説明

油圧式開孔機の自動制御方法

【課題】開孔機の開孔作業において、開孔された状態を的確に、検知し、それにより開孔機を即退避させることにより開孔機器を破損させることなく健全な開孔を可能とする油圧式開孔機の自動制御方法を提供する。
【解決手段】油圧式開孔機のドリルのフィード・打撃・回転によって溶融炉の出湯口を開孔する油圧式開孔機の自動制御方法が、開孔深度Lが予め溶融炉毎に設定される開孔深度L1になった時を貫通前位置として検出する工程、前記貫通前位置を検出の後、更に開孔を進め、出湯口近傍の温度、フィード速度(またはフィード流量)、ロッドの回転圧力の降下割合のうち少なくとも2条件を満足した時の開孔深度を貫通直前位置として検出する工程および、更に開孔を進め、フィード速度がある時間以上連続的に0になったときまたはストロークエンド位置で開孔完了と判断し、開孔と逆の作業を行って開孔機を待機位置まで自動的に退避させる工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式開孔機のドリルのフィード・打撃・回転によって溶融炉の出湯口を開孔する油圧式開孔機の自動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所の高炉、ゴミ溶融炉、灰溶融炉などの溶融炉における溶融物排出用の出湯口の開孔作業には、図5に示すような油圧式の開孔機が用いられている。
【0003】
図5に示すように、例えば高炉の出湯口の内壁にはマッドが充填されており、出湯の際には、先端にビットを装着したロッドからなるドリルを有する油圧開孔機を用い、該ロッドに打撃力・回転力・フィード力(ロッドを軸方向に移動する力)を付与して出湯口の開孔作業を行っている。
【0004】
この出湯口の開孔作業時に、出湯口から飛散する溶融物がロッドに打撃力と回転力を与えるドリフター6などに長時間当たると開孔機器が破損してしまうため、開孔タイミングを正確に検出して油圧開孔機の制御を行う必要がある。
【0005】
油圧開孔機の自動制御方法については従来から種々の提案がなされており、例えば、下記特許文献1には、溶融炉などの溶融炉本体に配設されている出湯口を自動的に開孔する場合に、開孔後にドリルが溶融物の奥まで突っ込まれると、ビット及びロッドが変形し、再利用不可、寿命の低下、更には、前記のビット及びロッドなどが抜けなくなることを防止するために、開孔直後に素早くドリルの前進を停止し、即座に後退させる方法が記載されている。
【0006】
特許文献1の発明の概要は、その請求項1に記載された通り、「油圧式開孔機のドリルのフィード・打撃・回転によって溶融炉の出湯口を開孔する油圧式開孔機の自動制御方法において、上記油圧式開孔機のドリルの前進距離Lbを検出して、該ドリルが溶融炉の出湯口を開孔する直前付近にあることを検出し、上記ドリルが出湯口を開孔する直前付近にあることを検出した後において、上記油圧式開孔機のフィード流量Rfの変化を検出し、該変化の大きさにより出湯口の開孔直前を検出し、上記出湯口の開孔直前を検出した時点から所定距離Laほどドリルが前進した後に出湯口が開孔したと判断し、上記所定距離Laをドリルのフィード量から直接検出し、該所定距離Laは該溶融炉内の溶融物の溶融状態に応じて変更可能になっていることを特徴とする油圧式開孔機の自動制御方法。」にある。
【0007】
実際の操業において、出湯口の孔はマッドを詰めて塞ぐが、このマッドの状態、特にその硬さは炉内の操業状況により毎出銑で変わり、硬い時もあれば柔らかい時もある。特に硬い時、前記従来技術のものでは、以下の課題を生ずる。
即ち、特許文献1に開示のものは、出湯口の開孔直前位置の検出をフィード流量Rfの変化の大小により検出するものであり、通常時はロッド先端の一部がマッドを突き抜けると抵抗が小さくなり一気に開孔が進むためフィード速度が大きく変化するが、図4に示すようにマッドの硬さが硬い時には、ロッド先端の一部がマッドを突き抜けていても(溶融物が出始め開始)硬い部分が残っているため抵抗が大きく開孔がなかなか進まないため、フィード流量及びそれに付随するフィード速度が全く変化しなく、出湯口の開孔直前位置の検出が不可能であるため、溶融物が出始めている出湯口前において開孔作業を継続することになり、図5に示す如く、開孔機器を破損させるという問題点があった。
【0008】
また、前記特許文献1に開示のものは、仮に、正確なる開孔直前位置を検知した場合、その後、所定距離Laだけロッドが前進した位置で開孔したと判断して直進を停止し即座に後退させている。しかしながら、実際の操業において、マッドの状態、特にその形状は炉内の操業状況により毎出湯で変わり出湯口においてLaだけ進んでも十分に開孔していない場合もあり、その場合には中途半端な状態で溶融物が出てきている出湯口に再度ロッドを打ち込むという危険で且つ開孔機器の破損にもつながる作業を行う必要があった。
【0009】
また、溶融物を炉外に排出した後の閉塞作業は、マッドガンを使用して数100Kg〜1000Kg程度のマッドを炉外から充填するが、図3に示すように、マッドの形状は種々あり、閉孔完了時でのマッドの形状に差異があるためロッドの必要前進距離は一定でないうえ、上記の如く、操業状況により変化するため、従来のロッドの進め方では、炉内面形状がなめらかな場合には開孔できるが、粗くて凹凸が激しい場合には最後まで十分に開孔できない場合があった。
【0010】
【特許文献1】特開2003−294375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、油圧式開孔機の開孔作業において、開孔された状態(時期)を的確に、検知し、それにより開孔機を即退避させることにより開孔機器を破損させることなく健全(開孔形状が良好なる)な開孔を可能とすることができる油圧式開孔機の自動制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前述の課題を解決するために鋭意検討の結果、出湯口の開孔タイミングを正確に検出する方法を見出してなされたものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載したとおりの下記内容である。
(1)油圧式開孔機のドリルのフィード・打撃・回転によって溶融炉の出湯口を開孔する油圧式開孔機の自動制御方法において、
下記工程1〜工程3により自動的に開孔制御することを特徴とする油圧式開孔機の自動制御方法。
【0013】
工程1:開孔深度Lが予め溶融炉毎に設定される開孔深度L1になった時を貫通前位置として検出する工程。
【0014】
工程2:前記貫通前位置を検出の後、更に、開孔を進め、下記の条件1〜条件3のうち、少なくとも2条件を満足した時の開孔深度Lを貫通直前位置として検出する工程。
【0015】
条件1:出湯口近傍の温度T≧予め設定された温度T1
条件2:フィード速度V(またはフィード流量)≧予め設定されたフィード速度V1(またはフィード流量)
条件3:ロッドの回転圧力の降下割合ΔP≧予め設定されたロッドの回転圧力の降下割合ΔP1
工程3:前記貫通直前位置を検出の後、更に、開孔を進め、フィード速度V(またはフィード流量)がある時間以上連続的に0になったときまたはストロークエンド位置で開孔完了と判断し、開孔と逆の作業を行って開孔機を待機位置まで自動的に退避させる工程。
(2)前記工程2において、貫通直前位置の検出の後、フィード速度を自動的に上げて一気に貫通させることを特徴とする(1)に記載の油圧式開孔機の自動制御方法。
<作用>
(1)の発明によれば、出湯口近傍の温度、フィード速度またはフィード流量、ロッドの回転圧力の降下割合の条件うち少なくとも2つ以上の条件が成立する場合に貫通直前であると判定することにより、開孔機の開孔作業において、開孔された状態(時期)を的確に、検知し、それにより開孔機を即退避させることにより開孔機器を破損させることなく健全(開孔形状が良好なる)な開孔を可能とすることができる油圧式開孔機の自動制御方法を提供することができる。
(2)の発明によれば、貫通直前位置の検出の後、フィード速度を自動的に上げて一気に貫通させることにより、溶融物が開孔機器に当たる時間を最小限に留めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、出湯口近傍の温度、フィード速度またはフィード流量、ロッドの回転圧力の降下割合の条件うち少なくとも2つ以上の条件が成立する場合に貫通直前であると判定することにより、開孔機の開孔作業において、開孔された状態(時期)を的確に、検知し、それにより開孔機を即退避させることにより開孔機器を破損させることなく健全(開孔形状が良好なる)な開孔を可能とすることができる油圧式開孔機の自動制御方法を提供することができるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態について図1および図2を用いて詳細に説明する。
【0018】
図2は、 本発明の自動制御方法を適用する油圧式開孔機(含む制御・検出手段)の実施形態を例示する図である。
【0019】
図2において、1は油圧装置、2はロッド回転用流量計、3はフィードモーター用流量計、4はフィードモーター、5はエンコーダー、6はドリフター、7はセントライザー、8は放射温度計、9は制御装置、10はロッドを示す。
【0020】
図2に示すように、本発明の自動制御方法を適用する油圧式開孔機は、製鉄所の高炉、ゴミ溶融炉、灰溶融炉などの溶融炉の出湯口の外側からドリルをフィード・打撃・回転させてマッドなどにより閉塞された出湯口を開孔するものである。
【0021】
出湯口を開孔する際には、フィードモーター4によりロッド10を軸方向に移動し出湯口に差し込むととともに、油圧装置1からドリフター6に作動油を供給してセントライザー7により支持されたロッドに打撃力と回転力を付与する。
【0022】
フィードモーター4によるロッド10の移動距離はエンコーダー5により計測し、出湯口付近の温度は放射温度計8により計測されて制御装置9に送信され、油圧装置1およびフィードモーター4の動作が制御されるようになっている。
【0023】
図1は、本発明における油圧式開孔機の自動制御フロー図である。
【0024】
本発明の油圧式開孔機の自動制御方法は、油圧式開孔機のドリルのフィード・打撃・回転によって溶融炉の出湯口を開孔する油圧式開孔機の自動制御方法において、下記工程1〜工程3により自動的に開孔制御することを特徴とする。
【0025】
本発明の油圧式開孔機の自動制御方法を図1の自動制御フローを用いて以下に説明する。
【0026】
まず工程1として、開孔深度(位置)Lが予め溶融炉毎に設定される開孔深度L1以上かどうか判断し(S−1)、L≧L1になった時を貫通前位置として検出する(S−2)。
【0027】
この際、実際の開孔深度Lは、図2に示している開孔機本体に配設したエンコーダー5によりフィードモーター4の回転数をカウントすることにより計測する。また、予め溶融炉毎に設定される開孔深度L1は、図2に示すように、出湯口の最外面から溶融炉の内面までの距離とすればよい。
【0028】
次に工程2として、前記貫通前位置を検出の後、更に、開孔を進め、下記の3つの条件のうち、少なくとも2つの条件を満足した時を貫通直前位置として検出し(S−3、S−4)、貫通位置として自動記録するS-4´)。
【0029】
なお、実際の操業において、工程2で検知した開孔直前位置の雰囲気は非常に高温になっており、ロッド先端が孔が少し開き始めて溶融物に接触すると先端部分が容易に溶け始めて掘削能力が低下するため、貫通が完了する前にロッドの掘削能力がなくなり、必要サイズの孔を開けられないことがあるので、工程2において貫通直前位置の検出の後、フィード速度を自動的に上げて一気に貫通させることができるい(S-5)。
【0030】
条件1:出湯口近傍の温度T≧予め設定した温度T1
条件2:フィード速度またはフィード流量V≧ 予め設定したフィード速度またはフィード流量V1
条件3:ロッドの回転圧力の降下割合ΔP≧予め設定したロッドの回転圧力の降下割合ΔP1
実際の出湯口近傍のTの計測は、図2に示す如く、出湯口付近に配設した放射温度計8にて計測する。この場合、予め設定した温度T1が800℃未満では図示していない大樋に溜まった溶融物により高められた雰囲気温度を検出してしまい誤計測となるため、前記T1として800℃以上とすることが好ましい。
【0031】
ロッドのフィード速度またはフィード流量Vは、フィードモーター軸に連結したエンコーダーまたはフィードモーター油圧配管の途中に設置した流量計にて計測する。このVが、無負荷時のフィード速度またはフィード流量として予め設定したV1の50%%未満では開孔初期、中期(途中)にあるマッドの柔らかい部分でもフィード速度が上昇するため、誤計測となることがあるのでV1はVの50%以上とすることが好ましい。
【0032】
ロッドの回転圧力の降下割合ΔPは、ロッド回転モーターの油圧配管途中に設置した圧力計にて測定する。このΔPが、予め設定したロッドの回転圧力の降下割合ΔP1(5MPa)未満では開孔途中のマッドの崩れなどで瞬間的に圧力差が大きくなり、誤検出となるので、前記ΔP1として5MPa以上とすることが好ましい。
【0033】
次に工程3として、前記貫通直前位置を検出の後、更に、開孔を進め、フィード速度またはフィード流量がある時間(T秒間)以上連続的に0になったときまたはストロークエンド位置で開孔完了と判断して開孔を完了し(S−6,S-7)、開孔と逆の作業を行って開孔機を待機位置まで自動的に退避させる(S-8)。
【0034】
以上のように、本発明によれば、出湯口近傍の温度、フィード速度またはフィード流量、ロッドの回転圧力の降下割合の条件うち少なくとも2つ以上の条件が成立する場合に貫通直前であると判定することにより、開孔機の開孔作業において、開孔された状態(時期)を的確に、検知し、それにより開孔機を即退避させることにより開孔機器を破損させることなく健全(開孔形状が良好なる)な開孔を可能とすることができる油圧式開孔機の自動制御方法を提供することができる。
【実施例】
【0035】
本発明の油圧式開孔機の自動制御方法を表1に示す条件で実施した。
【0036】
検知率は、実際の高炉において、作業者が開孔機を退避させ、実際に出銑が良好に開始された時、当該工程途中における各制御因子の値を計測しておき、当該計測値が限定値を満足している場合を検知率100%、不満足の場合を0%、満足度の判定が微妙な場合は検知率50%とし、各実施例について各々40回実施し、その平均値を示す。
【0037】
【表1】

比較例1の検知率が低いのは、マッドが硬い場合が影響しているものと考えられ、比較例2の検出率が低いのは、マッドが硬くならずに常に低負荷状態で回転したためと考えられ、比較例3の検知率が低いのは、ロッド先端部が孔を塞ぎロッドを引き抜くまで溶銑が出て来なかったためと考えられる。
【0038】
一方、出湯口近傍の温度、フィード速度またはフィード流量、ロッドの回転圧力の降下割合の条件うち少なくとも2つ以上の条件が成立する場合に貫通直前であると判定した発明例における検知率はいずれも90%以上であり、本発明の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明における油圧式開孔機の自動制御フロー図である。
【図2】本発明の自動制御方法を適用する油圧式開孔機(含む制御・検出手段)の実施形態を例示する図である。
【図3】出湯口を閉塞するマッドが硬い場合を例示する図である。図である。
【図4】出湯口を閉塞するマッドを例示する図である。
【図5】従来の油圧式開孔機を例示する図である。
【符号の説明】
【0040】
1 油圧装置
2 ロッド回転用流量計
3 フィードモーター用流量計
4 フィードモーター
5 エンコーダー
6 ドリフター
7 セントライザー
8 放射温度計
9 制御装置
10 ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧式開孔機のドリルのフィード・打撃・回転によって溶融炉の出湯口を開孔する油圧式開孔機の自動制御方法において、
下記工程1〜工程3により自動的に開孔制御することを特徴とする油圧式開孔機の自動制御方法。
工程1:開孔深度Lが予め溶融炉毎に設定される開孔深度L1になった時を貫通前位置として検出する工程。
工程2:前記貫通前位置を検出の後、更に、開孔を進め、下記の条件1〜条件3のうち、少なくとも2条件を満足した時の開孔深度Lを貫通直前位置として検出する工程。
条件1:出湯口近傍の温度T≧予め設定された温度T1
条件2:フィード速度V(またはフィード流量)≧予め設定されたフィード流量V1(またはフィード流量)
条件3:ロッドの回転圧力の降下割合ΔP≧予め設定されたロッドの回転圧力の降下割合ΔP1
工程3:前記貫通直前位置を検出の後、更に、開孔を進め、フィード速度V(またはフィード流量)がある時間以上連続的に0になったときまたはストロークエンド位置で開孔完了と判断し、開孔と逆の作業を行って開孔機を待機位置まで自動的に退避させる工程。
【請求項2】
前記工程2において、貫通直前位置の検出の後、フィード速度を自動的に上げて一気に貫通させることを特徴とする請求項1に記載の油圧式開孔機の自動制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−190729(P2008−190729A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22654(P2007−22654)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】