説明

油圧緩衝器の減衰バルブ構造

【課題】 油圧緩衝器の減衰バルブ構造において、コイルスプリングによりディスクバルブを周方向に均等に背面支持し、安定してバラツキのない減衰力を発生させること。
【解決手段】 ディスクバルブ31をコイルスプリング35により背面支持して該ディスクバルブ31をバルブシート面に着座させる油圧緩衝器10の減衰バルブ構造において、コイルスプリング35の総巻き数が、nを整数とするとき、n+0.75巻きからn+1.00巻きの範囲とされるもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧緩衝器の減衰バルブ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧緩衝器の減衰バルブ構造として、特許文献1に記載の如く、シリンダにピストンロッドを摺動可能に挿入し、ピストンロッドに設けたピストンによりシリンダの内部を上下2室に区画し、ピストンに上下2室を連通する流路を設け、ピストンの流路が開口するバルブシート面にディスクバルブを設け、ディスクバルブをコイルスプリングにより背面支持して該ディスクバルブをバルブシート面に着座させるものがある。
【0003】
この減衰バルブ構造では、シリンダ内におけるピストン速度が微低速域にあるときには、環状ディスクバルブの外周部がシリンダの一方の油室圧力によりたわみ、バルブシート面との間に小さな隙間を形成し、微低速域の減衰力を発生させる。他方、ピストン速度が中高速域にあるときには、環状ディスクバルブの外周部がシリンダの一方の油室圧力によりコイルスプリングの付勢力に抗して大きくたわみ、バルブシート面との間に大きな隙間を形成し、中高速域の減衰力を発生させる。
【0004】
ところで、特許文献1に記載の減衰バルブ構造では、コイルスプリングのディスクバルブを背面支持する座巻部で、コイル軸に直交するように研削された端面をもつ尖端部と、この尖端部に背面側から近接する本体部との間に離間した隙間を有するものとしてある。これにより、コイルスプリングの付勢力がディスクバルブの背面に対し、2ヵ所より多い3ヵ所以上で伝達するものとする。ディスクバルブは、コイルスプリングから周方向に概ね均等となる付勢力を受けてバルブシート面に着座するものになり、シリンダの一方の油室圧力を受けてたわむときには、全周に渡って概ね均等にたわみ、バルブシート面との間に全周に渡って概ね均等となる隙間を形成し、所望の減衰力を発生し得るとするものである。
【特許文献1】特開2008-128348
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コイルスプリングの座巻部に、特許文献1に記載の隙間を有するようにするだけでは、ディスクバルブを周方向に均等に背面支持し得るとは限らない。
【0006】
本発明の課題は、油圧緩衝器の減衰バルブ構造において、コイルスプリングによりディスクバルブを周方向に均等に背面支持し、安定してバラツキのない減衰力を発生させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、シリンダにピストンロッドを摺動可能に挿入し、ピストンロッドに設けたピストンによりシリンダの内部を上下2室に区画し、ピストンに上下2室を連通する流路を設け、ピストンの流路が開口するバルブシート面にディスクバルブを設け、ディスクバルブをコイルスプリングにより背面支持して該ディスクバルブをバルブシート面に着座させる油圧緩衝器の減衰バルブ構造において、コイルスプリングの総巻き数が、nを整数とするとき、n+0.75巻きからn+1.00巻きの範囲とされるようにしたものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記コイルスプリングの両端座巻部が、7/8巻き以上の範囲に渡り、コイル軸に直交するように研削された端面をもつようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
(請求項1)
(a)コイルスプリングがディスクバルブを背面支持し、このディスクバルブをバルブシート面に着座させるときに、ディスクバルブをバルブシート面に押圧するコイルスプリングの周方向の荷重分布は、実験結果によれば、コイルスプリングの総巻き数Nをn+0.75巻き〜n+1.00巻き(n:整数)とするとき、概ねむらのないものになる。このとき、コイルスプリングはディスクバルブを周方向に均等に背面支持するものになる。従って、ディスクバルブは、確実に、コイルスプリングから周方向に概ね均等となる付勢力を受けてバルブシート面に着座するものになり、シリンダの一方の油室圧力を受けてたわむときには、全周に渡って概ね均等にたわみ、バルブシート面との間に全周に渡って概ね均等となる隙間を形成し、安定してバラツキのない減衰力を発生させる。
【0010】
(請求項2)
(b)コイルスプリングの両端座巻部が、7/8巻き以上の範囲に渡り、コイル軸に直交するように研削された端面をもつ。コイルスプリングがディスクバルブを背面支持する面積を大きくし、コイルスプリングによりディスクバルブを周方向に一層均等に背面支持するものになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は油圧緩衝器の減衰バルブ構造を示す断面図、図2はコイルスプリングを示し、(A)は断面図、(B)は端面図、図3はコイルスプリングの座巻部を示す平面図、図4はコイルスプリングの総巻き数Nと周方向の荷重分布を示す図表、図5はコイルスプリングの総巻き数Nと減衰力DFのバラツキを示す線図である。
【実施例】
【0012】
図1は油圧緩衝器10の要部を示す。油圧緩衝器10は、単筒型又は複筒型のいずれでも良く、シリンダ11にピストンロッド12を摺動可能に挿入し、ピストンロッド12に設けたピストン13によりシリンダ11の内部を上下2室、本実施例ではピストンロッド12を収容するロッド側室14Aと、その反対側のピストン側室14Bに区画する。油圧緩衝器10は、ピストン13に、ロッド側室14Aとピストン側室14Bを連通する圧側流路20と伸側流路30を設けている。
【0013】
油圧緩衝器10は、ピストン13の圧側流路20が開口するバルブシート面に環状の圧側ディスクバルブ21を設ける。圧側ディスクバルブ21は、複数枚のディスクバルブからなり、ピストンロッド12の先端細径部に嵌挿されてその段差部に支持されるバルブストッパ22、バルブシート23により、ピストン13の内周側ボス部との間に挟持される。圧側ディスクバルブ21は、ロッド側室14Aから伸側流路30への作動油の流入を妨げないように孔21Aを備える。
【0014】
油圧緩衝器10は、ピストン13の伸側流路30が開口するバルブシート面に環状の伸側ディスクバルブ31を設ける。伸側ディスクバルブ31は、複数枚のディスクバルブからなり、ピストンロッド12の先端細径部に嵌挿されるバルブシート32、カラー33を介して、ピストンロッド12の先端ねじ部に螺着されるナット34により、ピストン13の内周側ボス部との間に挟持される。
【0015】
このとき、伸側ディスクバルブ31は、ピストンロッド12に嵌挿したカラー33まわりに挿着されてナット34により背面支持されているコイルスプリング35により背面支持される。伸側ディスクバルブ31の外周部が、コイルスプリング35の付勢力により、ピストン13の伸側流路30が開口するバルブシート面に着座され、伸側流路30を閉じる。
【0016】
また、伸側ディスクバルブ31とコイルスプリング35の間には環状バルブ押え36が介装される。バルブ押え36は、伸側ディスクバルブ31の外径と概ね同一外径をなす(本実施例では、バルブ押え36の外径を伸側ディスクバルブ31の外径より大きくしているが、バルブ押え36の外径を伸側ディスクバルブ31の外径と同一又はより小さくしても可)。バルブ押え36は、カラー33の外周に摺接する筒状部36Aと、筒状部36Aの一端に直交するフランジ部36Bからなり、フランジ部36Bの外周側端面に伸側ディスクバルブ31の外周部に当接する環状突面36Cを備える。コイルスプリング35に付勢されるバルブ押え36の環状突面36Cが伸側ディスクバルブ31の外周部をより強く抑え込み、伸側ディスクバルブ31の外周部をたわみ難くする。尚、バルブ押え36は、コイルスプリング35のためのスプリングガイドとしても機能する。
【0017】
本実施例では、ナット34を右ねじとするとき、コイルスプリング35を左巻きとし、ナット34の螺動により、コイルスプリング35の座巻部がバルブ押え36のフランジ部36Bを削ることがないようにしている。
【0018】
油圧緩衝器10は、以下の如くに減衰動作する。
圧側作動時には、ピストン側室14Bの作動油がピストン13の圧側流路20を通り、圧側ディスクバルブ21を押し開いてロッド側室14Aに流入する。尚、この圧側作動時には、例えばシリンダ11のボトム部に設けられる圧側減衰バルブで圧側減衰力が発生する。
【0019】
伸側作動時には、ロッド側室14Aの作動油がピストン13の伸側流路30を通り、伸側ディスクバルブ31を押し開いてピストン側室14Bに流入する。このとき、ピストン速度が微低速域にあるときには、コイルスプリング35をたわませずに、圧側ディスク21に設けたスリット部から油が流れ微低速域の減衰力を発生させる。他方、ピストン速度が中高速域にあるときには、コイルスプリング35をたわませ、伸側ディスクバルブ31の外周部を大きくたわませてバルブシート面との間に大きな隙間を形成し、中高速域の減衰力を発生させる。
【0020】
しかるに、油圧緩衝器10は、コイルスプリング35により伸側ディスクバルブ31を周方向に均等に背面支持し、安定してバラツキのない伸側減衰力を発生させるため、以下の構成を具備する。尚、コイルスプリング35は、図2に示す如く、両端の座巻部35A、35Bが、コイル軸Cに直交するように研削された端面Aをもつものとした。
【0021】
本発明者は、実験により、コイルスプリング35が伸側ディスクバルブ31を背面支持し、この伸側ディスクバルブ31をピストン13のバルブシート面に押圧するコイルスプリング35の周方向の荷重分布と、コイルスプリング35の総巻き数Nの関係を調査し、図4の結果を得た。図4は、伸側ディスクバルブ31にかかる荷重分布を示す。実験に供したコイルスプリング35は両端の座巻部35A、35Bを各1巻きとし、総巻き数Nだけを図4に示す如くの4種に変更したものである。
【0022】
図4によれば、n=5とし、N=n+0.25巻きでは、周方向の2ヵ所で接触が弱く、荷重分布にむらがある。N=n+0.5巻きでは、周方向の1ヵ所で接触が弱く、荷重分布に未だむらがある。N=n+0.75巻き、N=n+1.00巻きでは、周方向の全周で、荷重分布に概ねむらがない。
【0023】
また、図5は、図4の実験に供した各コイルスプリング35の減衰力DFを測定し、コイルスプリング35の総巻数Nと減衰力DFのバラツキ(最大値と最小値の差)の関係を調査した結果である。
【0024】
図5によれば、n=5とし、N=n+0.25巻きでは、減衰力のバラツキが20kg(200N)以上になる。N=n+0.5巻きでは、減衰力のバラツキが15kg(150N)程度になる。N=n+0.75巻き、N=n+1.00巻きでは、減衰力のバラツキが10kg(100N)以下になる。N=n+0.5巻きでは高い減衰力値の側で大きくバラツキ、N=n+0.75巻きでは低い減衰力値の側で小さくばらついているから、N=n+0.5巻き〜N=n+0.75巻きの範囲では、高い減衰力値〜低い減衰力値の間で大きくばらつくことが予想され、実用上採用できない。
【0025】
従って、図4、図5の実験結果によれば、コイルスプリング35の総巻き数Nが、nを2以上の整数とするとき、N=n+0.75巻き〜N=n+1.00巻きの範囲とすることにより、コイルスプリング35が伸側ディスクバルブ31を、直接又はバルブ押え36を介して、周方向の荷重分布を均等にして背面支持し(図4)、安定してバラツキのない減衰力を発生させることができる(図5)。
【0026】
図3は、本発明が適用されたコイルスプリング35の模式平面図において、両端の座巻部35A、35Bを示したものである。上座巻部35Aが、下座巻部35Bに対して、Kの範囲(n+0.75〜n+1.00)にくるようにするものである。
【0027】
尚、本発明者の実験によれば、コイルスプリング35の両端の座巻部35A、35Bが、7/8巻き以上の範囲に渡り、コイル軸Cに直交するように研削された端面Aをもつとき、コイルスプリング35による伸側ディスクバルブ31の背面支持状態を一層安定化できることを認めた。
【0028】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)コイルスプリング35が伸側ディスクバルブ31を背面支持し、この伸側ディスクバルブ31をピストン13のバルブシート面に着座させるときに、伸側ディスクバルブ31をピストン13のバルブシート面に押圧するコイルスプリング35の周方向の荷重分布は、実験結果によれば、コイルスプリング35の総巻き数Nをn+0.75巻き〜n+1.00巻き(n:2以上の整数)とするとき、概ねむらのないものになる。このとき、コイルスプリング35は伸側ディスクバルブ31を周方向に均等に背面支持するものになる。従って、伸側ディスクバルブ31は、確実に、コイルスプリング35から周方向に概ね均等となる付勢力を受けてピストン13のバルブシート面に着座するものになり、ロッド側室14Aの圧力を受けてたわむときには、全周に渡って概ね均等にたわみ、ピストン13のバルブシート面との間に全周に渡って概ね均等となる隙間を形成し、安定してバラツキのない減衰力を発生させる。
【0029】
(b)伸側ディスクバルブ31とコイルスプリング35の間に、伸側ディスクバルブ31よりたわみ剛性を小さくするバルブ押え36を介装する。バルブ押え36は、伸側ディスクバルブ31の外周部のたわみを抑え込み、伸側ディスクバルブ31を微低速域でたわみ難くする。
【0030】
(c)コイルスプリング35の両端座巻部35A、35Bが、7/8巻き以上の範囲に渡り、コイル軸Cに直交するように研削された端面Aをもつ。コイルスプリング35が伸側ディスクバルブ31を背面支持する面積を大きくし、コイルスプリング35により伸側ディスクバルブ31を周方向に一層均等に背面支持するものになる。
【0031】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は油圧緩衝器の減衰バルブ構造を示す断面図である。
【図2】図2はコイルスプリングを示し、(A)は断面図、(B)は端面図である。
【図3】図3はコイルスプリングの座巻部を示す平面図である。
【図4】図4はコイルスプリングの総巻き数Nと周方向の荷重分布を示す図表である。
【図5】図5はコイルスプリングの総巻き数Nと減衰力DFのバラツキを示す線図である。
【符号の説明】
【0033】
10 油圧緩衝器
11 シリンダ
12 ピストンロッド
13 ピストン
14A ロッド側室
14B ピストン側室
30 伸側流路
31 伸側ディスクバルブ
35 コイルスプリング
35A、35B 座巻部
36 バルブ押え

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダにピストンロッドを摺動可能に挿入し、ピストンロッドに設けたピストンによりシリンダの内部を上下2室に区画し、
ピストンに上下2室を連通する流路を設け、ピストンの流路が開口するバルブシート面にディスクバルブを設け、ディスクバルブをコイルスプリングにより背面支持して該ディスクバルブをバルブシート面に着座させる油圧緩衝器の減衰バルブ構造において、
コイルスプリングの総巻き数が、nを整数とするとき、n+0.75巻きからn+1.00巻きの範囲とされることを特徴とする油圧緩衝器の減衰バルブ構造。
【請求項2】
前記コイルスプリングの両端座巻部が、7/8巻き以上の範囲に渡り、コイル軸に直交するように研削された端面をもつ請求項1に記載の油圧緩衝器の減衰バルブ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−71371(P2010−71371A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−238547(P2008−238547)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】