説明

油圧シリンダ

【課題】油圧シリンダのピストンロッドに特別な高強度材を用いたり熱処理をすることなく、簡単な構造でピストン締結部分の強度を向上する。
【解決手段】ピストンロッド3の先端に雄ネジ部3dを形成し、ピストン4に、ピストンロッド3の雄ネジ部3dに噛み合い可能な雌ネジ部4aを形成した有底の凹所4bを形成し、凹所4bの底部4cに凹所4bに開口する6個のネジ付貫通孔4dが形成されている。クッションリング30を挿入部3cに挿入した後、ピストンロッド3の雄ネジ部3dにピストン4の凹所4bの雌ネジ部4aを、ピストンロッド3の端面3fがピストン4の凹所4bの底部4cに接触するまでねじ込み、この状態でボルト22をネジ付貫通孔4dにボルト22の先端がピストンロッド3の端面3fに当たるまでねじ込み、ボルト22を指定トルクまで締め付けることにより、ピストン4はピストンロッド3に締結される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は油圧シリンダに係わり、特に油圧ショベル等の油圧作業機械に使用される油圧シリンダにおけるピストンの締結構造を改良した油圧シリンダに関する。
【0002】
【従来の技術】油圧ショベルに代表される油圧作業機械においては、作業部材を駆動するためのアクチュエータとして油圧シリンダが使用されている。この油圧シリンダは、図7に示すように、シリンダ本体102と、シリンダ本体102内を移動するピストンロッド103と、ピストンロッド103の先端に設けられ、シリンダ本体102内をロッド側のチャンバ107aとボトム側のチャンバ107bに区切るピストン104とからなっている。このような油圧シリンダのピストン締結構造として、一般に、ピストンロッド103の先端部分に段差部103eを介して小径のピストン挿入部103fを設け、ピストン挿入部103fの先端部分に雄ネジ部103gを形成し、ピストン104をピストン挿入部103fに挿入し、ピストン104が段差部103eに当接するようナット112を雄ネジ部103gに締め込むことでピストン104を固定し、ピストンロッド103に締結している。
【0003】このようなピストン締結構造は例えば実公平7−16888号公報に開示されている。
【0004】図8は従来のピストン締結構造の他の例を示すものである。この例は実開昭57−203103号公報に示されるものであり、ピストン104を挿入するピストン挿入部103jに更に環状溝103kを設け、ピストン104を段差部103mに当接するまで嵌合した状態で、環状溝103kに円形リングを半径方向に2分割した半リング形状のフランジ160を嵌合し、このフランジ160をピストン104にボルト170で固着することでピストン104を固定し、ピストンロッド103に締結している。この場合、ピストン104によって区切られるシリンダ本体102内のチャンバ107a,107b間を封止するためピストン挿入部103jとピストン104間にはOリング180を設けている。
【0005】一方、油圧シリンダにはピストンロッドのストロークエンドでの衝撃を緩和するためクッション装置が設けられている。図7はクッションリングを用いたフローティングタイプ(浮動型)のクッション装置も示している。
【0006】図7において、ピストンロッド103とピストン挿入部103fとの間にクッションリング挿入部103aを設け、ピストンロッド103、クッションリング挿入部103a、ピストン挿入部103fの順で径を細くすると共に、クッションリング挿入部103aにクッションリング130が軸方向及び径方向に移動可能に遊嵌されている。クッションリング130のピストン側端部には溝130aが設けられ、反対側の端部はピストンロッド103とクッションリング挿入部103aとの境界である段差部103bに密着可能である。このクッションリング130は、油圧シリンダが伸長しストロークエンド近傍で給排ポート手前のクッション穴に突入するとき、クッション穴に対し調芯機能を果たしつつチャンバ107aにクッション圧を立て、ストローク速度を減速しストロークエンドでの衝撃を緩和する。また、油圧シリンダがそのストロークエンド位置から収縮するときは、溝130aを圧油が通過する一方向流路機能によりクッション穴から抜出し良く作動する。
【0007】このようなフローティングタイプのクッション装置も、例えば上記の実公平7−16888号公報に開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】図7に示した油圧シリンダにおいては、上記のようにボトム側のチャンバ107bに圧油が供給されるとピストンロッド103が図示左方に移動して油圧シリンダが伸長し、ロッド側のチャンバ107aに圧油を供給すると、ピストンロッド103が図示右方に移動して油圧シリンダは収縮する。油圧ショベル等の油圧作業機械ではこのような油圧シリンダの伸縮が頻繁に行われ、その都度ピストン104にチャンバ107a又は107bの圧力が作用する。
【0009】ところで、図7に示した従来のピストン締結構造では、上記のようにピストン104を段差部103eに当接した状態でナット112を雄ネジ部103gに締め込むことにより締結されているため、雄ネジ部103gに働く主応力は引張応力となる。そして、チャンバ107a又は107bの圧力がピストン104に作用するとき、この圧力はそのような引張応力が作用している雄ネジ部103gの断面にかかることとなり、ピストンロッド103はこの雄ネジ部103gより破損しやすかった。
【0010】この様子を図9に示す。図9は、ピストン挿入部103fの雄ネジ部103gに作用する最大主応力とネジ山数との関係を示したものである。ネジ山数はナット112締め付け時の荷重点、即ちピストン104とナット112の接触面から数えている。雄ネジ部103gに作用する引張応力はボトム側加圧時とボトム側加圧時とで繰り返し増減しかつ第1ネジ山部に最大の引張応力がかかり、雄ネジ部103gの破損は第1ネジ山部で起こる。
【0011】ピストンロッドにクッション装置を設けた場合は、クッション圧を立てるため、雄ネジ部103gに作用する引張応力の振幅は拡大し、雄ネジ部103gは更に破損し易くなる。
【0012】このように図7に示す従来のピストン締結構造では、雄ネジ部103gから破損し易く、この破損を極力低減するためピストンロッド103の材質を高強度材としたり、雄ネジ部103gに熱処理を施したりして雄ネジ部103gの第1ネジ山部の強度をアップする必要があった。
【0013】また、図8に示した従来のピストン締結構造では、ピストン104にかかる圧力はピストン挿入部103jの環状溝103k部の断面で受けることになり、この部分から破損しやすく図7のものと同様にピストンロッド103の強度アップが必要である。また、この構造では、2個の半リング形状のフランジ160が必要となり、更にピストン104によって分けられた2つのチャンバ107a,107b間を封止するのにピストン挿入部103jとピストン104間にOリング180が必要となり、部品点数が多くなるという問題もあった。
【0014】本発明の目的は、ピストンロッドに特別な高強度材を用いたり熱処理をすることなく、簡単な構造でピストン締結部分の強度を向上できる油圧シリンダを提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】(1)上記目的を達成するために、本発明は、ピストンロッドの先端にピストンを締結し、このピストンでシリンダ本体内をロッド側のチャンバとボトム側のチャンバに区分する油圧シリンダにおいて、前記ピストンロッドの先端に雄ネジ部を設け、前記ピストンに前記雄ネジ部が噛み合い可能な雌ネジ部を有する有底の凹所を形成し、かつこのピストンの凹所の底部に前記凹所に開口するネジ付貫通孔を形成し、前記ピストンの有底凹所の雌ネジ部を前記ピストンロッドの先端の雄ネジ部にねじ込み、前記ピストンに形成されたネジ付貫通孔にボルトを、このボルトの先端が前記ピストンロッドの端面に接触するまでねじ込み、当該ボルトを締め付けることによりピストンをピストンロッドに固定したものとする。
【0016】このようにボルトで締め付けてピストンをピストンロッドに固定することにより、1)ピストンロッドの雄ネジ部とボルトの雄ネジ部は従来と違って圧縮応力を受ける;
2)ボルト締付け時の荷重点と油圧力の負荷時の荷重点は異なるため、ピストンロッド及びボルトのいずれも、ボルト締め付け時に荷重の分担が大きい側の雄ネジ部のネジ山には、油圧力負荷時に振幅の小さい側の応力が作用する;
3)ロッド側からの油圧力及び衝撃は主にピストンロッドの雄ネジ部で受け、ボトム側からの油圧力及び衝撃は主にボルトで受けるというように、各ネジ部での役割が分担する。
【0017】上記2),3)より各雄ネジ部の応力振幅は小さくなり、上記1)と相俟ってピストンロッドとボルトの耐衝撃性が向上する。このため、ピストンロッドに特別な高強度材を用いたり熱処理をすることなく、簡単な構造でピストン締結部分の強度を向上でき、長寿命化が図れる。
【0018】(2)上記(1)において、好ましくは、前記ピストンロッドの前記ピストンに隣接した部分に、径方向、軸方向に移動可能なフローティングタイプのクッションリングを遊嵌し、前記ピストンロッドのストロークエンドでの衝撃を緩和する。
【0019】これによりクッション作用が得られると共に、このようなクッションリングを備えた油圧シリンダであっても、上記の1),2),3)よりピストンロッドとボルトの耐衝撃性が向上し、長寿命化が図れる。
【0020】(3)また、上記目的を達成するために、本発明は、ピストンロッドの先端にピストンを締結し、このピストンでシリンダ本体内をロッド側のチャンバとボトム側のチャンバに区分する油圧シリンダにおいて、前記ピストンロッドの先端に雄ネジ部を設け、前記ピストンに前記雄ネジ部が噛み合い可能な雌ネジ部を有する有底凹所を形成し、このピストンの有底凹所の雌ネジ部を前記ピストンロッドの先端の雄ネジ部にねじ込み、締め付けることによりピストンをピストンロッドに固定したものとする。
【0021】このようにピストンを締め付けてピストンをピストンロッドに固定することによっても、上記1)のようにピストンロッドの雄ネジ部は従来と違って圧縮応力を受けるため、ピストンロッドの耐衝撃性が向上し、ピストンロッドに特別な高強度材を用いたり熱処理をすることなく、簡単な構造でピストン締結部分の強度を向上でき、長寿命化が図れる。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【0023】図1は本発明の一実施形態による油圧シリンダ1を全体的に示しており、図2はピストン部分の拡大図を示している。
【0024】図1において、油圧シリンダ1は、シリンダ本体2、ピストンロッド3、ピストン4を有し、シリンダ本体2は、一端5a側が閉塞し他端5b側が開口した円筒形のチューブ5と、このチューブ5の開口端部5bに固着して設けられたロッド側シリンダヘッド6とで構成されている。ピストンロッド3はロッド側シリンダヘッド6を貫通してチューブ5の内外に伸びており、シリンダ本体2内に位置するピストンロッド3の先端に、チューブ5内を摺動可能でありかつシリンダ本体2内をロッド側のチャンバ7aとボトム側のチャンバ7bとに区分するピストン4が締結されている。ピストン4の外周には、図2に示すようにシールリング13、ウエアリング14、コンタミシール15が設けられている。ロッド側シリンダヘッド6にはチャンバ7aに対する作動油の給排ポート8が設けられ、チューブ5の閉塞端部5aにはチャンバ7bに対する作動油の給排ポート9が設けられている。
【0025】給排ポート9よりボトム側のチャンバ7bに圧油を供給し、ロッド側のチャンバ7aに通じる給排ポート8をタンクに接続すると、ピストン4が図示左方のロッド側シリンダヘッド6側に摺動変位してピストンロッド3をシリンダ本体3から突出するよう移動し、油圧シリンダ1が伸長する。また、給排ポート8を介してロッド側のチャンバ7aに圧油を供給し、ボトム側のチャンバ7bに通じる給排ポート9をタンクに接続すると、ピストン4が図示右方のチューブ5の閉塞端部5a側に摺動変位してピストンロッド3をシリンダ本体2内に引き込むよう移動し、油圧シリンダ1が収縮する。シリンダ本体2のチューブ閉塞端部5aに設けた取付部10とピストンロッド3の外側の先端に設けた取付部11の一方を固定側部材に枢着し、他方を可動側部材に枢着することにより当該動側部材を駆動することができる。
【0026】次に、本発明の特徴であるピストン締結構造とクッション装置を図2を用いて説明する。
【0027】図2において、ピストンロッド3の先端部分には小径部3aが設けられ、小径部3aは径方向の段差部3bによりピストンロッド3の本体側と区切られている。小径部3aはクッションリング挿入部3cと雄ネジ部3dとを有し、クッションリング挿入部3cには軸方向及び径方向に移動可能にロッド側クッションリング30が遊嵌され、雄ネジ部3dにはピストン4がねじ込み固定されている。また、クッションリング挿入部3cの雄ネジ部3dに隣接した部分にはクッションリング挿入部3cの研磨時の逃げ部となるR部3eが形成されている。クッションリング30のピストン側端面には溝30aが設けられている。
【0028】ピストン4は、ピストンロッド3の雄ネジ部3dに噛み合い可能な雌ネジ部4aを形成した有底の凹所4bを有し、かつ凹所4bの底部4cには凹所4bに開口する複数個、例えば6個のネジ付貫通孔4dが形成されている。
【0029】また、ピストンロッド3の雄ネジ部3dの端面3f中央には位置決め突起3gが突設され、ピストン4の凹所4bの底部4c中央には突起3gが嵌合する位置決め凹所4eが形成されている。
【0030】クッションリング30を挿入部3cに挿入した後、ピストンロッド3の雄ネジ部3dにピストン4の凹所4bの雌ネジ部4aを、ピストンロッド3の端面3fがピストン4の凹所4bの底部4cに接触するまでねじ込み、この状態でボルト22をネジ付貫通孔4dにボルト22の先端がピストンロッド3の端面3fに当たるまでねじ込み、ボルト22を指定トルクまで締め付けることにより、ピストン4はピストンロッド3に締結される。
【0031】ボルト22を締め付けたときのピストンロッド3の雄ネジ部3dとピストン4の雌ネジ部4aとの噛み合い状態を図2の左上に、ボルト22とネジ付貫通穴4dとの噛み合い状態を図2の右上にそれぞれ拡大して示す。後者において、22aはボルト22の雄ネジ部22aであり、4fはネジ付貫通穴4dの雌ネジ部である。ボルト22で締め付けることにより、ピストンロッド3の雄ネジ部3dとボルト22の雄ネジ部22aは従来と違って両方とも圧縮応力を受ける。
【0032】図3及び図4にボルト締め付け時の雄ネジ部3d,雄ネジ部22aの応力分布をそれぞれ曲線A,Bで示す。図3の横軸は、ピストン4のロッド側の端面4gから数えたネジ山数であり、図4の横軸は、ボルト22の先端から数えたネジ山数である。
【0033】ピストンロッド3の雄ネジ部3dとピストン4の雌ネジ部4aとの噛み合い部においては雄ネジ部3dに対する締付け力は圧縮応力となり、かつボルト22の締付け荷重点がピストンロッド3の端面3fにあるため、図3にAで示すように第一ネジ山からネジ山数が大きくなるにつれて圧縮応力が大きくなる。ボルト22とネジ付貫通穴4dとの噛み合い部においても、ボルト22の雄ネジ部22aに対する締付け力は圧縮応力となり、かつボルト22の締付け荷重点が折ると22の先端にあるため、図4にBで示すように第一ネジ山からネジ山数が大きくなるにつれて圧縮応力が小さくなる。
【0034】次にチャンバ7a又はチャンバ7bに圧油を導入しピストン4に油圧力を負荷した時、雄ネジ部3d,22aに作用する力について説明する。図3の曲線Cはロッド側に油圧力を負荷した時のピストンロッド3の雄ネジ部3dの応力分布を示し、図4の曲線Dはボトム側に油圧力を負荷した時のボトル22の雄ネジ部22aの応力分布を示す。
【0035】ロッド側チャンバ7aから油圧力を負荷した時:油圧力の荷重点はボルト22の締付け時の荷重点と違ってピストン4のロッド側の端面4gにあるため、油圧力の荷重は圧縮応力σaとして雄ネジ部3dの第一ネジ山から順次隣のネジ山へと伝わる。この場合、ロッド側から負荷された油圧力の荷重は、ボルト締付け時に締付け荷重を分担していない側(第一ネジ山側)のネジ山に分担される。換言すれば、油圧力による応力σaは油圧力が負荷される度に繰り返し発生するが、油圧力による振幅の大きい側の応力はボルト22の締付け応力の高いネジ山には分担させず、締付け応力をあまり分担しない側のネジ山に分担させている。また、ロッド側の油圧力は、大部分がピストンロッド3の雄ネジ部3dで分担されるため、ボルト22では油圧力の荷重を殆ど分担しない。
【0036】ボトム側チャンバ7bから油圧力を負荷した時:油圧力のか重点はボルト22の締付け時の荷重点と違ってピストン4のボトム側端面4hにあるため、上記の説明と同じように、油圧力の荷重は圧縮応力σbとしてピストン4の端面4h側の雄ネジ部22aのネジ山から順次隣のネジ山へと伝わる。この場合も、油圧力の荷重は、ボルト締め付け時に荷重を分担していない側のネジ山に分担される。換言すれば、油圧力による応力σbは油圧力が負荷される度に繰り返し発生するが、油圧力による振幅の大きい側の応力はボルト22の締付け応力の高いネジ山には分担させず、締付け応力をあまり分担しない側のネジ山に分担させている。また、ボトム側の油圧力は、大部分がボルト22の雄ネジ部22aで分担されるため、ピストンロッド3の雄ネジ部3では油圧力の荷重を殆ど分担しない。
【0037】以上を要約すると、1)ボルト22で締め付けることにより、ピストンロッド3の雄ネジ部3dとボルト22の雄ネジ部22aは従来と違って圧縮応力を受ける。
【0038】2)ボルト締付け時の荷重点と油圧力の負荷時の荷重点は異なるため、ピストンロッド3及びボルト22のいずれも、ボルト締め付け時に荷重の分担が大きい側の雄ネジ部3d,22aのネジ山には、油圧力負荷時に振幅の小さい側の応力が作用する。
【0039】3)ロッド側からの油圧力及び衝撃は主にピストンロッド3の雄ネジ部3dで受け、ボトム側からの油圧力及び衝撃は主にボルト22で受けるというように、各ネジ部での役割が分担する。
【0040】上記2),3)より各雄ネジ部3d,22aの応力振幅は小さくなり、上記1)と相俟ってピストンロッド3とボルト22の耐衝撃性が向上する。このため、ピストンロッド3に特別な高強度材を用いたり熱処理をすることなく、簡単な構造でピストン締結部分の強度を向上でき、長寿命化が図れる。
【0041】次にクッションの作用について説明する。
【0042】ピストンロッド3が図1に示す状態にあるとき、ボトム側の給排ポート9に圧油を導入すると、ピストンロッド3は図示左方向に移動し、油圧シリンダ1が伸長する。ストロークエンド近傍でクッションリング30が、ロッド側シリンダヘッド6に設けられたクッションリング嵌合部6aに突入すると、嵌合部6aの油路が絞られ、チャンバ7aにクッション圧を立て、ピストンロッド3の移動速度を減速しストロークエンドでの衝撃を緩和する。この際、クッションリング30は径方向、軸方向共移動可能となっており、クッションリング嵌合部6aの穴形状に倣って調芯しながら突入していくため、クッションリング30と嵌合部6aとのかじりの心配が無い(調芯機能)。
【0043】また、クッションリング30の嵌合部6aへの突入時、クッション圧がチャンバ7aに発生し、クッションリング30の嵌合部6aへの突入側(給排ポート8側)とピストン4側(チャンバ7a側)とに圧力差が生じ、クッションリング30は段差部3bの端面に押し付けられ密着するので、チャンバ7aの圧油がクッションリング挿入部3aの外周面とクッションリング30の内周面との間を通って給排ポート8に流出することは無い。そして、ストロークエンド到達後、縮み方向(図示右方)にピストンロッド3が動き始め、クッションリング30が嵌合部6aから抜け出す時、給排ポート8からの圧油はクッションリング30の外周面と嵌合部6aの内周面との隙間を通ってチャンバ7aへと流れ込む。この時、クッションリング30は給排ポート8からの油圧によりピストン4の端面4gに押し付けられるが、クッションリング30のピストン側端面には溝30aが設けられているため、圧油はクッションリング挿入部3aの外周面とクッションリング30の内周面との隙間から溝30aを通ってチャンバ7aへと流れ込み、抜き出し良く作動する(一方向流路機能)。
【0044】また、以上のようにチャンバ7a,7bにクッション圧を立ててクッション作用を得るとき、油圧力は相当高くなり、油圧力による雄ネジ部3d及び22aに作用する応力の振幅も大きくなるが、本実施形態によれば、このような場合でも上記の1),2),3)よりピストンロッド3とボルト22の耐衝撃性が向上し、長寿命化が図れる。
【0045】以上のように構成した本実施形態によれば次の効果が得られる。
【0046】(1)本実施形態のピストン締結構造では、上記の1),2),3)よりピストンロッド3の雄ネジ部3d及びボルト22の雄ネジ部22aが圧縮応力を受けかつ各雄ネジ部3d,22aでの応力振幅が小さくなるので、ピストンロッド3とボルト22の耐衝撃性が向上すると共に、ピストン4の材料を強いものにすることは容易であるため、ピストン締結部分の強度が向上し、ピストンロッド3の寿命が向上する。
【0047】(2)ピストンロッド3の雄ネジ部3dが圧縮応力を受けかつ雄ネジ部3dでの応力振幅が小さくなるので、ピストンロッド3に高強度材を用いる必要なく、熱処理によるよる強度アップも必要無くなるので、低コストな材料で安価にピストンロッド3を作れる。
【0048】(3)従来のピストンロッドにあった小径のピストン挿入部が不要となり、ピストンロッド1にロッド側のクッションリング30の挿入部3cのみを設ければ良いため、ピストンロッド3に余分に段差をつける必要が無く、段差部での破損の問題も低減する。
【0049】(4)ピストンロッド3の全長はボルト22の頭までの長さで決まり、従来のように大きなナットを用いる場合に比べて、油圧シリンダの有効ストロークを長くできる。
【0050】(5)複数のボルト22を用いるので、一つ一つのボルトの締付けトルクを小さくでき、組立て、分解が容易できる。
【0051】本発明の第2の実施形態を図5により説明する。図中、図2に示す部材と同等のものには同じ符号を付している。
【0052】図5において、本実施形態の油圧シリンダのピストン4Aは、ピストンロッド3の雄ネジ部3dに噛み合い可能な雌ネジ部4aを形成した有底の凹所4bを有しており、この点は第1の実施形態と同じである。しかし、第1の実施形態が、凹所4bの底部4cに複数のネジ付貫通孔4dを形成していたのに対して、本実施形態では単一の大径のネジ付貫通孔4Adを形成し、このネジ付貫通孔4Adに1本の大径の雄ネジ部22Aaを有するボルト22Aをピストンロッド3の端面3fに当たるまでねじ込み、ボルト22Aを指定トルクまで締め付けることにより、ピストン4をピストンロッド3に締結している。
【0053】本実施形態によっても、上記1)〜3)の作用が得られ、上記(5)を除いて第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0054】本発明の第3の実施形態を図6により説明する。図中、図2に示す部材と同等のものには同じ符号を付している。
【0055】図6において、本実施形態の油圧シリンダのピストン4Bは、ピストンロッド3の雄ネジ部3dに噛み合い可能な雌ネジ部4aを形成した有底の凹所4bを有しており、この点は第1の実施形態と同じである。しかし、第1の実施形態が、凹所4bの底部4cに複数のネジ付貫通孔4dを形成していたのに対して、本実施形態では底部4Bcにはネジ付貫通孔は設けられておらず、底部4Bcは無孔の平坦面となっている。また、ピストン4Bの凹所4bの反対側には六角頭部4Bjが形成されている。
【0056】クッションリング30を挿入部3cに挿入した後、ピストンロッド3の雄ネジ部3dにピストン4の凹所4bの雌ネジ部4aを、六角頭部4Bjを用いてピストンロッド3の端面3fがピストン4の凹所4bの底部4Bcに接触するまでねじ込み、ピストン4Bを指定トルクまで締め付けることにより、ピストン4はピストンロッド3に締結される。
【0057】本実施形態によっても、ピストン4Bを締め付けることにより、ピストンロッド3の雄ネジ部3dは従来と違って圧縮応力を受けるため、ピストンロッド3の耐衝撃性が向上し、ピストンロッド3に特別な高強度材を用いたり熱処理をすることなく、簡単な構造でピストン締結部分の強度を向上でき、長寿命化が図れる。
【0058】
【発明の効果】本発明によれば、次の効果が得られる。
【0059】(1)ピストンロッドの雄ネジ部及びボルトの雄ネジ部が圧縮応力を受けかつ各雄ネジ部での応力振幅が小さくなるので、ピストンロッドとボルトの耐衝撃性が向上すると共に、ピストンの材料を強いものにすることは容易であるため、ピストン締結部分の強度が向上し、ピストンロッドの寿命が向上する。
【0060】(2)ピストンロッドの雄ネジ部が圧縮応力を受けかつ雄ネジ部での応力振幅が小さくなるので、ピストンロッドに高強度材を用いる必要なく、熱処理によるよる強度アップも必要無くなるので、低コストな材料で安価にピストンロッドを作れる。
【0061】(3)従来のピストンロッドにあった小径のピストン挿入部が不要となり、クッションリングがある場合でも、ピストンロッドにロッド側のクッションリングの挿入部のみを設ければ良いため、ピストンロッドに余分に段差をつける必要が無く、段差部での破損の問題も低減する。
【0062】(4)ピストンロッドの全長はボルト22の頭までの長さで決まり、従来のように大きなナットを用いる場合に比べて、油圧シリンダの有効ストロークを長くできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態による油圧シリンダの全体断面図である。
【図2】図1に示す油圧シリンダのピストン締結部の拡大詳細断面図である。
【図3】ボルト締め付け時及びロッド側からの油圧力負荷時のピストンロッドの雄ネジ部の応力分布を示す図である。
【図4】ボルト締め付け時及びボトム側からの油圧力負荷時のボルトの雄ネジ部の応力分布を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態による油圧シリンダのピストン締結部の拡大詳細断面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態による油圧シリンダのピストン締結部の拡大詳細断面図である。
【図7】従来の油圧シリンダのピストン締結部の断面図である。
【図8】従来の他の油圧シリンダのピストン締結部の断面図である。
【図9】従来の油圧シリンダにおけるピストンロッドの雄ネジ部に作用する応力分布を示す図である。
【符号の説明】
1 油圧シリンダ
2 シリンダ本体
3 ピストンロッド
3a 小径部
3b 段差部
3c クッションリング挿入部
3d 雄ネジ部
3e R部
3f端面
4 ピストン
4a 雌ネジ部
4b 凹所
3c 底部
4d ネジ付き貫通孔
4g,4h ピストン端面
4A ピストン
4Ad ネジ付き貫通孔
4B ピストン
4Bc 底部
4Bj 六角頭部
5 チューブ
6 ロッド側シリンダヘッド
7a,7b チャンバ
8,9 給排ポート
22 ボルト
22a 雄ネジ部
22A ボルト
22Aa 雄ネジ部
30 ロッド側クッションリング
30a 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】ピストンロッドの先端にピストンを締結し、このピストンでシリンダ本体内をロッド側のチャンバとボトム側のチャンバに区分する油圧シリンダにおいて、前記ピストンロッドの先端に雄ネジ部を設け、前記ピストンに前記雄ネジ部が噛み合い可能な雌ネジ部を有する有底の凹所を形成し、かつこのピストンの凹所の底部に前記凹所に開口するネジ付貫通孔を形成し、前記ピストンの有底凹所の雌ネジ部を前記ピストンロッドの先端の雄ネジ部にねじ込み、前記ピストンに形成されたネジ付貫通孔にボルトを、このボルトの先端が前記ピストンロッドの端面に接触するまでねじ込み、当該ボルトを締め付けることによりピストンをピストンロッドに固定したことを特徴とする油圧シリンダ。
【請求項2】請求項1記載の油圧シリンダにおいて、前記ピストンロッドの前記ピストンに隣接した部分に、径方向、軸方向に移動可能なフローティングタイプのクッションリングを遊嵌し、前記ピストンロッドのストロークエンドでの衝撃を緩和することを特徴とする油圧シリンダ。
【請求項3】ピストンロッドの先端にピストンを締結し、このピストンでシリンダ本体内をロッド側のチャンバとボトム側のチャンバに区分する油圧シリンダにおいて、前記ピストンロッドの先端に雄ネジ部を設け、前記ピストンに前記雄ネジ部が噛み合い可能な雌ネジ部を有する有底凹所を形成し、このピストンの有底凹所の雌ネジ部を前記ピストンロッドの先端の雄ネジ部にねじ込み、締め付けることによりピストンをピストンロッドに固定したことを特徴とする油圧シリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2000−283117(P2000−283117A)
【公開日】平成12年10月13日(2000.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−86123
【出願日】平成11年3月29日(1999.3.29)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】