説明

泡状ポリマー中空微粒子及びその製造方法

【課題】内部に複数の隔壁を備えた構造を有する泡状ポリマー中空微粒子、及び当該微粒子を水系媒体中において直接的かつ簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る泡状ポリマー中空微粒子は、水系溶媒中で、特定のブロックポリマーとポリマー混合物とを混合する(具体的には、(A1)のブロックポリマーと(B1)のポリマー混合物とを混合する、又は、(A2)のブロックポリマーと(B2)のポリマー混合物とを混合する)ことにより得られるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に複数の隔壁を備えた構造を有する泡状ポリマー中空微粒子(中空ポリマーカプセル、多細胞型ポリマーベシクル)、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高機能ナノ・マイクロカプセルは、用途に応じて様々な機能が必要とされ、目的に即した構造のデザインが求められる。よって、多様なニーズに応えるためには、その構造制御が重要と考えられている。
従来より、ナノ・マイクロカプセルの構造としては、単細胞型や多細胞型のポリマー中空微粒子(ベシクル)が知られているが、単細胞型ベシクルは、隔壁が外殻の一枚のみであるため、力学的強度及び安定性が十分ではなく、内包物について多段階の徐放プロセスをとることもできない。
これに対し、多細胞型ベシクルは、微粒子内部にも複数の隔壁を備えた構造を有するため、単細胞型ベシクルに比べると力学的強度及び安定性に優れ、多段階の徐放プロセスをとるなどの徐放性制御も可能である。
【0003】
従来、多細胞型ベシクルとして、ミクロンサイズの泡状中空微粒子を水系媒体中で直接的かつ簡便に製造する方法については報告例がなかった。従来の製造方法としては、あらかじめ作製した単細胞型中空微粒子(単細胞型ベシクル)を寄せ集めてクラスター化する方法等がわずかに報告されているのみであった(例えば、非特許文献1及び2参照)。泡状中空微粒子に類似する構造体を、発泡体形成の手法を利用して直接的に製造することも考えられるが、製造過程において微粒子内部の個々の中空部に水分等を封じ込められない点で、該構造体は担体としての応用の幅が限られる。また、微粒子内部の個々の中空部をコントロールする(例えば小さくする)技術も、超臨界二酸化炭素を用いたナノ気泡を用いる手法などの、通常実施が困難な特殊な設備及び環境を要する技術に限られていた(例えば、非特許文献3参照)。他方、水溶性の薬物担体としては、ナノ・マイクロゲルなどをはじめとする多孔体が知られているが、これらは外界に対して連続であり系全体が開放系であるため、封入物が漏れ出し易く(拡散により内包物が失われやすく)、精密な徐放能の制御が困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】L. Zhang et al., Macromolecules, 1996, vol. 29, p. 8805.
【非特許文献2】J. Du, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2004, vol. 43, p. 5084.
【非特許文献3】Yokoyama, H. et al., Adv. Mater., 2004, vol. 16, p. 1542.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下において、内部に複数の隔壁を備えた構造を有する泡状ポリマー中空微粒子を水系媒体中において直接的かつ簡便に製造する方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、泡状ポリマー中空微粒子及び当該中空微粒子の製造方法等を提供するものである。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
(1)水系溶媒中で、下記(A1)のブロックポリマーと下記(B1)のポリマー混合物とを混合する、又は下記(A2)のブロックポリマーと下記(B2)のポリマー混合物とを混合することにより得られる、泡状ポリマー中空微粒子。
(A1) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(B1) 下記(i)のブロックコポリマー及び下記(ii)のポリマーを含むポリマー混合物
(i) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(ii) カチオン性のポリマー鎖セグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まない)
(A2) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(B2) 下記(iii)のブロックコポリマー及び下記(iv)のポリマーを含むポリマー混合物
(iii) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(iv) アニオン性のポリマー鎖セグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まない)
【0008】
本発明の泡状ポリマー中空微粒子は、例えば、(B1)のポリマー混合物中における(i)のブロックコポリマーと(ii)のポリマーとのモル比、及び(B2)のポリマー混合物中における(iii)のブロックコポリマーと(iv)のポリマーとのモル比が、10:90〜30:70であるものや、(A1)のブロックコポリマーと(B1)のポリマー混合物との総電荷比、及び(A2)のブロックコポリマーと(B2)のポリマー混合物との総電荷比が、0.5:1.0〜1.0:0.5であるものが挙げられる。
【0009】
本発明の泡状ポリマー中空微粒子において、(A1)及び(iii)のブロックコポリマーは、例えば、下記一般式(I)及び/又は(II)で示されるものが挙げられる。
【化1】

〔一般式(I)及び(II)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、yはnより大きくないものとし、また、一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【0010】
本発明の泡状ポリマー中空微粒子において、(A2)及び(i)のブロックコポリマーは、例えば、下記一般式(III) 及び/又は(IV)で示されるものが挙げられる。
【化2】

〔一般式(III)及び(IV)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R5a、R5b、R5c及びR5dはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH2a−X基を表し(ここで、aは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基である)、R5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2であり、eは1〜5の整数である)が少なくとも2つ以上存在し、R6a及びR6bはそれぞれ独立して水素原子又は保護基(ここで、保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基又はトリフルオロアセチル基である)であり、tは2〜6の整数であり、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数であり、y+zはnより大きくないものとし、また、一般式(III)及び(IV)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【0011】
本発明の泡状ポリマー中空微粒子において、(iv)のポリマーは、例えば、下記一般式(V)及び/又は(VI)で示されるものが挙げられる。
【化3】

〔一般式(V)及び(VI)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、yはnより大きくないものとし、また、一般式(V)及び(VI)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【0012】
本発明の泡状ポリマー中空微粒子において、(ii)のポリマーは、例えば、下記一般式(VII)及び/又は(VIII)で示されるものが挙げられる。
【化4】

〔一般式(VII)及び(VIII)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R5a、R5b、R5c及びR5dはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH2a−X基を表し(ここで、aは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基である)、R5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2であり、eは1〜5の整数である)が少なくとも2つ以上存在し、R6a及びR6bはそれぞれ独立して水素原子又は保護基(ここで、保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基又はトリフルオロアセチル基である)であり、tは2〜6の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数であり、y+zはnより大きくないものとし、また、一般式(VII)及び(VIII)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【0013】
本発明の泡状ポリマー中空微粒子は、例えば、水溶性物質を内包可能なものが挙げられ、具体的には、水溶性タンパク質等の高分子量の水溶性物質を内包可能なものが挙げられる。
本発明の泡状ポリマー中空微粒子は、例えば、徐放性を有するものが挙げられる。
本発明の泡状ポリマー中空微粒子は、例えば、平均粒径が100 nm〜100μmであるものが挙げられる。
【0014】
(2)水系溶媒中で、下記(A1)のブロックポリマーと下記(B1)のポリマー混合物とを混合する、又は下記(A2)のブロックポリマーと下記(B2)のポリマー混合物とを混合することを特長とする、泡状ポリマー中空微粒子の製造方法。
(A1) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(B1) 下記(i)のブロックコポリマー及び下記(ii)のポリマーを含むポリマー混合物
(i) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(ii) カチオン性のポリマー鎖セグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まない)
(A2) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(B2) 下記(iii)のブロックコポリマー及び下記(iv)のポリマーを含むポリマー混合物
(iii) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(iv) アニオン性のポリマー鎖セグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まない)
【0015】
本発明の製造方法は、例えば、(B1)のポリマー混合物中における(i)のブロックコポリマーと(ii)のポリマーとのモル比、及び(B2)のポリマー混合物中における(iii)のブロックコポリマーと(iv)のポリマーとのモル比が、10:90〜30:70である方法や、(A1)のブロックコポリマーと(B1)のポリマー混合物との総電荷比、及び(A2)のブロックコポリマーと(B2)のポリマー混合物との総電荷比が、0.5:1.0〜1.0:0.5である方法挙げられる。
【0016】
本発明の製造方法においては、(A1)及び(iii)のブロックコポリマーは、例えば、下記一般式(I)及び/又は(II)で示されるものが挙げられる。
【化5】

〔一般式(I)及び(II)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、yはnより大きくないものとし、また、一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【0017】
本発明の製造方法においては、(A2)及び(i)のブロックコポリマーは、例えば、下記一般式(III) 及び/又は(IV)で示されるものが挙げられる。
【化6】

〔一般式(III)及び(IV)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R5a、R5b、R5c及びR5dはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH2a−X基を表し(ここで、aは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基である)、R5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2であり、eは1〜5の整数である)が少なくとも2つ以上存在し、R6a及びR6bはそれぞれ独立して水素原子又は保護基(ここで、保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基又はトリフルオロアセチル基である)であり、tは2〜6の整数であり、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数であり、y+zはnより大きくないものとし、また、一般式(III)及び(IV)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【0018】
本発明の製造方法においては、(iv)のポリマーは、例えば、下記一般式(V)及び/又は(VI)で示されるものが挙げられる。
【化7】

〔一般式(V)及び(VI)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、yはnより大きくないものとし、また、一般式(V)及び(VI)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【0019】
本発明の製造方法においては、(ii)のポリマーは、例えば、下記一般式(VII)及び/又は(VIII)で示されるものが挙げられる。
【化8】

〔一般式(VII)及び(VIII)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R5a、R5b、R5c及びR5dはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH2a−X基を表し(ここで、aは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基である)、R5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2であり、eは1〜5の整数である)が少なくとも2つ以上存在し、R6a及びR6bはそれぞれ独立して水素原子又は保護基(ここで、保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基又はトリフルオロアセチル基である)であり、tは2〜6の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数であり、y+zはnより大きくないものとし、また、一般式(VII)及び(VIII)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、内部に複数の隔壁を備えた構造を有する泡状ポリマー中空微粒子を水系媒体中において直接的かつ簡便に製造する方法を提供することができる。当該製造方法により得られる泡状ポリマー中空微粒子は、生体適合性に優れ、空隙率が高く、内部の中空部のサイズをサブミクロンオーダーで制御することができ、当該中空部に“生のまま”水溶液を封入でき(例えばタンパク質等のデリケートな物質を溶液状態で内包でき)、また封入物(内包物)の精密な徐放性の制御(ファインチューニング)が可能であるなどの点で、付加価値が高く、極めて有用性に優れたものである。
【0021】
さらに、本発明によれば、環境負荷の低い温和な環境において、簡便な手法により多細胞型のベシクルとしての泡状ポリマー中空微粒子を製造可能であるため、得られた中空微粒子は、薬物担体などに代表される生体材料としての応用のみならず、環境調和型の高機能材料として極めて高い実用性及び将来性等を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1−1】生理条件下の水系溶媒中における、PEGセグメントを有する荷電性ポリマー(カチオン性及びアニオン性ポリマー)と、PEGセグメントを有さない荷電性ポリマー(カチオン性ポリマー)との混合による、ポリイオンコンプレックス形成の駆動力を用いた、泡状ポリマー中空微粒子の製造過程を示す該略図である。
【図1−2】生理条件下の水系溶媒中における、PEGセグメントを有する荷電性ポリマー(カチオン性及びアニオン性ポリマー)と、PEGセグメントを有さない荷電性ポリマー(アニオン性ポリマー)との混合による、ポリイオンコンプレックス形成の駆動力を用いた、泡状ポリマー中空微粒子の製造過程を示す該略図である。
【図2】図1−1の製造過程において、PEGセグメントを有するカチオン性ポリマー(b)と、PEGセグメントを有さないカチオン性ポリマー(h)との混合比率(モル比)を変化させた場合の、泡状ポリマー中空微粒子等の形態変化を観察(暗視野顕微鏡(DFM)による観察)した結果を示す図である。
【0023】
【図3】図1−2の製造過程において、PEGセグメントを有するアニオン性ポリマー(b)と、PEGセグメントを有さないアニオン性ポリマー(h)との混合比率(モル比)を変化させた場合の、泡状ポリマー中空微粒子等の形態変化を観察(位相差顕微鏡による観察)した結果を示す図である。図1−2の製造過程を実施した場合も、図1−1の製造過程を実施した場合と比べて、得られた微粒子は類似の挙動を示した。
【図4】図1−2の製造過程において、仕込みのポリマー濃度を変化させた場合の、泡状ポリマー中空微粒子等の形態変化を観察(透過型電子顕微鏡(TEM)による観察)した結果を示す図である。なお、透過型電子顕微鏡による観察を行うために、製造された各微粒子はグルタルアルデヒドの添加により架橋処理し、構造を強化及び固定した。
【0024】
【図5】b:h = 4:6, 2:8, 0:10のDFM画像の図である。
【図6】b:h = 4:6(左), 0:10(右)の位相差顕微鏡画像の図である。
【図7】Compound Vesicle (CV)の概念図である。
【図8】調製時の条件による構造体の差異を示す図である。
【図9】b:h = 0:10, 1 mg/mLのTEM画像の図である。
【図10】b:h = 0:10, 2 mg/mLのTEM画像の図である。
【図11】b:h = 2:8, 1 mg/mLのTEM画像の図である。
【図12】b:h = 2:8, 1.5 mg/mLのTEM画像の図である。
【図13】b:h = 2:8, 2 mg/mLのTEM画像の図である。
【図14】b:h = 4:6, 1 mg/mLのTEM画像の図である。
【図15】b:h = 4:6, 1.5 mg/mLのTEM画像の図である。
【0025】
【図16】b:h = 4:6, 2 mg/mLのTEM画像の図である。
【図17】Gyroid構造の概念図である。
【図18】Gyroid(a)、Diamond(b)、Primitive(c)構造の概念図。
【図19】b:h = 0:10, 2 mg/mLのSTEMトモグラフィー像の図である。
【図20】b:h = 2:8, 2 mg/mLのSTEMトモグラフィー像の図である。
【図21】b:h = 4:6, 2 mg/mLのSTEMトモグラフィー像の図である。
【図22】FITC-dex(Mw : 10,000)の浸透挙動(未架橋、7時間後)を示す図である。
【図23】FITC-dex(Mw : 2,000,000)の浸透挙動(架橋、7時間後)を示す図である。
【図24】FITC-dex(Mw : 10,000)のリリース挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0027】

1.本発明の概要
本発明は、水系溶媒中(例えば生理条件に近いバッファー溶液中)で、直接的かつ簡便に、ポリマーナノ・マイクロカプセルとしての泡状ポリマー中空微粒子(多細胞型ベシクル)を製造する方法に関する。当該中空微粒子は、内部に複数の隔壁を有することにより複数の中空部を備えた構造を有する微粒子であり、例えば、PEGセグメントを有する荷電性ポリマー(カチオン性及びアニオン性ポリマー)の水溶液と、PEGセグメントを有さない荷電性ポリマー(カチオン性又はアニオン性ポリマー)の水溶液とを適当な比率で混合することで、調製することができる。当該調製時には、静電相互作用によるポリイオンコンプレックス形成が駆動力となり、また、分子集合構造の制御(ポリイオンコンプレックスの構造制御)を行うことができる。特に、製造条件をコントロールすることで、中空部(泡粒)の一つ一つのサイズを制御することができる。当該中空微粒子は、上述したように、生理条件に近い水溶液環境で調製できるため、タンパク質などのデリケートな物質をマイルドな環境で封入できる。当該中空微粒子は、PEGに覆われた状態の構造を有するため、種々の物質の吸着や無用な相互作用を抑えることができ、また、血流中に移行しない、あるいは血管から漏出しにくい作用効果が期待できるため、長期徐放を実現する薬物担体としても非常に有力である。また、当該中空微粒子は、その構造形成時に、中空部に所望の物質をトラップする原理を用いることにより、封入(内包)物質の物性に応じて構造体形成の駆動力を最適化する必要のない物質封入を可能とするものである。この点は、高分子ミセル複合体による物質封入における弱点(汎用性の低さ等)を克服するものであり、また、吸着に頼らない幅広い物質の担持が可能なことから、吸着型担体でしばしば見られる封入物そのものへのダメージを回避し得るものである。
【0028】
さらに、当該中空微粒子は、ポリマー側鎖の荷電のソースとして-COO-と-NH3+を用いることで、ポリイオンコンプレックス形成後の架橋反応を行うことが容易であり、強度、安定性、物質透過性などの膜物性が架橋密度によりチューニング可能である。また、全体としては、外部に対して閉じた多細胞型構造を有しているため、封入物の漏れ出しを適切に防止できる。加えて、多細胞型構造は多重の隔壁があることを意味する構造でもあるので、封入物の放出の多段階制御が可能である。さらに、全体としてポリイオンコンプレックス膜がスポンジ状構造をとることで、リポソーム等の単一膜からなる中空微粒子型カプセルに比して、優れた物質透過性の制御、高い強度及び安定性が実現可能である。
【0029】

2.泡状ポリマー中空微粒子及びその製造方法
本発明の泡状ポリマー中空微粒子の製造方法は、前述した通り、水系溶媒中で、下記(A1)のブロックポリマーと下記(B1)のポリマー混合物とを混合するか、又は下記(A2)のブロックポリマーと下記(B2)のポリマー混合物とを混合することを特徴とする製造方法である。なお、本発明は、当該製造方法により得られる泡状ポリマー中空微粒子、並びに、泡状ポリマー中空微粒子を製造するための、下記(A1)のブロックポリマー及び下記(B1)のポリマー混合物、又は下記(A2)のブロックポリマー及び下記(B2)のポリマー混合物の使用も包含するものである。
【0030】
(A1) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(B1) 下記(i)のブロックコポリマー及び下記(ii)のポリマーを含むポリマー混合物
(i) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(ii) カチオン性のポリマー鎖セグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まない)
【0031】
(A2) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(B2) 下記(iii)のブロックコポリマー及び下記(iv)のポリマーを含むポリマー混合物
(iii) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(iv) アニオン性のポリマー鎖セグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まない)
【0032】
上記各ブロックコポリマー中の非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントに関して、「非荷電」とは、セグメントが全体として中性であることを意味する。例えばセグメントが正及び負の電荷を有さない場合が挙げられる。また、セグメントが正又は負の荷電を分子内に有する場合であっても、局所的な実効電荷密度が高くなく、自己組織化によるベシクルの形成を妨げない程度にセグメント全体の荷電が中和されている場合も、「非荷電」に該当する。また、「親水性」とは、水性媒体に対して溶解性を示すことを意味する。
【0033】
非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとしては、限定はされないが、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(2−イソプロピル−2−オキサゾリン)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ヒドロキシエチル、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチル)及びポリ(2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン)からなる群より選ばれる水溶性ポリマーに由来するものが好ましく挙げられ、中でも、PEGに由来するものがより好ましい。当該非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントは、親水性であることから優れた生体適合性を本発明の高分子ミセル複合体に付与するものである。
なお、本発明においては、前記(B1)(ii)及び(B2)(iii)のポリマーのように、非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まないポリマーを、便宜上、ホモポリマーということがある。
【0034】
前記(B1)(i),(ii)及び(A2)の各ポリマーにおいて、カチオン性のポリマー鎖セグメントとしては、限定はされないが、例えば、側鎖にカチオン性基を有するポリペプチドに由来するものが好ましく挙げられる。同様に、前記(A1)及び(B2)(iii),(iv)の各ポリマーにおいて、アニオン性のポリマー鎖セグメントとしては、限定はされないが、例えば、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドや核酸に由来するものが好ましく挙げられる。
【0035】
より具体的には、前記(A1)及び(B2)(iii)の各ブロックコポリマーとしては、例えば、下記一般式(I)及び/又は(II)で示されるものが好ましく挙げられる。
【化9】

【0036】
ここで、一般式(I)及び(II)の構造式中、繰り返し単位数(重合度)が「m」のセグメントがPEG由来の非荷電性親水性ポリマー鎖セグメント(以下、PEGセグメント)であり、繰り返し単位数が「n−y」の部分と「y」の部分とを合わせたセグメントがポリアニオン由来のアニオン性ポリマー鎖セグメント(以下、ポリアニオンセグメント)である。
【0037】
一般式(I)及び(II)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表す。直鎖もしくは分枝のC1-12としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。また置換された場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ−C1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基を挙げることができる。ここで、アセタール化とは、ホルミルのカルボニルと、例えば、炭素数1〜6個のアルカノールの2分子又は炭素原子数2〜6個の分岐していてもよいアルキレンジオールとの反応によるアセタール部の形成を意味し、当該カルボニル基の保護方法でもある。例えば、置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して他の置換基であるホルミル基(−CHO:又はアルデヒド基)に転化できる。
【0038】
一般式(I)及び(II)中、L1及びL2は、連結基を表す。具体的には、L1は−(CH2b−NH−(ここで、bは1〜5の整数である)であることが好ましく、L2は−(CH2c−CO−(ここで、cは1〜5の整数である)であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、R2a、R2b、R2c及びR2dは、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表す。R2a及びR2bのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当し、また、R2c及びR2dのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当する。これらの一般式中、R2a及びR2b(R2b及びR2a)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、及びR2c及びR2d(R2d及びR2c)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、アスパラギン酸誘導体およびグルタミン酸誘導体の反復単位は、それぞれブロックを形成して存在するか、あるいはランダムに存在できる。
【0039】
一般式(I)及び(II)中、R3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表す。具体的には、R3は、アセチル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、R4は水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH2a−X基又は開始剤残基を表す。ここで、aは1〜5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。さらには場合により、R4が−NH−R9(ここで、R9は未置換又は置換された直鎖又は分枝のC1-20アルキル基を表す)であることが好ましい。
一般式(I)及び(II)中、mは5〜2,000の整数であり、5〜270の整数であることが好ましく、より好ましくは10〜100の整数である。また、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、n及びyは、5〜300の整数であることが好ましく、より好ましくは10〜100の整数である。但し、yはnより大きくないものとする。
【0040】
一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は、記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。特に、ポリアニオンセグメント中における各繰り返し単位についてのみ、上記の通りランダムな順で存在し得ることが好ましい。
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの分子量(Mw)は、限定はされないが、3,000〜30,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜20,000である。また、個々のセグメントについては、PEGセグメントの分子量(Mw)は、500〜15,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜5,000であり、ポリアニオンセグメントの分子量(Mw)は、全体で500〜50,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜20,000である。
【0041】
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの製造方法は、限定はされないが、例えば、R1aO−又はR1bO−とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R1aO−又はR1bO−と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をアニオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、アニオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。上記PEGセグメントは、例えば、WO 96/32434号公報、WO 96/33233号公報及びWO 97/06202号公報等に記載のブロック共重合体のPEGセグメント部分の製法を用いて調製することができる。
【0042】
一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの、より具体的な製造方法としては、例えば、末端にアミノ基を有するPEGセグメント誘導体を用いて、そのアミノ末端に、β-ベンジル-L-アスパルテート(BLA)及びNε-Z-L-リシン等の保護アミノ酸のN-カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後、各セグメントの側鎖が前述したアニオン性基を有する側鎖となるように置換又は変換する方法が好ましく挙げられる。
本発明において、一般式(I)及び(II)で示されるブロックコポリマーの具体例としては、例えば、後述する実施例に記載の、PEG-P(Asp)と表記したブロックコポリマー等が好ましく挙げられる。PEG-P(Asp)としては、PEGセグメントの分子量(MW):2,000,ポリアニオンセグメントを示すP(Asp)のユニット数:70又は75であるものが特に好ましい。
【0043】
前記(A2)及び(B1)(i)の各ブロックコポリマーとしては、例えば、下記一般式(III)及び/又は(IV)で示されるものが好ましく挙げられる。
【化10】

【0044】
ここで、一般式(III)及び(IV)の構造式中、繰り返し単位数(重合度)が「m」のセグメントがPEG由来の非荷電性親水性ポリマー鎖セグメント(PEGセグメント)であり、繰り返し単位数が「n−y−z」の部分と「y」の部分と「z」の部分とを合わせたセグメントがポリカチオン由来のカチオン性ポリマー鎖セグメント(以下、ポリカチオンセグメント)である。
【0045】
一般式(III)及び(IV)中、R1a及びR1bは、それぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表す。直鎖もしくは分枝のC1-12としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。また置換された場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1-6アルコキシカルボニル基、C2-7アシルアミド基、同一もしくは異なるトリ−C1-6アルキルシロキシ基、シロキシ基又はシリルアミノ基を挙げることができる。ここで、アセタール化とは、ホルミルのカルボニルと、例えば、炭素数1〜6個のアルカノールの2分子又は炭素原子数2〜6個の分岐していてもよいアルキレンジオールとの反応によるアセタール部の形成を意味し、当該カルボニル基の保護方法でもある。例えば、置換基がアセタール化ホルミル基であるときは、酸性の温和な条件下で加水分解して他の置換基であるホルミル基(−CHO:又はアルデヒド基)に転化できる。
【0046】
一般式(III)及び(IV)中、L1及びL2は、連結基を表す。具体的には、L1は−(CH2b−NH−(ここで、bは1〜5の整数である)であることが好ましく、L2は−(CH2c−CO−(ここで、cは1〜5の整数である)であることが好ましい。
一般式(III)及び(IV)中、R2a、R2b、R2c及びR2dは、それぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表す。R2a及びR2bのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当し、また、R2c及びR2dのいずれもがメチレン基の場合はポリ(アスパラギン酸誘導体)に相当し、エチレン基の場合はポリ(グルタミン酸誘導体)に相当する。これらの一般式中、R2a及びR2b(R2b及びR2a)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、及びR2c及びR2d(R2d及びR2c)がメチレン基及びエチレン基の両者を表す場合、アスパラギン酸誘導体およびグルタミン酸誘導体の反復単位は、それぞれブロックを形成して存在するか、あるいはランダムに存在できる。
【0047】
一般式(III)及び(IV)中、R3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表す。具体的には、R3は、アセチル基、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることが好ましい。
一般式(III)及び(IV)中、R4は水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH2a−X基又は開始剤残基を表す。ここで、aは1〜5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン、四級アンモニウム塩又はグアニジノ基の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。さらには場合により、R4が−NH−R9(ここで、R9は未置換又は置換された直鎖又は分枝のC1-20アルキル基を表す)であることが好ましい。
【0048】
一般式(III)及び(IV)中、R5a、R5b、R5c及びR5dは、それぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH2a−X基を表す。ここで、aは1〜5の整数であり、Xは、一級、二級、三級アミン、四級アンモニウム塩又はグアニジノ基の内の1種類又は2種類以上を含むアミン化合物残基、又は、アミンでない化合物残基であることが好ましい。
5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2(但しeは0〜5の整数)である)であるものが、少なくとも2つ以上存在することが好ましく、上記総数の50%以上存在することがより好ましく、上記総数の85%以上存在することがさらに好ましい。
また、R5a、R5b、R5c及びR5dのすべて又は一部が、−NH−(CH2a−X基(ここで、aは2であり、Xは(NH(CH22e−NH2(但しeは1)である)ことが好ましい。
【0049】
さらに、R4並びにR5a、R5b、R5c及びR5dの例示として上記した−NH−(CH2a−X基において、Xが下記の各式で表される基から選ばれるものである場合が特に好ましい。
【化11】

【0050】
ここで、上記の各式中、X2は、水素原子又はC1-6アルキル基もしくはアミノC1-6アルキル基を表し、R7a、R7b及びR7cは、それぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、d1、d2及びd3は、それぞれ独立して1〜5の整数を表し、e1、e2及びe3は、それぞれ独立して1〜5の整数を表し、fは、0〜15の整数を表し、gは0〜15の整数を表し、R8a及びR8bは、それぞれ独立して水素原子又は保護基を表す。ここで、当該保護基は、通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。
一般式(III)及び(IV)中、R6a及びR6bは、それぞれ独立して水素原子、−C(=NH)NH2、又は保護基であり、ここで保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基、及びトリフルオロアセチル基からなる群より選ばれる基であることが好ましい。また、一般式(III)及び(IV)中、tは2〜6の整数であることが好ましく、より好ましくは3又は4である。
【0051】
一般式(III)及び(IV)中、mは5〜2,000の整数であり、5〜270の整数であることが好ましく、より好ましくは10〜100の整数である。また、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数である。nは、5〜300の整数であることが好ましく、より好ましくは0又は10〜100の整数である。y及びzは、0又は5〜300の整数であることが好ましく、より好ましくは0又は10〜100の整数である。但し、yとzとの合計(y+z)は、nより大きくないものとする。
一般式(III)及び(IV)における各繰り返し単位は、記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。特に、ポリカチオンセグメント中における各繰り返し単位についてのみ、上記の通りランダムな順で存在し得ることが好ましい。
【0052】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの分子量(Mw)は、限定はされないが、23,000〜45,000であることが好ましく、より好ましくは28,000〜34,000である。また、個々のセグメントについては、PEGセグメントの分子量(Mw)は、500〜15,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜5,000であり、ポリカチオンセグメントの分子量(Mw)は、全体で500〜50,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜30,000である。
【0053】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの製造方法は、限定はされないが、例えば、R1aO−又はR1bO−とPEG鎖のブロック部分とを含むセグメント(PEGセグメント)を予め合成しておき、このPEGセグメントの片末端(R1aO−又はR1bO−と反対の末端)に、所定のモノマーを順に重合し、その後必要に応じて側鎖をカチオン性基を含むように置換又は変換する方法、あるいは、上記PEGセグメントと、カチオン性基を含む側鎖を有するブロック部分とを予め合成しておき、これらを互いに連結する方法などが挙げられる。当該製法における各種反応の方法及び条件は、常法を考慮し適宜選択又は設定することができる。上記PEGセグメントは、例えば、WO 96/32434号公報、WO 96/33233号公報及びWO 97/06202号公報等に記載のブロック共重合体のPEGセグメント部分の製法を用いて調製することができる。
【0054】
一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの、より具体的な製造方法としては、例えば、末端にアミノ基を有するPEGセグメント誘導体を用いて、そのアミノ末端に、β-ベンジル-L-アスパルテート(BLA)及びNε-Z-L-リシン等の保護アミノ酸のN-カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後、各セグメントの側鎖が前述したカチオン性基を有する側鎖となるように、ジエチレントリアミン(DET)等で置換又は変換する方法が好ましく挙げられる。
本発明において、一般式(III)及び(IV)で示されるブロックコポリマーの具体例としては、例えば、後述する実施例に記載の、PEG-P(Asp-AP)と表記したブロックコポリマー等が好ましく挙げられる。PEG-P(Asp-AP)としては、PEGセグメントの分子量(MW):2,000,ポリカチオンセグメントを示すP(Asp-AP)のユニット数:70又は75であるものが特に好ましい。
【0055】
前記(B2)(iv)のポリマーとしては、例えば、下記一般式(V)及び/又は(VI)で示されるものが好ましく挙げられる。なお、一般式(V)及び(VI)に関する説明については、前述した一般式(I)及び(II)に関する説明(但しPEGセグメントに関する説明は除く)が、適宜同様に適用できる。
【化12】

【0056】
本発明において、一般式(V)及び(VI)で示されるポリマーの具体例としては、例えば、後述する実施例に記載の、Homo-P(Asp)と表記したコポリマー等が好ましく挙げられる。Homo-P(Asp)としては、ポリアニオンセグメントを示すP(Asp)のユニット数:70又は82であるものが特に好ましい。
【0057】
前記(B1)(ii)のポリマーとしては、例えば、下記一般式(VII)及び/又は(VIII)で示されるものが好ましく挙げられる。なお、一般式(VII)及び(VIII)に関する説明については、前述した一般式(III)及び(IV)に関する説明が、適宜同様に適用できる。
【化13】

【0058】
本発明において、一般式(VII)及び(VIII)で示されるポリマーの具体例としては、例えば、後述する実施例に記載の、Homo-P(Asp-AP)と表記したポリマー等が好ましく挙げられる。Homo-P(Asp-AP)としては、ポリカチオンセグメントを示すP(Asp-AP)のユニット数:70又は82であるものが特に好ましい。
【0059】
本発明の製造方法において、水系溶媒中で混合する、(A1)のブロックポリマー及び(B1)のポリマー混合物、並びに(A2)のブロックポリマー及び(B2)のポリマー混合物は、それぞれ予め水溶液状態にしたものを用いることが好ましい。
本発明の製造方法に用いられる水系溶媒としては、限定はされず、例えば生理条件下で用いられるバッファー溶液等が好ましく、具体的には、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)、Tris、リン酸塩等を含むバッファー溶液が好ましい。
また上記水系溶媒のpHは、限定はされないが、例えば5.5〜9.5が好ましく、より好ましくは6.5〜8.5である。
【0060】
本発明の製造方法においては、水系溶媒中で混合する、(A1)のブロックコポリマーと(B1)のポリマー混合物との総電荷比((A1):(B1))、又は(A2)のブロックコポリマーと(B2)のポリマー混合物との総電荷比((A2):(B2))は、限定はされないが、いずれも、例えば、0.5:1.0〜1.0:0.5であることが好ましく、より好ましくは0.9:1.1〜1.1:0.9であり、特に好ましくは1:1である。総電荷比が上記範囲内となるように混合することで、粒子の収量を増やす(収率を高める)等の効果が得られる。
また本発明の製造方法においては、水系溶媒中に添加した(A1)のブロックコポリマー及び(B1)のポリマー混合物の濃度は、限定はされないが、いずれも、0.1〜100 mg/mLであることが好ましく、より好ましくは0.5〜10 mg/mLである。同様に、水系溶媒中に添加した(A2)のブロックコポリマー及び(B2)のポリマー混合物の濃度も、いずれも、0.1〜100 mg/mLであることが好ましく、より好ましくは0.5〜10 mg/mLである。
【0061】
さらに、水系溶媒中に添加する(B1)のポリマー混合物及び(B2)のポリマー混合物は、それぞれ、(i)のブロックコポリマーと(ii)のポリマーとのモル比((i):(ii))、及び(iii)のブロックコポリマーと(iv)のポリマーとのモル比((iii):(iv))が、10:90〜30:70であることが好ましく、例えば、20:80に設定することもできる。 (B1)及び(B2)のポリマー混合物中のポリマー組成比を、上記範囲内とすることで、所望の泡状ポリマー中空微粒子を安定して形成することができ、例えば粒子内に十分な中空部を有さないコアセルベート型の粒子が形成されるのを効果的に抑制することができる。また、ポリマー組成比を調整することで、得られる中空微粒子の中空部のサイズを適宜コントロールすることができる。
【0062】
本発明の製造方法において、前述した各種ポリマー及びポリマー混合物(これらは、予め溶液状態で取り扱うことが好ましい。)の水系溶媒への添加方法は、限定はされず、それぞれ、一括添加であってもよいし、逐次添加であってもよい。また、添加後の混合時間及び混合速度についても、特に限定はされないが、例えば、混合時間:1分〜10分、混合速度:500〜5,000 rpmであることが好ましい。
上記混合後、形成された泡状ポリマー中空微粒子の単離及び精製は、定法により、水系媒体中から回収することができる。典型的な方法としては、限外濾過法、ダイアフィルトレーション、透析方法等が挙げられる。
【0063】
本発明の製造方法により得られる泡状ポリマー中空微粒子は、粒子内部に複数の隔壁を有することにより複数の中空部を備えた構造を有する微粒子であるが、当該中空微粒子としては、外部に対して閉鎖系である微粒子には限定はされず、外部に対して開放系である微粒子も含まれていてもよい。後者の微粒子としては、例えば、Gyroidと称されるミクロ相分離構造を有する微粒子が挙げられる。Gyroidはブロックコポリマーの系で熱力学的安定相として出現する共連続ミクロ相分離構造の一種であり、界面面積最小構造の一つとして説明されるものである。
本発明の泡状ポリマー中空微粒子は、前述のように、生理条件下等の穏和な条件下の水系溶媒中でも直接的かつ簡便に調製されるものである。よって、当該中空微粒子は、各々の中空部に、各種水溶性物質、好ましくは高分子量の水溶性物質、より好ましくは水溶性タンパク質等を内包することができる。各種水溶性物質を内包する場合は、ポリマー成分を混合する前に、予め水系溶媒中に水溶性物質を所望の濃度で溶解させておくことが好ましい。
【0064】
また、本発明の製造方法により得られる泡状ポリマー中空微粒子は、徐放性を有するものである。当該中空微粒子は、内部に独立した中空部を複数有するため、中空部を複数有さないものに比べて、より精密な徐放性の制御(ファインチューニング)が可能である。具体的には、当該中空微粒子の徐放性のレベル(徐放可能な期間)は、例えば、1秒〜1年、または1分〜1ヶ月、さらには1時間〜2週間に制御することができる。
本発明の製造方法により得られる泡状ポリマー中空微粒子は、限定はされないが、例えば、動的光散乱測定法(DLS)又はレーザー回折法による平均粒径が、100 nm〜100μmのものや、0.5〜20μmのものが挙げられる。また、当該中空微粒子中の各コンパートメント(各中空部分)のサイズは、限定はされないが、例えば、10 nm〜3μm程度とすることができ、各コンパートメント間の壁部分(隔壁)の厚みは、限定はされないが、例えば、5〜30 nm程度にすることができる。
【0065】
本発明の泡状ポリマー中空微粒子は、従来の各種中空微粒子と同様に、各種用途に用い得る組成物の構成要素として用いることができる。例えば、各種疾患(例えば癌等)治療用及び診断用医薬組成物や、各種組織(例えば腫瘍組織等)検出用及びメージング用組成物、麻酔薬などに好ましく用いることができる。また、本発明においては、これら各種組成物を含むキットについても提供され得る。
【0066】

以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0067】
1.概要
(1) ポリイオンコンプレックス(PIC)の調製
ポリエチレングリコール(PEG)とポリアスパラギン酸、あるいは、PEGとアスパラギン酸側鎖に1級アミノ基を導入したポリアスパルタミドからなるジブロック共重合体、及び対応するPEGのないホモポリアスパラギン酸、ホモポリアスパルタミドを合成した(図1-1, 1-2)。ここで、ポリアスパラギン酸含有ポリマーをポリアニオンとして、ポリアスパルタミド含有ポリマーをポリカチオンとして利用した。所定の比率でそれぞれのポリマーを混合した。この時、混合溶液全体では電気的中性が保たれるように混合比を決定した。2分間撹拌した後、生じた微粒子(ポリイオンコンプレックス(PIC)微粒子)を暗視野顕微鏡、位相差顕微鏡にて観察すると、直径数ミクロンの粒子が生成していることが分かった。暗視野観察から内部に散乱があることがわかり、この微粒子が微細構造を有することが分かった(図2)。位相差観察からも一枚膜ベシクルとは異なり、内部にポリマーが分布しており、微細構造を有することが示唆された(図3)。
【0068】
(2) TEMによる微粒子の内部構造観察
次に、微粒子の構造をグルタルアルデヒドによる架橋処理により固定し、樹脂包埋後に超薄切片を作製して透過型電子顕微鏡観察を行った。その結果、得られた微粒子が薄い膜で仕切られた多数の空孔(中空部)を有する構造であることが示された(図4、図7)。即ち、得られた微粒子は、壁(隔壁)で各コンパートメントが仕切られた泡状構造をとっていることがわかった(以下、この微粒子をPIC-foamと呼ぶ。)。さらに、仕込みのポリマー濃度を変えることで、各コンパートメントのサイズが制御できることが分かった。
【0069】
(3) CLSMによるPICsomeの透過性評価
次に、グルタルアルデヒド、あるいは、WSC(水溶性カルボジイミド)を用いてPIC-foam中のPIC膜の架橋処理の効果を検討した。未架橋PIC-foamは遠心分離後、当初構造を喪失してしまうが、架橋型PIC-foamは遠心分離しても初期形態を維持しており、強度が向上していることがわかった。また、遠心による粒子の回収、濃縮が可能であることが示された。
続いて、内部への物質封入を検討した。微粒子調製時にモデルゲスト化合物である蛍光デキストランを共存させたところ、共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)観察から、内部にデキストランが分布していることが分かった。これより、水溶性高分子物質を簡便に封入できることが明らかとなった。また、PIC-foamを構成する膜が物質透過性を示すことも分かった。
【0070】

2.PIC調製
2-1. 概要
(1)種々の条件におけるPIC調製
PICはPEG含有率、添加塩濃度といったパラメータの影響を受けてその構造を変えることが分かっている。しかしそれらのパラメータが構造に与える影響の詳細な検討は未だなされていない。そこで本実施例では、PEG含有率、添加塩濃度、ポリマー濃度の3つのパラメータが、PICの構造に与える影響を調べることとした。得られた粒子の評価は、動的光散乱法によるサイズ測定と、暗視野顕微鏡及び位相差顕微鏡を用いた観察により行った。
【0071】
(2)PEG含有率の制御法
PEG含有率の影響を調べる方法として、以前の研究においては、ポリカチオンとしてブロックコポリマーとホモポリマーの混合物を用い、さらにポリアニオンとしてブロックコポリマーのポリマー鎖間にジスルフィド結合を導入したものを用い、還元環境においてジスルフィドが開裂しホモポリマーになったときのPIC形態の変化を調べるという手法を採用している(W-F. Dong. et al., J. Am. Chem. Soc., 2009. vol. 131. p. 3804-3805)。本実施例ではこの手法を参考に、ブロックコポリマーとホモポリマーを混合し、PIC形成を行うことでPEG含有率を精密に制御した。
【0072】
(3)動的光散乱測定の原理
本実施例では粒子のサイズ測定を、動的光散乱(DLS)という現象を利用して行った。以下にその原理を記す。
液体中に懸濁した粒子はブラウン運動により絶えず衝突している。ブラウン運動とは粒子を取り巻く液体の分子がランダムに粒子に衝突することによって起きる運動である。DLSにとって重要なブラウン運動の特徴は小さい粒子は速く動き、大きい粒子は遅く動くという点であり、粒子の径とその粒子のブラウン運動の運動速度の関係は、ストークス-アインシュタインの式により、以下のように規定される。
【0073】
【数1】

【0074】
粒子が動き回ると散乱光の位相の一致/不一致の状態も変化するので、それに伴い明るいパッチは暗くなったり明るくなったりする。つまり光強度が変化するように見える。この光強度の変動速度から、粒子の径を算出することができる(参照ウェブサイト: http://www.photal.co.jp/book/be 01 03.html)。
【0075】
(4)暗視野顕微鏡による観察
調製した粒子の直接観察は暗視野顕微鏡(DFM)を用いて行った。暗視野顕微鏡は、透過光で観察する明視野顕微鏡とは異なり、試料へ斜めから光をあてて生じたHYPERLINK "http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%A3%E4%B9%B1"散乱光や反射光を観察するものである。この方法では明視野顕微鏡とは逆に、視野の背景が黒く抜け、試料が光って見える。通常の光学顕微鏡に暗視野コンデンサーを挿入するだけでこの方法が実現できる。または位相差顕微鏡を調節することでも暗視野法による観察が可能である。物体表面や内部の微細な構造の観察には不向きであるが、可視光の波長よりも小さな物体の存在を高いコントラストで観察することが可能である。
【0076】
(5)位相差顕微鏡による観察
本実施例ではほぼ全ての直接観察をDFMにより行っているが、微粒子の内部がほぼ均一に詰まった構造をしていた場合、微粒子内部からの光の散乱はほとんどなく、その結果外周のみが光を散乱するため、中空微粒子との判別がつきづらい。他方、位相差顕微鏡は透明な物体に対して光を照射し、光の位相の変化をコントラストの差に変換して目に見えるようにするものであり、物があるか否かを判別する上では有用な顕微鏡である。本実施例でも一部のサンプルの観察に用いた。
【0077】
2-2. 材料及び方法
(1)各ポリマー及びその合成方法
・PEG-PBLA重合
MeO-PEG-NH2を0.1846 g量りとり、ベンゼンとジクロロメタン(DCM)の混合溶媒に溶かし、凍結乾燥した。一晩乾燥した後、DCM 3 mLに溶かした。一方、モノマーであるBLA-NCAをAr雰囲気下で2 g量りとり、DCM 27 mLとN,N-ジメチルホルムアミド(DMF) 3 mLの混合溶媒に溶かした。NCAを溶かしたらすぐに、NCA溶液をPEG溶液に入れ、35℃で2日間反応させた。赤外線吸収スペクトル(IR)によりNCA由来のピークの消失を確認し、反応が終了したとみなした。次に、反応溶液をヘキサン 600 mLおよび酢酸エチル 400 mLの混合溶液中に滴下し、再沈殿を行った。再沈殿した溶液を吸引濾過し、得られた白色の固体を減圧乾燥およびベンゼン凍結乾燥して回収した。
【0078】
・Homo-PBLA重合
開始剤のみ異なる以外は、上記PEG-PBLAとほぼ同じプロトコルで行った。n-ブチルアミン 0.1mLをDMF 0.9 mLに分散させたものから、0.095 mLをとりNCA溶液に加えて反応させた。
【0079】
・PEG-P(Asp-AP)合成
PEG-PBLAを100 mg量りとり、ベンゼン凍結乾燥した。NMP 5 mLに溶かし、35℃で一晩撹拌して完全に溶解させた。一方、1,5-ジアミノペンタン(DAP )2.5 mL(PBLA側鎖に対して50等量)をN-メチル-2-ピロリドン (NMP) 2.5 mLに分散させておいた。両溶液を4℃まで下げた後、DAP溶液にPBLA溶液を滴下して、1時間反応させた。その後10℃以下に保ちながら20 wt%の酢酸水溶液を12.5 mL(DAPに対して2等量)加えて中和した。その後、0.01 N HClaqで2時間×4回、水で1日×2回透析し、凍結乾燥して回収した。
【0080】
【化14】

【0081】
得られたPEG-P(Asp-AP)は、PICsome調製用ポリカチオンとして用いた。以下の実験においては、PEGの分子量が2000の70量体を用いており、このことを示すときPEG-P(Asp-AP)(2-70)と表記した。
【0082】
・PEG-P(Asp)合成
PEG-PBLAを100 mg量りとり、アセトニトリル 3 mLに分散させた。0.5 N NaOHaqを6 mL滴下し、1時間反応させた後、水で1日×3回透析し、凍結乾燥して回収した。
【0083】
【化15】

【0084】
得られたPEG-P(Asp)は、PICsome調製用ポリアニオンとして用いた。以下の実験においては、PEGの分子量が2000の70量体を用いており、このことを示すときPEG-P(Asp)(2-70)と表記した。
【0085】
・Homo-P(Asp-AP)合成
Homo-PBLAを100 mg量りとり、ベンゼン凍結乾燥した。NMP 5 mLに溶かし、35℃で一晩撹拌して完全に溶解させた。一方、DAP 2.9 mL(PBLA側鎖に対して50等量)をNMP 2.9 mLに分散させておいた。両溶液を4℃まで下げた後、DAP溶液にPBLA溶液を滴下して、1時間反応させた。その後10℃以下に保ちながら20 wt%の酢酸水溶液を14.5 mL(DAPに対して2等量)加えて中和した。その後0.01 N HClaqで2時間×4回、水で1日×2回透析し、凍結乾燥して回収した。
【0086】
【化16】

得られたHomo-P(Asp-AP)は、PICsome調製用ポリカチオンとして用いた。以下の実験においては、82量体を用いており、このことを示すときHomo-P(Asp-AP)(82)と表記した。
【0087】
・Homo-P(Asp)合成
Homo-PBLAを100 mg量りとり、アセトニトリル 3 mLに分散させた。0.5 N NaOHaqを6 mL滴下し、1時間反応させた後、水で1日×3回透析し、凍結乾燥して回収した。
【0088】
【化17】

【0089】
得られたHomo-P(Asp)は、PICsome調製用ポリアニオンとして用いた。以下の実験においては、70量体を用いており、このことを示すときHomo-P(Asp)(70)と表記した。
【0090】
(2) その他の材料
・4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid (HEPES)
PICsome調製用バッファーとして用いた。
・NaCl:和光純薬(株)製
PICsome溶液の塩濃度調製用に用いた。
・NaOH:和光純薬(株)製
PICsome溶液のpH調製用に用いた。
【0091】
(3) PIC調製
バッファーは基本的に10 mM HEPES, 150 mM NaCl, pH 7.4で固定した。イオン強度の影響を評価するときのみNaCl濃度を変えた。この条件で所定のポリマー濃度のPEG-P(Asp-AP)(2-70)、PEG-P(Asp)(2-70)およびHomo-P(Asp)(70)の溶液を準備し、所定の混合比でPEG-P(Asp)、Homo-P(Asp)の溶液を混ぜ、ポリアニオン溶液を調製した。ポリカチオン、ポリアニオン溶液を電荷比が1:1となるように撹拌混合し、2分間撹拌を続けた。具体的な溶液量は、例えば、PICsome溶液を200μL調製する場合は、表1に示すようにした。
【0092】
【表1】

【0093】
以下、混合したPEG-P(Asp)とHomo-P(Asp)の電荷比を「b:h」と表記した。一部、ポリカチオンにホモポリマーを混合し、PIC調製を行っているが、その際もPEG-P(Asp-AP)とHomo-P(Asp-AP)との混合比をb:hと表記した。
【0094】
(4) DLS測定による調製条件の検討
PICsome溶液の調製直後、大塚電子のDLS-8000を用いてDLS測定を行った。
【0095】
(5) DFMによる直接観察
マイクロ粒子が得られたサンプルについて、暗視野顕微鏡(OLYMPUS BX51)を用いて直接観察した。
【0096】
(6)位相差顕微鏡による直接観察
上記(4)でコアセルベートが得られたサンプルについて、位相差顕微鏡(OLYMPUS IX71)を用いて直接観察した。
【0097】
2-3. 結果及び考察
(1)PEG含有率の影響
PEG-P(Asp)(2-70)とHomo-P(Asp)(70)の混合比を変えることで、PEG含有率の影響を調べた。ポリマー濃度は1 mg/mL、バッファーは10mM HEPES, 150mM NaCl, pH 7.4に固定した。
調製直後のDLS測定の結果を表2に示した。
【0098】
【表2】

【0099】
PDI(polydispersity index)は多分散度を表している。b:h = 10:0〜6:4まではナノサイズの構造体が形成された一方、b:h = 4:6〜0:10ではマイクロサイズの粒子が形成された。
このようにPEG含有率がある閾値を越えると形成される構造体が大幅に変わるという現象は、Dongらの報告(W-F. Dong. et al., J. Am. Chem. Soc., 2009. vol. 131. p. 3804-3805)にもある。
【0100】
参考として、本実施例におけるb : hと、PEGの重量分率(fPEG)の対応を、表3に示した。fPEGはPEG-P(Asp)とHomo-P(Asp)の重量比をx:y (x+y = 1)として、下記式を用いて算出した。
【0101】
【数2】

【0102】
【表3】

Dongらの報告では、構造体がミセルからベシクルに変わるfPEGの閾値は11〜12%である。本実施例の条件とは添加塩濃度や用いているポリマーが異なり、同列には論じられないが、表2においてナノ構造体からマイクロ粒子に変わるfPEGの閾値も約12%であり、類似の結果が得られた。
ここでは、簡単のために、b:h = 4:6〜0:10において得られたマイクロ粒子をPICsomeと定義し、さらにDFM観察を行ったところ、図5に示すような画像が得られた。
以前の研究において、DFM観察で中が黒く抜けたリング状の物体をPICsomeと定義している(A. Koide, et al., J. Am. Chem. Soc., 2006, vol. 128, p. 5988-5989.)。さらに最近、位相差顕微鏡で観察から中までポリマーが詰まった粒子はコアセルベートに分類されることが報告されている(Oana et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2009, vol. 48, p. 1-5)。図6に示すように、b:h = 4:6, 0:10においては、位相差顕微鏡により、中まで詰まった微粒子像が得られたことから、コアセルベートが形成したと考えられた。
【0103】
他方、b:h = 2:8で形成した粒子は、粒子の内部も光を散乱していた。このような粒子はこれまでの研究では見られなかった。この現象は、粒子内部に光を散乱するような微細構造が存在することを示していると考えられることから、多数の小胞から成る“Compound Vesicle"(以下、CV、あるいは泡状構造体という意味でPIC-foam)構造をしていると予想した(図7)。そこで、以下の検討では、得られた構造体がCVか、コアセルベートかという点に注目し、DFM観察で得られた画像に基づいて、どちらであるかを判断した。
【0104】
(2) 添加塩濃度の影響
上記 (1)でCVが得られたb:h = 2:8、1 mg/mLの条件で、添加塩濃度を変えてPICsomeの形態を観察した。その結果を表4に示した。
【0105】
【表4】

【0106】
DFM観察の結果、170 mM以下ではCVが形成し、50 mMでは中空微粒子も見られた。添加塩の無い条件については、DLS測定の結果粒径が100 nm程度であったため、TEM観察を行ったところ中空微粒子が観察された。この結果は、以前の研究において、Homo-P(Asp-AP)(82)/PEG-P(Asp)(2-75) の組み合わせが、10 mM PB, 0 mM NaCl, 1 mg/mLという条件でユニラメラベシクル(一枚膜からなる中空微粒子)を与えたという結果と矛盾しないものであった(Y. Anraku et al., J. Am. Chem. Soc., 2010, vol. 132, p. 1631-1636.)。また、添加塩濃度を200 mMまで上げるとコアセルベートが形成した。
【0107】
(3) ポリマー濃度の影響
b:h = 4:6〜0:10において、ポリマー濃度を変えてPICsomeの形態を観察した。CVが得られたb:h = 2:8については特に詳細に調べた。その結果を表5に示した。
【0108】
【表5】

【0109】
b:h = 0:10では常にコアセルベートが得られたが、b:h = 2:8では0.8 mg/mL以上、b:h = 4:6では1.5 mg/mL以上でCVが得られた。
【0110】
(4)ポリカチオンにホモポリマーを混合した場合
これまでの検討では、全てポリアニオンにホモポリマーを混合していたが、逆にポリカチオンにホモポリマーを混合してPIC調製を行った。
ポリカチオンとしてHomo-P(Asp-AP)(82)とPEG-P(Asp-AP)(70)の混合物、ポリアニオンとしてPEG-P(Asp)(2-70)を用いた。調製条件はb:h = 2:8, 10 mM HEPES, 150 mM NaCl, pH 7.4, 2 mg/mLで、前記(1)でCVが得られた条件だが、ここでもやはりCVが得られた。形成する構造体を決める要因としては、どちらのポリイオンにホモポリマーを混合するかはあまり影響が無く、やはりPEG含有率の寄与が大きいことを示唆する結果であると言える。
【0111】
(5)CVの性質について
これまでブロックコポリマーの系で報告されてきたCVは、速度論的生成物として調製されたものばかりである(L. Zhang et al., Science., 1996, vol. 272, p. 1777-1779)。一方、b:h = 2:8, 2 mg/mLで調製したCVを70℃で1時間熱し、徐冷(もしくは急冷)した後にDFM観察を行ったところCVのままであったことから、本実施例で形成されたCVは熱力学的安定状態にあると考えられる。水系で熱力学的に安定なCVを直接作製したという例は、これまでに類を見ないものである。
また同じCVを組成の同じバッファーで4倍希釈し、DFM観察を行ったところ、CV自体のサイズは小さくなったが、粒子内部は変わらず光を散乱しており、CVのままであった。vortexや加熱をしてもCVのままであった(図8)。比較のために、初めから0.6 mg/mLで調製した場合のDFM像も示した。
【0112】
初めから0.4, 0.6 mg/mLで調製するとコアセルベートが形成することから、最終的な条件が同一でも、調製時の条件により形成する構造体が変わったことになる。CVは熱力学的に安定であるだけでなく、一度形成するとその構造は容易には壊れないヒステリシスがあることが分かった。
【0113】
2-4. 結論
ブロックコポリマーとホモポリマーの混合比を変えることでPEG含有率がPICの形態に与える影響を調べたところ、ある程度PEG含有率が低くなるとマイクロ粒子が形成した。形成する構造体がナノ構造体からマイクロ粒子に変わるfPEGの閾値は約12%であり、以前の研究においてミセルからベシクルへの変化が起こったfPEGとほぼ同値であった。得られたマイクロ粒子をDFM観察したところ、b:h = 4:6, 2:8という特定の条件において、CVと思われる構造体が得られることが分かった。またCVが形成するかどうかは、添加塩濃度、ポリマー濃度にも依存することが分かった。ただ、DFM観察だけでは分解能の問題があり、CVになっていることの決定的な証拠にはならない。また、コアセルベートの内部構造も不明である。そこで、後述する3.項では、電子顕微鏡観察を行いてPICsomeの内部構造の詳細な観察を試みた。
【0114】

3.TEMによるPICsomeの内部構造観察
3-1. 概要
前記2.項で明らかになったように、PICsomeはPEG含有率、イオン強度、ポリマー濃度といったパラメータに応じて様々な構造をとる。しかしその内部構造の詳細な観察は光学顕微鏡程度の分解能では難しいため、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた高倍観察を行うこととした。
【0115】
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)
透過型電子顕微鏡(TEM)は、観察したい試料に対して電子ビームを照射して、透過してきた電子を結像して観察を行うものである。電子は試料と相互作用(散乱、回折など)を及ぼすため薄い試料を用いる必要があり、薄片状のサンプル(厚さ100nm以下)や、電子を透過するフィルムの上に薄く塗付することで観察する。対象の構造や構成成分の違いにより、電子線の透過量が異なるので、透過してきた電子密度が変化し、顕微鏡像となる。像は、電磁コイルを用いて透過電子線を拡大し、蛍光板に映るものを観察したり、ネガフィルムやCCDカメラで写真を撮影したりすることにより得られる。TEMの応用範囲は極めて広く、扱う材料は生体試料から金属及びセラミックスまで、また観察する倍率も光学顕微鏡程度(数百〜)から原子レベル観察の数百万倍まで、ほぼ連続的に変えることができる。TEMは、大まかに電子銃、収束レンズ、試料室、対物レンズ及び結像レンズ、観察記録部に分けられ、これに高電圧やレンズ系の電源部、真空排気系、操作盤等が付属することで装置を構成している。電子線散乱により像を得るため、軽元素からなる生態試料の観察においては電子線の散乱が生じにくい。そこで染色や金属蒸着によりコントラストがはっきりした像を得ることができる。粒子の観察には、ネガティブ染色法が良く用いられる。グリッドに載っている試料に重金属溶液を加え濾紙で余分な染色液を吸い取ると、重金属原子が支持膜や支持膜と試料の間、試料の凹凸の凹部などに残留する。その結果、重金属が残った部分は電子が散乱され影となり、試料の凸部は電子が透過するので影の縁取りの中に明るく浮き上がって見える。ネガティブ染色には、モリブデン、タングステン、ウラン等の重金属が用いられる。ウイルス粒子の殻の構成蛋白質までもが明瞭に観察できることがある。
【0116】
(2)STEMトモグラフィー
Scanning Transmission Electron Microscopy(STEM)トモグラフィーは、TEMにコンピュータ断層撮影法(Computerized Tomography(CT)を応用することで、材料内部の構造をナノメートルスケールで3次元可視化する手法である。STEMトモグラフィーでは、TEM内部で試料を電子線に対して傾斜させながら、SEMのように電子線を試料上で走査して多数の透過像を撮影し、一連の傾斜透過像をCT法により再構成することで3次元画像を得るという手法をとっているが、試料の傾斜に伴って試料の実質的な“厚み”が変化するため、非弾性電子散乱の増加による像のボケ(色収差)が顕著になる。そこで、エネルギーフィルターを用いて試料を透過した非弾性散乱電子を除去し、色収差のない透過像を得ることで画質改善を達成している。
【0117】
(3)Glutaraldehyde架橋
TEM観察においてはバッファー溶液を水に置換する必要があるが、溶液のイオン強度が変わると構造体も変わってしまう。そこで、予めGlutaraldehyde(GA)で架橋をかけ、構造を固定することとした。GAの構造を以下に示した。
【0118】
【化18】

【0119】
架橋の機構として考えられているものとしては、ポリカチオン側鎖のアミン末端とアルデヒドの間でShiff base形成反応が起こり、イミド結合が形成されるという機構(下記スキームA)(参照ウェブサイト:http://www.hk-phy.org/atomic world/tem/tem02 e.html)と、ピリジニウム構造が形成され(下記スキームB)(M. Jaturanpinyo et al., Bioconjugate Chem. 2004, vol. 15, p. 344-348)、その後アルドール縮合反応が起こる機構の2つがある。
【0120】
【化19】

【0121】
【化20】

【0122】
ただし、GAは下記スキームCに示すように、塩基性条件下で自己重合するという性質を持つ。
【0123】
【化21】

【0124】
このように自己重合することで、分子鎖の長い架橋剤となる。よって本実施例のPICsomeのように高イオン強度下で調製され、静電相互作用が弱まり、ポリカチオン鎖間の距離が大きいと思われるものに対しても、有用な架橋剤であると考えた。
【0125】
3-2. 材料及び方法
(1) 材料
・Glutaraldehyde:和光純薬(株)製
25%水溶液のものを、架橋剤として用いた。
【0126】
(2) PICsomeの調製条件
ここでは、PEG含有率とポリマー濃度の構造への影響を調べることに主眼を置いた。バッファーは10 mM HEPES, 150 mM NaCl, pH 7.4に固定し、ポリアニオンの混合率がb:h = 4:6, 2:8, 0:10の条件で、それぞれポリマー濃度が1, 1.5, 2 mg/mLの溶液を用いて調製したPICsomeのTEM観察を行った。本実施例では、PICsome溶液を200μL調製した。
【0127】
(3)TEM観察用超薄切片の作製
株式会社帝人および東京大学病院の福田先生の御協力のもと、以下のような手順で超薄切片を作製した。
上記(2)で調製したPICsome溶液に対して、GAをPEG-DAPのアミン側鎖に対して100等量となるように添加し、ピペッティングで撹拌した(約30μL)。一晩反応させた後、PICsome以外の成分を取り除くため、遠心沈降させ上澄みを除き、除いた量と同量の水を加えてPICsomeを再分散させるという操作を3度繰り返した。遠心は4℃、5,000 Gで3分間行った。再度遠心沈降させ、2%オスミウム酸水溶液を加えて固定及び染色を2時間行った後、アルコール上昇系列で脱水を行った。そしてEPON812樹脂に包埋し、熱硬化させた後、ミクロトームで厚さ50nmほどの切片を切り出した。最後に酢酸ウラニウムおよび鉛染色液で染色を行い、観察した。
【0128】
(4)STEMトモグラフィーによる3次元画像の撮影
株式会社日本FEIの御協力のもと、STEMトモグラフィー法により3次元画像を撮影した。試料切片の作製方法は、試料の厚みを数百nmとした以外は、上記(3)とほぼ同様にして行った。
【0129】
3-3. 結果及び考察
(1)TEMによる超薄切片の観察画像
(i) b:h = 0:10
図9及び図10に示した通り、いずれもポリマーが密に詰まった構造をしている。縁には膜構造が観察される。内部はミクロ相分離構造をとっているように見える。以降、ポリマーが密に詰まった構造を“コアセルベート“と呼ぶ。
【0130】
(ii) b:h = 2:8
図11、図12及び図13に示した通り、いずれも多細胞構造をとっている。特に2 mg/mlの粒子は小胞のサイズが1μm近くになっているが、小胞だけでなくコアセルベート様ドメインも見られる。以降、このような多細胞構造を持つ粒子を“Compound Vesicle(CV)"、あるいは、泡状構造体という意味で"PIC-foam"と呼ぶ。
【0131】
(iii) b:h = 4:6
図14に示した通り、1 mg/mLの粒子は、b:h = 0:10のコアセルベートに近いが、若干間隙が見られた。他方、図15及び図16に示した通り、1.5 mg/mL, 2 mg/mLの粒子は、明らかにCVと異なり、縁が膜で覆われておらず、開放系になっており、図17に示すようなGyroid構造をとっていると考えられた。
Gyroidは両親媒性分子の系で熱力学的安定相として出現する共連続ミクロ相分離構造の1つである。共連続とは、界面によって分けられる2つの空間がそれぞれに無限に連続した領域を形成していることを言う。両親媒性分子は水中で水と疎水基の接触を避け、界面の面積が最小になるような構造をとるが、Gyroid構造はその界面面積最小構造の1つである。
【0132】
界面の面積が最小かつ共連続なミクロ相分離構造として、実際に両親媒性分子の系で観察されている構造としては、図18に示すようなGyroid、Diamond、Primitiveの3種類の構造が代表的である。その中でも最も普遍的に観察されている構造がGyroidである。どの構造をとるかは界面の面積を最小にする力と、形成される構造の中にいかに両親媒性分子を詰め込むかというパッキングの容易さのバランスにより決まっており、後者の点でGyroidが有利であると言われているが、詳しい原因は未だよく分かっていない(M. Imai et al., Netsu Sokutei. 2008, vol. 35, p. 36-43)。
【0133】
(2)STEMトモグラフィーによる3次元画像
STEMトモグラフィーではコンピュータによる画像再構成を行っているため、試料を回転させて見るなど様々な視点からの観察画像や動画を得ることができるが、ここでは試料を真正面から見た画像のみ、図19〜21に示した。
図19では、ポリマーが密に詰まっていて内部構造までは分からないが、繊維状の物が多数凝集しているように見えることから、ラメラによる膜形成が起こっているのかもしれない。
図20では、隔壁で仕切られた多細胞(泡状)構造が確認された。小胞とコアセルベートドメインが共存している様子が観察された。
図21では、網目のような構造が一様に広がっており、空隙も一様に広がっていることから、共連続構造が確認された。Gyroid構造である可能性が高いが、微細構造の同定にはさらに高倍の観察やX線散乱測定を行う必要があると考えられた。
【0134】
3-4. 結論
前記2.項及び本項(3.項)の結果から、PEG含有率、イオン強度及びポリマー濃度といったパラメータに依存して、コアセルベート、CV、Gyroidといった様々な構造体が形成されることが分かった。また、これらの結果を総合すると、PICのミクロ相分離構造は高イオン強度下において、両親媒性分子の系のような変化を示していることが分かった。
【0135】

4.CLSMによるPICsomeの透過性評価
4-1. 概要
前記3.項までにおいて述べた通り、PICsomeは種々のパラメータに応じてベシクル、Gyorid、CV、コアセルベートなどの様々な構造をとり、非常に興味深い材料であることが分かった。他方、構造材料としての応用の観点から関心が持たれるのは、各構造体の機能面での差異である。
【0136】
代表的な物性として、力学的強度、物質内包量及び透過性をとりあげ、予想される機能について考えた。まず、力学的強度については、一枚膜から形成されているに過ぎないベシクルは比較的低く、他方、CVは膜が多重になっているため強固であると考えられた。物質内包量については、ベシクルは中空であるので他の構造体に劣ることはないが、CVもそれに比肩すると考えられた。他方、Gyroidは開放系であるため、そもそも内包が不可能であり、コアセルベートはポリマーが密に詰まっているため内包量は非常に少ないと考えられた。最後に、透過性については、ベシクルは一枚膜であるため透過性は高く、CVはベシクルには劣るが、多重膜であるためにリリース速度の制御を行う上では有利な構造をとっているとも考えられた。
これらの物性の中で、本項では透過性に注目し、Gyroid、CV、コアセルベートの差異を評価した。評価手法としてはPICsomeの外液に蛍光dextranを添加し浸透挙動を観察する実験と、PICsomeに蛍光dextranを内包してそのリリース挙動を観察する実験の2つを試みた。
【0137】
(1)共焦点顕微鏡(CLSM)
一般的な光学顕微鏡の結像光学系と共焦点光学系について説明する(参照ウェブサイト: http://www.olympus.co.jp/jp/insg/ind-micro/lcsm/principle/)。共焦点光学系では、対物レンズの焦点位置と共役な位置(像位置)に円形の開口をもつピンホールを配置することで、焦点のあった位置のみの光を検出することが可能となっている。通常の光学顕微鏡では、決められた領域を均一に照明することが重要になるが、共焦点光学系においては点光源から出射した光は、対物レンズによりサンプルの1点に集光するように照射する。点光源として、一般的には特定の波長を持ち直進性に優れているレーザー光を使用し、強い光を1点に集光させるので、サンプルを均一に照明する通常の光学顕微鏡に比べ、周辺からの不要な散乱光がなく、コントラストが向上する。次にサンプルの表面にて反射された光は同じ光路を戻り、ビームスプリッタにより分離されて、ピンホール上に集光される。この光学系では焦点以外からの反射光は、ほとんどがピンホールでカットされ、焦点位置のみの情報が得られる。以上より共焦点光学系では光軸方向に分解能を持つこととなり、三次元計測も可能となる。また、通常の光学顕微鏡では焦点位置以外からのぼけた画像が重畳しているのにし、共焦点光学系では焦点位置以外からの反射光はピンホールでカットされ、焦点の完全にあったコントラストのよい画像を形成することが可能となる。
【0138】
共焦点光学系では光軸方向のみの情報しか得られないため、画像化するには、光軸に直交する、何らかの二次元走査系が必要となる。一般的に工業用途のレーザー顕微鏡ではレーザー走査方式が採用されており、レーザービームを2つの走査機構で、X、Yそれぞれの方向にサンプル上を二次元走査する。レーザー走査機構としては、X方向には高速走査の必要性から、音響光学偏向素子 (AOD:acousto-optic deflector)やポリゴンミラー、共振型ガルバノミラーなどが使われている。
【0139】
(2)EDCによる架橋
架橋の有無による透過性の差異を見る上で、第4章で用いたGAで架橋すると、励起波長488nmのArレーザー、543nmのHeNeレーザーのどちらを用いてもPICsomeが蛍光を発してしまうことが分かった。そこで本項では、新たな架橋剤として1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride(EDC)を用いた。
【0140】
【化22】

【0141】
EDCはカルボジイミドの一種で、縮合剤としてよく用いられる。水溶性であるためWSC(Water Soluble Carbodiimide)とも呼ばれる。
EDCはカルボン酸と反応し、さらにアミンと反応することでアミド結合を形成することができる。そのため本実施例で用いているポリカチオン鎖とポリアニオン鎖を架橋することができる。
【0142】
4-2. 材料及び方法
(1) 材料
・EDC:ペプチド研究所(株)製
架橋剤として用いた。
・Fluorescein isothiocyanate-dextran(FITC-dex):シグマ・アルドリッチ(株)製
FITCでラベル化したDextranであり、Mw: 10,000と2,000,000の2種類を用いた。
【0143】
(2) 透過性評価:外液からの浸透
調製したPICsomeの外液にFITC-dexを添加し、浸透挙動を観察することで透過性の評価を試みた。10 mM HEPES, 150 mM NaCl, pH 7.4、ポリマー濃度 2 mg/mLの条件で、b:h = 0:10, 2:8, 4:6のそれぞれについて未架橋又は架橋サンプルを用意した。PICsome溶液はそれぞれ100μL調製し、EDC架橋サンプルについては同じバッファーに溶かしたEDC溶液をポリアニオン側鎖のカルボキシル基に対して2.5等量(約15μL)となるように加え、一晩反応させた。
ここにFITC-dexを加える。Mw: 10,000のFITC-dexの場合はバッファー溶液(2 mg/mL)を5μL、Mw: 2,000,000のFITC-dexの場合はバッファー溶液(20 mg/mL)を5μL添加し、添加後0, 1, 3, 7時間の粒子内外の蛍光強度の差をCLSMにより調べ、浸透挙動を評価した。なお、各構造体間の差を比較するため、画像取得の際のレーザー強度、Detectorの感度などの条件は統一した。
【0144】
(3)透過性評価:微粒子内部からのリリース
PICsomeにFITC-dexを内包し、そのリリース挙動を観察することで透過性の評価を試みた。あらかじめポリアニオン溶液にFITC-dexを2 mg/mlとなるように溶かしておき、PICsome調製を行うことでFITC-dexを内包する。EDC溶液を2.5等量加え、一晩反応させた。次に遠心沈降(4℃、5000G、3分間)させ、上澄みを取り除き、除いた量と同量のバッファーを加えて再分散させるという操作を6回繰り返し、精製する。精製後0, 1, 3, 7, 31時間の粒子内部の蛍光強度をCLSMで調べ、リリース挙動を評価した。なお、各構造体間の差を比較するため、画像取得の際のレーザー強度、Detectorの感度などの条件は統一した。
【0145】
4-3. 結果及び考察
(1) FITC-dex(Mw : 10,000)の浸透挙動
CLSMにより微粒子内外のコントラストの差を調べたところ、コントラストはコアセルベート>Gyroid>CVという結果になった(図22)。コアセルベートにはほとんど浸透していないように見えた。どの構造体も特に経時変化は見られず、EDC架橋の有無による差異も無かった。
経時変化がなかったことから、GyroidとCVにはすぐに浸透が起こっていると考えられる。コントラストの差についてはTEM画像を基に考えると、微粒子内の空隙の広さの大小関係はCV>Gyroid>コアセルベートとなっていることから、空隙が多いほど浸透量が多く、コントラストの差が少なくなったと考えられた。
【0146】
(2) FITC-dex(Mw: 2000,000)の浸透挙動
Mw: 10,000の結果と比べると、Gyroid及びCVにもはっきりコントラストがついており、明らかにDextranは浸透しにくくなっていた(図23)。ただし、コアセルベートに比べるとコントラストは若干小さく、透過性を示すことが示唆された。またMw : 10,000のときと同様に、経時変化や架橋の有無による差異は無かった。
【0147】
(3)FITC-dex(Mw: 10,000)のリリース挙動
CLSM観察から、どの構造の粒子も内部にデキストランを封入できていることが分かった。粒子内部の蛍光強度を調べたところ、いずれも経時変化はなく、蛍光強度の強弱の順は、「コアセルベート>Gyroid>CV」という結果になった(図24)。詳細は不明であるが、それぞれの構造体の特長を反映しており、構造に応じた特性を引き出しうる可能性を示唆していると考えられた。なお、経時変化がなかったことについては、架橋後の粒子を使ったということで説明することができる。
【0148】
4-4. 結論
CLSMを用いて浸透挙動及びリリース挙動を観察した結果、分子量の異なるDextranに対する透過性の差(半透過性)が確認され、さらにGyroid、CV及びコアセルベートでは、それぞれ物質透過量が異なることも分かった。透過量の差は、おそらく微粒子内部の空隙の広さの差によるものだと考えられた。また、どの構造の微粒子も内部にデキストランを封入でき、架橋後は内部からのデキストランの漏れ出しを抑制できることがわかった。微粒子内のPIC部位に取り込まれる可能性が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系溶媒中で、下記(A1)のブロックポリマーと下記(B1)のポリマー混合物とを混合する、又は下記(A2)のブロックポリマーと下記(B2)のポリマー混合物とを混合することにより得られる、泡状ポリマー中空微粒子。
(A1) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(B1) 下記(i)のブロックコポリマー及び下記(ii)のポリマーを含むポリマー混合物
(i) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(ii) カチオン性のポリマー鎖セグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まない)
(A2) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(B2) 下記(iii)のブロックコポリマー及び下記(iv)のポリマーを含むポリマー混合物
(iii) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(iv) アニオン性のポリマー鎖セグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まない)
【請求項2】
(B1)のポリマー混合物中における(i)のブロックコポリマーと(ii)のポリマーとのモル比、及び(B2)のポリマー混合物中における(iii)のブロックコポリマーと(iv)のポリマーとのモル比が、10:90〜30:70である、請求項1記載の中空微粒子。
【請求項3】
(A1)のブロックコポリマーと(B1)のポリマー混合物との総電荷比、及び(A2)のブロックコポリマーと(B2)のポリマー混合物との総電荷比が、0.5:1.0〜1.0:0.5である、請求項1又は2記載の中空微粒子。
【請求項4】
(A1)及び(iii)のブロックコポリマーが、下記一般式(I)及び/又は(II)で示されるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の中空微粒子。
【化23】

〔一般式(I)及び(II)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、yはnより大きくないものとし、また、一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【請求項5】
(A2)及び(i)のブロックコポリマーが、下記一般式(III) 及び/又は(IV)で示されるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の中空微粒子。
【化24】

〔一般式(III)及び(IV)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R5a、R5b、R5c及びR5dはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH2a−X基を表し(ここで、aは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基である)、R5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2であり、eは1〜5の整数である)が少なくとも2つ以上存在し、R6a及びR6bはそれぞれ独立して水素原子又は保護基(ここで、保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基又はトリフルオロアセチル基である)であり、tは2〜6の整数であり、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数であり、y+zはnより大きくないものとし、また、一般式(III)及び(IV)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【請求項6】
(iv)のポリマーが、下記一般式(V)及び/又は(VI)で示されるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の中空微粒子。
【化25】

〔一般式(V)及び(VI)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、yはnより大きくないものとし、また、一般式(V)及び(VI)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【請求項7】
(ii)のポリマーが、下記一般式(VII)及び/又は(VIII)で示されるものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の中空微粒子。
【化26】

〔一般式(VII)及び(VIII)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R5a、R5b、R5c及びR5dはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH2a−X基を表し(ここで、aは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基である)、R5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2であり、eは1〜5の整数である)が少なくとも2つ以上存在し、R6a及びR6bはそれぞれ独立して水素原子又は保護基(ここで、保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基又はトリフルオロアセチル基である)であり、tは2〜6の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数であり、y+zはnより大きくないものとし、また、一般式(VII)及び(VIII)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【請求項8】
水溶性物質を内包可能なものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の中空微粒子。
【請求項9】
高分子量の水溶性物質を内包可能なものである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の中空微粒子。
【請求項10】
水溶性タンパク質を内包可能なものである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の中空微粒子。
【請求項11】
徐放性を有するものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の中空微粒子。
【請求項12】
平均粒径が100 nm〜100μmである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の中空微粒子。
【請求項13】
水系溶媒中で、下記(A1)のブロックポリマーと下記(B1)のポリマー混合物とを混合する、又は下記(A2)のブロックポリマーと下記(B2)のポリマー混合物とを混合することを特長とする、泡状ポリマー中空微粒子の製造方法。
(A1) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(B1) 下記(i)のブロックコポリマー及び下記(ii)のポリマーを含むポリマー混合物
(i) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(ii) カチオン性のポリマー鎖セグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まない)
(A2) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとカチオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(B2) 下記(iii)のブロックコポリマー及び下記(iv)のポリマーを含むポリマー混合物
(iii) 非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントとアニオン性のポリマー鎖セグメントとを含むブロックコポリマー
(iv) アニオン性のポリマー鎖セグメントを含むポリマー(但し非荷電性親水性のポリマー鎖セグメントを含まない)
【請求項14】
(B1)のポリマー混合物中における(i)のブロックコポリマーと(ii)のポリマーとのモル比、及び(B2)のポリマー混合物中における(iii)のブロックコポリマーと(iv)のポリマーとのモル比が、10:90〜30:70である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
(A1)のブロックコポリマーと(B1)のポリマー混合物との総電荷比、及び(A2)のブロックコポリマーと(B2)のポリマー混合物との総電荷比が、0.5:1.0〜1.0:0.5である、請求項13又は14記載の方法。
【請求項16】
(A1)及び(iii)のブロックコポリマーが、下記一般式(I)及び/又は(II)で示されるものである、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【化27】

〔一般式(I)及び(II)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、yはnより大きくないものとし、また、一般式(I)及び(II)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【請求項17】
(A2)及び(i)のブロックコポリマーが、下記一般式(III) 及び/又は(IV)で示されるものである、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【化28】

〔一般式(III)及び(IV)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R5a、R5b、R5c及びR5dはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH2a−X基を表し(ここで、aは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基である)、R5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2であり、eは1〜5の整数である)が少なくとも2つ以上存在し、R6a及びR6bはそれぞれ独立して水素原子又は保護基(ここで、保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基又はトリフルオロアセチル基である)であり、tは2〜6の整数であり、mは5〜20,000の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数であり、y+zはnより大きくないものとし、また、一般式(III)及び(IV)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【請求項18】
(iv)のポリマーが、下記一般式(V)及び/又は(VI)で示されるものである、請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法。
【化29】

〔一般式(V)及び(VI)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、yはnより大きくないものとし、また、一般式(V)及び(VI)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕
【請求項19】
(ii)のポリマーが、下記一般式(VII)及び/又は(VIII)で示されるものである、請求項13〜18のいずれか1項に記載の方法。
【化30】

〔一般式(VII)及び(VIII)中、R1a及びR1bはそれぞれ独立して水素原子又は未置換もしくは置換された直鎖もしくは分枝のC1-12アルキル基を表し、L1及びL2は連結基を表し、R2a及びR2bはそれぞれ独立してメチレン基又はエチレン基を表し、R3及びR4は水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、R5a、R5b、R5c及びR5dはそれぞれ独立して水酸基、オキシベンジル基、又はNH−(CH2a−X基を表し(ここで、aは1〜5の整数であり、Xはそれぞれ独立して一級、二級、三級アミン又は四級アンモニウム塩の内の一種類又は二種類以上を含むアミン化合物残基であるか、あるいはアミンでない化合物残基である)、R5aとR5bとの総数及びR5cとR5dとの総数のうち、−NH−(CH2a−X基(ここで、Xは(NH(CH22e−NH2であり、eは1〜5の整数である)が少なくとも2つ以上存在し、R6a及びR6bはそれぞれ独立して水素原子又は保護基(ここで、保護基は通常アミノ基の保護基として用いられているZ基、Boc基、アセチル基又はトリフルオロアセチル基である)であり、tは2〜6の整数であり、nは2〜5,000の整数であり、yは0〜5,000の整数であり、zは0〜5,000の整数であり、y+zはnより大きくないものとし、また、一般式(VII)及び(VIII)における各繰り返し単位は記載の便宜上特定した順で示しているが、各繰り返し単位はランダムな順で存在することができる。〕

【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−190294(P2011−190294A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55021(P2010−55021)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】