説明

治療方法

本発明は、半導体レーザ又はダイオードレーザからのレーザ光を用いる治療方法であって、パルス状のレーザ光(1.1〜1.6)が治療すべき部分に照射されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ又はダイオードレーザからのレーザ光を用いて患者を治療する方法並びにその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、レーザシステムは医療に不可欠な装置である。これにより精密、正確且つ非接触の作業が可能となった。医療では多数のレーザシステムが用いられている。決まった波長を放出するレーザに活性な媒質及びそれによって医療における適用分野が決まることが重要である。組織に吸収されるレーザ光の波長によりレーザが選択される。
【0003】
例えば眼科、皮膚科、整形外科、産婦人科、神経科、泌尿器科及び歯科のようなヒトの医療並びに獣医療に、種々のレーザシステムが用いられている。歯科においては、例えば歯周病及び歯槽膿漏の処置並びにドリルの代わりに、レーザが用いられる。
【0004】
絶えざる誘導放出によりレーザ光が生成される。レーザに活性な媒質の原子又は分子は励起されると、高いエネルギー準位を占有する。多量の励起(ポンピング)により、レーザ光を生成するのに十分ないわゆる反転分布に到達する。その結果、誘導放出へと移行、すなわち励起が減少して、レーザ光が放出されることになる。
【0005】
レーザ媒質を励起してレーザ光を生成させる方法は、使用する媒質に依存する。励起方法には次の3通りがある。
【0006】
・ガス放電、すなわちガスレーザによるプラズマの形成
・固体レーザ系による光学的ポンピング
・ダイオードレーザによる電気的ポンピング
【0007】
ダイオードレーザでは、励起されると可視及び近赤外域のコヒーレントな放射が得られる半導体結晶を活性な媒質として用いる。半導体においては、電子のエネルギー状態は、自由原子のようには明瞭ではなく、広い帯域を有する。価電子帯が基底帯を形成し、伝導帯が励起状態を形成する。いわゆるpn−接合に外部から電圧を印加すると電子が励起される。電子は価電子帯から伝導帯へと励起され、反転分布が生ずる。それに続く誘導放出では、電子が価電子帯に戻され、それによって光が放射される。放射される光の波長は、選択する半導体結合によって決まる価電子帯と伝導帯との間隔に依存する。
【0008】
90年代半ばからダイオードレーザが、医療に用いられるようになった。主な用途は、凝血(止血)、外科(軟組織の切除)及び病原体の除去である。更に、独国特許出願第102004006932号明細書に記載されているような、高出力のダイオードレーザは脱毛にも用いられる。
【0009】
歯科においては、90年代の半ばから、切開、殺菌、軟レーザ療法及び歯の漂白にダイオードレーザが用いられている。上記の用途では1〜3Wの出力で十分であるが、切開は装置の出力が手術の速度に影響する。従って、高出力が好ましい。上市されている装置は出力が15Wまでであり、手術の速度は少ししか速められない。
【0010】
ダイオードレーザでは、複数の不連続な波長の光が得られる。上述の場合には、十分な出力を有する、例えば635nm(可視光、赤)、810nm、940nm及び980nm(全て赤外)の波長が知られている。更に、上記用途には不十分な出力を有する長波長も存在する。
【0011】
歯科では、主として波長810nm及び980nmの光を発振するダイオードレーザが用いられる。
【0012】
医療におけるダイオードレーザは、生体組織によるレーザ光の吸収が基本である。この波長域における水による吸収は低い(0.01%〜0.1%)。基本的にはメラニン(皮膚)及びヘモグロビン(赤い血色素)によってレーザ光が吸収される。従って、レーザによる切開は、血液を十分に含んだ組織を前提としている。
【0013】
光エネルギーを蓄え短いパルスとして放出できる他のレーザシステム(ガス又は固体レーザ)と異なり、ダイオードレーザは白熱電球のようにオン・オフができる。Nd:YAGレーザは、短時間(数マイクロ秒)に最大1000Wもの多大な熱量のインパルスを放出するのに対し、ダイオードレーザの最大出力(2〜15W)は僅かである。Nd:YAGレーザのように数マイクロ秒の間にエネルギーを生成させても、ミリジュール程度である。従って、ダイオードレーザは、医療では大抵は連続的(CW)又は比較的長い擬似パルス(数ミリ秒)の形で駆動される。
【0014】
生体の熱的処理では、時間的にどのように熱投与するかが重要となる。レーザのエネルギーを短いパルスとして投与すると、組織への熱的負荷は僅かである。ナノ秒〜フェムト秒(フェムト秒レーザ)域の極めて短いパルスでは、組織への熱の伝達は殆どない。
【0015】
ダイオードレーザでは、出力を増大させて切開速度を揚げると、組織が焼ける程に熱負荷が増大する。これは炭化と言われ炭化された組織を意味する。これにより傷の治療が妨げられ、有毒な副産物が生成される。従って、炭化によりレーザの出力、すなわち切開速度が限定される。
【0016】
更に、ダイオードレーザのレーザ光では、組織の連結が劣っていることが知られている。血液中の血色素が少なければ少ないほど、レーザ光の吸収は少なくなる。麻酔によって血行が低くなるので、歯科においては、このことが問題となる。時には、レーザ光は、組織と何ら反応もしないか又は僅かに反応する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、医療用に適したダイオードレーザを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
治療すべき部分にレーザ光をパルスの形で照射することにより問題が解決される。
【0019】
すなわち、ダイオードレーザを用いて、固体レーザであるNd:YAGレーザのようなパルスを生成させることにより、上記の炭化の問題が解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明では、ダイオードレーザは、十分な出力を備えていることが前提となる。出力は少なくとも5W、できれば25〜50Wが好ましい。最大出力が高ければ高いほど、所定の時間内のパルスエネルギーが高くなる。更に、レーザ光の波長が問題で、700〜1050nmの領域が必要である。ヘモグロビンにおける吸収が良好な、810nmの波長を有するレーザが好ましい。同様に、940nm+/−10nmの波長を有するレーザも重要である。
【0021】
レーザのパルス幅は2〜500マイクロ秒、好ましくは10〜50マイクロ秒で、パルス間の停止時間はパルス幅よりも長く、好ましくはパルス幅の2〜5倍にすると、炭化に阻害されることなく切開速度を高めることができる。更に、完全に血液のない組織の連結が観察される。
【0022】
本発明による実施例においては、ダイオードレーザが作動中の電流値は、常にレーザエネルギーの生成を開始する値よりも低い値に設定されるように制御される。短時間にダイオードレーザの最大許容電流になるように制御される。この過程を周期的に繰り返す。
【0023】
その結果、矩形のパルスが得られる。しかし、極めて短いパルス幅(50マイクロ秒未満)では、電流の供給が制限されるため矩形のパルスとはならない。パルスは有限の上昇及び下降時間があるため、ガウス曲線又はベル状曲線を呈する。最大にパルスエネルギーを迅速に得るには、ガウス曲線の勾配を大きくすることが重要である。
【0024】
レーザ光を患部に照射するのに、時には石英ファイバーが用いられる。エネルギー密度は径の細さの2乗で増大するので、石英ファイバーの径が小さければ小さいほど組織への作用は大きくなる。
【0025】
レーザエネルギーを集中的に照射できるように、伝送用ファイバーの端末には手動の器具が備えられている。実施例によっては、この器具は二つの部材すなわち本体と前端部から構成され、連結部材を備えている。このようにして、伝送用ファイバーと照射用ファイバーとが分離されている。
【0026】
これによって、破損又は汚染された場合に、ファイバー全体ではなく、単に照射部分を交換すればよい。
【0027】
上述のレーザシステムは、第二のレーザ、好ましくは2940nmの波長の光を発振するEr:YAGレーザにより補完される。これにより、歯科においては、想定される全てに適用可能となる。
【実施例】
【0028】
以下、図面を用いて、本発明の長所、特徴及び詳細を説明する。
【0029】
図1には、本発明によるダイオードレーザを駆動させるエネルギー(Wで表示)の時間変化が示されている。この図では、レーザ光がパルス1.1又は1.2の形で生成されていることがわかる。パルス1.1と1.2の間に、レーザ光が生成されていない時間帯がある。この時間帯には、患者への治療は行なわれない。パルス1.1及び1.2は約30Wのエネルギーを有し、それぞれのパルス1.1、1.2の幅は約16マイクロ秒で、パルス1.1と1.2の間の時間帯は約32マイクロ秒である。パルスは幅広の矩形である。
【0030】
ダイオードレーザでは、矩形のパルスを得ることが難しいので、通常は本発明のように、図2に示されるガウス曲線状のパルス1.3及び1.4を生成させている。曲線の上昇率は、0.1W/マイクロ秒以上なので、比較的急な勾配のベル状曲線が生成される。曲線の下降も同様に変化する。
【0031】
図3には、本発明による好ましいパルス形状が示されている。ここでは、電流又はエネルギーは、常に、レーザが駆動する閾値2より低い値に保たれる。これにより、パルス1.5及び1.6が生成されるまで時間が短縮され、ほぼ矩形に近い急なベル状曲線が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に用いるパルスの模式図
【図2】ガウス曲線状のパルスの模式図
【図3】本発明によるパルス曲線の模式図
【符号の説明】
【0033】
1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6 パルス
2 (電流の)閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ又はダイオードレーザからのレーザ光を用いる治療方法であって、
レーザ光のパルス(1.1〜1.6)が治療すべき部分に照射されることを特徴とする治療方法。
【請求項2】
個々のパルス(1.1〜1.6)の出力は少なくとも10Wであることを特徴とする請求項1に記載の治療方法。
【請求項3】
個々のパルス(1.1〜1.6)の幅は100マイクロ秒より小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の治療方法。
【請求項4】
隣合ったパルスの間隔は、個々のパルスの幅よりも長いことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項5】
隣合ったパルス(1.5、1.6)の間では、レーザのエネルギーは、レーザが駆動する閾値(2)以下に保たれることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項6】
隣合ったパルスの間では、レーザへのエネルギー供給は少なくとも閾値の50%であることを特徴とする請求項5に記載の治療方法。
【請求項7】
パルス(1.1、1.2)は矩形に出力されることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項8】
パルス(1.3、1.4)はガウス曲線状で該曲線の中点域の勾配が0.1W/マイクロ秒より大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項9】
パルスは3角形状で勾配が0.1W/マイクロ秒より大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の治療方法。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9に記載の治療方法を実施する装置であって、
700nm〜1050nmの波長を発振する半導体レーザ又はダイオードレーザに、患部にレーザ光を照射する器具へとレーザ光を伝送する媒質が配されていることを特徴とする治療装置。
【請求項11】
前記媒質が石英ファイバーであることを特徴とする請求項10に記載の治療装置。
【請求項12】
前記ファイバーの径が100〜400マイクロメータであることを特徴とする請求項8に記載の治療装置。
【請求項13】
患部にレーザ光を照射する前記器具は、本体及び本体に着脱可能な先端部から構成され、本体は前記伝送用媒質に固定され、先端部はグラスファイバーを収納していることを特徴とする請求項10ないし請求項12のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項14】
前記本体は、照射用ファイバーにレーザ光を送り込む少なくとも2つの光学素子を備えていることを特徴とする請求13に記載の治療装置。
【請求項15】
前記ダイオードレーザに第二のレーザが配されていることを特徴とする請求項10ないし請求項14のいずれか1項に記載の治療装置。
【請求項16】
前記第二のレーザはEr:YAGレーザであることを特徴とする請求項15に記載の治療装置。
【請求項17】
前記第二のレーザは2940nmの波長の光を発振することを特徴とする請求項15又は請求項16に記載の治療装置。
【請求項18】
前記Er:YAGレーザはそれ自身の伝送媒質及び照射部材を備えていることを特徴とする請求項15に記載の治療装置。
【請求項19】
前記Er:YAGレーザはそれ自身の伝送媒質及び前記ダイオードレーザと共通の照射部材を備えていることを特徴とする請求項15ないし請求項18のいずれか1項に記載の治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−515621(P2009−515621A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540517(P2008−540517)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011003
【国際公開番号】WO2007/057185
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(508149799)エレクシオン ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】