説明

油圧式クラッチ制御装置

【課題】専用のセンサを新たに設けることなく、プリチャージ時間を精度良く更新可能な油圧式クラッチ制御装置を提供する。
【解決手段】クラッチ(4)を切断状態から接続状態へ移行させるときに、クラッチ(4)がエンジン(2)の出力トルクの伝達を開始する状態として予め設定されたトルク伝達開始状態となるように、車両ECU(10)が所定のプリチャージ時間にわたって作動油をクラッチ(4)に供給するためのプリチャージを行う。車両ECU(10)は、予め設定された実行条件が成立するたびに、プリチャージを行ったときのエンジン回転数の低下度合いに基づきプリチャージ時間を補正する補正処理を複数回実行することにより、クラッチ(4)のプリチャージに用いるプリチャージ時間を更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧式クラッチ制御装置に関し、特に車両のエンジンと変速機との間に介装される油圧式クラッチのための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行用動力源として用いられるエンジンと、エンジンの出力回転を変速しながらエンジンが発生した駆動力を駆動輪に伝達する変速機との間には、エンジンと変速機との間の動力伝達を断接するためのクラッチが用いられる場合がある。特に、平行に設けられた入力軸と出力軸との間に複数の変速段を構成したいわゆる平行軸式の変速機が用いられる場合、変速段の切り換えを行う際にエンジンから変速機への動力伝達を一時的に遮断する必要があるため、このようなクラッチが必要となる。
【0003】
また、変速段の切り換えの際の駆動力の一時的な遮断による運転フィーリングの低下を防止するため、いわゆるデュアルクラッチ式変速機が開発されている。このデュアルクラッチ式変速機では、第1の変速段のグループとして第1入力軸と出力軸との間に複数の変速段を構成する第1変速機構が設けられると共に、第2の変速段のグループとして第2入力軸と出力軸との間に複数の変速段を構成する第2変速機構が設けられており、第1のクラッチを介してエンジンの出力トルクを第1入力軸に伝達可能とする一方、第2のクラッチを介して上記出力トルクを第2入力軸に伝達可能となっている。そして、第1及び第2のクラッチの一方を接続し、接続中のクラッチに対応した変速機構にエンジンの出力トルクを伝達している間に、切断中のクラッチに対応した変速機構の変速段を事前選択しておき、変速段の切り換え時には接続中のクラッチを解放しつつ、切断中のクラッチを接続していくことで、上述したような駆動力の一時的な遮断をなくし、運転フィーリングの低下が防止される。
【0004】
このようなデュアルクラッチ式変速機も含め、クラッチの断接に対応して変速段の切り換えを行う変速機の場合、クラッチの応答性も変速段の切り換えに要する時間に大きな影響を及ぼす。特に、クラッチが油圧によって作動する油圧式クラッチである場合は、切断状態からトルク伝達を開始する状態となるまでに遅れがあるだけでなく、作動油の流動抵抗や粘性などによって、作動油の供給からクラッチの作動開始までの間に遅れが生じる。そこで、クラッチを切断状態から接続状態に移行させる場合に、所定のプリチャージ時間にわたってクラッチに作動油を素早く供給するプリチャージを行うことにより、エンジンの出力トルクの伝達を開始するような状態まで迅速にクラッチを移行させ、クラッチの応答性を向上させるようにした油圧式クラッチ制御装置が提案されている。
【0005】
クラッチに作動油のプリチャージを行うようにした場合、クラッチの摩擦要素の経年変化や車両の運転環境の変化などによって、一定のプリチャージ時間ではエンジンの出力トルクの伝達を開始するような状態まで適切にクラッチを移行させることができない場合がある。このような問題を解決するため、プリチャージ時間の更新が行われる。クラッチがトルクの伝達を開始するのに伴って作動油の圧力が変動するので、このようなプリチャージ時間の更新は、作動油のプリチャージを行った場合の作動油の圧力変動に基づいて行われるのが一般的である。
【0006】
また、特許文献1にも、このようなプリチャージ時間の学習及び更新方法が提案されている。特許文献1の方法は、エンジンの回転軸に連結されたトルクコンバータと自動変速機との間に設けられた油圧式クラッチに適用されるものである。そして、プリチャージを行ったときのトルクコンバータのタービン回転数の変動に基づき、トルク伝達の開始を検知してプリチャージ時間を更新するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−286183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
プリチャージ時間の更新が適切に行われない場合、前述したようにエンジンの出力トルクの伝達を開始するような状態まで適切にクラッチを移行させることができなくなる。このため、過度のプリチャージによりクラッチが急激に接続されることによってショックが発生したり、不十分なプリチャージによってクラッチの良好な応答性を確保できなくなったりするという問題が生じる。
また、一般的に採用されているプリチャージ時間の更新方法では、作動油の油圧を検出するための油圧センサが新たに必要になる。また、特許文献1の更新方法は、トルクコンバータと自動変速機との間に介装されたクラッチに適用されるものであることから、トルクコンバータのタービン回転数を検出するための回転センサが新たに必要となる。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、専用のセンサを新たに設けることなく、プリチャージ時間を精度良く更新可能な油圧式クラッチ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の油圧式クラッチ制御装置は、車両に搭載されて作動油により作動し、接続状態でエンジンの出力トルクを変速機に伝達する一方、切断状態で上記変速機への上記出力トルクの伝達を遮断するクラッチと、上記クラッチを上記切断状態から上記接続状態へ移行させるときに、上記クラッチが上記出力トルクの伝達を開始する状態として予め設定されたトルク伝達開始状態となるように、所定のプリチャージ時間にわたって作動油を上記クラッチに供給するためのプリチャージを行う制御手段と、上記エンジンのエンジン回転数を検出する回転数センサとを備え、上記制御手段は、予め設定された実行条件が成立するたびに、上記プリチャージを行うと共に上記プリチャージに伴って上記回転数センサが検出した上記エンジン回転数の低下度合いに基づき上記プリチャージ時間を補正する補正処理を複数回実行することにより、上記プリチャージ時間の更新を行うことを特徴とする(請求項1)。
【0010】
このように構成された油圧式クラッチ制御装置によれば、クラッチを切断状態から接続状態へ移行させるときに、クラッチがエンジンの出力トルクの伝達を開始する状態として予め設定されたトルク伝達開始状態となるように、制御手段が所定のプリチャージ時間にわたって作動油をクラッチに供給するためのプリチャージを行う。このようなプリチャージによって、クラッチを切断状態から接続状態へ移行させるときに、エンジンの出力トルクの伝達を開始する状態までクラッチを迅速に移行させることができる。
そして、制御手段は、予め設定された実行条件が成立するたびに、このときに用いるプリチャージ時間を更新する。即ち、上記実行条件が成立すると、プリチャージを行ったときのエンジン回転数の低下度合いに基づきプリチャージ時間を補正する補正処理を複数回実行することにより、プリチャージ時間の更新を行う。
【0011】
また、具体的には、上記油圧式クラッチ制御装置において、上記制御手段は、上記実行条件が成立した時点で定められているプリチャージ時間で上記プリチャージを行ったときに生じる上記エンジン回転数の低下量が、上記実行条件のもとで上記クラッチが上記プリチャージ前の上記切断状態にあるときに生じうる上記エンジン回転数の変動より大きくなるように予め設定された基準減少量よりも、小さくなるように上記補正を行う第1補正処理を行った後、複数回にわたって上記プリチャージを行い、個々のプリチャージで生じる上記エンジン回転数の低下量が、上記基準減少量より大きく、且つ上記基準減少量に近づくように、上記第1補正処理で補正された上記プリチャージ時間を補正する第2補正処理を行うことによって上記更新を行うことを特徴とする(請求項2)。
【0012】
このように油圧式クラッチ制御装置を構成した場合、実行条件が成立して制御手段がプリチャージ時間の更新を行う場合、制御手段は、実行条件が成立した時点で定められているプリチャージ時間でプリチャージを行ったときに生じるエンジン回転数の低下量が、上記実行条件のもとでクラッチが切断状態にあるときに生じるエンジンの回転数の変動より大きく設定された基準減少量よりも小さくなるようにプリチャージ時間を補正する第1補正処理を行う。
次に制御手段は、複数回にわたってプリチャージを行い、個々のプリチャージで生じるエンジン回転数の低下量が、上記基準減少量より大きく、且つ上記基準減少量に近づくように、第1補正処理で補正されたプリチャージ時間を補正する第2補正処理を行うことによってプリチャージ時間の更新を行う。
【0013】
また、上記油圧式クラッチ制御装置において、上記クラッチは、上記エンジンの出力トルクが入力される第1クラッチ及び第2クラッチの2つのクラッチからなり、上記変速機は、上記第1クラッチを介して伝達される上記エンジンの出力トルクを、上記車両の駆動輪に伝達する第1変速段群と、上記第2クラッチを介して伝達される上記エンジンの出力トルクを上記駆動輪に伝達する第2変速段群とを有し、上記制御手段は、上記実行条件が成立するたびに、上記第1クラッチ及び第2クラッチに対して交互に上記更新を行うことを特徴とする(請求項3)。
【0014】
このように、クラッチがエンジンの出力トルクが入力される第1クラッチ及び第2クラッチの2つのクラッチからなり、変速機が、第1クラッチを介して伝達されるエンジンの出力トルクを車両の駆動輪に伝達する第1変速段群と、第2クラッチを介して伝達されるエンジンの出力トルクを駆動輪に伝達する第2変速段群とを有する場合、制御手段は、実行条件が成立するたびに、第1クラッチ及び第2クラッチに対して交互にプリチャージ時間の更新を行うようにしてもよい。
【0015】
また、上記油圧式クラッチ制御装置において、上記変速機は、上記車両の駐車時に選択するパーキングレンジと、上記車両の走行時に選択するドライブレンジとを、変速レンジとして少なくとも選択可能な自動変速機であって、上記制御手段は、上記車両のパーキングブレーキが作動していると共に、上記変速機の変速レンジが上記パーキングレンジであるときに、上記実行条件が成立したと判定して上記更新を行うことを特徴とする(請求項4)。
【0016】
このように油圧式クラッチ制御装置において、変速機が、車両の駐車時に選択するパーキングレンジと、車両の走行時に選択するドライブレンジとを、変速レンジとして少なくとも選択可能な自動変速機である場合、制御手段は、車両のパーキングブレーキが作動していると共に、変速機の変速レンジがパーキングレンジであるときに、上記実行条件が成立したと判定してプリチャージ時間の更新を行うようにしてもよい。
【0017】
また、上記油圧式クラッチ制御装置において、上記制御手段は、上記エンジン回転数の低下度合いに基づき上記プリチャージ時間を補正する際には、更に上記プリチャージを行うときに単位時間あたりに供給可能な上記作動油の量と上記作動油の粘性との少なくとも一方に応じた補正を行って上記更新を行うことを特徴とする(請求項5)。
このように構成された油圧式クラッチ制御装置によれば、エンジン回転数の低下度合いに基づく複数回の補正に加えて、プリチャージを行うときに単位時間あたりに供給可能な作動油の量と作動油の粘性との少なくとも一方に応じた補正を行ってプリチャージ時間の更新を行う。
【発明の効果】
【0018】
本発明の油圧式クラッチ制御装置によれば、制御手段は、予め設定された実行条件が成立するたびに、プリチャージを行ったときのエンジン回転数の低下度合いに基づきプリチャージ時間を補正する補正処理を複数回実行することにより、プリチャージ時間を更新するので、1回のみの補正処理でプリチャージ時間を更新する場合に比べ、精度よくプリチャージ時間の更新を行うことができる。この結果、クラッチを切断状態から接続状態へと移行させる際に、プリチャージによってトルクの伝達を開始する状態として予め設定されたトルク伝達開始状態まで、クラッチを素早く移行させることができる。また、このようなクラッチの作動に伴って変速段の切り換えを行う場合には、クラッチの応答性向上に伴って、変速段の切り換えに要する時間も短縮することが可能となる。
【0019】
更に、プリチャージ時間の更新は、プリチャージ時に回転数センサが検出したエンジン回転数の低下度合いに基づいて行うようにしており、このような回転数センサはエンジンの制御を行うためにエンジンに一般的に設けられている。従って、プリチャージ時間の更新のために、作動油の油圧を検出するための油圧センサや新たな回転数センサを設ける必要がなく、コストや構造の面でも有利である。
【0020】
また、請求項2の油圧式クラッチ制御装置によれば、プリチャージ時間更新の実行条件のもとでクラッチが切断状態にあるときに生じるエンジン回転数の変動より大きく設定された基準減少量を用いてプリチャージ時間の更新を行う。そして、第1補正処理によってプリチャージ時のエンジン回転数の低下量が基準減少量より小さくなるように一旦プリチャージ時間を補正した後、第2補正処理によって複数回にわたってプリチャージを行い、個々のプリチャージで生じるエンジン回転数の低下量が、上記基準減少量より大きく、且つ上記基準減少量に近づくように、第1補正処理で補正されたプリチャージ時間を補正するようにしているので、プリチャージに伴うエンジン回転数の低下を確実に検知して、精度よくプリチャージ時間の更新を行うことが可能となる。
【0021】
また、請求項3の油圧式クラッチ制御装置によれば、クラッチが、エンジンの出力トルクが入力される第1クラッチ及び第2クラッチの2つのクラッチからなる場合に、制御手段は、実行条件が成立するたびに、第1クラッチ及び第2クラッチに対して交互にプリチャージ時間の更新を行うので、第1クラッチ及び第2クラッチのそれぞれに対するプリチャージ時間の更新を偏りなく行うことが可能となる。
【0022】
また、請求項4の油圧式クラッチ制御装置によれば、変速機が、車両の駐車時に選択するパーキングレンジと、車両の走行時に選択するドライブレンジとを、変速レンジとして少なくとも選択可能な自動変速機である場合、車両のパーキングブレーキが作動していると共に、変速機の変速レンジがパーキングレンジであることをプリチャージ時間の更新の実行条件としている。従って、車両の走行や運転フィーリングに影響を及ぼすことなく、エンジン回転数が比較的安定した状態でプリチャージ時間の更新を行うことができる。
【0023】
また、請求項5の油圧式クラッチ制御装置によれば、プリチャージ時間を更新する際には、エンジン回転数の低下度合いに基づく複数回の補正に加えて、プリチャージを行うときに単位時間あたりに供給可能な作動油の量と作動油の粘性との少なくとも一方に応じた補正を行うので、プリチャージ時間の更新を行っているときの環境の変化による影響を抑制しながらプリチャージ時間の更新を精度よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る油圧式クラッチ制御装置の全体構成図である。
【図2】本実施形態におけるクラッチ及び変速機を、駆動力の伝達経路として示す構成図である。
【図3】車両ECUが実行する更新制御のフローチャートの一部である。
【図4】車両ECUが実行する更新制御のフローチャートの残部である。
【図5】更新制御におけるプリチャージの状況及びエンジン回転数の変化の一例を示すタイムチャートである。
【図6】更新制御で使用する環境補正係数の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る油圧式クラッチ制御装置1の全体構成図である。図1中の符号2は、車両走行用の動力源であるエンジンを示しており、エンジン2が出力する駆動力は、クラッチ4を介して変速機6に伝達されるようになっている。また、変速機6の出力軸8は、図示しないデファレンシャル装置を介して図示しない駆動輪に伝達される。
【0026】
図2は、クラッチ4及び変速機6を、駆動力の伝達経路として示す構成図である。図2に示すように、クラッチ4は第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bの2つのクラッチを備えている。エンジン2が出力する駆動力はクラッチ4内で2系統に分岐され、一方は第1クラッチ4aの入力側に伝達され、他方は第2クラッチ4bの入力側に伝達されるようになっている。
【0027】
また、図2に示すように、変速機6は第1変速機構(第1変速段群)6aと第2変速機構(第2変速段群)6bとを備えている。第1変速機構6aは第1クラッチ4aに対応して設けられ、前進用の変速段として第1速、第3速、及び第5速の各変速段を有する。一方、第2変速機構6bは第2クラッチ4bに対応して設けられ、前進用の変速段として第2速、第4速、及び第6速の各変速段を有する。即ち、第1クラッチ4aの出力側は第1変速機構6aの入力軸に連結され、第2クラッチ4bの出力側は第2変速機構6bの入力軸に連結されている。なお、図2の構成図では車両後退用の変速機構の図示を省略している。
【0028】
第1変速機構6aの出力軸及び第2変速機構6bの出力軸は、図示しない共通のカウンタ軸で構成され、第1変速機構6aから出力される駆動力、及び第2変速機構6bから出力される駆動力は、いずれもこの共通のカウンタ軸を介して変速機6の出力軸8に伝達され、上述したようにデファレンシャル装置に伝達されるようになっている。従って、クラッチ4及び変速機6により、いわゆるデュアルクラッチ式変速装置が構成される。
【0029】
車両ECU(制御手段)10は、このようなデュアルクラッチ式変速装置を自動変速装置として作動させるべく、クラッチ4及び変速機6を制御するために設けられている。本実施形態では、一般的な自動変速機の場合と同じく変速レンジとして、車両駐車時に選択するPレンジ、いずれの変速段も駆動力の伝達に使用しないNレンジ、車両後退時に選択するRレンジ、及び車両前進時に選択するDレンジがデュアルクラッチ式変速装置の制御に設けられている。
【0030】
変速レンジの切り換えは、図示しないシフトレバーを運転者が操作することによって行われ、シフトレバーの位置を検出するインヒビタスイッチ12の検出信号に基づき、車両ECU10が選択されている変速レンジを判定する。車両ECU10は、運転者によって選択された変速レンジに応じ、クラッチ4が有する第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bの断接を制御すると共に、変速機6が有する第1変速機構6a及び第2変速機構6bの変速段を制御する。
【0031】
車両ECU10には、車両に設けられているアクセルペダル(図示せず)の踏込量を検出するアクセル開度センサ14、及び車両の走行速度を検出するための車速センサ16が接続されている。そして、選択されている変速レンジがDレンジである場合、アクセル開度センサ14及び車速センサ16の検出信号に基づき、予め設定されている変速マップに従って、車両ECU10が第1変速機構6a及び第2変速機構6b変速段を制御する。そして、このような変速段の制御に合わせて車両ECU10は、第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bの断接を制御する。
【0032】
第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bは、いずれも油圧式クラッチによって構成されており、それぞれに設けられた油圧式のアクチュエータ(図示せず)に対する作動油の供給によって、接続及び切断が行われるようになっている。なお、それぞれのアクチュエータへの作動油の供給は、図示しないオイルポンプによって行われ、このオイルポンプはエンジン2によって駆動されるようになっている。
【0033】
第1クラッチ4aのアクチュエータへの作動油の供給は電磁式の第1制御弁4cによって行われ、第1制御弁4cの駆動電流が大きいほど作動油の供給量が増大するようになっている。また、第2クラッチ4bへの作動油の供給は第1制御弁4cと同様に電磁式の第2制御弁4dによって行われ、第2制御弁4dの駆動電流が大きいほど作動油の供給量が増大するようになっている。
なお、本実施形態において、以上のようなデュアルクラッチ式変速装置自体の具体的構成、及び制御は、従来から知られているものと同様であるので、ここでは更なる説明を省略する。
【0034】
このようなデュアルクラッチ式変速装置では、変速機6における変速段の切り換えとクラッチ4の断接とが相互に関連して行われるため、クラッチ4の応答性が変速段の切り換えに要する時間に大きな影響を及ぼす。本実施形態のように、第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bが油圧式クラッチである場合は、切断状態からトルク伝達を開始する状態となるまでに遅れがあると共に、作動油の流動抵抗や粘性などによって作動油の供給からクラッチの作動までの間に遅れが生じる。
【0035】
そこで、これらのクラッチを切断状態から接続状態に移行させる場合には、エンジン2の出力トルクの伝達を開始する状態として予め設定されたトルク伝達開始状態まで迅速に移行させるプリチャージを車両ECU10が行う。
第1クラッチ4aの場合を例に、このプリチャージを具体的に説明すると、第1クラッチ4aを切断状態から接続状態に移行させる場合、車両ECU10は所定のプリチャージ時間にわたり、予め設定されている最大駆動電流Imaxを第1制御弁4cに供給する。これにより、最大駆動電流Imaxに対応した最大供給量の作動油が第1クラッチ4aのアクチュエータに供給され、第1クラッチ4aは、エンジン2の出力トルクの伝達を開始するような状態まで迅速に移行する。
【0036】
このようにしてプリチャージを行った後、車両ECU10は予め設定されているクラッチ接続制御により第1制御弁4cの駆動電流を制御して、第1クラッチ4aを徐々に接続状態へと移行させていく。
また、第2クラッチ4bについても、切断状態から接続状態に移行させる場合に、車両ECU10は第2制御弁4dを用い、第1クラッチ4aの場合と同様にしてプリチャージを行う。このようなプリチャージを行いことにより、第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bを切断状態から接続状態へ移行させる際の時間遅れを抑制することができる。
【0037】
このようにしてプリチャージを行うようにした場合、第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bの摩擦要素の経年変化や車両の運転環境の変化などによって、固定のプリチャージ時間ではトルク伝達開始状態まで適切に移行させることができない場合がある。このような問題を解決するため、本実施形態では車両ECU10がプリチャージ時間の更新制御を行う。
なお、プリチャージ時間の更新制御に必要な情報を得るため、車両ECU10には、車両のパーキングブレーキ(図示せず)の作動状態を検出するパーキングブレーキスイッチ18、エンジン2のエンジン回転数を検出する回転数センサ20及びクラッチ4に供給される作動油の温度を検出する油温センサ22が接続されている。
【0038】
本実施形態では、このプリチャージ時間の更新制御が従来のものと相違しており、以下では本実施形態における更新制御について、図3乃至図6に基づき詳細に説明する。
なお、図3及び図4は車両ECU10が実行する更新制御のフローチャートである。車両ECU10は、第1補正処理と第2補正処理との2つの補正処理によってプリチャージ時間の更新制御を行っており、図3に示すフローチャートが第1補正処理に対応し、図4に示すフローチャートが第2補正処理に対応している。
また、図5は車両ECU10が更新制御を行ったときの、プリチャージの状況及びエンジン回転数の変化状況の一例を示すタイムチャートであり、図6は更新制御で使用する環境補正係数の一例を示すグラフである。
【0039】
本実施形態の場合は、前述したようにクラッチ4が第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bの2つのクラッチによって構成されている。そこで、第1クラッチ4aについてのプリチャージ時間の更新制御と、第2クラッチ4bについてのプリチャージ時間の更新制御とを、予め設定された更新周期ごとに交互に行うようにしている。このように交互に更新制御を行うことにより、第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bのそれぞれに対するプリチャージ時間の更新を偏りなく行うことが可能となる。
なお、以下では第1クラッチ4aについて行われるプリチャージ時間の更新制御の場合を例に説明するが、第2クラッチ4bについても同様にして更新制御が行われる。
【0040】
車両ECU10は、図3及び図4のフローチャートに従い、第1クラッチ4aについてのプリチャージ時間の更新制御を実行すると、まずステップS1において、プリチャージ時間の更新を行うための実行条件が成立したか否かを判定する。本実施形態の場合、パーキングブレーキが作動中であると共に、選択中の変速レンジがPレンジであるときに実行条件が成立するようにしている。そこで、車両ECU10はステップS1において、パーキングブレーキスイッチ18及びインヒビタスイッチ12のそれぞれからの検出信号に基づき、このような実行条件が成立したか否かを判定する。
【0041】
ステップS1において実行条件が成立していないと判定した場合、車両ECU10はその後の処理を行わず、その更新周期の更新制御を終了する。従って、上記のような実行条件が成立しない限り、車両ECU10はプリチャージ時間の更新を行わない。このような場合、第1クラッチ4aについてのプリチャージ時間の更新が行われなかったので、次の更新周期においても第1クラッチ4aについて更新制御が実行される。従って、前述したように、第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bのプリチャージ時間の更新は、必ず更新周期ごとに交互に行われることになる。
【0042】
一方、ステップS1において実行条件が成立したと判定すると、車両ECU10は処理をステップS2に進め、第1クラッチ4aに対する前回の更新周期で更新して記憶し、今回の更新周期まで使用していたプリチャージ時間Txoを読み込み、今回の更新制御で更新のために用いるプリチャージ時間Txとする。なお、前回の更新周期が存在せず、初めてプリチャージ時間の更新を行う場合、車両ECU10は予め初期設定されているプリチャージ時間をプリチャージ時間Txとする。
次に車両ECU10は、ステップS2からステップS3に処理を進めると、今回の更新周期中におけるプリチャージ時間の補正回数を示すカウント値Cnの値を1とし、更に処理をステップS4に進める。
【0043】
ステップS4において車両ECU10は、回転数センサ20が検出したエンジン回転数Neの所定期間における変動幅が、予め定められた基準変動幅以内であるか否かに基づいて、エンジン回転数Neが安定しているか否かを判定する。
上述したように、パーキングブレーキが作動中であると共に、選択中の変速レンジがPレンジであるときに実行条件が成立するようにしているので、エンジン回転数Neが大きく変動する可能性は少ないが、例えば運転者によるエンジン2の空吹かしや、車両に搭載されている空調装置の作動の際には、エンジン回転数Neの所定期間における変動幅が基準変動幅を超えることがある。
【0044】
車両ECU10はステップS4において、直前の所定期間におけるエンジン回転数Neの変動幅が基準変動幅を超える場合に、エンジン回転数Neが安定していないと判定し、直前の所定期間におけるエンジン回転数Neの変動幅が基準変動幅以内となるまで、ステップS4の判定を繰り返す。
そして、直前の所定期間におけるエンジン回転数Neの変動幅が基準変動幅以内となると、車両ECU10はステップS4で、エンジン回転数Neが安定していると判定し、処理をステップS5に進める。
【0045】
ステップS5において車両ECU10は、第1クラッチ4aのアクチュエータに作動油を供給する第1制御弁4cに対し、ステップS2で設定したプリチャージ時間Txにわたって、前述したように予め設定されている最大駆動電流Imaxを供給して第1クラッチ4aのプリチャージを行う。これにより、最大駆動電流Imaxに対応した最大量の作動油が第1クラッチ4aのアクチュエータに供給されるので、第1クラッチ4aはプリチャージ時間Txに対応したトルク伝達開始状態まで迅速に移行する。
なお、ステップS5でプリチャージを行うと、後述するエンジン回転数Neの減少を検知した後、プリチャージで供給された作動油を第1クラッチ4aのアクチュエータから排出して、次のプリチャージに備えるようにしている。
【0046】
次のステップS6において車両ECU10は、回転数センサ20が検出したエンジン回転数Neが、直前の所定期間におけるエンジン回転数の平均値に予め設定された基準増加量を加算した上限値N1以上であるか否かを判定する。エンジン回転数Neが上限値N1以上である場合、車両ECU10はステップS6においてエンジン回転数が増大方向で安定していないと判定し、処理をステップS4に戻して、上述のようにして直前の所定期間におけるエンジン回転数Neが安定するまで、ステップS4の判定を繰り返す。
そして、ステップS4でエンジン回転数Neが安定していると判定すると処理をステップS5に進め、上述したようにプリチャージ時間Txにわたって最大駆動電流Imaxを供給して第1クラッチ4aのプリチャージを行う。
【0047】
ステップS6において、エンジン回転数Neが上限値N1より小さいと判定すると、エンジン回転数が増大方向で安定しているので、車両ECU10は処理をステップS7に進める。
ステップS7において車両ECU10は、ステップS5でのプリチャージによって減少したときのエンジン回転数Neが、減少前の所定期間におけるエンジン回転数の平均値から予め設定された基準減少量を減算した下限値N2以下であったか否かを判定する。ここで用いる基準減少量は、更新制御の実行条件が成立した状態で、クラッチがプリチャージ前の切断状態にあるときに生じうるエンジン回転数の変動より大きくなるように予め設定されている。従って、エンジン回転数Neが下限値N2以下である場合、ステップS5のプリチャージによって第1クラッチ4aがエンジン2の出力トルクの伝達を開始したのに伴い、エンジン回転数が低下したことを的確に検知することができる。
【0048】
ステップS7において、エンジン回転数Neが下限値N2以下であったと判定すると、車両ECU10は処理をステップS8に進め、ステップS2で設定したプリチャージ時間Txから、予め定められた第1補正時間T1を減算して補正した時間を新たなプリチャージ時間Txとした後、処理をステップS4に戻す。
ステップS4に処理を進めた場合の更新制御の内容は上述したとおりであるが、エンジン回転数Neが安定しているとすると、次のステップS5において車両ECU10は、ステップS8の補正によって得た新たなプリチャージ時間Txで、再び第1クラッチ4aのプリチャージを行う。
【0049】
ステップS5のプリチャージの後、前述のようにエンジン回転数Neが増大方向で安定しているとすると、車両ECU10はステップS6を経てステップS7に処理を進め、ステップS7において再び、ステップS5でのプリチャージによって低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下であったか否かを判定する。従って、ステップS5におけるプリチャージによって低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2より大きくなるまで、ステップS8における第1補正時間T1を用いた補正が繰り返されてプリチャージ時間Txが更新されていくことになる。
【0050】
こうしてステップS8における第1補正時間T1を用いたプリチャージ時間の補正が繰り返され、ステップS5でのプリチャージによって低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2より大きいとステップS7において判定すると、車両ECU10は処理をステップS9に進める。
ステップS9において車両ECU10は、直前にステップS8において行われた上述の補正により得られたプリチャージ時間Txに、予め設定された第1加算時間taを加算して得た時間を、第1補正処理における最終的なプリチャージ時間Txとする。
【0051】
上述のように、ステップS4乃至S8の処理によって、プリチャージで低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下とならないようにプリチャージ時間が補正されていることから、このままではプリチャージを行っても第1クラッチ4aがエンジン2の出力トルクの伝達を開始するような状態とはならない。そこで、再びプリチャージで低下したエンジン回転数Neが下限値N2以下となるようにした上で、次の第2補正処理を行い、更にプリチャージ時間を補正するべく、このようにプリチャージ時間Txに第1加算時間taを加算して第1補正処理における最終的なプリチャージ時間Txを得るようにしている。
【0052】
ここまでの一連の処理によるエンジン回転数の変化状況の一例を、プリチャージの実施状況と共に図5に示している。更新制御の実行条件が成立した後、図5の時間t1において、ステップS2で設定したプリチャージ時間Txにわたり、最大駆動電流Imaxを第1制御弁4cに供給して第1クラッチ4aのプリチャージを行ったとすると、このときに低下したエンジン回転数Neは下限値N2より小さい値となっている。
【0053】
このため、車両ECU10はステップS7の判定により処理を進めたステップS8において、プリチャージ時間Txから第1補正時間T1を減算して補正した時間を新たなプリチャージ時間Txとする。こうして得られた新たなプリチャージ時間Txを用い、時間t2で再びステップS5における第1クラッチ4aのプリチャージを行ったとすると、このときに低下したエンジン回転数Neは下限値N2より小さい値となっている。そこで、車両ECU10は、上述したようにステップS9でプリチャージ時間Txに第1加算時間taを加算して第1補正処理における最終的なプリチャージ時間Txを定め、次の第2補正処理に処理を進める。
【0054】
上述したように、ステップS10でカウント値Cnに1を加算した後、第2補正処理に進むと、車両ECU10はステップS11において、エンジン回転数Neが安定しているか否かを再び判定する。ステップS11における判定は、前述したステップS4の判定と全く同様にして行われるものであって、車両ECU10はエンジン回転数Neが安定していないと判定すると、エンジン回転数Neが安定するまでステップS11の判定を繰り返す。
【0055】
ステップS11でエンジン回転数Neが安定したと判定すると、車両ECU10は処理をステップS12に進め、第1補正処理で最終的に定められたプリチャージ時間Txにわたり、第1制御弁4cに対し最大駆動電流Imaxを供給して第1クラッチ4aのプリチャージを行う。これにより、最大駆動電流Imaxに対応した量の作動油が第1クラッチ4aのアクチュエータに供給されるので、第1クラッチ4aはトルク伝達開始状態、またはこれに近いまで迅速に移行する。
【0056】
次のステップS13において車両ECU10は、前述のステップS6と同様に、回転数センサ20が検出したエンジン回転数Neが上限値N1以上であるか否かを判定する。エンジン回転数Neが上限値N1以上である場合、車両ECU10はステップS13においてエンジン回転数が増大方向で安定していないと判定し、処理をステップS11に戻し、上述のようにしてエンジン回転数が安定するまで、ステップS11の判定を繰り返す。
そして、ステップS11でエンジン回転数Neが安定していると判定すると処理をステップS12に進め、上述したようにプリチャージ時間Txにわたって最大駆動電流Imaxを供給して第1クラッチ4aのプリチャージを行う。なお、ステップS12でプリチャージを行う場合も、前述のステップS5と同様に、後述するエンジン回転数Neの減少を検知した後、プリチャージで供給された作動油を第1クラッチ4aのアクチュエータから排出して、次のプリチャージに備えるようにしている。
【0057】
ステップS13において、エンジン回転数Neが上限値N1より小さいと判定すると、エンジン回転数が増大方向で安定しているので、車両ECU10は処理をステップS14に進める。
ステップS14において車両ECU10は、前述のステップS7と同様に、ステップS12でのプリチャージによって減少したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下であったか否かを判定する。ステップS7について説明したように、下限値N2を定める際に用いる基準減少量は、更新制御の実行条件が成立してクラッチがプリチャージ前の切断状態にあるときに生じうるエンジン回転数の変動より大きくなるように設定されている。従って、プリチャージによって低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下であった場合、ステップS12のプリチャージにより第1クラッチ4aがエンジン2の出力トルクの伝達を開始したのに伴い、エンジン回転数Neが低下したことを的確に検知することができる。
【0058】
ステップS14において、プリチャージで低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2より大きかったと判定すると、車両ECU10は処理をステップS15に進め、第1補正処理で最終的に定めたプリチャージ時間Txに第2加算時間tbを加算した時間を新たなプリチャージ時間Txに置き換えた後、処理をステップS11に戻す。
ステップS11に処理を進めた場合の更新制御の内容は上述したとおりであるが、エンジン回転数Neが安定しているとすると、ステップS12において車両ECU10は、ステップS15で置き換えたプリチャージ時間Txで、再び第1クラッチ4aのプリチャージを行う。
【0059】
ステップS12のプリチャージの後、前述のようにエンジン回転数Neが増大方向で安定しているとすると、車両ECU10はステップS13を経てステップS14に処理を進め、ステップS14において再び、ステップS12でのプリチャージによって低下したエンジン回転数Neが下限値N2以下であったか否かを判定する。従って、ステップS12でのプリチャージによって低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下となるまで、ステップS15における第2加算時間tbを用いたプリチャージ時間の修正が繰り返されることになる。
【0060】
こうしてステップS15における第2加算時間tbを用いたプリチャージ時間の修正が繰り返され、ステップS12でのプリチャージによって低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下であったとステップS14において判定すると、車両ECU10は処理をステップS16に進める。
ステップS16において車両ECU10は、カウント値Cnの値が2であるか否かを判定するが、このときカウント値Cnの値は2であるので、車両ECU10はステップS16の判定により処理をステップS17に進める。
【0061】
ステップS17において車両ECU10は、ステップS17に処理を進める直前に上述のステップS15で得られた新たなプリチャージ時間Txと、ステップS2において読み込んだ、第1クラッチ4aに対する前回の更新周期で更新して今回の更新周期まで使用していたプリチャージ時間Txoとを用い、下記式(1)によりプリチャージ時間の補正を行って、補正後のプリチャージ時間Tx’を求める。
【0062】
Tx’=Txo×(1−Kn)+{(Tx−Taj)/Ke}×Kn ・・・ (1)
なお、上記式(1)中、Knは重み付け係数、Tajは調整値、Keは環境補正係数である。即ち、重み付け係数Knは、プリチャージ時間Tx’に対するプリチャージ時間Txの反映度合いを定めるものであって、0より大きく1より小さい値が予め設定される。
また調整値Tajは、上述のようにステップS12乃至S15の処理によって求められるプリチャージ時間Txが、第1クラッチ4aをトルク伝達開始状態に移行させるためのものであることから、このままのプリチャージ時間Txでは、トルクの伝達が既に開始された状態まで第1クラッチ4aが移行することになるので、第1クラッチ4aをトルク伝達が開始される直前の状態に戻すべく、プリチャージ時間Tx’を短縮方向に調整するために用いられる。
【0063】
更に、環境補正係数Keは、更新制御を行う際の環境が種々変化した場合であっても、求められたプリチャージ時間を予め設定された標準的な環境に適合したものに修正するために用いられる。即ち、第1クラッチ4aの作動油は油温によって粘度が変化するが、作動油の粘度変化により、前述のように最大駆動電流Imaxを第1制御弁4cに供給してプリチャージを行うときの作動油の供給量が変動する。
【0064】
また、作動油の供給は、前述したようにエンジン2によって駆動されるオイルポンプを用いて行われるため、プリチャージを行う際に第1制御弁4cを介して第1クラッチ4aのアクチュエータに供給可能な単位時間あたりの作動油の量は、エンジン2の回転数によって変動する。即ち、エンジン2の回転数が高いほど、第1クラッチ4aのアクチュエータに供給可能な単位時間あたりの作動油の量は増大することになる。
そこで、供給可能な単位時間あたりの作動油の量の変化と作動油の粘度変化とに対応して、求められたプリチャージ時間を予め設定された標準的な環境に適合したものに修正するために、この環境補正係数Keを用いる。
【0065】
図6は、環境補正係数Keの一例を示すものであり、作動油の油温及びエンジン回転数に応じて環境補正係数Keが定まるようになっている。作動油の粘度が増大するほど、同じプリチャージ時間での作動油の供給量が減少し、作動油の粘度は、油温の上昇と共に減少する。また、エンジン回転数が上昇するほど、同じプリチャージ時間での作動油の供給量が増大する。そこで、図6に示すように環境補正係数Keは、同じエンジン回転数のもとでは油温の上昇と共に減少し、同じ油温のもとではエンジン回転数の上昇と共に減少するようになっている。
このような環境補正係数Keを用いることにより、更新制御を行っているときの作動油の粘度が高いほど、或いは第1制御弁4cを介して第1クラッチ4aのアクチュエータに供給可能な単位時間あたりの作動油の量が少ないほど、ステップS17で得られるプリチャージ時間Tx’を短縮方向に調整して、プリチャージ時間Tx’を上記の標準的な環境に適合させるようにしている。
【0066】
こうしてステップS17でプリチャージ時間Tx’を求めると、車両ECU10は処理をステップS18に進め、ステップS17で求めたプリチャージ時間Tx’から、予め設定された第2補正時間T2を減算して得られた時間を、新たなプリチャージ時間Txとする。なお、ここで用いる第2補正時間T2は、前述のステップS8で用いた第1補正時間T1より短い時間となっており、ステップS18で新たに得られるプリチャージ時間Txが、第1補正処理で定められたプリチャージ時間Txより短くならないように予め定められている。
【0067】
次に車両ECU10は処理をステップS19に進め、カウント値Cnの値に1を加算して3とした後、ステップS20でカウント値Cnの値が5であるか否かを判定する。カウント値Cnの値は、上述のようにステップS19の処理によって3となっているので、車両ECU10はステップS20の判定により処理をステップS11に戻す。
【0068】
ステップS11において車両ECU10は、前述のようにしてエンジン回転数Neが安定しているか否かを判定し、エンジン回転数Neが安定するまで、ステップS11の判定を繰り返す。
そして、ステップS11でエンジン回転数Neが安定していると判定すると処理をステップS12に進め、ステップS18で上述のようにして得られたプリチャージ時間Txにわたって最大駆動電流Imaxを供給して第1クラッチ4aのプリチャージを行う。
【0069】
次のステップS13の処理は前述したとおりであって、エンジン回転数Neが増大方向で安定していなければ、車両ECU10は処理をステップS11に戻し、エンジン回転数Neが安定するまで、ステップS11の判定を繰り返す。
そして、ステップS11でエンジン回転数Neが安定していると判定して処理をステップS12に進め、再びプリチャージ時間Txにわたって第1クラッチ4aのプリチャージを行った後、ステップS13においてエンジン回転数Neが増大方向で安定していると判定すると、車両ECU10は処理をステップS14に進める。
【0070】
ステップS14において車両ECU10は、前述したように、ステップS12でのプリチャージによって減少したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下であったか否かを判定する。
そして、ステップS14において、プリチャージで低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2より大きかったと判定すると、車両ECU10は処理をステップS15に進め、ステップS18で得られたプリチャージ時間Txに第2加算時間tbを加算した時間を新たなプリチャージ時間Txに置き換えた後、処理をステップS11に戻す。
ステップS11に処理を進めた場合の更新制御の内容は上述したとおりであるが、エンジン回転数Neが安定しているとすると、ステップS12において車両ECU10は、ステップS15で置き換えたプリチャージ時間Txで、再び第1クラッチ4aのプリチャージを行う。
【0071】
ステップS12のプリチャージの後、前述のようにエンジン回転数Neが増大方向で安定しているとすると、車両ECU10はステップS13を経てステップS14に処理を進め、ステップS14において再び、ステップS12でのプリチャージによって低下したエンジン回転数Neが下限値N2以下であったか否かを判定する。従って、このときも、ステップS12でのプリチャージによって低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下となるまで、ステップS15における第2加算時間tbを用いたプリチャージ時間の修正が繰り返されることになる。
【0072】
こうしてステップS15における第2加算時間tbを用いたプリチャージ時間の修正が繰り返され、ステップS12でのプリチャージによって低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下であったとステップS14において判定すると、車両ECU10は処理をステップS16に進める。
ステップS16において車両ECU10は、カウント値Cnの値が2であるか否かを判定するが、このときカウント値Cnの値は3であるので、車両ECU10はステップS16の判定により処理をステップS21に進める。ステップS21ではカウント値Cnの値が3であるか否かを判定し、車両ECU10はステップS21の判定によって処理をステップS22に進める。
【0073】
ステップS22において車両ECU10は、ステップS22に処理を進める直前に上述のステップS15で得られたプリチャージ時間Txをプリチャージ時間Tx1として用いると共に、ステップS18で得られたプリチャージ時間Txをプリチャージ時間Tx2として用い、下記式(2)によりプリチャージ時間の補正を行って、補正後のプリチャージ時間Tx’を求める。
Tx’=Tx2×(1−Kn)+{(Tx1−Taj)/Ke}×Kn ・・・(2)
なお、上記式(2)中、Knは重み付け係数、Tajは調整値、Keは環境補正係数であって、前述の式(1)に用いたものと同じものである。従って、ステップS22において求められるプリチャージ時間Tx’についても、環境補正係数Keを用いることによって、前述の標準的な環境に適合させるようにしている。
【0074】
こうしてステップS22でプリチャージ時間Tx’を求めると、車両ECU10は処理をステップS23に進め、ステップS22で求めたプリチャージ時間Tx’から、予め設定された第3補正時間T3を減算して得られた時間を、新たなプリチャージ時間Txとする。なお、ここで用いる第3補正時間T3は、前述のステップS18で用いた第2補正時間T2より短い時間となっており、ステップS23で新たに得られるプリチャージ時間Txが、ステップS18で求められたプリチャージ時間Txより短くならないように予め定められている。
【0075】
次に車両ECU10は処理をステップS24に進め、カウント値Cnの値に1を加算して4とした後、ステップS20でカウント値Cnの値が5であるか否かを判定する。カウント値Cnの値は、上述のようにステップS24の処理によって4となっているので、車両ECU10はステップS20の判定により処理をステップS11に戻す。
ステップS11において車両ECU10は、前述のようにしてエンジン回転数Neが安定しているか否かを判定し、エンジン回転数Neが安定するまで、ステップS11の判定を繰り返す。
そして、ステップS11でエンジン回転数Neが安定していると判定すると処理をステップS12に進め、ステップS23で上述のようにして得られたプリチャージ時間Txにわたって最大駆動電流Imaxを供給して第1クラッチ4aのプリチャージを行う。
【0076】
次のステップS13の処理は前述したとおりであって、エンジン回転数Neが増大方向で安定していなければ、車両ECU10は処理をステップS11に戻し、エンジン回転数Neが安定するまで、ステップS11の判定を繰り返す。
そして、ステップS11でエンジン回転数Neが安定していると判定して処理をステップS12に進め、再びプリチャージ時間Txにわたって第1クラッチ4aのプリチャージを行った後、ステップS14においてエンジン回転数Neが増大方向で安定していると判定すると、車両ECU10は処理をステップS14に進める。
【0077】
ステップS14において車両ECU10は、前述したように、ステップS12でのプリチャージによって減少したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下であったか否かを判定する。
そして、ステップS14において、プリチャージで低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2より大きかったと判定すると、車両ECU10は処理をステップS15に進め、ステップS23で得られたプリチャージ時間Txに第2加算時間tbを加算した時間を新たなプリチャージ時間Txに置き換えた後、処理をステップS11に戻す。
ステップS11に処理を進めた場合の更新制御の内容は上述したとおりであるが、エンジン回転数Neが安定しているとすると、ステップS12において車両ECU10は、ステップS15で置き換えたプリチャージ時間Txで、再び第1クラッチ4aのプリチャージを行う。
【0078】
ステップS12のプリチャージの後、前述のようにエンジン回転数Neが増大方向で安定しているとすると、車両ECU10はステップS13を経てステップS14に処理を進め、ステップS14において再び、ステップS12でのプリチャージによって低下したエンジン回転数Neが下限値N2以下であったか否かを判定する。従って、ステップS12でのプリチャージによって低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下となるまで、ステップS15における第2加算時間tbを用いたプリチャージ時間の修正が繰り返されることになる。
【0079】
こうしてステップS15における第2加算時間tbを用いたプリチャージ時間の修正が繰り返され、ステップS12でのプリチャージによって低下したときのエンジン回転数Neが下限値N2以下であったとステップS14において判定すると、車両ECU10は処理をステップS16に進める。
ステップS16において車両ECU10は、カウント値Cnの値が2であるか否かを判定するが、このときカウント値Cnの値は4であるので、車両ECU10はステップS16の判定により処理をステップS21に進める。ステップS21ではカウント値Cnの値が3であるか否かを判定し、車両ECU10はステップS21の判定によって処理をステップS25に進める。
【0080】
ステップS25において車両ECU10は、ステップS25に処理を進める直前に上述のステップS15で得られたプリチャージ時間Txをプリチャージ時間Tx1として用いると共に、ステップS23で得られたプリチャージ時間Txをプリチャージ時間Tx2として用い、前述の式(2)によりプリチャージ時間の補正を行って、補正後のプリチャージ時間Tx’を求める。
従って、ステップS25において求められるプリチャージ時間Tx’についても、環境補正係数Keを用いることによって、前述の標準的な環境に適合させるようにしている。
【0081】
こうしてステップS25でプリチャージ時間Tx’を求めると、車両ECU10は処理をステップS26に進める。ステップS26において車両ECU10は、ステップS25で上述のようにして求められたプリチャージ時間Tx’を今回の更新制御によって得られた最終的なプリチャージ時間Txoとして記憶した後、次のステップS27でカウント値Cnの値に1を加算して5とする。
【0082】
こうして記憶されたプリチャージ時間Txoは、第1クラッチ4aに対する次回の更新制御が行われるまで、第1クラッチ4aのプリチャージに使用される。
次に車両ECU10は、ステップS20でカウント値Cnの値が5であるか否かを判定する。カウント値Cnの値は、上述のようにステップS27の処理によって5となっているので、車両ECU10はステップS20の判定により、今回の更新周期における更新制御を終了する。
【0083】
上述した第2補正処理によるエンジン回転数の変化状況の一例を、図5に基づき説明すると、前述したように図5の時間t2におけるプリチャージに基づき、第1補正処理における最終的なプリチャージ時間Txを定めた後、時間t3において、第2補正処理のステップS12によってプリチャージが行われる。このときのプリチャージ時間は、時間t2で行ったプリチャージ時間より第1加算時間taだけ長くなっており、このプリチャージによってエンジン回転数Neは下限値N2より低下する。
【0084】
このようなエンジン回転数Neの低下に伴い、車両ECU10がステップS14の判定により、ステップS16を経てステップS17に処理を進めると、上述したようにしてステップS17でプリチャージ時間の補正演算が行われた後、ステップS18で第2補正時間T2が減算されて新たなプリチャージ時間Txが設定される。
次に、時間t3におけるプリチャージに基づき、上述のようにしてステップS17の演算で得られたプリチャージ時間Tx’から第2補正時間T2を減じて設定されたプリチャージ時間Txを用い、時間t4においてプリチャージが行われると、エンジン回転数はNe下限値N2まで低下しなくなる。但し、このとき低下したエンジン回転数Neと下限値N2との差は、時間t2におけるプリチャージで低下したエンジン回転数Neと下限値N2との差より小さくなる。
【0085】
そこで車両ECU10は、時間t4において使用したプリチャージ時間Txに第2加算時間tbを加えて新たなプリチャージ時間Txとし、時間t5でプリチャージを行う。
時間t5のプリチャージによりエンジン回転数Neは下限値N2より低下するので、車両ECU10はステップS14の判定により、ステップS16及びS21を経てステップS22に処理を進め、上述したようにしてステップS22でプリチャージ時間の補正演算が行われた後、ステップS23で第3補正時間T3が減算されて新たなプリチャージ時間Txが設定される。
【0086】
次に、時間t5におけるプリチャージに基づき上述のようにして設定されたプリチャージ時間Txを用い、時間t6においてプリチャージが行われると、エンジン回転数Neは下限値N2まで低下しなくなる。但し、このとき低下したエンジン回転数Neと下限値N2との差は、時間t4におけるプリチャージで低下したエンジン回転数Neと下限値N2との差より小さくなる。
【0087】
そこで車両ECU10は、時間t6において使用したプリチャージ時間Txに第2加算時間tbを加えて新たなプリチャージ時間Txとし、時間t7でプリチャージを行う。
時間t7のプリチャージにより、エンジン回転数Neは下限値N2より低く、且つ時間t6におけるプリチャージのときよりも下限値N2の近傍まで低下する。車両ECU10はステップS14の判定により、ステップS16及びS21を経てステップS25に処理を進め、上述したようにしてステップS25でプリチャージ時間の補正演算を行った後、ステップS25で得られたプリチャージ時間Tx’を、今回の更新処理による最終的なプリチャージ時間Txoとして記憶し、更新制御を終了する。
【0088】
第1クラッチ4aに対するプリチャージ時間の更新制御は以上の通りであるが、前述したように、第2クラッチ4bについても同様の更新制御が行われ、更新周期毎に第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bに対するプリチャージ時間が交互に更新される。
このようにしてプリチャージ時間の更新が行われることにより、車両ECU10は、実行条件が成立するたびに、プリチャージを行ったときのエンジン回転数の低下度合いに基づきプリチャージ時間を補正する第1補正処理と第2補正処理を実行し、更に第2補正処理においては、プリチャージを行ったときのエンジン回転数の低下度合いに基づくプリチャージ時間の補正を複数回実行するので、1回のみの補正処理でプリチャージ時間を更新する場合に比べ、精度よくプリチャージ時間の更新を行うことができる。
【0089】
この結果、第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bのいずれかを切断状態から接続状態へと移行させる際に、プリチャージによってトルク伝達開始状態まで素早く移行させることができる。また、このような第1クラッチ4a及び第2クラッチ4bの作動に伴って変速機6の変速段の切り換えを行う場合には、変速段の切り換えに要する時間も短縮することが可能となる。
【0090】
更に、プリチャージ時間の更新は、プリチャージ時に回転数センサ20が検出したエンジン回転数の低下度合いに基づいて行うようにしており、このような回転数センサ20はエンジン2の制御を行うためにもともとエンジン2に設けられているものであるから、作動油の油圧を検出するための油圧センサや新たな回転数センサをプリチャージ時間の更新のために設ける必要がなく、コストや構造の面でも有利である。
【0091】
また、本実施形態では、パーキングブレーキが作動していると共に、変速レンジがパーキングレンジであるときをプリチャージ時間の更新の実行条件としているので、車両の走行や運転フィーリングに影響を及ぼすこともなく、エンジン回転数が比較的安定した状態でプリチャージ時間の更新を行うことができる。
更に、第2補正処理においてプリチャージ時間を補正する際には、環境補正係数Keを用いて、プリチャージの際に供給可能な作動油の単位時間あたりの量と作動油の粘性とに応じた補正を行うので、プリチャージ時間の更新を行っているときの環境の変化による影響を抑制して、予め設定された標準環境に適合したプリチャージ時間を得ることが可能となる。
【0092】
以上で本発明の一実施形態に係る油圧式クラッチ制御装置についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態では、クラッチ4及び変速機6によりデュアルクラッチ式変速装置を構成するようにしたが、1組の変速機構を有した変速機に単一のクラッチを組み合わせた場合にも、本発明を同様に適用することにより同様の効果を得ることができる。
【0093】
また、上記実施形態では、第1補正処理を開始したときに図3のフローチャートのステップS2において、前回の更新周期で更新して記憶して今回の更新周期まで使用していたプリチャージ時間Txoを読み込み、そのまま今回の更新制御で更新のために用いるプリチャージ時間Txとしているが、必要に応じて今回の更新周期における環境に対応した環境補正値などを用いてプリチャージ時間Txoを補正した後に今回の更新制御で更新のために用いるプリチャージ時間Txとしてもよい。
【0094】
また、上記実施形態では、図4のフローチャートのステップS26でのみ、今回の更新制御によるプリチャージ時間Txoを記憶して更新するようにしているが、ステップS17及びS22でそれぞれプリチャージ時間Tx’を求めるたびに、プリチャージ時間Txoとして記憶し、既に記憶しているプリチャージ時間Txoと置き換えるようにしてもよい。このようにすることで、1回の更新制御が完了する前に何らかの理由によって更新制御が中止になった場合に、それまでに更新したある程度信頼性のあるプリチャージ時間Txoを、次の更新制御が行われるまでの間、プリチャージで使用することが可能となる。
【0095】
また、上記実施形態では、図4のフローチャートのステップS18において、ステップS17で求められたプリチャージ時間Tx’から第2補正時間T2を減算して、次にステップS12でプリチャージを行うときに使用するプリチャージ時間Txを得るようにしているが、ステップS17で求められたプリチャージ時間Tx’に代えて、ステップS17に進む直前に使用したプリチャージ時間Txから第2補正時間T2を減算し、次にステップS12でプリチャージを行うときに使用するプリチャージ時間Txを得るようにしてもよい。このようなプリチャージ時間Txの設定方法は、ステップS23の処理にも同様に適用することができる。ステップS17或いはステップS22で求められるプリチャージ時間Tx’は、前述したように標準的な環境に対応した補正を行っているため、更新制御が行われたときの環境が標準的な環境から大きくかけ離れている場合、第2補正時間T2や第3補正時間T3の減算によりプリチャージ時間が減少しすぎて更新制御に要する時間が長期化するおそれがある。そこで、このような懸念がある場合には、上述したような代替方法が有効となる。
【0096】
また、上記実施形態では、パーキングブレーキが作動中であると共に、選択中の変速レンジがPレンジであるときに更新制御の実行条件が成立するようにしているが、実行条件はこれに限定されるものではない。即ち、選択中の変速レンジがPレンジであることに代えて、選択中の変速レンジがDレンジであることとしてもよい。特に変速レンジがDレンジであることを実行条件の1つとした場合、変速機6の入力軸が変速段の選択によって固定されるので、更新制御を行ったときのプリチャージによるエンジン回転数の低下が顕著となり、エンジン回転数の低下を明確に把握することが可能となる。更に、上記実施形態の実行条件に対し、車速センサ16が検出した走行速度に基づき、車両が停止していると判定した場合や、アクセル開度センサ14が検出したアクセルペダルの踏込量に基づき、アクセルペダルが踏み込まれていないと判定した場合などを、適宜加えるようにしてもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、環境補正係数Keを用いることにより、プリチャージを行う際に供給可能な単位時間あたりの作動油の量と作動油の粘度変化との両方に対応して、求められたプリチャージ時間を予め設定された標準的な環境に適合したものに修正するようにしたが、いずれか一方のみに対応してプリチャージ時間を修正するようにしてもよい。即ち、エンジン回転数のみに応じて環境補正係数Keを設定するようにしてもよいし、作動油の温度のみに対応して環境補正係数Keを設定するようにしてもよい。
【0098】
更に、上記実施形態では、プリチャージを行う際に供給可能な単位時間あたりの作動油の量に応じてプリチャージ時間を補正するためにエンジン回転数を用いたが、例えばエンジン回転数に代えて作動油の供給油量を直接検出するなど、様々な手法を採用することが可能である。同様に、作動油の粘度に応じてプリチャージ時間を補正するために作動油の油温を用いたが、作動油の粘度の変化と関連を有するものであれば、様々なパラメータを採用することが可能である。
【0099】
また、変速機6の形式についても平行軸式変速機に限定されるものではなく、前進変速段の数も6に限定されるものではない。即ち、油圧式クラッチを介してエンジン2からのトルクが伝達される変速機であれば、どのような形式のものであってもよい。
また、上記実施形態では、第2補正処理において、ステップS17、S22及びS25の3回にわたってプリチャージ時間の補正を行うようにしたが、この補正回数は3回に限定されるものではなく、必要に応じて増減することが可能であり、個々の補正処理は上記実施形態と同様にして行うことができる。
【符号の説明】
【0100】
1 油圧式クラッチ制御装置
2 エンジン
4 クラッチ
4a 第1クラッチ
4b 第2クラッチ
6 変速機
6a 第1変速機構(第1変速段群)
6b 第2変速機構(第2変速段群)
10 車両ECU(制御手段)
20 回転数センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されて作動油により作動し、接続状態でエンジンの出力トルクを変速機に伝達する一方、切断状態で上記変速機への上記出力トルクの伝達を遮断するクラッチと、
上記クラッチを上記切断状態から上記接続状態へ移行させるときに、上記クラッチが上記出力トルクの伝達を開始する状態として予め設定されたトルク伝達開始状態となるように、所定のプリチャージ時間にわたって作動油を上記クラッチに供給するためのプリチャージを行う制御手段と、
上記エンジンのエンジン回転数を検出する回転数センサとを備え、
上記制御手段は、
予め設定された実行条件が成立するたびに、上記プリチャージを行うと共に上記プリチャージに伴って上記回転数センサが検出した上記エンジン回転数の低下度合いに基づき上記プリチャージ時間を補正する補正処理を複数回実行することにより、上記プリチャージ時間の更新を行うことを特徴とする油圧式クラッチ制御装置。
【請求項2】
上記制御手段は、
上記実行条件が成立した時点で定められているプリチャージ時間で上記プリチャージを行ったときに生じる上記エンジン回転数の低下量が、上記実行条件のもとで上記クラッチが上記プリチャージ前の上記切断状態にあるときに生じうる上記エンジン回転数の変動より大きくなるように予め設定された基準減少量よりも、小さくなるように上記補正を行う第1補正処理を行った後、
複数回にわたって上記プリチャージを行い、個々のプリチャージで生じる上記エンジン回転数の低下量が、上記基準減少量より大きく、且つ上記基準減少量に近づくように、上記第1補正処理で補正された上記プリチャージ時間を補正する第2補正処理を行う
ことによって上記更新を行うことを特徴とする請求項1に記載の油圧式クラッチ制御装置。
【請求項3】
上記クラッチは、上記エンジンの出力トルクが入力される第1クラッチ及び第2クラッチの2つのクラッチからなり、
上記変速機は、上記第1クラッチを介して伝達される上記エンジンの出力トルクを、上記車両の駆動輪に伝達する第1変速段群と、上記第2クラッチを介して伝達される上記エンジンの出力トルクを上記駆動輪に伝達する第2変速段群とを有し、
上記制御手段は、上記実行条件が成立するたびに、上記第1クラッチ及び第2クラッチに対して交互に上記更新を行うことを特徴とする請求項1に記載の油圧式クラッチ制御装置。
【請求項4】
上記変速機は、上記車両の駐車時に選択するパーキングレンジと、上記車両の走行時に選択するドライブレンジとを、変速レンジとして少なくとも選択可能な自動変速機であって、
上記制御手段は、上記車両のパーキングブレーキが作動していると共に、上記変速機の変速レンジが上記パーキングレンジであるときに、上記実行条件が成立したと判定して上記更新を行うことを特徴とする請求項1に記載の油圧式クラッチ制御装置。
【請求項5】
上記制御手段は、上記エンジン回転数の低下度合いに基づき上記プリチャージ時間を補正する際には、更に上記プリチャージを行うときに単位時間あたりに供給可能な上記作動油の量と上記作動油の粘性との少なくとも一方に応じた補正を行って上記更新を行うことを特徴とする請求項1に記載の油圧式クラッチ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−112175(P2011−112175A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270039(P2009−270039)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】