説明

油圧緩衝器

【課題】 アウタチューブとインナチューブのブッシュ、オイルシールに油室の大きな油圧力が及ばないようにしてオイル漏れタフネスを向上すること。
【解決手段】 油圧緩衝器10であって、インナチューブ12の内部で、ピストンロッド40が備えるピストン41とインナチューブ12との間に、上下のスプリング42A、42Bと、それら上下のスプリング42A、42Bに挟まれるフリーピストン43を配置し、上スプリング42Aと下スプリング42Bのばね強さを、フリーピストン43の移動容積がピストンロッド40の油室21への進入/退出容積に比して大となるように設定したもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車用フロントフォーク等に用いられる油圧緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧緩衝器として、アウタチューブとインナチューブの内部にダンパシリンダを設け、このダンパシリンダの内周にピストンを摺接させるものに比して、部品点数の削減を図るため、特許文献1に記載の如く、ダンパシリンダを備えることなく、インナチューブの内周にピストンを摺接させるものがある。
【0003】
この従来の油圧緩衝器は、アウタチューブの内周の開口部と、インナチューブの外周の先端部のそれぞれに固定したブッシュを介して、アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、該アウタチューブの内周と、インナチューブの外周と、前記2つのブッシュとで囲まれる環状の油室を区画し、前記インナチューブの内周に隔壁部材を設け、下部に油室を区画するとともに、上部に油溜室を区画し、前記アウタチューブに取付けたピストンロッドを該隔壁部材に摺動自在に挿入し、前記インナチューブに挿入したピストンロッドの先端部に該インナチューブの内周に摺接するピストンを備え、前記油室を前記ピストンロッドが収容されるピストンロッド側油室と前記ピストンロッドが収容されないピストン側油室に区画し、前記環状の油室を前記インナチューブに設けた油孔を介して前記ピストンロッド側油室に連通している。
【0004】
そして、前記環状の油室の断面積S1を前記ピストンロッドの断面積S2以上に形成し、かつ、前記隔壁部材に伸側行程時に前記油室から前記油溜室への流れを阻止するチェック弁を設けるとともに、伸側行程で前記環状の油室及び前記ピストンロッド側油室から排出される油が前記ピストンロッドに設けた連絡路だけを通るように構成している。
【0005】
更に、前記連絡路が、前記ピストンロッドに設けられて前記ピストン側油室に開口する中空部と、前記ピストンロッドに設けられて上記中空部を前記ピストンロッド側油室に連通する小孔と、前記ピストンロッドに設けられて上記中空部を前記油溜室に連通する小孔とからなるものにしている。
【0006】
これにより、圧側行程で、ピストンロッドがインナチューブに進入するとき、ピストンにより圧縮されるピストン側油室の油が連絡路の中空部、小孔を通って油溜室に流出し、この中空部、小孔の絞り抵抗により圧側減衰力を発生する。同時に、ピストンにより拡張されるピストンロッド側油室に対し、油溜室の油がチェック弁を介して供給される。
【0007】
この圧側行程では、インナチューブに進入するピストンロッドの進入容積分の油がインナチューブのピストンロッド側油室からインナチューブの油孔を介して環状油室に移送される。このとき、環状油室の容積増加分ΔS1(補給量)がピストンロッドの容積増加分ΔS2以上になるから、環状油室への油の必要補給量のうち(ΔS1−ΔS2)の不足分が油溜室からチェック弁を介してピストンロッド側油室、ひいては環状油室に補給される。
【0008】
また、伸側行程で、ピストンロッドがインナチューブから退出するとき、ピストンにより圧縮されるピストンロッド側油室の油が、チェック弁の存在により油溜室に流出せず、連絡路の小孔(及び中空部)を通ってピストン側油室に流入し、この小孔の絞り抵抗により伸側減衰力を発生する。
【0009】
この伸側行程では、インナチューブから退出するピストンロッドの退出容積分の油が環状油室からインナチューブの油孔を介してインナチューブのピストンロッド側油室、ひいてはピストン側油室に移送される。このとき、環状油室の容積減少分ΔS1(排出量)がピストンロッドの容積減少分ΔS2以上になるから、環状油室からの油の排出量のうち、(ΔS1−ΔS2)の余剰分がピストンロッド側油室から連絡路の小孔、中空部、小孔を通って油溜室に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010-38172
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の油圧緩衝器では、アウタチューブの内周の開口部に固定したブッシュと、インナチューブの外周の先端部に固定したブッシュとに挟まれる環状の油室が、インナチューブに設けた油孔を介してピストンロッド側油室に連通している。
【0012】
このため、伸側行程で、ピストンにより圧縮されるピストンロッド側油室の大きな油圧力が環状の油室に作用し、アウタチューブの開口部のブッシュ、ひいてはオイルシールに及ぶとともに、インナチューブの先端部のブッシュに及ぶ。
【0013】
アウタチューブの開口部のオイルシールに及ぶ油圧力は、インナチューブの外周に密に接する該オイルシールのシールリップの緊迫力を大きくし、フリクションを増大させる。同時に、オイルシールの寿命を短くするとともに、シールリップの微小傷によってもオイル漏れし易い。
【0014】
インナチューブの先端部のブッシュに及ぶ油圧力は、そのブッシュに高いシール性を必要とし、ここでもフリクションを増大させる。
【0015】
本発明の課題は、インナチューブの内周にピストンを摺接させる油圧緩衝器において、ピストンロッドを伸縮させつつ減衰力を発生させ、しかもアウタチューブとインナチューブのブッシュ、オイルシールに油室の大きな油圧力が及ばないようにしてオイル漏れタフネスを向上し、シール寿命を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に係る発明は、アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、前記インナチューブに設けられる隔壁部材により該インナチューブの内部に油室を区画し、その上部に油溜室を区画するとともに、該隔壁部材を常時油中に配置し、前記アウタチューブに取付けたピストンロッドを該隔壁部材に摺動自在に挿入し、前記インナチューブに挿入したピストンロッドの先端部に該インナチューブの内周に摺接するピストンを備え、前記油室を前記ピストンロッドが収容されるピストンロッド側油室と前記ピストンロッドが収容されないピストン側油室に区画し、前記隔壁部材に、伸側行程で前記油室から前記油溜室への流れを阻止し、圧側行程で前記油溜室から前記油室への流れを許容するチェック弁を設け、前記ピストンロッドの下端側に、前記ピストンロッド側油室と前記ピストン側油室とを連通する流路を設け、前記ピストンロッドの上端側に、前記油室を前記油溜室に連通する小孔を設けてなる油圧緩衝器であって、前記インナチューブの内部で、前記ピストンロッドが備えるピストンと該インナチューブとの間に、上下のスプリングと、それら上下のスプリングに挟まれるフリーピストンを配置し、前記フリーピストンは前記インナチューブの内周に摺接し、前記ピストン側油室をその下側の空気室に対して区画し、前記上スプリングと前記下スプリングのばね強さを、前記フリーピストンの移動容積が前記ピストンロッドの前記油室への進入/退出容積に比して大となるように設定したものである。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において更に、前記ピストンロッド側油室と前記ピストン側油室とを連通する流路が、孔状流路及び/又は該ピストンロッド側油室から該ピストン側油室への流れを阻止し、該ピストン側油室から該ピストンロッド側油室への流れを許容するチェック弁付流路からなるようにしたものである。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において更に、前記ピストンロッドが中空状連絡路を有し、該中空状連絡路の下端を前記ピストン側油室に開口し、該中空状連絡路の上端に前記油溜室に連通する小孔を開口してなるようにしたものである。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において更に、前記ピストンロッドの前記中空状連絡路の内部の油中に常時浸漬している部分であって、該ピストンロッドに設けられて前記ピストンロッド側油室に連通する前記孔状流路より上位に、絞り流路を設けてなるようにしたものである。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれかに係る発明において更に、前記ピストンロッドの外周であって、該ピストンロッドに設けられて前記油溜室に連通する前記小孔の周囲に、該油溜室から該小孔への流れを阻止し、該小孔から該油溜室への流れを許容するチェック弁を設けてなるようにしたものである。
【発明の効果】
【0021】
(請求項1)
(a)圧側行程で、ピストンロッドがインナチューブに進入するとき、ピストンにより圧縮されるピストン側油室の油がピストンロッドの上端側の小孔を通り、油溜室に流出し、この小孔の絞り抵抗により圧側減衰力を発生させる。
【0022】
また、ピストン側油室の油はピストンロッドの下端側の流路を通って、ピストンにより拡張されるピストンロッド側油室に補給され、この流路の絞り抵抗によっても圧側減衰力を発生させる。
【0023】
このとき、フリーピストンが区画しているピストン側油室の油圧力は上述のピストンロッドのインナチューブへの進入に起因する圧側減衰力の発生に応じて昇圧するものになり、フリーピストンはその下側の空気室の空気圧力及び下スプリングのばね力との釣り合いをとるように下向きに移動する。そして、上下のスプリングのばね強さの設定により、フリーピストンの移動容積ΔV1(ピストン側油室の増加分)が、ピストンロッドの油室(ピストン側油室)への進入容積に比して大となるように設定されている(ΔV1>ΔV2)。従って、ピストン側油室への油の必要補給油量は(ΔV1−ΔV2)となり、この必要補給量が油溜室から隔壁部材に設けたチェック弁を介して油室(ピストンロッド側油室)に補給される。
【0024】
(b)伸側行程では、ピストンロッドがインナチューブから退出するとき、ピストンにより圧縮されるピストンロッド側油室の油が、隔壁部材に設けたチェック弁の存在により油溜室に流出せず、ピストンロッドの下端側の流路を通ってピストン側油室に流入し、この流路の絞り抵抗により伸側減衰力を発生させる。
【0025】
このとき、フリーピストンが区画しているピストン側油室は上述のピストンロッドのインナチューブからの退出に起因して拡張され、その油圧力を減圧するものになり、フリーピストンはその下側の空気室の空気圧力及び下スプリングのばね力との釣り合いをとるように上向きに移動する。そして、上下のスプリングのばね強さの設定により、フリーピストンの移動容積ΔV1(ピストン側油室の減少分)が、ピストンロッドの油室(ピストン側油室)からの退出容積分ΔV2に比して大となるように設定されている(ΔV1>ΔV2)。従って、ピストン側油室からの油の必要排出量は(ΔV1−ΔV2)となり、この必要排出量がピストンロッドの上端側の小孔から油溜室に排出される。この小孔の絞り抵抗により伸側減衰力を発生させる。
【0026】
(c)上述(a)の圧側行程でも(b)の伸側行程でも、ピストンロッドの伸縮により圧縮されるインナチューブ内の油室(ピストン側油室又はピストンロッド側油室)の大きな油圧力は、インナチューブ(及びピストンロッドの中空状連絡路)の内部に止まり、インナチューブの外部(インナチューブとアウタチューブの環状間隙等)に及ばない。このことは、インナチューブの外部に配置されている、アウタチューブとインナチューブの上下のブッシュや、アウタチューブの開口部のオイルシールに、インナチューブ内の油室の大きな油圧力が及ばないことを意味する。従って、アウタチューブとインナチューブの上下のブッシュに高いシール性を必要とせず、フリクションを増大させることがない。また、インナチューブの外周に密に接するオイルシールのシールリップの緊迫力が大きくならず、フリクションを増大させることがないし、オイル漏れタフネスを向上し、オイルシールの寿命を長くすることができる。
【0027】
(d)尚、本発明において、上下のスプリングのばね強さの設定により、フリーピストンの移動容積ΔV1が、ピストンロッドの油室(ピストン側油室)への進入/退出容積ΔV2に比して大となるように設定した理由は以下の通りである。
【0028】
もし、フリーピストンの移動容積ΔV1がピストンロッドの油室(ピストン側油室)への進入/退出容積ΔV2より小なる場合(ΔV1<ΔV2)には、伸側行程で、油溜室から油室(ピストン側油室)へ(ΔV2−ΔV1)の油を補給する必要を生ずる。ところが、伸側行程では、隔壁部材に設けたチェック弁の存在により油溜室からピストンロッド側油室、ひいてはピストン側油室への油の補給は不可であり、またピストンロッドの上端側の小孔が油溜室の上部空気を吸入できたとしても、油溜室の下部油を吸入することはできず、ピストン側油室への油の補給は不可である。即ち、フリーピストンの移動容積ΔV1をピストンロッドの油室(ピストンロッド側油室)への進入/退出容積ΔV2より小に設定することは、伸側行程で必要とされる油溜室から油室(ピストン側油室)への油の補給を実現できず、採用できない。
【0029】
(請求項2)
(e)上述(a)、(b)のピストンロッド側油室とピストン側油室とを連通する流路は、孔状流路及び/又はピストンロッド側油室からピストン側油室への流れを阻止し、ピストン側油室からピストンロッド側油室への流れを許容するチェック弁付流路により構成できる。
【0030】
尚、チェック弁付流路が伸側行程でもわずかに導通する(ピストンロッド側油室からピストン側油室への流れをわずかに許容する)ものであれば、上述の孔状流路の併用は不必要になる。
【0031】
(請求項3)
(f)前記ピストンロッドが中空状連絡路を有し、該中空状連絡路の下端を前記ピストン側油室に開口し、該中空状連絡路の上端に前記油溜室に連通する小孔を開口してなるものとすることにより、インナチューブの内部の油室〜ピストンロッドの上端側の小孔の連絡路をピストンロッドの中空部により簡易に形成できる。
【0032】
(請求項4)
(g)前記ピストンロッドの前記中空部の内部の油中に常時浸漬している部分であって、該ピストンロッドに設けられて前記ピストンロッド側油室に連通する前記小孔より上位に、絞り流路を設けた。従って、インナチューブの内部の油室を油溜室に対して封止している隔壁部材のシール性が完全でないために、ピストンロッドの油溜室に連通している小孔経由で、油溜室の空気が該ピストンロッドの中空部に入り、ピストンロッドの中空部の油のヘッド圧が上記の油室の油を油溜室へ漏出させ、ピストンロッドの中空部の油面が油溜室に連通している小孔より下位に低下した状態でも、ピストンロッドの中空部の低下した油面とピストンロッド側油室に連通する孔状流路との間に、絞り流路が設けられる。
【0033】
このようにピストンロッドの中空部の油面が仮に低下しても、圧側行程で、ピストンにより圧縮されるピストン側油室の油はピストンロッドの中空部を上方向きに流れ、必ずその中空部の油中に浸漬している上記絞り流路を通るものになり、該絞り流路の絞り抵抗による圧側減衰力を応答遅れなく発生する。
【0034】
(請求項5)
(h)前記ピストンロッドの外周であって、該ピストンロッドに設けられて前記油溜室に連通する前記小孔の周囲に、該油溜室から該小孔への流れを阻止し、該小孔から該油溜室への流れを許容するチェック弁を設けた。従って、インナチューブの内部の油室を油溜室に対して封止している隔壁部材のシール性が完全でない場合にも、ピストンロッドの油溜室に連通している小孔経由で、油溜室の空気が該ピストンロッドの中空部に入ることがなく、結果として、ピストンロッドの中空部の油のヘッド圧が上記の油室の油を油溜室へ漏出させることがない。
【0035】
これにより、ピストンロッドの中空部及び上記小孔はチェック弁により囲まれて常に油で満たされ、圧側行程でピストンにより圧縮されたピストン側油室の油は上記油中の小孔を通って油溜室に流出し、該小孔の絞り抵抗による圧側減衰力を応答遅れなく発生する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は油圧緩衝器の全体を示す断面図である。
【図2】図2は図1の下部断面図である。
【図3】図3は図1の上部断面図である。
【図4】図4は図3の要部拡大断面図である。
【図5】図5はフォークボルトとピストンロッドと取付ボルトの締結構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
油圧緩衝器(二輪車用フロントフォーク)10は、図1〜図4に示す如く、アウタチューブ11の下端開口部の内周に固定したブッシュ11Aと、インナチューブ12の上端開口部の外周に固定したブッシュ12Aを介して、アウタチューブ11の内部にインナチューブ12を摺動自在に挿入する。アウタチューブ11の下端開口部に接続されるシールケース11Bにオイルシール11C、ダストシール11Dが格納される。アウタチューブ11の上端開口部にはフォークボルト13が密封状態で螺着される。インナチューブ12の下端開口部にはボトムピース15が密封状態で挿着されてインナチューブ12の内周に係着された止め輪16に抜け止めされ、インナチューブ12の下端外周にはボトムブラケット17が挿着され、ボトムブラケット17の底部の貫通孔に外側から挿入されたボルト18がボトムピース15に螺着されてボトムピース15を引き寄せ、インナチューブ12の下端部にボトムブラケット17が設けられる。
【0038】
油圧緩衝器10は、アウタチューブ11の内周と、インナチューブ12の外周と、前記2つのブッシュ11A、12Aで囲まれる環状油室20を区画する。環状油室20は、インナチューブ12に設けた油孔20Aにより後述する油溜室22の油室22Aに連通し、アウタチューブ11とインナチューブ12の伸縮ストロークに伴う該環状油室20の容積変化を補償するとともに、ブッシュ11A、12A、オイルシール11Cの潤滑を図っている。但し、油圧緩衝器10にあっては、アウタチューブ11の下端開口部の内周と、該アウタチューブ11の中間部の内周のそれぞれにブッシュを固定し、それらの固定間隔をなす2つのブッシュに挟まれる環状油室を容積変化しないものとすることもできる。
【0039】
油圧緩衝器10は、インナチューブ12の上端側で内径を段差状に拡径した内周に、下環状板付カラー31(下環状板32を備える)、上環状板33、長尺カラー34、ワッシャ35を順に挿入し、インナチューブ12の上端かしめ部12Bによりこれらをかしめ保持する。下環状板付カラー31及び上環状板33は、インナチューブ12の内周に設けられる隔壁部材30を構成し、隔壁部材30より下部に油室21を区画するとともに、上部に油溜室22を区画する。油溜室22の中でその下側領域は油室22A、上側領域は空気室22Bである。インナチューブ12に設けた前述の油孔20Aは、隔壁部材30の長尺カラー34を貫通し、常時油溜室22の油室22Aの油面より下に開口している。
【0040】
油圧緩衝器10は、アウタチューブ11の上端開口部のねじ孔37にフォークボルト13をOリング37Aを介して封着されて螺着され、フォークボルト13の外周フランジ13Aをアウタチューブ11の上端面に突き当てロックする。フォークボルト13の中心軸上に設けたねじ孔38にピストンロッド40の上端部を該フォークボルト13の一方側(緩衝器の内側)から螺着し、ピストンロッド40の上端面をねじ孔38の上端面に突き当てロックする。フォークボルト13の他方側(緩衝器の外側)に設けてある段差状ボルト孔39から挿入されて軸方向に係合する取付ボルト19の先端ねじ部がピストンロッド40の中空部61の上端ねじ部61Aに螺着される。取付ボルト19は、頭部19Aを段差状ボルト孔39の大径孔と小径孔の段差面に突き当てロックし、ボルト孔39の小径孔とピストンロッド40の上端面との間にOリング39Aを介して封着される。これにより、フォークボルト13にピストンロッド40を取付けてある。
【0041】
尚、フォークボルト13と取付ボルト19とピストンロッド40の締結構造は以下の通りである。即ち、油圧緩衝器10では、上述した如く、アウタチューブ11の上端部にフォークボルト13を封着し、フォークボルト13にピストンロッド40を該フォークボルト13の一方側(緩衝器の内側)から螺着し、該フォークボルト13の他方側(緩衝器の外側)から係入される取付ボルト19をピストンロッド40に螺着した。このとき、フォークボルト13にピストンロッド40を螺着するねじA(図5参照)と、ピストンロッド40に取付ボルト19を螺着するねじB(図5参照)とを、互いに逆ねじにした。即ち、Aを左ねじにし、Bを右ねじにする。又は、Aを右ねじにし、Bを左ねじにする。
【0042】
油圧緩衝器10は、アウタチューブ11のフォークボルト13に取付けたピストンロッド40を隔壁部材30からインナチューブ12の内部に摺動自在に挿入する。インナチューブ12に挿入されたピストンロッド40の先端部には、インナチューブ12の内周に摺接するピストン41を備える。ピストン41の外周にはピストンリング41Aが設けられる。ピストンロッド40のピストン41は、インナチューブ12の内部の油室21を、ピストンロッド40が収容されるピストンロッド側油室21Aと、ピストンロッド40が収容されないピストン側油室21Bに区画する。
【0043】
油圧緩衝器10は、インナチューブ12の内部で、ピストン41のピストン側油室21Bに臨む下端面と、ボトムピース15のピストン側油室21Bに臨む上端面の間に上下の懸架スプリング42A、42Bと、それら上下の懸架スプリング42A、42Bに挟まれる後述のフリーピストン43を介装している。油圧緩衝器10は、車両走行時に路面から受ける衝撃力を懸架スプリング42A、42Bの伸縮により吸収する。
【0044】
油圧緩衝器10は、フォークボルト13の下面に当接するストッパラバー44をピストンロッド40の上端外周まわりに配置し、ピストンロッド40の上端外周に係着した止め輪45によりバックアップされるワッシャ46をストッパラバー44の下面に押し当てる。油圧緩衝器10の最圧縮時に、インナチューブ12の上端かしめ部12Bがワッシャ46を介してストッパラバー44に衝合することにより、最圧縮ストロークを規制する。
【0045】
油圧緩衝器10は、ピストンロッド40の下端外周まわりに配置したリバウンドスプリング47をピストン41の上面に担持している。油圧緩衝器10の最伸長時に、隔壁部材30がリバウンドスプリング47に衝合することにより、最伸長ストロークを規制する。
【0046】
しかるに、油圧緩衝器10において、フリーピストン43はインナチューブ12の内周に摺接してストロークし、ピストン側油室21Bをその下側の空気室23に対して区画している。フリーピストン43はその全ストロークで上下の懸架スプリング42A、42Bのばね強さと、ピストン側油室21Bの油圧力と、空気室23の空気圧力との釣り合いによって移動し、ピストンロッド40の油室21(ピストンロッド側油室21A、ピストン側油室21B)への進入/退出容積を補償する。油圧緩衝器10の任意のストローク位置からの圧側行程では、フリーピストン43が区画しているピストン側油室21Bの油圧力が後述する如くにより昇圧するため、フリーピストン43はその任意のストローク位置から下向きに移動する。油圧緩衝器10の任意のストローク位置からの伸側行程では、フリーピストン43が区画しているピストン側油室21Bの油圧力が後述する如くに減圧するため、フリーピストン43はその任意のストローク位置から上向きに移動する。
【0047】
本発明では、上懸架スプリング42Aと下懸架スプリング42Bのばね強さを、フリーピストン43の移動容積ΔV1(空気室23の容積変化量)がピストンロッド40の油室21(ピストンロッド側油室21A、ピストン側油室21B)への進入/退出容積ΔV2に比して大(ΔV1>ΔV2)となるように設定している。これにより、油圧緩衝器10の圧側行程では、油溜室22の油室22Aからピストン側油室21Bへ(ΔV1−ΔV2)の量の油を補給する必要を生じ、伸側行程では、ピストン側油室21Bから油溜室22へ(ΔV1−ΔV2)の量の油が排出されるものになる。
【0048】
そこで、油圧緩衝器10にあっては、隔壁部材30に、伸側行程ではピストンロッド側油室21Aから油溜室22への油の流れを阻止し、圧側行程では油溜室22からピストンロッド側油室21Aへの油の流れを、上記(ΔV1−ΔV2)の必要補給量分だけ許容する隔壁チェック弁50を設けている。隔壁チェック弁50は、隔壁部材30の下環状板32と上環状板33の間に納められ、下環状板32と上環状板33の間隔より短尺とされ、短尺カラー31の内径より小外径とされ、ピストンロッド40の外周に摺接して上下変位する円筒状とされ、下端面に横溝51を形成される。隔壁チェック弁50は、下環状板32との間に圧縮コイルばねからなるバルブスプリング52を介装され、上環状板33の側に付勢されている。圧側行程では、隔壁チェック弁50はインナチューブ12に進入するピストンロッド40に連れ移動して下方に移動し、下環状板32に衝合するとともに、上環状板33との間に隙間を形成し、油溜室22の油をその外周経由で横溝51からピストンロッド側油室21Aへ導入可能にする。伸側行程では、隔壁チェック弁50はインナチューブ12から退出するピストンロッド40に連れ移動して上方に移動し、上環状板33に衝合して上環状板33との間の隙間を閉じ、ピストンロッド側油室21Aの油が油溜室22へ排出されることを阻止する。
【0049】
油圧緩衝器10は、伸側行程でピストンロッド側油室21Aから油溜室22に排出される油が、ピストンロッド40に設けた連絡路60だけを通るように構成されている。圧側行程でピストン側油室21Bから油溜室22に排出される油も、連絡路60だけを通るように構成されている。
【0050】
本実施例の連絡路60は、ピストンロッド40(ピストン41も含む)に設けられてピストン側油室21Bに開口する中空部61と、ピストンロッド40(ピストン41を含む)の下端側に設けられてピストンロッド側油室21Aと中空部61、ピストン側油室21Bとを連通する流路62と、ピストンロッド40の上端側に設けられて中空部61、油室21(ピストンロッド側油室21A及びピストン側油室21B)を油溜室22の空気室22Bに直に連通する小孔63とからなる。中空部61の下端がピストン側油室21Bに直に開口し、中空部61の上端に小孔63を直に開口している。
【0051】
尚、ピストンロッド40の下端側に設けられる流路62は、ピストンロッド40の下端側に設けられて中空部61をピストンロッド側油室21Aに直に連通する孔状流路62A及び/又はピストン41の外周に設けられるチェック弁付流路62Bにより構成できる。チェック弁付流路62Bは、伸側行程でピストンロッド側油室21Aからピストン側油室21Bへの流れを阻止し、圧側行程でピストン側油室21Bからピストンロッド側油室21Aへの流れを許容する。チェック弁付流路62Bに設けられる弁体はピストン41のピストンリング41Aと共用されている。
【0052】
油圧緩衝器10は、ピストンロッド40の連絡路60を構成している中空部61の内部の油中に常時浸漬している部分であって、ピストンロッド40に設けられてピストンロッド側油室21Aに連通している上記孔状流路62Aより上位に、絞り流路71を設けている。本実施例では、絞りピース70の中心部に孔状の絞り流路71を穿設し、この絞りピース70がピストンロッド40の中空部61に圧入等されて挿入固定される。
【0053】
本実施例の油圧緩衝器10において、中空部61と孔状流路62Aとチェック弁付流路62Bと小孔63と絞り流路71は圧側行程の減衰力を発生する絞りとなり、孔状流路62Aと小孔63と絞り流路71は伸側行程の減衰力を発生する絞りとなる。
【0054】
油圧緩衝器10は、ピストンロッド40の外周であって、ピストンロッド40に設けられて油溜室22の空気室22Bに連通する小孔63の周囲に、油溜室22の空気室22Bからピストンロッド40の中空部61への流れを阻止するチェック弁80を設けている。
【0055】
チェック弁80は、ゴム等の弾性体から構成でき、又は他の材料、機構により構成できる。本実施例では、チェック弁80は、インナチューブ12の最圧縮ストロークを規制するストッパラバー44と共用されるものとされ、ピストンロッド40の周囲でフォークボルト13の内側面とワッシャ46の間に挟み込みセットされている。
【0056】
本実施例のチェック弁80は、ピストンロッド40の小孔63まわりの外周を囲む環状体からなる。チェック弁80の本体81の下部と、本体81の上部内周に設けてある環状リップ82がピストンロッド40の小孔63まわりの外周との間に区画する環状スペース80A(図5)は、小孔63を介してピストンロッド40の中空部61、油室21に連通し、常に油室21及び中空部61の油が充填される。この環状スペース80Aから油溜室22へ流出する油は、チェック弁80のリップ82を押し開き、本体81の上部に設けてある横溝83、本体81の外周を回って油溜室22の油室22Aへ落下する。
チェック弁80は、圧側行程の減衰力を発生する減衰バルブを構成するものにもなる。
【0057】
油圧緩衝器10は以下の如くに動作する。
(圧側行程)
圧側行程で、図4に実線矢印で示す油の流れを生ずる。
即ち、圧側行程で、ピストンロッド40がインナチューブ12に進入するとき、ピストン41により圧縮されるピストン側油室21Bの油がピストンロッド40の連絡路60の中空部61、絞り流路71、上端側の小孔63を通り、チェック弁80を押し開いて油溜室22に流出し、この中空部61、絞り流路71、小孔63の絞り抵抗により圧側減衰力を発生させる。
【0058】
また、ピストン側油室21Bの油はピストンロッド40の下端側の流路62(孔状流路62A、チェック弁付流路62B)を通って、ピストン41により拡張されるピストンロッド側油室21Aに補給され、この流路62(孔状流路62A、チェック弁付流路62B)の絞り抵抗によっても圧側減衰力を発生させる。
【0059】
このとき、フリーピストン43が区画しているピストン側油室21Bの油圧力は上述のピストンロッド40のインナチューブ12への進入に起因する圧側減衰力の発生に応じて昇圧するものになり、フリーピストン43はその下側の空気室23の空気圧力及び下懸架スプリング42Bのばね力との釣り合いをとるように下向きに移動する。そして、上下の懸架スプリング42A、42Bのばね強さの設定により、フリーピストン43の移動容積ΔV1(ピストン側油室21Bの増加分)が、ピストンロッド40の油室21(ピストン側油室21B)への進入容積に比して大となるように設定されている(ΔV1>ΔV2)。従って、ピストン側油室21Bへの油の必要補給油量は(ΔV1−ΔV2)となり、この必要補給量が油溜室22から隔壁部材30に設けた隔壁チェック弁50を介して油室21(ピストンロッド側油室21A)に補給される。
【0060】
(伸側行程)
伸側行程で、図4に一点鎖線矢印で示す油の流れを生ずる。
即ち、伸側行程では、ピストンロッド40がインナチューブ12から退出するとき、ピストン41により圧縮されるピストンロッド側油室21Aの油が、隔壁部材30に設けた隔壁チェック弁50の存在により油溜室22に流出せず、ピストンロッド40の下端側の流路62(孔状流路62A)を通ってピストン側油室21Bに流入し、この流路62(孔状流路62A)の絞り抵抗により伸側減衰力を発生させる。
【0061】
このとき、フリーピストン43が区画しているピストン側油室21Bは上述のピストンロッド40のインナチューブ12からの退出に起因して拡張され、その油圧力を減圧するものになり、フリーピストン43はその下側の空気室23の空気圧力及び下懸架スプリング42Bのばね力との釣り合いをとるように上向きに移動する。そして、上下の懸架スプリング42A、42Bのばね強さの設定により、フリーピストン43の移動容積ΔV1(ピストン側油室21Bの減少分)が、ピストンロッド40の油室21(ピストン側油室21B)からの退出容積分ΔV2に比して大となるように設定されている(ΔV1>ΔV2)。従って、ピストン側油室21Bからの油の必要排出量は(ΔV1−ΔV2)となり、この必要排出量がピストンロッド40の連絡路60の中空部61、絞り流路71、上端側の小孔63から油溜室22に排出される。この中空部61、絞り流路71、小孔63の絞り抵抗により伸側減衰力を発生させる。
【0062】
従って、本実施例によれば以下の作用効果を奏する。
(a)油圧緩衝器10の圧側行程でも伸側行程でも、ピストンロッド40の伸縮により圧縮されるインナチューブ12内の油室21(ピストン側油室21B又はピストンロッド側油室21A)の大きな油圧力は、インナチューブ12(及びピストンロッド40の中空状連絡路60)の内部に止まり、インナチューブ12の外部(インナチューブ12とアウタチューブ11の環状油室20等)に及ばない。このことは、インナチューブ12の外部に配置されている、アウタチューブ11とインナチューブ12の上下のブッシュ11A、12Aや、アウタチューブ11の開口部のオイルシール11Cに、インナチューブ12内の油室21の大きな油圧力が及ばないことを意味する。従って、アウタチューブ11とインナチューブ12の上下のブッシュ11A、12Aに高いシール性を必要とせず、フリクションを増大させることがない。また、インナチューブ12の外周に密に接するオイルシール11Cのシールリップの緊迫力が大きくならず、フリクションを増大させることがないし、オイル漏れタフネスを向上し、オイルシール11Cの寿命を長くすることができる。
【0063】
(b)ピストンロッド40の下端側に設けられ、ピストンロッド側油室21Aとピストン側油室21Bとを連通する流路62は、孔状流路62A及び/又はピストンロッド側油室21Aからピストン側油室21Bへの流れを阻止し、ピストン側油室21Bからピストンロッド側油室21Aへの流れを許容するチェック弁付流路62Bにより構成できる。
【0064】
尚、チェック弁付流路62Bが伸側行程でもわずかに導通する(ピストンロッド側油室21Aからピストン側油室21Bへの流れをわずかに許容する)ものであれば、上述の孔状流路62Aの併用は不必要になる。
【0065】
(c)前記ピストンロッド40が中空状連絡路60を有し、該中空状連絡路60の下端を前記ピストン側油室21Bに開口し、該中空状連絡路60の上端に前記油溜室22に連通する小孔63を開口してなるものとすることにより、インナチューブ12の内部の油室21〜ピストンロッド40の上端側の小孔63の連絡路60をピストンロッド40の中空部61により簡易に形成できる。
【0066】
(d)前記ピストンロッド40の前記中空部61の内部の油中に常時浸漬している部分であって、該ピストンロッド40に設けられて前記ピストンロッド側油室21Aに連通する前記小孔63より上位に、絞り流路71を設けた。従って、インナチューブ12の内部の油室21を油溜室22に対して封止している隔壁部材30のシール性が完全でないために、ピストンロッド40の油溜室22に連通している小孔63経由で、油溜室22の空気が該ピストンロッド40の中空部61に入り、ピストンロッド40の中空部61の油のヘッド圧が上記の油室21の油を油溜室22へ漏出させ、ピストンロッド40の中空部61の油面が油溜室22に連通している小孔63より下位に低下した状態でも、ピストンロッド40の中空部61の低下した油面とピストンロッド側油室21Aに連通する孔状流路62Aとの間に、絞り流路71が設けられる。
【0067】
このようにピストンロッド40の中空部61の油面が仮に低下しても、圧側行程で、ピストン41により圧縮されるピストン側油室21Bの油はピストンロッド40の中空部61を上方向きに流れ、必ずその中空部61の油中に浸漬している上記絞り流路71を通るものになり、該絞り流路71の絞り抵抗による圧側減衰力を応答遅れなく発生する。
【0068】
(e)前記ピストンロッド40の外周であって、該ピストンロッド40に設けられて前記油溜室22に連通する前記小孔63の周囲に、該油溜室22から該小孔63への流れを阻止し、該小孔63から該油溜室22への流れを許容するチェック弁80を設けた。従って、インナチューブ12の内部の油室21を油溜室22に対して封止している隔壁部材30のシール性が完全でない場合にも、ピストンロッド40の油溜室22に連通している小孔63経由で、油溜室22の空気が該ピストンロッド40の中空部61に入ることがなく、結果として、ピストンロッド40の中空部61の油のヘッド圧が上記の油室21の油を油溜室22へ漏出させることがない。
【0069】
これにより、ピストンロッド40の中空部61及び上記小孔63はチェック弁80により囲まれて常に油で満たされ、圧側行程でピストン41により圧縮されたピストン側油室21Bの油は上記油中の小孔63を通って油溜室22に流出し、該小孔63の絞り抵抗による圧側減衰力を応答遅れなく発生する。
【0070】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、前記インナチューブに設けられる隔壁部材により該インナチューブの内部に油室を区画し、その上部に油溜室を区画するとともに、該隔壁部材を常時油中に配置し、前記アウタチューブに取付けたピストンロッドを該隔壁部材に摺動自在に挿入し、前記インナチューブに挿入したピストンロッドの先端部に該インナチューブの内周に摺接するピストンを備え、前記油室を前記ピストンロッドが収容されるピストンロッド側油室と前記ピストンロッドが収容されないピストン側油室に区画し、前記隔壁部材に、伸側行程で前記油室から前記油溜室への流れを阻止し、圧側行程で前記油溜室から前記油室への流れを許容するチェック弁を設け、前記ピストンロッドの下端側に、前記ピストンロッド側油室と前記ピストン側油室とを連通する流路を設け、前記ピストンロッドの上端側に、前記油室を前記油溜室に連通する小孔を設けてなる油圧緩衝器であって、前記インナチューブの内部で、前記ピストンロッドが備えるピストンと該インナチューブとの間に、上下のスプリングと、それら上下のスプリングに挟まれるフリーピストンを配置し、前記フリーピストンは前記インナチューブの内周に摺接し、前記ピストン側油室をその下側の空気室に対して区画し、前記上スプリングと前記下スプリングのばね強さを、前記フリーピストンの移動容積が前記ピストンロッドの前記油室への進入/退出容積に比して大となるように設定した。これにより、インナチューブの内周にピストンを摺接させる油圧緩衝器において、ピストンロッドを伸縮させつつ減衰力を発生させ、しかもアウタチューブとインナチューブのブッシュ、オイルシールに油室の大きな油圧力が及ばないようにしてオイル漏れタフネスを向上し、シール寿命を向上することができる。
【符号の説明】
【0072】
10 油圧緩衝器
11 アウタチューブ
12 インナチューブ
21 油室
21A ピストンロッド側油室
21B ピストン側油室
22 油溜室
23 空気室
30 隔壁部材
40 ピストンロッド
41 ピストン
42A 上懸架スプリング(上スプリング)
42B 下懸架スプリング(下スプリング)
43 フリーピストン
50 チェック弁
60 連絡路
61 中空部
62 流路
62A 孔状流路
62B チェック弁付流路
63 小孔
71 絞り流路
80 チェック弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウタチューブ内にインナチューブを摺動自在に挿入し、
前記インナチューブに設けられる隔壁部材により該インナチューブの内部に油室を区画し、その上部に油溜室を区画するとともに、該隔壁部材を常時油中に配置し、
前記アウタチューブに取付けたピストンロッドを該隔壁部材に摺動自在に挿入し、
前記インナチューブに挿入したピストンロッドの先端部に該インナチューブの内周に摺接するピストンを備え、前記油室を前記ピストンロッドが収容されるピストンロッド側油室と前記ピストンロッドが収容されないピストン側油室に区画し、
前記隔壁部材に、伸側行程で前記油室から前記油溜室への流れを阻止し、圧側行程で前記油溜室から前記油室への流れを許容するチェック弁を設け、
前記ピストンロッドの下端側に、前記ピストンロッド側油室と前記ピストン側油室とを連通する流路を設け、
前記ピストンロッドの上端側に、前記油室を前記油溜室に連通する小孔を設けてなる油圧緩衝器であって、
前記インナチューブの内部で、前記ピストンロッドが備えるピストンと該インナチューブとの間に、上下のスプリングと、それら上下のスプリングに挟まれるフリーピストンを配置し、
前記フリーピストンは前記インナチューブの内周に摺接し、前記ピストン側油室をその下側の空気室に対して区画し、
前記上スプリングと前記下スプリングのばね強さを、前記フリーピストンの移動容積が前記ピストンロッドの前記油室への進入/退出容積に比して大となるように設定してなる油圧緩衝器。
【請求項2】
前記ピストンロッド側油室と前記ピストン側油室とを連通する流路が、孔状流路及び/又は該ピストンロッド側油室から該ピストン側油室への流れを阻止し、該ピストン側油室から該ピストンロッド側油室への流れを許容するチェック弁付流路からなる請求項1に記載の油圧緩衝器。
【請求項3】
前記ピストンロッドが中空状連絡路を有し、該中空状連絡路の下端を前記ピストン側油室に開口し、該中空状連絡路の上端に前記油溜室に連通する小孔を開口してなる請求項1又は2に記載の油圧緩衝器。
【請求項4】
前記ピストンロッドの前記中空状連絡路の内部の油中に常時浸漬している部分であって、該ピストンロッドに設けられて前記ピストンロッド側油室に連通する前記孔状流路より上位に、絞り流路を設けてなる請求項3に記載の油圧緩衝器。
【請求項5】
前記ピストンロッドの外周であって、該ピストンロッドに設けられて前記油溜室に連通する前記小孔の周囲に、該油溜室から該小孔への流れを阻止し、該小孔から該油溜室への流れを許容するチェック弁を設けてなる請求項1〜4のいずれかに記載の油圧緩衝器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−31918(P2012−31918A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171169(P2010−171169)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)
【Fターム(参考)】