説明

油圧式テンショナ

【課題】逆止弁ユニットにおいて、ボールシートのシート面でのチェックボールの吸着を抑制して、チェックボールの開弁性の向上およびチェーンのバタツキによる騒音の低減が可能であり、さらに圧油源からテンショナに供給される圧油の消費量の減少が能な油圧式テンショナを提供する。
【解決手段】油圧式テンショナは、ハウジングに設けられた収容穴に進退方向に移動可能に収容されてチェーンに張力を付与するプランジャと、逆止弁ユニットとを備える。逆止弁ユニットは、前記収容穴内でハウジングとプランジャとの間に形成された油圧室131に連通する弁油路143が設けられたボールシート141と、ボールシート141に対して着座および離座することにより弁油路143を開閉するチェックボール147とを有する。シート面142には、弁油路143と油圧室131とを、チェックボール147が閉弁状態にあるときに連通させるシート油溝150が設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのカムシャフトなどを回転駆動するチェーンに張力を付与する油圧式テンショナに関し、詳細には、該油圧式テンショナが備える逆止弁ユニットの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の油圧式テンショナとして、エンジンに備えられる油圧式テンショナが、圧油の供給油路が設けられたハウジングと、該ハウジングに進退方向に移動可能に収容されるとともにチェーンに張力を付与するために前進方向に付勢されたプランジャと、ハウジングとプランジャとの間に形成された油圧室を前記供給油路に連通させる弁油路を開閉するチェックボールを有する逆止弁ユニットとを備えるものは知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−336855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、油圧式テンショナにおいて、油圧室と供給油路とを連通させる弁油路が設けられたボールシートと、弁油路および油圧室の油圧の大きさ応動してボールシートに対して着座および離座することにより前記弁油路を開閉するチェックボールとを有する逆止弁ユニットでは、ボールシートのシート面は、チェックボールの着座および離座による当接が繰り返されることに起因して、経時変化により、チェックボールに馴染むように摩耗することがあり、そのような場合には、チェックボールがシート面に吸着する現象が発生する。
【0005】
そして、シート面でのチェックボールのこのような吸着が発生すると、巻掛け伝動体であるチェーンの張力が減少して、該チェーンに対してプランジャの前進による張力付与が必要になる場合に、油圧室の油圧を上回ってチェックボールを開弁させるときの弁油路の油圧が比較的小さいとき、例えば、圧油源から供給油路に供給される圧油の油圧が低いとき(例えば、エンジンの始動時やアイドル時)、または、プランジャの前進による油圧室の油圧の低下度合が小さいとき、前記吸着力のためにチェックボールの開弁に遅れが生じ、チェックボールの開弁による供給油路から弁油路を通じての油圧室への圧油の流入が遅れることになる。
このようなチェックボールの開弁遅れが発生すると、油圧室の圧油が不足して、チェーンに適切なタイミングで張力を付与することが困難になり、チェーンのバタツキによる騒音が発生するという問題があった。
【0006】
また、油圧式テンショナでは、チェーンの張力が増加したときに、チェーンからの反力によるプランジャの後退を阻止することでチェーンに過大な張力が発生することを防止する観点から、チェーンの反力によるプランジャの後退を許容するために、プランジャの後退による油圧室での油圧の上昇時に、油圧室の圧油がリーク油として該油圧室から僅かに漏出するようになっている。
一方で、チェーンの反力によりプランジャが過度に後退すると、チェーンのバタツキによる騒音が発生することから、一般には、プランジャの後退による油圧室での油圧上昇時に、逆止弁ユニットのチェックボールが閉弁することで、逆止弁ユニットを通じてのリーク油の漏出は制限されている。このため、逆止弁ユニットにおいてリーク油が漏出する場合、チェーンの反力によるプランジャの後退抑制効果を高めるためには、そのリーク流量を極力減少させることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、従来の課題を解決するものであり、その目的は、逆止弁ユニットにおいて、チェックボールが着座するボールシートのシート面に、チェックボールの閉弁状態で弁油路と油圧室とを連通させるシート油溝を設けることで、シート面でのチェックボールの吸着を抑制して、チェックボールの開弁性の向上およびチェーンのバタツキによる騒音の低減が可能であり、さらに圧油源からテンショナに供給される圧油の消費量の減少が可能な油圧式テンショナを提供することである。
そして、本発明の他の目的は、さらに、プランジャがチェーンからの反力により後退するときのチェックボールの閉弁状態時に、ボールシートのシート面に設けられたシート油溝を通じて油圧室から弁油路に漏出するリーク油のリーク流量を減少させて、油圧室の圧油によるプランジャの後退抑制効果の向上が可能な油圧式テンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、請求項1に係る発明は、圧油源から供給された圧油が流通する供給油路が設けられたハウジングと、前記ハウジングに設けられた収容穴に進退方向に移動可能に収容されるとともに走行中のチェーンに張力を付与するために前記進退方向で前進方向に付勢されたプランジャと、前記収容穴内で前記ハウジングと前記プランジャとの間に形成された油圧室と前記供給油路とを連通させる弁油路が設けられたボールシートおよび前記ボールシートに対して着座および離座することにより弁油路を開閉するチェックボールを有する逆止弁ユニットとを備え、前記ボールシートのシート面が、前記ボールシートに着座した前記チェックボールが当接する当接部を有し、前記チェックボールが、前記弁油路での油圧により開弁して前記弁油路を開く一方で、前記油圧室での油圧により閉弁して前記弁油路を閉じて前記油圧室から前記弁油路への圧油の逆流を制限する油圧式テンショナにおいて、前記シート面には、前記弁油路と前記油圧室とを、前記チェックボールが閉弁状態にあるときに連通させるシート油溝が設けられ、前記シート油溝が前記シート面に設けられていないと仮定した場合に、前記シート油溝に対応する部位での仮想シート面において前記チェックボールが仮想的に当接する部分を仮想当接部とするとき、前記シート油溝を流れる圧油が、前記仮想当接部において前記チェックボールに接触することにより、前述した課題を解決したものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記シート油溝での位置が前記仮想当接部に対して前記弁油路側から前記仮想当接部に近づくにつれて、前記シート油溝の溝断面積が小さくなることにより、前述した課題を解決したものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の構成に加えて、前記シート油溝での位置が前記仮想当接部に対して前記弁油路側から前記仮想当接部に近づくにつれて、前記シート油溝が浅くなることにより、前述した課題を解決したものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記シート面には、周方向に等しい間隔を置いて3以上の前記シート油溝が設けられることにより、前述した課題を解決したものである。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1つに係る発明の構成に加えて、前記各シート油溝での位置が前記仮想当接部に対して前記弁油路側から前記仮想当接部を経て前記油圧室側に変わるにつれて、前記シート油溝が、径方向外方に向かって周方向での一方向側に傾斜していることにより、前述した課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の油圧式テンショナは、圧油源から供給された圧油が流通する供給油路が設けられたハウジングと、該ハウジングに設けられた収容穴に進退方向に移動可能に収容されるとともに走行中のチェーンに張力を付与するために進退方向で前進方向に付勢されたプランジャと、収容穴内でハウジングとプランジャとの間に形成された油圧室と前記供給油路とを連通させる弁油路が設けられたボールシートおよびボールシートに対して着座および離座することにより弁油路を開閉するチェックボールを有する逆止弁ユニットとを備え、ボールシートのシート面が、ボールシートに着座したチェックボールが当接する当接部を有し、チェックボールが、弁油路での油圧により開弁して弁油路を開く一方で、油圧室での油圧により閉弁して弁油路を閉じて油圧室から弁油路への圧油の逆流を制限することにより、チェーンの張力減少時に、チェックボールが開弁し、プランジャが前進することで、チェーンに張力が付与され、チェーンの張力増加時に、チェックボールが閉弁し、許容範囲でプランジャが後退することで、チェーンの過大張力の発生および過度の張力低下が防止されるばかりでなく、以下のような本発明に特有の効果を奏する。
【0014】
すなわち、請求項1に係る本発明の油圧式テンショナによれば、逆止弁ユニットにおいて、ボールシートのシート面には、弁油路と油圧室とを、チェックボールが閉弁状態にあるときに連通させるシート油溝が設けられ、該シート油溝がシート面に設けられていないと仮定した場合に、シート油溝に対応する部位での仮想シート面においてチェックボールが仮想的に当接する部分を仮想当接部とするとき、シート油溝を流れる圧油が、仮想当接部においてチェックボールに接触することにより、チェックボールの着座および離座によりチェックボールとの当接が繰り返されるシート面が経時変化により摩耗して、該シート面でのチェックボールの吸着が発生したとしても、チェックボールの閉弁状態時に弁油路と油圧室とを連通させるシート油溝により、シート面におけるチェックボールとの当接部が分断されているので、シート面でのチェックボールの吸着領域が減少して、シート面にチェックボールを吸着させる吸着力が減少すること、および、仮想当接部においてチェックボールに接触するシート油溝での圧油の油圧がチェックボールを離座させる方向にも向かって作用することから、シート面でのチェックボールの吸着が抑制されて、チェックボールが開弁しやすくなるため、チェックボールの開弁性を向上させることができ、さらにはチェックボールの開弁性の向上により、チェーンに張力を付与するためのプランジャの前進応答性が向上して、チェーンのバタツキが抑制され、該バタツキによる騒音を低減させることができる。
【0015】
また、チェックボールの閉弁状態で供給油路に連通する弁油路と油圧室とを連通させるシート油溝がシート面に設けられることにより、チェーンからの反力がプランジャを後退させる大きさであるときに、チェックボールの閉弁状態で、チェーンでの過大張力の発生を防止すべくプランジャを許容範囲で後退させるために油圧室から漏出させるリーク油を、シート油溝を通じて供給油路に戻すので、シート面にシート油溝が設けられていないためにリーク油が油圧室からテンショナの外部に放出される場合に比べて、圧油源からテンショナに供給される圧油の消費量を減少させることができる。
【0016】
請求項2に係る本発明の油圧式テンショナによれば、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、シート油溝での位置が仮想当接部に対して弁油路側から仮想当接部に近づくにつれて、シート油溝の溝断面積が小さくなることにより、シート油溝を弁油路から仮想当接部に向かって流れる圧油の流速は、仮想当接部に近づくにつれて増加するので、弁油路から油圧室に向かってシート油溝を流れる圧油とチェックボールとの間で作用する流動摩擦力が大きくなって、該流動摩擦力に引きずられてチェックボールが開弁しやすくなり、チェックボールの開弁性を向上させることができ、しかも、シート油溝の溝断面積は仮想当接部から弁油路側に向かうほど大きくなっていて、弁油路の圧油がシート油溝に流入し易くなるため、シート油溝を弁油路から油圧室に向かって流れる圧油の流量を大きくすることができるので、シート油溝に流入する圧油の流量増加が、シート油溝での圧油の油圧および流動摩擦力の増加に寄与して、チェックボールの開弁性を一層向上させることができる。
【0017】
請求項3に係る本発明の油圧式テンショナによれば、請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、シート油溝での位置が仮想当接部に対して弁油路側から仮想当接部に近づくにつれて、シート油溝が浅くなることにより、仮想当接部およびその近傍では、シート油溝での圧油の流れが、チェックボールをシート面から離座させる方向に指向する流速成分を有するので、シート油溝の圧油の動圧がチェックボールを離座させる方向に作用して、チェックボールの開弁性を向上させることができる。
【0018】
請求項4に係る本発明の油圧式テンショナによれば、請求項1から請求項3のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、ボールシートのシート面には、周方向に間隔を置いて3以上のシート油溝が設けられることにより、各シート油溝によるチェックボールの開弁容易化の作用が総合されるので、チェックボールの開弁性を一層向上させることができる。
しかも、3以上のすべてのシート油溝が周方向に等間隔に配置されることにより、離座するときのチェックボールが径方向で偏りながら離座すること、および、径方向での偏りに起因してチェックボールが暴れることが抑制されるので、チェックボールの開弁の円滑性が向上して、チェックボールの開弁性を向上させることができ、しかも、離座した直後のチェックボールが、プランジャの後退による油圧室の油圧の増加により着座する場合のチェックボールの復帰性が向上して、チェーンの張力変動に対するテンショナの張力調整の応答性を向上させることができる。
【0019】
請求項5に係る本発明の油圧式テンショナによれば、請求項1から請求項4のいずれか1つに係る発明が奏する効果に加えて、シート油溝での位置が仮想当接部に対して弁油路側から仮想当接部を経て油圧室側に変わるにつれて、シート油溝が、径方向外方に向かうにつれて周方向での一方向側に傾斜していることにより、弁油路から油圧室に向かってシート油溝を流れる圧油は、周方向での一方向側に指向する流速成分を有することから、チェックボールに作用する圧油の流動摩擦力の周方向分力がチェックボールを回転させようとして、シート面とチェックボールとの間に周方向での剪断力が作用して、チェックボールが開弁しやすくなること、および、シート油溝が径方向のみに延びている場合に比べて、シート溝が傾斜していることで仮想当接部の周方向幅が大きくなるので、周方向幅の増加により、シート面でのチェックボールの吸着が抑制されて、チェックボールが開弁しやすくなることから、チェックボールの開弁性を向上させることができる。
また、3以上のシート油溝が周方向に等しい間隔を置いて設けられる場合には、シート面から離座した直後のチェックボールは周方向での一方向側に回転することから、チェックボールが径方向に偏ることが一層抑制されて、離座した直後のチェックボールが、プランジャの後退による油圧室の油圧の増加により着座する場合のチェックボールの復帰性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例である油圧式テンショナの使用態様図。
【図2】図1の油圧式テンショナの断面図および要部拡大図。
【図3】図1の油圧式テンショナの逆止弁ユニットのボールシートを軸線方向から見たときの図および要部拡大図。
【図4】(a)は、図3のIVーIV線断面図および要部拡大図、(b)は、(a)のb−b線での拡大断面図。
【図5】本発明の実施例の第1変形例である油圧式テンショナの、図4(a)に対応する図。
【図6】本発明の実施例の第2変形例である油圧式テンショナの、図3に対応する図。
【図7】本発明の実施例の第3変形例である油圧式テンショナの、図3に対応する図。
【図8】本発明の実施例の第4変形例である油圧式テンショナの、図3に対応する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の油圧式テンショナは、圧油源から供給された圧油が流通する供給油路が設けられたハウジングと、該ハウジングに設けられた収容穴に進退方向に移動可能に収容されるとともに走行中のチェーンに張力を付与するために進退方向で前進方向に付勢されたプランジャと、収容穴内でハウジングとプランジャとの間に形成された油圧室と供給油路とを連通させる弁油路が設けられたボールシートおよびボールシートに対して着座および離座することにより弁油路を開閉するチェックボールを有する逆止弁ユニットとを備え、ボールシートのシート面が、ボールシートに着座したチェックボールが当接する当接部を有し、チェックボールが、弁油路での油圧により開弁して弁油路を開く一方で、油圧室での油圧により閉弁して弁油路を閉じて油圧室から弁油路への圧油の逆流を制限し、シート面には、弁油路と油圧室とを、チェックボールが閉弁状態にあるときに連通させるシート油溝が設けられ、シート油溝がシート面に設けられていないと仮定した場合に、シート油溝に対応する部位での仮想シート面においてチェックボールが仮想的に当接する部分を仮想当接部とするとき、シート油溝を流れる圧油が、仮想当接部においてチェックボールに接触することにより、ボールシートのシート面に、チェックボールの閉弁状態で弁油路と油圧室とを連通させるシート油溝を設けることで、シート面でのチェックボールの吸着を抑制して、チェックボールの開弁性の向上およびチェーンのバタツキによる騒音の低減が可能であり、さらに圧油源からテンショナに供給される圧油の消費量が減少可能なものであれば、その具体的な態様はいかなるものであっても構わない。
【0022】
例えば、シート油溝の数は1または複数であってよいし、シート油溝は、直線状以外に、その全体または局部が、曲線状または屈曲形状に形成されていてもよい。
シート面、またはシート面の少なくとも当接部を有する部分が、回転面から構成されるとき、該回転面の母線は、直線以外に曲線、例えば円弧であってもよい。
ボールシートは、ハウジングとは別個の部材により構成されることなく、ハウジング自体により構成されてもよい。
油圧式テンショナは、エンジンが備える掛け伝動装置以外に、エンジン以外の機械が備える巻掛け伝動装置に使用されてもよい。
【実施例】
【0023】
本発明の実施例を、図1〜図8を参照して説明する。
本発明の実施例である油圧式テンショナ100の使用態様図である図1を参照すると、機械としてのエンジン(図示されず)に備えられるテンショナ100は、該エンジンの駆動軸であるクランクシャフトにより回転駆動される駆動側のスプロケット1と被動軸である1対のカムシャフトにそれぞれ固定されている1対の被動側のスプロケット2とに巻き掛けられている帯状の巻掛け伝動体としての無端のチェーンであるタイミングチェーン3の弛み側で、機械本体としてのエンジン本体に取り付けられている。
ここで、スプロケット1、1対のスプロケット2およびタイミングチェーン3は、巻掛け伝動装置を構成する。
【0024】
テンショナ100のハウジング110に進退方向で前進・後退可能に支持されるとともに該ハウジング110から突出しているプランジャ120は、エンジン本体に揺動自在に支持されている可動レバー4の揺動端近傍の背面を押圧することにより、該可動レバー4を介してタイミングチェーン3の弛み側に張力を付与している。
タイミングチェーン3の張り側には、タイミングチェーン3の走行を案内する固定ガイド5がエンジン本体に取り付けられている。
【0025】
図1において、駆動側の回転部材であるスプロケット1が矢印の方向に回転すると、タイミングチェーン3Cが矢印の方向に走行し、このタイミングチェーン3Cの走行によって、被動側の回転部材であるスプロケット2が矢印の方向に回転し、スプロケット1の回転がスプロケット2に伝達される。
【0026】
テンショナ100の断面図および要部拡大図である図2を参照すると、テンショナ100は、エンジン本体から供給された圧油が流通する供給油路111が設けられたハウジング110と、該ハウジング110に進退方向に摺動可能に支持されるとともに走行中のタイミングチェーン3(図1参照)に張力を付与するためにハウジング110に設けられた収容穴112から進退方向で前進する円柱状のプランジャ120と、収容穴112内においてハウジング110とプランジャ120の中空部121との間に形成される油圧室131内に配置されてプランジャ120を前進方向に付勢するプランジャ付勢用ばね130と、供給油路111から油圧室131内への圧油の流入を許容する一方で、油圧室131から供給油路111への圧油の逆流を制限する逆止弁ユニット140とを備えている。
ここで、プランジャ付勢用ばね130および油圧室131の圧油は、プランジャ120を前進方向に付勢するプランジャ付勢手段を構成する。
そして、プランジャ付勢用ばね130の付勢力および高圧油室131内の圧油の油圧は、プランジャ120を前進方向に付勢する前進方向付勢力を形成する。
【0027】
テンショナ100の外部から供給油路111を介して油圧室131に導かれる圧油は、エンジンに備えられる圧油源としてのオイルポンプから供給される。
前記オイルポンプは、エンジンの運転および停止に対応して作動および停止を行い、その作動時に供給油路111を介して油圧室131に圧油を供給する。
【0028】
油圧室131内に突出してハウジング110に組み付けられる逆止弁ユニット140は、供給油路111に連通するとともに圧油が流通する弁油路143が設けられた筒状のボールシート141と、弁座であるボールシート141が有するシート面142に対して着座および離座することにより弁油路143を開閉するほぼ球状のチェックボール147と、弁体であるチェックボール147を付勢してシート面142に押し付ける弁体付勢部材としてのボール付勢用ばね148と、ボール付勢用ばね148を支持するとともにチェックボール147の移動量を規制する鐘状のリテーナ149とを有する。
【0029】
ボールシート141を油圧室131側から見たときの図および要部拡大図である図3と、図3のIVーIV線断面図および要部拡大図である図4(a)および図4(a)のb−b線での拡大断面図である図4(b)とを参照すると、ボールシート141に着座したチェックボール147が当接しているシート面142は、弁油路143から油圧室131に向かって流れる圧油の流れに関して、上流から下流に向かうにつれて拡開している。
シート面142は、後述するシート油溝150を除いて、チェックボール147が当接する当接部144を有するとともに、少なくとも該当接部144が、シート面142の中心軸線Lpを回転軸線とするほぼ回転面としてのテーパ面から構成されている面であり、本実施例では、シート油溝150を除くシート面142のほぼ全体がテーパ面から構成されている。
【0030】
なお、「ほぼ」との表現は、「ほぼ」との修飾語がない場合を含むとともに、「ほぼ」との修飾語がない場合とは厳密には一致しないものの、「ほぼ」との修飾語がない場合と比べて作用効果に関して有意の差異がない範囲を意味する。
【0031】
チェックボール147は、供給油路111に連なる弁油路143での油圧により、シート面142から離座して(すなわち、当接部144から離れて)開弁し、弁油路143を開く一方で、油圧室131での油圧により、シート面142に着座して(すなわち、当接部144に当接して)閉弁し、弁油路143を閉じ、油圧室131から弁油路143への圧油の逆流を制限する。
【0032】
シート面142には、チェックボール147の閉弁状態にあるときに弁油路143と油圧室131とを連通させる1以上の、本実施例では1つのシート油溝150が設けられている。
このため、チェックボール147は、閉弁しているとき、シート油溝150を通じてのリーク油の漏出を許容した状態で、油圧室131から弁油路143への圧油の逆流を制限する。
ここで、リーク油は、チェックボール147が閉弁状態にある(すなわち、逆止弁ユニット140(図2参照)が閉弁状態にある)ときに、油圧室131からシート油溝150を通じて、供給油路111(図2参照)に連なる弁油路143に漏出する圧油である。
【0033】
シート油溝150は、ボールシート141に形成された平面状の溝底面151および1対の平面状の溝側面152により形成される空間であり、1対の溝側面152は、溝底面151を挟んで溝幅Wに平行な方向(以下、「溝幅方向」という。)で対向している。
溝幅Wは、シート面142におけるシート油溝150の開口幅により規定され、シート油溝150での圧油の主流の流れ方向にほぼ直交する方向でのシート油溝150の幅である。
【0034】
シート油溝150は、弁油路143側の端部である弁油路側溝端部150aと、油圧室131側の端部である油圧室側溝端部150bと、弁油路側溝端部150aおよび油圧室側溝端部150bの間に位置する溝中間部150cとから構成される。
本実施例では、弁油路側溝端部150aは、ボールシート141においてシート面142とともに弁油路143を形成する油路形成面141aに開口し、油圧室側溝端部150bは、軸線方向でのボールシート141の油圧室側端面141bに開口し、溝中間部150cはシート面142に開口する。
油路形成面141aは、弁油路143内でシート面142に連なる面であり、油圧室側端面141bは、油圧室131内でシート面142に連なる面である。
【0035】
シート油溝150は、弁油路側溝端部150aに対して、径方向にほぼ平行に延びていて、図3に示されるように、軸線方向視で、1つの径方向にほぼ平行であり、かつシート油溝150の溝中心線Lgが中心軸線Lpと交わる1つの直線上にほぼ位置するように、ほぼ直線状に延びている。
それゆえ、シート油溝150は、弁油路側溝端部150aに対して、周方向に傾斜することなく、および周方向に沿って延びることなく、径方向のみに延びている。
【0036】
なお、軸線方向とは中心軸線Lpに平行な方向であり、軸線方向視とは、軸線方向から見ることである。また、径方向および周方向は、中心軸線Lpを中心とする径方向および周方向である。
そして、中心軸線Lpは弁油路143の中心軸線でもあり、溝中心線Lgは、溝幅Wを二等分する線である。
【0037】
シート油溝150は、弁油路側溝端部150aおよび油圧室側溝端部150bを除く溝部分である溝中間部150cにおいて、その全長に亘って、溝断面積がほぼ一定で、溝断面形状がほぼ一定の溝である。
したがって、シート油溝150の深さDは、溝中間部150cの全長に亘ってほぼ一定である。
ここで、深さDは、シート油溝150における深さの最大値であり、例えば5μm以上である。
【0038】
溝断面積は、タイミングチェーン3からプランジャ120に作用する反力の増加によりプランジャ120が後退する際に油圧室131の油圧が増加することで、チェックボール147が閉弁して閉弁状態にあるときに、シート油溝150を通じて油圧室131から弁油路143に漏出するリーク油に起因するプランジャ120の後退が許容範囲よりも大きくならないように、実験やシミュレーションに基づいて設定されている。
【0039】
ここで、溝断面積は、シート面142の法線方向および溝幅方向にほぼ平行な横断平面におけるシート油溝150の断面である溝断面での面積であり、仮想シート面とシート油溝により囲まれた領域の面積である。そして、溝断面形状とは、前記溝断面でのシート油溝150の形状である。
なお、前記仮想シート面とは、シート油溝150がシート面142に設けられていないと仮定した場合にシート油溝150に対応する部位でのシート面142である。
また、前記許容範囲は、プランジャ120の過度の後退に起因して発生するタイミングチェーン3のバタツキを抑制する観点から予め設定される。
【0040】
そして、前記仮想シート面においてチェックボール147が仮想的に当接する部分を仮想当接部145とするとき、シート油溝150を流れる圧油は、仮想当接部145においてチェックボール147に接触する。
本実施例では、仮想当接部145の形状は、チェックボール147がシート面142に線接触または面接触する場合に応じて、ほぼ円の一部(すなわち、円弧)、または、ほぼ円環の一部である。
【0041】
これにより、チェックボール147が、シート面142に着座していて、閉弁状態にあるときに、弁油路143の圧油は、仮想当接部145においてチェックボール147に接触しながらシート油溝150を流れて油圧室131に流入する。
一方、シート油溝150が設けられたシート面142で、チェックボール147が実際に当接している当接部144においては、弁油路143と油圧室131との間での圧油の流通が阻止されている。
なお、図示の便宜上、シート面142におけるチェックボール147の実際の当接部144が、図3では一点破線で示され、仮想当接部145が、図3,図4(b)では、二点鎖線で示されている。
【0042】
このように、当接部144はシート油溝150により分断されているので、当接部144の周方向長さ(図示されていないが、以下、説明の便宜上「周方向長さCa」という。)は、仮想当接部145の周方向長さである周方向幅(図示されていないが、以下、説明の便宜上「周方向幅Cb」という。)だけ短い。
なお、この周方向幅Cbは、仮想当接部145でのシート油溝150の周方向幅でもある。
そして、図4(b)に示されるように、シート油溝150において、円弧の長さに相当する周方向幅Cbは、該円弧に対応する弦の長さに相当する溝幅Wよりも大きい。
【0043】
図1を併せて参照すると、テンショナ100において、チェックボール147がシート面142に着座して弁油路143を閉じているときに、走行状態にあるタイミングチェーン3の張力変動に起因して、該タイミングチェーン3の張力が減少し、可動レバー4を介してプランジャ120の先端に作用するタイミングチェーン3からの反力が減少するとき、プランジャ付勢用ばね130および油圧室131の圧油の油圧によりプランジャ120が前進する。
そして、プランジャ120の前進により油圧室131での油圧が減少することにより、油圧室131の油圧よりも相対的に大きくなった弁油路143の油圧が、ボール付勢用ばね148(図2参照)の付勢力に抗してチェックボール147を開弁させる開弁力として、チェックボール147に作用する。
【0044】
このとき、シート面142にはシート油溝150が設けられていることにより、チェックボール147の閉弁状態で、弁油路143の圧油は、弁油路143からシート油溝150に流入し、仮想当接部145を通過した後に、シート油溝150から油圧室131に流出する。そして、シート油溝150を流れている圧油は、シート油溝150において、仮想当接部145およびその近傍(すなわち、シート油溝150において仮想当接部145がほぼ位置する部位であり、以下、「仮想当接部近傍」という。)で流動摩擦力をチェックボール147に作用させている。
【0045】
このため、エンジンの運転によりテンショナ100が作動することで、逆止弁ユニット140において、シート面142に対してチェックボール147の着座および離座による当接が繰り返されることに起因して、経時変化により、シート面142がチェックボール147に馴染むように摩耗して、シート面142に対するシートボールの吸着が発生したとしても、当接部144の周方向長さCaが周方向幅Cbだけ短くなる分、シート面142でのチェックボール147の吸着領域が減少するので、シートボールに作用する吸着力が減少して、シート面142に対するチェックボール147の吸着が抑制される。
しかも、仮想当接部145では、吸着力の代わりに、シート油溝150を流れてチェックボール147に接触する圧油の油圧は、シート面142からチェックボール147が離座する方向にも向かって作用するので、チェックボール147が開弁しやすくなる。
【0046】
そして、弁油路143の油圧が油圧室131の油圧よりも相対的にさらに大きくなって、吸着力に打ち勝つと、チェックボール147がシート面142から離座して、チェックボール147が開弁する。
これにより、弁油路143が開かれて、供給油路111の圧油が弁油路143を介して油圧室131に流入するとともに、プランジャ付勢用ばね130および油圧室131の圧油により付勢されたプランジャ120が前進し、該プランジャ120は、可動レバー4を介してタイミングチェーン3に張力を付与する。
このように、テンショナ100においては、タイミングチェーン3の張力減少時に、チェックボール147が開弁し、プランジャ120が前進することで、タイミングチェーン3に張力が付与される。
【0047】
一方、タイミングチェーン3の張力変動に起因して、該タイミングチェーン3の張力が増加し、可動レバー4L1を介してプランジャ120の先端に作用するタイミングチェーン3からの反力が増加するとき、該反力により後退方向(図2参照)に押されたプランジャ120がプランジャ付勢用ばね130の付勢力および油圧室131の圧油の圧力に抗して後退すると、油圧室131の油圧が上昇する。
そして、弁油路143の油圧よりも大きくなった油圧室131の油圧により、チェックボール147は、シート面142に着座して、閉弁する。
【0048】
そして、チェックボール147が閉弁状態になると、油圧室131の圧油がシート油溝150を通じてリーク油として弁油路143に漏出することにより、タイミングチェーン3の張力増加時にプランジャ120の後退が禁止されることによるタイミングチェーン3の過大張力の発生が防止される。
一方、リーク油のリーク流量は、プランジャ120の後退が前記許容範囲に収まるように、油圧室131の圧油が弁油路143に流出することが制限されるので、油圧室131の圧油がプランジャ120の後退を妨げる抵抗になり、プランジャ120の過度の後退が防止されて、タイミングチェーン3の過度の張力低下が防止される。
このように、テンショナ100においては、チェーンの張力増加時に、チェックボール147が閉弁し、前記許容範囲でプランジャ120が後退することで、タイミングチェーン3の過大張力の発生および過度の張力低下が防止される。
【0049】
次に、前述のように構成された実施例の作用および効果について説明する。
油圧式テンショナ100において、逆止弁ユニット140のシート面142には、弁油路143と油圧室131とを、チェックボール147が閉弁状態にあるときに連通させるシート油溝150が設けられ、シート油溝150を流れる圧油が、仮想当接部145においてチェックボール147に接触する。
【0050】
この構成により、チェックボール147の着座および離座によりチェックボール147との当接が繰り返されるシート面142が経時変化により摩耗して、該シート面142でのチェックボール147の吸着が発生したとしても、シート油溝150により、シート面142におけるチェックボール147との当接部144が分断されているので、シート面142でのチェックボール147の吸着領域が減少して、シート面142にチェックボール147を吸着させる吸着力が減少すること、および、仮想当接部145においてチェックボール147に接触するシート油溝150での圧油の油圧がチェックボール147を離座させる方向にも向かって作用することから、シート面142でのチェックボール147の吸着が抑制されて、チェックボール147が開弁しやすくなり、チェックボール147の開弁性を向上させることができる。
そして、チェックボール147の開弁性の向上により、タイミングチェーン3に張力を付与するためのプランジャ120の前進応答性が向上するので、タイミングチェーン3のバタツキが抑制されて、該バタツキによる騒音を低減させることができる。
また、シート油溝150がシート面142に設けられることにより、タイミングチェーン3からの反力がプランジャ120を後退させる大きさであるときに、チェックボール147の閉弁状態で、タイミングチェーン3での過大張力の発生を防止すべくプランジャ120を許容範囲で後退させるために油圧室131から漏出させるリーク油を、シート油溝150を通じて供給油路111に戻すことができる。この結果、シート面142にシート油溝150が設けられていないためにリーク油が油圧室131からテンショナ100の外部に放出される場合に比べて、圧油源であるオイルポンプからテンショナ100に供給される圧油の消費量を減少させることができる。
【0051】
次に、本発明の実施例の変形例を示す図5〜図8を参照して、前述した実施例の構成の一部が変更された第1〜第4変形例を説明する。本発明に係る各変形例は、実施例に対して、部分的に共通の構造を有することから、同一の部分または対応する部分についての説明は省略または簡略にし、異なる点を中心に説明する。なお、前記実施例の部材等と同一の部材等または対応する部材等については、必要に応じて同一の符号が使用されている。
【0052】
なお、いずれも以下に説明する第1〜第4変形例と、実施例および各変形例の一部の構成を変更した例とにおいて、シート面142に複数のシート油溝が設けられる場合、複数のシート油溝のそれぞれを通じて油圧室131から弁油路143に漏出するリーク油を合計したリーク油に起因するプランジャ120の後退が前記許容範囲よりも大きくならないように、溝幅W(したがって、仮想当接部145の周方向幅Cb)を含めて、各シート油溝の溝断面積が設定されている。
【0053】
第1変形例を示す図5を参照すると、油圧式テンショナ100の逆止弁ユニット140のシート油溝150Aは、実施例のシート油溝150(図4参照)と比べたとき、シート油溝150Aでの位置に応じて深さDが異なる点で相違する。
シート油溝150Aの深さDは、該シート油溝150Aでの位置が弁油路側溝端部150a(または、弁油路143)から油圧室側溝端部150b(または、油圧室131)に近づくにつれて、溝中間部150cの全長に亘って一定の割合で変化していて、かつ連続的に浅くなるように溝底面151の形状が設定されている。
【0054】
したがって、シート油溝150Aの溝断面積は、弁油路側溝端部150aから油圧室側溝端部150bに近づくにつれて、または、シート油溝150Aを弁油路143側から油圧室131側に向かう圧油の流れの上流側から下流側に変わるにつれて、一定の割合で連続的に小さくなる。
このため、シート油溝150Aは、各シート油溝150Aでの位置が、仮想当接部145に対して弁油路143側の部位から仮想当接部145に近づくにつれて、深さDが連続的に浅くなり、しかも溝断面積が連続的に減少する溝である。
【0055】
そして、弁油路143側から仮想当接部145に近づくにつれて溝断面積が減少するので、チェックボール147が閉弁状態にあるときに、仮想当接部近傍では、シート油溝150Aを通って弁油路143から油圧室131に流れる圧油の流速が、仮想当接部近傍よりも弁油路143側(または、上流側)の部位での圧油の流速よりも大きくなる。
また、弁油路143側から仮想当接部145に近づくにつれて、シート油溝150Aが浅くなることにより、仮想当接部近傍では、シート油溝150Aの圧油の流れが、チェックボール147をシート面142から離座させる方向に指向する流速成分を有するので、チェックボール147にはシート油溝150Aを流れる圧油の動圧が、チェックボール147をシート面142から離座させる方向に作用する。
【0056】
この第1変形例によれば、実施例と同様の作用および効果が奏されるほか、次の作用および効果が奏される。
シート油溝150Aでの位置が仮想当接部145に対して弁油路143側から仮想当接部145に近づくにつれて、シート油溝150Aの溝断面積が小さくなることにより、シート油溝150Aを弁油路143から仮想当接部145に向かって流れる圧油の流速は、仮想当接部145に近づくにつれて増加するので、弁油路143から油圧室131に向かってシート油溝150Aを流れる圧油とチェックボール147との間で作用する流動摩擦力が大きくなって、該流動摩擦力に引きずられてチェックボール147が開弁しやすくなり、チェックボール147の開弁性を向上させることができる。
【0057】
しかも、シート油溝150Aの溝断面積は、仮想当接部145から弁油路143側に向かうほど大きくなることから、弁油路143の圧油がシート油溝150Aに流入し易くなるため、シート油溝150Aを弁油路143から油圧室131に向かって流れる圧油の流量を大きくすることができるので、シート油溝150Aに流入する圧油の流量増加が、シート油溝150Aでの圧油の油圧および流動摩擦力の増加に寄与して、チェックボール147の開弁性を一層向上させることができる。
【0058】
さらに、シート油溝150Aでの位置が仮想当接部145に対して弁油路143側から仮想当接部145に近づくにつれて、シート油溝150Aが浅くなることにより、仮想当接部近傍では、シート油溝150Aでの圧油の流れが、チェックボール147をシート面142から離座させる方向に指向する流速成分を有するので、シート油溝150Aの圧油の動圧がチェックボール147を離座させる方向に作用して、チェックボール147の開弁性を向上させることができる。
【0059】
第2変形例を示す図6を参照すると、シート油溝150Bは、実施例のシート油溝150と比べたとき、主に、シート油溝150Bでの位置に応じて溝幅Wが異なる点で相違する。
シート油溝150Bの溝幅Wは、シート油溝150Bでの位置が弁油路側溝端部150aから油圧室側溝端部150bに近づくにつれて、一定の割合で、かつ連続的に小さくなるように1対の溝側面152の形状が設定されている。
そして、シート油溝150Bの溝断面積は、第1変形例のシート油溝150Aと同様に、シート油溝150Bでの位置が弁油路側溝端部150aから油圧室側溝端部150bに近づくにつれて、一定の割合で連続的に小さくなる。
【0060】
このため、シート油溝150Bは、仮想当接部145に対して弁油路143側から仮想当接部145に近づくにつれて、溝幅Wが連続的に小さくなり、溝断面積が連続的に減少する溝である。なお、軸線方向視で、1対の溝側面152は、中心軸線Lpを通る1つの直線を対称線として、該対称線に関して対称になっているが、別の例として、該1つの直線に関して非対称になっていてもよい。
【0061】
そして、シート油溝150Bでは、シート油溝150Aと同様に、チェックボール147が閉弁状態にあるときに、仮想当接部近傍では、シート油溝150Bを通って弁油路143から油圧室131(図4(a)参照)に流れる圧油の流速が、仮想当接部近傍よりも弁油路143側の部位での圧油の流速よりも大きくなる。
この第2変形例によれば、シート油溝150Bを流れる圧油の流動摩擦力によるチェックボール147の開弁性の向上の点で、第1変形例と同様の作用および効果が奏される。
【0062】
第3変形例を示す図7を参照すると、シート面142には、3以上の所定数の、本実施では3つのシート油溝150Cが設けられる。各シート油溝150Cは、溝断面積の大きさを除いて(ここでは、該溝断面積に関わる深さD(図4参照)が実施例のシート油溝150(図4参照)に比べて浅くなっていることを除いて)、シート油溝150と同様である。
3つのシート油溝150Cは、各シート油溝150Cの全体で、周方向に等しい間隔を置いて配置されている。このため、当接部144は、周方向で等しい間隔をおいて、シート油溝150Cの数と同数の箇所で分断されて、シート面142におけるチェックボール147の吸着領域が減少する。
また、シート面142におけるすべてのシート油溝150Cを流れる圧油がチェックボール147(図4参照)に加える油圧は、ほぼ均等であるので、離座するときのチェックボール147が、中心軸線Lpを中心とする径方向で偏って移動することが抑制される。
【0063】
この第3変形例によれば、実施例と同様の作用および効果が奏されるほか、次の作用および効果が奏される。
ボールシート141のシート面142には、周方向に間隔を置いて複数としての3つのシート油溝150Cが設けられることにより、各シート油溝150Cによるチェックボール147の開弁容易化の作用が総合されるので、チェックボール147の開弁性を一層向上させることができる。
しかも、すべてのシート油溝150Cが周方向に等間隔に配置されることにより、離座するときのチェックボール147が径方向で偏りながら離座すること、および、径方向での偏りに起因してチェックボール147が暴れることが抑制されるので、チェックボール147の開弁の円滑性が向上して、チェックボール147の開弁性を向上させることができ、しかも、離座した直後のチェックボール147が、プランジャ120の後退による油圧室131の油圧の増加により着座する場合のチェックボール147の復帰性が向上して、タイミングチェーン3(図1参照)の張力変動に対するテンショナ100(図1参照)の張力調整の応答性を向上させることができる。
【0064】
第4変形例を示す図8を参照すると、シート面142には、1以上である所定数の、本実施例では複数としての3つのシート油溝150Dが周方向に等しい間隔を置いて配置されている。
各シート油溝150Dは、弁油路側溝端部150aおよび油圧室側溝端部150bを除く溝中間部150cにおいて、その全長に亘って、溝断面積がほぼ一定で、溝断面形状がほぼ一定の溝である。深さD(図4参照)は、第3変形例のシート油溝150C(図7参照)と同様に、実施例のシート油溝150(図4参照)よりも浅くされている。
【0065】
各シート油溝150Dは、その全体において、該シート油溝150Dでの位置が、弁油路側溝端部150aから油圧室側溝端部150bに近づくにつれて、シート油溝150Dの弁油路側溝端部150aに対して、径方向外方に向かうにつれて周方向での一方向側に、本変形例では図8において左方側に一定の割合(または、一定の角度)で、傾斜している。なお、別の例として、周方向での一方向側は、径方向外方に向かうにつれて図8において右方側であってもよい。
各シート油溝150Dは、軸線方向視で、1つの径方向にほぼ平行であり、かつシート油溝150Dの溝中心線Lgが中心軸線Lpに対して所定距離だけオフセットしている1つの直線上にほぼ位置するように、ほぼ直線状に延びている。
【0066】
これにより、シート油溝150Dを流れる圧油の流動摩擦による流動摩擦力が、チェックボール147(図4参照)を回転させようとするため、シート面142と、着座しているチェックボール147との間には、周方向での剪断力が作用し、離座した直後のチェックボール147には、回転が生じている。
チェックボール147の回転速度を決定する各シート油溝150Dの傾斜の大きさは、チェックボール147の開弁性向上の観点から適宜設定されるが、一般的にはチェックボール147の回転速度は大きいほど好ましい。
【0067】
また、図8に示されるように、各シート油溝150Dは、仮想当接部145を挟んで圧油の流れの上流から下流に亘る部位であって、仮想当接部145の全体が位置する当接部対応溝部150D1を有する。
当接部対応溝部150D1は、シート油溝150Dでの位置が仮想当接部145に対して弁油路143側から仮想当接部145を経て油圧室131側に変わるにつれて、径方向に対して周方向に傾斜して延びていて、しかも当接部対応溝部150D1において、周方向幅Cbは溝幅Wよりも大きい。
これにより、シート油溝が径方向のみに延びている場合の仮想当接部145の周方向幅Cb(例えば、図3に示されるシート油溝150での周方向幅Cbである。)に比べて、当接部対応溝部150D1では、仮想当接部145の周方向幅Cbが大きくなる。
【0068】
このため、当接部144が、より大きな周方向幅Cbの仮想当接部145により分断されることにより、基本周方向幅Cb1で分断される場合に比べて、分断幅が大きくなって、当接部144の周方向長さCaの減少量、したがってシート面142におけるチェックボール147(図4参照)の吸着領域の減少量が大きくなる。
【0069】
この第4変形例によれば、第3変形例と同様の作用および効果が奏されるほか、次の作用および効果が奏される。
ボールシート141のシート面142には、複数のシート油溝150Dが周方向に間隔を置いて設けられることにより、各シート油溝150Dによるチェックボール147の開弁容易化の作用が総合されるので、チェックボール147の開弁性を一層向上させることができる。
【0070】
さらに、各シート油溝150Dでの位置が、仮想当接部145に対して弁油路143側から仮想当接部145を経て油圧室131側に変わるとき、各シート油溝150Dが、弁油路側溝端部150aに対して、径方向外方に向かうにつれて周方向での一方向側に傾斜している。
この構成により、弁油路側溝端部150aに対して周方向での一方向側に傾斜している弁油路143から油圧室131に向かってシート油溝150Dを流れる圧油は、周方向で一方向側に指向する流速成分を有することから、チェックボール147に作用する圧油の流動摩擦力の周方向分力がチェックボール147を回転させようとして、シート面142とチェックボール147との間に剪断力が作用するので、チェックボール147が開弁しやすくなり、チェックボール147の開弁性の向上させることができる。
そのうえ、シート面142から離座した直後のチェックボール147は回転しているので、チェックボール147が径方向に偏ることが一層抑制されて、離座した直後のチェックボール147が、プランジャ120の後退による油圧室131の油圧の増加により着座する場合のチェックボール147の復帰性を向上させることができる。
【0071】
また、各シート油溝150Dは、少なくとも当接部対応溝部150D1において、各シート油溝150Dでの位置が仮想当接部145に対して弁油路143側から仮想当接部145を経て油圧室131側に変わるにつれて、弁油路側溝端部150aに対して周方向に傾斜していることにより、シート油溝が径方向のみに延びている場合に比べて、仮想当接部145の周方向幅Cbが大きくなるので、周方向幅Cbの増加により、シート面142でのチェックボール147の吸着が抑制されて、チェックボール147の開弁性を向上させることができる。
【0072】
さらに、当接部対応溝部150D1においては、周方向幅Cbがシート油溝150Dの溝幅Wよりも大きいことにより、周方向幅Cbを大きくしながら、溝幅Wを小さくすることが可能になるので、溝幅Wが小さくなることによる圧油に対する流れ抵抗の増加により、シート油溝150Dを流れる圧油の流量の減少が可能になるため、シート油溝150Dを通じて漏出するリーク油のリーク流量を減少させて、油圧室131の圧油によるプランジャ120の後退抑制効果を向上させることができる。
【0073】
以下、前述した実施例および各変形例の一部の構成を変更した例について、変更した構成に関して説明する。
シート油溝での位置が仮想当接部145に対して弁油路143側から仮想当接部145に近づくにつれて浅くなるシート油溝は、図4(a)に二点鎖線で示される隆起部155を有するシート油溝150Eであってもよい。隆起部155は、溝底面151において局部的に隆起する部位であり、シート油溝150Eでの位置が、仮想当接部145に対して、弁油路143側および油圧室131側の少なくとも一方から、ここでは、弁油路143側および油圧室131側から仮想当接部145に近づくにつれて浅くなっていて、仮想当接部近傍において、シート油溝150Eにおける深さDが最も浅くなっていて、さらに溝断面積が最小になっている。このシート油溝150Eによっても、シート油溝150Eでの圧油の流速に関連して第1変形例のシート油溝150A(図5参照)と同様の作用および効果が奏される。
【0074】
シート油溝の溝断面積および溝断面形状を含めたシート油溝の形状が、シート油溝での位置が変わるにつれて変化するとき、該シート油溝の形状の変化の形態には、連続的な変化以外に、段階的な変化が含まれ、さらに変化するときの割合には、一定の割合での変化以外に、変化する割合での変化が含まれる。
【0075】
第3,第4変形例において、複数のシート油溝150C,150Dは、第1変形例のシート油溝150Aまたは第2変形例のシート油溝150Bから構成されてもよく、または、実施例、第1,第2変形例のシート油溝150,150A,150Bの組合せにより構成されてもよい。
第3,第4変形例に関して、複数のシート油溝150C,150Dは、周方向に異なる間隔を置いて配置されてもよく、これによりシート油溝150C,150Dが1つである場合に比べて、チェックボール147の開弁性を向上させることができ、また第4変形例では、チェックボール147を回転させることができる。
【0076】
シート油溝150〜150Dにおいては、弁油路側溝端部150aは、油圧室側端面141bに開口することなく、シート面142に開口し、または、油圧室側溝端部150bは、油路形成面141aに開口することなく、シート面142に開口していてもよい。
第3,第4変形例に関して、複数のシート油溝150C,150Dは、周方向に異なる間隔を置いて配置されてもよく、これによりシート油溝150C,150Dが1つである場合に比べて、チェックボール147の開弁性を向上させることができる。
【0077】
また、第4変形例に関連して、シート油溝150Dでの周方向での傾斜により仮想当接部145の周方向幅Cbを増加させて、シート面142でのチェックボール147の吸着抑制を図る場合には、シート油溝150Dでの傾斜方向は、周方向での一方向側および他方向側のいずれであってもよい。
【0078】
第2変形例(図6参照)とは逆に、シート油溝の溝幅Wは、シート油溝での位置が弁油路側溝端部150aから油圧室側溝端部150bに近づくにつれて、大きくなるように1対の溝側面152の形状が設定されてもよい。この場合、共通のシート面142を有するボールシート141に対して異なる外径のチェックボール147(図4参照)が使用されるときに、チェックボール147の外径が大きくなるほど、仮想当接部145の周方向幅Cbも大きくなるので、外径が大きいチェックボール147が使用されたとしても、シート面142でのチェックボール147の吸着を抑制する点で、良好な効果を確保することができる。
【0079】
油圧式テンショナ100(図1参照)により張力が付与される巻掛け伝動体は、エンジンが備えるタイミングチェーン3以外のチェーンであってもよく、またチェーン以外に、ベルトであってもよい。
【符号の説明】
【0080】
100・・・油圧式テンショナ
110・・・ハウジング
111・・・供給油路
112・・・収容穴
120・・・プランジャ
131・・・油圧室
140・・・逆止弁ユニット
141・・・ボールシート
142・・・シート面
143・・・弁油路
144・・・当接部
145・・・仮想当接部
147・・・チェックボール
150,150A〜150E・・・シート油溝
W ・・・溝幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧油源から供給された圧油が流通する供給油路が設けられたハウジングと、前記ハウジングに設けられた収容穴に進退方向に移動可能に収容されるとともに走行中のチェーンに張力を付与するために前記進退方向で前進方向に付勢されたプランジャと、前記収容穴内で前記ハウジングと前記プランジャとの間に形成された油圧室と前記供給油路とを連通させる弁油路が設けられたボールシートおよび前記ボールシートに対して着座および離座することにより弁油路を開閉するチェックボールを有する逆止弁ユニットとを備え、
前記ボールシートのシート面が、前記ボールシートに着座した前記チェックボールが当接する当接部を有し、
前記チェックボールが、前記弁油路での油圧により開弁して前記弁油路を開く一方で、前記油圧室での油圧により閉弁して前記弁油路を閉じて前記油圧室から前記弁油路への圧油の逆流を制限する油圧式テンショナにおいて、
前記シート面には、前記弁油路と前記油圧室とを、前記チェックボールが閉弁状態にあるときに連通させるシート油溝が設けられ、
前記シート油溝が前記シート面に設けられていないと仮定した場合に、前記シート油溝に対応する部位での仮想シート面において前記チェックボールが仮想的に当接する部分を仮想当接部とするとき、前記シート油溝を流れる圧油が、前記仮想当接部において前記チェックボールに接触することを特徴とする油圧式テンショナ。
【請求項2】
前記シート油溝での位置が前記仮想当接部に対して前記弁油路側から前記仮想当接部に近づくにつれて、前記シート油溝の溝断面積が小さくなることを特徴とする請求項1に記載の油圧式テンショナ。
【請求項3】
前記シート油溝での位置が前記仮想当接部に対して前記弁油路側から前記仮想当接部に近づくにつれて、前記シート油溝が浅くなることを特徴とする請求項2に記載の油圧式テンショナ。
【請求項4】
前記シート面には、周方向に等しい間隔を置いて3以上の前記シート油溝が設けられることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の油圧式テンショナ。
【請求項5】
前記各シート油溝での位置が前記仮想当接部に対して前記弁油路側から前記仮想当接部を経て前記油圧室側に変わるにつれて、前記シート油溝が、径方向外方に向かって周方向での一方向側に傾斜していることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の油圧式テンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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