説明

油圧テンショナ

【課題】内燃機関の始動直後など油圧が十分でない場合であれ、適切な圧力を容易に発生させることのできる油圧テンショナを提供する。
【解決手段】油圧テンショナ60は、ハウジング61に形成されたシリンダ62とこのシリンダ62から摺動自在に突出するプランジャ63との間に区画形成された油圧室66に供給される油圧に応じてプランジャ63の突出テンションを可変とする。油圧テンショナ60は、油圧室66には、プランジャ63がシリンダ62内に最も深く収納された位置(P2)と突出移動する途中の位置(P1)との限られた区間でプランジャ63を突出方向に付勢するアシストスプリング74が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプから供給される油圧に基づいてタイミングチェーンなどに張力を付与する油圧テンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイミングチェーンやタイミングベルトなどに張力を付与する油圧テンショナとしては、例えば特許文献1に記載されたものがある。図4に、特許文献1に記載の油圧テンショナとともに、こうした油圧テンショナが採用される内燃機関のタイミングチェーンの構造の一例を示す。
【0003】
同図4に示されるように、タイミングチェーン1は、車両などに搭載される内燃機関のクランクスプロケット21及びカムスプロケット31の間に掛け渡されており、このタイミングチェーン1によってクランクシャフト2の回転駆動力がカムシャフト3に伝達される。また、タイミングチェーン1は、固定ガイド4と、可動ガイド5とのガイドにより走行が案内されるとともに、適正な張力が付与される。可動ガイド5には、可動ガイド5を押圧することによりタイミングチェーン1に張力を付与する油圧テンショナ6が当接されている。
【0004】
この油圧テンショナ6は、図5に示すように、ハウジング11のシリンダ室12内に、シリンダ室12内を内外方向に移動可能なプランジャ13と、そのプランジャ13に外方向への弾性力を付与するリターンスプリング15とが組込まれている。また、ハウジング11には、プランジャ13の背部に形成された圧力室16に逆止弁19を介して連通する給油通路18が設けられている。さらに、圧力室16内には、プランジャ13を外方向に押圧するアシストスプリング17が組込まれている。これにより、リターンスプリング15とアシストスプリング17と油圧とにより付勢されて外方向へ突出するプランジャ13の押圧力が、可動ガイド5を介してタイミングチェーン1に張力を付与するとともに、この張力によりタイミングチェーン1の振動が抑えられるようなる。また、プランジャ13を外方向に押圧するアシストスプリング17の圧力が機関始動直後の圧力室16内のオイルによる油圧ダンパ力の不足を補うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−285341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、タイミングチェーンに付与する張力は、強すぎるとフリクションの増大を招き、弱すぎると振動を抑制できないこととなるため、適切に調整される必要がある。このような場合、特許文献1に記載の油圧テンショナは、リターンスプリング15とアシストスプリング17と油圧との3つ付勢力の相互関係に基づいてタイミングチェーンに張力を付与する構成であることから、タイミングチェーンに付与する張力の調整にかかる設計等の煩雑化が避けられないものとなっている。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関の始動直後など油圧が十分でない場合であれ、適切な圧力を容易に発生させることのできる油圧テンショナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果を記載する。
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ハウジングに形成されたシリンダとこのシリンダから摺動自在に突出するプランジャとの間に区画形成された圧力室に供給される油圧に応じて前記プランジャの突出テンションを可変とする油圧テンショナであって、前記圧力室には、前記プランジャが前記シリンダ内に最も深く収納された位置と突出移動する途中の位置との限られた区間で前記プランジャを突出方向に付勢するアシスト機構が設けられていることを要旨とする。
【0009】
このような構成によれば、プランジャは、突出移動する場合、その移動途中の位置まで突出方向へアシスト機構により付勢される一方、その移動途中の位置よりも先の位置ではアシスト機構から付勢されない。すなわち、アシスト機構は、突出量が少ないプランジャを突出方向に付勢する一方、突出量が多いときプランジャは付勢しない。このように、突出量が多くなったプランジャの突出移動は油圧により調整される。これにより、油圧の供給不足などにより油圧が低下して突出量が少なくなったプランジャは、突出方向へ力がアシスト機構の付勢により補助されるようになり、外部からの押し込み圧力に対して好適に対抗できるようになる。逆に、油圧が適正に供給されて突出量が多くなったプランジャは、油圧調整された付勢力を突出方向へ付与するようになる。これにより、プランジャの突出方向への付勢力は、突出量が少ない場合、アシスト機構の補助により好適に維持され、突出量が多い場合、油圧により好適に調整されるようになる。これにより、油圧が低下して十分でない場合であれ、タイミングチェーンなどへ付与する圧力を、タイミングチェーンの押し込み圧に応じ容易に発生させることができるようになることから、タイミングチェーンの振動などが好適に抑えられるようになる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の油圧テンショナにおいて、前記アシスト機構は、前記圧力室内に設けられた圧縮ばねからなることを要旨とする。
このような構成によれば、アシスト機構が圧縮ばねから構成されるので、その構成をきわめて簡単にすることができる。これにより、このような油圧テンショナの構造が簡単になり、コストも安くなる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の油圧テンショナにおいて、前記圧縮ばねは、前記プランジャの基端と前記シリンダの底壁との間に配置されることを要旨とする。
このような構成によれば、圧縮ばねをプランジャの後退方向に配置するというきわめて簡単な構造とすることができる。これによりこのような油圧テンショナの構造が簡単になり、コストも安くなる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の油圧テンショナにおいて、前記途中の位置は、前記圧縮ばねを自然長にする前記プランジャの位置であることを要旨とする。
このような構成によれば、圧縮ばねの有する自然長により途中の位置を特定できるので、これによってもこのような油圧テンショナの構造が簡単になり、コストも安くなる。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項に記載の油圧テンショナにおいて、前記シリンダの側面には、前記プランジャの突出方向に沿うガイド溝が形成されており、前記圧縮ばねの前記突出方向への伸長を前記ガイド溝の範囲に規制する規制機構が更に設けられていることを要旨とする。
【0014】
このような構成によれば、圧縮ばねがプランジャに付勢する範囲をガイド溝で規定することができるようになる。また、予め、圧縮ばねに押圧力を付与したかたちでガイド溝によりその伸長を規制するようにすれば、プランジャの突出量が少なくなったとき、高い付勢力を迅速にプランジャに補助することができるようになる。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の油圧テンショナにおいて、前記圧力室には、前記プランジャが突出する全範囲で前記プランジャを突出方向に付勢する付勢スプリングが設けられていることを要旨とする。
【0016】
このような構成によれば、油圧とともに付勢スプリングが、プランジャの突出方向へ付勢力を付与するため、プランジャの付勢力を調整することのできる範囲の拡大が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る油圧テンショナの一実施形態について、その概略構成を示す断面図。
【図2】同実施形態の油圧テンショナの動作の一例を模式的に示す断面図。
【図3】同実施形態の油圧テンショナのその他の実施形態について、その概略構成を示す断面図。
【図4】従来の油圧テンショナを備えたタイミングチェーンの概略構成を示す模式図。
【図5】同従来の油圧テンショナの概略構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る油圧テンショナの一実施形態について図1に従って説明する。この油圧テンショナ60は、上述の油圧テンショナ6と同様に、内燃機関のタイミングチェーン1に可動ガイド5を介して張力を付与するものである。
【0019】
図1に示すように、油圧テンショナ60のハウジング61に形成されたシリンダ62には、プランジャ63が摺動自在に嵌挿されている。このプランジャ63の基端面63A(図中左面)には、凹部64が形成されている。そして、これらシリンダ62の内周面と、プランジャ63の凹部64の内周面とによって圧力室としての油圧室66が区画形成されている。またハウジング61には、油圧通路80を通じて供給される作動油を油圧室66に導入するための給油通路67が形成されている。なお、本実施形態では、シリンダ62をプランジャ63が摺動する範囲が図示しない移動規制機構により規制されているため、プランジャ63の基端面63Aは後退位置P2と突出位置P3との区間のみを移動する。このとき、シリンダ62の突出方向を外部開口とみると、後退位置P2はシリンダ62の深い位置であるとともに、プランジャ63がシリンダ62内に最も深く収納される位置である。
【0020】
油圧室66の内部において、凹部64の底面64Aとこれに対向するシリンダ62の底壁62Aとの間には、プランジャ63をハウジング61の外部方向に付勢する付勢スプリング65が設けられている。付勢スプリング65は、プランジャ63を外部方向へ付勢することで同プランジャ63を外部に突出する方向、いわゆる突出方向に移動させる。これにより、プランジャ63はその突出方向先端に当接された可動ガイド5を同突出方向に付勢するとともに、付勢した可動ガイド5を介してタイミングチェーン1の張力を増大させる。
【0021】
また、油圧室66の内部を構成しているシリンダ62の底壁62Aには、シリンダ62の内周に沿う外径を有するとともに、自然長L1を有する圧縮ばねから構成されるアシスト機構としてのアシストスプリング74が設けられている。アシストスプリング74は、シリンダ62の底壁62Aに当接される固定端とプランジャ63の突出方向側に配置される自由端とを有していることから、突出方向をその弾性力に基づく付勢方向としている。アシストスプリング74は、自由端が開放されている場合、自由端が固定端から自然長L1の位置に配置されるため、自由端がシリンダ62の底壁62Aから自然長L1の位置であるアシスト位置P1に配置される。なお、本実施形態では、アシスト位置P1は、プランジャ63の後退位置P2と同プランジャ63の突出位置P3との間の位置に設けられている、つまりアシスト位置P1は、プランジャ63が後退位置P2から突出方向に移動する途中の位置となっている。これにより、プランジャ63の基端面63Aがアシスト位置P1から突出位置P3までの区間である通常区間に位置する場合、プランジャ63はアシストスプリング74に当接しない。一方、プランジャ63の基端面63Aがアシスト位置P1から後退位置P2までの区間であるアシスト区間に位置する場合、プランジャ63はアシストスプリング74に当接するとともに、その基端面63Aにはアシストスプリング74から同アシストスプリング74の自由端のアシスト位置P1からの後退距離に応じた反力が突出方向へ付勢される。
【0022】
アシストスプリング74の自由端には、アシストスプリング74の外径と同じ外径を有するリング状の当接リング75が設けられている。当接リング75は、アシストスプリング74の自由端とプランジャ63の基端面63Aと間に介在して、アシストスプリング74の自由端とプランジャ63の基端面63Aとの間での圧力伝達を良好にさせるためのものであって、プランジャ63の基端面63Aに対向するようにアシストスプリング74の自由端の突出方向側に設置されている。
【0023】
ハウジング61の内部には、給油通路67から油圧室66への作動油の流入を許容する一方、その逆、すなわち油圧室66から給油通路67への作動油の流出を禁止するチェックバルブ68が設けられている。チェックバルブ68は、チェックボール69と、同チェックボール69の移動を案内するボールガイド70と、チェックボール69が当接することにより給油通路67と油圧室66との間の連通・遮断状態が切り換えられることとなるボールシート71とを備えて構成されている。また、チェックバルブ68は、チェックボール69をボールシート71側に付勢するスプリング72と、同スプリング72が固定されるとともにチェックボール69の移動量を規制するリテーナ73とを備えて構成されている。
【0024】
次に、油圧テンショナ60の作用について説明する。
まず、内燃機関が通常に運転されている場合における油圧テンショナ60の作用について説明する。なお本実施形態では、説明の便宜上、通常運転時の機関回転数を「高い」と表現し、通常運転時よりも低回転である機関始動時や機関停止時の機関回転数を「低い」と表現する。また、内燃機関に設けられている図示しない油圧ポンプは、同内燃機関により駆動され、機関回転数が高い場合には油圧の吐出圧が高く、機関回転数が低い(停止を含む)場合には油圧の吐出圧が低くいものとする。
【0025】
通常運転時のように、機関回転数が高いとき、つまり油圧ポンプの吐出圧が高いとき、油圧テンショナ60の油圧室66の油圧は高い状態になる。このとき、プランジャ63は、油圧室66の油圧の圧力と、付勢スプリング65の圧力とからなる突出テンションにより突出方向に付勢される。そして、この付勢によりプランジャ63は、その基端面63Aがアシスト位置P1よりも突出方向に移動されることで可動ガイド5に油圧室66の油圧からの圧力と付勢スプリング65からの圧力とを付勢し、同可動ガイド5を介してタイミングチェーン1の張力を増大させる。つまりこの張力が、タイミングチェーン1の走行に伴いタイミングチェーン1に生じる振動、いわゆるチェーンのばたつきを抑制させることから、ばたつきに伴う異音の発生なども抑制されるようになる。このようなことから、油圧室66の油圧の圧力と付勢スプリング65の圧力とは、タイミングチェーン1の張力を、タイミングチェーン1に生じる振動を好適に抑制することのできる張力にするように調整されている。
【0026】
上述のよう、通常運転時には、プランジャ63は高い油圧により常に突出方向に付勢されるとともに、同付勢によりタイミングチェーン1の振動も抑制されている。このため、通常運転時には、プランジャ63の基端面63Aの移動範囲は、シリンダ62のアシスト位置P1から突出位置P3の区間、つまり通常区間内に維持され、つまりプランジャ63は、基端面63Aを通常区間とする範囲でタイミングチェーン1に張力を付勢する。
【0027】
一方、例えば機関始動時や機関停止時のように、機関回転数が低いとき、すなわち油圧ポンプの吐出圧が低いとき、油圧テンショナ60の油圧室66の油圧は低い状態になる。このとき、プランジャ63は、主に、付勢スプリング65の圧力からなる突出テンションにより突出方向に付勢される。そして、この付勢によりプランジャ63は、その基端面63Aがアシスト位置P1よりも突出方向に移動されることで可動ガイド5に付勢スプリング65からの圧力を付勢し、同可動ガイド5を介してタイミングチェーン1の張力を増大させる。つまり、この張力がタイミングチェーン1に生じる振動を抑制させるようになる。
【0028】
しかし上述のように、タイミングチェーン1に生じる振動は、油圧室66の油圧の圧力と付勢スプリング65の圧力とに基づいてタイミングチェーン1に付与される張力によって抑制されるようになっている。このため、機関回転数が低く、油圧室66の油圧の圧力が不足している場合、付勢スプリング65からの圧力に基づいてタイミングチェーン1に付与される低い張力だけではタイミングチェーン1に生じる振動を十分に抑制することができない。このように低張力のタイミングチェーン1はその振動が大きくなる傾向にあり、その大きな振動の振幅によって、プランジャ63がシリンダ62内を後退方向に大きく押し戻されるようになる。つまり、図2に示すように、タイミングチェーン1に押し戻されたプランジャ63は、その基端面63Aの位置が、通常区間(突出位置P3〜アシスト位置P1)からアシスト位置P1を後退方向に越えたアシスト区間(アシスト位置P1〜後退位置P2)に移動するようになる。
【0029】
特に、タイミングチェーン1の振動は、機関回転数が低い状態から、高い状態に変化するときなどにも大きくなる傾向にあり、特にこのような場合、大きく振動するタイミングチェーン1により、プランジャ63の基端面63Aがアシスト区間内に押し戻されるおそれが高まる。
【0030】
こうしてアシスト区間内に押し戻されたプランジャ63の基端面63Aは、当接リング75を介してアシストスプリング74の自由端に接続される。これにより、プランジャ63には、付勢スプリング65の圧力に加えて、更にアシストスプリング74の圧力が付勢される。すなわちプランジャ63は、その基端面63Aがアシスト区間を移動しているときには、可動ガイド5に付勢スプリング65からの圧力とアシストスプリング74からの圧力とを付勢し、同可動ガイド5を介してタイミングチェーン1の張力を増大させる。つまり、この張力がタイミングチェーン1に生じる振動を抑制させる。こうして、タイミングチェーン1には、付勢スプリング65からの圧力とアシストスプリング74からの圧力とに基づく張力が付勢される。この張力は、付勢スプリング65からの圧力だけに基づく張力より高く、つまり通常運転時の張力に近い張力となるため、付勢スプリング65だけの圧力が付勢される場合に比べて、タイミングチェーン1に生じる振動が、抑制されるようになる。
【0031】
このように、油圧テンショナ60の油圧室66の油圧が低い場合、通常区間では、プランジャ63には、付勢スプリング65の圧力しか付勢されないが、アシスト区間においては、プランジャ63には、付勢スプリング65の圧力とアシストスプリング74の圧力が付勢されるようになる。すなわち、油圧テンショナ60は、供給される油圧が十分でない場合であっても、アシスト区間において適切な圧力(テンション)を容易に発生させることができるようになる。
【0032】
その後、油圧テンショナ60の油圧室66の油圧が高くなると、プランジャ63には、付勢スプリング65の圧力と油圧室66の油圧の圧力とが付勢されることから、プランジャ63は突出方向に移動して、その基端面63Aも通常区間に配置され、同基端面63Aが通常区間内に配置されている状態でタイミングチェーン1に張力を付勢する。このように、通常運転時には、プランジャ63はアシストスプリング74から付勢されないため、アシストスプリング74の付勢がタイミングチェーン1の張力を過剰にするようなおそれがない。すなわちこの油圧テンショナ60は、アシストスプリング74がタイミングチェーン1に過剰な張力を付勢することがないことからタイミングチェーン1に付与する張力を付勢スプリング65の圧力と油圧の圧力との調整によって設計することができる。このように、タイミングチェーン1に付与する張力を、付勢スプリング65の圧力と油圧の圧力と2つの付勢力の調整で行えるため、設計等の煩雑化を避けられることができる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の油圧テンショナによれば、以下に列記するような効果が得られるようになる。
(1)プランジャ63は、突出移動する場合、その移動途中の位置まで、つまりアシスト区間に限り、突出方向へアシストスプリング74により付勢される一方、その移動途中の位置よりも先の位置、つまり通所区間ではアシストスプリング74から付勢されない。すなわち、アシストスプリング74は、突出量が少ないプランジャ63を突出方向に付勢する一方、突出量が多いときプランジャ63は付勢しない。このように、突出量が多くなったプランジャ63の突出移動は油圧により調整される。これにより、油圧の供給不足などにより油圧が低下して突出量が少なくなったプランジャ63は、突出方向へ力がアシストスプリング74の付勢により補助されるようになり、外部からの押し込み圧力に対して好適に対抗できるようになる。逆に、油圧が適正に供給されて突出量が多くなったプランジャ63は、油圧調整された付勢力を突出方向へ付与するようになる。これにより、プランジャ63の突出方向への付勢力は、突出量が少ない場合、アシストスプリング74の補助により好適に維持され、突出量が多い場合、油圧により好適に調整されるようになる。これにより、油圧が低下して十分でない場合であれ、タイミングチェーン1などへ付与する圧力を、タイミングチェーン1の押し込み圧に応じ容易に発生させることができるようになることから、タイミングチェーン1の振動などが好適に抑えられるようになる。
【0034】
(2)アシストスプリング74が圧縮ばねから構成されるので、その構成をきわめて簡単にすることができる。これにより、このような油圧テンショナ60の構造が簡単になり、コストも安くなる。
【0035】
(3)圧縮ばねをプランジャ63の後退方向に配置するというきわめて簡単な構造とすることができる。これによりこのような油圧テンショナ60の構造が簡単になり、コストも安くなる。
【0036】
(4)圧縮ばねの有する自然長L1により途中の位置(アシスト位置P1)を特定できるので、これによってもこのような油圧テンショナ60の構造が簡単になり、コストも安くなる。
【0037】
(5)油圧とともに付勢スプリング65が、プランジャ63の突出方向へ付勢力を付与するため、プランジャ63の付勢力を調整することのできる範囲の拡大が図られる。
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、例えば以下のような態様にて実施することもできる。
【0038】
・上記実施形態では、アシストスプリング74の自由端とプランジャ63の基端面63Aと間に当接リング75が介在する場合について例示したが、これに限らず、アシストスプリングの自由端にプランジャの基端面が直接当接してもよい。これにより、油圧テンショナの利用部品数を少なくしたり、構造を簡単にしたりすることができるようになる。
【0039】
・上記実施形態では、アシストスプリング74の自由端は、アシストスプリング74の自然長L1によりアシスト位置P1に配置される場合について例示した。しかしこれに限らず、アシストスプリング74の自由端は、アシスト位置P1から突出方向への規制する規制機構によってアシスト位置に配置されるようにしてもよい。
【0040】
例えば、図3に示すように、アシスト位置P1からシリンダ62の底壁62Aとの区間において、シリンダ62内径を拡大させた規制機構を構成するガイド溝76を形成する。ガイド溝76には、ガイド溝76の内径と同じ外径の規制機構を構成する当接リング75Aを摺動可能に配置するとともに、当該当接リング75Aをアシストスプリング74により付勢するようにしてもよい。すなわち、当接リング75Aは、ガイド溝76の形成された範囲を突出方向に移動するようになるとともに、ガイド溝76の形成されていないため、アシスト位置P1よりも突出方向への移動が規制される。これにより、アシスト位置を越えるような自然長を有するアシストスプリングであっても、アシストスプリングの自由端の移動がガイド溝と当接リングとにより規制され、アシスト位置よりも後退方向のアシスト区間のみでアシストスプリングがプランジャを付勢するようになる。
【0041】
アシストスプリング74がプランジャ63に付勢する範囲(アシスト区間)をガイド溝76で規定することができるようになる。また、予め、アシストスプリング74に押圧力を付与したかたちでガイド溝76によりその伸長を規制するようにすれば、プランジャ63の突出量が少なくなったとき、つまり基端面63Aがアシスト区間に配置されたとき、高い付勢力を迅速にプランジャ63に補助することができるようになる。
【0042】
・上記実施形態では、油圧テンショナ60の油圧室66の油圧が低い状態は、機関始動時や機関停止時のように機関回転数が低いために生じる場合について例示した。しかしこれに限らず、油圧テンショナの油圧室の油圧が低い状態は、機関を長期間放置後などで油圧テンショナの油圧室や、給油経路から油が漏れているような場合などであってもよい。どのような理由であて、油圧テンショナの油圧が低い場合、このような油圧テンショナを利用することにより、油圧がなくとも好適なテンションを発生することができるようになる。
【0043】
・上記実施形態では、アシストスプリング74が突出方向へ付勢する圧力の高さは、タイミングチェーン1の張力を通常運転時の張力に近い張力とする高さである場合につて例示した。しかしこれに限らず、アシストスプリングが突出方向へ付勢する圧力の高さは、油圧の圧力と同等であっても、油圧の圧力よりも低くても、油圧の圧力よりも高くてもよい。これにより、油圧テンショナの設計自由度の向上が図られるとともに、油圧テンショナの利用可能性も拡大される。
【0044】
・上記実施形態では、油圧テンショナ60をタイミングチェーン1への張力付勢に用いる場合について例示したがこれに限らず、この油圧テンショナをタイミングベルトなどへの張力付勢に用いてもよい。これにより、油圧テンショナの利用可能性も拡大される。
【0045】
・上記実施形態では、吸気バルブと排気バルブとを共通のカムシャフト3により開閉駆動する内燃機関、すなわちSOHC(Single Over Head Camshaft)型内燃機関について例示した。しかし、この油圧テンショナが適用される内燃機関はSOHC型内燃機関に限られるものではない。すなわちこの油圧テンショナは、他に例えば吸気バルブを開閉駆動する吸気カムシャフトと排気バルブを開閉駆動する排気カムシャフトとを別々に備える内燃機関、すなわちDOHC(Double Over Head Camshaft)型内燃機関や、OHV(Over Head Valve)型内燃機関などに対しても同様に適用することができる。
【0046】
・上記実施形態では、油圧テンショナ60を内燃機関に設ける場合について例示したがこれに限らず、この油圧テンショナを、内燃機関以外の装置、電動の装置などにおいて、張力や圧力変動を生じる対象に対して圧力を付勢する場合に用いてもよい。これにより、油圧テンショナの利用可能性の拡大が図られる。
【0047】
・このような油圧テンショナ60を車両に搭載された内燃機関に適用してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1…タイミングチェーン、2…クランクシャフト、3…カムシャフト、4…固定ガイド、5…可動ガイド、6…油圧テンショナ、11…ハウジング、12…シリンダ室、13…プランジャ、15…リターンスプリング、16…圧力室、17…アシストスプリング、18…給油通路、19…逆止弁、21…クランクスプロケット、31…カムスプロケット、60…油圧テンショナ、61…ハウジング、62…シリンダ、62A…底壁、63…プランジャ、63A…基端面、64…凹部、64A…底面、65…付勢スプリング、66…油圧室、67…給油通路、68…チェックバルブ、69…チェックボール、70…ボールガイド、71…ボールシート、72…スプリング、73…リテーナ、74…アシストスプリング、75…当接リング、75A…当接リング、76…ガイド溝、80…油圧通路、L1…自然長、P1…アシスト位置、P2…後退位置、P3…突出位置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに形成されたシリンダとこのシリンダから摺動自在に突出するプランジャとの間に区画形成された圧力室に供給される油圧に応じて前記プランジャの突出テンションを可変とする油圧テンショナであって、
前記圧力室には、前記プランジャが前記シリンダ内に最も深く収納された位置と突出移動する途中の位置との限られた区間で前記プランジャを突出方向に付勢するアシスト機構が設けられている
ことを特徴とする油圧テンショナ。
【請求項2】
前記アシスト機構は、前記圧力室内に設けられた圧縮ばねからなる
請求項1に記載の油圧テンショナ。
【請求項3】
前記圧縮ばねは、前記プランジャの基端と前記シリンダの底壁との間に配置される
請求項2に記載の油圧テンショナ。
【請求項4】
前記途中の位置は、前記圧縮ばねを自然長にする前記プランジャの位置である
請求項2又は3に記載の油圧テンショナ。
【請求項5】
前記シリンダの側面には、前記プランジャの突出方向に沿うガイド溝が形成されており、前記圧縮ばねの前記突出方向への伸長を前記ガイド溝の範囲に規制する規制機構が更に設けられている
請求項2〜4のいずれか一項に記載の油圧テンショナ。
【請求項6】
前記圧力室には、前記プランジャが突出する全範囲で前記プランジャを突出方向に付勢する付勢スプリングが設けられている
請求項1〜5のいずれか一項に記載の油圧テンショナ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate