説明

油性化粧料

【課題】シリコンラバー製の成形型を使用して成形する油性化粧料において、繰り返し成形を行った場合でも成形型の膨潤による変形がなく、量産性に適した油性化粧料の提供。
【解決手段】シリコンラバー製の成形型を使用して成形する油性化粧料5において、液状油分が、マカデミアナッツ油、(水添ロジン/イソステアリン酸)グリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2、ホホバ油、水添ポリブテンのいずれかから選択される1若しくは2以上の油分から成る油性化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンラバー製の成形型を用いて成形する油性化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
口紅、アイシャドー、ファンデーション等に代表される油性化粧料においては、需要者の購買意欲を喚起するために、色彩、光沢を付与するなどの化粧効果や塗布中のなめらかさなどの使用感に加え、油性化粧料の外観を美麗にすることが重要である。このため製品の外観に美しさや面白さを付加するために、油性化粧料をシリコンラバー製の成形型(以下、「シリコンラバーモールド」という。)を用いて立体的に成形することがある。
【0003】
しかしながら、油性化粧料をシリコンラバーモールドに高温で充填し、冷却固化する成形工程を繰り返すと、油性化粧料に配合する成分によってはシリコンラバーが膨潤し、これを繰り返すことにより膨潤が進行し、シリコンラバーモールドが変形する。このような変形が生じると成形された製品の形状にばらつきが生じ、設計した形状とは異なるものとなる。また、設計寸法に対して、寸法誤差が大きくなると容器にセットできないような事態が生じ得る。特に、化粧品分野においては、外観形状が複雑なものが所望される一方、容器は小さく精密なものが多いため、寸法誤差が生じると製品不良に繋がり深刻な事態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−293109号公報
【特許文献2】特開2004−113012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、シリコンラバーモールドを使用して成形する口紅、アイシャドー、ファンデーション等の油性化粧料において、繰り返し成形を行った場合でもシリコンラバーモールドの膨潤による変形がなく、量産性に適するとともに使用性に優れた油性化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、シリコンラバーモールドを使用して成形する油性化粧料において、油性化粧料に配合する液状油分がマカデミアナッツ油、(水添ロジン/イソステアリン酸)グリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2、ホホバ油、水添ポリブテンのいずれかから選択される1若しくは2以上の油分から成ることを特徴とする油性化粧料である。
【0007】
第2の発明は、硬度(カードメーター(アイテクノエンジニアリング(株)製)による37℃、感圧軸直径3mm、800g荷重での測定値)が10乃至15であることを特徴とする油性化粧料である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の油性化粧料によれば、溶融した高温の油性化粧料をシリコンラバーモールドに繰り返し充填し成形しても、シリコンラバーモールドは膨潤による変形が起こらず、寸法精度を維持しつつ量産が可能である。また、離型性が良いため、複雑な形状の成形も可能である。更に、筆等の塗布具への取れが良く、使用性に優れた口紅、アイシャドー、ファンデーション等の油性化粧料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】各種液状油分によるシリコンラバーの膨潤率の測定結果
【図2】中皿の平面図
【図3】中皿の断面図
【図4】シリコンラバーモールドに中皿をセットし油性化粧料を成形する状態を示す断面図
【図5】化粧用容器の本体に直接成形した油性化粧料の断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の油性化粧料について詳細に説明する。
【0011】
本発明は、シリコンラバーモールドを使用して成形する油性化粧料において、油性化粧料に配合する液状油分がマカデミアナッツ油、(水添ロジン/イソステアリン酸)グリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2、ホホバ油、水添ポリブテンのいずれかから選択される1若しくは2以上の油分から成ることを特徴とする油性化粧料である。
【0012】
シリコンラバーモールドは、シリコンラバーのみで形成されたモールドに限られず、シリコンラバーを原料としていれば、添加剤のみならず、他の原料を配合しているモールドであってもよい。本発明は、シリコンラバーが膨潤することによるモールドの変形を防止する効果があるため、シリコンラバーを配合するモールドに対しては効果を発揮し得るためである。
【0013】
油性化粧料を成形する場合は、油性化粧料を約80℃〜95℃において完全に溶融し、シリコンラバーモールドに充填し、油性化粧料が固化した後、シリコンラバーモールドから取り出す。ここで、シリコンラバーモールドを膨潤させる要因を考察すると、油性化粧料に配合される油分が、シリコンラバーの内部に浸透することによって膨潤が生ずると考えられる。油性化粧料に配合される油分には、液状油分、半固形油分および固形油分があるが、半固形油分および固形油分は、モールドへの充填時には溶融化し、液状となっているものの、充填後は冷却工程において比較的早期に固化するため、シリコンラバー内部への浸透は低下すると考えられる。一方、液状油分は、充填時のみならず、冷却した後も半固形油分、固形油分と異なり、結晶化することなく、流動的であり、シリコンラバー内部に浸透し膨潤の要因となり得ると考えられる。
【0014】
各種液状油分について、モールドとして使用するシリコンラバーの膨潤試験を行った。
シリコンラバーは、信越化学工業社製RTVゴム(Room Temperature Vulcanizing:室温硬化型)の2液混合タイプ(主剤:KE−1310ST、硬化剤:CAT−1310S)を使用し、サンプルとなるシリコンラバーを作製した。サンプルは、縦を約2cm、横を約2cm、厚さを約0.5cmの形状とし、試験は50℃において一週間、各種液状油分に浸漬し、浸漬前と浸漬後のサンプルの重量を測定して行った。膨潤率は、浸漬前のサンプルの重量をA、浸漬後のサンプルの重量をBとすれば、(B−A)/A×100の計算式によって算出したものであり、膨潤率による評価は3つのサンプルの平均値により行った。試験の結果を表1に、また、この結果をグラフとして表示したものを図1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
シリコンラバーモールドの膨潤試験の結果(図1)から、膨潤率が5%以下の液状油分、すなわち、マカデミアナッツ油、(水添ロジン/イソステアリン酸)グリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2、ホホバ油、水添ポリブテンを選定することとし、これらの中から選択される1若しくは2以上から成る液状油分を配合し、シリコンラバーモールドにより成形した口紅について検討した結果を以下の実施例に記載する。
【実施例】
【0017】
図4に示すとおり、底面(3)に円形の充填孔(2)を設けた中皿(1)を充填孔(2)が上に向くようにシリコンラバーモールド(4)の上方にセットし、充填孔(2)から溶融した油性化粧料(5)を充填する。充填した後は、油性化粧料(5)が冷却し固化した後、ラバーモールドを取り外して、口紅の成形品を得る。
【0018】
中皿(1)は、樹脂製であり、ポリエチレンテレフタレートを使用したが、金属製であっても同様の効果を得ることが出来る。
【0019】
充填孔(2)の直径(H)と比較して、油性化粧料(5)の成形品の横幅(W)が、著しく大きい場合には、中皿底面(3)に通気孔(7)を設けることが好ましい。空気が抜けないと充填孔(2)から充填される油性化粧料(5)が、成形品の横幅方向の先端まで行き渡らず、空気による気泡痕が成形品に残ってしまうためである。特にシリコンラバーモールドの場合は、中皿(1)との密着性が高いため、隙間からの空気抜けが無いことから、通気孔(7)が必要となる場合が多い。実施例で使用した中皿(1)の充填孔(2)の直径(H)は14mmであり、成形品の横幅(W)は、2.5〜3cmである。また、通気孔(7)は、直径0.8mmとし、図2に示すとおり中皿底面(3)の四隅に合計8個設けた。
【0020】
中皿(1)の充填孔(2)の円周部に抜け防止リブ(6)を設置した(図2乃至4)。油性化粧料(5)を中皿(1)に強固に固定するためである。また、中皿(1)の充填孔(2)の形状は、充填する化粧料が流れる方向に孔の直径(H)が拡大するようにテーパーをつけてもよい。このような形状とすることで、充填する化粧料が広がり易くなり、成形品の横幅方向(W)の先端まで行き渡り易くするためである。
【0021】
シリコンラバーモールド(4)は、肉厚が厚すぎると剛性が高くなり、成形後の油性化粧料(5)および中皿(1)が外しにくくなり、過度に力を加え取り外そうとすると、形状を崩すおそれがある。また、肉厚が薄すぎると成形型として形状を維持できず、設計した形状の油性化粧料を成形することが困難となる。したがって、作業工程を考慮し、適度な肉厚とすることが重要である。実施例で用いたシリコンラバーモールド(4)の深さ(D)は約14mm、底部の肉厚(T)は約5.5mmとした。
【0022】
各処方に基づき成形された口紅について、量産適性評価、離型性評価および使用性評価を行った結果を表2に示す。ここで、量産適性評価とは、50回繰り返して成形した場合のシリコンラバーモールドに膨潤変形が生じないかを観察した評価であり、離型性評価とは、シリコンラバーモールド(4)から取り外す際に口紅の表面に剥離が生じないかを観察した評価であり、使用性評価とは、成形した口紅が筆によって掬い取り易いかについて評価したものである。
【0023】
【表2】

【0024】
量産適性評価では、実施例1が最も優れ、50回の繰り返し成形において変形は認められず良好な結果が得られた。実施例1における液状油分は、全体の86.45%であり、比較例1の72.45%、比較例2の76.45%、比較例3の39.25%より多く配合しているにもかかわらず、シリコンラバーモールドの変形が小さいのは、実施例1の液状油分が、シリコンラバーの膨潤試験(図1)において膨潤率が5%以下であった、マカデミアナッツ油、(水添ロジン/イソステアリン酸)グリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2、水添ポリブテンから構成されていることによるものである。
【0025】
離型性評価においては、硬度が9以下(比較例3および比較例4)では離型性に劣り、化粧料の表面がシリコンラバーモールドに付着し、成形品をモールドから取り出す際に、化粧料の表面の一部が剥がれる現象が確認された。離型性評価の結果からは、シリコンラバーモールドにより繊細かつ複雑な形状を成形する場合には、油性化粧料の硬度は10以上であることが必要であり、特に11以上で優れた結果を得ることが出来た。尚、硬度は、カードメーター(アイテクノエンジニアリング(株)製)を使用し、37℃において感圧軸の直径3mmで800g荷重により測定した結果であるが、比較例4は硬度が著しく低く、同一条件では測定できないことから、比較例4についてのみ、不動工業株式会社(FUDO KOGYO CO.)製の硬度計(レオメーター)を使用し、30℃において直径5.6mmの針を上昇速度2cm/minで3mm針入した値を測定したものである。
【0026】
使用性評価は、筆での掬い取りやすさを評価したものである。これは、中皿に成形された油性化粧料は、通常、筆もしくは指によって掬い取り、塗布して使用することによるものである。表2に記載のすべての処方において使用性評価は良好ではあるが、硬度が15以下では更に使用性は向上し、特に、硬度が11以下では非常に優れた結果を得ることが出来た。
【0027】
以上の結果から、実施例1は、評価したすべての項目において良好な結果であることが確認できた。すなわち、実施例1はシリコンラバーモールドの膨潤を抑え、量産に適するものであるとともに、離型性に優れることから繊細な形状も成形可能であり、また、筆への取れも良いことから使用性にも優れることが確認できた。
【0028】
本実施例では、通常行う製品化工程に即して油性化粧料を中皿上に成形したものである。すなわち、通常の製品化工程では、中皿上で成形された油性化粧料は、中皿に保持された状態で化粧容器本体にセットされるものであるため、まず、中皿上に成形する必要があり、本実施例は、この工程に即したものである。しかし、中皿の化粧料容器の本体底面に充填孔を設け、化粧料容器の本体を中皿と同様にシリコンラバーモールドの上方にセットし、充填することによって容器本体に油性化粧料を直接成形することも可能である。図5には、化粧用容器の本体に直接成形した油性化粧料の状態を示した。
【符号の説明】
【0029】
1 中皿
2 充填孔
3 中皿底面
4 シリコンラバーモールド
5 油性化粧料
6 抜け防止リブ
7 通気孔
8 化粧用容器の本体
9 化粧用容器の蓋
10 鏡
11 ヒンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンラバー製の成形型を使用して成形する油性化粧料において、油性化粧料に配合する液状油分がマカデミアナッツ油、(水添ロジン/イソステアリン酸)グリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル−2、ホホバ油、水添ポリブテンのいずれかから選択される1若しくは2以上の油分から成ることを特徴とする油性化粧料。
【請求項2】
硬度(カードメーター(アイテクノエンジニアリング(株)製)による37℃、感圧軸直径3mm、800g荷重での測定値)が10乃至15であることを特徴とする請求項1記載の油性化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−157323(P2011−157323A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21811(P2010−21811)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】