説明

治療因子を含むHDLおよび治療における使用

本発明は、医薬として使用するための、特にアテローム血栓症、虚血性疾患、COPDおよび神経変性疾患の処置のための、アンチプロテアーゼ、抗酸化因子、有糸分裂阻害因子、抗アポトーシス因子および鉄代謝に関与する因子から成る群から選択される因子を含むHDLを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本開示は、気腫を含めた多様な病状の処置に使用するためのネイティブなHDLおよび組換えられたHDLを提供する。
【0002】
発明の背景
高密度リポタンパク質(HDL)は、コレステロールおよびトリグリセリドのような脂質を輸送できるようにする、主要な5群のリポタンパク質(カイロミクロン、VLDL、IDL、LDL、HDL)の一つである。
【0003】
HDLは、無極性脂質であるトリアグリセロール(triaglycerol)およびコレステロールエステルのコアならびにリン脂質および非エステル化コレステロールの表面単層を有する形状の円板状である。いくつかのアポリポタンパク質がHDL中に存在する。主なアポリポタンパク質は、243個のアミノ酸残基から成る28kDa単鎖ポリペプチドであるアポリポタンパク質A−I(アポA−I)である(Jay H. Stein, Internal medicine, Edition 5, Elsevier Health Sciences, 1998; 2515 pages)。
【0004】
高密度リポタンパク質(HDL)の保護的役割は、いくつかの研究で確認されており、HDLおよびその主要タンパク質アポA−Iの血漿中レベルは、一貫してアテローム血栓リスクと逆相関する(BG Choi et al., The role of high-density lipoprotein cholesterol in atherothrombosis, Mt Sinai J Med. 2006 Jul; 73(4):690-701)。
【0005】
α1−アンチトリプシン(AAT)は、52kDの糖タンパク質である。その主機能は、好中球エラスターゼを阻害して組織損傷を防止することである。AAT欠乏は、閉塞性肺疾患および肝機能障害へとつながる。現時点で最も広く使用されている処置は、高度に精製されたヒトAATの静脈内注入である。静脈内増強療法は、安全であると実証されており、AATの週1回注入は、保護的であると見なされる濃度を超えた血漿AAT濃度を生じる。(RC Hubbard et al., Alpha-1 antitrypsin augmentation therapy for alpha-1 antitrypsin deficiency, Am J Med. 1988 Jun 24; 84(6A):52-62)。
【0006】
発明の概要
本発明者らは、HDLがアポリポタンパク質A−I以外の多数の因子を担持できることを示した。本発明者らは、また、HDLにAATが存在することを示し、HDLがエラスターゼ活性を阻害し、アポトーシスなどのその関連作用を阻止することを実証した。
【0007】
さらに本発明者らは、HDLに治療因子を強化し、HDLを特定器官に到達可能なベクターとして使用することができることを示した。
【0008】
本発明は、医薬として使用するための因子であって、アンチプロテアーゼ、抗酸化因子、有糸分裂阻害因子、鉄代謝に関与する因子および抗アポトーシス因子から成る群より選択される因子を含むHDLを提供する。
【0009】
本発明の一態様では、本発明によるHDLは、ネイティブなHDLである。本発明の別の態様では、本発明によるHDLは、再構成されたHDLである。
【0010】
本発明は、アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患、神経変性疾患、ガン、ステント内再狭窄、および内皮機能不全を伴う全ての病態の処置に使用するための、アンチプロテアーゼを含むHDLを提供する。
【0011】
本発明は、アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患、神経変性疾患、ガン、ステント内再狭窄、および内皮機能不全を伴う全ての病態の処置に使用するための、抗酸化因子を含むHDLを提供する。
【0012】
本発明は、ガンおよびステント内再狭窄の処置に使用するための、有糸分裂阻害因子を含むHDLを提供する。
【0013】
本発明は、アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患および神経変性疾患の処置に使用するための、鉄代謝に関与する因子を含むHDLを提供する。
【0014】
本発明は、アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患および内皮機能不全を伴う全ての病態の処置に使用するための、抗アポトーシス因子を含むHDLを提供する。
【0015】
発明の詳細な説明
本発明は、医薬として使用するための、アンチプロテアーゼ、抗酸化因子、有糸分裂阻害因子、鉄代謝に関与する因子および抗アポトーシス因子から成る群より選択される因子を含むHDLを提供する。HDLは、HDL粒子に対するその自然親和性が原因で、健康な被験者から単離されたHDLと結合することが報告されているタンパク質またはペプチドのためのベクターを意味しうる(Karlsson H et al. Lipoproteomics II: mapping of proteins in high-density lipoprotein using two-dimensional gel electrophoresis and mass spectrometry, Proteomics. 2005; 5(5):1431-45; T Vaisar et al., Shotgun proteomics implicates protease inhibition and complement activation in the anti-inflammatory properties of HDL, J Clin Invest. 2007; 117(3):746-56)。加えて、再構成されたHDLの場合、精製されたアポA−Iがホスファチジルコリンなどのリン脂質と混合される。この特定ステップの間に、HDLに対して自然親和性を示さないタンパク質、ペプチドまたは他の分子を、原始型粒子内に捕捉し、HDLによって強制的に担持させることができる(PC Rensen et al., recombinant lipoproteins: lipoprotein-like lipid particles for drug targeting, Adv Drug Deliv Rev. 2001 Apr 25; 47(2-3):251-76)。
【0016】
本明細書に使用されるような「HDL」という用語は、ネイティブなHDLまたは再構成されたHDLを包含する。
【0017】
典型的には、本発明によるHDLに含まれる因子は、親油性またはHDLを構成しているいくつかのタンパク質に対する親和性のいずれかを有する。または、その因子とHDLとの結合を向上させるように、その因子を化学的に改変することができる。
【0018】
本発明の一態様では、HDLはネイティブなHDLである。本明細書に使用されるような「ネイティブなHDL」という用語は、健康なヒトドナーから精製されたHDLを表す。典型的には、HDLは、二つの異なる方法:超遠心分離および免疫吸着(immunosorption)によって単離することができる。免疫吸着によるHDLの単離は、アポA−Iに対するヤギポリクローナル抗体をSepharoseビーズに架橋結合させることによって調製された抗アポA−Iカラムを使用して行われる。超遠心分離によるHDLの単離は、1.063〜1.210g/mlのKBr密度勾配間隔で古典的二段階超遠心分離することによって行われる。そのような方法を実施することは、技術者の能力の範囲内である。
【0019】
本発明の別の態様では、HDLは、再構成されたHDLである。本明細書に使用されるような「再構成されたHDL」、「rHDL」または「合成HDL」は、HDLの少なくとも1種のタンパク質、好ましくはアポA−Iと結合した1種または複数種の脂質から構成される、ネイティブなHDLに構造的に類似の粒子であって、HDLの公知の生理学的機能の全てを示す粒子を表す。典型的には、再構成されたHDLの構成成分は、血液から得ることができるか、またはリコンビナント技法によって製造することができる。
【0020】
典型的には、再構成されたHDLは、リン脂質へのアポA−Iの複合体形成によって調製することができる。再構成されたHDLを得るための方法は、EP 1 425 031および米国特許第5,652,339号に開示されている。
【0021】
典型的には、rHDLの調製に適した脂質は、リン脂質、好ましくはホスホチジル(phosphotidyl)コリン、例えば1−パルミトイル−2−リノレオイルホスファチジルコリン(PC)または1,2−ジパルミトイルPCである。場合により、rHDLは、他の脂質、例えばコレステロール、コレステロールエステル、トリグリセリド、または他の脂質を含有する。脂質は、合成、天然脂質またはその組合せでありうる。
【0022】
典型的には、ネイティブなHDLまたは再構成されたHDLは、2〜250、好ましくは10〜200、より好ましくは20〜100、より好ましくは20〜50、そして最も好ましくは30〜40のリン脂質/アポA−Iモル比を有する。
【0023】
さらにrHDLは、場合によりコレステロール、コレステロールエステル、トリグリセリドおよび/またはスフィンゴ脂質などの追加的な脂質を、好ましくは最大20の脂質/アポA−Iモル比で含有しうる。
【0024】
典型的には、本発明によるHDLは、注射によって、および/または例えば動脈内、腹腔内または好ましくは静脈内投与によって、所望の薬理効果を得るために十分な薬用量で投与することができる。
【0025】
典型的には、アンチプロテアーゼ、抗酸化因子、有糸分裂阻害因子、鉄代謝に関与する因子、および抗アポトーシス因子から成る群より選択される因子を本発明によるHDLにロードすることは、以下のように行うことができる:
− HDLを適切な濃度の該因子と共に静かに撹拌しながら37℃で適切な時間インキュベーションすること(該濃度および時間は、HDLに対するその因子の親和性に依存する);次に
− 密度の調整、KBr溶液および最終的に食塩溶液を用いたオーバーレイ後に超遠心分離すること;ならびに
− 該因子が強化されたHDLを収集し、食塩溶液に対して透析するか、または遠心装置を使用して濾過する。
【0026】
または、アンチプロテアーゼ、抗酸化因子、有糸分裂阻害因子、鉄代謝に関与する因子、および抗アポトーシス因子から成る群より選択される因子を本発明によるHDLにロードすることは、以下のように行うことができる:
− 該因子と共のHDLのインキュベーションを、37℃で適切な時間静かに撹拌しながら行い;そして
− カットオフ遠心装置を使用した濾過。遊離因子は通過画分に入り、一方で強化されたHDLは、上の区画に残る。
【0027】
当業者は、該ロードを実施するための条件を認識しているであろう。例えば、その因子がHDLに対して低い親和性を有するならば、HDLは、その因子がHDLに対して自然で高い親和性を有する場合よりも高い濃度の該因子と共により長い時間インキュベーションされよう。加えて、当業者は、上述の濾過を実施するために適切な分子量カットオフの遠心装置を選択可能である。
【0028】
典型的には、ネイティブなHDLの組成物中に自然に存在する因子をネイティブなHDLにロードすることにより、それらの該因子の自然含量を5〜20倍増加させることができる。そのようなロードは、本明細書下記に開示されるような様々な疾患の処置におけるHDLの有効性を顕著に向上させる。
【0029】
または、ネイティブなHDLに、その組成物中に自然には存在しない因子をロードすることができる。そのようなロードは、本発明のHDLに新しい性質を提供することから、本明細書下記に開示されるような様々な疾患の処置に有用である。
【0030】
典型的には、本発明によるHDLは、急性卒中時に再灌流のために行われる血栓摘除手技の間に動脈内注射によって投与することができる。血管内療法は、静脈内(IV)血栓溶解に不適当であるかまたは失敗した患者のための有望な代替となっている。(RG Nogueira, et al., Endovascular approaches to acute stroke, part 2: a comprehensive review of studies and trials, AJNR Am J Neuroradiol. 2009 May; 30(5):859-75 & M Mazighi, et al., Comparison of intravenous alteplase with a combined intravenous-endovascular approach in patients with stroke and confirmed arterial occlusion (RECANALISE study): a prospective cohort study, Lancet Neurol, 2009 Sep;8(9):802-9)。本発明によるHDLは、また、エアロゾルによって投与することができる。
【0031】
アンチプロテアーゼを含むHDL
本発明は、アンチプロテアーゼを含むHDLに関する。典型的には、該アンチプロテアーゼは:
− エラスターゼ阻害因子であるα−1アンチトリプシン(SERPINA1、セルピンペプチダーゼ阻害因子クレードA−IPI00305457、AAT);
− エラスターゼ阻害因子であるエラフィン(PI3:ペプチダーゼ阻害因子3);
− トロンビン、プラスミンおよびプラスミノーゲン活性化因子の阻害因子であるプロテアーゼ−ネキシン1;
− プラスミン阻害因子であるα−2−アンチプラスミン(IPI00029863);
− エラスターゼ、プロテイナーゼ3およびカテプシンGの阻害因子である単球/好中球エラスターゼ阻害因子(MNEI、セルピンB1);
− インター−α−トリプシン阻害因子(IPI00218192);
− 組織性マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害因子;ならびに
− α−1 アンチキモトリプシン
から成る群より選択される。
【0032】
本発明の一態様では、アンチプロテアーゼ/アポA−Iのモル比は、少なくとも0.1、好ましくは0.1〜200、好ましくは0.1〜100、より好ましくは1〜50、最も好ましくは10〜50である。
【0033】
特定の態様では、ネイティブなHDLは、それらのアンチプロテアーゼ自然含量が5〜20倍増加するなど、該アンチプロテアーゼが強化されている。
【0034】
アポA−Iおよびアンチプロテアーゼレベルの決定は、当業者の能力の範囲内である。典型的には、該レベルは、市販のELISAによって判定することができる。または、そして定性的な結果については、デンシトメトリー定量後に標準曲線を作成するために既知量のアポA−IおよびAATの両方を使用して、ウエスタンブロットによって両タンパク質を評価することができる。HDL強化後にアンチプロテアーゼ活性を有するペプチドおよびタンパク質が存在することは、質量分析によってもモニターすることができる。
【0035】
本発明の一態様では、アンチプロテアーゼを含むHDLは、慢性閉塞性肺疾患、特に気腫の処置に使用される。AATが気腫の処置に有用であることは、十分に確立されている。
【0036】
気腫は、解剖学に基づき、終末細気管支から遠位の気腔のサイズに正常範囲を超えた増加を引き起こす、肺における構造変化を特徴とする疾患として定義される。本発明者らは、その疾患の臨床症状が、HDLまたはα−1アンチトリプシン強化HDLを投与することにより肺中のAATレベルを増大させることによって予防可能であることを示した。α−1アンチトリプシンは、特に好中球エラスターゼ活性による、肺における肺胞のタンパク質分解性損傷からの保護に有用である。
【0037】
本発明者らは、単離されたヒトHDLに精製AATを強化してそれらのAAT自然含量を5〜20倍増加させることが可能であることを示した。AATの正常濃度は、1〜3g/Lの範囲であり、そのうち1%未満が循環HDLによって担持される。
【0038】
好ましくは、アンチプロテアーゼをロードされた、本発明によるHDL中のアンチプロテアーゼ/アポA−Iのモル比は、1〜200、好ましくは2〜100、最も好ましくは10〜50である。
【0039】
したがって、HDLへのα−1アンチトリプシンのロードは、より高いAAT濃度を提供し、慢性閉塞性肺疾患、特に気腫の処置における該HDLの有効性を向上させる。
【0040】
典型的には、HDLへのAATのロードは、以下のように行うことができる:
− 1mg/mLのHDLをAATと共に静かに撹拌しながら37℃で2時間インキュベーション;次に
− 適切な密度(ネイティブなHDLについて1.25)に調整ならびにKBr溶液および最終的に食塩溶液をオーバーレイ後に超遠心分離;ならびに
− AAT強化HDLを収集し、食塩溶液に対して透析するか、または5kDaカットオフの遠心装置を使用して濾過する。
【0041】
または、HDLのロードは、以下のように行うことができる:
− 1mg/mLのHDLをAATと共に静かに撹拌しながら37℃で2時間インキュベーション;および
− 100kDaカットオフの遠心装置を使用して濾過。遊離AATは通過画分に入り、一方で強化されたHDLは、上の区画に残る。
【0042】
本発明の別の態様では、アンチプロテアーゼを含むHDLは、虚血性疾患、特に卒中、一過性虚血障害および心筋梗塞の処置に使用される。本発明者らは、アンチプロテアーゼを含むHDLが虚血性疾患、特に卒中の処置に有用であることを示し、例示した。
【0043】
本発明のなお別の態様では、アンチプロテアーゼを含むHDLは、神経変性障害の処置に使用される。アンチプロテアーゼが神経変性障害の処置に有用であることは、周知である(S. Eriksson et al., Alpha1-antichymotrypsin regulates Alzheimer beta-amyloid peptide fibril formation, Proc. Natl. Acad. Sci. Vol 92, pp 2313-2317, 1995)。
【0044】
本発明のさらに別の態様では、アンチプロテアーゼを含むHDLは、アテローム血栓症、特に冠状動脈、頸動脈および末梢動脈疾患ならびに腹部大動脈瘤の処置に使用される。本発明者らは、エラスターゼ活性が増加しているアテローム血栓症の場合、HDLと結合しているAATが減少していることを示し、例示した。したがって、アンチプロテアーゼを含むHDLは、アテローム血栓症の処置に有用である。
【0045】
本発明のさらなる態様では、アンチプロテアーゼを含むHDLは、ガンの処置に使用される。アンチプロテアーゼがガンの処置に有用であることは、周知である。(Li W et al., Matrix metalloproteinase-26 is associated with estrogen-dependent malignancies and targets alpha-1 antitrypsin serpin Cancer Res. 2004 Dec 1;64(23):8657-65; Uetsuji S et al, Effect of aprotinin on metastasis of Lewis lung tumor in mice, Surg Today. 1992; 22(5):439-42)。最近の研究は、エラスターゼが、細胞内基質を分解して腫瘍成長の増大につながることが可能なことを報告している(AM Houghton et al., Neutrophil elastase-mediated degradation of IRS-1 accelerates lung tumor growth, Nat Med. 2010 Feb;16(2):219-23)。本発明者らは、HDLおよびアンチプロテアーゼ強化HDLが、平滑筋細胞および内皮細胞を含めた、異なる細胞型によって取り込まれ、細胞内にアンチプロテアーゼを運搬(vectorize)することが可能であることを示した。
【0046】
本発明のさらなる態様では、アンチプロテアーゼを含むHDLは、ステント内再狭窄の処置に使用される。アンチプロテアーゼは、ステント内再狭窄の処置に有用である(Andrade-Gordon P et al., Administration of a potent antagonist of protease-activated receptor-1 (PAR-1) attenuates vascular restenosis following balloon angioplasty in rats, J Pharmacol Exp Ther. 2001 Jul; 298(1):34-42)。
【0047】
なお別の態様では、アンチプロテアーゼを含むHDLは、敗血症、または心筋梗塞および卒中を含めた虚血/再灌流状態などの、内皮機能不全を伴う病態の処置に使用される。本発明者らは、ネイティブなHDLおよび再構成されたHDLが血液脳関門(BBB)に対して保護作用を提供することを実際に示し、例示した。
【0048】
本発明は、さらに、アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患、神経変性疾患、ガン、ステント内再狭窄、または内皮機能不全を伴う全ての病態を患う被験者を処置するための方法であって、アンチプロテアーゼを含むHDLの有効量を該対象に投与するステップを含む方法に関する。
【0049】
「HDLの有効量」によって、任意の医学的処置に適用可能な合理的な便益/リスク比で被験者を処置するために十分な量が意味される。しかしながら、HDLの合計1日使用量は、担当の医師によって健全な医学的判断の範囲内で決定されることが了解されている。それを必要とする任意の特定の被験者についての特異的治療有効用量レベルは、処置されている疾患または障害の病期ならびに特異的HDLの活性、被験者の年齢、体重、全身の健康状態、性別および食事、投与時間、投与経路、処置期間、その処置と組合せてまたは同時に使用される薬物を含めた多様な要因に依存する。
【0050】
抗酸化因子を含むHDL
本発明は、抗酸化因子を含むHDLに関する。典型的には、該抗酸化因子は:
− パラオキソナーゼ1、2または3(パラオキソナーゼ1、2または3は、細胞内酸化ストレスを抑制し、有機リン化合物を解毒させる);
− カタラーゼ(カタラーゼは、H解毒に関与する);
− ビタミンE(ビタミンEは親油性抗酸化因子である);
− エイコサペンタエン酸、EPA(C20:5)およびドコサヘキサエン酸、DHA(C22:6)などのω−3脂肪酸;
− ブチルヒドロキシトルエン;
− N−アセチルシステイン;
− リポタンパク質の酸化を阻害するレスベラトロールおよびヒドロキシチロソールなどのポリフェノール;
− 気腫の発生を予防する抗酸化酵素ファミリーであるチオレドキシン;
− その抗酸化活性により内皮を保護することが報告されているエストロゲン(例えば、エストラジオールは、内皮の一酸化窒素およびプロスタサイクリン生成を増強する);ならびに
− 赤ワインに含有されるポリフェノールなどの、抗酸化性およびアテローム産生抑制性を示す、エストロゲンレセプターαと結合可能な他の分子。
から成る群より選択される。
【0051】
本発明の一態様では、抗酸化因子/アポA−Iのモル比は、少なくとも0.1、好ましくは0.1〜200、好ましくは0.1〜100、より好ましくは1〜50、最も好ましくは10〜50である。
【0052】
特定の態様では、ネイティブなHDLは、それらの抗酸化因子自然含量が5〜20倍増加するなど、該抗酸化因子が強化されている。
【0053】
アポA−Iおよび抗酸化因子のレベルの決定は、当業者の能力の範囲内である。典型的には、アポA−Iのレベルは、市販のELISAによって判定することができる。抗酸化因子がタンパク質の場合、そのレベルは、市販のELISAによって判定することができる。抗酸化因子が脂質または別の種類の分子の場合、そのレベルは、質量分析によって判定することができる。または、抗酸化因子がタンパク質の場合、デンシトメトリー定量後に標準曲線を作成するために既知量のアポA−Iおよび抗酸化因子の両方を使用して、ウエスタンブロットによって両タンパク質を評価することができる。
【0054】
本発明の一態様では、抗酸化因子を含むHDLは、アテローム血栓症、特に冠状動脈、頸動脈および末梢動脈疾患ならびに腹部大動脈瘤の処置、ならびに虚血性疾患、特に卒中、一過性虚血障害および心筋梗塞の処置に使用される。酸化ストレスが血管機能障害およびアテローム血栓症のアテローム産生促進メカニズムに関与することは周知である(Z S Nedeljkovic et al., Mechanisms of oxidative stress and vascular dysfunction, Postgraduate Medical Journal 2003;79:195-200)。さらに、抗酸化因子は心保護作用を有する(N. Dhalla, A Elmoselhi, T Hata and N Makino, Status of myocardial antioxidants in ischemia-reperfusion injury, Cardiovascular Research 2000, 47(3):446-456)。したがって、抗酸化因子は、酸化ストレスを抑制することによってアテローム血栓症および虚血性疾患の処置に有用である。
【0055】
本発明の別の態様では、抗酸化因子を含むHDLは、慢性閉塞性肺疾患、特に気腫の処置に使用される。抗酸化因子が、慢性閉塞性肺疾患の処置、特に気腫の処置にも有用であることは、十分に立証されている(A Cantin et al., Oxidants, antioxidants and the pathogenesis of emphysema, Eur J Respir Dis Suppl., 1985;139:7-17)。
【0056】
本発明のさらなる態様では、抗酸化因子を含むHDLは、神経変性疾患の処置に使用される。抗酸化因子が神経変性障害の処置に有用であることは、周知である(B Moosmann et al., Antioxidants as treatment for neurodegenerative disorders, Expert Opinion on Investigational Drugs, October 2002, vol.11, No.10, pages 1407-1435)。
【0057】
本発明のさらに別の態様では、抗酸化因子を含むHDLは、ガンおよびステント内再狭窄の処置に使用される。抗酸化因子がガンの処置に有用であることは、十分に立証されている(Bardia A. et al, Anti-inflammatory drugs, antioxidants, and prostate cancer prevention, Curr Opin Pharmacol. 2009 Jun 30)。抗酸化因子がステント内再狭窄の処置に有用であることも、周知である。(JE Schneider et al., Probucol decreases neointimal formation in a swine model of coronary artery balloon injury: A possible role for antioxidants in restenosis, Circulation, Vol 88, 628-637)。
【0058】
なお別の態様では、抗酸化因子を含むHDLは、敗血症、または心筋梗塞および卒中を含めた虚血/再灌流状態などの内皮機能不全を伴う病態の処置に使用される。本発明者らは、ネイティブなHDLが血液脳関門(BBB)に対して保護作用を提供することを実際に示し、例示した。
【0059】
本発明は、さらに、アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患、神経変性疾患、ガン、ステント内再狭窄、または内皮機能不全を伴う全ての病態を患う被験者を処置するための方法であって、抗酸化因子を含むHDLの有効量を該被験者に投与するステップを含む方法に関する。
【0060】
有糸分裂阻害因子を含むHDL
本発明は、有糸分裂阻害因子を含むHDLに関する。典型的には、該有糸分裂阻害因子は、ラパマイシンとも名付けられたシロミルス(Siromilus)である。
【0061】
本発明の一態様では、有糸分裂阻害因子/アポA−Iのモル比は、少なくとも0.1、好ましくは0.1〜200、好ましくは0.1〜100、より好ましくは1〜50、最も好ましくは10〜50である。
【0062】
特定の態様では、ネイティブなHDLは、それらの有糸分裂阻害因子自然含量が5〜20倍増加するなど、該有糸分裂阻害因子が強化されている。
【0063】
アポA−Iおよび有糸分裂阻害因子のレベルの決定は、当業者の能力の範囲内である。典型的には、該レベルは、市販のELISAによって判定することができる。または、そして定性的な結果については、該レベルは、デンシトメトリー定量後に標準曲線を作成するために既知量の両タンパク質を使用して、ウエスタンブロットによって評価することができる。小分子による強化は、質量分析などの特異的方法によって評価すべきである。
【0064】
本発明の一態様では、有糸分裂阻害因子を含むHDLは、ガンおよびステント内再狭窄の処置に使用される。
【0065】
タンパク質キナーゼは、増殖、浸潤、血管新生および転移を含めた、腫瘍の全ての局面の主要なレギュレーターとして出現した。ラパマイシン(シロミルス)およびその誘導体は、下流キナーゼである哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)を阻害する。mTOR阻害因子は、リンパ球およびある種の腫瘍細胞系の成長および増殖を強力に抑制する。したがって、シロミルスは、ガンの処置に有用である。(J Dancey et al., Issues and progress with protein kinase inhibitors for cancer treatment, Nature Publishing Group, volume 2, April 2003, 293-313)。
【0066】
シロミルスは、その抗増殖性に加えて抗遊走性を有する。シロミルスは、冠状動脈および潜在的に末梢動脈にステント留置後に、内膜肥厚からの保護を提供する。したがってシロミルスは、再狭窄の発生率を減少させるために有用である。(S Marx et al., The Development of Rapamycin and Its Application to Stent Restenosis; Circulation, 2001; 104:852)。
【0067】
本発明は、さらに、ガンまたはステント再狭窄を患う被験者を処置するための方法であって、該被験者に有糸分裂阻害因子を含むHDLの有効量を投与するステップを含む方法に関する。
【0068】
鉄代謝に関与する因子を含むHDL
本発明は、鉄代謝に関与する因子を含むHDLに関する。典型的には、鉄代謝に関与する該因子は:
− マクロファージによる鉄取込みに関与するトランスフェリン;
− マクロファージによるヘモグロビン取込みに関与するハプトグロビン;および
− 鉄代謝に関与するヘプシジン
から成る群より選択される。
【0069】
本発明の一態様では、鉄代謝に関与する因子/アポA−Iのモル比は、少なくとも0.1、好ましくは0.1〜200、好ましくは0.1〜100、より好ましくは1〜50、最も好ましくは10〜50である。
【0070】
特定の態様では、ネイティブなHDLは、それらの鉄代謝に関与する因子の自然含量が5〜20倍増加するなど、該因子が強化されている。
【0071】
アポA−Iのレベルおよび鉄代謝に関与する因子のレベルの決定は、当業者の能力の範囲内である。典型的には、該レベルは、市販のELISAによって判定することができる。または、そして定性的な結果については、該レベルは、デンシトメトリー定量後に標準曲線を作成するために既知量の両タンパク質を使用して、ウエスタンブロットによって評価することができる。小分子による強化は、質量分析などの特異的方法によって評価すべきである。
【0072】
一態様では、鉄代謝に関与する因子を含むHDLは、アテローム血栓症、特に冠状動脈、頸動脈および末梢動脈疾患ならびに腹部大動脈瘤の処置に使用される。プラーク内出血がアテローム血栓プラークの易傷性の要因であることは、周知である。これには、酸化促進性の鉄を含有するヘモグロビンおよび結合したヘムの放出が含まれる。したがって、鉄代謝に関与する因子は、アテローム血栓症の処置に有用である(R.T. Calado et al., HFE gene mutations in coronary atherothrombotic disease, Braz J Med Biol Res. 2000 Mar; 33(3):301-6)。
【0073】
別の態様では、鉄代謝に関与する因子を含むHDLは、虚血性疾患、特に卒中、一過性虚血障害、および心筋梗塞の処置に使用される。トランスフェリンが急性卒中に保護的役割を果たすことは、周知である(C Altamura et al, Ceruloplasmin/Transferrin system is related to clinical status in acute stroke, Stroke. 2009 Apr; 40(4):1282-8. Epub 2009 Feb 19)。したがって、鉄代謝に関与する因子は、虚血性疾患の処置に有用である。
【0074】
なお別の態様では、鉄代謝に関与する因子を含むHDLは、慢性閉塞性肺疾患、特に気腫の処置に使用される。
【0075】
さらなる態様では、鉄代謝に関与する因子を含むHDLは、神経変性疾患の処置に使用される。鉄代謝がパーキンソン病およびアルツハイマー病などの神経変性障害に関与することは、立証されている(D Gerlach et al., Altered Brain Metabolism of Iron as a Cause of Neurodegenerative Diseases?, Volume 63 Issue 3, pages 793 - 807)。したがって、鉄代謝に関与する因子は、神経変性疾患の処置に有用である。
【0076】
本発明は、さらに、アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患または神経変性疾患を患う被験者を処置するための方法であって、該被験者に鉄代謝に関与する因子を含むHDLの有効量を投与するステップを含む方法に関する。
【0077】
抗アポトーシス因子を含むHDL
本発明は、抗アポトーシス因子を含むHDLに関する。
【0078】
典型的には、該抗アポトーシス因子は:
− 抗アポトーシス性であると報告された、細胞内膜においてスフィンゴミエリンの代謝から産生される生体活性脂質であるスフィンゴシン−1−リン酸(S1P)(Morales A, Fernandez-Checa JC Pharmacological modulation of sphingolipids and role in disease and cancer cell biology. Mini Rev Med Chem. 2007. 7(4):371-82);
− パラオキソナーゼ1および2;
− カタラーゼ;
− ω−3脂肪酸(アポトーシスをダウンレギュレーションし、そしてまた細胞生存を促進するω−3必須脂肪酸ファミリーのメンバーであってニューロプロテクチンD1前駆体であるドコサヘキサエン酸(DHA;22:6n−3)を含む)(Belayev L et al. Robust docosahexaenoic acid-mediated neuroprotection in a rat model of transient, focal cerebral ischemia. Stroke. 2009;40(9):3121-6);
− エイコサペンタエン酸由来の抗炎症性メディエータであるレゾルビン(Resolvin)E1(RvE1)(Keyes KT et al. Resolvin E1 protects the rat heart against reperfusion injury. Am J Physiol Heart Circ Physiol. 2010;299(1):H153-64);および
− HDLに自然に存在するクラスタリンまたはアポリポタンパク質J(Djeu JY, Wei S. Clusterin and chemoresistance Adv Cancer Res. 2009;105:77-92)
から成る群より選択される。
【0079】
好ましくは、該抗アポトーシス因子はS1Pである。HDL結合型S1Pは、血管弛緩、細胞生存、細胞接着性、血管新生、ならびに一酸化窒素(NO)およびプロスタサイクリン(PGI2)などの二つの強力な内因性アテローム産生抑制抗血栓分子の合成に及ぼすHDLの有益作用を担う(C Rodriguez et al. Sphingosine-1-phosphate: A bioactive lipid that confers high-density lipoprotein with vasculoprotection mediated by nitric oxide and prostacyclin. Thromb Haemost. 2009 Apr;101(4):665-73)。
【0080】
本発明の一態様では、抗アポトーシス因子/アポA−Iのモル比は、少なくとも0.1、好ましくは0.1〜400、好ましくは0.1〜200、より好ましくは1〜100、最も好ましくは10〜50である。
【0081】
アポA−Iレベルおよび抗アポトーシス因子レベルの決定は、当業者の能力の範囲内である。典型的には、アポA−Iレベルは、市販のELISAによって判定することができる。抗アポトーシス因子がタンパク質の場合、そのレベルは、市販のELISAによって判定することができる。抗アポトーシス因子が脂質または別の小分子の場合、そのレベルは、質量分析によって判定することができる。または、抗アポトーシス因子がタンパク質の場合、デンシトメトリー定量後に標準曲線を作成するために既知量のアポA−Iおよび抗アポトーシス因子の両方を使用して、ウエスタンブロットによって両タンパク質を評価することができる。
【0082】
特定の態様では、ネイティブなHDLは、それらの抗アポトーシス因子自然含量が5〜20倍増加するなど、ネイティブなHDLの組成物中に自然に存在する該因子が強化されている。
【0083】
別の態様では、ネイティブなHDLは、抗アポトーシス因子/アポA−Iのモル比を10〜200倍増加させるように、ネイティブなHDLの組成物中に自然には存在しない抗アポトーシス因子が強化されている。
【0084】
一態様では、抗アポトーシス因子を含むHDLは、アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患および内皮機能不全を伴う全ての病態の処置に使用される。
【0085】
本発明は、さらに、アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患または内皮機能不全を伴う全ての病態を患う被験者を処置するための方法であって、該被験者に抗アポトーシス因子を含むHDLの有効量を投与するステップを含む方法に関する。
【0086】
以下において、以下の実施例および図面により本発明を例示する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】超遠心分離により単離されたHDLがα−1アンチトリプシンを含有することを示す図である。(A)ヒト血漿由来HDLおよびLDLは、KBr勾配密度をかけた二段階超遠心分離によって単離した。α−1アンチトリプシン(AAT、200ng)抗体およびα−2−アンチプラスミン(aAP、100ng)抗体を用いて4個の異なるバッチのリポタンパク質(5μg)を免疫ブロッティングした。HDLは、AATを含有したが、αAPを含有しなかった。(B)100μgのHDLおよびLDLを100μgのAATと共に200μLの合計体積で静かに振盪しながら37℃一晩(16時間)インキュベーションした。次に、両方のリポタンパク質を超遠心分離によって単離し、それぞれ1μgをAATおよびアポA−Iに対するウエスタンブロット分析のためにロードした。結果は、3回の独立した実験の代表である。(C)超遠心分離によって単離されたHDL画分およびHDL画分を銀染色するか(上欄)または抗AAT抗体を用いてウエスタンブロット分析に供するか(下欄)のいずれかとした。表示されたゲルは、4回の独立した実験の代表である。
【図2】LDLではなくHDLが、アンチエラスターゼ活性を表すことを示す図である。(A)50μg/mL HDL(4個の異なるバッチ)またはLDL(3個の異なるバッチ)の存在下または不在下で白血球エラスターゼ(10nM)を発色性基質(MeO−Suc−Ala−Ala−Pro−Val−pNa)と共にインキュベーションした。AAT(10nM)をエラスターゼ阻害の陽性対照として使用した。加水分解速度(mOD/min)のデータは、三つ組で行われた4回の実験の平均±SDである(、エラスターゼ単独に比べてP<0.01)。(B)プラスミン活性は、HDLまたはLDL(50μg/mL)と共のインキュベーションによって影響されない。Val−Phe−Lysペプチド(VFK)をプラスミン阻害因子として使用した。
【図3】HDLは、白血球エラスターゼによって誘導されたアノイキスを阻害することを示す図である。(A〜C)培養ヒトVSMCの顕微鏡写真。(A)未処置対照細胞。(B)エラスターゼ(10nM)単独によって16時間処置されたVSMC、または(C)50μg/mL HDL存在下で処置されたVSMC。(D)HDLと共のインキュベーションは、白血球エラスターゼによるフィブロネクチン分解を防止する。細胞培養上清中のフィブロネクチンを検出する代表的なウエスタンブロット。(E)生存接着VSMCを、エラスターゼ(10nM)による処理後にMTT試験を用いることによって定量した。結果を未処置対照細胞の率として表現する。各カラムは、三つ組で行われた4回の別々の実験の平均±SDを表す(、エラスターゼに比べてP≦0.005)。(F)それぞれ4人および3人の異なる被験者から100μg/mLのHDLまたはLDLの存在下または不在下でAAA管腔内血栓の管腔層によって24時間馴化された培地と共にインキュベーションされた細胞におけるアポトーシスの定量。結果を未処置細胞に対する率として表現する(対照吸光度:0.082±0.028nm)。各欄は、5人の異なる患者由来のAAA管腔内血栓によって馴化された培地を用いて二つ組で行われた2回の別々の実験の平均±SDを表す(、HDLなしの処理に比べてP<0.05)。(G)ヒト胸動脈内膜を10nMエラスターゼ±50μg/mL HDLまたはLDLと共に24時間インキュベーション後の、Apostain(登録商標)によるアポトーシス核の検出(陽性の核は褐色に見える)。
【図4】細胞内HDLが、エラスターゼによって誘導されるアポトーシスを防止することを示す図である。(A)MTT試験。100μg/mLのHDLを4および16時間予備インキュベーションし、次に細胞をすすいでから、10nMエラスターゼと共に16時間インキュベーションした。値は平均±SDである(、エラスターゼ単独に比べてp<0.005)。(B)100μg/mL HDL(HDLは、DI−C18カルボシアニンでラベルされている)をVSMCと共に8時間インキュベーションし、DAPIで対比染色し、落射蛍光顕微鏡下で観察した。(C)50μg/mL HDLと共に4時間インキュベーション後に、アポ−AIおよびAATについて二重免疫染色を行った。共焦点顕微鏡法によって観察を行った(アポ−AI−緑、AAT−赤、共局在は黄色)。
【図5】AAAを有する患者が、エラスターゼ活性に関連してより少ないαATを保有することを示す図である。(A)ELISAによって測定されたアポA−Iレベルは、対照被験者(n=23)に比べてAAAを有する患者(n=13)の血漿中で有意に減少している。データは、平均±SDである(、健康対照に比べてP<0.0001)。(B)各被験者から個別に単離されたHDLをAATの検出用に免疫ブロッティングした。バンドのデンシトメトリー分析によって得られた値を、HDL−アポA−I濃度に対して基準化した。6人の患者および6人の対照のHDLを示す、代表的なウエスタンブロット(分析した43試料の合計からの結果を任意の単位/μg/μL(アポA−IのμL)で表現する。、対照に比べてp<0.0001)。(C)HDLのアンチエラスターゼ活性を判定するために、白血球エラスターゼ(10nM)をHDLと共にインキュベーションした。結果を(mOD/min)/μg/mLアポ−A1で表現する。エラスターゼ阻害能は、AAAを有する患者由来のHDLにおいて有意に減少している(、対照群に比べてP<0.0001)。(D)白血球エラスターゼを健康対照およびAAA患者由来の希釈血漿(1:1000)と共にインキュベーションすることによって血漿アンチエラスターゼ活性をin vitroで試験した。結果をmOD/minで表現する。
【図6】AATおよびアポリポタンパク質A−Iのウエスタンブロット検出を示す図である。異なる量のAATおよび5または20μgのHDLをSDS−ポリアクリルアミドゲル(0.1〜1μg)にロードした。還元条件下で泳動後に、ゲルをニトロセルロース膜に転写(transblot)し、抗AAT抗体および抗アポAI抗体と共に古典的手順のウエスタンブロットを用いた)。
【図7】エラスターゼを点滴注入され、次に最初の1週間に食塩水、AAT(3.5mg/kg)、HDLまたはHDL−AAT(75mg/kg)を4回注射されたマウスからの左肺の長軸矢状断(5μm)へのヘマトキシリン/エオシン染色を示す図である(左)。気腫発生の半定量(右)。
【図8】卒中の急性期におけるHDL療法の効果を示す図である。卒中開始の24時間後のTTC染色を使用した脳梗塞の測定。梗塞は、赤色の正常脳の背景に白色に見える。図A:ビヒクルによって処置されたラット。図B:卒中開始後にHDL注入(10mgKg)によって処置されたラット。
【図9】代表的なゼラチンザイモグラムを示す図である。プロMMP9/MMP9およびMMP2活性は、卒中開始の24時間後に非梗塞領域(C)に比べて梗塞領域(I)で増加している。HDL注入は、梗塞領域におけるプロMMP9/MMP9活性化の顕著な減少と関連する。Ref.:プロMMP2/9および活性型MMP2/9を含有する参照。C−V:ビヒクル群からの虚血と対側の半球。I−V:ビヒクル群からの梗塞領域。C−HDLV:HDL群からの虚血と対側の半球。I−HDL:HDL群からの梗塞領域。
【図10】正常または虚血条件下の血液脳関門(BBB)の透過性に及ぼすエラスターゼおよび好中球の作用を示す図である。精製されたエラスターゼおよび好中球は、虚血条件下でのみBBBの透過性増加を誘導した。HDL(ヒト血漿から精製)は、BBB透過性におけるこのプロテアーゼ介在性増加を有意に阻害することができた。
【図11】HDLのAAT強化を示す、SDS−PAGE後の硝酸銀染色を示す図である。
【図12】卒中を患うラットにおけるリコンビナント組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)を用いた処置後のHDLの静脈内注射の保護作用を示す図である。A:食塩水投与、リコンビナント組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)、およびHDLと一緒のrtPAで処置されたラットにおける梗塞体積(対側の半球に対する%)の測定。B:食塩水投与、リコンビナント組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)、およびHDLと一緒のrtPAで処置されたラットにおける出血の存在の肉眼的評価。
【0088】
実施例
実施例1: HDLのアンチエラスターゼ活性は、平滑筋細胞アノイキスを防止する(新しいアテローム産生抑制性)
プロテオームアプローチを使用した様々な研究は、HDLがその構成的アポリポタンパク質A−I以外の多数のタンパク質を担持しうることを示している。質量分析およびウエスタンブロットを使用して、本発明者らは、超遠心分離または抗アポA−Iカラムを使用した選択的アフィニティー免疫吸着のいずれかによって単離されたHDL中にα−1アンチトリプシン(SERPINA1、セルピンペプチダーゼ阻害因子クレードA、「AAT」、エラスターゼ阻害因子)が存在することを示した。さらに、本発明者らは、HDLが強力なアンチエラスターゼ活性を有することを報告する。本発明者らは、また、LDLではなくHDLだけがAATと結合可能であることを示した。HDLと結合したAATは、ヒト血管平滑筋細胞(VSMC)およびex-vivoで培養された哺乳類動脈においてエラスターゼによって誘導される細胞外マトリックスの分解、細胞剥離およびアポトーシスを阻害可能であった。細胞周囲のタンパク質分解のマーカーとして使用されるエラスターゼによるフィブロネクチンの分解は、HDLの添加によって防止された。腹部大動脈瘤(AAA)血栓試料中に存在するエラスターゼは、培養VSMCのアポトーシスを誘導することも可能であった。この現象は、LDLではなく、HDLの添加によって防止された。最終的に、本発明者らは、AAAを有する患者から単離されたHDL中のAATの比が、マッチした対照からの比よりも減少していることを報告するが、これは、これらの患者においてHDLがエラスターゼを阻害する能力が減少していることを示している。結論として、本発明者らは、AATおよびそのアンチエラスターゼ活性に起因しうるHDLの新しい潜在的アテローム産生抑制性の証拠を提供する。
【0089】
HDL−コレステロールおよびその主要タンパク質であるアポA−Iの血漿中レベルは、観察研究において一貫してアテローム血栓リスクと逆相関している。HDLの有益作用は、抗酸化作用、抗炎症作用または抗血栓作用などの他のアテローム産生抑制性が十分に実証されているにもかかわらず、主としてコレステロールの逆輸送に起因するとされている。健康被験者からのHDLに対するプロテオームアプローチを用いたいくつかの研究によって、HDLおよびHDL画分中にα−1アンチトリプシンが確認された。このセリンプロテアーゼ阻害因子は、好中球エラスターゼの天然循環阻害因子である。本発明者らは、アテローム血栓病変および循環白血球エラスターゼ−α−1アンチトリプシン複合体中に存在するこのプロテアーゼが、頸動脈狭窄ならびに心筋梗塞および卒中のリスクと相関したことを示した。加えて本発明者らは、腹部大動脈瘤の管腔内血栓中に存在する好中球エラスターゼが、動脈壁平滑筋細胞の消失およびその後の治癒不在に中心的な役割を果たすことを示した。病的動脈壁中に存在し、細胞外マトリックス分解に続いてアポトーシスを誘導可能であると報告されたプロテアーゼのうち、エラスターゼは、最も強力なもの一つである。多形核好中球(PMN)は、腹部大動脈瘤またはプラーク内出血のいずれかにおいて血栓が形成する間に捕捉されると活性化する循環白血球の主要クラスを表し、破綻に向けたアテローム硬化性プラーク発展の推進力として最近記載された。PMNの脱顆粒は、細胞外区画におけるエラスターゼの放出へとつながり、エラスチン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、ビトロネクチンなどの多数の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質を分解可能である。細胞外マトリックスのタンパク質分解は、機械抵抗を減少させることによって直接的に、および正常には生存シグナルを伝達する細胞−ECM接触の破壊に続いて血管細胞のアポトーシスを誘導することによって間接的に、動脈壁を直接不安定化する。本研究において本発明者は、天然エラスターゼ阻害因子であるα−1アンチトリプシン(SERPINA1、セルピンペプチダーゼ阻害因子クレードA、「AAT」)が、HDLおよびHDLと結合していること、ならびにそれによりHDLがエラスターゼ活性と、ECM分解および平滑筋細胞アノイキスなどのin situ有害作用とを阻害することを示した。第二部では、本発明者らは、AAAを有するまたは有さない患者の血漿中のHDLおよびAAT−HDLレベルを判定した。したがって、本発明者らは、本明細書においてHDLのアテローム産生抑制能の原因となりうるHDLの新しい機能、すなわち動脈壁安定化に有利になる可能性のあるアンチエラスターゼ活性を記載する。
【0090】
材料および方法
反応物および細胞培養
ヒト好中球エラスターゼおよびα−1アンチトリプシンは、Calbiochem製であった。ヒト大動脈血管平滑筋細胞(VSMC、Promocell製)を、10%ウシ胎児血清を含有する培地(Promocell SM2)中で培養した。
【0091】
リポタンパク質の単離
EDTA上に採取された健康志願者の血漿から二つの異なる方法:超遠心分離および選択的アフィニティー免疫吸着によってリポタンパク質を単離した。免疫吸着によるHDLの単離を行った。簡潔には、アポA−Iに対するウサギポリクローナル抗体をSepharoseビーズに架橋結合させることによって抗アポA−Iカラムを準備した。抗体を有さない模擬カラムおよび無関係な免疫グロブリンG(Innovative research)を使用してIgGカラムを同条件で準備した。健康被験者由来の血漿(非喫煙者、年齢>50歳、インフォームドコンセントを得る)をアポA−I、疑似またはIgG Sepharoseビーズと共に(12.5mLビーズに対してEDTA−血漿1mL)静かに振盪しながら4℃で一晩インキュベーションした。次に、0.5M濃度に達するように追加的なNaClを含有する5容の食塩水(0.9% NaCl、1mM EDTA、0.025% NaN3)でカラムを3回すすいだ。食塩水で最後に洗浄した後に、0.2M酢酸、0.15M NaCl(pH3)を含有する溶液でカラムを溶出し、トリス塩基で直ちにpH7.9に緩衝化した。次に、食塩水−EDTAでHDLを徹底的にすすぎ、遠心濃縮装置(カットオフ5kDa、Vivascience)を使用して濃縮した。または、血漿密度をKBrでd=1.063に調整し、KBr食塩水溶液(d=1.063)をオーバーレイした。超遠心分離を100,000g、10℃で20時間行った。LDLを含有する上のリポタンパク質画分をKBrで密度1.25g/mLに調整し、次に食塩水(d=1.006)をオーバーレイしてから、100,000g、10℃で20時間超遠心分離した。このステップの後に、LDL画分(橙色の層)を単一バンドとして回収し、遠心濾過装置を使用した3回の洗浄ステップによってKBrを除去した。最初の超遠心分離から生じ、HDLを含有する下の画分の密度をKBrで1.25g/mLに調整し、食塩水/KBr溶液(d=1.21)をオーバーレイした。2回目の超遠心分離および続く洗浄ステップは、HDL画分がチューブの最上層となることを除き、LDLと同様である。記載した場合、HDLおよびHDLは別々に収集した。全ての画分は、生理食塩水で透析すること、または遠心分離を行い食塩水で3回洗浄することのいずれかによって脱塩した。
【0092】
2D非変性電気泳動
正常リポタンパク質のヒト血漿から抗AI免疫吸着カラムクロマトグラフィーによってアポA−I含有リポタンパク質(LpAI)を精製した。抗HSAおよびプロテインAセファロースカラムを通過させることによって、残留する血清アルブミンおよび免疫グロブリンを除去した。二次元アガロース×PAG非変性電気泳動によってLpAI画分を分析した。0.062Mトリス、0.027Mトリシン、0.005M乳酸カルシウム(pH8.3)中に調製した0.8%アガロース(w/v)(Bio-Rad、カタログ番号162-0126)の中で15V/cmの電場強度でLpAIを電気泳動した。PAGの直線勾配(0〜30% T)をかけた第二の方向にアガロース片を平衡になるまで5℃で電気泳動した(3000V-h)。タンパク質混合物を使用して二次元PAG(ストークス直径)を較正した。その混合物には:卵アルブミン(6.0nm)、ウシ血清アルブミン(7.1nm)、乳酸デヒドロゲナーゼ(8.1nm)、カタラーゼ(10.4nm)、フェリチン(12.2nm)、チログロブリン(17.0nm)、低密度リポタンパク質(d=1.030〜1.050g/ml、25nm)が含まれた。
【0093】
2DNゲルによって分離されたHDL種の質量分析
トリプシン(Promegaカタログ番号V5111)を用いたゲル内消化によって、2D PAGによって分離されたタンパク質を質量分析用に調製した。Ultimate HPLCシステム(Dionex)を使用する逆相クロマトグラフィーによってペプチドを分離した。C18 Pepmap100カラム(75um ID×15cm)を採用して2〜30%アセトニトリル/0.1%ギ酸の勾配を38分間かけ、続いてさらに2分間かけて50%アセトニトリル/0.1%ギ酸まで増加させた。溶出して来るペプチドをLTQ-Orbitrap(Thermo)に導入した。そこで以前にフラグメンテーションされた構成成分の動的排除(dynamic exclusion)を採用して、各サーベイスキャンで観察された6種の最も存在度の高い構成成分をデータ依存取得を用いてフラグメンテーションした。Mascot Distiller v2.1.1.0を使用して生データをピークリストに変換し、次にProtein Prospector v5.0(http://prospector2.ucsf.edu)を用いてデータベースのヒトのエントリーと照らし合わせて解析した。そのデータベースは、2007年12月4日にダウンロードされたUniprotデータベースから成り、そのデータベースの終わりに配列シャッフル/ランダム化されたデコイバージョンが連結され、合計152244個のエントリーが検索された。連結されたデータベースは、ペプチドの偽陽性率の推定を可能にした。検索パラメーターは、最大1個の切断ミスのトリプシン切断特異性、20ppm以内のプリカーサー質量確度および0.6Da以内のフラグメント質量確度を必要とした。システインのカルバミドメチル化を、定常改変として検索し、メチオニン酸化、ペプチドN−末端グルタミンからのピログルタミン酸形成、およびタンパク質のN−末端アセチル化を可変改変として考慮した。受容基準は、最小ペプチドスコア15、最小タンパク質スコア22および最大期待値0.1であった。分析された全てのスポットについて、これらの閾値を超えて報告された合計1998種のペプチドがあり、それらには、データベースのデコイ部分との3個のマッチが含まれた。したがって、このデータセットに関する同定のペプチド偽陽性率は、約0.3%((3×2)/1998)である。
【0094】
2DNゲルに関するウエスタンブロット
免疫ブロットについて、検量用タンパク質をビオチン化した(Bio-Rad、カタログ番号170-6529)。分離されたタンパク質をニトロセルロース膜(0.2μm, Bio-Rad、カタログ番号162-0212)上に電気泳動的に移動させた(55V、18h、10℃)。非特異的結合をカゼイン(25mg/ml、0.02Mトリス、pH8.5)でブロッキングした。アポA−Iに対する抗体(注文生産されたヤギポリクローナル抗体)およびα−1アンチトリプシンに対する抗体(Calbiochem、マウスモノクローナル抗体、カタログ番号178260)で膜を探索し、結合した抗体をビオチン化二次抗体であるアビジン−ビオチン−ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート(Pierce Chemical Co、カタログ番号1852410)、および0.10Mイミダゾール(pH7.0)への3,3’−ジアミノベンジジン(0.05%、w/v)/塩化ニッケル(2.5mM)/H2O2(0.05%、v/v)を使用して明らかにした。
【0095】
SDS−PAGE後のウエスタンブロット分析
それぞれ4個および3個の異なる調製物からのHDLおよびLDL(5μg)をSDS−12% PAGEによって分離した。電気泳動後に、タンパク質をニトロセルロース膜上に移動させ、TBS−T(トリス緩衝食塩水、pH7.4、0.1% Tween20)への5%粉乳でブロッキングし、次にウサギポリクローナル抗α−2−アンチプラスミン(α2AP)(1:1000希釈、Calbiochem)またはウサギポリクローナル抗AAT(1:1000希釈、Dako)のいずれかと、ペルオキシダーゼコンジュゲート型二次抗体(1:2500希釈、Jackson Immunoresearch laboratories)とを用いて探索した。精製AAT(200ng、Calbiochem)およびα2AP(100ng、Calbiochem)を対照として使用した。細胞培養上清中のフィブロネクチンフラグメントを検出するために、馴化培地5μLをSDS−8%PAGEによって分析した。次に、転写された膜を、ウサギポリクローナル抗ヒトフィブロネクチン(1:1000希釈、Sigma製)を用いて探索した。全ての場合に、適切なペルオキシダーゼコンジュゲート型二次抗体を使用し(1:2500希釈、Jackson Immunoresearch laboratories)、続いてECL検出した。較正されたスキャナー(GS800 Bio-Rad)を使用してデンシトメトリー分析を行った。
【0096】
エラスターゼおよびプラスミン活性の決定
ヒト好中球エラスターゼ(10nM, Calbiochem)をPBS(終体積100μl)中で1.5mMのエラスターゼ発色性基質MeO−Suc−Ala−Ala−Pro−Val−pNa(Calbiochem)と共にインキュベーションした。プラスミン(10nM, American Diagnostica)を50mMリン酸緩衝液(pH7.4)、80mM NaCl中で0.75mMの選択的プラスミン発色性基質CBS0065(Diagnostica Stago, Asnieres, France)と共にインキュベーションした(終体積100μl)。AAT(40nM)、d−バニル−l−フェニルアラニル−l−リシンクロロメチルケトン(10μM, VFK, Calbiochem)(プラスミンの選択的不可逆阻害剤)、HDL(50μgまたは用量反応実験については1〜4.5μg)およびLDL(50μg)をエラスターゼまたはプラスミンと共に室温で15分間予備インキュベーションしてから基質を添加した。ヒト血漿(1:1000希釈)または患者由来のHDL(1:4希釈)を10nMエラスターゼの存在下で同条件でインキュベーションした。405nmおよび490nmでの分光測定によって基質加水分解を37℃で2時間モニターした。HDLアンチエラスターゼ活性をHDL−アポA−Iの量に対して基準化した。
【0097】
細胞剥離アッセイおよびアポトーシス
ヒトVSMCを12ウェルプレート中で集密になるまで成長させ、血清を24時間欠乏させてから刺激した。次に、VSMCを10nMエラスターゼ(Calbiochem)またはヒトAAAの管腔内血栓で馴化した培地(1:5希釈)と共に、HDLおよびLDL(100μg/ml)の存在下または不在下で16時間インキュベーションした。実験の終わりに、細胞上清を吸引し、3.000gで5分間遠心分離し、ウエスタンブロットによりフィブロネクチンタンパク質分解フラグメントについて分析した。残りの生存接着細胞をPBSで洗浄し、記載のようにMTT試験(3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を用いて判定した。または、測光酵素イムノアッセイ(Cell death detection ELISAPLUS, Roche)を製造業者の説明書に従って用いてヒストン関連DNAフラグメントの定量によってアポトーシスを決定した。トリプシン化細胞にトリパンブルー排除試験を行うことによって、残りの接着細胞の95%が膜透過化を示さなかったことを確認した。
【0098】
アポトーシスのin situ検出
ヒト胸動脈は、Bichat病院(Paris, France)で心臓手術を受けている患者から得た。これらの組織は、フランス倫理法およびINSERM倫理委員会により外科廃棄物として見なされる。外膜の除去によって得られた胸動脈の等しい区域(5mmの輪)を、無血清RPMI中でHDLまたはLDL(それぞれ0.2mg/mL)の存在下または不在下で10nMエラスターゼと共にまたはなしに37℃(5% CO2)で24時間インキュベーションした。胸終動脈をエラスターゼと共にインキュベーション後に、組織を3.7%パラホルムアルデヒド中で固定し、パラフィン中に包埋した。アポトーシスのin situマーカーとして1本鎖DNAに対するモノクローナル抗体(Apostain, Alexis)を使用して、厚さ5μmの切片に免疫組織化学検査を行った。
【0099】
AAA由来馴化培地の調製
RESAAプロトコール(REflet Sanguin de l'evolutivite des Anevrysmes de l'Aorte abdominale)に登録された手術を受けている患者から腹部大動脈瘤試料(AAA)を得た。全ての患者から書面にてインフォームドコンセントを得て、そのプロトコールはフランス倫理委員会(CCPPRB, Cochin Hospital)によって承認された。手術の間に採取されたAAA管腔内血栓を1M酢酸緩衝液(pH4.5)(2mL/g湿組織)と共に室温で2時間インキュベーションした。次に、エラスターゼを含有する抽出物を、培養アッセイのために以前に記載されたようにリン酸緩衝食塩水(PBS)で透析した。
【0100】
カルボシアニンを用いたHDLラベル化
HDLを10μL/mL DiIC18カルボシアニン(Molecular Probes)と共に静かに振盪しながら37℃で一晩インキュベーションし、次に上記のように超遠心分離によって分離した。VSMCを100μg/mLラベル化HDLと共に8時間インキュベーションした。PBSで3回洗浄後に、細胞をDAPI(0.5μg/mL、10分間)で対比染色し、落射蛍光顕微鏡下で視覚化した。
【0101】
免疫細胞蛍光
共焦点顕微鏡検査:ヒトVSMCをLabtekスライド上に蒔き、50μg/mL HDLと共に4時間インキュベーションした。次に、このスライドをPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、PSB−BSA 4%に入れてブロッキングし、1:50希釈のヤギ抗α−1アンチトリプシン抗体および抗アポAI(Calbiochem)と共にインキュベーションした。次に、1:200希釈された適切なフルオレセイン5−イソチオシアネート(FITC)またはテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)ラベル化二次Ab(Sigma)と共に、スライドを1時間インキュベーションした。
【0102】
Amethystコホート
AMETHYST(動脈瘤メタロプロテイナーゼおよび高血圧の研究)は、1ヶ月以内に血管内修復を予定された無症候性AAA(5cmよりも大きな大動脈直径を有する)の患者のコホートが参加している、Insermによって推進された進行中の研究である。これらの患者の年齢、性別を健康志願者とマッチさせた。全ての研究参加者からインフォームドコンセントを得た。研究は、倫理委員会によって承認された(Cochin Hospital Comite de Protection des Personnes se Pretant a la Recherche Biomedicale、承認番号1930 & 1931)。
【0103】
患者についての排除基準は、ガン、感染症、および任意の免疫介在疾患であった。予冷したEDTAチューブに最小限の血行静止で末梢血を標準条件(10分間安静にした絶食中の被験者、午前8から10時の間)で採血した。収集から30分以内に2回の遠心分離(2500rpm、15min、12℃および2500rpm、15min、4℃)を行って血球から血漿を分離した。使用まで血漿試料を−80℃で保存した。
【0104】
アポA−I濃度の決定
アポリポタンパク質A−I濃度は、Mabtech AB(Nacka Strand, Sweden)製ELISA試験を使用して製造業者の説明書に従って決定した。
【0105】
統計解析
GraphPAD InStat(GraphPAD Software)で統計解析を行った。AAAと年齢性別がマッチした対照との比較に関して、統計解析の間に、喫煙習慣についてのさらなる調整を行ったが、喫煙を調整していない比較の結果と変わらなかった。全ての実験を少なくとも3回行った。結果を平均±SDとして表現し、ANOVAによって解析した(p<0.05の場合に差が有意であると見なした)。
【0106】
結果
LDLではなくHDLはα−1アンチトリプシンを含有する
本発明者らは、リポタンパク質のディファレンシャルな浮遊性を利用して、Karlssonらによって用いられた技法に類似する、KBrを用いた二段階超遠心分離技法によりHDLを単離し、プロテオームアプローチによってHDL中からα−1アンチトリプシン(AAT)を確認した。本発明者らは、4人の異なる被験者の血漿から単離されたHDLがAATを含有するが、同条件で単離されたLDLがこの主要血漿タンパク質を欠如することをウエスタンブロットによって示した(図1A)。同じ試料について行われたα−2−アンチプラスミンに対するウエスタンブロットは、LDLにもHDLにもこの別種の豊富な血漿タンパク質が存在することを示すことができなかった。血漿中のその高い濃度にもかかわらず、AATは、HDLと同時に単離された混入物ではなさそうである。アポA−IまたはAATのいずれかをコーティングされたELISAプレートで結合実験を行った。アポA−Iは、非飽和的であるがAATに結合可能であり、これは、低親和性または非特異的結合を示唆している。第二のステップで、本発明者らは、HDLがより多くのAATを捕捉する能力を試験した。このために、本発明者らは、HDLまたはLDLのいずれかを精製AATと共に(1mg:1mg)静かに撹拌しながら37℃で16時間インキュベーションし、次に遊離/未結合AATを除去するために超遠心分離によって両リポタンパク質を再度単離した。本発明者らは、LDLではなくHDLが追加的なAATと結合してそれを取込み可能であることをウエスタンブロットによって示した(図1B)。結果は、LDLとは対照的に、HDLがAATに対する親和性を有することを示している。最終的に本発明者らは、AATがHDLよりもHDL画分に豊富に存在することを示した(図1C)。
【0107】
AATはHDLのα−1画分中に存在する
並行して、本発明者らは、抗アポリポタンパク質A−Iカラムを使用する選択的アフィニティー免疫吸着によってHDLを単離した。溶出はリポタンパク質AI含有画分(LpAI)の回収を可能にした。非変性二次元電気泳動ゲルによってLpAI種を分離し、アポA−Iを含有する各粒子をその電荷と大きさに応じて泳動させた。ゲルをウエスタンブロット分析用に転写するか、または続くプロテオーム分析用にクマシーブルーによって染色した。十分なyおよびb系列イオンを含有するスペクトルは、AATおよびアポA−I由来のペプチドの同定を可能にした。コロイド状クマシーブルー染色によって検出された、種々のスポットに対して行われた質量分析から、直径7〜10nmのStokes径の範囲のα−1粒子でのAATが確認され;予想どおりアポA−Iもこれらの粒子から確認された。23種の独特なAATペプチドが最も小さな直径7nmの粒子から確認され、一方で3〜4種のペプチドが他方のより大きな8〜10nmの粒子から確認されたが、これは、主なLpAI AAT質量が7nmのLpAI粒子中に局在することを示唆している。これらの粒子中のアポA−I組成は変動し、7nmのLpAI粒子から同定された独特なペプチドは、より大きな8〜10nm粒子から同定されたペプチドよりも少なかった(それぞれ8種に対して13〜18種)。7nmのLpAI粒子の組成には、より少ない量のパロキソナーゼ(paroxonase)、アポA−IV、アポD、アポC−III、第V因子、およびα−1酸性糖タンパク質1が含まれた。AATに関するウエスタンブロットから、α−1電気泳動移動度の7〜10nmの粒子が抗アポA−I染色と共局在するAATを含有したことが示されたが、これは、質量分析によって得られた結果を確認している。ブロット上のアポA−Iに対する弱い免疫反応性は、アポA−Iに対する抗体が非変性条件下で2D電気泳動後のブロットとうまく反応しないという事実が原因でありそうである。AATは、また、大型のα画分の方が検出される程度が少なかった。SDS−PAGE分離後の通常のウエスタンブロットから、抗体なしの模擬カラムに比べて、抗AIカラムによって単離されたLpAI中にのみAATが存在することが確認された。同じ血漿からの超遠心分離によって単離されたHDLもまた、AAT陽性であった。
【0108】
HDL結合型AATはin vitroでアンチエラスターゼ活性を示す
第二のステップで、本発明者らは、HDL結合型AATがエラスターゼ活性を阻害する潜在性を試験した。健康な被験者から単離されたHDLと共に白血球エラスターゼ(30nM)をin vitroでインキュベーションし、その活性を発色性基質MeO−Suc−Ala−Ala−Pro−Val−pNaを使用して判定した。エラスターゼは、HDLによって用量依存的に阻害され、HDLのバッチ(異なる健康被験者から単離された)に応じて5〜20μg/mL HDLの範囲でエラスターゼ活性のほぼ完全な阻害が達成された。対照的に、3人の異なる健康被験者からの50μg/mLのLDLは、全くアンチエラスターゼ活性を示さなかった(図2A)。ヒトAAA管腔内血栓の管腔層からの馴化培地または白血球エラスターゼの供給源としての活性化好中球の上清を使用して類似の結果が得られた。HDLおよびLDLの両方は、プラスミン活性を阻害することができなかった(図2B)。
【0109】
HDLはエラスターゼ誘導VSMCアノイキスを防止する
以前に記載されたように、精製された白血球エラスターゼまたは腹部大動脈瘤(AAA)の血栓中に存在するエラスターゼは、細胞外マトリックスの分解によりヒト血管平滑筋細胞(VSMC)の剥離およびその後の死滅を誘導可能である(アノイキス)。本発明者らは、HDLが白血球エラスターゼにより誘導される剥離を防止する潜在性を試験するためにこのモデルを使用した。図3(A〜C、E)において、本発明者らは、VSMCの生存率が10nMエラスターゼと共のインキュベーションによって減少したこと、およびこの作用がHDLの存在下で用量依存的に防止されたことを示す(100μg/mL HDLとの同時インキュベーションについて24±9に対して98±2%、p<0.005)。しかしながら、LDLは、エラスターゼによって誘導されるVSMC剥離に作用を有さなかった。LDLとは対照的に、HDLは、エラスターゼによって誘導されるフィブロネクチン分解をほぼ完全に防止することができ、これは、細胞周囲マトリックスタンパク質分解の直接阻害を示している(図3D)。次に、本発明者らは、AAA管腔内血栓の管腔層によって馴化された培地と共にインキュベーションされた細胞に対するHDLの保護作用を判定した。本発明者らは、白血球エラスターゼがAAA血栓の中間層および反管腔側層に比べて、主に管腔層に存在したこと、ならびにそれがVSMCの剥離を誘導可能であったことを以前に報告した。本発明者らは、HDLがこの現象を阻止することができ、AAA血栓の管腔層からの馴化培地と共のインキュベーションによって誘導されるアポトーシスを阻害することを示す(図3F、p<0.05)。最終的に、エラスターゼと共に胸終動脈をex vivoでインキュベーションすることは、組織内で検出可能なVSMCアポトーシスにつながり、この作用は、LDLではなく、HDLと共に同時インキュベーションすることによって阻害された。これは、HDLの存在下で胸動脈をエラスターゼと共にインキュベーションしたときの、アポスタイン(Apostain)陽性核の不在によって示される(図3G)。
【0110】
HDLは、AATによって仲介されることが報告されていない、細胞内作用を含めた抗アポトーシス作用を示すことが公知であるので、本発明者らは、VSMCをHDLと共に予備インキュベーションすること(パルス−チェイス)がエラスターゼにより誘導されるアポトーシスを防止するために十分であるかどうかを試験した。細胞を100μg/mL HDLと共に4または16時間インキュベーションし、PBSで3回慎重にすすぎ、次に10mMエラスターゼと共にインキュベーションした(図4A)。本発明者らは、HDLによって16時間前処理された細胞の場合にレムナント抗アポトーシス作用を観察できたことを示す(41±8.2%の阻害)。本発明者らは、赤色カルボシアニン−ラベル化HDLを使用してHDLが細胞によってインターナリゼーションされたことをチェックし(図4B)、アポAIが細胞内でAATと共局在したことを共焦点顕微鏡検査によって示した(図4C)。
【0111】
AAA患者のHDLは健康被験者由来のHDLよりも少ないAATを担持する
他の形態のアテローム血栓症のように、正常な被験者よりもAAA患者の方がHDLレベルが低いこと、および白血球エラスターゼがAAAの病態生理に関与することが報告されている。本明細書で本発明者らは、AAA患者が健康な被験者よりも有意に低いHDLを有することを報告する(1.11mmol/L±0.23、n=13対1.35mmol/L±0.3、p=0.017、n=23)。血漿アポA−Iレベルもまた、対照よりもAAA患者の方が68±2.6%低かった(図5A、p<0.0001)。本発明者らは、AAA患者由来のHDLが対照被験者由来のHDLよりも担持できるAATが少ないという仮説を検証した。このために、本発明者らは、各個体(AAA患者またはマッチさせた対照)からHDLを単離し、ウエスタンブロットによってAATの存在を判定し、それをELISAによって定量されたアポAI含量に対して基準化した(マッチさせた対照に比べて29±0.59%の減少、p<0.0001)。図5Bに、直径>5cmの動脈瘤を有する患者が、そのHDLと結合したAATを対照群よりも有意に少なく有することを示す。したがって、HDLに関連するエラスターゼ阻害能は、対照よりも患者の方が低かった(図5C)が、全体的な血漿アンチエラスターゼ活性は、2群で類似しており(図5D)、血漿に比べて区画化組織が重要であることを強調している。
【0112】
結論として本発明者らは、本明細書において白血球エラスターゼおよび血管細胞に対するその関連する有害作用を阻害可能な、HDLについての新しいアンチプロテアーゼ活性を報告する。本発明者らは、AAA患者におけるHDLおよび結合したAATのレベル減少が、血管壁におけるエラスターゼに対する効果的な保護がより小さいことの原因となるおそれがあり、この疾患の進行に有利に働くことを示した。
【0113】
実施例2:AAT強化HDLは正常マウスの肺に到達し気腫の発生を予防する
静脈内注射後の肺におけるHDLのバイオアベイラビリティーを試験するために、HDLをカルボシアニン(赤色)(10mg/kg)でラベル化した。注射の2時間後に、マウスを屠殺し;肺をOCT中に包埋し、凍結させてから切片にした。AATについて免疫染色を行い(緑色)、核をDAPIで対比染色した。ヒト血漿から超遠心分離により精製されたHDLを蛍光色素によってラベル化し、IV注射後に追跡した。注射されたHDLは、肺に到達することができ、注射の2〜48時間後に検出することができた。また、肺中HDLの検出が可能な最大注射後時間を検出した。マウスを屠殺した後で、肺および肝臓の両方を蛍光HDLの蓄積についてチェックした。
【0114】
方法
a/ HDLの精製、AATの強化、品質管理
まず、同じバッチのHDLおよびAAT強化HDLを用いて作業するために、超遠心分離によってヒト血漿から精製された大量のHDLをプールした。AATを静かに撹拌しながら37℃で16時間インキュベーションした。次に、それらのHDLを超遠心分離によって再度精製し、遊離の未結合型AATを除去した。HDLおよびAATをロードされたHDLに関してAATおよびアポリポタンパク質A−Iについてのウエスタンブロットを行った。正常HDLおよび強化HDL中に存在するAATの量を判定するために、異なる量のAATもWBによって分析した(図6)。並行してアンチエラスターゼアッセイを行い、WBによって得られた結果を裏付けた。これらの実験は、強化HDL中のAATを定量するものである。次に、同量の遊離AATを対照群に注射した。この実験の目的は、HDL−AATが単独で注射されたAATよりも気腫の発生を大きく予防するかどうかを試験することである。自然にAATを含有するHDLもまた別の群に注射する
【0115】
実験スキーム
エラスターゼ処置マウスを4群に分け、食塩水、HDL(75mg/kg体重)、AAT強化HDL(75mg/kg)またはAAT単独(3.75mg/kg)単独を注射した。エラスターゼ注射の2時間後にHDL、HDL−AAT、AATまたは食塩水を静脈内注射し、次にさらに3回、24、48および36時間後に注射した。
【0116】
気管内点滴注入のために使用されたエラスターゼは、マウスによって迅速に排出された(1時間後に肺にエラスターゼの痕跡なし)。したがって、本発明によるアンチエラスターゼを含むHDLの使用は、気腫の誘導に使用されるエラスターゼではなく、好中球浸潤に関連する内因性エラスターゼを阻害するためである。
【0117】
45匹のマウスを気管内エラスターゼ点滴注入に供する。1週間目の間に15匹のマウスに食塩水を4回注射し、続いてエラスターゼ処置を行い、次に各群の10匹のマウスにHDL、AAT強化HDLまたは同量のAAT単独を注射した。
【0118】
エラスターゼを最初に点滴注入した28日後にマウスを屠殺し、肺胞破壊をスコア付けすることによって気腫を半定量した(2人の独立した病理学者による二重盲検判定)。
【0119】
平均±SDを図7に示すが、これは、HDL−AATが気腫の発生を40%保護するが、一方でHDLおよびAATは軽度の保護作用だけを示すことを示している(HDL−AAT対食塩水:p<0.001、HDL−AAT対HDL:p=0.013、AAT対食塩水:p=0.097、HDL−AAT対AAT:p=0.112)。
【0120】
結論
本発明者らは、AAT強化HDLが正常マウスの肺に到達し、気腫の発生を予防することを示した。
【0121】
実施例3:腹部大動脈瘤(AAA)におけるアンチプロテアーゼのベクターとしてのHDLの評価
AAAは、腹部大動脈に局在する、アテローム血栓症の特定臨床症状であり、AAAではプロテアーゼ活性、特にエラスターゼが推進力であると示されている。いくつかの証拠は、HDLがアテローム硬化病変をターゲティングすることができ、そこでコレステロール浄化粒子として作用することを示している。ガドリニウム−HDLがアテローム硬化性プラークのイメージングのためのトレーサーとして使用されている。
【0122】
本発明者らは、アポE−/−マウスにおけるDiIC18ラベル化HDLの注射が大動脈洞からのアテローム硬化病変の脂質コアの強い染色を招くことを示す。
【0123】
以前の研究は、特にガンの分野においてリポタンパク質に薬物またはタンパク質をロードする実行可能性を実証してきた。本発明者らは、動脈瘤などの複雑アテローム血栓疾患の進行に二つの主なセリンプロテアーゼであるプラスミンおよびエラスターゼが関与するという証拠を提供した。
【0124】
本発明者らは、プラスミンおよびエラスターゼの阻害因子の運搬体としてHDLを使用する。
【0125】
プラスミンは、プラスミノーゲンから、共に複雑プラークにおいて活性なその活性化因子(組織型(tPA)またはウロキナーゼ(uPA))によって産生される。HDLに以下の薬物およびタンパク質をロードしてから、アテローム血栓合併症に対するそれらの影響を評価するために動脈瘤性アポE欠損マウスモデルに注射する:
α−1アンチトリプシン:好中球エラスターゼの自然阻害因子であり、HDLの一部であることが示されたもので、再構成されたHDL粒子に組込むことが容易である、
トラネキサム酸:プラスミノーゲン上のリシン結合部位を可逆的にブロッキングすることによってそのアンチプラスミン作用を発揮する合成リシン誘導体である。これは、組織、フィブリンまたは細胞外マトリックスへのプラスミノーゲンの結合ならびにそれからプラスミンへのその後の変換を防止する。
【0126】
本発明者らは、実施例1においてHDLにAATをロードできることを示した。
【0127】
アンジオテンシンIIを注入されたアポE欠損マウスモデルにおいて、HDL介在性アンチプロテアーゼ療法を判定した。アポE−/−マウスは、アテローム血栓合併症なしに大動脈根に脂肪線条を発生する。
【0128】
いくつかのグループが、これらの高脂血症マウスにおけるAng II注入が急速に複雑病変の形成へとつながり、腹部大動脈瘤または複雑不安定プラークの発生を招くことを示している。
【0129】
マウスにおけるこれらの複雑病変は、中膜変性、外膜炎症、壁在血栓またはプラーク内出血を含めた、ヒト疾患の多数の局面を表す。
【0130】
このモデルにおいて、これらの不安定病変は、大動脈根ではなく下行大動脈に発生し、血管壁におけるタンパク質分解活性の増強の証拠を提供している。
【0131】
方法
アポE−/−−Ang IIマウスモデル
3〜6月齢雄性アポE−/−マウスを、皮下浸透圧ミニポンプを経由したAng II(1000ng・kg-1・min-1)の4週間注入に供する(n=10)。追加的な2群(n=10)にHDLまたはα−1アンチトリプシン強化HDLのいずれかを静脈内注射する。
【0132】
HDLへのα−1アンチトリプシンのロード
健康な個体から単離されたHDLを、市販の精製α−1アンチトリプシン(1mg/mL)と共に静かに撹拌しながら37℃で16時間インキュベーションする。次に、HDLの密度をKBrで1.25g/mLに調整し、食塩水/KBr溶液(d=1.21)をオーバーレイした後に、HDLを超遠心分離(100,000g、一晩)によって再度単離する。HDL画分をチューブ最上部の単一バンドとして回収し、遠心フィルター装置を使用して3回の洗浄ステップによりKBrを除去する。ウエスタンブロット分析は、α−1アンチトリプシン強化の効率を試験するものである。
【0133】
プラーク破綻および中膜変性の判定
動物を安楽死させ、腹腔および胸腔に入り、右心室から採血し、左心室を経由して大動脈をPBSで洗浄する。腹部大動脈を解剖顕微鏡下で露出させ、外膜周囲組織を大動脈壁から慎重に切開する。デジタルノギスで最大大動脈直径を決定する。続いて大動脈根および心臓を切開する。腹部大動脈(最下位肋間動脈から回腸分岐部まで)および胸部大動脈を切断および秤量し、これらの組織の部分を凍結切片用にOCT中に包埋する(免疫組織化学検査および脂質の判定ためのオイルレッドO染色により判定される細胞組成の決定)か、または生化学アッセイのために均質化/超音波処理する(脂質含量の決定)。
【0134】
結論
HDLは、AATを送達し、腹部大動脈瘤を予防することができる。
【0135】
実施例4:ラット卒中モデルにおけるHDLの保護作用の評価
卒中は、西洋諸国における成人の罹患および死亡の主な原因である。急性期の卒中において現在承認されている唯一の薬物は、血小板溶解薬tPAである。tPAの使用は、非常に短期の治療ウインドウに限定され、症候性脳出血の10倍増加も引き起こす。セリンプロテアーゼ(プラスミンおよびtPAなど)およびマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP3、MMP9)は、tPA処置に関連してまたは関連せずに脳虚血損傷および出血性変化に決定的な役割を果たすことが示されている。
【0136】
他者によってすでに記載されたように、本発明者らは、ラット塞栓性卒中モデルにおいて虚血領域中のMMP9活性化を実証している。
【0137】
本発明者らは、卒中急性期の間のHDL注射が神経保護性でありうるという仮説を検証した。
【0138】
本発明者らは、ラット塞栓性卒中モデルを開発した(ex-vivoで作った血栓を中大脳動脈に注射)。
【0139】
卒中急性期におけるHDLの静脈内注入は、その後の虚血性損傷に対して強い保護作用を招いた。
【0140】
卒中の24時間後の死亡率は、プラセボ群で41.6%であり、それに対してHDL処置群で12.5%であった(1群n=15)、p<0.05。
【0141】
24時間目に、脳梗塞体積の中央値はHDL群で9.2%(IQR4.6〜15.6)であり、それに対してプラセボ群では29.5%(12.9〜66.6)であった(p<0.05)。
【0142】
神経障害は、プラセボに比べてHDL群の方が減少し、MMP9(プロ型および活性型の両方)は、HDL治療後に虚血領域が有意に減少した(図8および9)。
【0143】
本発明者らの卒中モデルにおけるHDLの神経保護メカニズムを解明するために、いくつかの仮説を検証し;特に本発明者らは、HDLに関連するアンチエラスターゼ活性の存在が、血栓によって誘導される脳損傷の予防に重要であるかどうかを評価する。本発明者らは、また、血液脳関門(BBB)のin vitroモデルを使用して、BBBに対する血栓の細胞毒性およびその後の透過性を試験する。BBBに及ぼすHDLの潜在的保護作用を試験する。
【0144】
HDL粒子は、コレステロール輸送を逆転することに加えて、急性傷害から内皮細胞を保護しうる抗炎症作用、アンチプロテアーゼ作用、および抗血栓作用を発揮することが公知である。再構成されたHDLの投与は、高コレステロール血症または低HDLレベルを有する患者における内皮機能不全を正常化することが示されている。多形核好中球(PMN)は、急性虚血性脳損傷および虚血誘導BBB破壊に主要な役割を果たし、ここで、それらに結合したマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP−9)は、BBBの分解に関与する。
【0145】
HDLは内皮接着分子のサイトカイン誘導発現を阻害することから、PMNの接着および遊出を減少させる。したがって、本発明者らは、卒中の開始後(0〜5時間)のHDL注射が虚血領域におけるPMNの動員を、そしてまた卒中後の脳損傷に及ぼす有益作用を軽減しうるという仮説を立てた。
【0146】
材料および方法
塞栓性卒中モデル
動物の世話および実験プロトコールは、Animal Ethics Committee of the University Paris 7、認可番号75-214によって承認された。体重300〜350gの雄性Sprague-Dawleyラットを、空気と混合されたイソフルラン(導入のために4%;手術中は1%)を用いて自然呼吸下で麻酔した。中大脳動脈中に前もって形成した血餅の塞栓によって局所脳虚血を誘導した。手術期間中に加熱パッドで体温を37℃_0.5に維持した。血糖、動脈血圧、および血液ガスもまた手術中にモニターした。
【0147】
標本サイズの計算
群間の脳梗塞体積における相対的な50%の差(HDL対プラセボ)の検出力が80%となる研究を計画した。t検定を用いて両側αレベル0.05で統計検定を行った。卒中の24時間後の梗塞体積が中央値42.1であったことを示す予備データに基づいて(25〜75パーセンタイルを考慮する四分位間が17.6〜65.0)、本発明者らは、1群あたり17匹のラットを使用した。
【0148】
実験プロトコール
ラットに卒中開始直後に精製HDL(2または10mgのアポA−I/kg体重)、低密度リポタンパク質(LDL、10mgアポB/kg体重)または食塩水を静脈内投与した(1群n=17)。卒中開始の3または5時間後に追加の4群に食塩水またはHDL(10mgアポA−I/kg体重)のいずれかを与えた。以前に報告された、ラットにおけるHDLの薬物動態に従って、単回静脈内注射を行った。コンピューターベースの無作為化を用いて薬物治療方式を各群に割当てた。実験を盲検化し、作業者は手術および転帰判定の間に群の割当てを知らなかった。本発明者らは、卒中開始の24時間後に運動、知覚およびバランス試験の複合である改変神経重症度スコア(modified Neurological Severity Score)を使用して死亡率および神経障害を評価した。
【0149】
除外基準
総病変体積が_5%であった場合(生理食塩水群でn=3、LDL群でn=2、HDL群でn=5)、またはくも膜下出血が存在した場合(HDL群でn=1)、動物を分析から除外した。塞栓性卒中誘導の3時間以内に麻酔または手術が原因の死亡は起こらなかった。
【0150】
梗塞体積および脳浮腫の測定
局所虚血誘導の24時間後にラットを安楽死させた。脳の冠状切片7枚(厚さ2mm)を2% 2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド(Sigma-Aldrich)で室温で20分間染色した。24時間時点になる前に死亡した動物における梗塞体積も評価し、それを結果に含めた。次式を使用して浮腫を補正して体積計算を盲検的に行った:
100×(対側性半球体積−非梗塞性同側性半球体積)/対側性半球体積
2個の半球の間の体積差を計算し、左半球の体積で除算することによって脳浮腫を決定した。酵素電気泳動(前記の2,3,5−トリフェニルテトラゾリウムクロリド染色と適合性である)以外の全ての補助的実験(エバンスブルーおよび免疫染色)は、追加の動物に対して行った。
【0151】
HDLおよびLDLの調製
以前に記載されたように超遠心分離によって健康志願者の血漿プールからHDLおよびLDLを単離した。免疫比濁法によって14個のアポタンパク質Bおよびアポタンパク質A1の濃度を決定したが、それらの濃度は、HDLおよびLDLの相互混入を全く示さなかった。5個の異なるバッチのHDLを研究のために使用した。LDLおよびHDL画分の純度(アルブミン混入の不在)は、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動に続くクマシーブルー染色によって検証した。
【0152】
カルボシアニンを用いたHDLラベル化およびin vivoトラッキング
HDLを8.5g/mL DiIC18カルボシアニン(Molecular Probes Inc)と共に静かに振盪しながら37℃で一晩インキュベーションし、次に超遠心分離によって分離した。卒中開始の直後にラベル化HDL(10mg アポA−I/kg)を静脈内投与し(n=6)、安楽死の直前にフルオレセインイソチオシアネート−デキストラン(2000kDa; Sigma-Aldrich)を注射した(n=3)。断頭後に、脳切片を最適切削温度媒質中で包埋し、直ちに凍結した。クリオスタットを使用して冠状切片(8μm;ブレグマの0.70mm後方)を調製した。細胞核を4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(0.5μg/mL、10分間)で染色し、切片を落射蛍光顕微鏡下で観察した。
【0153】
肝機能の評価のためのアラニントランスアミナーゼおよびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの定量
各群からベースライン、卒中開始の1、3、および24時間後に採血した(1群n=4)。アラニンおよびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの血漿活性を市販のキットによってOlympus AU400分光光度計を使用して測定した。
【0154】
エバンスブルーの血管外遊出
血管外遊出したエバンスブルー色素の蛍光検出を用いて、BBBの透過性を定量評価した。卒中誘導直後にラットをHDL(10mg/kg)または食塩水で処置した(1群n=6)。次に、血餅注射の24時間後に2%エバンスブルー食塩水溶液を注入した(4mL/kg静脈内)。3時間後に、ラットをペントバルビタールで深麻酔し、食塩水を経心的に灌流して血管内の色素を洗浄した。脳を取り出し、2mmの冠状切片にし、最適切削温度中で包埋し、凍結した。10μm切片(ブレグマの0.70mm後方)を調製した。エバンスブルーの血管外遊出を蛍光顕微鏡によって観察し、形態計測ソフトウェア(Histolab 6.1.5; Microvision Instruments)を用いて半自動的に定量した。
【0155】
免疫組織化学検査
凍結切片を3.7%パラホルムアルデヒドで固定し、10%ヤギ血清でブロッキングした。切片を一次抗体と共に4℃で一晩インキュベーションした。マウス抗ラット内皮細胞抗原モノクローナル抗体(2.5μg/mL; Serotec)を使用して血管を検出し、ウサギ抗ミエロペルオキシダーゼポリクローナル抗体(16.5μg/mL; Dako)を使用してPMNを検出し、抗グリア線維性酸性タンパク質抗体(5.8μg/mL; Dakocytomation)を使用して星状細胞を検出し、抗NF200抗体(17μg/mL; Sigma-Aldrich)を使用してニューロンを視覚化した。マウス抗ラット細胞間接着分子−1モノクローナル抗体(10μg/mL; Biolegend)も使用した。本発明者らは、各実験セットに一次抗体として非免疫性IgGを含めてシグナルの特異性を試験し、二次抗体としてAlexa-Fluor 488または555を使用した。デジタル取込みシステムをインターフェースで連結した蛍光顕微鏡を用いて免疫染色を分析した。形態計測ソフトウェア(Histolab 6.1.5; Microvision Instruments)を用いて免疫染色された細胞数を半自動的に決定した。全ての免疫組織学的評価は、処置を盲検化された観察者によって実施した。
【0156】
ゼラチン酵素電気泳動
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゼラチン酵素電気泳動
断頭および脳の取り出しの直後に、同側性虚血脳組織および対応する対側性非虚血領域を慎重に切開し、抗生物質および抗真菌剤を含有するRPMI1640(10μL/μg湿組織)(Gibco)中で37℃で24時間別々にインキュベーションし、脳組織によって放出されたプロテアーゼを収集した(n=7)。遠心分離(3000g、10分間、20℃)後に、等体積の馴化培地を、2.5mg/mLゼラチンを含有する10%ポリアクリルアミドに溶かした0.2%ドデシル硫酸ナトリウムの存在下で非還元条件下で電気泳動した。National Institutes of Health Image 1.42qソフトウェアを使用したデンシトメトリーによってゼラチン溶解活性を定量した。
【0157】
In Situ酵素電気泳動
10μm冠状切片(ブレグマの+0.70mm後方)をリン酸緩衝生理食塩水単独または10mmol/L 1,10−フェナントロリン(広域MMP阻害因子)のいずれかと共に室温で2時間予備インキュベーションした。次に、それらを蛍光発生基質DQ−ゼラチン(40μg/L; Molecular Probes)と共に酵素電気泳動緩衝液(50mmol/L トリス−HCl(pH7.6)、150mmol/L NaCl、5mmol/L CaCl2、200μmol/L アジ化ナトリウム)中で37℃で2時間インキュベーションし、続いて10%中性ホルマリン固定を行った(1群n=4)。落射蛍光顕微鏡を使用してタンパク質分解活性を緑色蛍光として検出した。対照切片をDQ−ゼラチンなしに酵素電気泳動緩衝液中でインキュベーションして可能性のある組織自己蛍光を検出した。
【0158】
統計解析
データを連続変数については中央値(四分位)として、定性変数についてはパーセンテージとして表現する。本発明者らは、マン−ホイットニーのU検定によって、または>1群が比較される場合にクルスカル−ワリス検定を行い、P<0.05ならば、続いてマン−ホイットニーのU検定を行うことによってのいずれかでデータを解析した。フィッシャー直接検定を用いて群間の死亡率の比較を行った。P<0.05の両側値を有意と見なした。JMP7.0.1を使用してデータを解析した。
【0159】
結果
体積および神経障害
生理食塩水注射に比べて、卒中の開始直後のHDLの静脈内注射は、24時間での卒中関連死を有意に減少させた。用量効果が観察され、用量10mg/kgについて死亡率が68.4%低下した(P=0.015)。食塩水処置対照に比べて、HDLの投与は、卒中直後(P=0.0003)ならびに3および5時間後(それぞれP=0.011およびP=0.019)に梗塞サイズも有意に減少させた。この保護作用は用量依存的であった。したがって、HDL処置群において卒中開始から24時間後に神経障害が軽減した(P=0.015)。精製LDLは、生理食塩水注射群に比べて梗塞サイズも卒中関連死も減少させなかった(それぞれP=0.75およびP=0.66)。HDLは肝損傷を誘導すると報告されているので、本発明者らは、循環肝臓酵素レベルを判定したが、HDL注入後に卒中以来24時間後に採取されたアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼおよびアラニンアミノトランスフェラーゼの血漿レベルは、ベースラインと異ならなかった。
【0160】
HDLはBBBの破壊および脳浮腫を軽減した
本発明者らは、卒中開始から24時間後での梗塞領域におけるエバンスブルーの血管外遊出を測定した。形態計測定量は、HDL(10mg/kg)が対照に比べてBBB透過性を64%減少させたことを明らかにした(P=0.0066)。HDL処置群(10mg/kg)における脳浮腫は、食塩水処置群に比べて有意に軽減した(それぞれ18.1%対5.7%;P=0.01)。
【0161】
ラベル化HDLは梗塞領域に浸透した
HDL投与が梗塞領域に到達しうることで内皮に直接影響するかどうかを検証するために、本発明者らは、卒中の開始直後に蛍光ラベル化HDLを注射した。24時間後に、ラットに血管マーカーであるフルオレセインイソチオシアネート−デキストランを静脈内注射し、それを10秒間循環させてから安楽死させた。HDLは梗塞領域に浸透し、内皮細胞および星状細胞によって取込まれることができたが、ニューロンとの共局在は観察されなかった。
【0162】
HDLは梗塞領域におけるPMN動員および関連するMMPゼラチナーゼ活性を減少させた
ミエロペルオキシダーゼ免疫染色に続く形態計測定量(ミエロペルオキシダーゼ陽性細胞数)によって、10mg/kg HDLの注射がPMNの動員を生理食塩水処置対照に比べて70%減少させたことが明らかとなった(P=0.027)。in situ酵素電気泳動によって、相同な対側性対照領域に比べて同側性梗塞領域における全体的なゼラチナーゼ活性の増加が示された。HDL投与後に、このゼラチナーゼ活性増加は、食塩水処置群よりも重要ではないと思われた。卒中開始24時間後に、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動ゼラチン酵素電気泳動は、対側性非梗塞領域よりも虚血領域の方がMMP−9の活性増加を示した。MMP−9活性は、対照群よりもHDL処置群の方が梗塞領域中の活性が減少した。好中球関連ホモ二量体型MMP−9について、類似の結果が得られた。
【0163】
HDLは梗塞領域における細胞間接着分子−1陽性血管を減少させた
本発明者らは、HDL処置群におけるPMN動員減少が細胞間接着分子−1(ICAM−1)の発現減少に起因しうると仮定した。ICAM−1についての免疫染色によって、対照に比べてHDL処置群のICAM−1陽性血管における減少が明らかとなった。
【0164】
したがって本研究は、脳血管虚血に及ぼすHDLの有益作用を示した。免疫染色によって示されたように、HDLは、ニューロンではなく内皮細胞およびグリア細胞によって取込まれる。本発明者らの知るところでは、HDLの神経保護作用が報告されているが、HDLが卒中開始の2時間前に注射されたことからこの作用は予防的であった。対照的に、本発明者らは、脳虚血開始の最大5時間後にHDLを注射した。そのような注射は、治療的な神経および血管保護作用を提供した。
【0165】
実施例5:アテローム血栓症における新生血管の安定化におけるHDL
急性自然反応における最初の食細胞である好中球の蓄積が、プラーク破綻部位に報告されたが、好中球浸潤物は、急性冠症候群における責任病変に存在する。プラーク内出血は、プラーク中の好中球および好中球由来プロテアーゼの強化に関連すると示されている。この情報は、好中球がプラーク破綻につながるメカニズムに関与することを示す。好中球は、様々なメカニズムによってアテローム硬化性プラーク中の新生血管を不安定化する。好中球は、外来物質をエンドサイトーシスし、強力な活性酸素種を生成し、エラスターゼ、カテプシン、MMP−8および−9、ならびにミエロペルオキシダーゼなどの、感染浄化を助けるだけでなく組織の分解および破壊にも関与する多様なタンパク質分解酵素を放出する。白血球由来セリンプロテアーゼ活性は、頸動脈内膜摘除標本における不安定領域から見出される。これは、過剰な白血球介在性ECMタンパク質分解が原因としてプラーク不安定化に関与することを示す。プラスミンおよびエラスターゼによる細胞外マトリックスのタンパク質分解は、プラークを安定化している重大な細胞である血管平滑筋細胞のアポトーシスを誘導する。
【0166】
白血球由来タンパク質分解活性は、間葉細胞の剥離および死滅(アノイキス)を誘発する能力に加えて、血管新生促進因子および血管新生抑制因子の分解によってアテローム血栓性プラーク中の新生血管の成熟も損なう。
【0167】
血管の成長および安定化に及ぼす好中球由来プロテアーゼの潜在的有害作用を検討するために、血管新生のin vitroおよびin vivoモデルを使用する。補充されたMatrigel中のラット大動脈輪およびヒト胸動脈からの毛細血管様構造の形成に及ぼす休止および活性化好中球の作用を、好中球由来プロテアーゼ阻害因子の存在下または不在下で比較する。
【0168】
いったん毛細血管様構造が既に形成した後の時点で、休止または活性化好中球をMatrigelに添加することによって、未熟血管の安定性および生存性に及ぼす好中球の作用を研究する。
【0169】
精製好中球の代わりに、ヒト頸動脈由来の複雑プラークまたは非複雑プラークのいずれかからの馴化培地を使用して類似の実験を行う。
【0170】
これらのin vitro研究と並行して、以下のようにin vivo実験を行う。成長因子をロードされたMatrigelを背側皮下チャンバー(dorsal skinfold chamber)に植込み、局所血管新生を誘導する。
【0171】
プロテアーゼ阻害因子の存在下または不在下で、新生血管を複雑プラークまたは非複雑プラーク由来の馴化培地で急性および局所的に刺激する。
【0172】
新生血管の透過性およびMatrigel中の出血発生率における改変を生体顕微鏡検査によって観察する。
【0173】
マウスプラーク破綻モデルが開発されたが、このモデルではアポE−/−マウスにおいて頸動脈上の血管周囲カフの留置と結紮を組合せる。この結果として、いくつかのマクロファージ、Tリンパ球、および平滑筋細胞を含有する、脂質およびコラーゲンに富む病変が生じる。続いて、カフの留置はフィブリン(フィブリノーゲン)陽性管腔血栓を伴うプラーク内出血およびプラーク破綻を誘発した。in vivoプラーク内出血に果たす好中球の役割を検討するために、好中球を枯渇させ、これらのマウスにおけるプラーク内出血およびプラーク破綻を予防する。
【0174】
両モデル(血管新生−皮下チャンバーおよびプラーク破綻モデル)においてHDL療法を試験する。
【0175】
まず、エラスターゼを注射してからの皮膚チャンバーモデルにおけるHDLによる新生血管の潜在的安定化を試験し、アテローム血栓プラークからの馴化培地およびHDLは、ずっとよくコントロールされる。
【0176】
エラスターゼ(好中球中またはプラーク中に含有される精製物)によって誘導される出血を予防する場合、α−1アンチトリプシンが強化されているか、または強化されていないHDLの注射をマウスプラーク破綻モデルで試験する。
【0177】
結論
本発明者らは、この実験においてHDL療法が新生血管の安定化に有用なことを示す。
【0178】
実施例6:虚血条件下で好中球によって誘導される血液脳関門透過性にHDLが及ぼす保護作用
a)健康被験者の血漿から単離されたHDLの保護作用
血液脳関門(BBB)は、内皮細胞が中心的な役割を果たす中枢神経系(CNS)から血管区画を隔離するように設計された生体フィルターである。BBBの破壊または機能障害は、CNSのいくつかの血管疾患および変性疾患(腫瘍、てんかんまたは虚血性卒中)に関連する主なステップである。虚血によって誘導されるBBB破壊は、脳区画への循環白血球およびプロテアーゼを含めたそれらの分泌産物などの有害血液成分の進入を可能にし、出血性変化および/または脳浮腫のリスクを高めるおそれがある。本発明者らは、虚血条件下(OGD:酸素およびグルコース欠乏)でBBBに好中球およびエラスターゼが及ぼす効果、ならびにHDL(高密度リポタンパク質)の可能性のある保護作用を検討した。
【0179】
材料および方法
トランスウェル上で培養されたヒト不死化脳内皮細胞から成るヒト脳内皮細胞のin vitroモデルを使用して、上部区画にデキストラン−FITC 70kDaを添加すること、およびOGD条件で4時間後に下部区画における蛍光を測定することによって、BBBの透過性を試験した(BB Weksler et al. Blood-brain barrier-specific properties of a human adult brain endothelial cell line, FASEB J. 2005 Nov;19(13):1872-4)。
【0180】
透過性係数は、以前に報告されたように計算した(BB Weksler et al.)。そのような血液脳関門モデルは、エラスターゼおよび好中球が正常または虚血条件下で透過性に及ぼす作用の検討を可能にした。
【0181】
細胞間結合タンパク質または細胞外マトリックスタンパク質に対する特異的抗体を用いたウエスタンブロットは、HDLの存在下または不在下で好中球または精製エラスターゼによって誘導されたタンパク質分解の判定を可能にした。HDLを、超遠心分離によって健康志願者の血漿から単離した。
【0182】
結果
in vitro BBBモデルは、細胞間結合タンパク質(VE−カドヘリン)および密着結合タンパク質(JAM−1、ZO−1)を発現する。これらのタンパク質は、エラスターゼまたは活性化好中球の上清と共にインキュベーションされると分解され、BBBの透過性増加につながる。
【0183】
OGD条件で4時間後に、透過性は有意には影響されなかった。OGD条件下のエラスターゼおよび好中球と共のインキュベーションだけが、OGD条件単独または正常酸素圧条件下のOGDに比べて透過性を有意に増加させた。HDLの添加は、タンパク質分解を防止し、透過性を制限した((図10)。これらの結果は、エラスターゼ(精製物または好中球中に含有されるもの)およびOGD条件がBBBに有害作用を有し、それをHDLによって防止できることを示す。
【0184】
したがって本発明者らは、HDL(ヒト血漿から精製)が虚血条件でのBBB透過性におけるこのプロテアーゼ介在性増加を有意に阻害可能であったことを示した。したがって本発明者らは、虚血が好中球の脱顆粒を促進すること、およびHDLと結合したα−1−アンチトリプシン(AAT)が、BBBにエラスターゼが及ぼす損傷を防止できたという事実に鑑みる。
【0185】
b)rHDLは、脳内皮細胞によって取込まれる
再構成されたHDL(CSL111)または健康ドナーの血漿から単離されたHDL(HDL)をDiIC18−カルボシアニンでラベル化し、次に脳内皮細胞と共に4時間インキュベーションした。本発明者らは、以下のように染色に着手した:
− 核をDAPIによって染色し;そして
− HDLをカルボシアニン(DiIC18)でラベル化した。
【0186】
両方の種類のHDLは、内皮細胞によって取り込まれたが、これは、虚血条件下でプロテアーゼによって誘導される透過性からの内皮細胞の保護に関連したHDLの潜在的細胞内作用を示している。
【0187】
最近の研究は、エラスターゼが様々な細胞型にインターナリゼーションし、次にその細胞内の細胞内基質を分解可能であると報告している(AM Houghton et al., Neutrophil elastase-mediated degradation of IRS-1 accelerates lung tumor growth, Nat Med. 2010 Feb;16(2):219-23)。
【0188】
したがって、HDLまたはrHDLの使用は、エラスターゼの細胞内作用に対抗するための非常に有望な戦略である。
【0189】
実施例7:ロードされた再構成HDL(rHDL)
AATによるrHDL強化の実行可能性をCSL111およびZemaira(CSL Behring)を使用して試験した。
【0190】
材料および方法
再構成されたHDL(rHDL)を、蛍光色素(DiIC18「カルボシアニン」)存在下または不在下でAATと共に静かに撹拌しながら37℃で2時間インキュベーションした。初期密度を1.15に調整し、d=1.1で、最終的にd=1でオーバーレイし、KBr勾配をかけた超遠心分離後に、rHDLを密度1.1で単離することができた(100,000g、20℃で16時間)。
【0191】
結果
AATの強化によって、超遠心分離後に、蛍光色素を有さない超遠心分離チューブから直接目に見え、AAT単独(rHDLと共にインキュベーションしない)では観察されない白色バンドが生じる。超遠心分離によってrHDLを再単離した後、SDS−PAGE後に硝酸銀染色を行う(図11)。該染色は、超遠心分離によるrHDLの再単離後に、HDLにAATが強化されていること(中心のレーン)を示す。
【0192】
このように、本発明者らは、rHDLにAATなどの因子を強化できるという事実を説明した。
【0193】
実施例8:卒中を患うラットにおけるrtPA処置後の静脈内HDL注射の保護作用
リコンビナント組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)は、卒中において塞栓性血餅を溶解する、ヒトに唯一承認および使用されている薬物である。しかしながら、rtPAは、出血合併症のリスクを増加させて血液脳関門(BBB)に有害作用を示すと報告されているプロテアーゼである。本発明者らは、HDLがヒトにおける卒中の治療因子のために使用される場合に臨床状況を刺激するために、HDLがrtPAの存在下で梗塞体積を依然として減少可能であるかどうかを試験した。
【0194】
材料および方法
動物の世話および実験プロトコールは、INSERM-University Paris 7動物倫理委員会、認可番号75-214によって承認された。体重300〜350gの雄性Sprague-Dawleyラット(Janvier, France)を、自然呼吸下で空気と混合したイソフルラン(導入のために4%;手術中は1%)で麻酔した。中大脳動脈の管腔内縫合閉塞によって局所脳虚血を4時間30分間誘導した。リコンビナントtPA(10mg/kg体重; Genetech)を有するかまたは有さない生理食塩水(2.0mL/kg体重)を右大腿静脈を経由してラットに投与した(10%ボーラス、90%連続注入)。ヒトにおける血栓溶解療法に類似した線維素溶解作用をラットにおいて達成するために、比較的高用量のtPAが必要であった(W Liu W et al. Normobaric hyperoxia reduces the neurovascular complications associated with delayed tissue plasminogen activator treatment in a rat model of focal cerebral ischemia Stroke. 2009 Jul;40(7):2526-31)。再灌流の直前にtPAまたは食塩水処置を開始し、縫合糸の抜き取りから30分間継続した。この方式は、再灌流された組織がその因子に曝露されたことを保証した。食塩水またはtPA投与後に、ラットを自分のケージに戻した。
【0195】
動物を、対照(食塩水処置のみ);t−PA単独(10mg/kg);HDL単独(10mg/kg IV、頸静脈);およびt−PA+HDLの4群の一つに割当てた(1群n=10)。HDL 10mg/kg IVを再灌流開始の5分前に注射した。梗塞測定のための屠殺は、卒中の24時間後に起こった。手術が継続する間に加熱パッドで体温を37℃±0.5に維持した。血糖、動脈血圧および血中ガスもまた、手術中にモニターした。
【0196】
結果
rtPAの注射時点でHDLによって処置されたラットの方が梗塞体積が有意に減少した(図12A)
出血の存在を肉眼で評価した。rt−PAによって誘導される出血の発生率は、rtPA+HDLによって同時処置されたラットの方が減少した(75%対50%)(図12B)。
【0197】
したがって本発明者らは、HDLの注射がBBBの保護を提供し、したがって出血性合併症のリスクを減少させることによってリコンビナント組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)注射の有害作用を緩和することを示した。
【0198】
参考文献
本出願にわたり、本発明が属する技術分野の状況を様々な参考文献が説明している。これらの参考文献の開示は、本開示の参照により本明細書に組入れられる。
【図8A】

【図8B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬として使用するための、アンチプロテアーゼ、抗酸化因子、有糸分裂阻害因子、鉄代謝に関与する因子および抗アポトーシス因子から成る群より選択される因子を含むHDL。
【請求項2】
ネイティブであるか、または再構成されている、請求項1記載のHDL。
【請求項3】
因子が、α−1アンチトリプシン、エラフィン、プロテアーゼ−ネキシン1、α−2−アンチプラスミン、単球/好中球エラスターゼ阻害因子、インター−α−トリプシン阻害因子、組織性マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害因子およびα−1アンチキモトリプシンの組織阻害因子から成る群より選択されるアンチプロテアーゼである、請求項1または2記載のHDL。
【請求項4】
アンチプロテアーゼ/アポリポタンパク質A−Iのモル比が、0.1から200の間である、請求項3記載のHDL。
【請求項5】
アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患、神経変性疾患、ガン、ステント内再狭窄、および内皮機能不全を伴う全ての病態の処置に使用するための、請求項3または4記載のHDL。
【請求項6】
因子が、パラオキソナーゼ1、2、3、カタラーゼ、ビタミンE、ω−3脂肪酸、ブチルヒドロキシトルエン、N−アセチルシステイン、ポリフェノール、チオレドキシン、およびエストロゲンから成る群より選択される抗酸化因子である、請求項1または2記載のHDL。
【請求項7】
抗酸化因子/アポリポタンパク質A−Iのモル比が、0.1から200の間である、請求項6記載のHDL。
【請求項8】
アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患、神経変性疾患、ガン、ステント内再狭窄および内皮機能不全を伴う全ての病態の処置に使用するための、請求項6または7記載のHDL。
【請求項9】
有糸分裂阻害因子がシロミルス(Siromilus)である、請求項1または2記載のHDL。
【請求項10】
有糸分裂阻害因子/アポリポタンパク質A−Iのモル比が、0.1から200の間である、請求項9記載のHDL。
【請求項11】
ガンおよびステント内再狭窄の処置に使用するための、請求項9または10記載のHDL。
【請求項12】
因子が、トランスフェリン、ハプトグロビンおよびヘプシジンを含む群より選択される鉄代謝に関与する因子である、請求項1または2記載のHDL。
【請求項13】
鉄代謝に関与する因子/アポリポタンパク質A−Iのモル比が、0.1から200の間である、請求項12記載のHDL。
【請求項14】
アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患および神経変性疾患の処置に使用するための、請求項12または13記載のHDL。
【請求項15】
因子が、スフィンゴシン−1−リン酸、パラオキソナーゼ1および2、カタラーゼ、DHAを含めたω−3脂肪酸、レゾルビン(Resolvin)E1ならびにクラスタリンを含む群より選択される抗アポトーシス因子である、請求項1または2記載のHDL。
【請求項16】
抗アポトーシス因子/アポリポタンパク質A−Iのモル比が、0.1から400の間である、請求項15記載のHDL。
【請求項17】
アテローム血栓症、虚血性疾患、慢性閉塞性肺疾患および内皮機能不全を伴う全ての病態の処置に使用するための、請求項15または16記載のHDL。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2012−532919(P2012−532919A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520053(P2012−520053)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060330
【国際公開番号】WO2011/006994
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(591100596)アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル (59)
【Fターム(参考)】