離間する位置(図6の位置)との間で前,後方向に揺動する構成となっている。
【0045】
31,31は基端側がリンク機構27を介してウエイト22に回動可能に接続された左,右の上アームで、該各上アーム31は、前,後方向に延びる帯板からなり、左,右方向に延びる補強梁31Aによって互いに連結されることにより一体化されている。そして、各上アーム31の基端側は、リンク機構27の連結ピン30に回動可能に挿通されることにより、該リンク機構27を介してウエイト22の上ブラケット24に回動可能に接続されている。
【0046】
31Bは各上アーム31の先端側に設けられた上側係合部で、該上側係合部31Bは、上アーム31の先端側を上,下方向に長溝状に切欠くことにより、上端側が開口したフック状に形成されている。そして、上アーム31の上側係合部31Bは、図6および図7に示すように、小形継ぎブーム11に取付けられた後述の上側軸体38に上,下方向から着脱可能に係合するものである。
【0047】
31C,31D,31Eは各上アーム31に穿設された吊具取付部としての吊具取付孔で、これら3個の吊具取付孔31C,31D,31Eは、上アーム31の長さ方向に離間して配置され、後述の吊具33が選択的に取付けられるものである。即ち、各吊具取付孔31C,31D,31Eは、吊上げるべき小形継ぎブーム11の重量に応じて上アーム31に対する吊具33の取付位置を設定するもので、本実施の形態では、例えば長さ寸法が9m、6m、3mの3種類の小形継ぎブーム11を想定し、9mの小形継ぎブーム11を吊上げるときには吊具取付孔31Cに吊具33を取付け、6mの小形継ぎブーム11を吊上げるときには吊具取付孔31Dに吊具33を取付け、3mの小形継ぎブーム11を吊上げるときには吊具取付孔31Eに吊具33を取付ける構成となっている。
【0048】
32,32は基端側がウエイト22の下ブラケット25に回動可能に接続された左,右の下アームで、該各下アーム32は、前,後方向に延びる帯板からなり、左,右方向に延びる補強梁32Aによって互いに連結されることにより一体化されている。そして、各下アーム32の基端側は、下ブラケット25のピン25Aに回動可能に挿通されている。従って、ウエイト22を地面から吊上げたときには、図5に示すように、下アーム32はピン25A(ウエイト22との接続部)を中心として下向きに回動するが、この下アーム32がウエイト22の底板26に設けたストッパ26Aに当接することにより、それ以上の回動が制限される構成となっている。
【0049】
32Bは各下アーム32の先端側に設けられた下側係合部で、該下側係合部32Bは、先端部が上,下にニ分割された二又状に形成されている。そして、下アーム32の下側係合部32Bは、図5および図6に示すように、小形継ぎブーム11に取付けられた後述の下側軸体39に前,後方向から着脱可能に係合するものである。
【0050】
33,33は左,右の上アーム31にそれぞれ取付けられた左,右の吊具で、該各吊具33は、上アーム31の長さ方向の途中部位に取付けられ、小形継ぎブーム11とウエイト22との重量バランスを保ちつつ両者を一緒に吊上げるものである。ここで、各吊具33は、例えば市販のシャックルからなり、上アーム31に穿設された3個の吊具取付孔31C,31D,31Eのうち一の吊具取付孔、例えば吊具取付孔31Cに、ピン33Aを用いて回動可能に取付けられている。そして、各吊具33には、後述するワイヤロープ36の両端部が取付けられる構成となっている。
【0051】
34は左,右のリンク機構27の連結ピン30に回動可能に取付けられた連結板で、該連結板34は、各リンク機構27と後述のウエイト用吊具35との間を連結するものである。ここで、連結板34は、全体として左,右方向に延びる長方形の平板状に形成され、左,右方向の両端側が前方に向けて折曲げられた折曲部34Aとなっている。そして、各折曲部34Aの下端側には、リンク機構27の連結ピン30が挿通され、各折曲部34Aの上端側には、ウエイト用吊具35が取付けられる構成となっている。
【0052】
35,35は連結板34に取付けられた左,右のウエイト用吊具で、該各ウエイト用吊具35は、連結板34、リンク機構27を介してウエイト22に連結され、ブーム吊上げ装置21を単体で吊上げるときに、該ブーム吊上げ装置21をウエイト22の近傍で安定して吊上げるためのものである。ここで、各ウエイト用吊具35は、上述の吊具33と同様なシャックルからなり、連結板34に設けられた各折曲部34Aの上端側に、ピン35Aを用いて回動可能に取付けられている。そして、各ウエイト用吊具35には、後述するワイヤロープ37の両端部が取付けられる構成となっている。
【0053】
36は左,右の吊具33間を接続するワイヤロープ、37は左,右のウエイト用吊具35間を連結するワイヤロープで、これら各ワイヤロープ36,37の中間部位は、図2に示すように、後述する油圧クレーン40のフック41に引掛けられる構成となっている。
【0054】
本実施の形態によるブーム吊上げ装置21は上述の如き構成を有するもので、以下、このブーム吊上げ装置21を用いて、大形継ぎブーム7内に格納された小形継ぎブーム11を取出す作業(ネスティング作業)について、図2ないし図9を参照しつつ説明する。
【0055】
まず、図2に示すように、小形継ぎブーム11は、大形継ぎブーム7内に格納された状態で、該大形継ぎブーム7と一緒に地面上に寝かせた状態で配置されている。この場合、小形継ぎブーム11は、長さ寸法が3m、6m、9mの3種類の小形継ぎブームのうち、最も重量が大きな9mの小形継ぎブーム11を例示している。
【0056】
また、大形継ぎブーム7から突出した小形継ぎブーム11の長さ方向の一端側には、ブーム吊上げ装置21の各上アーム31に設けた上側係合部31Bが係合する上側軸体38と、各下アーム32に設けた下側係合部32Bが係合する下側軸体39とを予め取付けておく。
【0057】
そして、ブーム吊上げ装置21を小形継ぎブーム11の近傍に配置し、上アーム31の吊具取付孔31Cに取付けた左,右の吊具33にワイヤロープ36の両端部を取付けると共に、連結板34に取付けた左,右のウエイト用吊具35にワイヤロープ37の両端部を取付け、これらワイヤロープ36,37の中間部位を油圧クレーン40のフック41に引っ掛けることにより、図5に示すように、ブーム吊上げ装置21を単独で上方に吊上げる。
【0058】
ここで、ブーム吊上げ装置21を単独で吊上げたときには、ウエイト22の下ブラケット25にピン25Aを介して接続された下アーム32は、その自重によりピン25Aを中心として下向きに回動する。しかし、この下アーム32は、ウエイト22の底板26に設けたストッパ26Aに当接することにより、それ以上の回動が制限される。これにより、図5に示すように、下アーム32をウエイト22から斜め下向きに傾いた姿勢に保持し、二又状の下側係合部32Bを、小形継ぎブーム11に取付けた下側軸体39に前側からほぼ正対させることができる。
【0059】
次に、ブーム吊上げ装置21を単独で吊上げた状態で、油圧クレーン40を小形継ぎブーム11に向けて移動させることにより、図6に示すように、下アーム32の下側係合部32Bを小形継ぎブーム11の下側軸体39に係合させる。そして、油圧クレーン40のフック41を下方に下ろすことにより、一旦、ブーム吊上げ装置21のウエイト22を地面上に載置する。
【0060】
このようにして、ブーム吊上げ装置21のウエイト22を地面上に載置した状態で、油圧クレーン40を僅かに小形継ぎブーム11側に移動させる。このとき、図7に示すように、ウエイト22に設けられたリンク機構27は、上レバー28の長溝孔28Aが上ブラケット24のピン24Aに対して摺動することにより、小形継ぎブーム11に接近する位置へと揺動する。
【0061】
これにより、リンク機構27の連結ピン30に接続された上アーム31は、リンク機構27と一緒に小形継ぎブーム11側へと移動するので、上アーム31の上側係合部31Bを、小形継ぎブーム11に取付けられた上側軸体38に下側からほぼ正対させることができる。
【0062】
この状態で、油圧クレーン40のフック41を上方に持上げ、吊具33を介して上アーム31を上ブラケット24のピン24Aを中心として上方に回動させることにより、上アーム31の上側係合部31Bを、小形継ぎブーム11の上側軸体38に下側から容易に係合させることができる。
【0063】
このようにして、図7に示すように、小形継ぎブーム11の下側軸体39に下アーム32の下側係合部32Bを係合させると共に、上側軸体38に上アーム31の上側係合部31Bを係合させることにより、ブーム吊上げ装置21のウエイト22を、上,下のアーム31,32を介して小形継ぎブーム11に連結することができる。
【0064】
この場合、ブーム吊上げ装置21のウエイト22にリンク機構27を設け、上アーム31の基端側をリンク機構27を介してウエイト22に接続する構成としたので、上述したように、下アーム32の下側係合部32Bを小形継ぎブーム11の下側軸体39に係合させる作業と、上アーム31の上側係合部31Bを小形継ぎブーム11の上側軸体38に係合させる作業とを、油圧クレーン40の操作だけで行なうことができる。従って、上,下のアーム31,32を小形継ぎブーム11の上,下の軸体38,39に係合させる作業を、作業者の手作業によって行う必要がなく、その作業性を高めると共に作業の安全性を確保することができる。
【0065】
そして、上,下のアーム31,32を小形継ぎブーム11の上,下の軸体38,39に係合させ、ブーム吊上げ装置21のウエイト22を、上,下のアーム31,32を介して小形継ぎブーム11に連結した状態で、油圧クレーン40のフック41を上方に持上げることにより、図8に示すように、上アーム31に取付けられた吊具33によって小形継ぎブーム11とウエイト22とを一緒に吊上げる。
【0066】
このとき、吊具33は、上アーム31に設けられた各吊具取付孔31C,31D,31Eのうち、長さ寸法が9mの小形継ぎブーム11の重量に対応した吊具取付孔31Cに取付けられているので、小形継ぎブーム11とウエイト22とを、吊具33の位置を中心として互いに重量バランスを保ったまま地面に対してほぼ水平に吊上げることができる。
【0067】
この場合、上アーム31は主として小形継ぎブーム11とウエイト22の重量を支え、下アーム32は上アーム31の上側係合部31Bを中心として小形継ぎブーム11が下向きに回動するのを阻止する。これにより、小形継ぎブーム11とウエイト22とを一緒に吊上げるときに、小形継ぎブーム11を地面に対してほぼ水平な姿勢に保ったまま安定した状態で吊上げることができる。
【0068】
このようにして、小形継ぎブーム11を、図9に示すように地面に対してほぼ水平な姿勢を保ったまま大形継ぎブーム7内で上方に浮かせることができ、この状態で油圧クレーン40を大形継ぎブーム7から離れる方向(図9中の矢示A方向)に操作することにより、例えば多数の案内ローラ等を用いて小形継ぎブーム11を移動させることなく、小形継ぎブーム11を大形継ぎブーム7から容易に取出すことができる。
【0069】
一方、小形継ぎブーム11を大形継ぎブーム7内に格納する場合には、上述した作業手順を逆に実行することにより、例えば多数の案内ローラ等を用いて小形継ぎブーム11を移動させることなく、小形継ぎブーム11を地面に対してほぼ水平な姿勢を保ったまま大形継ぎブーム7内に挿入し、該大形継ぎブーム7内に容易に格納することができる。
【0070】
かくして、本実施の形態によるブーム吊上げ装置21は、吊上げるべき小形継ぎブーム11との重量バランスをとるウエイト22と、基端側がウエイト22に接続され先端側が小形継ぎブーム11に係合する上アーム31および下アーム32と、上アーム31に取付けられた吊具33とにより構成し、上,下のアーム31,32を介して小形継ぎブーム11とウエイト22とを連結した状態で、吊具33によって小形継ぎブーム11とウエイト22とを一緒に吊上げる構成としている。
【0071】
この場合、吊具33は、小形継ぎブーム11とウエイト22との間に配置されることにより両者の重量バランスを保つので、小形継ぎブーム11を地面に対してほぼ水平な姿勢を保ったまま吊上げることができる。従って、大形継ぎブーム7に対する小形継ぎブーム11の出し入れ作業(ネスティング作業)を、小形継ぎブーム11を水平に吊上げた状態で容易に行なうことができ、例えば多数の案内ローラ等を用いて小形継ぎブーム11を移動させる場合に比較して、その作業性を高めることができる。また、小形継ぎブーム11を移動可能に支持するための案内ローラ等を不要にできるので、この案内ローラに係る製造コスト等を削減することができる。
【0072】
また、本実施の形態によるブーム吊上げ装置21は、吊上げるべき小形継ぎブーム11との重量バランスをとるためのウエイト22を有しているので、ウエイト22からリンク機構27、上アーム31、下アーム32等を取外し、このウエイト22をタワークレーン1のカウンタウエイト3Cに取付けることにより、ウエイト22をタワークレーン1のカウンタウエイト3Cの一部として兼用することができる。
【0073】
なお、上述した実施の形態では、上アーム31に3個の吊具取付孔31C,31D,31Eを設け、これら各吊具取付孔31C〜31Eのうち吊具取付孔31Cに吊具33を取付けることにより、重量が最も重い長さ寸法が9mの小形継ぎブーム11をほぼ水平な姿勢で吊上げた場合を例示している。
【0074】
しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば図10に示す変形例のように、吊具33を吊具取付孔31Dに取付けた場合には、小形継ぎブーム11よりも短い6mの小形継ぎブーム11′をほぼ水平な姿勢で吊上げることができる。さらに、吊具33を吊具取付孔31Eに取付けた場合には、最も重量が小さい3mの小形継ぎブーム(図示せず)をほぼ水平な姿勢で吊上げることができる。
【0075】
また、上述した実施の形態では、上アーム31に3個の吊具取付孔31C,31D,31Eを設けた場合を例示したが、本発明はこれに限らず、例えば1個、2個、または4個以上の吊具取付孔を設ける構成としてもよい。
【0076】
また、上述した実施の形態では、上アーム31の上側係合部31Bを小形継ぎブーム11の端部に取付けた上側軸体38に係合させ、下アーム32の下側係合部32Bを小形継ぎブーム11の端部に取付けた下側軸体39に係合させた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば小形継ぎブーム11を構成する梁材11Bに、上アーム31の上側係合部31B、下アーム32の下側係合部32Bを直接係合させてもよい。
【0077】
さらに、上述した実施の形態では、タワークレーン1の大形ブーム5を構成する大形継ぎブーム7に対し、小形ブーム9を構成する小形継ぎブーム11を出し入れする場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、例えば大形継ぎブーム7に対し、小形ブーム9を構成する小形下ブーム10、小形上ブーム12等を出し入れする場合にも適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に係るブーム吊上げ装置によって吊上げられる小形継ぎブームを備えたタワークレーンを示す正面図である。
【図2】ブーム吊上げ装置を用いて大形継ぎブームから小形継ぎブームを取出す状態を示す正面図である。
【図3】図2中の小形継ぎブームとブーム吊上げ装置を示す分解斜視図である。
【図4】図2中の大形継ぎブーム、小形継ぎブーム、ブーム吊上げ装置を拡大して示す正面図である。
【図5】ブーム吊上げ装置を単独で吊上げた状態を示す図4と同様な正面図である。
【図6】下アームの下側係合部を小形継ぎブームに係合させた後、ブーム吊上げ装置を地面上に載置した状態を示す正面図である。
【図7】上アームの上側係合部を小形継ぎブームに係合させた状態を示す正面図である。
【図8】小形継ぎブームとウエイトとを一緒に吊上げた状態を示す正面図である。
【図9】吊上げた小形継ぎブームを大形継ぎブームから取出す状態を示す正面図である。
【図10】長さ寸法が小さい小形継ぎブームを吊上げた変形例を示す図9と同様な正面図である。
【符号の説明】
【0079】
5 大形ブーム
7 大形継ぎブーム
9 小形ブーム
11,11′ 小形継ぎブーム
21 ブーム吊上げ装置
22 ウエイト
23 ブロック体
26 底板
26A ストッパ
27 リンク機構
31 上アーム
31B 上側係合部
31C,31D,31E 吊具取付孔(吊具取付部)
32 下アーム
32B 下側係合部
33 吊具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊上げるべきブームとの重量バランスをとるウエイトと、基端側が前記ウエイトの上側部位に接続され先端側に前記ブームの上側部位に着脱可能に係合する上側係合部を有する上アームと、基端側が前記ウエイトの下側部位に接続され先端側に前記ブームの下側部位に着脱可能に係合する下側係合部を有する下アームと、前記上アームの長さ方向の途中部位に取付けられ前記ブームと前記ウエイトとの重量バランスを保ちつつ両者を一緒に吊上げる吊具とにより構成してなる油圧クレーンのブーム吊上げ装置。
【請求項2】
前記上アームには、その長さ方向に離間して前記吊具を取付けるための吊具取付部を複数個設け、前記吊具は、前記ブームの重量に応じて前記各吊具取付部のうち一の吊具取付部に選択的に取付ける構成としてなる請求項1に記載の油圧クレーンのブーム吊上げ装置。
【請求項3】
前記ウエイトには、前記ウエイトを吊上げたときに前記下アームが前記ウエイトとの接続部を中心として下向きに回動するのを制限するストッパを設ける構成としてなる請求項1または2に記載の油圧クレーンのブーム吊上げ装置。
【請求項4】
前記上アームの基端側と前記ウエイトとの間には、前記上アームの上側係合部を前記ブームの上側部位に係合させる動作が円滑に行なわれるように補償するリンク機構を設ける構成としてなる請求項1,2または3に記載の油圧クレーンのブーム吊上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−160410(P2006−160410A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−351570(P2004−351570)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(503032946)日立住友重機械建機クレーン株式会社 (104)
【Fターム(参考)】