説明

油静圧スライド装置

【課題】回転が阻止され且つ高い回転剛性を有するスライド軸を備える油静圧スライド装置を提供する。
【解決手段】油静圧スライド装置が、往復駆動源3と、往復駆動源3によって往復駆動される、多角形横断面を有するスライド軸4と、油圧によってスライド軸4を摺動可能に支持する油静圧軸受5とを具備する。油静圧軸受5はスライド軸4が嵌挿される軸受穴54を備え、油静圧軸受5の軸受穴54の複数の内側面55の各々が、スライド軸4の縦軸線AZに対して垂直な方向に並べられて形成された少なくとも二つの静圧ポケット91を備えており、静圧ポケット91の各々に油圧を供給するためのオリフィス92が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動研削に適用して好適な油静圧スライド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静圧軸受装置によって支持された砥石軸を備える立形研削盤が特許文献1に記載されている。この研削盤の静圧軸受装置は、油圧を利用した静圧軸受により円筒状の砥石軸を上下に摺動可能に支持している。
【0003】
特許文献2には静圧軸受を利用した超仕上げ装置が記載されている。この装置では、砥石が装着されたスライド軸(振動体)が、空気圧を利用した静圧軸受によって往復摺動可能に支持されている。また、スライド軸は正方形の横断面形状を有している。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−16951号公報
【特許文献2】特開2004−209631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された研削盤は、その砥石軸の横断面形状が円形であるので、圧力油のシールが比較的容易であるという特徴を有する反面、砥石軸の回転が許容されない用途、例えば歯車の歯の総形研削に利用する場合には、砥石軸の回転を阻止する手段の追加が必要となり、従来のそのような手段は摺動摩擦の増大あるいは軸の回転剛性の低下を招くことがあった。
【0006】
特許文献2に記載された超仕上げ装置では、砥石が連結されて往復移動するスライド軸の横断面形状が正方形であるのでスライド軸の回転は阻止される。但し、静圧軸受が空気圧を利用するタイプであるため、許容される研削抵抗は比較的小さく、またスライド軸の回転剛性も比較的小さかった。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたもので、回転が阻止され且つ高い回転剛性を有するスライド軸を備える油静圧スライド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様では、油静圧スライド装置が、往復駆動源(3)と、往復駆動源(3)によって往復駆動される、多角形横断面を有するスライド軸(4)と、油圧によってスライド軸(4)を摺動可能に支持する油静圧軸受(5)と、を具備し、油静圧軸受(5)はスライド軸(4)が嵌挿される軸受穴(54)を備え、油静圧軸受(5)の軸受穴(54)の複数の内側面(55)の各々が、スライド軸(4)の縦軸線(AZ)に対して垂直な方向に並べられて形成された少なくとも二つの静圧ポケット(91)を備えており、静圧ポケット(91)の各々に油圧を供給するためのオリフィス(92)が設けられている。
【0009】
このように、スライド軸(4)は多角形の横断面形状を有するので、回転が阻止されるのは勿論、軸受穴の各内側面(55)に少なくとも二つの静圧ポケット(91)が前述の方向に並べられて形成されていることにより、外力としてスライド軸(4)に作用する回転力に対抗する反対向きの回転力が油圧により常に発生するのでスライド軸(4)は回転に対しても中立位置を維持するような挙動をとり、その結果高い回転剛性を有する油静圧スライド装置が実現可能になる。
【0010】
本発明の第2の態様では、油静圧スライド装置は、スライド軸(4)と油静圧軸受(5)との間からの作動油の流出を防ぐシール部材(7)をさらに具備し、シール部材(7)は、スライド軸(4)が嵌挿する中心穴を形成し且つスライド軸(4)に固定される内周端部(72)と、油静圧軸受(5)に固定される外周端部(71)と、内周端部(72)と外周端部(71)との間に延在するベローズ部(73)とを具備し、ベローズ部(73)が縦軸線(AZ)の方向に弾性変形自在に形成されている。これにより、スライド軸(4)が多角形であっても、長寿命で比較的安価なシール構造が実現される。
【0011】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施の形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態による油静圧スライド装置について図面を参照して説明する。図1は、前記油静圧スライド装置1の外観斜視図であり、図2は縦断面図、図3は横断面図である。
【0013】
図1に示される実施形態の油静圧スライド装置1は、内歯車を有する円板状のワークWの前記内歯車部分を総形研削するための研削盤(図示せず)に用いられるものであり、研削盤のフレーム(図示せず)に固定されている。砥石2はワークWの内歯車を反転した形状の歯車状の総形砥石2であり先端側が先細になるようにテーパが付けられている。また、ワークWは研削盤の図示されないクランプ装置によって上下及び回転方向とも強固に固定されている。
【0014】
本実施形態の油静圧スライド装置1は、往復駆動源としての油圧サーボシリンダ3と、前記油圧サーボシリンダ3によって上下に往復駆動されるスライド軸4と、前記スライド軸4を油圧によって摺動可能に支持する油静圧軸受5とを具備している。スライド軸4は正方形断面を有する四角柱状の軸であり、その上端部に砥石2を固定するための円柱状の砥石固定軸6が螺合等により結合されている。油静圧軸受5は、略円柱状の外形を有しており、その下端部にフランジ部を有している。また、油静圧軸受5は、図1には示されないが作動油入口及び作動油出口をフランジ部に有しており、それら作動油入口及び作動油出口には図示されないが油ポンプ、弁、タンク等の機器が管路により接続されて油静圧軸受5内部の後述する給油路等と共に油静圧軸受用の油圧回路9を構成している。また油静圧軸受5の上部を封止して作動油の流出を防ぐために、油静圧軸受5の上端部にゴム製のベローズ型のシール部材7が備えられている。
【0015】
次に、図2及び図3も参照して油静圧スライド装置1についてより詳しく説明する。図2は、本装置の縦断面を示すものであるが、図3に示される切断線MNOPに相当する切断線による縦断面図である。図3は、油静圧軸受5の高さ方向のほぼ中央における平面断面図である。
【0016】
本実施形態における油圧サーボシリンダ3は、比較的高速短振幅の往復運動が可能なものであって、シリンダ本体31から上方へ突出するシリンダロッド32がスライド軸4の下端から下方へ延びるねじ部41に螺合により結合するので、スライド軸4を比較的高速短振幅で往復駆動することができる。また油圧サーボシリンダ3はシリンダ本体31のフランジ状の部分で油静圧軸受5の下端面に図示しないボルト等の締結手段によって結合されている。
【0017】
油静圧軸受5は、スライド軸4を支持すると共にフランジ部を有する支持体51と、支持体51の上部に連結されるシール外周端支持部材52と、このシール外周端支持部材52と協働してベローズ型のシール部材7の外周端部71を挟持するシール外周端固定部材53とを具備している。支持体51は研削盤のフレーム8に設けられた取付穴に嵌装され、フランジ部が図示されないボルト等によって研削盤のフレーム8に固定される。
【0018】
油静圧軸受5の支持体51は、その中心にスライド軸4を摺動可能に支持するための軸受穴54を有している。軸受穴54は、スライド軸4の正方形断面よりわずかに大きい正方形断面を有しており、スライド軸4との間には静圧軸受として機能するのに適した間隙Cが設けられている。また、軸受穴54の4つの内側面55にはそれぞれ2個ずつ、凹部である静圧ポケット91が設けられている。前記各内側面55に設けられた2個の静圧ポケット91は、軸受穴54の横断面の正方形の各辺に沿う方向に並んで配置されており、本実施形態では図3に示されるように正方形の二本の中心線Ax、Ayに関してそれぞれ軸対称に配置されている。各静圧ポケット91は細長い矩形状の横断面形状を有しており、その静圧ポケット91の底面の中心に油圧を供給するためのオリフィス92が設けられている。各オリフィス92はそれより外周側の拡大した水平給油路93に通じており、各水平給油路93は支持体51の外周面に形成された一つの共通の環状給油路94に接続されている。作動油入口95から水平に延びた後垂直に立ち上がる1本の入口給油路96が図3の右下に位置する一つの水平給油路93と環状給油路94に接続されている。
【0019】
油静圧軸受5の支持体51の軸受穴54には、さらに、静圧ポケット91の上方及び下方をそれぞれ環状に延びる上部作動油回収溝97u及び下部作動油回収溝97dが形成されている。上部及び下部作動油回収溝97u、97dには、作動油出口98から水平に延びた後上方に立ち上がっている一本の主回収路99が接続されている。その他に、上部作動油回収溝97uから支持体上端部空間56に通じる給油路及びスライド軸の下端側の軸受穴54から主回収路99に通じる給油路も設けられている。
【0020】
ゴム製のベローズ型のシール部材7は、円形の外周端部71と、スライド軸4の正方形断面に対応した正方形の中心穴を形成する内周端部72と、外周端部71と内周端部72との間に延在し波形の断面を有するベローズ部73とを有しており、このベローズ部73はスライド軸4の縦軸線Azの方向に弾性変形可能に形成されている。ベローズ型のシール部材7は、その外周端部71が油静圧軸受5のシール外周端支持部材52とシール外周端固定部材53によって挟持されて油静圧軸受5側に固定され、内周端部72は、スライド軸4を正方形の前記中心穴に通した状態で、スライド軸4に挿入されたシール内周端固定部材57及び図示しない固定ねじによってスライド軸4に固定される。また、ベローズ型のシール部材7のベローズ部73はスライド軸4の上下の変位に追随可能な弾性変形量を有するように形成されている。ベローズ型のシール部材7は、このように構成および配置されているので、スライド軸4の往復移動に追随する一方で、油静圧軸受5のシール外周端支持部材52の内周面とスライド軸4の外周面との間の支持体上端部空間56をシールしてそこからの作動油の流出を防ぐ。
【0021】
前述した、油静圧軸受5の支持体51と、研削盤のフレーム8との間、及び油圧サーボシリンダ3のシリンダ本体31との間、及びシール外周端支持部材52との間にはそれぞれOリング11、12、13が介装されて作動油の漏出が防がれている。
【0022】
次に、前記静圧ポケット91の作用について、図3と同様の横断面図であって、スライド軸4に、縦軸線Azまわりの回転力が作用した状態を示す図4も参照して説明する。まず、スライド軸4に回転力が作用しない場合は、図3で表されるように、スライド軸4の各外側面と軸受穴54の各内側面55との間の各間隙Cは、それらの間隙Cを満たす作動油の等しい圧力のために均等に維持され、その結果スライド軸4は回転することなくまた軸受穴54と同芯の配置を維持する。
【0023】
これに対して、スライド軸4に対して、例えば図4に示されるように左回りの回転力MLが外力として作用した場合、スライド軸4の横断面の正方形の例えば上辺が左下がりに傾斜して左端側の間隙CLが拡大し右端側の間隙CRが縮小する。その結果、例えば前記正方形の上辺の右側及び左側に配置された静圧ポケットをそれぞれ91a及び91bと付番すると、上辺の右側の静圧ポケット91aにおける作動油の静圧Paは増大する一方で、上辺の左側の静圧ポケット91bにおける作動油の静圧Pbは減少する。前記正方形の下辺、左辺、及び右辺の静圧ポケット91a及び91bについても上辺と同様であるので右回りの回転力MRがスライド軸に作用し、この右回りの油圧による回転力MRが外力の回転力MLによる左回りの回転変位をもとの中立位置に戻すように作用する。このように、軸受穴54の4つの内側面55にそれぞれ2個ずつ配置された静圧ポケット91により、スライド軸4に外力として作用した回転力に対して逆向きの回転力が常に発生するので、スライド軸4は常に中立位置を維持するような挙動を示す。
【0024】
(その他の実施形態)
前述の実施形態では、軸受穴54の各内側面55に2個の静圧ポケット91が設けられていたが、静圧ポケット91の数を増やすことも可能である。例えば、図3に示された静圧ポケット91の幅の半分以下の幅を有する小さな静圧ポケットを軸受穴54の各内側面55に4個配置してもよい。
【0025】
また、スライド軸4の横断面形状は、正方形に限定されるものではなく、例えば正三角形、長方形、正五角形、又は正六角形等の多角形でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態による油静圧スライド装置の外観斜視図である。
【図2】前記油静圧スライド装置の縦断面図である。
【図3】前記油静圧スライド装置の横断面図である。
【図4】前記油静圧スライド装置のスライド軸に作用する回転力を説明する油静圧スライド装置の横断面図である。
【符号の説明】
【0027】
2 砥石
3 油圧サーボシリンダ
4 スライド軸
5 油静圧軸受
7 シール部材
51 支持体
54 軸受穴
55 内側面
73 ベローズ部
91 静圧ポケット
92 オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復駆動源(3)と、
前記往復駆動源(3)によって往復駆動される、多角形横断面を有するスライド軸(4)と、
油圧によって前記スライド軸(4)を摺動可能に支持する油静圧軸受(5)と、を具備する油静圧スライド装置であって、
前記油静圧軸受(5)は前記スライド軸(4)が嵌挿される軸受穴(54)を備え、
前記油静圧軸受(5)の前記軸受穴(54)の複数の内側面(55)の各々が、前記スライド軸(4)の縦軸線(AZ)に対して垂直な方向に並べられて形成された少なくとも二つの静圧ポケット(91)を備えており、
前記静圧ポケット(91)の各々に油圧を供給するためのオリフィス(92)が設けられていることを特徴とする、油静圧スライド装置。
【請求項2】
前記スライド軸(4)と前記油静圧軸受(5)との間からの作動油の流出を防ぐシール部材(7)をさらに具備する請求項1に記載の油静圧スライド装置であって、
前記シール部材(7)は、前記スライド軸(4)が嵌挿する中心穴を形成し且つ前記スライド軸(4)に固定される内周端部(72)と、前記油静圧軸受(5)に固定される外周端部(71)と、前記内周端部(72)と前記外周端部(71)との間に延在するベローズ部(73)とを具備し、前記ベローズ部(73)が前記縦軸線(AZ)の方向に弾性変形自在に形成されている請求項1に記載の油静圧スライド装置。
【請求項3】
前記スライド軸(4)が正方形の横断面形状を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の油静圧スライド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−293707(P2009−293707A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148283(P2008−148283)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】