説明

油圧ショベルのアタッチメント

【課題】深い開先を取らずに、外側からの溶接のみで溶接部の未溶着をなくし、溶接部の強度を高くし、疲労強度を高くする。
【解決手段】油圧ショベル10のアタッチメント1を構成するブーム40のブーム本体41は、上板45、下板46、側板47、および、側板48をハイブリッド溶接により溶接したものである。このハイブリッド溶接はアーク溶接およびレーザ溶接のいずれか一方のみなされた場合に比べ、溶け込みを深くし得る。よって、アタッチメント1の外側からの溶接のみで、溶接部41wの未溶着をなくし得る。よって、この未溶着をなくした場合は、この未溶着がある場合に比べ、溶接部41wの強度を高くできる。したがって、この未溶着がある場合に比べ、アタッチメント1の疲労強度を高くし得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルのアタッチメントに関する。特にブームの疲労強度を向上させた油圧ショベルのアタッチメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より油圧ショベルは土木、建築工事などで広く使用されている。この油圧ショベルは図4に示すように、本体120とアタッチメント101とを有する。このアタッチメント101はブーム140とアーム133とバケット135などを有する。図5に示すように、このブーム140のブーム本体141は、長手方向中央部の屈曲部142で「へ」の字に曲がっている。
【0003】
また、ブーム本体141の屈曲部142近傍の断面を図6(a)に示す。なお、図6(a)に示す断面はブーム本体141の長手方向から見た断面である。このブーム本体141は、4枚の板(上板145、下板146、側板147、および、側板148)で形成され、断面が矩形に形成される。この矩形の四隅を外側から隅肉溶接することで、この4枚の板が接合される。また、この溶接により溶接部141wが形成される。すなわち、ブーム本体141の長手方向に沿って溶接線ができるように(図5の溶接部141wを参照)溶接部141wが形成される。なお、これら4枚の板は、この溶接の他、次のようにつなぐ。孔144(図4参照。センターボスと呼ばれる)で側板147と側板148とをつなぐ。スティフナ141s(図5参照)と呼ぶ隔壁で4枚の板をつなぐ。このように4枚の板をつなぐことで、ブーム本体141(図5参照)の断面変形を生じにくくしている。
【0004】
油圧ショベル110(図4参照)での掘削時、このブーム本体141は変形し、応力が生じる。この変形は主に、屈曲部142が直線に延ばされる方向への曲げ変形である。この掘削時における、屈曲部142近傍のブーム本体141の断面(ブーム本体141の長手方向から見た断面)の模式図を図6(b)に示す。同図に示すように、掘削時には、側板147および側板148が内側にたわむ。また上板145は上側に、下板146は下側にたわむ。また、特に屈曲部142には大きな応力が生じ、このたわみが大きく生じる。そして、ブーム本体141の断面の四隅では、側板147および側板148の内側に高い引っ張り応力Sが生じる。この応力Sの方向は、図5に示す溶接部141wの溶接線に直交する方向でもある。
【0005】
この応力Sにより、次のように、特に溶接部141wの強度が問題となる。
まず、ブーム本体141の断面の四隅に応力が集中する。また、図6(b)に示すように、溶接部141wは溶接線に直交する方向の応力Sを受ける。一般に溶接線は、溶接線に直交する方向の力に対して弱い。よって溶接部141wの強度が問題となる。
さらに、図7(a)に、図6(a)に示した範囲F7aを拡大した図を示す。このブーム本体141の断面においては、矩形の四隅の内側に溶接の未溶着部141xがある。応力S(図6(b)参照)は、この未溶着部141xを開く方向に生じる。よって、この未溶着部141xがブーム本体41の亀裂の基点となってしまう問題がある。
このような変形や応力Sを受けた溶接部141wは、母材(上板145、下板146、側板147や側板148)に比べ、著しく強度が低い。すなわち、溶接部141wの疲労寿命が短い。よって、図4に示す油圧ショベル110で掘削作業を繰り返し行う場合、アタッチメント101の寿命は、溶接部141w(図5、図6参照)の疲労寿命で規定されてしまう。
【0006】
この問題の解決を図ったものとして、例えば、ブーム本体を構成する板全体を厚くしたもの、ブーム本体の断面形状を変えたもの、ブラケット140b(図4参照)を利用したもの、および、溶接部の未溶着部の低減を図ったものがある。
【0007】
板全体を厚くしたものは次のようなものである。上下板および2枚の側板の全体を厚くする。すると、図6(a)および(b)に示す、ブーム本体141の断面の変形が減る。よって溶接部141wに生ずる引張り応力Sが減る。これにより溶接部141wの疲労強度を確保している。すなわち、母材(上下板、側板)の疲労強度に余裕があっても、溶接部141wの疲労強度を確保するために、厚い板を使っている。
【0008】
また、ブーム本体の断面形状を図6(a)のものとは異なった形状にして、溶接部の強度向上を図ったものがある。例えば、溶接部を四隅からずらしたものや、溶接部の近傍のみ板厚を増したものがある。
溶接部を四隅からずらしたものとして、次のものがある。例えば、板状の上板や下板を用いるかわりに管状の形材または鋼管を用いたものがある(例えば特許文献1)。また、断面が「コ」の字状のプレス鋼板を2つ接合したものがある(例えば、特許文献2、特許文献3)。
溶接部近傍のみ板厚を増したものとして、例えば、溶接部近傍のみ上下板または側板の板厚を増したものがある(特許文献4)。
【0009】
また、図4に示すブラケット140b(アームシリンダ134を連結するための2枚の板)を用いたものは次のようなものである。ブラケット140bの、アームシリンダ134を連結しない側の端を内側に寄せる。これにより、上板145の膨らみ(図6(b)参照)を押さえ、ブーム本体141の強度向上を図っている(例えば特許文献5)。
【0010】
溶接部の未溶着の低減を図ったものとして、次のようなものがある。図7(b)に示すように、側板147に開先147aを設けたものがある。これにより、溶接部の溶け込みを確保している。なお、溶接時の溶湯の抜け落ちを防ぐためにルート部141yという上板と接する面を残している。また、この開先の形状をJ型にすることで溶着量を増やし、疲労強度向上を図ったものもある(例えば特許文献6)。また、図7(c)に示すように、内側からも隅肉溶接したものがある。これによりブーム40の内側の未溶着をなくし、疲労強度の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−124357号公報
【特許文献2】特開平6−220881号公報
【特許文献3】特開平6−220880号公報
【特許文献4】特開平11−21939号公報
【特許文献5】特開平9−111796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の技術には以下のような問題がある。
ブームを構成する板全体を厚くしたもの、ブラケットを利用したもの、および、ブーム本体の断面形状を変えたものについては、溶接部141wの未溶着を低減する技術ではない。したがって、溶接部141wの未溶着による、溶接部141wの強度の問題は解決できない。
また、溶接部の未溶着の低減を図った技術についても、未溶着を十分に低減できない場合がある。まず、図7(b)に示す、側板147に開先147aおよびルート部141yを設けたものについては、ルート部141yに未溶着が残る問題がある。例えば20トンクラスのブームの場合、通常0.2mm程度以上の未溶着が残る。一方で、ブーム本体41の内側(図7(b)における左側)まで溶け込みを確保しようとして、極端に深い開先147aを設けた場合(すなわち極端にルート部141yを狭くした場合)、側板147に孔が開きやすい。そしてこの孔から溶湯(溶融した金属)が抜け落ちやすく、適切に溶接できない場合がある。したがって、開先147aを深くとる事により未溶着をなくすことは、非常に困難である。
また、図7(c)に示す、内側から隅肉溶接を行う技術については、ブーム本体141の断面の四隅のうち2つの隅は内側から隅肉溶接ができる。しかしながら、残りの2つの隅については、ブーム本体141全体にわたっては内側から隅肉溶接ができない。すなわち、4枚の板(上板145、下板146、側板147、および、側板148)のうち3枚までは外側および内側から溶接できるが、残りの1枚は外側から溶接せざるを得ない。
以上のように、これらの技術を用いても、溶接部の未溶着が残る場合が多い。そして、この未溶着が疲労強度の点で不利になるという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、深い開先を取る必要なく、外側からの溶接のみで溶接部の未溶着をなくし得て、溶接部の強度を高くでき、疲労強度を高くできる、油圧ショベルのアタッチメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の発明に係る油圧ショベルのアタッチメントは、上板、下板、および、側板を、アーク溶接とレーザ溶接とを組み合わせたハイブリッド溶接により溶接してなる。
【0015】
この油圧ショベルのアタッチメントは、上板、下板、および、側板をハイブリッド溶接により溶接してなる。このハイブリッド溶接はアーク溶接およびレーザ溶接のいずれか一方のみなされた場合に比べ、溶け込みを深くし得る。よって、油圧ショベルのアタッチメントの外側からの溶接のみで、溶接部の未溶着をなくし得る。よって、この未溶着をなくした場合は、この未溶着がある場合に比べ、溶接部の強度を高くできる。したがって、未溶着がある場合に比べ、油圧ショベルのアタッチメントの疲労強度を高くし得る。
また、この未溶着をなくすために、深い開先を取る必要がない。よって、開先を深く取りすぎることによる、溶湯の抜け落ちを抑制できる。よって、溶接部の溶接が確実にされ得る。したがって、この溶湯の抜け落ちにより溶接が確実にされなかった場合に比べ、溶接部の強度を高くし得る。
【0016】
第2の発明に係る油圧ショベルのアタッチメントは、第1の発明に係る油圧ショベルのアタッチメントであって、前記ハイブリッド溶接はアーク溶接が前記レーザ溶接より先行する。
【0017】
この油圧ショベルのアタッチメントでは、次のように溶接される。まずアーク溶接により溶湯が生じる。次に、レーザ溶接をすることで、レーザ溶接とアーク溶接との相乗効果により、アーク溶接のみ行う場合に比べて深い溶け込みが生じる。そして、アーク溶接により生じた溶湯は、この深い溶け込みに送り込まれる。これにより、レーザ溶接により溶湯を送り込むため、裏側まで完全に溶かせる(未溶着が残らない)。溶接時の熱による変形が少ない。
【0018】
第3の発明に係る油圧ショベルのアタッチメントは、第2の発明に係る油圧ショベルのアタッチメントであって、前記アーク溶接はMAG溶接であり、上記レーザ溶接はファイバレーザ溶接である。
【0019】
この油圧ショベルのアタッチメントでは、アーク溶接としてMAG溶接がなされる。すなわち酸化性のシールドガスを用い、溶接棒(溶接ワイヤ)を電極としたアーク溶接がなされる。よって、ブローホール(空洞)の発生を抑制できる。したがって、溶接部の強度を高くし得る。
また、この油圧ショベルのアタッチメントでは、レーザ溶接はファイバレーザ溶接である。このファイバレーザは、共振器に光ファイバを用いないレーザに比べ、レーザ強度の安定性が高い。よって、高い安定性で溶接され得る。したがって、溶接部の強度を高くし得る。
【0020】
第4の発明に係る油圧ショベルのアタッチメントは、第1〜第3のいずれか1つの発明に係る油圧ショベルのアタッチメントであって、前記上板、下板、および、側板を有するブームの屈曲部に対して前記ハイブリッド溶接がされてなる。
【0021】
この油圧ショベルのアタッチメントを備えた油圧ショベルの掘削時において、ブームの屈曲部には、他の部分に比べ特に大きい応力が生じる。そして、この屈曲部に対して上記のハイブリッド溶接がされている。したがって、この屈曲部にハイブリッド溶接がされていない場合に比べ、油圧ショベルのアタッチメントの疲労強度を高くし得る。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明に述べたように本発明によれば以下の効果が得られる。
【0023】
第1〜第4の発明では、油圧ショベルのアタッチメントの外側からの溶接のみで、溶接部の未溶着をなくし得る。また、開先を深く取りすぎることによる、溶湯の抜け落ちを抑制できるため、溶接部の溶接が確実にされ得る。よって、溶接部の強度を高くし得る。したがって、油圧ショベルのアタッチメントの疲労強度を高くし得る。
【0024】
第3の発明では、ブローホールの発生を抑制でき、かつ、高い安定性で溶接をされ得る。したがって、溶接部の強度を高くし得る。
【0025】
第4の発明では、掘削時に特に大きい応力が生じる屈曲部にハイブリッド溶接がなされる。したがって、油圧ショベルのアタッチメントの疲労強度を高くし得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】油圧ショベルの側面図である。
【図2】図1に示すブームの屈曲部近傍の断面図である。
【図3】図2に示す範囲F3をの拡大図である。
【図4】従来の油圧ショベルの側面図である。
【図5】従来のブームの側面図である。
【図6】図5に示すブームの屈曲部近傍の断面図である。
【図7】ブーム断面の四隅のうちの一つの隅の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る油圧ショベルのアタッチメントの実施形態について図面を参照して説明する。
【0028】
図1は本発明に係る油圧ショベルのアタッチメントを備えた、油圧ショベル全体の側面図である。図2は図1に示すブームの屈曲部近傍における断面図である。図3は図2に示す範囲F3の拡大図である。図1〜図3を参照して、アタッチメント1を備えた油圧ショベル10の構成について詳細に説明する。
【0029】
(油圧ショベル全体について)
油圧ショベル10は、土木、建築工事などで広く使用される掘削機である。この油圧ショベル10は、図1に示すように、本体20(図1における右側の部分)およびアタッチメント1(図1における左側の部分)から構成される。本体20は、操縦部21、原動機部22、旋回台23、および走行装置24を有する。
【0030】
アタッチメント1は、掘削などを行う部分である。ここで掘削とは、掘ることや、削ることのみでなく、例えば土砂を押し固める作業など、油圧ショベル10を用いた作業全般をいう。このアタッチメント1は、本体20に取り付けられ、屈伸可能である。また、このアタッチメント1は、本体20に近い側から、ブーム40、アーム33、および、バケット35を有する。さらにこれらを動作させるための、ブームシリンダ32、アームシリンダ34、および、バケットシリンダ36を有する。
【0031】
ブーム40は、ほぼ棒状であり、屈曲部42で「へ」の字に曲がった形状である。この屈曲部42は、ブーム40長手方向(「へ」の字に沿う方向)中央付近の屈曲した範囲を占める部分である。また、このブーム40は次のように設ける。一端で本体20と連結する(図1において本体20から左側に延びるよう連結している)。本体20側端部(ブームフットと呼ばれる。図示なし)を中心とする回転運動により、上下動自在である。また、屈曲部42の側面の孔44(センターボスと呼ばれる。後述)でブームシリンダ32と連結する。このブームシリンダ32でブーム40を駆動する。なお、このブーム40は、ブーム本体41と、その上面に取り付けたブラケット40bとを有する。ブーム本体41の詳細については後述する。
【0032】
ブームシリンダ32は、棒状であり、ブーム40を動作させるために設ける。このブームシリンダ32は、次のように設ける。ブーム40の屈曲部42より本体20側(図1における右側)の直線部分にほぼ沿うように設ける。ブーム40の幅方向(図1の手前と奥の方向)において、ブーム40の外側に2本設ける(図1では手前側の1本のみ図示している)。一端を本体20に連結する。他端をブーム40側面の孔44に連結する。このブームシリンダ32が伸縮することで、ブーム40が本体20側の端部(図示なし)を中心に上下動できる。
【0033】
アーム33は、棒状であり、次のように設ける。一端にアームシリンダ34を連結する。この一端よりやや他端側にブーム40の先端を連結する。この連結部分を中心とする回転運動により、ブーム40に対して屈伸自在である。また、連結したアームシリンダ34の駆動により屈伸できる。
【0034】
アームシリンダ34は、棒状であり、アーム33を動作させるために次のように設ける。ブーム40の屈曲部42より先端側(図1における左側)の直線部分に沿うように設ける。一端はブーム40上面のブラケット40bに連結する。他端はアーム33の端部に連結する。このアームシリンダ34が伸縮することで、アーム33はブーム40に対して屈伸できる。
【0035】
バケット35は、掘削を行う部分である。このバケット35は次のように設ける。アーム33の端部に連結する。この連結部分を中心とする回転運動により、アーム33に対して揺動自在である。また、連結したバケットシリンダ36の駆動により揺動できる。
【0036】
バケットシリンダ36は、棒状であり、バケット35を動作させるために、次のように設ける。アーム33に沿うように設ける。一端をアーム33に連結し、他端をバケット35に連結する。このバケットシリンダ36が伸縮することで、バケット35がアーム33に対して揺動できる。
【0037】
(ブームの詳細について)
次に、ブーム40についてさらに説明する。図2にブーム本体41の屈曲部42(図1参照)近傍における断面を示す。このブーム本体41は、上板45、下板46、側板47、および、側板48の4枚の板で矩形(箱型)の断面を形成している。また、矩形の四隅(4枚の板が接する部分)には、4つの溶接部41wを有する。以下、これらの部材、部分について説明する。
【0038】
上板45、下板46、側板47、および、側板48は、ブーム本体41を形成する板であり、次のように設ける。4枚の板で矩形の断面を形成している。この矩形は、側板47および側板48を、上板45および下板46で上下方向から挟んだような形状である。すなわち、側板47および側板48が対向する方向(図2における左右方向)において、上板45および下板46の端部は、側板47および側板48よりも外側に突出している。なお、この矩形は、側板47および側板48が対向する方向(図2における左右方向)の長さに比べ、上下方向の長さがやや長い。
【0039】
溶接部41wは、ブーム本体41を形成する4枚の板の溶接部分である。この溶接部41wは、矩形の四隅(4枚の板が接する部分)を、ブーム本体41の外側から隅肉溶接することで形成された溶接金属(溶接中に溶融凝固した金属)である。図3に、図2に示した4つの溶接部41wのうち、上板45と側板47との接触部分に形成された溶接部41w(図2における右上の溶接部41w)周辺の、範囲F3の拡大図を示す。なお図2および図3において、溶接部41wの上下方向の境界を破線で示している。図3に示すように、この溶接部41wは未溶着なく形成される。すなわち次のように形成される。側板47および側板48が対向する方向(図2、図3における左右方向)において、上板45の下面に沿うように連続して(途切れることなく)形成される。同方向において、外側端部41o(図3における右側端部)は、側板47の外側面47oよりも、外側に形成される。同方向において、内側端部41i(図3における左側端部)は、側板47の内側面47iよりも、内側に形成される。言い換えれば、側板47の外側面47oの外側から、内側面47iの内側までの間で、溶接部41wが途切れていない。すなわち、溶接部41wには未溶着がない。また、残りの3つの溶接部41w(図2における右下、左上、および、左下の溶接部41w)も同様に未溶着なく形成されている。次に、この溶接部41wを形成する溶接方法について説明する。
【0040】
溶接部41wを形成する溶接方法は、アーク溶接とレーザ溶接とを組み合わせたハイブリッド溶接である。さらに詳しくは、MAG(Metal Active Gas)溶接(アーク溶接の一種)と、ファイバレーザ溶接(レーザ溶接の一種)とを組合せたハイブリッド溶接である。さらに、MAG溶接がファイバレーザ溶接よりも先行するハイブリッド溶接である。具体的には次のように溶接を行う。
MAG溶接用の溶接トーチと、ファイバレーザ溶接用の溶接トーチとを組み合わせた一つの溶接トーチ(図示なし)を用意する。この溶接トーチを、ブーム本体41の長手方向に沿う溶接部41wの溶接線(図1参照)に沿って動かしながら溶接を行う。このとき、MAG溶接用の溶接トーチが進行方向の前側、ファイバレーザ溶接用の溶接トーチが進行方向の後ろ側になるようにする。すなわち、MAG溶接を先行、ファイバレーザ溶接を後追いとする。以下、MAG溶接、ファイバレーザ溶接、および、ハイブリッド溶接についてさらに説明する。
【0041】
MAG溶接は、例えば二酸化炭素、また例えば二酸化炭素とアルゴンとの混合ガスなどをシールドガスとして用い、溶接棒(溶接ワイヤ)を電極とするアーク溶接である。溶接棒と母材(上板45、下板46、側板47、および、側板48)との間にアークを発生させ、溶接棒および母材を溶融する。すなわち溶湯(溶融した金属)を生じさせる。そして溶湯が冷却して凝固することで、母材が溶接される。
【0042】
レーザ溶接は、レーザ光をレンズで集光し、溶接部を加熱、溶融することにより溶接するものである。また、ファイバレーザ溶接は、共振器に光ファイバーを用いたレーザによりレーザ溶接するものである。
【0043】
アーク溶接(MAG溶接)と、レーザ溶接(ファイバレーザ溶接)とを比較すると、溶け込みは、レーザ溶接の方がアーク溶接よりも深く、長細くなる。また、溶湯(溶融した金属)については、アーク溶接では母材だけでなく溶接棒も溶融するが、レーザ溶接では溶接棒を用いないため、アーク溶接の方がレーザ溶接よりも溶湯が多い。そして、これらの溶接の長所を組み合わせたものがハイブリッド溶接である。
【0044】
ハイブリッド溶接は、アーク溶接とレーザ溶接とを組み合わせた溶接である。本実施形態ではMAG溶接(アーク溶接)をファイバレーザ溶接(レーザ溶接)より先行して行う。すなわち、溶接部41wは次のように形成される。まず図3に示すブーム本体41の外側(外側面47oの外側。図3における右側)から溶接部41wに対してMAG溶接を行う。これにより、主に溶接部41wの外側端部41oの位置に溶湯が生じる。その直後、ブーム本体41の外側から、側板47の厚さ方向(図2および図3における左右方向)に沿うようにファイバレーザ溶接を行う。このファイバレーザ溶接とMAG溶接との相乗効果により、溶け込みが内側面47iにまで達する。そして、MAG溶接により生じた溶湯がこの溶け込みに送り込まれ、内側面47iより内側に出る。このはみ出た溶湯が内側端部41iになる。こうして溶接部41wが形成される。
【0045】
(本実施形態の油圧ショベルのアタッチメントの特徴)
本実施形態の油圧ショベル10のアタッチメント1には以下の特徴がある。
【0046】
油圧ショベル10のアタッチメント1(図1参照)を構成するブーム40のブーム本体41は、図2および図3に示すように、上板45、下板46、側板47、および、側板48をハイブリッド溶接により溶接したものである。このハイブリッド溶接はアーク溶接およびレーザ溶接のいずれか一方のみなされた場合に比べ、溶け込みを深くし得る。よって、アタッチメント1(図1参照)のブーム本体41の外側からの溶接のみで、溶接部41wの未溶着をなくし得る。よって、この未溶着をなくした場合は、この未溶着がある場合に比べ、溶接部41wの強度を高くできる。したがって、この未溶着がある場合に比べ、アタッチメント1の疲労強度を高くし得る。
また、この未溶着をなくすために、深い開先を取る必要がない。よって、開先を深く取りすぎることによる、溶湯の抜け落ちを抑制できる。よって、溶接部41wの溶接が確実にされ得る。したがって、この溶湯の抜け落ちにより溶接が確実にされなかった場合に比べ、溶接部41wの強度を高くし得る。
【0047】
アタッチメント1(図1参照)のブーム本体41は、次のように溶接される。まずアーク溶接により溶湯が生じる。次に、レーザ溶接をすることで、レーザ溶接とアーク溶接との相乗効果により、アーク溶接のみ行う場合に比べて深い溶け込みが生じる。そして、アーク溶接により生じた溶湯は、この深い溶け込みに送り込まれる。このようにハイブリッド溶接がなされることで、第1の発明と同様に溶接部41wの強度を高くし得る。
【0048】
アタッチメント1(図1参照)のブーム本体41に行うハイブリッド溶接のうち、アーク溶接はMAG溶接である。すなわち酸化性のシールドガスを用い、溶接棒(溶接ワイヤ)を電極としたアーク溶接がブーム本体41になされる。よって、ブローホール(空洞)の発生を抑制できる。したがって、溶接部41wの強度を高くし得る。
また、ハイブリッド溶接のうち、レーザ溶接はファイバレーザ溶接である。このファイバレーザは、共振器に光ファイバを用いないレーザに比べ、レーザ強度の安定性が高い。よって、溶接部41wは高い安定性で溶接され得る。したがって、溶接部41wの強度を高くし得る。
【0049】
油圧ショベル10の掘削時において、ブーム40の屈曲部42には、他の部分に比べ特に大きい応力が生じる。そしてこの屈曲部42に対してハイブリッド溶接がされている。すなわち溶接部41wに未溶着がない。したがって、この屈曲部42にハイブリッド溶接がされていない場合に比べ、油圧ショベル10のアタッチメント1の疲労強度を高くし得る。
【0050】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0051】
例えば上記実施形態では、図2および図3に、屈曲部42(図1参照)近傍のブーム本体41の断面図を示した。しかしながら、図2および図3に示した溶接部41wは、屈曲部42近傍以外の場所にあっても良い。さらに、ブーム40だけでなくアーム33にあっても良い。すなわち、油圧ショベル10のアタッチメント1の、屈曲部42以外の部分に対してハイブリッド溶接をしても良い。この場合、油圧ショベル10のアタッチメント1は、より疲労強度が高い。
【0052】
また例えば、図1に示すように、アタッチメント1には、バケット35を取り付けた。しかし、ここにニブラー、ブレーカなどバケット以外のものを取り付けても、本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 アタッチメント(油圧ショベルのアタッチメント)
42 屈曲部
45 上板
46 下板
47 側板
48 側板





【特許請求の範囲】
【請求項1】
上板、下板、および、側板を、アーク溶接とレーザ溶接とを組み合わせたハイブリッド溶接により溶接してなる油圧ショベルのアタッチメント。
【請求項2】
前記ハイブリッド溶接はアーク溶接が前記レーザ溶接より先行する請求項1に記載の油圧ショベルのアタッチメント。
【請求項3】
前記アーク溶接はMAG溶接であり、上記レーザ溶接はファイバレーザ溶接である請求項2に記載の油圧ショベルのアタッチメント。
【請求項4】
前記上板、下板、および、側板を有するブームの屈曲部に対して前記ハイブリッド溶接がされてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の油圧ショベルのアタッチメント。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−6837(P2011−6837A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148226(P2009−148226)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】