説明

油種判定装置と方法

【課題】時間をかけることなく、油の種類を判定することができる油種判定装置と方法を提供する。
【解決手段】 第1波長光と第2波長光を発する光発生手段3と、光発生手段からの第1波長光と第2波長光が伝播する光ファイバ5と、光ファイバを伝播した第1波長光と第2波長光を検出する検出装置7と、を備える。検出装置7は、第1波長光の光量および第2波長光の光量を別々に検出する光量検出部と、第1波長光の光量に基づいて、光ファイバのセンサ部分5cに接触していた油への第1波長光の吸光度を算出し、第2波長光の光量に基づいて、センサ部分に接触していた油への第2波長光の吸光度を算出する第1の演算部と、第1波長光の吸光度と第2波長光の吸光度との比率を油種判定用比率として算出する第2の演算部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油の種類を判定する油種判定装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川や海などの水に、「油らしきもの」が浮遊していることがある。これが油である場合、その油の種類を判定することで、油流出の原因を突き止め、油流出を防ぐ対策を立てることができる。
【0003】
なお、本願の技術分野における先行技術文献として、下記の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−283316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来では、河川などの水に混在している油の種類を判定するために、その油を分析している。この分析には、時間がかかっていた。例えば、油のサンプルを試験室に持ち帰り、油の成分を解析していた。この解析では、油分を有機溶媒で抽出する必要がある。そのため、油の種類を判定するのに時間がかかっていた。
【0006】
なお、特許文献1では、光ファイバに液体を付着させ、この付着部分から光が光ファイバから外部へ漏れることを利用している。すなわち、光ファイバを、漏れずに伝播した光量を検出し、この光量に基づいて、液体が水か油かを判定している。しかし、この構成で、油の種類を判定することはできない。なぜなら、光ファイバに付着した油の量によって、光ファイバを、漏れずに伝播する光量が変化するからである。
【0007】
そこで、本発明の目的は、時間をかけることなく、油の種類を判定することができる油種判定装置と方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によると、第1の波長を有する第1波長光と、第2の波長を有する第2波長光とを用いて、油の種類を判定する油種判定装置であって、
第1波長光と第2波長光を発する光発生手段と、
光発生手段からの第1波長光と第2波長光が伝播する光ファイバと、
該光ファイバを伝播した第1波長光と第2波長光を検出する検出装置と、を備え、
前記光ファイバは、光が伝播するコア部と、該コア部から外部に光が漏れないように該コア部を覆う被覆部とを有し、
前記光ファイバは、その長手方向の途中において、油に接触させるセンサ部分を有し、該センサ部分では、前記コア部が露出しており、
前記検出装置は、
第1波長光の光量および第2波長光の光量を別々に検出する光量検出部と、
第1波長光の光量に基づいて、前記センサ部分に接触していた油への第1波長光の吸光度を算出し、第2波長光の光量に基づいて、前記センサ部分に接触していた油への第2波長光の吸光度を算出する第1の演算部と、
第1波長光の前記吸光度と、第2波長光の前記吸光度との比率を、油種判定用比率として算出する第2の演算部と、を有する、ことを特徴とする油種判定装置が提供される。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によると、光発生手段は、第1波長光と第2波長光を含む光を発し、
前記検出装置は、光発生手段から発せられ前記センサ部分を通過した光から、第1波長光と第2波長光とを分離させる光分離手段と、を有する。
【0010】
代わりに、光発生手段は、第1波長光を発生させる第1波長光発生部と、第2波長光を発生させる第2長光発生部と、を有していてもよい。
【0011】
油種判定装置は、水を掬い取る柄杓部を備え、前記センサ部分は、掬い取られた水に接触できるように前記柄杓部内に配置されていてもよい。
【0012】
また、上記目的を達成するため、本発明によると、上述の油種判定装置を用いた油種判定方法であって、
(A)前記センサ部分を油に接触させた状態で、光発生手段から光ファイバに第1波長光と第2波長光を伝播させて、光量検出部により、第1波長光の光量および第2波長光の光量を別々に検出し、
(B)第1の演算部により、第1波長光の光量に基づいて、前記センサ部分に接触していた油への第1波長光の吸光度を算出し、第2波長光の光量に基づいて、前記センサ部分に接触していた油への第2波長光の吸光度を算出し、
(C)第2の演算部により、第1波長光の前記吸光度と、第2波長光の前記吸光度との比率を、油種判定用比率として算出する、ことを特徴とする油種判定方法が提供される。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によると、(D)油の種類毎に、前記センサ部分に接触する該種類の油への第1波長光の吸光度と、前記センサ部分に接触する該種類の油への第2波長光の吸光度との比率または当該比率の範囲を予め求め、これら比率または当該範囲を油種毎比率データとし、
(E)油種判定用比率を、油種毎比率データと比較することで、前記センサ部分に接触していた油の種類を判定する。
【0014】
好ましくは、(F)前記(B)で検出した第1波長光の吸光度または第2波長光の吸光度が、下限値以下である場合には、油が存在していないとするか、または、センサ部分への油の接触量が少ないとして、再び、前記(A)、(B)を行う。
【0015】
また、好ましくは、(G)前記(B)で検出した第1波長光の吸光度または第2波長光の吸光度が、上限値以上である場合には、センサ部分への油の接触量が多すぎるとして、再び、前記(A)、(B)、を行う。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明によると、光ファイバのセンサ部分に第1波長光と第2波長光を伝播させ、センサ部分を伝播した第1波長光と第2波長光の光量を別々に検出し、第1波長光の光量に基づいて、前記センサ部分に接触していた油への第1波長光の吸光度を算出し、第2波長光の光量に基づいて、前記センサ部分に接触していた油への第2波長光の吸光度を算出し、第1波長光の前記吸光度と、第2波長光の前記吸光度との比率を、油種判定用比率として算出する。この油種判定用比率は、油種毎に異なるので、油種判定用比率に基づいて、時間をかけることなく、油の種類を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態による油種判定装置の構成図である。
【図2】検出装置の構成例を示す。
【図3】本発明の実施形態による油種判定方法のフローチャートである。
【図4】センサ部分を油に接触させた状態を示す。
【図5】油種判定装置が柄杓部を備える場合を示す。
【図6】センサ部分が複数折り返す場合を示す。
【図7】吸光度の比率を別の座標軸で表す場合の説明図である。
【図8】光発生手段の別の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
(油種判定装置の構成)
図1は、本発明の実施形態による油種判定装置10の構成図である。油種判定装置10は、例えば水に混在している油の種類を判定する装置である。油種判定装置10は、光発生手段3、光ファイバ5、および検出装置7を備える。
【0020】
光発生手段3は、第1の波長を有する第1波長光と、第2の波長を有する第2波長光とを発生させる。第1および第2の波長は、互いに異なっており、例えば、第1の波長は、450nmであり、第2の波長は、650nmである。
本実施形態では、光発生手段3は、第1波長光と第2波長光を含む光を発する。このような光発生手段3は、例えば、ハロゲンランプであってよい。
【0021】
光ファイバ5は、光発生手段3からの光が伝播する経路となる。光ファイバ5は、光が伝播するコア部5a(コア)と、該コア部5aから光が外部に漏れないように該コア部5aを覆う被覆部5b(クラッド)とを有する。コア部5aは、被覆部5bよりも光の屈折率が高く、これにより、コア部5a内の光は、コア部5aと被覆部5bとの境界で全反射をしながら、光ファイバ5の長手方向に伝播していく。
光ファイバ5は、その長手方向の途中において、(例えば水に混在している)油に接触させるセンサ部分5cを有し、該センサ部分5cでは、光ファイバ5のコア部5aが露出している。
【0022】
検出装置7は、光ファイバ5を伝播した第1波長光と第2波長光を検出する。検出装置7は、光量検出部、第1の演算部、および第2の演算部を有する。
【0023】
光量検出部は、光ファイバ5を伝播した第1波長光の光量および第2波長光の光量を別々に検出する。光量検出部は、本実施形態では、光分離手段および受光部を有する。光分離手段は、光発生手段3から発せられセンサ部分5cを通過した光から、第1波長光と第2波長光を分離させる。受光部は、センサ部分5cを通過し、光分離手段により分離された第1波長光の光量と第2波長光の光量を別々に検出する。
例えば、光量検出部(光分離手段および受光部)は、分光器として構成されてよい。この場合、分光器は、プリズムまたは回折格子などの光学素子を用いて、光を分散させ、光のスペクトルを測定し、これにより、第1波長光の光量および第2波長光の光量を別々に検出する。
代わりに、光分離手段は、図2のように、光ファイバ5の分岐部5dと、第1および第2のフィルタ13、15とから構成され、受光部は、第1および第2の光検出器17、19とから構成されてもよい。この場合、分岐部5dが、センサ部分5cから延びてきている光ファイバ5を二つに分岐させる。分岐された一方の光ファイバ5に第1のフィルタ13が設けられる。第1のフィルタ13は、第1の波長(この例では、450nm)を持つ第1波長光のみを透過させる。この第1のフィルタ13を透過した第1波長光が、第1の光検出器17により検出される。同様に、分岐された他方の光ファイバ5に第2のフィルタ15が設けられる。第2のフィルタ15は、第2の波長(この例では、650nm)を持つ第2波長光のみを透過させる。この第2のフィルタ15を透過した第2波長光が、第2の光検出器19により検出される。
【0024】
第1の演算部は、光量検出部が検出した第1波長光の光量に基づいて、センサ部分5cに接触していた油への第1波長光の吸光度を算出する。また、第1の演算部は、光量検出部が検出した第2波長光の光量に基づいて、センサ部分5cに接触していた油への第2波長光の吸光度を算出する。なお、本願において、吸光度とは、センサ部分5c内から、センサ部分5cに接触している媒質(油など)へ光が透過する度合い(例えば、光量、または該光量を示す指標値)を意味する。
【0025】
第2の演算部は、第1波長光の前記吸光度と、第2波長光の前記吸光度との比率を、油種判定用比率として算出する。
【0026】
(油種判定の原理)
第1波長光の吸光度と、第2波長光の吸光度との比率は、センサ部分5cへの油の接触量(接触面積)が異なっても、当該油の種類に固有の一定値となるか、または、当該油の種類に固有の一定範囲内の値となる。一方、当該比率または当該比率の範囲は、油の種類毎に異なる。そこで、上述の油種判定用比率を求めることで、油の種類を判定することができる。
【0027】
吸光度は、センサ部分5cに接触している媒質の光の屈折率(以下、単に屈折率という)に応じて変化する。光は、光の屈折率が高い物質から、屈折率の低い物質へは、透過しにくい。この例では、センサ部分5cの屈折率は、1.49である。従って、センサ部分5cの外部が、屈折率が1.33である水である場合に、センサ部分5cの内部を伝播する光は、センサ部分5cと水との境界面で全反射する。また、センサ部分5cの外部が、屈折率が1.0である空気である場合に、センサ部分5cの内部を伝播する光は、センサ部分5cと空気との境界面で全反射する。一方、センサ部分5cの外部が、屈折率が1.4以上である油である場合に、センサ部分5cの内部を伝播する光は、センサ部分5cと油との境界面で全反射せず、少なくとも一部が当該油内へ透過していく。
【0028】
従って、センサ部分5cに油が接触している場合には、光量検出部で検出する光量は、センサ部分5cに油が接触していない場合よりも減少する。この減少量が、上述の吸光度(光量)に相当する。この減少量を検知することで、油がセンサ部分5cに接触していたと判断できる。
吸光度は、センサ部分5cに接触している油の種類によって異なる。すなわち、センサ部分5cに接触している油の屈折率が大きい程、吸光度は大きくなる。さらに、センサ部分5cに接触している油の屈折率が、コア部5aの屈折率よりも大きい場合には、センサ部分5c内から当該油内へ透過する光量が大幅に大きくなるので吸光度は大幅に増加する。
一方、吸光度は、センサ部分5cへの油の接触量(すなわち、センサ部分5cにおける油の接触面積)によっても変化する。このため、吸光度だけでは、油の種類を判定することができない。
【0029】
しかし、第1波長光の吸光度L(λ)と、第2波長光の吸光度L(λ)との比率Rが、センサ部分5cへの油の接触量が異なっても、次の式(1)のように当該油の種類に固有の一定値(または、一定範囲)となる。

R=L(λ)/L(λ)=一定値または一定範囲(ただし油種は同じ) ・・・(1)

一方、この比率Rまたはこの比率Rの範囲は、油の種類毎に異なる。そこで、この比率Rまたはこの比率Rの範囲を、油の種類毎に、予め求めておき、これら比率または範囲を油種毎比率データとする。油種の判定対象の油について、前記比率Rを油種判定用比率として求め、この油種判定用比率Rを油種毎比率データR(ここで、Rの添え字iは、油の種類の識別子であり、nを2以上として、1〜nの整数である)と比較することで、油種を判定することができる。
【0030】
第1波長光の吸光度L(λ)と、第2波長の吸光度L(λ)は、好ましくは、次の式(2)、(3)で表すものである。

L(λ)=−logT(λ) ・・・(2)

L(λ)=−logT(λ) ・・・(3)

【0031】
式(2)、(3)におけるlogは、ここでは常用対数を示す。
また、式(2)、(3)におけるT(λ)、T(λ)は、次の式(4)、(5)で表わされる。

T(λ)={P1α(λ)−B1α(λ)}/{P1β(λ)−B1β(λ)}
・・・(4)

T(λ)={P2α(λ)−B2α(λ)}/{P2β(λ)−B2β(λ)}
・・・(5)

【0032】
上式(4)、(5)の各記号の定義は、以下の通りである。
1α(λ):センサ部分5cに油を接触させた状態で、光発生手段3から第1波長光を発生させ、これにより、光量検出部が検出した第1波長光の光量。
1α(λ):センサ部分5cに油を接触させた状態で、かつ、光発生手段3から第1波長光を発生させない状態で、光量検出部が検出した第1波長光の光量。
1β(λ):光がセンサ部分5cの内部から外部へ漏れないようにした状態で、光発生手段3から第1波長光を発生させ、これにより、光量検出部が検出した第1波長光の光量。
1β(λ):光がセンサ部分5cの内部から外部へ漏れないようにした状態で、かつ、光発生手段3から第1波長光を発生させない状態で、光量検出部が検出した第1波長光の光量。
2α(λ):センサ部分5cに油を接触させた状態で、光発生手段3から第2波長光を発生させ、これにより、光量検出部が検出した第2波長光の光量。
2α(λ):センサ部分5cに油を接触させた状態で、かつ、光発生手段3から第2波長光を発生させない状態で、光量検出部が検出した第2波長光の光量。
2β(λ):光がセンサ部分5cの内部から外部へ漏れないようにした状態で、光発生手段3から第2波長光を発生させ、これにより、光量検出部が検出した第2波長光の光量。
2β(λ):光がセンサ部分5cの内部から外部へ漏れないようにした状態で、かつ、光発生手段3から第2波長光を発生させない状態で、光量検出部が検出した第2波長光の光量。
【0033】
なお、センサ部分5cに同じ量の油が付着している場合に、第1波長光と第2波長光の少なくとも一方で、吸光度に差が生じるように、第1波長光と第2波長光の波長を選択すればよい。
【0034】
(油種判定方法)
図3は、上述の油種判定装置10を用いた油種判定方法を示すフローチャートである。油種判定方法は、ステップS1〜S8を有する。
【0035】
ステップS1では、例えば、図4のようにセンサ部分5cを油に接触させた状態で、光発生手段3から光ファイバ5に第1波長光と第2波長光を伝播させる。なお、油種判定装置10は、例えば、図4のように、センサ部分5cが取り付けられた支持部9と、この支持部9に結合された取っ手11とを有する。取っ手11を人が持って、図4のようにセンサ部分5cを水に浸けてよい。
【0036】
ステップS2では、光量検出部により、ステップS1において光ファイバ5(センサ部分5c)を通過した第1波長光および第2波長光の光量を別々に検出する。
【0037】
ステップS3では、第1の演算部により、ステップS2において検出した第1波長光の光量に基づいて、センサ部分5cに接触していた油への第1波長光の吸光度を算出し、ステップS2において検出した第2波長光の光量に基づいて、センサ部分5cに接触していた油への第2波長光の吸光度を算出する。
【0038】
ステップS4では、ステップS3において検出した第1波長光の吸光度または第2波長光の吸光度が、下限値以下であるかどうかを判断する。この判断がYESである場合には、油が存在していないとするか、または、センサ部分5cへの油の接触量が少ないとして、ステップS1へ戻り、再び、ステップS1、S2、S3を行う。一方、ステップS4の判断がNOである場合には、ステップS5へ進む。なお、ステップS4で、油が存在していないとした場合には、油種判定方法を終了してもよいし、ステップS1へ戻り、再び、ステップS1、S2、S3を行ってもよい。
【0039】
ステップS5では、ステップS3において検出した第1波長光の吸光度または第2波長光の吸光度が、上限値以上であるかどうかを判断する。この判断がYESである場合には、センサ部分5cへの油の接触量が多すぎるとして、センサ部分5cを洗浄して、ステップS1へ戻り、再び、ステップS1、S2、S3を行う。一方、ステップS5の判断がNOである場合には、ステップS6へ進む。
【0040】
ステップS6では、第2の演算部により、ステップS3において算出した第1波長光の前記吸光度と第2波長光の前記吸光度との比率を、油種判定用比率として算出する。
【0041】
一方、ステップS7では、油の種類毎に、センサ部分5cに接触する該種類の油への第1波長光の吸光度と、センサ部分5cに接触する該種類の油への第2波長光の吸光度との比率または当該比率の範囲を予め求め、これら比率または当該範囲を油種毎比率データRとする。これら比率または当該範囲は、上述のステップS1〜S6と同様にして求めることができる。好ましくは、油の種類毎に、上述のステップS1〜S6を、多数回行うことで、油種毎比率データRを求めるのがよい。
【0042】
ステップS8では、ステップS6において算出した油種判定用比率Rを、ステップS7において求めた油種毎比率データRと比較することで、センサ部分5cに接触していた油の種類を判定する。すなわち、油種判定用比率Rに一致するRが示す種類が、ステップS1でセンサ部分5cに接触していた油の種類である。
【0043】
(実施例)
下記の種類の油について、上式(1)の比率Rを、上式(2)〜(5)を用いて求めたら、下記の結果を得た。
なお、各種類の油について、下記の各数値範囲は、上述のステップS1〜S6と同様のステップを多数回行うことで得たものである。
・実験結果
機械油(CRE)の上記比率は、0.34〜0.43であった。
灯油(ケロシン)の上記比率は、0.34〜0.37であった。
サラダ油の上記比率は、0.83であった。
オリーブ油の上記比率は、0.82〜0.83であった。
タービン油の上記比率は、0.96〜0.98であった。
この実験結果においては、機械油(CRE)または灯油(ケロシン)と、植物油(サラダ油またはオリーブ油)と、タービン油とを、上記比率で互いに判別することができる。
なお、これら具体例以外の種類の油についても、上述の油種判定装置または油種判定方法により判定することができる。
【0044】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、下記の変更例1〜4の中から、1つの変形例を採用してもよいし、複数の変形例を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、油種判定装置10と油種判定方法の他の点は、上述と同じであってよい。
【0045】
(変更例1)
油種判定装置10は、図5のように、支持部9の代わりに、水を掬い取る柄杓部21を備えていてもよい。この場合、センサ部分5cは、掬い取られた水に接触できるように柄杓部21内に配置されている。
この構成で、柄杓部21に掬い取った水に混在している油に、センサ部分5cを効率的に接触させることができる。例えば、柄杓部21に掬い取った水の水面に接触し、かつ、当該水面に沿って延びるようにセンサ部分5cを配置することで、当該水面に浮いている油に効率的にセンサ部分5cを接触させることができる。
好ましくは、人が、柄杓部21に結合している取っ手11を持って、柄杓部21に水を掬い取るようにする。
また、好ましくは、センサ部分5c(コア部5a)は、柄杓部21内の底面から浮いた状態となるように、張られるのがよい。例えば、図5のように、柄杓部21の一端側にあるセンサ部分5cの部位23が柄杓部21の一端部に取り付けられ、柄杓部21の他端側にあるセンサ部分5cの部位25が柄杓部21の他端部に取り付けられ、これにより、センサ部分5cが、柄杓部21内の底面から浮いた状態となるように、張られるのがよい。図5の例では、センサ部分5cは、柄杓部21の一端部から他端部まで延び、この他端部で折り返して、柄杓部21の一端部まで延びている。代わりに、センサ部分5c(コア部5a)は、柄杓部21内の底面から浮いた状態となるように、柄杓部21に設けた適宜の支持体により支持されてもよい。この支持体は、例えば、柄杓部21内の内側面から延びていてもよいし、柄杓部21内の底面から立ち上がっていてもよい。
【0046】
(変更例2)
センサ部分は、例えば、図6のように、その一端側と他端側との間で複数回往復するように延びていてもよい。
【0047】
(変更例3)
互いに異なる2つの波長を持つ第1波長光と第2波長光の上記比率をRxとし、互いに異なる2つの波長を持つ第3波長光と第4波長光の上記比率をRyとする。
Rxについて、第1波長光と第2波長光を用いて、上述のステップS7と同様に、油種毎比率データRxを求める。次に、第1波長光と第2波長光の代わりに、第3波長光と第4波長光を用いて、上述のステップS7と同様に、油種毎比率データRyを求める。図7の例では、第1種類の油は、図7の破線Aで示す範囲を持ち、第2種類の油は、図7の破線Bで示す範囲を持つ。図7の例では、RxまたはRyの値が、範囲Aと範囲Bとで重複する部分がある。この部分においては、両油を判別し難い。一方、図7の2次元平面において、座標軸Rzにおいては、範囲Aと範囲Bとは重複しない。そこで、図7の2次元平面において、範囲Aと範囲Bを、それぞれ、座標軸Rzにおける範囲Azと範囲Bzに変換し、これら座標軸Rzにおける範囲Azと範囲Bzを、油種毎比率データとしてもよい。
一方、第1波長光と第2波長光を用いて、上述のステップをS1〜S6により、検査対象の油について、比率Rxを取得する。次に、図7の2次元平面において、当該油の比率Rxを、座標軸Rzの座標値を用いて比率Rzで表す。その上で、当該比率Rzと、油種毎比率データAz、Bzと比較する。これにより、当該油が、上記の重複により、RxやRyでは第1種類であるか第2種類であるか判別し難い場合であっても、Rzにより、当該油が、第1種類であるか第2種類であるかを判別することができる。
なお、第1波長光、第2波長光、第3波長光、および第4波長光は、互いに異なる波長を有している。ただし、第1波長光と第2波長光の少なくとも一方と、第3波長光と第4波長光の少なくとも一方とが、異なる波長を有していればよい。
【0048】
(変更例4)
上述のステップS1では、水中にセンサ部分5cを入れて、図4のように水に浮く油にセンサ部分5cを接触させたが、センサ部分5cに油を接触させることができれば、水中にセンサ部分5cを入れなくてもよい。例えば、センサ部分5cを水中にいれずに、油のみをセンサ部分5cに接触させてもよい。すなわち、水に混在していない油に本発明を適用してもよい。
【0049】
(変形例5)
光発生手段は、図8のように、第1波長光を発生させる第1波長光発生部3aと、第2波長光を発生させる第2長光発生部3bと、を有していてもよい。第1波長光発生部3aは、例えば、450nmの光を発生させる発光ダイオードであり、第2波長光発生部3aは、例えば、650nmの光を発生させる発光ダイオードである。
この場合、光分離手段が不要になる。代わりに、ステップS1で、まず、第1波長光を発生させて、ステップS2で、第1波長光を光量検出部で検出し、その後、センサ部分5cと油の接触状態を変えずに、ステップS1で、第2波長光を発生させて、ステップS2で、第2波長光を光量検出部で検出し、その後、ステップS3へ進む。
【符号の説明】
【0050】
3 光発生手段、5 光ファイバ、5a コア部、5b 被覆部,
5c センサ部分,5d 分岐部、7 検出装置、9 支持部、
10 油種判定装置、11 取っ手、13 第1のフィルタ、
15 第2のフィルタ、17 第1の光検出器、19 第2の光検出器、
21 柄杓部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の波長を有する第1波長光と、第2の波長を有する第2波長光とを用いて、油の種類を判定する油種判定装置であって、
第1波長光と第2波長光を発する光発生手段と、
光発生手段からの第1波長光と第2波長光が伝播する光ファイバと、
該光ファイバを伝播した第1波長光と第2波長光を検出する検出装置と、を備え、
前記光ファイバは、光が伝播するコア部と、該コア部から外部に光が漏れないように該コア部を覆う被覆部とを有し、
前記光ファイバは、その長手方向の途中において、油に接触させるセンサ部分を有し、該センサ部分では、前記コア部が露出しており、
前記検出装置は、
第1波長光の光量および第2波長光の光量を別々に検出する光量検出部と、
第1波長光の光量に基づいて、前記センサ部分に接触していた油への第1波長光の吸光度を算出し、第2波長光の光量に基づいて、前記センサ部分に接触していた油への第2波長光の吸光度を算出する第1の演算部と、
第1波長光の前記吸光度と、第2波長光の前記吸光度との比率を、油種判定用比率として算出する第2の演算部と、を有する、ことを特徴とする油種判定装置。
【請求項2】
光発生手段は、第1波長光と第2波長光を含む光を発し、
前記検出装置は、光発生手段から発せられ前記センサ部分を通過した光から、第1波長光と第2波長光とを分離させる光分離手段と、を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の油種判定装置。
【請求項3】
光発生手段は、第1波長光を発生させる第1波長光発生部と、第2波長光を発生させる第2長光発生部と、を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の油種判定装置。
【請求項4】
水を掬い取る柄杓部を備え、
前記センサ部分は、掬い取られた水に接触できるように前記柄杓部内に配置されている、ことを特徴とする請求項1、2または3に記載の油種判定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の油種判定装置を用いた油種判定方法であって、
(A)前記センサ部分を油に接触させた状態で、光発生手段から光ファイバに第1波長光と第2波長光を伝播させて、光量検出部により、第1波長光の光量および第2波長光の光量を別々に検出し、
(B)第1の演算部により、第1波長光の光量に基づいて、前記センサ部分に接触していた油への第1波長光の吸光度を算出し、第2波長光の光量に基づいて、前記センサ部分に接触していた油への第2波長光の吸光度を算出し、
(C)第2の演算部により、第1波長光の前記吸光度と、第2波長光の前記吸光度との比率を、油種判定用比率として算出する、ことを特徴とする油種判定方法。
【請求項6】
(D)油の種類毎に、前記センサ部分に接触する該種類の油への第1波長光の吸光度と、前記センサ部分に接触する該種類の油への第2波長光の吸光度との比率または当該比率の範囲を予め求め、これら比率または当該範囲を油種毎比率データとし、
(E)油種判定用比率を、油種毎比率データと比較することで、前記センサ部分に接触していた油の種類を判定する、ことを特徴とする請求項5に記載の油種判定方法。
【請求項7】
(F)前記(B)で検出した第1波長光の吸光度または第2波長光の吸光度が、下限値以下である場合には、油が存在していないとするか、または、センサ部分への油の接触量が少ないとして、再び、前記(A)、(B)を行う、ことを特徴とする請求項5または6に記載の油種判定方法。
【請求項8】
(G)前記(B)で検出した第1波長光の吸光度または第2波長光の吸光度が、上限値以上である場合には、センサ部分への油の接触量が多すぎるとして、再び、前記(A)、(B)、を行う、ことを特徴とする請求項5または6に記載の油種判定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−196937(P2011−196937A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66617(P2010−66617)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【出願人】(000241957)北海道電力株式会社 (78)
【Fターム(参考)】